本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」(1992)

評価

★★★★

ひとこと

夏休みの読書、ということで前々から気になっていた本書を手にとった。
大量の数式が出てきて、それ自体は理解できないものも多いのに
全く苦痛に感じさせない文章力に感心した。
なぜ××なのかの疑問から入って、実験から得られた法則(数式)を、
なるべく数式を使わずにそれの意味することを説明する。
池上彰氏のわかりやすさ、にも通じるアプローチだと思った。
もちろん内容も興味深い。
これはジュブナイルにもなるなぁと思ったら案の定「絵本版」もあるらしい。
もっとも、昆虫と動物の違い程度の基本的な生物の知識がないとさすがに
厳しいだろうけどとは思うが。(私は生物選択だったんで)
動物の生存と企業の生存を比較するアプローチはビジネスの世界ではよく繰り広げられるが、
そういう視点から見るとまた違ったものが得られるかもしれない。

分類

目次

第一章 動物のサイズと時間
  • サイズによって時間は変わる
  • 心拍数一定の法則?
第二章 サイズと進化
  • コープの法則
  • 大きいことはいいことか?
  • 島の規則
第三章 サイズとエネルギー消費量
  • 標準代謝量 基本的なエネルギー消費量
  • 表面積と体積
  • 3/4乗則-生命の設計原理
  • ヒトのサイズ・現代人のサイズ
第四章 食事量・生息密度・行動圏
  • 大きいものは大食らいか?
  • 食うもののサイズ・食われるもののサイズ
  • ウシを食う贅沢-成長効率の問題
  • 動物の生息密度
  • 行動圏の広さ
第五章 走る・飛ぶ・泳ぐ
  • サイズと速度
  • 走るコスト
  • 飛ぶコスト・泳ぐコスト
第六章 なぜ車輪動物がいないのか
  • 車社会再考
  • ひれvsスクリュー
第七章 小さな泳ぎ手
  • 鞭毛と繊毛
  • 低レイノルズ数の世界
  • スパスモネームとレイノルズ数のトリック
  • 拡散が支配する世界
第八章 呼吸系や循環系はなぜ必要か
  • 肺も心臓もない動物
  • ヒラムシはなぜ平たいか
  • ミミズはヘビほど太くなれるか?
  • 呼吸系
第九章 器官のサイズ
  • 心臓と筋肉
  • 脳のサイズ
  • 骨格系
第十章 時間と空間
  • 生理的時間と弾性相似モデル
  • 時間と空間の相関
第十一章 細胞のサイズと生物の建築法
  • 細胞のサイズ
  • 植物の建築法・動物の建築法
第十二章 昆虫-小サイズの達人
  • クチクラの外骨格-昆虫の成功の秘訣
  • 気管の威力・脱皮の危険
  • 食べる時期と動く時期-一生を使い分ける
第十三章 動かない動物たち
  • サンゴと木-光の利用者
  • 群体-ユニット構造の利点
  • 流れの利用者
第十四章 棘皮動物-ちょっとだけ動く動物
  • ウニの棘とキャッチ結合組織
  • ヒトデの外骨格的内骨格
  • クモヒトデの自切とユニット構造
  • 進化と支持系
  • 棘皮動物の謎
  • 棘皮動物のデザイン


気になる表現

あ、これは「島の規則」だ!
島国という環境では、エリートのサイズは小さくなり、ずばぬけた巨人と呼び得る人物は出てきにくい。
逆に小さい方、つまり庶民のスケールは大きくなり、知的レベルはきわめて高い。
「島の規則」は人間にもあてはまりそうだ。(p22)

技術というものは、次の三つの点から、評価されなければならない。
(1)使い手の生活を豊かにすること
(2)使い手と相性がいいこと
(3)使い手の住んでいる環境と相性がいいこと。(中略)
使い手の住む環境をあらかじめガラリと変えなければ作動しない技術など、上等な技術とは言いがたい。(p74-75)

メモ

  • 時間は体重の1/4乗に比例する
    • 体重の増え方に比べて時間の増え方はゆるやか(体重16倍で時間が2倍)

  • サイズが大きいほど体積あたりの表面積が小さい
    • 表面を通しての環境の変化が受けにくい
      • 恒温性:メリット「恒時性」と「高温性」
      • 乾燥に強い
  • サイズが大きい方が飢えに強い
      • 体重あたりのエネルギー消費量が少ない

  • サイズが小さいものは独自の発展を遂げる機会が多い(新しいものを作りやすい)
    • 突然変異して環境適応したものだけが生き残りやすい
      • 一世代の時間が短く
      • 個体数が多い
      • 環境の影響を受けやすい

  • 島の規則
    • 島では大きい動物は小さく、小さい動物は大きくなる
      • 捕食者が少ない島の環境

  • 標準代謝量
    • どの栄養素を燃やしても、酸素一リットルあたり20.1ジュールのエネルギーが得られる。
    • 標準代謝量は体重の3/4乗に比例する
      • 大きい動物ほど、体重の割にエネルギーを使わない。
    • 単細胞→多細胞→変温→恒温のステップで標準代謝量は10倍ずつ増加。しかし傾きは体重の3/4乗。

  • 食べる量は体重の0.7乗~0.8乗
    • 体重が増えるほどには食べる量は増えない。
    • 大きい動物は大きい獲物を食べるのは、獲物を見つけるためのエネルギーと得られる報酬のバランスから
      • 水中の巨大捕食者は口を空けているだけで大量のプランクトンを入手できるから食べる。
      • 大きい餌はちぎって食べる、小さい餌は丸飲みする
      • 大きい動物は大きい獲物を食べきれないので集団で狩りをしている。

  • 小さいものほど密集して生存している(行動範囲も狭い)
    • 日本の人口密度で住んでいる動物のサイズは140g

  • 運搬コスト:1kgの体重を運ぶのに必要なエネルギー
    • エネルギーの大きさ:飛ぶ>走る>泳ぐ
    • 地上を走るよりも空を飛ぶ方が気押すとが安い(飛ぶ方が断然速いから)
    • どの移動法もサイズの大きい物ほど、運搬のコストは安くなる

  • 車輪:大きな生き物が、平坦で幅広の道路を作って初めて使い物になる
    • 車輪の直径1/4以上の段のクリアは困難で、1/2より高い段を超すことができない
    • 車輪は方向転換が苦手

  • 水は粘性を持っている
    • 小さいものほど水の粘性抵抗を感じる
    • レイノルズ数:慣性力÷粘性力=密度÷粘度×長さ×速度 (流体力学の基本数値)
      • 体長1ミリ以下では粘性力>慣性力
      • 速度は体長に比例する
      • 同じ体長のものを比べれば飛ぶものは泳ぐものの15倍速い

  • 大きい動物の骨格系は小さいものに比べて無理が効かない
    • 同じ形を保ったままサイズを大きくできない⇒骨の材質を変えず、骨の量を増やす。
    • 100gまでの動物ならどんなに高いところから飛び降りても平気。ゾウはギャロップできない。

  • 植物と動物の違い:細胞壁の存在
    • 脊椎動物は柱と梁建築(骨格)、植物はレンガ積み建築(細胞壁)
    • 植物(レンガ積み)の利点
      • 小さいものを積み上げるだけなので作るのが楽
      • セルロースの繊維(細胞壁)は引っ張りの力に強い×細胞は強い内圧=パンパンに水を詰めたもの
      • 細胞同士でつながった輸送系のしくみ

参考文献

  • クヌート・シュミット-ニールセン「スケーリング」

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最終更新:2010年08月18日 15:11