星野道夫「魔法のことば」(2003)
評価
★★★★
ひとこと
星野道夫氏について明確に興味を持ったのは
柳田邦男「言葉の力、生きる力」を読んだからでした。
本作は、講演録をまとめたものなので、同じ話が何度も何度も出て来ます。
あとがきにもあるように、1篇1篇ゆっくり読んでいくとより味わいが出ます。
これを読んでると、日常の悩みやイライラはとってもちっぽけなことの気がしてきます。
分類
目次
- 卒業する君に
- アラスカに魅かれて
- めぐる季節と暮らす人々
- 本当の野生
- オーロラの下で
- 南東アラスカとザトウクジラ
- 誰もいない森から
- 二つの時間、二つの自然
- 百年後の風景
- インディアンたちの祈り
人間にとって大切な自然が二つあるような気がします。
一つは、皆にとっての身近な自然です。例えば、家の近くの森や川、鳥だとか、そういう日常に近い自然の大切さがありますよね。それは日々の暮らしの中で変わっていく自然ですが、もう一つ、遠い自然も人間にとって大切なのではないかと思うんです。
そこには、一生行けないかもしれないけれども、どこか遠くにそういう自然が残っていればいつか行くことができるかもしれない。あるいは、一生行けないかもしれないけれども、いつも気持ちの中にある、そういう遠い自然の大切さがある。(p98)
僕がとても好きな言葉に、「多様性」という言葉があります。遠い自然がどうして僕たちにとって必要かというと、僕たちが生きていく上では二つの多様性が非常に大切な気がするからなんですね。
その一つは「生物の多様性」だと思います。人間だけが生きているわけではなくて、いろいろな生物が生きている、そういう多様性。(中略)
そしてもう一つの大切な多様性は「人の暮らしの多様性」だと思うんですね。さまざまな人間がさまざまな価値観で生きている。あるいはさまざまな土地で生きている。そういうことの大切さをアラスカにいると強く感じます。(p116)
アラスカの自然は観光の場になりえないんです。
つまり、あまりにも自然が厳しい。あまりにも遠い。なかなか入っていけない。
それはアラスカのよさで、僕が魅かれている部分ですけども、逆に何かがあったときに、
簡単に覆されてしまう自然なんですね。(p138)
僕がいつも思うのは、食べることの大切さです。
他の民族と接したときに、相手の民族がおいしいと思っているものを自分たちがおいしいと思えるのはとても大切なことだと思います。
例えば、アメリカ人が刺し身やお寿司を喜んで食べてくれると、日本人としてはとても嬉しいですよね。(中略)
エスキモーにとっていちばん大事な食べ物はシールオイルというアザラシの脂です。彼らの食生活にとってシールオイルは欠かせないもので、日本人にとっての醤油にあたるものです。彼らと旅をしていると、僕がそれを食べても食べなくても彼らは何も言わないんです。でも、ずっと僕を見ていて、僕が食べるとすごく嬉しそうな顔をします。(p230)
メモ
- アラスカの村七か所に手紙を出し、一つの村にひと夏滞在した話
- 親友が山で遭難死したのをきっかけにアラスカに戻ることを決意した話
- クジラ漁の話
- カリブーの季節移動の話
- テント内でクマと遭遇した話
- 道中でクマと遭遇した話
- グリズリーの親子に挟まれた話
- 国立公園のクマの話
- クマの生態(子育て、雪の中での行動、サケ漁、冬ごもり)について
- アラスカのブルーベリーの話
- ザトウクジラの話
- ムースの話
- イヌイットのおばあさんとエスキモーポテトの話
- 日照時間の話。夏至・冬至について
- アラスカのオーロラ
- エスキモーと日本人の類似性について
- アラスカの油田開発について
- 南東アラスカの話
- アメリカ本土からも遠いアラスカについて
- ベトナム帰還兵のエスキモーやインディアンについて
参考文献
最終更新:2011年07月29日 14:59