現在地、D-6の市街地に位置するATM前。
所持上限いっぱいにメダルを引き出した
ウヴァは、次の目的地を何処にするか考えていた。
出来れば
イカロスとは別の方向に行きたいし、中心部に戻るのは御免被りたい。
確実に自分にプラスの結果を出せるのはどの方角かと考える。
「オーズの初期位置が近いな……探せばこの辺にいるか?」
今のウヴァなら、あのプトティラのオーズにも負けないだろう。
あの時敗北を喫した、"真のオーズ"にだって……
いや、そこまで考えはしたが、やはりやめておこうとウヴァは思った。
潰せる内に潰しておきたいが、少しでも危険があるならやはりやるべきではない。
そもそも、紫のメダルを持つオーズは、グリードにとっての天敵だ。
グリードである自分がそんな奴の相手をするのは間違いだ。
適当に強そうな参加者をぶつけた方が合理的だ。
その慎重さがウヴァを成長させるのだ。
「よし、オーズがいなさそうな方にいくか」
多分、北にはオーズがいる。中心部は何となくヤバそう。
するとなると、向かうべき先は比較的安全そうな南だろうか。
いや、それ以前にチェスや将棋でいう"王将(キング)"が動く必要はあるのか?
イカロスが我が手の内に落ちた以上、しばらくは緑に余裕が出来るハズだ。
次の放送くらいまでは何処かのビルの応接室なんかでゆっくりするのもいい。
なんてったって、現状で既に緑陣営はトップの好成績なのだ。
このウヴァとイカロスが敗れない限り、緑に負けはないだろう。
よし、休もう。
そう思い、歩き出そうとした。
そこでウヴァは立ち止まる。
道路を此方に向かって歩いて来る二人組の影が見えた。
「ああ」
アイツだ、バースだ。あの憎き
伊達明だ。
それと一緒にいるのが、白陣営のバーナビー。
向こうも此方に気付いたのか、不敵に笑みを浮かべ近付いて来る。
「よぉ、数時間ぶりだなァ、バース」
「ん? 数時間? 何の話してんだ、お前」
ああ、そういや参加者ごとに参戦時間軸は違うんだったなと思い出す。
伊達明の場合は、いつだったか……いや、そんなことはこの際どうでもいい。
そのことについて話し合う気もないので、ウヴァは適当にはぐらかすことにした。
「放送の時ぶりってことだよ。オレもあの場にいたの覚えてるだろ?」
「ああ、そういやあのISの女の子にいいよーにやられてたっけなぁ、お前」
人をナメ腐った口調で不敵にそう言う伊達。
イラッとした。こいつブッ潰してやろうかと拳を握り締める。
だが駄目だ。こいつは自分と同じ緑陣営だ。潰すワケにはいかない。
ウヴァは既に同じ陣営の戦力を一人潰してるのだ。これ以上内輪揉めはしたくない。
心の広い寛大なリーダーを自称するウヴァは、こんな安い挑発にはのらない。
「伊達さん、コイツは……」
「ああ、あの放送の時のグリードだよ、ほら緑の」
そう言った時、一緒にいたバーナビーの眼に敵意が宿った。
死んだような眼に黒い殺意が宿って、とても昏い印象を懐いた。
「まぁ待てよ、オレ達は味方だろォ? 同じ緑陣営で争うこともねぇ」
「そこのバーナビーは違うが……バース、お前の味方だってんなら、まぁ見逃してやる」
「だから、今のオレに挑もうって気は持たない方がいいぜ」
ウヴァは掌から色とりどりのコアメダルを滲み出させ、それを見せる。
表に出すのはほんの一瞬だ。それらはすぐに大量のセル蠢く手の中に沈み込んでいく。
大量のコアと、大量のセルを所持している。その意味を理解する伊達に手っ取り早く力を見せ付けたのだ。
「…あぁ、なるほど。こいつぁ、確かに今のオレ達じゃあちっと分が悪いかもしんねぇなぁ……」
「だろ? バースも持たない今のお前じゃオレには敵わん」
「まさか貴方……! コイツを見逃すつもりなんですか、伊達さん!?」
「いやだって……オレ、元々コイツちょっと苦手だし」
ふざけた口調でいう伊達に、バーナビーが怒りを露わにする。
見た所、相当精神不安定なように見受けられる。大丈夫かコイツ。
そう思いつつも、話の通じそうな伊達に向き直るウヴァ。
「ところでお前、コアメダル持ってないか?」
「持ってないねぇ。持ってたらどうしろってワケ?」
「こいつと交換してやるよ」
デイバッグから、一本のベルトを取り出す。
それは、さっき
ノブナガから奪ったバースドライバー。
元々これは伊達の持ち物だ、欲しがらないワケがない。
「……へぇ」
案の定、伊達の表情が変わった。
「伊達さん、あなたまさかコイツの口車に乗る気じゃ……!」
「まぁまぁ落ち着けよバーナビー、取引しようにも"オレ達はメダルを持ってない"んだ。な?」
「……ッ」
伊達に宥められて、バーナビーの表情が歪む。
これは、伊達が本当はメダルを持っている可能性が出て来た。
ならば交渉をうまくやれば、駄目でも適度に傷め付けて奪い取ることも出来る。
はてさてどうするか……?
「ところでよ、一つ教えてくれると嬉しいんだけど」
「ンン? なんだ?」
「そのバースドライバー、何処で手に入れたんだ? 事と次第によっちゃ……」
「ああ~! コレのことなら心配無用だぜ。何も後藤から奪ったってワケじゃない。ただの支給品だ」
「そうかい、だったら安心だ」
何処か含みのある笑いをする伊達だった。
こいつはただの馬鹿かと思いきや、中々に頭の回る奴だ。
ドクターもかつて上手く騙されたことがあると聞かされている。
片時も警戒を解くワケにはいかない。
「さあて……どうする? フフン」
手にバースドライバーをぶら下げながら。
しかし、隙を突いて奪われるようなことはないように警戒しながら。
ウヴァは伊達に決断を迫る。