我々が産まれる少し前、1人の人族の女性が居た。
その女性は同じ人族の男性と恋に落ちた。
愛し合い、共に生きた。
女性も男性も歳をとった。
先に女性が逝く事が決まった夜のことだ。
男性は涙を流しながら語った。
涙ながらに語る男性の手を女性が握るとある違和感に気づいた。
手の皺がない。
見るとそれは子供のようにハリのある肌になっていた。
涙を流す度に男性は若返って行った。
女性は見る事しかできなかった。
男性が子供の見た目までなると若返りが止まった。
何を言っているのか分かるわけがない。
何が起こっているのか分かるわけがない。
女性は笑顔のまま動かなくなった。
呼びかけにも応じず、手を握っても握り返さない。
男性だった子供は泣き叫びながら自身の腕を切り落とした。
そして、それを女性の腕と交換した。
するとどうだろう。
眠り続ける女性はみるみる若返り、初めて出会った時の見た目になった。
しかし女性は目覚めない。
そのうち、女性の身体からあらゆる生物の羽、鱗、角、等あらゆる器官が発現していった。
子供は女性だった何かを抱き抱えた。
まるで空の上にいる使者のような美しいそれを。
- しかし、私の呼びかけに応えてくれることはないだろう。
子供の身体は子供の意思に関係なく、月を星空へ閉じ込めた。
愛する女性と美しい月明かりの中朽ち果てようと。
最終更新:2016年08月05日 10:37