銀狼の森、マキナポルタの辺境に位置するその森の中に、魔法によって厳重に秘匿された狼族の里が存在する。
ペガ「里帰りするのも久しぶりですね……前に来た時は壊滅状態でしたけど」
この里は昔から国雇の密偵を輩出して生計を立てていたが、約1年前——フルゴル歴501年2月に【オルフェ】という怪物の砦が突如里の中に出現し、一時期は壊滅状態となった。
しかし、ギルドファイアワークスの活躍によってオルフェの砦は陥落し、今ではもう解体されていた。
住民「あれ、あんたギルダーさんとこの坊主じゃ……いや、今はもうファイアワークスのペガか」
ペガ「ええ、もう以前と変わらないくらいに復興してるんですね」
住民「ああ、お陰様でな!でも、あの時に多くの命が失われた……」
ペガ「…………新しい里長さんはもう決まったのですか?」
住民「まぁな……とはいえ今の里には密偵を育てる力はないし、何より里の復興で皆手一杯なんだ」
ペガ「そうですよね……でも皆元気そうで安心しました」
住民「そうだな……久しぶりに帰って来たんだし、ゆっくりしてけよ」
ペガ「はい、ありがとうございます」
里は復興の真っ最中といった様子で、住民達は皆忙しなく働いていた。
あの事件からまだ1年、里の仲間達を失った悲しみを紛らわすため、というのもあるのだろう。
僕はそんな人々を横切ってかつて住んだ家へと向かった。
その家——正確には6年前までは家だった焼け跡は、まだそのままにされていた。
きっと里の人達が残しておいてくれているのだろう。
僕はその焼け跡に持って来た花を供えた。
僕を密偵として育て上げた父さんと母さん、ずっと尊敬していた義兄さん、そして、幸せを求めていた
異世界のとある家族に。
しばらく黙祷を捧げた後に、僕は背負い袋から2枚の写真を取り出した。
1枚は狼族の赤子の写真。
その裏には父さんの筆跡で「命名 コール=ルプス 我が最愛の息子」と書かれている。
かつて焼け跡の地下から見つけた、僕が産まれた当時の写真だ。
もう1枚は家族の写真。
狼族の夫婦と、その子供らしい少年、そして少年より多少年上に見える猫獣人が写っている。
それは、僕の愛した家族の写真。
1年半程前、僕はマキナポルタの競争国であるスピノーの密偵を捕獲した。
それは僕が慕っていた義兄さんだった。
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ニール「お前はとうとう親の仇をとっ捕まえたんだよ、やったじゃないか」
ペガ「こんなの、全然嬉しくないよ……あの優しくて、何でも知ってて、色んな事を教えてくれた義兄さんがスパイなんて……信じたくない!」
ニール「そうか……なら、もうお前に会うのも最後になるだろうから、ひとつ教えを授けてやるよ」
ペガ「教え……?」
ニール「自分が本当に信じたいと思うものを信じろ……それだけだ」
僕はそれを聞いて、躊躇いがちに宣言した。
ペガ「なら僕は、僕は優しかった義兄さんを信じるよ!」
ニール「優しかった俺、か……良い台詞だ、感動的だな」
ニール「……だが無意味だ。 お前はまだ甘い」
ペガ「僕は……」
ニール「ゆっくり答えを探すがいいさ、お前にはまだ先がある」
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僕は義兄さんを殺した。
本来なら国の拷問部隊に引き渡すべきところだったけれど、僕にはそれが出来なかった。
いや、そもそも義兄さんが密偵の腕で僕に劣る訳がない。
僕には義兄さんがわざと僕の目の前で死んだとしか思えなかった。
僕は国を抜け、ファイアワークスの一員になった。
もう密偵として生きていくことは出来ないと思った。
それでも僕は「優しかった義兄さん」をずっと信じていたかった。
父さん、母さん、義兄さんまでも失って、僕はどうすれば良いのか分からなかった。
そんな僕を癒してくれたのはファイアワークスの仲間達だった。
親父と、おかーさん。
新しい家族によって徐々に傷は癒えていったけれども、心の中ではまた家族を失う恐怖に怯えていた。
そして、この2枚の写真を見付けた。
あの時僕は初めて厳しかった父さんが僕を愛してくれていたと知った。
きっと僕を密偵として鍛え、最期まで本心を明かさずに厳しい父のまま死んでいったことは、父さんなりの愛情だったのだろう。
そしてそんな父さんと添い遂げた母さんもまた、僕と父さんを愛していたのだろう。
この事件で僕は長命種の今の両親よりも先に死ぬという未来を受け入れることが出来た。
でも僕には義兄さんの真意は分からなかった。
あの優しかった義兄さんが本当なのか、確かめる術はなかった。
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ペガ「クリアティオを殺したことは…後悔してもらいます!」
レンター「……ペガか、少しは逞しくなったか……だが、お前がやったことは許せん……我唯一の友を……!」
レンター「……ルプス、猫獣人の男を知ってるだろ?……それは、俺の唯一の親友だぁぁ!!」
レンター「……アイツは唯一の理解者だった、俺の正体をしっても分け隔てなく接してくれた、スパイだったとしても…俺は許せた!それを!」
ペガ「義兄さんを殺したのは僕の咎です、その復讐なら何時でも受けて立ってやりますよ」
ペガ「復讐者同士…どっちが先に死ぬか楽しみですね」
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死闘の末、レンターは死んだ。
……そう記録されているが、実際は今もレン太としてギルドに住んでいる。
僕は焼け跡に供えた花を見つめながら語りかけるように話した。
ペガ「義兄さん、僕は答えを出したよ。僕は…………僕はファイアワークスの仲間達を信じたい。あの時僕ひとりだったら、仲間達が居なかったらレンターも救われる未来なんて来なかった」
ペガ「忘年会でギルマスさんが連れてきてくれた時、やっと義兄さんに認められた気がしたけど、本当は違う」
ペガ「それは皆でやったことなんだ」
ペガ「優しい義兄さんならレンターの事も受け入れられたのだろうけど、でも、何時までも一緒に居られる訳じゃない。義兄さんもそのことに悩んでたんだね」
ペガ「義兄さんはきっとレンターを受け入れることは出来ても救うことは出来ないって思ってたんじゃないかな」
ペガ「だから僕を"信じたかった"んでしょ?」
ペガ「でも、きっと僕ひとりじゃ期待に応えられはしなかった。けど僕は、ファイアワークスの仲間達を、父さんを、母さんを、義兄さんを、皆を……僕自身を信じたい」
ペガ「義兄さん……僕は今、とっても幸せだよ。僕を密偵として生きることから解放してくれた義兄さんのお陰だ」
ペガ「また、会いに来るよ」
ひとしきり話し終えると、僕は焼け跡を後にした。
かつて別世界の【ペガ】は長命種の両親を悲しませないために不死を求めた。
義兄さんは不死者の親友を救えない現実に悩んで死を選んだ。
人は皆生きて死んでいく。
その思いは、生きていても死んでいても関係ない。
僕はこれからも色々な人の思いを背負うのだろう。
色々な人の死に、自分の死に向き合うのだろう。
ただ悲しみに、
ただありふれて、
それでもまだ————
『—————生きて』
The "time" to destination -fin-
最終更新:2017年01月03日 00:18