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時には昔の話を

カランカラン

乾いた木の扉の鈴の音が店内に響く。

「帰んな、あたしゃ忙しいんだ」

正面のカウンターに座る羊人の老婆がぶっきらぼうに言う。

「酷い!?久しぶりに会ったのに・・・、だからお客来ないんですよ。すいません」

舞踏会に行くような仮面を付けた赤毛の客はそう言うと、カウンター前に椅子を持ってきて座った。

羊「相変わらず、図々しいんだか、気が小さいんだか解らん奴だね。」

老眼鏡をずらし、客をマジマジ見ながら羊婆の店主は懐かしんでいた。

羊「それで?何の用だい。このスットコドッコイ。いきなり、居なくなったと思えや、いきなりやって来る、ええ?ティルダよ」

ティルダと呼ばれた客は、少しハニカミながら

ティ「久しぶりにドゥルチスに来たから、寂しい寂しい口の悪いオババに会いに来たんじゃないですかぁ」

笑いながら語る口元は、少し目を離す度に男のようになり女のようになり、子供、若者、中年、老人、と不規則に変わっていく。

羊「けっ、ホントに見た目と仮面以外何も変わりゃしない、その鬱陶しい赤毛と赤い眼と蛇目は特にだね!」

性別不詳、顔も不明、声も目を話す度に、見た目とともに変わるこの客と羊婆の店主は、昔ながらの知り合いのようだ

ティ「懐かしいですね、このきったない建物も、小煩いババアも、雑貨屋のくせにスッカラカンなこの店も」

羊「帰れ、もう、これからドシドシ来るんだよ、アホタレがぁ。

ちゃんと食ってんのかい」

ティ「ええ、何とか
それにしても、何も無い店ですね」



これはティルダの物語

主人公であって主人公でない者の物語。


私はレミクォーフ。
生まれながらに、同じ外見を留められない稀病。

故に仮面をかぶる。

誰かに認識して欲しくて

でも、

仮面をかぶる人は他にもいる。

故に結局目立たない。

僕はレミクォーフ。
生まれながらに捨てられた者。

物心が付いた時にはサーカスに居た。
【ハンプティ·サーカス団】
卵みたいに丸々とした団長に、時間に煩い兎人、
皆の衣装を縫う元帽子屋、名前は知ってるけど姿は知らない少女、
ヘビースモーカーの芋虫女、高い所が好きな蜥蜴人、
寝てばっかの鼠人のデブ色んな人がいた。

名前の由来は

「dirty:汚れている」のアナグラム
ウチのサーカスの連中はアナグラムで会話をする。
それも綴りじゃなく、響きで

だから
「だーてぃ」が「てぃーだ」になった。
見た目がその瞬間多人数でも違うから
男だと思って「ティーダ」にしたら、
女だから「ティルダ」だと言う人が居た。

「レミクォーフかぁ、捨てられてたんも頷けるなやぁ」

みんなは私をどっちかで呼んだ。
どっちかで呼んだって汚れてるのに。

僕の育て役のマダム·ポルッツェルは私を「ティルダ」と呼んだ。

マダムは下半身が芋虫で、上半身に人間の女性、背中に蝶の羽根が生えたヘビースモーカー。

妖精なのか、魔族なのか、虫亜人なのか教えてはくれなかった。

何かあれば「ティルダティルダティルダ!」
そのうち愛着が湧いて、
大好きな人が呼んでくれて、
好きになったから「ティルダ」と名乗る。

━━━━━━━━

団長「レディース&ジェントルマン!!次の演目はぁ!こいつ!汚れた血筋のレミクォーフ!ティルダだあ!」

ティ「あ、団長、靴が汚れてますよ!私みたいに!」

こんな自虐が毎回受けた。
まぁ、ドゥルチスの外れの貧困な村が殆どだったから、そういうのが良かったんだろう。

終わる度に泣いた。
自分は好きでレミクォーフになったんじゃないのに。
みんな、大昔になりうる可能性を持ったのに。
なんで私は、なんで僕はって

マ「あんたはいつまで経っても甘ちゃんさ、自分だけ不幸だと思ってんだろ。
あんたは幸せもんだよ、この美しい蝶に育てられたんだ」

ティ「・・・1割じがないじゃないでずが」

マ「・・・まぁ、ね、」

マ「お黙り!蝶の幼虫なんだから6割だよ!それに、人間でこんな美人見たことあるかい!」

マダムは美しかった、団長が媚売るくらいには・・・。

マ「ほら、おいでな、髪を梳かしてバレッタで留めてやる」

ティ「えー、バレッタはやですー」

マ「我が儘言うんじゃない!そのモサモサしたチンチクリンは場所を取るんだ!
全く、綺麗な赤い目と蛇目は大人しいのに、こいつとこの髪の毛は鬱陶しいったらありゃしない!」

ティ「えへへー」


僕が拾われてから数年の歳月が経った時、

私は、看板を貼れるくらいには成長した。
僕以外に劇が出来るのが居なかったからだけど、

私の得意な独り芝居、空に向かって居もしない少女に語りかける。

出会えもしない救いに手を伸ばす。

その時その時すべてがアドリブ。台本なんてなかった。

やっと、売れてきて人気が出て、大好きな人に恩返しできると思った時に、マダム·ポルッツェルが病に倒れた、人間種がかかる病気じゃないらしい。

かといって、妖精がかかるものでも魔族がかかるものでも獣がかかるものでもなかった。
今でも分からない。身体が糸のように解れて、体液が出る病気。

まるで、子供が蝶の蛹を遊び半分でちぎって、中を見ようとした時みたいな

マ「あたしゃね、これから本当の蝶になるのさ、この中途半端な蛹を割ってね・・・。」

ティ「嫌です!マダム、あなたが居ないと私は、うぅ、あぁ、マダム・・・死んじゃ嫌だ・・・1人にしないで、くだざいよ、あああ、」

マ「止めな、相変わらず泣き虫だね、あたしゃよか、あんだのが虫だよ。あたしゃね、あんたの事なんか、あんたなんか嫌いさ、」

ティ「・・・ぇ」

マ「いきなり、汚いガキを押しつけられたんだ、溜まったもんじゃないよ。
あんたのその仮面はね、あんたのその毎回変わる顔を見てると吐き気がしてくるから、作ったのさ、」

マ「分かるかい、あたしゃあんたなんか大っ嫌いだ、だからアタシが死んだら、このサーカスから出でけ。」

ティ「待って、あなたに嫌われてしまったら、
僕は誰からも必要とされなくなってしまう・・・。
私は、あなたが居たから、あなたが!居だがら!」


マ「耳障りな金切り声はお止め、あーぁ、折角の煙草が不味くなっちまったよ、、、もう、出てけ・・・出ておいき!この、、この!」

サーカスを引退してそれから日に日に弱り、
そして、あの人に捨てられ、死に目にも会えなかったのをきっかけに僕はサーカスを出た。

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サーカスを出てからは、芸術の国ドゥルチスで路上パフォーマンスや絵描き、サーカス時代に担当してた寸劇をしたりしてお金を稼いで暮らした。

絵は才能なくてダメだったけど。

お金が貯まらない時は、レミクォーフの特徴を利用して店から盗んでた。

大好きな雑貨屋の前でボーッと過ごすのが幸せだった。

たまにね、鏡に映る自分を見て疑問に思うんですよ。

鏡に映る自分ですら、視界にチラチラ入る自分の身体ですら、目を離すと変わってる

じゃあ、変わる瞬間は?って、

鼻や頬、顎の骨なんかを触ったまま、目をパチパチさせるんです。

変わったっていう実感なんかありませんでした。

もともと、その顔で、それを触ってたって感じ。

局所もそう、サイズが変わったり、あったりなかったりも、はじめからそうだったとしか思えないんです。

胸もそうでした、体格も、色んなものが眼を瞑る前からそうだったんです。

違うものだったのに、

そんな生活をしてた時、イグニスとミス·フォートレスに出会った。

好物の林檎を盗んで逃げようとした時にイグニスに捕まって、ミス·フォートレスに怒られて、

イグニス「行く場所がないなら、うちのギルドに来い」

ミス·フォートレス「みんな優しいし、楽しいところだよ!」

初めは乗り気じゃなかった。
人見知りだし、知らないところ怖いし、人の役に立てるような才能なんてないし。

それから、定期的に2人は私を誘いに来た。

断っても断っても来た。

マダム·ポルッツェルみたいだ。

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羊「ふんっ!だからって、行くこたないだろ」

ティ「えぇ、まさかの反応・・・。」

羊「全く、相変わらずお前の生活はヒモだね!ヒモだよ!ヒモヒモヒモ!
初めは蝶の小娘だろ?次は私かい。その後は、?えぇ、と、あの仮面の男とエルフかい」

ティ「イッグンとミス·フォートレスは雇い主兼仕事仲間ですよ。
オババと違ってご飯とお風呂と寝床をくれます。
それに、ミス·フォートレスはちゃんと旦那さんとお子さn

羊「けっ!? あほかい!お前はここに来るのは雨の日だけだっただろう!えぇ!?違うかい!?どうだっ!」

ティ「・・・紛うことなき事実にございます。でもお金取ったじゃないですか!」

羊「はんっ!それは、宿代だよ!それに、お前は飯には事欠かなかっただろう!」

ティ「まぁ、仮面外して露店から盗んで食べてましたけど、、、
でも!!雑貨屋ではしてませんよ!?ちゃんと払ってました!クレヨンも!布も!舞台衣装だって!」

羊「舞台たって、道の上に木箱並べて布被せただけだったじゃないか。」


ティ「あぁ、こんな時デウス・エクス・マキナが居てくれれば・・・」

羊「なんだい、その、ゼウス?」

ティ「デウス・エクス・マキナですよ。演劇用語で「時計仕掛けの神」です」

羊「そんなもん!フルゴル様で充分じゃい!」

ティ「分かってないですねぇ、全くこの老いぼれ羊は・・・」

羊「全く口は達者なガキだよ!それで?蝶の小娘の事は決着は着いたのかい」

ティ「はい!もう、【御伽噺】と【グラ·ンギニョール】の力で幻想の中でマダムと2人で暮らすのも、
【エビル·スピリット】でマダムを生き返らせるのもやめます。」

羊「ほぉ、まぁ、何言ってんのか私にゃ分からんがね」

ティ「仕事でね、あ、詳しい事はほしゅぎむ?で言えませんけど、会えたんです。マダムに、」

羊「なんだい?生きてたってか?」

ティ「あ、違うんです、マダムじゃないけど、マダムに会えたんです。
それで、ちゃんと、、ちゃんと、ちゃんと言ってやりまじだよ!」

ティ「うっぐ、大好きだっでね!」

羊「それは、親への愛なのか恋人への愛なのか・・・」

ティ「・・・両方です!」

羊「まぁ、レミクォーフのお前は子供はこさえれんからね、好きにしな」

ティ「はい!ニンマリ」

ティ「それでですね!このまえ・・・


これはティルダの物語

主人公であって主人公でない者の物語。


私はレミクォーフ。
生まれながらに、同じ外見を留められない稀病。

故に仮面をかぶる。

誰かに認識して欲しくて

でも、

仮面をかぶる人は他にもいる。

故に結局目立たない。

僕はレミクォーフ。
生まれながらに捨てられた者。


ティ「2人のね、犬と鳥の女の子に出会いましてね」

私は役者。
全てを繕い全てを無から生み出せる。

羊「だから何だい!」

レミクォーフは形は見えても姿は見えない。
誰にも覚えられない。

ティ「名前をね!付けたんです!図書館で見た伝説の生物にソックリで!」

ガルベッド·ロスヘル

地獄の番犬(ケルベロス)のアナグラム

ティ「で、ギルドに居る人のお嫁さんの姉妹だって言うから、似たように」

ファーストネーム、ニックネームをその姉妹と同じリズムに

羊「姉妹だってのに名前が無いたぁ、おかしな話だね!」

ティ「違うんですよ、んー、説明むつかしいです・・・、あと、鳥の子も居まして!」

ベルベッド·ワムーン
漆黒の翼の間から見える可愛らしい顔が月のようだった

ティ「それで、ワ!ムーンって!」

ガルベッドと同じく姉妹と同じリズムになるようにとファーストネーム、ニックネームを

羊「はいはい、お前の妄想おとぎ話はもう飽き飽きさ!」

ティ「えー、まだ話足りないですよぉ、沢山あるんですから!吐き出しきれないんです!」

羊「私を過労死させる気かい!?もう、やめな!お前の部屋はあのまんまだよ!休んできな」

ティ「はーい」


羊「全く、本当にあいつの年齢をしりたいねぇ、キヒヒヒ」

羊「さーて、店仕舞いだ、今夜は煩くて練れやしないだろうけどね」

―ティルダ、あんたの血はね、汚れちゃいないよ。
まぁ、確かに泥まみれで汚れちゃ居るけどね。
その血は複雑な愛の美しさの塊なのさ―
最終更新:2016年03月21日 15:29