カレーおむすび ~ 魔法少女の場合 ~

あらすじ 結手舞と恵寿美花礼の物語


登場人物








 ~ カレーおむすび

     魔法少女の場合 ~






はじめまして!
あたしの名前は恵寿美 花礼(エスミ カレ)。
どこにでもいる、普通の女子中学生です!

まあ、ちょっと変わりあると言えば――


「奥義、刃捌き」


煌めくサーベル、脳裏を駆け巡るレシピ。


      オニオン・スライサー
「――必殺、玉葱みじん切り!!」


魔法少女やってて、カレーが人一倍大好きってことかなっ!
敵対するは、蠢くカレーライスのような魔女。

そう、魔法少女の役目は、「魔女」なるものを倒すことなのです。

ヒュンヒュンヒュン!! とサーベルが踊り軽やかに魔女の体を切り刻んだ。
ふざけるなとばかりに魔女が絶叫し、細かく切られた体が飛び散る。


「心配すんなっちゅーの! 最高においしいカレーにしてあげるぜい!?」


何がそんなに不満なのか、魔女は体をぐねらせて飛びかかってくる。


「おおっと!?」


あたしは二段飛びに跳ねて避ける。効かないよ、そんな攻撃!
そして何よりあたしには、


「カレーじゃないわ! 私があなたを最高のおむすびの具にしてやるんだから!」


――最高の仲間がいるからね!










「うううう、くやぢい~~」

「えへへ、ごめんねっ。おむすびわけてあげるから!」


元魔女の結界で頭を地面に叩きつけるあたしを慰める彼女は、あたしと同じ魔法少女。
名前は結手 舞(ムスビテ マイ)。


「ほら、えすみん。出来たよ♪」

「うりゅう…いただきまあす…」

「ちょっと、もう少し味わって食べてよ!」


怒ったような、でも嬉しそうに笑う舞は、あたしの戦友だ。ライバルであり相棒である。いつもあたしと舞は、一緒に魔女を倒して回っている。

あたしたちが争っているのは、どちらが魔女にとどめを刺せるか。あたしは「カレーの魔法」、舞は「おむすびの魔法」を使う魔法少女だ。


「今度は! 負けないんだからね!」


勝った方は魔女を調理できる権利を得るのだ。至高のカレーを探すあたしに取って、魔女は新しい材料なのである。



ある日のことだった。
孤高の探究を続けていたあたしの前に、一人の魔法少女が現れた。彼女こそが結手舞


『その魔女は私がおむすびにするわ!』


度肝を抜かれた上に消耗していたあたしは、その魔女を彼女に取られてしまった。あたしは悔しがった。グリーフシードを横取りされたことではなく、魔女をカレーに出来なかったことが悔しかった。

あたしはその後、必死で彼女を追った。気が付いたら二人で協力して魔女を手にかけていた。


『なかなかやるわね、あなた。名前はなんていうの?』

『そっちこそ名を名乗りたまえ! ちなみにあたしは恵寿美花礼、カレーに全てを賭ける魔法少女だ!』

『そうなの。私は結手舞、おむすびに全てを賭ける魔法少女よ。よろしくね、えーと…えすみん!』


あたしはその時はっきり確認した。彼女とはもう、魔女を取り合うだけの関係ではなくなったと。
キュゥべえは呆れたように言った。『君たちみたいな魔法少女の関係、初めて見たよ…』と。
いいじゃん。これがあたしたちなりの友達の形なんだから。





舞はあたしの一番の親友だ。恥ずかしいけど大好き。

あたしがいつでもポジティヴなやつであるのに対して、舞は綺麗な大和撫子。

舞のソウルジェムはぶっちゃけ海苔色で,そこはかとなくネタ臭が漂うけど、その深い色は舞の深み…なんていうのかな? 趣があるってゆーの? そういうのを表現してる気がする。

舞の武器は、稲穂の形をした伸縮自在な鞭。踊るように魔女の動きを拘束し、攻撃を掻い潜って強烈な一撃を入れ、果ては巻き付けてぶん投げる。
月光の下、舞の動きに合わせて稲穂がしなり、ドレスが揺らめくのを見た時は、思わず感嘆の声をあげてしまった。

舞は大和撫子っていうのはさっきも言ったっけ。

それは性格のところでもそうだと思う。笑い方とか、態度とか、そういうところ。
でも、願い事で「おむすびを掌握したい」みたいなことを言い出すような、大胆で率直な人間でもある。

あたしは物事に挑むにしろ、諦めるにしろ、ぽんぽんと決めて後悔することがある。
けど舞は自分がやりたいと思ったことは全部やる。そして後悔しない。

羨ましいなあ、と思う。

舞は憧れの存在でもあるのだ、あたしに取って。
似たタイプの人間なだけに、差異が見えてしまう。いやいや、カレーとおむすびっていうのもそうだけど。





「今日も素晴らしい太刀捌きだったわ」

「そんなことないよ~、舞もすごいよ」

「それにしても変わった魔女だったわよね」

「カレーを切り刻むとか初めての経験だったぜい…」

「そうなの? 私にはおむすびに見えたけど。あの造形美を壊すのは辛かった」

「あにゃ~…やっぱそういう魔女さんかい」


コンビニの前でカレーパンとおむすびにぱくつく、魔女退治のあとのお楽しみタイム。
今日の魔女はどうだったとかあの時のこの攻撃がナイスだったとか、正直この時はミスったとか。そんなことを語り合う。


「こむすび弾が全部外れた時は慌てたわ…」

「舞の射撃精度はピカいちなのに、あれは舞らしくない。もうちょっと特訓した方がいいんじゃない?」

「えすみんだってカレー・ド・ポンプあらぬところに飛ばしてたわよね?」

「むぐっ。あふぇはふぁひょのふごきがふかみにふはっははへへ」

「あとー…」

「ぎゃー! 精進いたしますー!」


あたしは悲鳴を上げて、そのあと二人で弾けるように笑う。

それからあたしたちは、次はいつ一緒に魔女退治に行けるか、そして週に一度の「カレー&おむすびパーティー」の約束をするのである。

あたしたちは大抵土曜日は空けている。どちらかの家に集まってお互いが腕を奮ってカレーとおむすびを作り上げ、お互いの友人を呼んで盛大に騒ぐのだ。
前はあたしだけのお祭りだったんだけど…バリエーションが増えた! って友人は喜んでる。


「じゃあ、次もやれそうなのね?」

「全然大丈夫。ばっちぐー」

「私も大丈夫よ。ばっちぐー」

「ぷっ」

「ふふふっ」


舞といると笑いが耐えない。あたしは幸せものだ。



「ねぇねぇ、これって偶然じゃない、よね」

「どうしたの? 急に」

「魔法少女って大変だけどさ、こうならなきゃあたしたちって出会わなかったじゃん。でも魔法少女になって、あたしたちは出会えた。正に似た者同士のあたしたちが」

「うんうん」

「キュゥべぇに感謝しなくちゃねえ。今度のパーティ、キュゥべえにも先に食べさせてあげよっか♪」

「いまいちありがたいのかよくわからないお誘いだけど行くよ」

「うわ、キュゥべい!?」


和気藹々としていたらキュゥべえがいつもの無表情で背後に座っていた。怖い。


「グリーフシードの回収に来ただけじゃないか。そんな顔をしないでおくれよ」

「わかってるわ。はい、これ、今回の分」


舞が魔女の種を差し出すと、キュゥべえはあらぬところからそれを摂取して、「きゅっぷい」と呟く。


「君たちは一応中学生なんだから、早く帰りなよ。心配をかけたら魔女退治に出られなくなってしまうかもしれない」

「あいあいさーい。ふうぅー…」


ああ、土曜日が楽しみだなあ。












魔女と魔法少女がイコールって――どういうことさ?













「あら、えすみん。あなたも来たのね!」

「おお、ありがたやありがたや。集合かけなくても集まっちゃうとか」


ある日の夕方、たまたまソウルジェムが反応してそっちに行ったら、舞が魔法少女に変身したところだった。


「おいそっ!」


あたしも気合いを入れて変身する。

頭にターバン、サリーと海軍服を合わせたような姿。魔法でサーベルを取り出し、ひゅんひゅんっ! と素振りする。

調子、万全。カレー、最高!


「えすみんって格好いいわよね」

「あ、ええ? そう? そう言うなら舞はすっごい綺麗だよー」

「えへ、そうかな…」


舞がぽっと頬を染める。鞭をきゅっと握る姿が愛らしい。舞ってモテるんだろうなあ。


「一回舞が着物とか着てるの見てみたいなー。今度お祭り行こうよ!」

「い、いいわよお!」


動揺しているのか言葉がブレた。ほんとかわいいなあ、もうもうもう。
けど舞は舞なわけで。


「で、っでもさ! えすみんはすごくかっこいいわ! サーベルっ…振り回してる時とか、魔女の弱点部位を、適格に突いたりとか! 私がピンチになったら私を守るように動いてくれっ…くれるし! 仲間にしたい魔法少女、なんばーわんっ、だと思うわ!」

「……!?」


言葉を挟む隙もない、適格な攻撃をしているのはあんたの方だぜ。おかげであたしも真っ赤だ。


「そ、そんなにすごい?!」

「す、すげっ、すごいわよえすみんは!」

「ちょちょっとぉ、そんなに褒めてもカレーしか出ないよ!? おむすび出せないよ!?」

「えすみんはね、わわ、私の友達の中で……―番、すごい!!」


ああああああああ、
そんなこと言われたら何も言えないじゃんか。

あたしたちは長いこと何を言うか迷って、


「そうだわ、魔女退治しましょう!!」

「そッそそそうだね!!」


そんな結論に辿り着くあたり、立派な魔法少女だと思う。





今回の結界はなかなか変わっていた。使い魔がさっぱりおらず、あたしたちを追い出そうとするトラップに悪戦苦闘させられたのである。


「切れろこんちっしょー!!」


というかトラップが使い魔?
サーベルを振り回して蔦を切り刻むがなかなか穴が出来ない。


         キャロット・カット
「ええい――ニンジンはサイコロ型に!!」

「お願い――おむすび砲!!」


あたしがワッフルのように切り目を入れて飛び退いたところに、舞が巨大おむすびを投げる。


「いえーい!」


ハイタッチ。蔦トンネル開通♪

ソウルジェムがびんびんだ。魔女はこの先にいるに違いない…!







ところが、


「あ、りゃ?」


そこには、ベンチに座ってボロボロと哭く魔法少女がいた。


「どうしたのかしら…?」


舞が彼女の元へと近付くと、びくんっとその肩が跳ねる。あたしもそれを追いかける。浮世離れした服装、握り締められたグリーフシード、間違いなく魔法少…女…?


魔女?


「!!」


舞が慌てて飛び退き、鞭を構える。

よく見れば、彼女の瞳はどんよりと濁り、人間の許容量を越えた涙を流している。ソウルジェムも見当たらない。
というかあたしのソウルジェムが、魔女だー!! と叫んでいる。


「…魔法少女の姿をした魔女…!!」


魔法少女…魔女は希望を見失ったような虚ろな表情で立ち上がった。




「行くよ!!」

「ええ!!」


集中する。人の形になんて惑わされない。奥義味付け、


       ターメリック・シャワー
「――必殺、スパイス目眩まし!!」


辺りが黄色い霧に染まる。

ガツッ!! と地面を蹴り、動きの止まった魔女の後ろに一瞬で回り込む――広範囲をサーベルで凪ぎ払う!!


     チキン・モア・デリシャス
「必殺、鶏肉だっておいしい!!」


視界不明瞭の中でこの攻撃、避けられるものか! 狙い通りに吹っ飛んで壁にぶつかる魔女、そこに舞の鞭が絡み付き動きを拘束、


   カレー・ド・ポンプ
「いいからカレー食え!!」

「火傷に注意よッ!!」


表現しがたい音の混濁。灼熱のおむすびに叩き付けられた魔女に、高圧のキーマカレーが降り注ぐ。


「上手いっ…!」

「出来るわ!」


というか出来た、魔女カレーライスが。


「こんなもん、か?」

「待って、まだ結界が解けてない」


舞がこむすび弾をいつでも撃ち込めるよう構える。あたしもサーベルを握る。

十秒、 二十秒、 六十秒、 百八……?!


腹に何かが食い付いた。


「「!?」」


トングのような物が地面から生え、あたしたちの脇腹を掴んでいる。


「何これ! 離れろーっ!!」

「やっぱりとどめじゃなかっ――」


起き上がりこぼしのように、魔女がカレーライスの中から起き上がっていた。相変わらず涙を流しながら。

魔女が軽く腕を振る。まずいって、命の危

ぶおんっ!!


「わ――」

「きゃ――」


機――いやあああああーー!?




……何がどうなったらこうなるのか。あたしたちはものすごい勢いでぶん投げられ、結界を突き破ってスカイハイしたのだった…。
自分のソウルジェムを落とさないようにするのが精一杯だった…。

…情けでもかけられたの?







「負けた。…のか、あたしたちは」

「何なのかしら…この負け方は…」

「やあ、君たち。魔女に勝てなかったようだね」

「キュゥべえ…」


ぐったりするあたしたちの前に、どこからともなく白い獣が現れる。


「仕方ないさ。あの魔女には、他の魔法少女も同じように負けているんだ」

「そうなんだ…」


あの魔女、どんな味がするのか気になったのに。


「強いのね。あの魔女は」

「彼女は悲嘆の魔女。生まれてからずっと、魔法少女のことを嘆き続けているのさ」

「魔法少女の何を嘆くの?」

「おや? 言ってなかったかな」


キュゥべえはくりくりと耳の裏を掻く。
それから腰をあげて、くるりと向きを変える。


「カレーとおむすびを愛しているなら、ソウルジェムの許容量を気にすることだね。彼女は絶望に呑まれてああなった」

「え、」


無責任にキュゥべえは去っていく。あたしたちはその意味を必死で考える。


「…どういうことだと思う?」

「そんなわけないじゃん。そんなわけが」

「…そんなわけが?」


それを否定するための理由もなく、それを肯定するための仮定の方がずっと強い。何しろキュゥべえは魔法少女を何でも知っている――


「私たちは、今まで何と戦っていたの?」













悪いことってのは積み重なるものだ。そうなってほしくないけれど。
積み重なってしまった。積み重ねてしまった。










以前ソウルジェムがイコールで魂であり、魔法少女になることで魂と体が切り離されるも同然の状態になるという話を聞いた時もそうだった。


『よく考えたらさあ。つまりそれって、あたしたちはフリーダム…体という器から解放されたってこと…じゃない!?』

『じゃないと言われても』


カレーうどんを頬張りながら、あたしは胸を張って言ったのだ。

そして今日、土曜日。あたしは舞の家で、こう結論を出した。


「キュゥべえ。あたし、世界中の魔女をカレーにすることにする」

「…どういうことだい?」

「元が魔法少女なら、人に害を与えることに対してイエスとは言わないはずでしょ? 最期くらいは役に立たせてあげたい」

「へえ、なかなか面白いわね。ついて行ってもいい?」

「もちのろん! さ~て、忙しくなるぞー☆」

「きみたちのポジティヴ具合には脱帽するよ…」

「魔女になってもおいしいカレーを振る舞いたいね!」

「きみは絶望を知らないのかい」


呆れたようにキュゥべえが呟く。そうかなあ。確かに魔女になるってのは少々ショックだったけどね。


「ふふふ、夏野菜カレーはどんなものかなっと」

「いい香り。楽しみね」





そしてその数分後、

あたしたちは間違いを犯した。



「カレーのご飯はふっくらしてなきゃ意味ないじゃんこの握りアタマ!」

「この丸みを帯びた三角のフォルムがいいんじゃないこのスパイスキチ!」


後から考えればくっだらないことだった。

舞が炊きたてごはんを全部おむすびにしてしまったのだ。
その時のあたしに取ってはそれは致命的ミスに他ならなかった。


「まだ時間あるんだからもう一回炊けばいいじゃない!」

「何言ってんの!? そういうからあたしは譲歩してさっき握らせてあげたじゃん! 考えてよ、そんなおむすびおむすびおむすびおむすびおむすびおむすびばっかり要らないっつうの!!」

「ばっ!! えすみんこそ何よ!? おむすびをバカにしてるの!? ちょっとくらい待ってもいいでしょう!!」

「このカレーにライスはどうしても必要なの! 悠長におむすびばっか食べてたらお腹いっぱいになってあたしの分が、カレーがッ!!」

「何よさっきから、脳味噌カレー!? そうだった、えすみんの頭の中カレーしかないのよね! 私の都合なんか知らないの!!」

「そっちこそ頭の中、米粒しかつまってないんだろーねッ!!」


あまりにも心ない言葉のぶつけ合いだった。
あたしが焦っていたのもあった。もうすぐ友達が来る時間だったから。


「あたしのごはんなの! 返せっ!!」

「あなたのも私のも――」


頭に血が上っていたあたしは、舞の作ったおむすびをまとめて潰して持ち上げた。舞に対する最大限の侮辱だった。

あたしは彼女の目の前でそれを力任せに、服が汚れるのも構わず、


――ばしゃんっ!!


野菜カレーに放り込んだ。
そのままおたまで潰して、「カレーライス完成…」と呟いた。ドス黒い病んだ声音だった。


「あ……」


皮肉にも、それはある意味、あたしと舞の初めての、そして最後の合作になった。

舞は目を見開いてあたしを見つめた。あたしも舞を見つめた。体ががくがくと震えていた。


「…帰って」


決壊は、舞から始まった。



「帰って、帰って、帰って、帰れ、帰れえええええ!!」


決壊、崩壊、瓦解、誤解劣化烈火増加憎悪化憎悪かそうかどうなのかこうなのか――










「――礼! 花礼!」


気が付いたら夜の町の真ん中にあたしはいて…キュゥべえがあたしを一生懸命追い掛けていた。


「何、あたし――」

「そんな気分のところすまないけれど、魔女だ」

「え?」

「貪食の魔女が襲ってくる。魔女はこちら側の都合なんか気にしやしないよ!」


魔女?
それどころじゃない。今のあたしの心はボロボロだ。一旦どこかで落ち着かないと、


「被害者が出たらどうするつもりだい? さあ、急いで!」


立ち止まったあたしを誘導するようにキュゥべえが走り出す。あたしのせいで誰かが…それを考えたら、










社のように彩られた誰もいない江戸の町で――いや、使い魔や魔女はあたしを倒そうと蠢いている…。


「やああああああ!!」


冷静になって、一人で戦ってわかる舞の大切さ。ごめん、舞。あんなこと言って。今度、おむすびに合うカレーを頑張って考えるから。

一緒に笑おう?

あたしはその時無我夢中で――


調理し終わるまで

その魔女が

舞だということに

気付かなかった




「キュゥべえ」

「お疲れ様。なかなか強力な魔女だったけど、無事みたいだね。さすが花礼」

「はい、グリーフシード」


差し出されたグリーフシードに向かって、てこてこと近付いてくるキュウべえに、あたしはその時初めて、

カレーを調理する以外で凶器を振るった。

――ひゅん

いつか舞が褒めてくれた動きで、あたしは舞のグリーフシードの針の先で、その頭を真っ二つにかっ裂いた。


「何をするんだい、もったいないじゃないか」

「あんた、自分が何したかわかってる? 友達を殺させた。そうだよね?」

「でも魔女だ」

「だからどうしたって!」


あたしは、気付けなかった。
葬ってしまった。
謝れなかった。

幸せに、出来なかった。


「ああああああああああああああ!!」


癇癪を起こしてあたしはキュゥべえを引きちぎり、撒き散らす。


「舞、舞、舞、舞!! うああああああああ!! なんで、なんでえ、舞――!!」


敵であるはずのグリーフシードを抱き締めながら、味方であるはずのキュゥべえをいたぶる今のあたしの姿はとても滑稽。


「舞、舞!! なんで、どうして! 誤解したままで!! あたしは、あたしは、」

「君たちは同意の上で別れただろう?」

「一番の、友達だったのに――!! やあああぁぁぁッ!!」


二匹目のキュゥべえが飛び散った。


「ごめん、ごめんって――! あたしが悪かった、悪かったからぁぁぁ!! ヤダ、ヤダぁぁぁぁ!! 帰ってきて、舞、舞ーーッ!!」

「何を今更」


三匹目。


「謝らせて、あたしを許してえぇ!! うああああああん!! そんなつもりじゃ、あ、ああ、ああぁぁああぁあアアアア!!」


四匹目。

ふ、と力が抜ける。二つのグリーフシードが呼吸したのを感じたから。
絶望を拭い去ることは出来ない。けれどあたしは確かにその瞬間、幸福を感じた。舞の側にいれて、同じ場所に立てるんだ。

何もせずにあたしを見守るキュゥべえにあたしはニヤリと笑う。


『えすみん』


舞の声があたしの耳に届


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最終更新:2012年11月13日 04:31