―――延暦寺邸にて。
「よーしお前らァ、集まれー」
古びたソファにだらりと四肢を投げ出し寛いでいたハギは、突然手元のベルを鳴らしながらそう言った。
大方何かをするつもりで住人を集めようとしているのだろうが、残念ながらそんな声量ではこの屋敷の中の住人には届かない……筈、なのだが。
「なになになになになに!? ゲーム!? ゲームするの!?」
ドアを蹴破る勢いでリビングに飛び込んで来た少女―――木原いちごは、目を輝かせてハギに飛び付く。
ハギはそんな彼女の行動に驚くこともなく抱き止め、よしよしと頭を撫でた。
甘えるようにいちごが目を細めるのと同時に、開けっ放しのドアから獣の耳が覗く。しかし遠慮しているのか何なのか、中々その人物はリビングへ入ろうとはしない。
「どうした? 入れよおがみ」
「……えっと…」
顔を出したり引っ込めたりしている人物―――最上おがみの行動に、ハギは首を傾げた。
そして直ぐに何か思い付いたように笑みを浮かべ、ゆっくりと上体を起こす。
「お前、まだ恥ずかしがってんのかァ?
緊張とかする必要ねェから早く入って来い。あんまりグダグダしてっとアイツが、」
「―――邪魔。退け、犬っころ」
ドアの向こうから聞こえた低い声に、ハギは「あちゃー…」と頭を掻いた。この声は恐らく、というか確実に“ろっとちゃん”のものだ。
「…あ…ごめんなさい、ろっとちゃんさん」
怖ず怖ずと入って来たおがみ……とその後ろから入って来る金髪の女―――ろっとちゃん。ドアの向こうでおがみに噛み付くような言い方をしていたのは、彼女だ。
「ん、全員揃っ…」
「ヤッホーハギちゃん、遊びに来たよー!」
全員揃ったな、と言おうとしたハギの言葉を遮り窓から顔を出したのは、入院服姿で楽しそうに笑っている谷笑子。
彼女はここの住人ではないが、時々こうして遊びに来ている。
作者:在原