小学校の時の不思議な経験を語る。
あれはだいたい俺が12歳くらいの時だった。
俺の家の近くに駄菓子屋があったんだ。
あんまり大きい店じゃなくて、店番がよぼよぼの婆さん一人のさ、ほら、いかにも昭和って感じの。
近所の小学生の間ではけっこう人気でさ、俺も毎日学校終わった後は、そこ行って色々お菓子を買ったんだ。
でさ、ここからが本題なんだけど。
夏の暑い日、8月くらいだと思う。
俺がその店に行くとさ、8歳くらいの子供がさ、きらきら光るカード持ってるんだよ。
なんか、当時流行ったトレーディングカードゲームのレアカードらしくてさ。
初対面の俺の方に向かって、たたって駆け寄ってきて。
「どうや、○○やで!すごいやろ!」
って言うわけ。
今から思い出したら微笑ましいと思うんだけどさ、当時の俺は中学校へ進学する不安とか、そういうのですっげえ機嫌が悪くてさ。
「うるせえ!」って怒鳴って、そいつの持ってたカードをひったくった。
そいつは「ああ、返してよ!」って言いながら俺に掴みかかるんだけど、小学生って一年違うと背丈や力もだいぶ違ってさ。
俺はそいつを思いっきり突き飛ばした。
そしたらそいつ大声で泣き出すんだ。
その泣き声に切れた俺はそいつのカードを持ったまま、走って家に帰ったわけ。
今から思い出すと罪悪感で死にそうなんだけどさ、当時は悪いことしてるって自覚はあったけど、それでも止めなかったんだ。
それで、家の前に着くと、変な奴がいるんだよ。
俺の家の扉の前にじっと立ってるの。
襤褸切れみたいな服着る大男でさ。
じっと顔を下に向けてるから、どんな顔してるのか分かんない。
で、俺はそんな怪しい男が立ってるから、家に入れない。
どうしようかなって、表札の前で立ち往生してたんだけどさ。
大男がこっちを向いたんだ。
顔は結局見えなかったよ。
なんでかって、そいつの顔は『へのへのもへじ』だったんだ。
俺はビックリすると同時に、こいつの正体がわかった。
『
案山子』なんだ。服装といい、顔といいこいつは案山子なんだって分かったんだ。
案山子はこっちを見て
「悪いことは言わないから、カードを返してこい」
って言うんだ。
俺はよせばいいのに
「何のことだかわかんない。お前誰」
みたいな内容のことをどもりながら答えたと思う。
そしたら、案山子はもう一回カードを返してこいって言ったんだ。
で、俺はその言葉を無視して強引に家に入ろうとしたんだ。
恐怖を押し殺して案山子のほうまで歩いて行ってさ、でそのまま素通りして家に入ろうとしたらさ
案山子の後ろに血まみれの鍬が落ちてるの。
俺はひって悲鳴をあげながら、案山子から全力で離れたんだ。
案山子は幼くても悪は悪みたいなことを呟きながら、その血まみれの鍬を持ち上げたんだ。
歯の部分からポタポタ血が落ちてさ、もうそれが怖くて怖くてたまらないわけ。
俺は悲鳴をあげながら、逃げ出した。
もう必死に走ったわけ。
けどさ、案山子はゆっくりゆっくりついてくるんだよ。
そいつが動くたびに服の切れ端から藁がボロボロ溢れるんだよ。
それがまるで人間じゃないみたいで俺はもう泣きながら走って逃げた。
なのに、全然振り払えない。
むしろ距離はどんどん縮まってさ、ついにもう手を伸ばせば届くくらいまで近づかれたんだ。
で、俺焦りすぎて転んだ。
そしたら、さっきまで自分の頭があったところを鍬がぶんっ!って通ってっさ。
俺は震えながら後ろを振り返ったんだ。
案山子が鍬を振り上げてた。
鍬についた血が、見上げてる俺の顔にぴちゃっ、て垂れてさ。
俺は獣みたいな悲鳴をあげた。
「そこまでだ」聞いたことのある声、俺の友達で神クラスの霊力を持つTさんだ
Tさんは俺と案山子の間に割って入ると、両手を案山子のほうへ向かって突き出した。
「破ぁ!!」と叫ぶ、すると両手から青白い光弾が出て案山子を包み込んだ。
案山子は鍬を落として苦しがってたけど、次第に体がどんどん崩れていって残ったのは数本の藁だけだった。
「Tさん、どうしてここに?」
「ああ、俺君の家に行ったときに邪気を感じてね。ここまで追ってきたんだ」
そしてTさんは、案山子の成れの果てを見てため息をついた。
「こいつは悪い妖怪じゃない。ただ、ちょっとやりすぎなだけなんだ」
その言葉には小学生とは思えない深い悲しみが込められていた。
霊能力者ってすごい。俺は改めてそう思った。
最終更新:2014年04月04日 15:01