※時間軸無視のバトル短編です。
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「ったく、どいつもこいつも……化物かよ……!」
――暴風が、けたたましく吹き荒れる。
――暴雨が、夥しいほどに降り注ぐ。
荒れ狂う風の音が、渦を巻くように轟く。
土砂、樹木、岩石――数多の物体が激流に飲まれ、宙を舞い続ける。
周囲一帯は、荒れ狂う魔海のように。
この場に立つ者達を、等しく巻き込み続けていた。
アルヴド・グーラボーン。
神に失望し、神を拒絶するテロリスト。
長銃を携え、猛り狂う嵐を必死に耐えながら。
視線の先に佇む“敵”を、睨むように見据えていた。
「ゲハハハハハハハハァッ!!!!」
激烈なる旋風の中心に立つ“怪物”。
数多の暴威を乗り越えてきた“大海賊”。
髭を蓄えた顔に、大胆不敵な笑みが張り付く。
2メートルを超す体躯は、まるで巌の如く。
「面白ぇ!!ここが何処だかも知らねェが――――」
彼こそは、悪名高き大悪党。
彼こそは、傲岸なる航海者。
その哄笑は、嵐の果てにすら轟く。
その野望は、黒雲さえも引き裂く。
「――――航海ってのはよォ!!
いつだって“未知への旅路”って訳だ!!
なぁ、アンタらもそう思うだろう!?」
その男、人呼んで“ドン・エルグランド”。
カリブ海の大海賊。中南米に君臨する豪傑。
豪放磊落に笑う、魔海の怪物である。
そして、大海賊へと目掛けて。
返答代わりに――破裂音が連続して木霊する。
撃ったのは、アルヴドではない。
彼が一時的に共闘する“同盟者”だった。
飛来する“複数の弾丸”が、嵐の隙間を突き抜けた。
衝撃波を伴いながら放たれた鉛玉の群れは、周囲を舞う土砂などを吹き飛ばしていく。
迫りくる凶弾を前にして、大海賊ドンはそれらを舶刀(カトラス)の斬撃によって次々に凌ぐ。
反射神経のみで対応し、膂力のみで受け止める。
強靭な勢いに乗せた刃は、魔弾をも防ぐ剣と化す。
衝撃と熱量を物ともせず、幾つもの弾丸を受けては虚空へと弾き飛ばした。
「やるじゃねェか!!嵐さえも突き抜けてくるとはなァ!!」
先の凶弾を放った張本人――アルヴドの傍に立つ、もう一人の怪物。
ドンはその相手を見据えながら、豪快に笑い飛ばす。
その右手に銃剣付きの突撃銃を握り締めた“凶弾の主”は、蔑むような眼差しを大海賊へと向ける。
「騒がしいぞ、賊風情の豚が」
“凶弾の主”――可憐にして鋭利な女軍人が、吐き捨てるように言い放つ。
嵐の中でも折れぬ一輪の花が、獰猛な姿で其処へ在り続ける。
「誰の許可を得て口を利いている?
貴様程度の“ごろつき”が図に乗るなよ。
今すぐに塵芥に変えてやろう」
その女、“アンナ・アメリナ”。
煽動の戦乙女。殺戮の女軍人。
戦火に咲く、暴威の華である。
「さあ、放て!!!」
アンナの高らかなる掛け声が、響き渡る。
“カエサル自走榴弾砲”を思わせる長銃を抱えたアルヴドが、歯を食いしばってその引き金を弾いた。
「裁きの鉄槌を下せッ!!!」
――――そして、銃声。
――――否、爆音である。
風が、土が、轟くように震動する。
嵐をも抉り取る流星が、放たれる。
大地をも打ち砕く砲弾が、突き抜ける。
「ほう、こいつは……ッ!!!」
ドンが目を見開き、咄嗟に跳んだ。
嵐の風圧と豪雨さえも物ともせず、凄まじい脚力で後方へと下がった。
次の瞬間――先程までドンが佇んでいた場所を、破壊的な衝撃が飲み込んでいく。
たった一撃の弾丸が、絨毯爆撃も同然に軌道上を焦土へと変えていった。
余りにも凄絶。余りにも豪快。
もはや人の手に余る武装に他ならぬ。
そんな代物を、このオールドの男は振り翳している。
“自らが手に取る銃器を強化するネオス”の効力によって、ただのピストルは轟砲へと形を変えていた。
それに加えて戦乙女が持つ“自軍強化のネオス”により、更なる火力の向上が齎されている。
即ちその長銃は、最早“歩く爆撃砲”に等しかった。
通常ならば、彼自身がそのバックファイアの反動に耐えきれないだろう。
「私が赦そう!!私が導こう!!
我こそは――戦乙女(ヴァルキュリア)!!
この死地に正義の旗を掲げる者である!!」
されど、今の彼には“戦乙女”が着いていた。
身体機能で劣るオールドに過ぎないアルヴドの肉体は、アンナのネオスによって頑強なものへと変貌していた。
「殲滅しろ!圧殺せよ!!蹂躙せよ!!!
敵は人に非ず!!!等しく豚だッ!!!」
故に、撃てる。
この砲撃を、己の技として操ることが出来る。
戦乙女の加護により、アルヴドは“魔弾の射手”と化すのだ。
その煩わしい演説(アジテーション)に表情を顰めながらも、アルヴドは引き金を弾き続ける。
「鏖殺あるのみ!!!豚に裁きなど要らぬ!!!
全て踏み潰せ!!!全て焼き尽くせ!!!」
次々に放たれる爆撃弾――――。
超特急のように突き抜けていく流星の数々。
回避に徹する他ない大海賊。
そして、それらが切り開いた軌道の先頭。
先陣を切るように、戦乙女は駆け抜ける。
「我が名は――――アンナ・アメリナ!!!
我は殲滅の使徒、粛清の騎士である!!!
刮目せよ!!!その眼に焼き付けろッ!!!」
砲撃によって開かれた“暴嵐の風穴”。
連続射撃によって生じた“真空の領域”。
トンネルのように貫かれた――台風の目。
その道筋を一直線に走るアンナ。
魔弾を従える戦姫が、海賊へと目掛けて突撃銃を乱射する。
「はッ、威勢はいいが――くだらねえなァ!!」
されど、大海賊は笑みを絶やさぬ。
どんな窮地を前にしても。
大胆不敵、獰猛に笑ってみせるのだ。
「欲しいモンは奪う!!
喰らいてぇモンは喰らい尽くす!!
気に入らねぇ野郎はブチのめす!!
それが俺たち“悪党”ってモンだろうがよォ!!」
そして――風を引き裂く程の勢いで、カトラスを幾度も振るう。
迫り来る弾丸の一つ一つが、斬撃によって凌がれていく。
暴風をも超えゆく突撃銃の掃射を、凄まじい瞬発力によって弾き続ける。
魔弾が切り開き、戦乙女が駆け抜ける“風穴”。
迫り来る銃撃にさえ臆さねば、それは海賊にとっての道筋にもなりうる。
そう、暴風雨の狭間に拓かれた“活路”となるのだ。
「御託なんざ並べてんじゃねえよ!!!
折角の死闘(うたげ)だろう!!?
この嵐の中で存分に楽しもうぜェ!!!」
――故に、彼もまた駆け抜ける。
――嵐をも恐れぬ大海賊が。
――爆撃の嵐を恐れる筈が無いのだ。
「そうさ、略奪(ワイルドハント)だ!!!
ゲハハハハハハハハハハハッ!!!」
砲撃の流星によって生まれた真空の狭間。
真正面まで迫る、大海賊と戦乙女。
カトラスの刃と、銃剣の刃が激突する。
凄まじい衝撃が、真空の中で暴風と化す。
波紋のように広がる重圧を、互いにその身一つで耐え凌ぎ。
そして、再び“打ち合い”が始まる。
「喚くなよ――――下賤の海賊がッ!!!」
「差し出せ――――戦乙女様よォッ!!!」
躍動する銃剣の軌跡。
狂舞するカトラスの剣閃。
局所的な“台風の目”で。
けたたましい金属音が、幾重にも響く。
嵐のように踊り狂う斬撃の数々を、戦乙女は弾いていく。
不意打ちに至近距離で銃弾が放たれながらも、大海賊は的確に凌いでいく。
「ち……ッ!!」
その攻防を見据えながら、アルヴドは舌打ちする。
ドンが真正面から応戦し、アンナとの近距離戦闘を開始したのだ。
故にアンナを援護射撃の巻き添えにすることを避けるべく、発砲を止めざるを得なかった。
何とか渦中の隙を突こうとするも、その熾烈な激突ゆえに機を見出だせない――。
その迷いの最中にも、海賊と戦乙女は激突を続ける。
数秒。十数秒。ただそれだけの打ち合い。
にも関わらず――吹き荒れる嵐のような熱量を伴い、周囲に波紋を引き起こす。
果てなき時間に渡って迸るかのように、鮮烈な狂熱を生み出す。
激突。激突。激突。激突。激突――――。
永遠に続くような錯覚さえ抱くほどの攻防。
カトラスと銃剣の舞踏が、凶暴に繰り広げられる。
「ッ!!」
幾度もの打ち合いの末、銃剣の軌道が“弾かれた”。
銃剣を備えた突撃銃――その銃身の側面を、カトラスの剣撃が勢いよく打ち据えたのだ。
激突の均衡を崩され、アンナの構えが乱れる。
「獲ったァァァ――――!!!」
その隙を、大海賊は決して見逃さない。
銃身を弾いたカトラス――その刀身を俊敏に操り。
戦乙女の首を刎ねるべく、返す刀で横薙ぎに振るったのだ。
「驕るな、豚が」
しかし、それよりも疾く。
アンナが左腕を構えていた。
「正義に散れ」
軍服の左袖から飛び出した暗器。
袖に仕込まれた小型二連装拳銃(デリンジャー)が、アンナの左掌に握られており。
迫るドンの脳天目掛けて、素早く引き金を弾いた。
ほぼ同時、瞬速の二連射。
アンナの超力によって、小型拳銃弾は大口径のマグナムに等しい火力を得る。
至近距離より襲う2発の凶弾――それを咄嗟に防ぐ術など、ドンには無い筈だった。
「――――ふ゛ぅ゛ぅ゛ん゛ッ!!!!!」
だが、次の瞬間。
獣の咆哮にも似た奇声が、轟いた。
絶叫にも似た金属の摩擦音が、響き渡った。
アンナは思わず、驚愕に目を見開く。
ドンの脳天を撃ち抜くはずだった弾丸。
それは他でもない、ドン自身によって食い止められていた。
「ゲハ、ハハハ……ッ!!」
「――――まさか、な……!!」
アンナの超力で強化された弾丸を。
至近距離から放たれた銃弾を。
この大海賊、歯で受け止めたのだ。
鮫のような大口で、二発とも喰らいついたのである。
まさしく離れ業。まさしく魔技。
ドンは不敵に笑いながら、口内から血を滲ませて。
上下の歯で銜えた弾丸を――まるで飴玉のように噛み砕いた。
「舌まで腐っていたか、豚がァッ!!!」
「ドン・エルグランドをナメんじゃねえよ!!!
ゲハハハハハハハハハハァァァッ!!!」
弾丸を歯で砕きながら、ドンは横薙ぎの剣撃を振るった。
アンナは咄嗟に後方へと跳んで一閃を躱し、左掌のデリンジャーを放り捨てる。
そのまま再び突撃銃を構えて、銃弾の雨を見舞おうとした。
「――そうら、女神が微笑んできやがった」
次の瞬間。
まるで大海賊の狂喜に呼応するかのように、嵐が再び猛威を振るう。
――刹那の合間に切り開かれていた“真空”。
戦乙女と海賊が打ち合っていた空間を、突如として勢いを強めた暴風雨が飲み込んだのだ。
吹き荒れる嵐は再び勢力を取り戻し、台風の目にも似た“風穴”を喰らい潰した。
押し寄せる暴風と暴雨。巻き上がる有象無象。
その衝撃に曝されながらも、アンナは自己強化の超力で何とか耐え抜いていた――。
そうして隙を見せたアンナを狙うように。
鋭い岩石が、嵐に乗って勢いよく飛来する。
計算など存在しない。紛れもない偶然。
「知ってるかよ戦乙女ェェ!!!
幸運の女神ってのはなァ!!!
いつだって気まぐれなんだぜ!!?」
されど、その岩石は。
荒れ狂う嵐の勢いにも関わらず。
“アンナ一人のみ”を軌道に捉えていた。
目を見開いたアンナが、咄嗟に防御を行おうとする。
その隙を大海賊は見逃さず、暴雨に曝されながらも突進。
岩石と共に同時攻撃を仕掛けるべく、カトラスを振り上げる。
自らが岩石の巻き添えになる危険など、意にも介さない。
岩石に対処せんとするアンナの頭部を、刃で叩き割らんとした――。
――――爆撃。爆音。爆炎。
その瞬間、岩石が即座に爆ぜた。
嵐の狭間で、衝撃が轟き渡り。
大海賊と戦乙女が、共に吹き飛ばされた。
アルヴドの長銃が、岩石を撃ち抜いたのだ。
衝撃による波紋が、戦乙女を巻き添えにして大海賊と岩石を吹き飛ばした。
アンナに迫る“攻撃”を妨げつつ、両者の距離を離すべく、アルヴドは咄嗟に引き金を弾いた。
やむを得ぬ形だったが――少なくとも、刃の直撃を受ければ一溜まりもなかっただろう。
衝撃と暴風で宙を舞いながらも、戦乙女は強化した身体能力によって空中で体勢を整える。
そのまま嵐の軌道に乗るような形で、強引にアルヴドの近くへと着地した。
「良くやった、引き続き援護を頼むぞ。
敵の動きを見据えろ。嵐の流れを見極めろ」
「へいへい、承知してますよ……!」
相も変わらず、ふてぶてしい物言いで礼を告げるアンナ。
そんな彼女に呆れつつも、暴雨で歪む視界の中をアルヴドは見据え続ける。
猛る雨と風。その蜃気楼の果て。
大海賊――ドンもまた、嵐を従えるように。
歪む景色の中で、傲岸に佇んでいた。
――肉体強化による加護を得ているアンナとは違う。
ドンは純粋な身体能力、雨風を読む直感。
そして天運さえも味方につけて、着地を果たしていた。
やっぱり化物かよ、と毒づくアルヴド。
同じく強化を受けているとはいえ、自分はこの嵐を持ち堪えるのが精一杯だ。
故に、自軍への強化を施しつつ前衛を務められるアンナの存在は不可欠となる。
「正直なところ……」
そのうえで、アルヴドは思いを抱く。
並び立つ戦乙女への、複雑な感情を。
例えそれが醜い矛盾であったとしても。
テロリストである彼は、思わずにはいられない。
「あんたのような奴は、気に入らないがな」
――――虐殺者。殲滅者。殺戮者。
アンナ・アメリナは、弱者を蹂躙する側の存在だ。
女子供さえも踏み躙り、情け容赦もなく飲み込んでいく。
アルヴド・グーラボーンの中に眠る“原初の怒り”は、彼女の本質を理解する。
この女は、厄災を生む者であると。
「今は、あの海賊を倒すのが先決だろう。
それくらいは俺にだって分かるさ」
それでも彼は、眼前の敵を優先する。
嵐の王者を倒さねば、この場は切り抜けられない。
故に今は、怒りを押し殺す。葛藤を抑え込む。
全てが終わった後に、改めて向き合えば良い。
「当然だ。少しは利口な豚のようだな」
そんなアルヴドに対し、アンナは高慢な態度で言い放つ。
その言葉を吐く戦乙女は、最早アルヴドに目を向けていない。
「奴に貴様の鉛玉を喰らわせてやれ。
悪食の畜生には丁度いい餌だ」
アンナは、その鋭い眼差しで。
嵐の果ての敵を見据え続けていた。
――この戦乙女は、やはり戦い慣れている。
――故に、自分など意に介さない。
アルヴドはその事実を悟る。
アンナの傲岸な佇まいから、それを察する。
だからこそ、手を組まねばならない。
迫る敵を討つためにも、彼女の力が必要なのだ。
「ゲハハハハハハ――――ッ!!!」
敵は誰だ。カリブ海に悪名を轟かせた、大海賊だ。
生半可な敵ではない。余りにも強大な暴威が、立ちはだかっているのだ。
アルヴドは再び長銃を構える。この暴風雨の中で、必死に照準を定める。
この災厄を乗り越えるべく、歯を食いしばった。
「さあッ、お楽しみはこれからだぜ!!!
冥府の果てまで、付き合ってもらおうかァ!!!」
――――嵐は、尚も吹き荒れる。
――――航海は、未だ幕を開けたばかり。
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最終更新:2025年12月09日 17:46