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※二次創作的な短編です。


◆


 揺らぐ感覚。
 ぼやける感覚。
 歪むピント。
 纏まらない思考。

 揺れる、揺れる、揺れる。
 まるで水面のように、揺れ動く。
 揺蕩う、揺蕩う、揺蕩う。
 まるで出口のない海を彷徨う舟のように。

 吐き気にも似た不快感と、ほんの微かな高揚の残滓。
 ズキズキと痙攣する脳天を抑えながら、少女は緩やかに活動を始める。

 五感の全てが、浮遊していた。
 それでも、少しはマシになってきた。
 覚醒を経てから、数十分後のことだった。

 部屋に日は射さないが、既に朝を迎えていた。
 スプリング・ローズは、今日の始まりを認識する。
 彼女はソファに背中を預けたまま、つい先刻まで気絶していた。

 目を覚ました少女は、がたつく現実感を整えていた。
 掻き乱されたままの脳髄の平衡感覚を、何とか取り戻していく。
 混濁していた視界が、ようやく晴れてゆく。
 目の前に広がる現実を、やっと認識していく。

 そこは“いつもの部屋”だった。
 廃棄されたアパートの一室。
 こじんまりとした広さの、煤けた屋内。
 そこには数人の少年少女が横たわっていた。
 中央のテーブルを囲うように置かれたソファの上で、彼らは意識を失っていた。
 みんな“イースターズ”の身内だった。

 乱れた衣服。乱れた姿勢。
 ある少年は、床に寝転がっている。
 ある者達は、裸のまま密着し合っている。
 照明や棚など、幾つかの家具は横転して破壊されていた。
 眠りに落ちる前、よほど好き放題に暴れていたのか。

 テーブルの上には、数本の注射器。
 少年少女の有り様と同じように、乱雑に放置されている。

 彼らの腕には、等しく刻み込まれている。
 針を刺して“注射”した痕が、痛々しく残されている。

 床やソファには、白い粒が散乱していた。
 菓子か何かを思わせる“それ”は、粉雪のように部屋に撒き散らされている。
 大量に摂取せねばろくに“飛ぶ”こともできない、安物の粗悪なドラッグだった。

 親しい連中を集めて、棲家で過ごして。
 打って、噛み砕いて、二重にハイになって。
 それから夜通しの乱痴気騒ぎ。
 騒いで、暴れて、ヤッての繰り返し。
 記憶を手繰り寄せて、少女は昨夜の出来事を思い出す。

 なんてことはない。
 ひどく、ひどく慣れている。
 そんな、いつもの日常だった。

 床に寝転がっていた少年が、這うように蠢いていた。
 ボロ切れのような絨毯を掻き毟って、床に散乱した錠剤に犬のように食らいついている。
 その顔には、焦燥にも似た笑みが張り付いていた。
 それからまるで焦点の合わない瞳で、彼は横たわる棚から零れ落ちた雑誌を手繰り寄せていた。

「見ろよ、見ろよぉローズ」

 少年は血走った目で、呂律の回らない舌で、言葉を発する。
 しがみつくように雑誌を握って、ソファに腰掛けるローズへと表紙を見せつける。

「おれたちの、パパだ」

 “フランスの敏腕実業家、ルーサー・キング”。
 彼がまだ逮捕される前。著名な雑誌の表紙として、キングの写真が印刷されていた。

 表紙に映るキングは深い威厳を湛えながらも、子供達に対して何も物を言わない。
 しかし少年は、まるで自分の実の父親を見つけたかのように、ケタケタと笑みを浮かべていた。

「会ったこともないのに」

 少年は、写真のキングを食い入るように見つめる。 

「パパなんだってさあ」

 そう、会ったことなんてない。
 首領であるローズを除いて、誰ひとり。
 みんな、写真や映像越しでしか知らない。

「なんでかなぁ?おれたちに、パパがいるの」

 “キングス・デイ”の傘下になったストリートチルドレンには、後見役である下部組織によってまず洗脳教育が施される。
 組織に対する絶対の忠誠を誓わせるべく、徹底的な“思想の刷り込み”が行われるのだ。

「パパ、パパ……」

 “キングス・デイ”こそが全てであり、その中心に立つ“ルーサー・キング”こそが絶対の存在である――。
 お前達は“キングス・デイ”でしか生きられない、“キングス・デイ”に飼われる以外に進む道はない――。
 お前達は“生粋の破壊者”であり、生まれ持った暴力を組織の下で存分に役立てるべきである――。

 そうして彼らは組織の駒へと仕立て上げられ、組織が与える以外のあらゆる世界を削ぎ落とされていく。
 日々の生活の保障、暴力や非道の容認、“報酬”の提供によって、彼らは組織に尽くす利を与えられる。
 その中でも特に優秀な少年少女は“王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)”として取り立てられる。
 組織直属の有望株として、将来の立場を約束されるのである。

「パパ――――」

 尤も、最終的にそんな地位を得られるのは一握りの強者のみ。
 ただの下っ端として地を這うだけなら、まだマシな末路である。

 そうなることさえ出来なかった有象無象は、より惨めな結末を迎えることになる。
 熾烈な抗争の中で命を落とすか、組織が望む結果を残せずに打ち捨てられるか――。
 あるいは洗脳教育の過程で与えられる麻薬に依存し、再起不能に陥るか。

「パパ!」

 この少年もその一人である。
 彼もまた、そんな限界を迎えようとしている。
 雑誌を握る腕は、注射の痕でひどく青褪めていた。

「パパ!!パパ!!パパ!!パパァ!!」

 少年は無我夢中の表情で、ルーサー・キングの写真へと執拗に口づけをする。
 唾液がへばりつくほどの勢いで、まるで写真の中のキングに食いつくような気迫で、彼はキスを繰り返す。
 雑誌の表紙が擦れる音と、唇の粘膜がくちゃりくちゃりと立てる音が、混濁するように混じり合う。

「パパ、パパ……パパ……ぱぱ……」

 何度も何度も、何度も何度も――――。
 強迫観念にも似た口づけを繰り返して。
 やがて少年は、我に返ったように目を見開く。
 それから呆然としたまま、雑誌へと顔をうずめた。

「パパァァァ…………っ」

 ただ無我夢中で、少年は泣き出していた。
 赤ん坊のように慟哭を繰り返し、只管に泣きじゃくり。
 涙と唾液に沈むように、嗚咽の声を漏らし続けて。

 やがて彼は、ぷつりと糸が切れたように沈黙する。
 雑誌に顔を埋めたまま、ふっと意識が途切れたのだ。
 そのまま写真越しのキングに縋るように、頭を表紙を擦り付けたまま倒れ込んだ。

 壊れた人形のように沈黙した少年を、ローズは無言で見つめる。
 何も言わずに、神妙な顔のまま――ただじっと見つめていた。
 麻薬の高揚から解き放たれた頭で、目の前の事象を淡々と認識していた。
 雑誌に顔をうずめて、“ボス”に縋って、動かなくなった少年。
 そんな彼を、ローズは無言のまま見据えている。

「ねえ、ローズ」

 沈黙に割り込むように、横合から少女の声が割り込んできた。
 衣服が乱れた姿でソファに寝転んでいた少女が、少年の慟哭で目を覚ました。

「わたしたちさぁ」

 少女は、糸が切れたように倒れた少年を見下ろしていた。
 その瞳は白く濁って、口元には自暴自棄な笑みが張り付いている。

「パパのもの、しゃぶったら」

 現実と虚構の境目が、未だに曖昧になったまま。 
 粘り付くように、少女はぐちゃりと笑う。 

「やっと愛してもらえるのかな」

 そんなことをぼやいて、少女は人差し指をスッと唇に伸ばした。
 そうして指先に喰らいつくかのように、かり、かり、と爪を噛み続けた。

 少女がぼやいた言葉を耳にして。
 ローズは茫然とした沈黙を貫いていた。

「……ひひ」

 やがて、ローズもまた笑い出した。
 その口元から、耐え切れなくなったように。

「ひひひ、ひひひひひ」

 まるで吐瀉物が漏れ出るように。
 彼女の喉奥から、嗤いが止まらなくなる。

「くはは、ひゃははは、ははははははは……っ」

 ローズは、笑い続けていた。
 ただただ、笑うしかなかった。
 右手で顔を覆って、ケタケタ、ケタケタと。
 とにかく可笑しくて、堪らなかった。


 ――――くっだらねえや。
 ――――野良犬どもが、王に愛されるかよ。


◆


「エリック、まだ起きねえな」

「ぜんぜん動かないよ」
「ボスの雑誌、抱きしめたまま」
「死体みたいになってる」
「キスしまくってから、ずっとこの状態」

「……おっけ。呼吸は?」

「一応してる」
「ひゅーはーひゅーはー、って感じに」
「幽霊みてえな顔色じゃん」
「ヤバそうだわ、ひひひッ」

「ああ」

「でもまぁ、幸せだなあ」
「楽しんでブッ飛んだんなら」
「きっと良かったんだろうなァ」
「ヤクでイケるんなら良いよねえ」

「…………なあ、みんな」

「どうするゥ?ローズ」
「どうしよっかあ」
「なァ、ローズ」
「リーダー。どうしたの?」

「“組織”のヤツ呼んでくれ」

「うん」
「ああ」
「りょうかい」
「はーい」


◆


「すまん、すまなかった、悪かったよッ、ちょっと魔が、魔が差して――」
「カマみてえにウダウダ言ってんじゃねえよ」

 日中にも関わらず、“準備中”の看板が提げられた移民系のレストラン。
 その店内――客のいない伽藍堂のホールで、店主の男は跪いていた。

「此処は組織のシマだろ?あ?分かってるよな?
 ウチのボスをナメてんじゃねぇよ」
「わ、分かってる!分かってるよ!すまなかった!やめてくれ!」

 床に頭を擦り付ける勢いで土下座するのは、浅黒い肌を持つ中年男性の店主。
 彼を冷徹に見下ろすのは、赤い髪を持った小柄な少女――スプリング・ローズ。
 彼女の後ろには、複数名の少年少女達が控えていた。
 ある者は嘲るように店主を眺めて、ある者は退屈そうに虚空を見つめて、ある者は今か今かと暴力を振るう時を待ち続けている。

「組織だまくらかして、テメエの腹肥やそうって魂胆だってのはよおく分かったよ。
 で、その理由が“魔が差して”?いい度胸じゃねえか。気の迷いで組織に逆らっちまうなんてな」

 ローズは身を屈めて、店主の髪を乱暴に掴む。
 そのまま無理矢理に目線を合わせて、威圧するように吐き捨てる。

 ルーサー・キングが逮捕された。
 闇の帝王が娑婆から姿を消した。
 裏社会に生きる大抵の者は、以後も彼の影響力が続くことを理解していたが――。
 キングがいなくなったという事態を“鵜呑み”にする者も、ストリートには溢れ返っていた。

 帝王が消えた今こそ好機であるとして、私服を肥やそうとか、自分が幅を利かせようとか。
 無鉄砲な野心を顕にする者、稚拙な企みに走る者が、後を断たなかったのだ。
 そうした輩に対する“罰”を与えるのが、下部組織に飼われる猟犬達の仕事である。

「許してくれ!今回は偶々なんだ!もう二度と起こさない!だから、だからっ――!」
「うるせぇよ。だったらハナからやんじゃねえ」

 “名の知れたネイティブ・ギャング”を差し向けることには、絶大な効果があった。
 悪名高い新世代の犯罪者――彼らが粛清に顔を出すこと自体が強烈な威嚇となるうえ、それらを従えるキングス・デイの力を身を以て知らしめることになるからだ。

 怯える店主を乱暴に突き放し、ゆらりと立ち上がるローズ。
 這うように縋る店主を冷淡に見下して、彼女は振り返った。

「みんな。好きに暴れろ」

 そして、スプリング・ローズが一言。
 後ろに控えていた同胞達へと“号令”を掛ける。

「全部、ブッ壊してやれ」

 それは罰であり、粛清の宣告だった。
 徹底的な破壊と簒奪。組織に逆らった者に対する“見せしめ”。
 イースターズは、“組織”の手足として動く猟犬の群れだった。

 血と狂気に飢えた少年少女たちは、首領の指示に嬉々とした表情を浮かべる。
 彼らは自らの超力を剥き出しにして、その暴力を行使せんとする――。


「――――た、助けてくれッ!!!」


 店主が“何か”に助けを求めて、叫んだ瞬間。
 店舗の奥側から、二人の影が飛び出した。
 彼らは首領であるローズへと目掛けて、猛禽のように俊敏に奇襲を仕掛ける。
 刃状の何かと、電撃を纏った右手――二人はそれぞれの超力によってローズを仕留めんとする。

 しかしローズは、その場から動くこともなく。
 一瞬だけ“獣化”させた右腕を振るって、攻撃を即座に弾き返す。
 二人は奇襲を凌がれ弾き飛ばされるものの、空中で回転しながら態勢を立て直し。
 そのまま店主の直ぐ側に着地し、ローズを睨むように見据えていた。

 ――用心棒である。組織に対して内密に、店主が自らの利益を守るために雇ったギャング達だった。
 組織による取り立てに備えて、彼は腕利きのならず者達を抱え込んでいた。

「“牧師”の犬だな。健気なこったよ」
「飼い主が檻ン中でも、立派な忠犬って訳か?」

 二人のギャングは、どちらも少年。どちらも十代そこらの子供。
 いずれも“それなりに”名の知れた、野良のネイティブ・ギャングだ。
 キングス・デイの台頭による治安悪化、貧富の差の拡大。その犠牲として生まれたストリートチルドレンの成れの果てである。

 彼らは生活の行き詰まり、生存競争における限界の末に、犯罪で食い繋ぐ術を覚えていく。
 時に彼らは、物心ついた時点でそういう生き方を身に付けることになる。

 特定の組織に属さず、用心棒稼業などで自らの暴力を売り込むネイティブの存在は、欧州では決して珍しいことではない。
 後ろ盾を持たず、路地裏を彷徨う狼としての少年少女たち――。
 そうしたゴロツキ達はある種の自由を持つ。組織に縛られないという自由だ。
 そんな自由の代償として、彼らが迎える末路はたいてい決まっている。


「――――くっだらねえ」


 吐き捨てるようなローズの一言。
 その直後、肉体が猛々しく膨張する。
 獰猛な怪物/人狼としての姿が、牙を剥く。
 スプリング・ローズの超力が解き放たれる。

 目を見開く、二人の用心棒。
 向けられた殺気に、彼らは一瞬だけ怯むものの。
 それでも自らの超力によって抵抗を試みる。
 獰猛な敵意を構えて、人狼と対峙する。

 一方は全身を“鋭利な刃”へと変化させ。
 一方は両掌から“電撃”を迸らせる。
 しかし――無意味だった。何もかも。

 真紅の影が、圧倒的な暴威を振るう。
 新時代が生んだ悪徳が、咆哮を上げる。
 一方的なまでの暴力が、行使される。
 人狼の四肢が、更なる赤色――返り血に染まっていく。
 身の程を知らないチンピラ達を、瞬く間に蹂躙していく。

 どっちも、同じ穴の狢だというのに。
 どっちも、同じ時代の犠牲者だというのに。
 彼女達は、何かに突き動かされるように対峙する。
 お互い恨みなんか無いのに、殺して殺される。

 何の意味がある。答えてくれる者はいない。
 世界の仕組みが、神様を盗んでいったからだ。


◆


「おう、オッサン。よこせよ」

「相変わらず口の利き方がなってねえな、ローズ」

「知るかよ。仕事は終えたぜ」

「テメェら“飼い犬”のくせに、生意気なモンだ」

「よこせよ、いいから」

「ハッ。まあいいさ、ほらよ」

「…………」

「仕事の報酬だ。カネとヤク、お望み通りに」

「カネ、今日もこれっぽっちかよ」

「必要経費の差し引きがあるのさ。テメェらに棲家を提供してやってるだろ?」

「どうせカネ払う気もねぇんだろ」

「るせぇな、テメェらヤク打ってりゃ満足だろ」

「ナメてんのかよ」

「組織の看板が無けりゃ、しょせん破綻者のガキ共だろうが」

「…………」

「組織無しで、テメェらの命に何の価値がある?」


◆


 いつもの棲家。
 いつものアパートの一室。
 みんなで、テーブルを囲んでいた。
 今朝とは違う面子で集まっていた。

 遊ぶ相手は、日によって変わり続ける。
 仕事の後は色んな組み合わせで交代して、思い思いの時間を過ごす。
 ある面子は別の隠れ家で快楽に浸ったり、ある面子は外に出歩いて気ままに彷徨ったり。

 今朝の出来事を振り払うように、ローズは今日も棲家で楽しむことを選んだ。
 常に変わることのない、刺激的で閉ざされた乱痴気騒ぎだった。

 今朝から荒れたまま、掃除もされていない部屋。
 床に散乱した錠剤は未だに野晒し、横倒しになった家具は変わらず放置されている。
 そんな中でローズ達、6人の少年少女はソファに呆然と身を預けていた。

「ひひ、はは、ははははッ――――」

 注射器はとっくに放り投げていた。
 報酬のヤクを思う存分に打ち尽くしたからだ。
 新人類の肉体にも作用する、実に強烈で害悪な代物だった。
 脳髄を揺さぶられるような快楽に沈んで、少年少女達はけらけらと笑い続ける。

「いいなぁ、気分がいいなぁ、悪くねえなァ」

 歓喜のはざまに、罪悪感が割り込む。
 狂喜に歪みゆくローズの思考に、微かな正気が揺れ動く。

「クソッタレの世界、クソッタレの大人達、クソッタレの神」

 つい今朝の出来事だった。
 目を覚ましたら、エリックが駄目になっていた。
 雑誌に載るボスの写真に縋って、さんざん泣き喚いて、それから動かなくなった。
 呼吸は辛うじて続いていたが、それでも彼は事切れた死体のように横たわっていた。

 意識が朦朧としたエリックの有り様を見て、ローズは“組織の人間”を呼ぶことにした。
 そういう取り決めになっていたし、もうどうしようもないことに気付いたからだ。

「クソッタレのカネ、クソッタレのヤク、クソッタレの――」

 使い物にならなくなった子供は“所属の異動”として下部組織に回収される。
 人身売買の“商品”として売りに出されるか、ネイティブの“実験材料”を求める連中に提供されるか、適当に処分されるか。
 末路はそのいずれかである。この取り決めを誤魔化せば、組織による“罰”が与えられる。

 今回も、取り決めに従った。
 エリックはそうして回収された。
 ただ、それだけのことだった。

 次は誰だ。誰の番になる。
 そんなこと、知る由もない。
 此処に集う連中は、みんな明日を棄てている。

「ククク、クククククっ、ヒャハハハハハハッ」

 いつものことだ。いつもの日常だ。
 それが彼女達にとっての、ありふれた日々だ。
 殺して、遊んで、喪って、また殺して――。
 その果てしない繰り返しだ。
 出口を見つけた先にあるのは、闇の深淵だけ。

「――――アタシたちは“イースターズ”だ!!!」

 だからローズは、慟哭を絞り出す。
 同胞達と共に、幻想と虚妄へと飛び込む。
 その瞬間、罪の感覚は消し飛んだ。
 何もかもが、快楽と共に混濁した。

 ――なんでこうなったんだ?
 ――なにを間違えたんだ?
 そんな疑問に答えてくれる者は居ない。
 暴力に身を委ねた時点で、それを捨ててしまったのだから。

「誰にも文句は言わせねぇ、誰にも止めさせねえ!!!潰す潰す、全部ブッ潰す、潰してやるよォ、クソッタレの『アイアンハート』も、クソッタレのネイ・ローマンも!!!」

 ハイになった意識の中で、けたたましく叫び続ける。
 支離滅裂になる視界の中で、弾けるような高揚に埋没する。

「だから、だからッ、ひひひひひひ――――」

 何もかもがぐちゃぐちゃに掻き回されて、笑いが止まらなかった。
 暴れて、笑って、狂って、悦楽に浸り続ける。
 我に返って無垢を取り戻した所で、結局は苦痛と煩悶に苛まれるばかりだ。

「遊ぼう、遊ぼうぜ!!!ヤッてヤッて、ヤリまくって!!!アタシらのぜぇんぶ、神様に見せつけてやろうかァ!!!」

 ――だったら、愉しんだ方がいいだろ。
 どうせ神にも愛されてないんだから。
 祝祭(イースター)なんて、訪れないんだから。


◆


 なあ。
 見ろよ、ロイド。
 アタシ、強くなったぜ。

 誰も逆らわないし、誰にも文句を言わせない。
 “イースターズ”の名を出せば、みんなビビるんだぜ。
 アタシさ、欧州最悪のネイティブ・ギャングの一人なんだとよ。
 ネイ・ローマンと肩を並べる稀有な存在、だってさ。
 もう何も亡くさなくて済むのかなあ、って思ったのに。

 不思議だよなあ。
 強くなったのにさ。
 こんなにも天国が近いんだよ。
 なんでか自分を愛せないんだよ。
 飢えて、餓えて、仕方がねえ。

 ワケわかんねえよなぁ。
 ああ、クソッタレ。


◆

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最終更新:2025年12月11日 22:26