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※二次創作的な番外編です。




 “怪刃”――兄、レストル・ラッタンロイド。
 “怪砲”――弟、ボルクス・ラッタンロイド。

 巨大犯罪組織キングス・デイ直属の精鋭。欧州を中心に二、三十余名が名を連ねる強豪のネイティブ達――“王の子供達”の新参者である。
 共に齢17歳。双子の彼らは“ラッタンロイド兄弟”として、その悪名を知られていた。

 彼ら兄弟はバレッジ・ファミリーの息が掛かっているギャング集団を殲滅した功績により、つい先日に列席を認められた“新入り”だ。
 キングス・デイとバレッジ・ファミリーは表向きでは休戦状態ではあるのだが、仏伊の国境付近を中心に末端同士の争いは散発的に起きている――“チンピラ集団の揉め事”という暗黙の建前で。

 兄レストルの“不可視・不定形の刃を自在に操る超力”は、極めて不条理な軌道の斬撃によってあらゆる物質を切り裂く。
 弟ボルクスの“指先から超高速のエネルギー弾を射出する超力”は、その凄まじい衝撃と熱量によって巨砲に等しい破壊力を発揮する。

 仏伊国境の抗争において、ラッタンロイド兄弟はその恐るべき超力によって猛威を振るった。
 屋内や壁面の裏側――全く別々の位置に身を隠していたギャング達が、ほぼ同時に四肢を切断された。
 遠方から応援に駆けつけたギャング達が、超高速で放たれた砲撃によって肉片すら残さず消し飛ばされた。

 たった二人でギャング集団を殲滅したラッタンロイド兄弟――その脅威はキングス・デイの下部組織から高く評価された。
 やがて兄弟は下部組織からの推薦を受け、キングス・デイ幹部からのお墨付きを得て“有望株の新参”として“王の子供達”に加わったのだ。


「――――つッッまんねえなァァァァ!!!!!」


 弟ボルクスはいま、血反吐をぶち撒けながら地面に蹲っていた。
 その腹部に靴の爪先を何度も叩き込まれて、成す術もなく転がされている。

「こんなモンかよッ!!!ラッタンロイド兄弟!!!」

 そこは、豪勢なホテルを思わせる“高級娼館”のエントランス。
 数多の家具や内装が激戦によって破壊され、巻き込まれたスタッフや娼婦の死体が床に転がっている。
 ――蹲るボルクスは幾度も蹴られて、受付のカウンターにその身を叩きつけられる。

「何逃げようとしてんだよ三下かァ!!?
 お前らチンピラかよもっと楽しめよォ!!!
 拍子抜けだよホントにさァァーーーッ!!!」

 その相手は、中性的な風貌の少女だった。
 弟ボルクスを幾度も蹴り飛ばして、獰猛な笑みを浮かべながら吼えていた。 

「がっかりッ!!!させんなよッ!!!
 楽しくないじゃん!!?私がさあ!!!
 もっと粘れよなあッ!!?ねえッ!!!
 見せろよ!!!根性!!!ってヤツ!!!」

 這いずりながら必死に逃げようとする弟ボルクス。
 そんな彼の頭を右足の靴底でガッと踏みつけて、少女は荒々しく捲し立てる。

 悶え苦しむボルクスを見下ろしてから――少女は勢いよく足を振り上げる。
 伏せるボルクスへと爪先を叩き込んで、その身をボールのように蹴り飛ばしたのだ。


「キシシシシシッ――――!!!」


 その少女は、獰猛だった。
 その少女は、戦闘狂だった。
 ――――“狂犬”、内藤 四葉である。

 ただの腕試し感覚で兄弟の縄張りへと踏み込み、彼らへと襲撃を仕掛けたのだ。
 その理不尽なる暴力を行使して、四葉は兄弟を追い込んだのである。

「このッ、アマがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 蹴り飛ばされた弟ボルクスと入れ替わるように、重傷の兄レストルが四葉の視界の端から叫んだ。
 そして――――周囲一帯の壁面や床が、突如として次々に引き裂かれていく。
 不可視・不定形の刃を自由自在に操る超力。レストルは無数の鎌鼬を発生させ、四葉へと向けて殺到させたのだ。

 あらゆるものを断ち切る凶刃が、激しい勢いと共に迫る中。
 四葉はニィと笑みを浮かべて、兄レストルをその眼で捉える。
 獲物を見つけたか獣のような表情を前にして、レストルは思わず怯み――――。


「遊ぼうぜぇ。お兄ちゃん」


 そして、四葉の周囲に“甲冑の騎士達”が出現する。
 彼らは縦横無尽に武具を振るい、迫り来る不可視の刃を全て凌ぎ切った。
 ――――“quatre chevalier(四人の騎士)”。4体の甲冑騎士を使役する、四葉の超力である。

 自らの超力が凌がれる様を目の当たりにし、レストルが目を見開いた直後。
 瞬きの間に、その視界が影に覆われる。
 四葉が地を蹴り、一瞬で距離を詰めてきたのだ。

 その凄まじい瞬発力に対し、防御も回避も間に合わず。
 レストルの顔面に、突進する四葉の膝蹴りが叩き込まれた。




 とあるスラムの酒場。
 埃の匂いが漂う木造の内装。仄暗い照明しか灯されていない店内は、窓から射す陽の光によって照らされている。
 店内に並べられた複数のテーブル席には、“ならず者”達が雁首を揃えて座っている。
 ある者達はポーカーでの博打に勤しみ、ある者達は犯罪自慢で盛り上がり――。
 その如何わしさも相俟って、どこか西部劇のサルーンのような雰囲気を漂わせていた。

 そんな酒場の奥のカウンター席に、一人の男が腰掛けていた。
 長い黒髪を束ねた男は誰ともつるまず、端の席で黙々と炭酸水を飲んでいる。
 男は酒の一滴も頼まず、堂々とグラスを片手に鎮座していた。

 やがて男は僅かに視線を動かし、カウンター席へと座った“もう一人の客”を見る。
 自分から見て“二席飛ばしの位置”に座っていたのは、中性的な外見の少女だった。
 カウンターに座るのは、男と少女だけだった。少女はわざわざ男と距離を取って腰掛けていた。

「コーラ、コーラ!プリーズ!」

 少女は不慣れな片言の英語を話しながら、恥ずかしげもなく身ぶり手ぶりで意思疎通を図る。
 怪訝そうな表情を浮かべるカウンター越しの店主は、いかにも嫌々そうな態度で瓶詰めのコーラを差し出した。

「オーケーオーケー!」

 親指を突き立ててグッドサイン。
 人懐っこい態度で振る舞う少女だったが、やがて端の席へと座る男へと視線を向ける。

「――おにーさん!久しぶりぃ!」

 少女――――内藤 四葉は、ニカッと笑った。
 先ほどまでの英語とは違い、母語の日本語で喋っている。
 片手を上げて気さくに挨拶する四葉に対し、男はやれやれと言った態度を見せる。

「相変わらず下手だな。お前の英語」
「おにーさんは上手だよね。日本語」
「どういう訳だかな」

 そう答える男はアジア系の顔立ちだったが、己が何処の国で生まれ育ったのかも覚えていなかった。
 彼は“出自の記憶”を忘却して久しい――“常に十全の精神状態を保ち続ける超力”の効果によって、過去の残滓は不要であると切り捨てられたからだ。
 今の彼は死闘に明け暮れる修羅の武人である。闘争こそが我が道であると定めた瞬間から、在りし日の記憶は無用の長物でしかなくなった。

「それと言っておくが」
「んー?」 
「“無銘”だ。今の俺はその名で通してる」
「ムメー?」

 その男は改めて、自らをそう名乗る。
 名も無き者、過去を失った男。
 故に“無銘”――彼は己をそのように規定する。

「変なの」
「他に良い呼び名が浮かばなかったんでな」
「タローとかはどう?」
「自分の飼い犬にでも付けてやれ」

 そんな無銘に対し、四葉は相変わらず緩い態度を崩さず。
 何処か間の抜けた遣り取りを交わした後、やがて四葉がふいに話を切り出した。

「こないだラッタンロイド兄弟ぶっ潰したんだけど」
「いきなりだな。“牧師”の縄張りを荒らしたのか?」
「そゆこと。弱くは無かったけどさぁ、なんかちげーってなった。
 私に負けそうになったらビビって逃げようとしたんだよ?マジありえねーわ」

 そう言いながら四葉は、憂さ晴らしのようにコーラ瓶をくぴくぴと飲む。
 ほんの数日前、四葉は“キングス・デイ”の縄張りに踏み込んだ。
 そのまま腕試し感覚でラッタンロイド兄弟へと強襲を仕掛け、彼らを戦闘の末に殺害したのである。

「“王の子供達”、こんなんかよって感じ」
「奴らは新参者と聞いてる。獄中の“牧師”を通さずに名を連ねた連中は、幾らか質が落ちるそうだ」
「なぁんだ。あいつら狙ってがっかりだわ」

 そんな四葉の言動からは、露骨な不満が滲み出ている。
 丁度いい遊び相手を求めていた彼女にとって、かの兄弟は“期待外れ”だった。

 そもそも“王の子供達”は単純な戦闘力以上に組織への貢献や実績、あるいは超力の潜在性で選ばれる。
 彼らの実力にバラつきがあるのは当然のことだった。

「ま……つまんねーってなって、そのへんほっつき歩いてたんだけどさあ。
 そしたら“近場に変な喧嘩士がいる”って噂?聞いて?英語でよくわかんなかったけど。
 なんとなく思い当たるフシあって、探してみたら――」

 不満げな表情でぼやいていた四葉だったが、次第にニヤッとご機嫌な笑みへと変わっていく。
 そうして四葉は、無銘をビシッと指差した。

「おにーさんがいたってワケ」
「無銘だ。おにーさんはやめろ」
「むめーさん」
「間を取ったみたいな言い方だな」

 やれやれと、再び呆れたようにぼやく無銘。
 四葉とは以前も遭遇したことがある。奔放で気まぐれな野犬だった。
 久しぶりの再会ではあったが、出会った当初とまるで変わらない馴れ馴れしさである。

 そう、変わらない。
 ――――“あの時”と全く変わらないのだ。
 無銘はそのことを、確信するように悟る。


 そして、その瞬間。
 二人の会話が、唐突に断ち切られる。


 沈黙。酒場の喧騒に、呼吸が沈む。
 視線が交錯し、その眼差しが絡み合う。
 警戒。敵意。闘志――――。
 互いの瞳孔の奥底に、意思が籠る。

 かちり、かちり、かちり。
 喧騒の間で、時計の針が静かに動く。
 かちり、かちり、かちり。
 壁に掛けられた古時計が、時を刻む。
 かちり、かちり、かちり。
 短針が進むたびに、緊迫が高まる。


「で、聞かせて貰いたいのだが――――」


 やがて無銘が、口を開いた。
 まるで火蓋を切るかのように。



「――――なぜ“二席開けて”座った?」
「そっちのが間合い取りやすいから」



 四葉が椅子から降りた、その瞬間。
 彼女の傍から姿を現すように、白銀の甲冑が躍り出た。
 長剣を振るう“ランスロット”が、鋭利な刀身で無銘の頭部をかち割るべく迫った。

 振り下ろされる長剣がその脳天を捉える寸前――無銘の姿が消え、刃は虚空を切る。
 無銘は瞬時に仰向けの姿勢となり、椅子から床へと滑り落ちるように斬撃を回避。
 そのままスライディングの状態からバネのように身体を跳ね上がらせ、二席分の間合いを瞬時に詰めた。


「やはり、そういうことだろうと思った」
「キシシシッ――話が早いねぇ、無銘さん」


 手刀の構えを取った無銘の指先が、四葉の首筋へと突きつけられる。
 ほぼ同時に、長槍と斧槍をそれぞれ構えた二体の甲冑が無銘へと切っ先を向ける。
 冷静沈着な眼差しと、獰猛なる笑み。それぞれ対照的な表情を張り付けながら、滾る闘志によって通じ合う。

 ラッタンロイド兄弟は期待外れだった。
 故に四葉は“口直しの相手”を求めていた。
 そんな矢先に、無銘がいるという噂を聞きつけた。
 極上の獲物に、食い付かない筈が無かったのだ。

 そして、二人は同時に動き出した。
 死闘の火蓋を切った――――のではない。
 突如として酒場に響き渡ったのは、銃声の嵐。
 テーブル席に座っていたならず者達が拳銃を取り出し、四葉と無銘へ向けて銃弾を次々に放ったのだ。

 四葉は咄嗟に甲冑達を盾にし、その斬撃で銃弾の雨を弾いていく。
 無銘もすぐさま甲冑達の後方へと滑り込み、彼らを壁にして銃弾を遮る。

「無銘さーん!!うちの子たち盾にしないでよねぇ!?」
「一番手っ取り早かったんでな。おかげで助かった」

 文句を吐く四葉に対し、無銘は何てこともなしに飄々と返す。
 へハッと四葉は苦笑するような表情を浮かべつつ、銃弾を放ったならず者達へと無銘と共に視線を向ける。
 馬鹿野郎ども、俺まで蜂の巣にする気か――とカウンターの下に隠れた店主が悪態をついていた。

「無銘さんさぁ、誰かに恨まれるような覚えとかってある?」
「色々と修羅場は越えてきたんでな。恨みは買ってるかもしれんし、首に賞金くらいは懸けられてるかもしれん」
「奇遇だね。私も一緒だわ」

 恐らくは“超力による戦闘”を始めたことで、自分達が何者であるのかに気付いたのだろうと。
 四葉と無銘は互いに理解しつつ、眼前のならず者達を見据えた。

 彼らの殆どは“西部劇の荒くれ共”のように、その手に拳銃を握り締めていた。
 いかに開闢以後の新人類と言えど、大口径の火器による銃撃は十分な脅威となる。
 数多の銃口が野犬二人へと向けられる。凶暴なる殺意が、鉄の風穴を通して突きつけられる。

 されど四葉も無銘も、悠々とその場に立ち続けている。
 無数の敵意を目の当たりにしてもなお、彼らの佇まいからは余裕が滲み出ている。
 やがて二人はほんの一瞬、視線を交錯させて――互いの意思を確認した。


「――――潰すか」
「――――同感だ」


 二人の戦闘狂は、傲岸に笑った。
 そして、再び襲い来る弾丸を前にして。
 床を勢いよく蹴り、同時に駆け出した。




 夕焼けの光が差す、スラムの路地裏。
 廃材や塵が転がる、場末の通り道。
 まるで町の影に溶け込むように。
 二人の戦闘狂が、悠々と走り抜けていく。

「弱っええなぁぁ〜〜〜〜!!なんなのアイツら?あんなんで犯罪自慢とかしてたのかよぅ」
「弱い犬ほどよく吠えるという奴だ。所詮は三下の集まりだったな」

 拍子抜けと言わんばかりの態度で、四葉はぶうたれていた。
 そんな四葉の隣で、無銘は淡々と同意の言葉を述べる。
 掛け合いをする二人の身体には、傷一つ刻まれていなかった。

 酒場での交戦は、もはや一方的な蹂躙に等しかった。
 甲冑騎士達が銃弾を弾きながら、四葉がならず者達を次々に叩きのめした。
 臆しながら銃を構える三下共を、無銘が柔術によって次々に沈めていった。
 場数が違う。練度が違う。悪童としての格がまるで違う。

 そうして二人は酒場の襲撃を制し、騒ぎが大きくなる前にせっせと逃げ果せたのである。
 これ以上は追っ手が来るかもしれない。雑魚どもを相手にいつまでも遊ぶのは気が乗らなかった。

「どーする?この後やり合う?」
「いや、今は気が乗らん」
「えー。やろうよぉ無銘さーん」

 二人は路地裏の道を駆けながら、そんな遣り取りを交わす。
 四葉からすれば不完全燃焼もいいところ。このまま是非とも無銘と一戦を始めたい所だったが。

「俺はそれより腹が減った。腹が減っては戦はできぬ、だろう?」

 無銘からそんなことを言われて、四葉はきょとんとした顔になる。
 それから四葉は、自分の胃袋へと問い合わせる――ぐぅぅ、と答えが返ってきた。

「ま、それも確かに」

 腹を空かせているのは同感だった。
 故に四葉は“休戦協定”を承諾。
 今は腹ごしらえを優先することにした。

「ねえ無銘さん、メシ食えるとこ知ってる?」
「生憎だが知らん。成り行き任せだ」
「いい加減だなぁ。てか何食いたい?」
「当然、肉しかないだろう」
「だよね!肉!肉!」

 気楽な遣り取りを交わしながら、野良犬達は気まぐれに駆け抜けていく。
 背負う悪徳も、彼らにとっては何処吹く風だった。
 ただ己が欲望に従い、己が渇望のままに生き続ける――最期の時まで。
 彼らは紛れもなく悪童だった。


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最終更新:2026年03月31日 23:17