「ほんと、アビスって色んな人が集まってて面白いわよねー」
「ねー。噂話が多くてとっても楽しいわ」
周囲をきょろきょろと覗き込むジェスチャーをするビオラと、耳に手を当てて聞き耳を立てるフィーネ。
非番の彼女たちは、ゴスロリ衣装に身を包み、アビスの中を自由に散策していた。
5km先まで視認できるビオラと、3km以内の音を正確に聞き分けられるフィーネは、
アビス内の監視役を兼ねつつ、趣味の情報収集に超力をフル活用している。
主に後者がメインだ。
「囚人もそうだけど、看守たちも個性派揃いよね」
「うんうん、特徴的な人ばっかりで飽きないわ」
どこかの因習村のような振る舞いのフォンテーヌ姉妹もかなり目立つが、
看守の中でも特に我が強く、狂犬のような男がいた。
◇
「これでよし」
彼の名は壮馬 誠二
鏡に映る自分の姿を確認し、満足げに頷いた。
私生活の乱れは秩序の乱れの始まり――。
それを信条に、彼はいつも身なりや生活をきちんと整えるよう心がけていた。
「オラァ、家畜がぁ!!躾の時間だぁっ!!」
今日も彼は、違反を犯した囚人に容赦なく鞭を振るい、痛めつけた。
秩序と理性を何よりも重んじる彼は、無法者に対して誰よりも苛烈だった。
サドな人間性を剥き出しにし、囚人たちを頻繁に嬲るように罰していた。
誠二に痛めつけられた囚人は、全身痣だらけになってようやく解放される。
周囲からは「やり過ぎだ」と咎める声も上がっていたが
「あいつらは獣だ。口で言っても理解できねえなら、体で教えてやるしかねえんだよ」
そう言って彼は決して態度を改めなかった。
特に女性囚人に対しては容赦がなかった。
ある時、頻繁に他の囚人と喧嘩を繰り返していたスプリング・ローズを、全身血塗れになるまで鞭で打ち据えたことがあった。
「はっ……!そんなもんかよ!お前の鞭なんて全然大したことねえな!」
「……このクソガキがぁぁ!!大人に向かって舐めた口ききやがってぇ!!」
何度鞭を振るっても、ローズは笑いながら誠二を睨みつけ、挑発するのをやめなかった。
見下されていると感じた誠二の怒りは頂点に達し、再び鞭を振り上げようとしたその瞬間——
マーガレット・ステイン看守が現れ、それ以上の暴行は辛うじて阻止された。
また、ルクレツィア・ファルネーゼを痛めつけていた時も、彼女は涼しい顔で誠二を「調教師として二流、三流」と嘲り、彼を激怒させた。
その様子は複数の看守に目撃されている。
「あの時の誠二の姿はお笑いでしたわね」
「顔が真っ赤になって、タコみたいだったわ」
双子は当時の様子を思い出して、くすくすと笑い合っていた。
もし誠二がこの会話を聞いていたら、きっと雷が落ちていたことだろう。
◇
彼がこのような性格になったのは、今から10年近く前に遡る。
厳格な父親のもとで厳しく躾けられた誠二は、怠惰を何より嫌い、常に自分を律する人間に育った。
一方で、母と妹に対しては極端に甘く、一切叱ることなく自由奔放に育てていた。
十分な自由を与えられなかった誠二の不満は、じわじわと膨らんでいった。
やがて母と妹も、口を開けば誠二に金をせびるわがままな性格になっていった。
ある日、母が大学の費用を勝手に着服しようとしたことがきっかけで、彼の怒りは爆発した。
誠二はまず、自分の家族を躾け直すことから始めた。
ここから彼は女性差別主義者へと変わっていった。
「男に躾けられることで、女は家畜から人間になれる」そう信じるようになった彼にとって、女を躾ける義務を放棄した父親も同罪だった。
結局、父親も教育対象に含められた。
誠二の暴力による恐怖政治は、家庭内から日本の刑務所へと広がっていった。
彼の内に秘められた凶暴性が具現化されたかのような超力で「家畜」と呼ぶ者たちを次々と調教していった。
暴力団の組長の息子であろうと、規律を乱す囚人には容赦しない。
半殺しになるまで痛めつけた。
ある日、囚人を躾けている最中に一人、死なせてしまった。
その経緯もあって、彼は『アビス』の看守という役割を与えられることになる。
その事件について彼はこう語った。
「ああ、それですか。あれは不幸な事故ですね。もし本当に殺す気だったら俺の鞭は刃になってるはずですよ。
大体、日本は加害者に甘すぎる。だから犯罪者が付け上がるんです」
等の発言をしており、一切反省は見られなかった。
◇
「誠二って頻繁に女性を見下すわよね」
「私達にも酷いことしようとして、おー怖い怖い」
過去にビオラとフィーネは誠二の制服のポケットにカエルの玩具を仕込んだことがあった。
彼女達の超力で得た情報で誠二がカエル嫌いなのを知ったからである。
案の定、逆鱗に触れた双子は追い回される結果となった。
「どうやら、君達フォンテーヌ姉妹にも教育が必要な様だなぁ」
「「あわあわあわ……」」
涙目で震える姉妹に鞭を持ちながらニッコリとした笑顔で近づく誠二。
下手に怒ってるよりも恐ろしい笑顔だった。
「あの……ちょっとした悪戯なんですし、そこまでにしてあげた方が……」
「「まことお姉ちゃ〜ん!!」」
「お、お姉ちゃん……」
高峯 真が二人を庇いフォンテーヌ姉妹は真の後ろに回って隠れる。
真は年下の子にお姉ちゃん呼びされるのに弱かった。
「高峯くん。子供を躾けるのは大人の義務なんだ。分かったらさっさとどけてくれないかなぁ?」
「二人とも怯えて可哀想ですよ」
「丁寧に言っても分からない馬鹿おん「HAHAHA!!どうしたんだい君達?」
豪快に笑いながら話を遮ったのは制服の上からでも主張の激しいムキムキの肉体を誇るカーネル・アンダーソンだった。
彼は事情を聞くと、カーネルは紳士的な振る舞いでフォンテーヌ姉妹を庇い、誠二を説得しだす。
「誠二くん、ここは僕に免じて許してあげてくれないかい?」
「横槍入れないでくれませんかぁ?アンダーソン看守部長どのぉ。まぁ、貴方がそこまで言うならこっちも引きましょう」
「HAHAHA!感謝するよ!」
このように誠二の躾けの矛先は看守に向くこともあった。
ある日「お前にも甘い汁吸わせてやる」とルーサー・キングの狗になるよう勧めた看守を半殺しにした。
秩序と理性を何よりも重んじる誠二が反社に媚を売るなど、許されるはずが無く
同僚も彼の教育の犠牲となった。
なお、この時の誠二はキングス・デイを憎むあまり、ルーサーキングに対して人種差別的な言動をしたので
その件に関しての描写はカットとする。
「コンプラは守らないと駄目よねー」
「今のご時世は色々うるさいもんねー」
反社達に従う看守達も多い中、彼は絶対になびくことはない。
凶暴な狼はどんな餌をぶら下げた所で飼い慣らすことなど出来ない。
彼もまたアビスの住人なのである。
最終更新:2026年05月16日 21:59