第10回トーナメント:予選①




No.4932
【スタンド名】
ワイドスプレッド・パニック
【本体】
イーヴァ・アダムス

【能力】
本体が驚かした生物の肝を一つ潰す


No.6552
【スタンド名】
エロティカル・クリティカル
【本体】
クリームヒルド・ブライトクロイツ

【能力】
自分が投擲した物を絶対に命中させる




ワイドスプレッド・パニック vs エロティカル・クリティカル

【STAGE:美術館】◆UmpQiG/LSs





日本。大阪。平凡な平日の昼下がり。
二人の人影がたこ焼屋の前に立っている。

「にーちゃん!たこ焼ソースマヨで一船ちょーだい!」

「あいよー!ソースマヨ一丁ー!アリャース」

と言いつつたこ焼屋の店員は少女の姿に違和感を覚える。
歳の頃なら14~17歳。ブロンドのボブカットに碧眼。整った顔立ち。
これだけならただのモデル級の可愛い外国人少女であったが、そのファッションに驚く。
肩を大胆に出したドレスの様なレザーの上に、これまたレザーのミニスカートを履いて膝迄あるロングブーツを履いている。
そしてその傍らにいる同じく黒づくめの男がより一層その違和感を倍増させていた。

「オマタセシャッシター!ソースマヨアリャース!300円ッスー」

少女、『イーヴァ・アダムス』はたこ焼を受け取るとこれでもかと言わんばかりの笑顔を浮かべ
パラソルが差してあるテーブルにつき揉み手をしながらたこ焼を見詰める。

イーヴァ
「やっぱ日本にきたらこれやねー♪アメリカにも冷凍モンあるけど
本場を焼きたてで食うのとは訳がちゃうもんなー♪」

イーヴァは湯気の上がるたこ焼を爪楊枝で突き刺し、
その小さな口を精一杯あけて一口で頬張る。

はふ はふ ほっ ほっ あち あちっ

んきー っ ほっ はふ ははふふ

小さな手を口に当て涙を滲ませながら歓喜の声をあげる。

イーヴァ
「んひーっ!メッチャうまいっ!!これはたまらんわ!!
中の蕩け具合いもサイコーやで!!」

そう言うとたこ焼屋の店員に親指を立て突き出しウインクをした。
店員は少女のあまりのテンションについていけず、
取り敢えずの笑顔を浮かべながらペコペコと頭を下げて照れ笑いをする。
イーヴァは8個入りのたこ焼の最後の1つを名残おしそうに頬張り、チラリとツレの男を見た。

イーヴァ
「で?今朝届いたって手紙はなんやったん?依頼か何か?」

今迄そこにいた『無邪気でおかしな外国人少女』は消え
冷たく鋭い目付きのアサシンがそこにいた。

イーヴァ・アダムス。年齢不明。
世界的な財閥である『SPW財団』のお抱え暗殺者の1人。
その中でも『執行部門』と言うもっとも実践的な部隊に所属しチーム内でも1番の戦績を誇る。
つまる所暗殺者であり殺人者である。

黒服男
「・・・・・・トーナメントの招待状のようです」

黒服は何か思う所があるのか重々しく返答をした。

それを見たイーヴァは眉を上げ好奇心に満ちた目で差し出された封筒を見る。

イーヴァ
「へえ~?これが噂に名高いトーナメントの招待状なんや?
ふふん~♪これはウチにもチャンスが回ってきたちゅー事やな?」

黒服の男はその問に答えずサングラス越しにイーヴァを見詰めた。

イーヴァ
「なんや?心配でもしとるんか?ウチが負けるハズあらへんやろ?
何人殺ってきたおもとるんや?」

イーヴァは冷酷さと悲しみが入り雑じった様な表情を浮かべながら
黒服の男の肩をポンポンと叩き席を立つ。
黒服は黙ったままイーヴァの後ろにつく。

イーヴァ
「にーちゃんごっそさん!ホンマにうまかったでーおおきに!」

ワザワザ店員の側まで行き屈託の無い笑顔で笑う。

イーヴァ
「あ!そや!これうまいたこ焼食わしてくれたお礼や♪」

そう言うとイーヴァはその短いスカートを捲り上げ下着を露にする。
それを見た店員はあまりの突拍子のない行動に驚き
まるで石像のように固まった。とんでもなくマヌケな表情をした石像の様に。
イーヴァはケタケタと笑い片手をヒラヒラと振りながらその場所を後にした。

イーヴァ
「(にーちゃん。にーちゃんがターゲットやったら今頃たこ焼が真っ赤なっとるで?)」

イーヴァは一瞬ニヤリとした後、元の笑顔に戻りてくてくと歩き出した。

イーヴァ
「さて・・・ほんならいきますかー」


その日彼女「クリームヒルド・ブライトクロイツ」は国立の大きな図書館に来ていた。
都市部から遠く離れた田舎に住んでいる彼女にとって
この月1回程度しかこれない図書館は何よりの楽しみであった。

豪華な彫刻の施された石製の立派な門を抜け静かな館内に入る。
例え難い本のすえた匂いが鼻腔を擽り、クリームヒルドはそれを胸一杯に吸い込む。

「ん~~・・・いい匂い・・・」

まるで大草原で心地良い風を浴びいるかの様な満足げな表情を浮かべてから
コツコツと足音を響か館内を奥へと進む。
平日の午前中と言うのもあり、館内は静まり返っている。
時々聞こえる咳払いや外で鳴く鳥の声も静かさを強調するスパイスのように感じる。
クリームヒルドは一通り新作コーナーを流し見した後、心理学の本がずらりとならぶ本棚へ移動する。
心理学。彼女はそれを専攻して学んだ訳でもなく、またその知識で何かをしたい訳でもない。
ただ今の彼女にとっては1番興味を唆る分野であり、楽しくてたまらないのだ。

じっくり吟味し歩き回り、やがて彼女は一冊の本を手に取りその表紙を開いた。

その瞬間─。世界は静止する。

あらゆる物体はその動きを止め、全ての音は聞こえない。
世界そのものの色も失われ灰色に浸食されていく。

その止まった世界の中で彼女の眼球だけがゆっくりと文字を追いかけて行く。
眼球と脳が連携し本に書かれた文章を一字一句余す事なく読み取り理解していく。

「おっと・・・・・・またやってしまったかな?」

我に返ったクリームヒルドは自分の病気とも言えるであろう悪癖の発作に気付いた。
再び動き出した時間は3時間程経過しており、
そしてクリームヒルド自身の体や周囲も変化していた。
床に落ちた数冊の本。着ていた服は肩迄ずれ、右頬にジンジンとした軽い痛みがある。散乱する自分のバッグの中身。
人差し指を顎に置き斜め上の空間を見ながら暫し考える。

「ふ~む・・・?邪魔だと感じた誰かが私に声をかけたが反応がなく
無視されたと思いつっかかって来て、それでも反応が無かったのでビンタして帰った。・・・そんなトコかな?」

クリームヒルドは散乱したバッグの中身や本を片付けながら呟く。

「う~ん・・・治んないなーこの癖・・・」

困った様な笑顔を浮かべ頭を掻く。
粗方片付いた中でクリームヒルドは見慣れない封筒を手にした。

「んう?なんだ?コレ?私ンじゃないぞ?」

訝しげに眺め裏を返すと自分の名前が書かれていた。
そして封には赤い蝋の紋が使われており「T 」の文字が浮かび上がっている。
それを目にしたクリームヒルドはハッと思い出す。

「これがアレか・・・・・・っ」

目をキラキラと輝かせ足早に図書館を後にする。
図書館を出る迄に3人とぶつかり、内2人に怒鳴られたが彼女の耳には届かなった。

「面白くなってきたぁ!!」

夕暮れの人波の中そう叫び家路へとついた。


1:45am─。
ライトアップされ周囲の景観と見事にマッチした
古代ローマ風の建築方式が適用された美術館にイーヴァは到着した。

イーヴァ
「へぇー!ここもええなぁー!こんな建物やのに見事にジャパンと調和してる。
ホンマ日本人のこう言うセンスってのは感心するわ~」

イーヴァは目を丸くし夢見る乙女の様に美術館を眺める。
その傍らで黒服の男は少女を見守っていた。

黒服
「・・・そろそろ時間です。」

イーヴァ
「うん。そやな。行ってくるわ。先ずは軽く1回戦越えんとな」

黒服
「ご武運を」

黒服は右手を腹に当て軽く頭を下げた。

その頃。
美術館の正面入口とは真逆に位置する南出入り口にクリームヒルドも到着した。

クリームヒルド
「真夜中貸切ミュージアム。か。これならボーっとしていても
誰にも迷惑かからないだろうな・・・」

そんな事を思いながら美術館の中に足を踏み入れる。

2:00am
秒針が12を指したその瞬間周囲の空気が変わった。
広い美術館の中でもお互いに伝わる緊張感。存在感。そして殺気にも似た闘争心。いや、それは殺気そのものである可能性もある。

トーナメント。
その存在は都市伝説の様にスタンド使いの間で囁かれ
実際に体験したのはほんの人握りの人間だけだと噂される。
それ故に「バトル」である事以外は知らされず
その「バトル」がどういうモノか解らずに参加する事になる。
ただ勝ち負けを競うのか?
それとも命のやり取りをするのか?
もしくは─?

そんな曖昧な中で戦う事になる参加者は鋼の様な精神力も持っていなければ戦えない。
その鋼の精神力こそが『スタンドバトル』の勝敗を左右するのだから。

先に相手を察知したのはイーヴァの方であった。
至極当然の結果である。
彼女は暗殺者であり闇に生きる側の人間なのだから。
もしも先に見つけられ様モノなら彼女は廃業であろう。

イーヴァ
「女。小柄。長い髪。白衣?いやそれに近い薄手のコート。
そしてそれに何かを大量忍ばせている。ナイフ?」

ターゲットを視認し細かく分析を開始する。

イーヴァ
「歩き方・・・。普段はインドア派か。体のブレ方から右利き。」

経験と計算でターゲットを丸裸にして行くイーヴァであったが何か腑に落ちない。
その違和感はすぐに答えとなって出てきた。

イーヴァ
「なんだコイツは・・・無防備過ぎる。馬鹿なの?
いや、獲物を用意してる辺りちゃんと考えてはいるだろう。
ではスタンド能力?遠距離全てに対応出来ると考えてるのか?」

経験故の勘が思考の混乱を招く。相手が殺しのターゲットなら
そのまま殺ればいい。何も解らずに命を落とす者も少なくない。
しかし「戦う前提」でこの場所に来ている者が、しかもスタンド使いがそんなヘマをするだろうか?

イーヴァ
「私のスタンド─『ワイドスプレッド・パニック』なら!」

ワイドスプレッド・パニック。
「驚かした相手の肝を潰す」
つまり脅かす事さえ出来ればその度合いによって相手の臓器のどれかを破壊出来る。
真夜中の静まり返った美術館。こんなに相性のいい状況は他にないであろう。

イーヴァ
「いける。」

そう心の中で呟くと勝ちを確信した攻撃に打って出た。


イーヴァは遠距離型のスタンド持ちであったが敢えて近距離で勝負した。
それは一撃必殺の「驚き」を与える為と相手が遠距離であった時の対処の為である。
そして何よりそれを可能にする身体能力と経験を有してたからだ。

闇に紛れ展示物に紛れクリームヒルドの背後に接近する。
そして十分な一撃をお見舞い出来る距離までくると大声をあげ
案山子の様な姿をしたスタンド『ワイドスプレッド・パニック』と共に
クリームヒルドの延髄目掛け手刀を放つ。

イーヴァ
「せりゃーーーーーっ!!!!!!」

ドゥグッっ!

鈍い音がしクリームヒルドの小さな体が吹っ飛びツルツルの美術館の床を滑って行く。

イーヴァは勝ちを確信しつつも警戒は怠らず距離を取る為後ろに飛んだ。
その瞬間前方から小さな影が飛来し足に突き刺さった。

イーヴァ
「な、な・・・にィ・・・?」

転がる様に物陰に隠れて痛む足を確認する。
ナイフと想定していた例のエモノはナイフのそれとは違う刃をしている。

イーヴァ
「・・・KUNAI・・・?」

苦無。手裏剣の1種であるあの苦無だ。

クリームヒルド
「イテテテテ・・・・・・」

廊下の向こうで倒したはずの相手が立ち上がる。
(バカな・・・
攻撃力が高くないワイドスプレッド・パニックの手刀が効かなかった・・・
それは普通に考えるられる。
だけど能力が効かなかった?それは考えられない!
あの状況で驚かない人間なんているの?!)
能力がレジストされた上に、あの一瞬で反撃されしかも足を奪われた。
イーヴァにとっては絶望的とも言える程のショックであった。

クリームヒルド
「う~ん・・・『悪癖』を逆利用して『戦闘に集中』してたけどダメだなこりゃ」

クリームヒルドの悪癖。図書館で見せたあの行動である。
何かに集中すると周りが全く見えなくなり、外界の全てのモノから自分が隔離される。
それを戦闘に利用しようとしたのだった。

クリームヒルド
「いや~、反応出来ると思ったんだけどなぁ~。殴られてから反応しちゃ遅いよねぇ~」

そう言う彼女であったが彼女の無意識ではちゃんと反応していた。
故に延髄への一撃を最小限に止め反撃の苦無も放つ事が出来た。
しかしそれすらも記憶として残らない程集中していたのだった。


クリームヒルド
「改めてはじめまして。
クリームヒルド・ブライトクロイツです。
長いのでクリームと呼んでくれていーです。如何にもドイツ人っぽい名前でしょう?
そう。ドイツ人なんです。
スタンド名は『エロティカル・クリティカル』。能力は投げたモノを必ず当てる。です。」

そう言うとクリームヒルドは頭部に大きな穴の空いた人型のスタンドを出現させ
白衣の様なスプリングコートから苦無を1本抜き出す。

クリームヒルド
「つまりこう言う事です。」

軽くスナップを効かせイーヴァの隠れた方向に苦無を投げた。

イーヴァ
「くっ・・・っ!!!」

闇に紛れて話を聞いていたイーヴァに2本目の苦無が突き刺さる。
離れた所から真っ直ぐ飛んでくればスタンドで弾く事も可能だったかも知れないが
今、この状況において障害物を回避し暗闇から襲い来る苦無をかわす事は出来ない。

クリームヒルド
「さて。どうしましょう?私は勝てればいいです。
勿論人殺しなんてしたくありません。
負けを認めてくれませんかねぇ~?」

クリームヒルドは苦無を撫でながら対戦相手に問いかける。

クリームヒルド
「あ~、ちなみに何故クナイかと言うと当たるのなら刺さる方がいいって考えです。」

聞かれてもいない事を説明するクリームヒルド。
彼女は既に勝つ・・・いや勝ったと思い込んでいた。
そんな心の余裕が彼女をベラベラと喋らせている。

クリームヒルド
「・・・う~ん・・・困りましたねダンマリですか~?じゃあ・・・
もう1、2本いきます~?」

そう言って投げた苦無は手を離れた瞬間に踵を返す様に後方へと飛んだ。

クリームヒルド
「えっ!?!?!?!?」

彼女は驚いた。「自動で当たる能力」故に思いがけない動きをした苦無に『びっくりした』のである。
その瞬間、まるで内蔵を抉り取られた様な痛みが走り大量の血を吐いた。

クリームヒルド
「ぐへっ・・・かはっ・・・ぐえっ!」

イーヴァ
「慢心は命取りよ」

いつの間にか背後に回り、クリームヒルドの首に苦無を突き付けたイーヴァもまたその吐血に驚く。

イーヴァ
「(さっきは効かなかったのに今度は効いたの??
どうなってるのかわからない・・・でもこれでチェックメイ・・・)」

ザクッ

イーヴァにとっては後数秒。ほんの1、2秒早ければ勝利は確定していたかも知れない。

『必ず当たる苦無』が投擲される前であれば。

苦無は腹部に深々と刺さり致命傷に近いダメージだった。
その場で崩れ落ちるイーヴァ。
クリームヒルドは血を吐きながらもその様子を辛うじて立っていられる状態で見ていた。

クリームヒルド
「・・・こ、こんな状態だ・・・けど・・・私の勝ちで・・・・いいかしら?」

クリームヒルドは手を差し伸べながら血塗れの顔で笑顔を作る。

イーヴァ
「・・・降参や・・・クリーム。
こりゃ敵わんわ・・・」

イーヴァもそれに応える手を差し出した。

★★★ 勝者 ★★★

No.6552
【スタンド名】
エロティカル・クリティカル
【本体】
クリームヒルド・ブライトクロイツ

【能力】
自分が投擲した物を絶対に命中させる








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最終更新:2022年04月17日 12:11