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第11回トーナメント:予選③




No.6670
【スタンド名】
アトール
【本体】
スパイダー

【能力】
本体が生成した糸を弾丸代わりに発射する


No.6544
【スタンド名】
エレクトリックストーカー
【本体】
二義 誠(ニギ マコト)

【能力】
あらゆる壁に張り付いて真っ二つに開ける




アトール vs エレクトリックストーカー

【STAGE:廃病院】◆iL739YR/jk





……この闘いに勝者はいない。
いるのは逃げ延びた敗者のみである。

人里離れた山奥にそこはある。
一軒の廃病院。
かつてはそれなりの賑わいを見せた集落も今は昔。
人口の減少に伴い、勢いは薄れ、寂しい風だけが通り抜ける。

そんな地に足を踏み入れた一人の青年『二義 誠(ニギ マコト)』
古ぼけた病院へと足を踏み入れた。

「……本当にこんなとこで試合すんの? まぁ、人の邪魔にはならないだろうけどさ……」

窓ガラスは割れ、埃をかぶり、蜘蛛の巣も張られた見るからに廃屋。
こんな病院に来る物好きなど、廃墟マニアか、もしくは……

「これの参加者くらいだよな……」

マコトは自らに届けられた参加証……一通の封筒に目をやる。
噂には聞いていたスタンド使いの集まるトーナメント。
まさか、自分が参加するときが訪れるとは……

「さて……対戦相手も先に来てておかしくはないけど……」

病院ロビーから周囲を見渡す。
1階は受付と診察室。
部屋の中を一通り確認した後、マコトはロビー正面に見える階段をゆっくりと登っていく。
狭い廊下には複数の扉が並んでいる。
2階は入院患者のための寝室のようだ。
田舎に相応しい最小限の設備のように見える。

ウゥゥゥーン……

そんなマコトの耳に響くは低重音。

「……来たか?」

背後から聞こえる微かな音に気づき、振り返ると、そこには悍ましき怪物の姿をしたヘリコプターが佇んでいた。

「ラジコン……じゃないよな? スタンドか!?」

ヘリコプターから放たれる白い弾丸。


「くそ! エレクトリックストーカー!!」

即座にマコトは己の精神の分身を展開する。
屈強な肉体をもつ首なし男。
パワーA、スピードB。
典型的な近距離スタンドの拳で弾丸を振り払うために。

ベチョ……

鈍い音とともに、白い弾丸は粘度をもってエレクトリックストーカーの拳に纏わりつく。

「……これは?」

強い粘性をもった弾丸に拳を搦め捕られたマコト。
固く握られた左拳を開くことができない。

「あの弾丸……触れたらアウトってことか……」

気づいたのも束の間、ヘリコプターは白い弾丸を乱射してくる。

「そうやすやすと搦め捕られてたまるか!」

マコトは回避動作をとるが、予想以上に素早い敵スタンドの攻撃に戸惑う。

「(……本体が見えない上に正確かつ素早い攻撃。遠隔操作型か。厄介な……)」

「いいぜ……どうせ使えない拳だ。くれてやる!!」

向かい来る白い弾丸をときにはかわし、ときには左拳で受け止め、マコトはヘリコプターに向かって突進する。

「(この精密な動きは自動操縦じゃない。普通の遠隔操作型ならパワーは足りないはず。俺の拳には対抗できない!!)」

エレクトリックストーカーがその左拳をヘリコプターへと振るう。
それに合わせて放たれる白い弾丸。
それは突如、エレクトリックストーカーを包み込むかのごとく網状に展開された。

「な!? そういうのあり……!?」

とっさに回避行動をとるも、巨大な蜘蛛の巣から逸らせたのは体半分のみ。
左半身は白い網に包み込まれてしまった。

「ちっ……まずいな……」

左半身を固められ、思うように動けないマコト。
この状態であの素早いヘリコプターに対処するのは……


「無理だな……」

マコトに向けて放たれる弾丸の嵐。

「こういうときは逃げるに限る……ってね」

エレクトリックストーカーは床に張り付くと、そこに大きな穴を開かせる。
壁抜けならぬ床抜けである。

「ここが2階で助かったぜ」

開かれた穴を通り、1階へと落ちる。
下が診察室であることが確認済み。
マコトはベットの上へ着地する。

「さて、右拳を残しといて正解だったな……」

マコトは改めて己のスタンドに張り付いた蜘蛛の巣を確認する。
そして、蜘蛛の糸を1本1本慎重に、精密に右手で掴み、引きちぎる。

「やっぱり……大きくて粘性が強いだけで、あとは普通の蜘蛛の巣だ、これ」

意外と知られていないことだが、蜘蛛の巣を構成する糸は全てが粘性をもっているわけではない。
仮に全てが粘性をもっていたら、その巣を張った蜘蛛自身まで巣に搦め捕られてしまう。
蜘蛛の巣は粘性をもった糸と、そうでない糸を交互に張り巡らせて作られている。
その巣を作った蜘蛛は、粘性がない部分だけを選んで移動しているのだ。
マコトは蜘蛛の巣に埃がついていない部分、すなわち粘性がない箇所のみを選択的に破壊することで、自身を搦め捕る網を振りほどいた。
確かな知識と観察力。
これこそがマコトの完璧な技術を支えている。
自由を取り戻した左腕を勢いよく振り回し、マコトはベットから立ち上がる。

「さて、敵の情報は結構手に入ったし……反撃開始といきますか!!」

マコトは情報を整理する。

・ 敵のスタンドは遠隔操作型のヘリコプター
・ 蜘蛛の巣を構成する糸を弾丸にして発射する
・ 弾丸はピンポイントだが強固な弾と、広範囲だが引きちぎりやすいネットの2種類
・ 本体は姿を見せず、スタンドのみで戦闘

「射程距離は分からないけど、トーナメントの会場外に本体がいるとは考えにくい……つまり、本体はこの病院のどこかにいる。
そして、遠隔操作型ってことは近距離型の俺の勝機は一つ……隠れてる臆病な本体をぶっ叩く!」


方針を決めたマコトは即座に診察室を飛び出す。

「1階は探索済み……ってことは2階の個室のどこかか……」

階段を駆け上がるマコト。
たどり着いた2階の廊下から各部屋の扉を眺める。
廊下には先ほどまでなかった巨大な蜘蛛の巣がところどころに張られ、マコトを部屋に近づけさせなくしているようだ。
そこへやってくるヘリコプター。

「もうネタは割れてんだ。甘くみるなよ!」

廊下を塞ぐ蜘蛛の巣などマコトには関係ない。
壁を抜け、弾丸を回避しつつ近くの部屋へ侵入する。

「触れなければどうってことはないからな」

そこはストーカーの達人。
好きな者を付き纏うことに長けるということは、その逆もまた然り。
嫌いな者を避けて通ることも得意だということだ。
磨きつづけたストーカー技術の終着点。
技術の結集として発現させたスタンドは伊達じゃない。

「ヘリコプターから逃げながら、本体を探し出す……朝飯前だ!!」

蜘蛛の巣のない箇所を選びながら、部屋から部屋へと壁抜けをしていく。

そして、たどり着いた一つの部屋……

「ここは……」

これまで見てきたどの部屋とも異なる異質な部屋にマコトは思わず悪寒が走った。
年季を感じさせる、埃をかぶった巨大な蜘蛛の巣が部屋中に張り巡らされた部屋。
そして、その蜘蛛の巣にかかっているのはありふれた虫などではなかった。

そう、人……

大きさから察するに、老若男女問わず、あらゆる世代の人間のものと思われる人骨がその部屋にはあった。
蜘蛛の巣に搦め捕られた背骨。
無慈悲に床に転がる頭蓋骨。
狂気を感じさせる異様な光景の先に見えたのは1つの大きく黒い影。

ガサッ……

物音とともにその影は動き出す……


「冗談だろ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

それはマコトと同じくらいの大きさはあろうかという大蜘蛛。

「ハハハ……」

笑うしかない。
遠隔操作型の使い手はこそこそ隠れて戦う臆病でひ弱な人間?
そんな常識は一瞬で消え去った。

「本体が化け物の遠隔操作型スタンド……? そんなのありかよ……」

マコトは何故、この地区がかつての賑わいを失ったのか。
急激な人口減少の理由を今、はっきりと認識した。

「みんなこいつに……」

人間を襲い、喰らう大蜘蛛。
おまけにスタンド使い……

近距離の怪物。遠距離のスタンド。
ただのひ弱な人間であるマコトからしてみれば近距離スタンドと遠距離スタンドを一人で同時に相手にするようなものである。

「初めからこの部屋へ俺を誘い込むのが目的だったってことか……」

マコトは自らの技術を極限まで高めた結果、己のスタンドを発現させた。
だが、それは相手も同じだった。
長年生きつづけた怪物、名もなき大蜘蛛。
そちらもまた、『狩り』という技術を極めた結果、スタンドという形に結びついたのだ。

ウゥゥゥン……

気がつけばマコトの背後から聞こえる機械音。
振り返るマコトは蜘蛛の巣ごしに佇むヘリコプターの姿を捉えた。

「前門の虎、後門の狼……ってやつか……」

マコトは恐怖する。
こんなところに1秒たりともいられはしない。

「エレクトリックストーカー!!」

再びの床抜けで脱出するマコト。


勢いよく落下した1階は受付。
ベットなどないため、全身を強く打ち付けるが、そんな痛みなど関係ない。
こんな場所にはいられない。
トーナメントの勝敗などどうでもいい。
自分はただ好きな人のそばにいたいだけだ。
マコトは病院を抜けだし、ただただ走っていった。

遠隔操作型スタンド『アトール』の使い手、大蜘蛛『スパイダー』は安堵した。
恐怖を覚えていたのはマコトだけでない。
スパイダーもまた同様だった。
スパイダーは敵の能力を冷静に分析していた。
蜘蛛の巣の性質を見抜き、たやすく突破する判断力。
これまでに見たことのない破壊力をもった首なし男のスタンド。
如何に自分が人間を超越した存在であっても、あのスタンドと肉弾戦をしていたら無事では済まなかっただろう。

そこで仕掛けたのは恐怖という名のブラフ。
近距離戦が不利だと理解していながら、敢えてわざわざ本体である自らのもとへおびき寄せた。
そして、スタンドと本体で挟み込み、恐怖を与えた。
『貴様は獲物だ。勝ち目はない』という恐怖を。
そのまま怖気づき、動けなくなったら占めたものだったが、逃げ出す判断力は残っていたようだ。

もっとも、マコトにもう少し恐怖を打ち破ることができれば、この蜘蛛のブラフを見抜けたはずだが。

『その巣を作った蜘蛛は、粘性がない部分だけを選んで移動している』

『蜘蛛自身も自らの糸に搦め捕られる』

そう、あの蜘蛛の巣だらけの部屋では、スタンド『アトール』もまたその動きを制限される。
純粋に近距離肉弾戦に持ち込めれば、マコトには十分勝機があったのだ。

ストーカーの技術を極めた男は目的にたどり着けずに敗走した。

狩りの技術を極めた蜘蛛は獲物にありつけず敗北を覚えた。

技術と技術のぶつかり合い。

どちらも目的は果たせていない。

そういった意味でいえば、この闘いに勝者はいない。
いるのは逃げ延びた敗者のみである。

しかし、ルールはルール。
あえて勝者を決めるならば、如何に恐怖を覚えようとも、恐怖に立ち向かい、知恵と勇気で戦場から逃げ出さなかった者であろう。

★★★ 勝者 ★★★

No.6670
【スタンド名】
アトール
【本体】
スパイダー

【能力】
本体が生成した糸を弾丸代わりに発射する








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最終更新:2022年04月17日 12:42