第11回トーナメント:準決勝①




No.6741
【スタンド名】
オネスト・ウィズ・ミー
【本体】
秘森 セレナ(ヒモリ セレナ)

【能力】
本体の予言が当たるたびに強くなる


No.5394
【スタンド名】
Make Some
Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!
【本体】
仰木 健聡(オオキ ケンソウ)

【能力】
体液に衝撃を込める




オネスト・ウィズ・ミー vs Make Some Noizeee…e!!!!

【STAGE:夕日が差す展望台】◆dMoz/OKkYY





昼を過ぎた頃の暖かい陽光が差し込む部屋。
品のあるアンティークの小物や調度品が並んでおり、この部屋の住人の几帳面さを表している。

占い師・秘森セレナは自室の机に向かい、息を整えた。
目を閉じ、意識を集中させ、これから行う行為について、一切の妥協を許さないことを心に誓う。

彼女の前の机には、少し大きめのカードが何枚か重ねて置かれてるだけだった。
とても年季の入ったカードで、紙質は変化し、変色もしていた。
しかし、「汚い」という印象ではない。長い間使われ続け、使い手の「手」に馴染んでいる証拠だ。
セレナはそのカードを手に取り、一枚一枚丁寧に並べ始めた。

『タロットカード』。
占いの中では基本中の基本である。
彼女は数多ある占いの中から、その「基本」に立ち返るようにこの方法を選んだ。
セレナが彼女の師匠から、最初に教わった占いだった………

22枚のタロットカードを幾何学模様に並べ、そこから一枚を引く。
普通、タロット占いではカードを何枚か引き、その関連性から結果を導き出すのだが、今回はルールを変えた。
運命はひとつだけ…………ならばカードも一枚だけ引こう、と。

セレナは再び目を閉じ、しばし瞑想する。
都会の外れにあるこの部屋の中で、彼女は運命を見据え、世界を感じた。
これからの恐怖を取り除き、過酷な現実に立ち向かうために必要な「夢」だった。

彼女は目を開け、カードのひとつに手を伸ばす。
そして手に取った一枚のカードを裏返し、絵柄を確認した。

「…………」

セレナはじっとその絵を見続けた。
これから起こる「戦い」について、このカードが全てを掌握しているように感じていた。

やがて、セレナは微笑んだ。

彼女はそのカードをポケットに仕舞い、他のカードを片付けた。
戦いが終わるまで、この引いたタロットを持っておこうと思っていた。

10分後には、部屋はもぬけの殻になっていた。
部屋の主は、「戦い」の場所に向かった。

セレナが引いたカード、それは「完成」と「約束の成就」を示す、正位置大アルカナ21番・【世界(The World)】であった。


潮風が吹くその場所は思ったより暖かく感じられた。
気温が高めなのもあったが、橙色になりつつある陽が周囲を染め始めているせいもあった。

セレナは自宅の最寄り駅から電車を乗り継ぎ、1時間半かけてこの場所まで来た。
試合の場所にたどり着くだけで少々くたびれ気味だったが、この試合に「甘え」は許さない。

目的の展望台は、海岸に面した岬の上にあった。
柵はあるものの、それを乗り越えた先の断崖絶壁から落ちたらひとたまりもなさそうだ。
展望台は広場のように整備されており、備え付けの双眼鏡や石碑が設けられている。

セレナが着いたとき、既に2人の人物が彼女の到着を待っていた。
片方はまだ幼さの残る少年、もう一人は浮浪者のようにボロボロの服を何枚も纏った男だった。
他の人影は誰一人として存在しない。
恐らく、試合の途中に部外者が入ってくることもないだろう。

「遅れました。【秘森セレナ】です」

セレナはすぐ、浮浪者のような男に話しかけた。

「大変失礼しました!秘森セレナ様ですね」

男は急に話しかけられ、驚いたようだった。

セレナには彼が浮浪者でないことを知っていた。
動作がしっかりしており、かつ若い。さらによく見ると、眉毛や髪は整えられている。

そして彼の身体からは、高級な男性用の香水の匂いが微かに漂ってきていた。
セレナの常連客の中に、同じ匂いを発する富豪の息子がいるからすぐに分かった。
理由は分からないが、多分ファッションの一環としてこういった服を敢えて着ているのだろう、と思った。


「わたしは今回の試合の立会人を務めさせていただきます、【阿武隈渡(アブクマ ワタル)】と申します……」

立会人がうやうやしくお辞儀をする。

彼の肩越しには、少年がセレナの方をじっと見ていた。
ぱっと見ただけでは普通の少年だが、その瞳の色ははカラスの羽根のようにどす黒く不気味だった。
あいつが対戦相手なのか……セレナの心が少しだけ翳(かげ)る。

「それではルールの説明をさせていただきます………」

渡が2人に向かって言い始めた。

「ちょっと待って!」
突然少年が渡の言葉を遮った。

「どうかいたしましたか?仰木健聡さま」
「ルールって、僕達が決めてもいいんだよね?」
「その通りでございます……」
「じゃあさ、ちょっと時間くれない?」
「かしこまりました」

健聡と呼ばれた少年はセレナの方へ近づいてきた。

「仰木健聡っていいます、仰ぐ木に、健康の健とみみへんの聡(サトシ)で健聡。よろしくお姉さん」
「秘森セレナです……よろしく」
「あのさ、お姉さんは今回……勝ちたい?」
「……え?」
「僕に勝利を譲ってくれたりしないかな~、なんて」

健聡はいきなり大胆な事を言い出した。
挑発のつもりだろうか?真面目に答えるべきなのか?
セレナはゴクリと唾を飲んだ。

「………」

セレナは改めて自分がこのトーナメントに参加した理由を考えた。

(私は……そう……)

師匠との約束を果たすため……
このトーナメントに望んだのだ。

「それは不可能ね……」
「そっか~、じゃあ交渉決裂ってことで……【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】!!」

「!!」

全身に口がついた近距離型のスタンドがセレナに迫った。

「【オネスト・ウィズ・ミー】!」

空間が震えるような轟音を立てて2つのスタンドがぶつかり合う。

健聡はすぐにスタンドを退かせ、後ろに飛び退いた。

「お姉さんも近距離パワー型か……やっぱり近づくと危ないな」
「健聡くん……アナタ、あんまり後先考えずに行動しちゃうタイプでしょう?」
「あぁ……よくそう言われるよ」

「ねぇ健聡くん、アナタ占いは信じる?」
「占い?……そうだな~、信じるよ。僕にとって都合のいい結果だけね!」

健聡はそう言うと、スタンドに整備された地面を殴らせた。
その圧倒的な破壊力によって、地面に1mほどの穴が空き、瓦礫が飛び散る。

「じゃあ中距離戦開始だ!」

【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】は、飛び散った瓦礫を空中でそのままラッシュによって弾き飛ばす。
細かくなったコンクリートの破片が、散弾のようにセレナに襲いかかる。

「……」
『WRYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

怯まず、セレナは【オネスト・ウィズ・ミー】に破片を弾かせた。
弾き出された勢いで、無数の破片が遥か遠くに飛んでいく。

「へぇ、結構素早いんだね、お姉さんのスタンド……でも、周りをよく見なきゃダメだよ」
「……うっ!」

突然セレナの肩に、何かが落ちてきた。
ベチャッという音を立てて、液体が顔と肩にかかった。

セレナがそれに気を取られた瞬間、コンクリートの散弾が何発か彼女の身体に命中した。

「ああああッ!!」


大きさも重さも不揃いなコンクリートが、セレナの身体に勢いよくめり込んだ。
セレナはその衝撃で後ろにふっ飛ばされた。

「僕はお姉さんだけを狙ってなかった。【カモメ】を撃ち落としたんだよ。お姉さんの気を逸らすためにね」
「ぐ……!」

何発当たっただろうか。
全身が、内部まで熱い。

大量に出血はしていないから、急所には当たっていないのだろう。
しかし、思うように身体を動かすことはできなくなっていた。

(まだ……まだ戦える…この程度で……!)

セレナは力を込めて身体を起こす。
目に入る夕日の色が頭の中をグチャグチャにかき回しているように思えた。

「ハァー……ハァー……」
「お姉さん、かなり重傷っぽいよ?もう降参する?」
「まだ……いけるわ」

フラフラのままセレナは立ち上がろうとする。
力を込めるほど、身体の軸がブレてふらついてしまうように感じられた。
だが、ここで力を込めないわけにはいかなかった。

「私には……【覚悟】がある!」

そう言ったセレナは二本の足に全力を込め、健聡に向かって突進した。

「【オネスト・ウィズ・ミー】!!」
「そんなに傷ついたままで……僕に勝てるとでも?【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】!!」

セレナと健聡が互いの射程内に最接近する。
その瞬間、【オネスト・ウィズ・ミー】のパンチが暴風雨のように浴びせられた。

「!?このパワーはッ!」

健聡の【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】はスピードこそ難があるが、破壊力は文句なしだ。
ほとんどのスタンドを一撃で捻じ伏せられる自身がある。

しかし、今まさに攻撃してきているセレナのスタンドは、これまで味わったことがないほどのパワーとスピードで押してきていた。
ダンプカーかロードローラーか、そういう重機が束になって押し寄せるような力だった。

健聡は何とか攻撃を防いでいるが、どんどん後ろに追いやられていた。

「まずいッ!」

彼は今まで、夕日と断崖絶壁を背負って戦っていた。
つまりこのまま押されると……

「や……やめろ!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

セレナは前を見ないで猛進してきている。
このまま、限界まで健聡を押し切るつもりだ。



―――――
―――

「占い」とは何のためにあるのか。
セレナが師匠から教わったことだ。

占いは近い未来を予想して計画を立てる「推測」とは違う。
山勘で将来を左右させる「博打」でもない。

「占い」とは【安心】を得るためにある。

視えた未来を正直に受け容れ、伝えることで、それが【安心】に繋がる。
たとえ悪い未来が見えたとしても、自分の運命を【覚悟】として受け容れれば、結果的に心は安らかになるのだ。

だから、占いの結果を偽ってはならない。
この世で最も正直な占い師であれ。
そう、師匠から教わった。

―――
―――――



「私のスタンドは、予言を当てるたびに強くなる!占いっていうのは、どんな物でもできるのよ。手相や人相……お茶の飲みカスで占う方法だってあるッ!
 私は、ここに来る途中5回の占いを成功させた!そしてここでさらに3回!立会人の素性を見破り、アナタの性格を言い当てた!アナタのスタンドが近距離型ってことも分かったわ!わざわざ近づいてくる辺り、怪しかったものね!」

「占い……だと!?」

健聡は、自分から墓穴を掘っていたことに気付いた。
さっき自分が名乗った時、漢字まで教えてしまったことだ。
恐らくプロの占い師なのであろう彼女に、即席の姓名判断をさせてしまったのだ。


そうこうしているうちに、健聡の真後ろに鉄柵が迫っていた。

「うわッ!」

破壊音を立てて、頑丈な柵があっさりと破られた。
まるで主を通す玄関の扉のように、すんなりと開いた。

「降参しなさい!そうしないとアナタをこのまま突き落とすッ!」

健聡の背後、5mほどの場所に崖が迫る。
それでも勢いを落とさず、セレナは健聡にラッシュを浴びせ続けていた。

「くっそオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
健聡は叫びながら、ポケットから飛び出しナイフを取り出した。

「降参はしないッ!だったら僕も……【覚悟】を決めてやるゥゥゥ!!」

健聡がそう言った時、セレナは決心した。

『WRRRRRRRRRYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』

【オネスト・ウィズ・ミー】は、夕日に染まる海に向かって健聡とそのスタンドを思いっきり弾き出した。
足場を失った健聡は、そのまま奈落の底に落ちていく……

はずだった。

「!!」

次の瞬間セレナが見たものは、健聡の背中から血しぶきが発生している光景だった。
橙色の夕日が淡く見えるほど、深紅に染まった血。
さながら、健聡の背中から血の翼が生えたように見えた。

「【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】!!!殴られた衝撃を逆噴射しろオオオオオオオオ!!」

健聡の声とともに、彼の身体が跳ね返るようにグンと前進した。
崖の下に落ちたのは、血の着いた健聡のナイフだけだった。

「そして……お前が落下するんだアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「………」

セレナの頭上を飛び越し、健聡は展望台の方向に戻る。
その途中で、彼はセレナを足蹴りにし、バランスを崩させた。

もはやセレナに、踏ん張る力など無かった。


「…………」

「ハァー……ハァー……」

セレナは落下しなかった。
崖につかまってぶら下がっている。
しかし、傷だらけのセレナに這い上がる力は残っていない。

「ど……どうする?お姉さん。降参したら、助けてあげるけど?」

「……私は」
セレナは潮風に飛ばされそうな囁き声で言った。

「私は自分の運命を知っている。私は『勝った』の」
「どういうことだッ!……アナタの触れている部分には僕の血が付いているんだ!能力を発動したら『ナイフに刺される衝撃』が指先を襲うぞ!アナタはもう勝利する見込みが無いッ!」

「……いいの。私は…約束を果たしたわ。降参するつもりはない。だから構わずやっちゃって」
「………!」

セレナの言ったことはハッタリではなかった。
【覚悟】している。
自分の運命を知っている態度だ。

「ウオオオオオオオオ!!【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】」

能力を発動した瞬間、セレナが自らを支える手を離した。
そして一言も悲鳴を発することなく、まるで浮遊するかのような体勢で、荒波が渦巻く崖の下に落ちていった。


「ハァー……ハァー……」

「お疲れ様でした仰木様。貴方の勝利でございます」

立会人の阿武隈渡が健聡のもとに歩いてきた。

「……どうも…」
「怪我は大丈夫でしょうか?救急隊を呼びましょう」
「いや、大丈夫だよ……見た目は豪快だったけど、大して傷は深くない」
「ところで、これは仰木様の物でございましょうか?先ほどスタンドが押されていた時に、どちらかが落とされたのだと思いますが……」
「ん……?」

渡が、健聡に何かを差し出してきた。

「何これ……知らないよ。あのお姉さんのじゃない?」
「タロットカードのようですね。【ザ・ワールド】……完成と成就を表すカードです」
「タロット……?」

健聡はそのカードをまじまじと見つめた。
その絵の人物は、運命を全て見透かしているかのような表情をしていた。

健聡はカードを受け取ると、ヒョイと裏返した。


「……え?」
そこには、信じられないことが書き込まれてあった。
「……これは…!」
さすがの立会人も、驚きを隠せない様子だった。


【決勝戦のご武運をお祈りしています。 Serena】


「嘘でしょ……どういうこと!?」
「……あの方は腕利きの占い師だったようですが、まさか……」


つまり、こういうことだ。

占い師・秘森セレナは、この場所に来る前に、『まだ見ぬ対戦相手』すなわち『健聡のために』、タロット占いを行なっていた。
そして健聡にとって、この良い知らせを示すカードが出た。
要するに、セレナは『自分が負けることを知りながら』この戦いに臨んだのである。

「………」

健聡は口を開けたまま、【世界】のカードを見続けた。
そして渡に向かって言った。

「これ……僕がもらっておくよ」
「わかりました」
「決勝戦のお守りにしよう。僕は占いを信じるからね……」


その日、もう一つ渡が驚いたことは、セレナが生きていたことだった。
遺体を回収しに行こうとしたところ、そこには岩につかまって呆然としているセレナの姿があったのだ。

恐らく、落下する瞬間に無意識にスタンドが岩を殴り、スピードを緩めたのだろう。
占い師という儚げな仕事とは裏腹な「したたかさ」を、渡は彼女に感じた。

救急隊によってセレナが運びだされる時、セレナに話しかけた。

「落下する前に貴女は『勝った』とおっしゃっていましたが……あれはどういった意味で?」
「……そんなに深い意味はないわ。『試合に負けて勝負に勝つ』みたいな意味よ」
「確かに……仰木様は相当驚いていたようですが」
「それもあるけど、私と師匠との『約束』よ。ある意味、叶ったからね……ふふふ」
「約束……?」

渡はそう問いかけたが、彼女からこれ以上聞き出すのは野暮なことだと感じた。
どちらにせよ、セレナは満足そうだった。

日が沈み、展望台には静かな灯りがともり始めた。

★★★ 勝者 ★★★

No.5394
【スタンド名】
Make Some
Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!
【本体】
仰木 健聡(オオキ ケンソウ)

【能力】
体液に衝撃を込める








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最終更新:2022年04月17日 12:51