第11回トーナメント:決勝①
No.5394
【スタンド名】
Make Some
Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!
【本体】
仰木 健聡(オオキ ケンソウ)
【能力】
体液に衝撃を込める
No.5297
【スタンド名】
ギア・エクスペリエンス
【本体】
時任 八千代(トキトウ ヤチヨ)
【能力】
殴ったものに歯車を発生させる
Make Some Noizeee…e!!!! vs ギア・エクスペリエンス
【STAGE:アスレチック】◆Zb4sdv40uw
「時任八千代さん……だっけ? 一つ頼みがあるんだけど、この試合の勝利、譲ってくれる気、ないかな」
木材で組まれた砦状の遊具の足場に腰掛けた対戦者仰木健聡から足をぶらぶらさせながら朗らかにそう尋ねられた時、僕は一瞬彼が何を言っているのか理解できなかった。
「それは……つまりこの試合でイカサマをしろと、そういうことかな?」
「いやいやいや、そんな難しい話じゃないですよ時任さん。そもそもこのトーナメント、双方の合意で勝敗を決することもできる仕組みなんです。だから極論すれば僕らは『試合をする必要すらない』ってこと。戦いたくないなら白旗を振ればいい。五体満足で帰りたいなら、わざわざ殴り合う必要はないってことですよ」
あぁ、なるほど。
試合の前に軽く相手をけん制しておくつもりだったのか。
『怪我をさせたくないから、早めに降参してくれ』。
使い古された威嚇だが、まさか目の前の少年からそんな言葉を聞くとは思わなかった。
それだけの話だった。
「悪いが、それは出来ない。僕も君と同じく負けられない理由があるからね」
苦笑しながらそういうと、目の前の少年は一瞬あっけにとられたような顔をして、それからさもおかしそうに笑った。
「あぁ、なるほどね。時任さんはその手の人だったか」
言いながら彼は足を振り子のように振って、勢いよく遊具の上から降り
「【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】」
そのままの勢いでスタンドを発現させて攻撃してきた。
体中にある絶え間なく涎を垂らす唇のない口が、喘ぐようにうごめく不気味な人型スタンドが唸り声をあげながら殴り掛かってくる。
咄嗟の出来事に一瞬反応が遅れるが、何とかバックステップで振り下ろされた右腕を躱すと、勢い余って彼のスタンドの拳は砦状の遊具に突き刺さった。
木製の骨組みがまるで発泡スチロールか何かのように木端になって消し飛ぶ。
息をつく暇もなく、返しの左腕が僕の顔面を狙う。
「【ギア・エクスペリエンス】!」
その攻撃を、カラクリの様に歯車を体のあちこちから覗かせた僕のスタンドが腕を交差させて防御。
と同時に衝撃を流すために僕もさらに後ろに跳んだ。
木材を一撃で粉砕する彼のスタンドの一撃は、案の定ブロックの上からでも十分な威力があった。
両腕がしびれるように痛む。打撃戦は得策ではないことを僕は確信した。
彼のスタンド【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】の破壊力は僕の【ギア・エクスペリエンス】を遥かに凌ぐ。
だが、僕はそれ以上に彼のスタンドの動きを見て驚きを隠せないでいた。
圧倒的力に恐怖した、わけではない。
むしろその逆だ。
(彼のスタンド……【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】だったか。確かに破壊力は目を見張るものがあるが、近距離型にしては明らかに『遅い』)
さきほどの攻撃は完全に虚を突かれた一撃だった。
普通ならば避けることなどできず、あの時点で勝負は決まっていただろう。
だが、彼のスタンドの一撃は、見てからでも避けられるほどに緩慢なものだった。
(なるほど、だから彼はあんなことを口にしたのか)
虚を突かなければ、いや、虚を突いたとしても相手を捉えきれない自身のスタンドの圧倒的な『スピード不足』を自覚していたからこそ、彼はあんなだまし討ちのような手を打たなければならなかったのだろうと、僕はそう理解した。
だが、状況は未だに打開できていない。
距離を取ろうと後退しようにも、あいにくとここは砦の中だ。
この砦型の遊具はドーム状になっており、四方を囲んだ柵の内側にはあちらこちらに木材が張り巡らしてある。
その木材を階段の様に足場として、どこからでも頂上にある見張り台に登ることが出来る構造になっているわけだ。
故に、直線的な動きで逃げようとしても必ず『足場』が邪魔をするようになっている。
そして、彼は僕と出入り口を繋ぐちょうど線上に位置どっていた。
この場所ならば、確かにスピードはなくとも相手を追い詰めることが出来る。
(あの少年……ずいぶんと場当たり的な印象を受けたがなかなかどうして『策士』じゃないか。自身の欠点と長所をきちんと把握して、最適な戦場を生み出している。だが……)
大ぶりな彼の一撃をかがんで躱すと、頭上の足場がへし折れる。
柵際に追いつめられる前に私は何とか横に転んで距離を離した。
片膝を付いた僕の顎に向かって、健聡本人の蹴りが放たれる。
不安定な体制で躱すことは得策ではないと考え、右肘でアゴのみをガード。
蹴りの勢いに流されるまま私は後ろに飛び、距離を取って立ち上がる。
回避ばかりの僕に、彼が吠えた。
「避けてばかりじゃ試合にならないよ! そのスタンドは防御用かい!」
挑発するような物言いに、僕は微かに口元を緩めた。
(……違うな、少年。僕の【ギア・エクスペリエンス】はとっくに攻撃を開始している)
「聞こえないか? 歯車の噛み合う音が……」
私のその言葉に彼が一瞬動きを止める。
どこからか、小鳥の鳴くような声がした。
いや、どこからか、ではなく。
その『砦』のあらゆる場所から、チキチキと、歯車が噛み合う音が聞こえているのだ。
「【ギア・エクスペリエンス】!」
私は高らかにスタンドの名前を叫び、指揮者のように腕を振り下ろす。
その動作とほぼ同時に、彼の傍らの足場が勢いよく彼の腹にフルスイングを決めた。
「ぐふっ………………!?」
意識外からの腹部への攻撃。彼は一瞬宙に浮いたかと思うと、体をくの字に曲げる。
頭が降りてきたところに、彼の頭上から丸太のように太い柱が突き出される。
鮮血が舞い、彼は頭から地面に叩きつけられた。
(【ギア・エクスペリエンス】歯車を発生させるこのスタンドの能力をもってすれば、ただ木を組み合わせて作られた建造物を思いのまま操ることなどたやすい。結合部に歯車を取り付ければ、あとは任意のタイミングで歯車を稼働させるだけでこの木造の『砦』は罠に満ちた私だけの『監獄』と化す)
「ちっくしょぉ……ただ逃げ回ってるわけじゃなかったのかよ…………」
だらだらと頭から血をしたたらせながら、ゆっくりと健聡が立ち上がる。
顔にまで垂れる血を手で拭いながら、なお立ち上がってくる彼に、僕は微かに賞賛を覚えた。
「もう諦めた方がいい、この砦はすでに私の掌握下だ」
「わかってない……わかってないよ時任さん。僕にとってはこれくらいの手負いが『ちょうどいい』!」
そういって彼は思い切り、何もない空間を殴りつける。
血に塗れたまま振り切られた手から飛んだ血液の飛沫が飛んできた。
(なるほど……目くらましか!)
苦し紛れにしては悪くない。そう思い、僕は自身のスタンドの両手でその飛沫を防ぐ。
正確には、それで『防いだつもり』になっていた。
防御した両腕に思わぬ衝撃が走り、私は訳も分からず真後ろに吹っ飛ばされていた。
背後の柵に叩きつけられ、肺の中から息が絞り出されるような錯覚を覚える。
(なんだ……この衝撃……!?)
何とか体勢を立てなおすと、腹を押さえながら『砦』から逃げていく健聡の後姿が見えた。
(逃がしたか……まずい、追わなければ…………)
おぼつかない足取りと、雲がかかったように曖昧な思考の中で、僕はよろよろと立ち上がる。
(それにしても先ほどの攻撃の正体がわからない……血しぶきを浴びた箇所からまるで『丸太を叩きつけられたかのような衝撃』が…………ハッ!?)
暗闇に白熱電球が灯ったような閃きに、混乱していた思考が一瞬で鮮明になった。
彼を追いかけようとしていた足を慌てて止め、注意深く足元を確認する。
健聡がたどったと思しき道筋に、ぽつぽつと血痕が残されていた。
(僕の考えが正しければ…………)
その血痕に、ポケットの中のハンカチを落としてみた。
すると、ハンカチは案の定、空気を鉄骨で引っ叩くような鈍い音とともに宙に打ち上げられた。
(やはり、彼のスタンドの能力は『血液に衝撃を込める』能力……逃げる彼を慌てて追いかければ、無防備な足を思い切りやられてアウト……ってわけか。危ないところだった。だが……)
彼が、あえて急いで逃げようとせず、罠を仕掛けて行ったということは、まだ戦う意思があるということだ。
少なくとも血痕を辿っていけば、どこかで待ち構えていることは明らか。
(ならば、なにも急ぐ必要などない。ゆっくりと、確実に、手負いの彼を追い詰めればいい)
「仕切り直し、か」
ゆっくりと首を回して、僕は息を整える。
「さっきはペースをつかまれたけど、今度は僕の番だよ。健聡君」
血痕を辿っていくと、先ほどとは打って変わって開けた空間に出た。
コンクリートで固められた地面から、せり上がるようにいくつもの壁が立っている。
その壁には、掴みやすい様に加工された凹凸がいくつも突き出ていた。
(なるほど、簡易のロッククライミングか……)
血痕はいくつかある壁の一つ、その裏側へと続いていた。
身を隠しているとすればあまりにもわかり易い。
故に、図りかねる。
これがミスだとは考えにくいが、しかし罠だとしてもあまりにも陳腐だ。
(ふむ、まず考えなしに壁に近づくのは得策ではないだろう。しかしこの近くに彼がいることを考えると、この場を離れた所で状況が好転するわけでもない……一番まずいのは最初の時の様に不意打ちを食らうことだ。しかし近づかれさえしなければ攻撃を回避するのは容易だ。血液の飛沫に気を付けてさえいればいい。ここは一応予防線を張っておくか……)
僕は彼がいつ飛び出してきてもいい様に【ギア・エクスペリエンス】を発動して。
「そこに隠れているのは分かっているよ。健聡君。おとなしく出てきたらどうだい」
考えた結果、一応は釣られたふりをしつつ、壁に近づくことはせずに声をかけて様子を見ることにした。
律儀に返事が返ってくるわけもないので、気配さえすれば御の字だと思っての行動だったが……
「あれ、やっぱばれちゃってたか」
軽い調子で返事が返ってきたので、僕は少々面喰ってしまった。
「でも、当然時任さんも、俺がおとなしく出ていくわけないってわかってるでしょ」
「確かにね……だが、君の【血液に衝撃を込める】能力じゃ、壁の後ろから私に攻撃できるとは思えないが」
「あら、ばれてましたか……」
十中八九、その程度の推論だったが隠すそぶりもなくあっさりと彼が自らの能力について白状した。
うれしい誤算ではあったが、僕は少し拍子抜けしてしまった。
(もしかして最初の雰囲気通り、ただの考えなしの少年なのか……?)
「それでもまだ諦めるわけにはいかないんですよ」
そんなことを考えていると、唐突に健聡君が語りだした。
「僕の両親は僕の幼いころに僕を捨ててどこかへ行ってしまいました。残ったのは多額の借金と幼い妹。だから僕は毎日バイトバイトの日々それでも毎月の返済に充てたら貯金もできなかった。「おい、ちょっと」自分のことは諦めてました。でも妹をどうしても大学に行かせてやりたくてそのためならなんだってやるつもりでいた……」
あまりにも唐突に自分語りを始めた彼。
顔も見えない壁の裏から滔々と聞こえる独白はある種不気味ですらあった。
言いようのない違和感が僕を取り囲む。
「戦う理由は誰にだt「そんな時にこのトーナメントへの招待状が届いたんです。これしかないって思ったこれに賭けてみようって……」
明らかに、彼は自分語り以外の何かを仕掛けてきている。
(そういえば、なぜこうも淀みなく喋る? 決して軽くない怪我を負っているはずの彼が、どうして)
「今まで何の役にも立たなかった僕のスタンド能力がようやく役に立つ日が来るってそう思ったんです。そういえばあなたの理由も聞かせてもらえませんか。あなたの負けられない理由……」
そして、注意深く耳を澄ますと、彼の言葉の端々に微かなノイズが走っていることに気付いた。
まるで、録音された音声を再生しているかのように。
背中に冷水をぶちまけられたかのような戦慄が走った。
(血液に込められるのは『衝撃』だけじゃないのか! だから彼は時間稼ぎのためにわなを仕掛けて逃走した! 自分の血液に声を『録音』する時間を稼ぐためにだ! よどみなく喋っていたのも、微かに混じるノイズに気付かせないため……)
ふと、背後から空を切る音。
反射的に振り向き、スタンドを発現させたが当然間に合わない。
木材を砕いた膂力で思い切り殴られた僕は勢いよく壁に叩き付けられた。
世界が回る、意識がもうろうとする。口の中で血液の味がした。
(湾曲した壁の裏から回り込まれたか……だが!)
「ようやく、一発くらわせてやったぜ……もっとも、一発で十分みたいだがな」
顔半分を血で赤く染めながら仰木健聡が笑う。
朦朧とした意識の中、僕はゆっくりと立ち上がり、彼に告げた。
「ああ、もう十分だ。二発目は僕には届かないからね」
勝ち誇っていた彼の顔が怪訝そうな表情になる。
「君はもう一歩も僕に近づくことは出来ない……仕掛けられた歯車は、すでに回転を始めている」
ズブリ、と彼の踏み出した右足がコンクリートに沈んだ。
危険を察知したらしい健聡が慌ててその場を離れようとするが、時すでに遅し。
彼の足元で、コンクリートに仕掛けられた歯車が原料の段階にまで『時間を巻き戻し』コンクリートが液状化し始めていた。
踏み出そうとした足を、どろどろのコンクリートが飲み込んでいく。
僕が念のため【ギア・エクスペリエンス】を発動したのは飛び出してきた彼を迎え撃つためではない。
足元に仕掛けた即席の『落とし穴』で、彼を捉えるためだ。
「くそっ! 【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】俺を引っ張り上げろ!」
その声に応え彼の傍らにスタンドが発現するが、緩慢な動作しかできない彼のスタンドでは、回り始めた歯車に対抗するには遅すぎる。
「無駄だよ、歯車はすでに逆回転を始めている」
【ギア・エクスペリエンス】の能力によって加速された時間の中で一瞬で液状化したコンクリートは、逆回転する歯車によって一瞬で元の硬度に戻った。
やや前傾姿勢で、彼はすね辺りまでコンクリートに沈み込み、完全に固定されていた。
ようやく終わった。これで僕は、狂った歯車を元に戻すことが出来る。
妻と、家庭、僕のささやかな幸せのすべてを。
今となっては、何時から僕の歯車が狂ってしまったのかなどわからない。
妻がトラックにはねられた時だろうか。
妻が精神を病んだ時だろうか。
妻が子供を流産した時だろうか。
妻に子供を産むことを承諾させた時だろうか。
妻が出産に耐えれるほど強くないと聞かされた時だろうか。
あるいは、妻に出会った時だろうか。
妻が交通事故にあったと病院から連絡を受け駆け付けた。
トラックの運転手は涙を浮かべて謝罪しながら、妻は自らその身をトラックに投げ出したんだと繰り返していた。
そんな彼を押しやって、病室にたどり着くと、妻はベットの上で安らかな寝顔を浮かべていた。
体の弱かった妻が子供を流産してから、僕はそんな妻の顔を見た記憶がなかったことに気付いた。
生まれることのなかった子供を探して家を裸足で飛び出す妻。
他人の赤ん坊を連れ去ろうとして顔をゆがめて暴れまわる妻。
思い出す妻の姿から、美しい思い出は消えてしまっていた。
欠けてしまった歯車は、僕の能力では元に戻すことは出来ない。
力なく横たわる妻の体からは、生きるために必要な何かが欠落していた。
医者は、僕に二つの提案をした。
一つは、このまま妻の意識が戻るのを待つこと。
もう一つは、大金を賭けて意識が戻るかもしれない手術に挑むこと。
そんな折に、このトーナメントの招待状が届いて…………
「……これで終わったんだ」
自然と口をついて出たのは、歓喜の叫びではなく、ため息だった。
手にした勝利はどこか空しく感じた。
まるで僕はこうなることを本当は望んでなかったかのように。
「人の戦いを、勝手に終わらせないでよ。時任さん」
ため息をついた僕に、コンクリートにすねまで埋まった彼が、先ほどと変わらない口調でそう言った。
そこには切実さなどなく、ただ日常の些細な間違いを指摘するかのような気安さだけがあった。
(…………なんだ、これは)
噛み合わない。
彼のアイデンティティーが、戦う理由がつかめない。
「…………妹のため、なのかい?」
自分でも口に出して冗談みたいなことを言っていると思った。
「まさか! さっきのを真に受けたんだったら謝るよ。あれは時任さんの気を引こうと思って咄嗟に付いた嘘、両親は健在だし、僕には兄貴しかいないよ」
「だったら…………どうして」
「やっぱり、時任さんはそういう人なんだね」
ニコリ、と彼が笑う。
「僕は戦う理由なんて考えたこともないよ」
僕の頭の中で微かに音がした。
ピシリ、と。
僕を取り囲む小さなハコに、ひびが入る音。
「だから、あなたみたいに迷うこともない」
音もなく、彼は自身のスタンドを発現させる。
不気味な人型は、ためらいなくその拳を振り上げて、
「勝つための『覚悟』は、すでに済ませてある! 【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】」
『GURURUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa!!!!』
渾身の力を込めたラッシュを思い切り自身の本体に打ち込んだ。
一撃ごとに足元で固定された彼の体が大きく跳ね、彼の口から血と涎が一撃ごとに吐き出される。
断続的に響く肉を叩く音はそれでもなお鳴り止むことはない。
ラッシュを続けるスタンドの全身の口から垂れる涎にも、血液が混じるようになっていった。
(なんだ…………なにをしようとしている!?)
一見ただの自傷行為にしか見えなかったが、彼の行動には説得力があった。
あの無意味な行為こそが、反撃の狼煙であり、逆転の布石だという、奇妙な説得力が。
この段になって、僕の体は彼のスタンドから受けた『一発』からようやく回復しつつあった。
おぼつかない足を奮い立たせて、僕は何とか立ち上がる。
(いち早くこの場から…………)
ふと気づくと、彼の足が異常な盛り上がりを見せていた。
まるで『内側から人外の力で殴られている』かのように。
そして、僕は思い知ったのだ。
彼の覚悟を。
彼がこれから何をしようとしているかを。
「ロケット、知ってるよね」
彼は、自身のスタンドに殴られることで、自身の体内を流れる血液に尋常ではない衝撃を込めたのだ。
そして、その衝撃をコンクリートに埋められている両足に込め、解放しようとしている。
いわば、現在の彼の足元は一方向にしか衝撃の逃げ場のない筒のようなものだ。
封じ込められた衝撃は、前傾姿勢で埋め固められた彼の足元、その最も弱い部分に集中する。
ほかでもない、肉と骨でできた、彼の足の方向へと。
「射出しろ! 【Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!】」
叫び声ととこもに、彼の両足から鮮血が間欠泉の様に噴出する。
肉と骨とが爆ぜる音を後方に残して、弾丸のような勢いで飛来する彼と、彼のスタンドを防御するすべは、僕にはもはや残されていなかった。
ロケットのごとく勢いを乗せて繰り出された彼のスタンドの拳は僕の顔面にめり込むのを感じると、痛みを知覚するより速く、僕の意識は遥か彼方へ吹っ飛ばされた。
本当は、僕は勝利などしたくなかったのかもしれない。
僕は何度も繰り返した自問自答に、答えが出ることが恐ろしかったのだ。
妻は耐え難い絶望にその身を焼かれ続けていた。
だから、もし妻が本当に自らの意思でトラックの前に立ったのだとしたら。
目を覚ました彼女は、僕の傍にいることはないだろう。
僕のハコの中には、もう何も残らなくなってしまう。
安らかに眠り続ける妻と、幸せな家庭の残滓。
それすら失ってしまえば今度こそ本当に、僕の中の歯車は動きを止めてしまうだろう。
どれだけ歪んでいても。
どれだけ空虚なハコの中でも。
歯車は回り続けなければならないのだから。
★★★ 勝者 ★★★
No.5394
【スタンド名】
Make Some
Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!
【本体】
仰木 健聡(オオキ ケンソウ)
【能力】
体液に衝撃を込める
当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。
最終更新:2022年04月17日 12:56