第11回トーナメント:決勝②
No.5394
【スタンド名】
Make Some
Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!
【本体】
仰木 健聡(オオキ ケンソウ)
【能力】
体液に衝撃を込める
No.5297
【スタンド名】
ギア・エクスペリエンス
【本体】
時任 八千代(トキトウ ヤチヨ)
【能力】
殴ったものに歯車を発生させる
Make Some Noizeee…e!!!! vs ギア・エクスペリエンス
【STAGE:海岸】◆aqlrDxpX0s
日が傾く頃、仰木健聡(オオキ ケンソウ)は砂浜に立ち対戦相手の到着を待っていた。
健聡は落ち着かない様子で、腕時計を見たり、右を向いたり左を向いたりした。
健聡の左右には海岸線に沿って遠くまで砂浜が広がっており、前を向きなおすと海がさざ波を立てていた。
周囲には健聡以外だれもいなかった。
健聡が待ち合わせの時間の30分前に着いたときから海岸には人っ子一人いなかったのだ。
健聡は「待つ」ということが嫌いだった。
「考えるより先に行動」というのが健聡の性格というか癖であったので、何もしないでいるということが耐えられないのだ。
物思いにふけるというような情緒的なことをするのも彼には合わず、絶えず形を変える海を見ることも彼にとっては退屈であった。
だが待ち合わせ場所に勝手に早く着いたのは彼自身であったので、仕方なく待つほかに無かった。
それからしばらくして健聡は背後に人の気配を感じて振り返った。
ひとりの男が現れ、健聡に近づいていた。
革靴にスーツパンツ、袖をまくった長袖のシャツにベストを着た、白髪混じりの男。
健聡はその男が対戦相手か立会人かわからなかったので、とりあえずその男のほうへ体を向け、男が近づいてくるのを待った。
男は近づくなり、話し始めた。
「僕は時任八千代(トキトウ ヤチヨ)という者だ。もしかして君が決勝の相手なのかな?」
そう言って八千代は健聡に握手を求め、手を差し出した。
健聡はそれに応え、八千代の手を握る。
「ずいぶんと穏やかなんだね、おジイさん。仰木健聡っていいます、どーぞよろしく」
「おじいさんっていうほど歳はとっちゃいないがね、孫もいない」
「……ふーん。ま、どうでもいいけどね。今までずーっとおねーさんが相手だったからさあ、まだじーさんのほうがやりやすいよ」
「それは僕も同じだ。女の子や蜘蛛と比べたらずっとやりやすい」
「へえ! 蜘蛛なんてのがいたんだ。いいなあ、ラクだったんだろうなあ」
「……ま、普通はそう思うだろうね」
そのとき突然、ふたりの間に割って入る者が現れた。
「お二方、よろしいか」
「うわっ、びっくりした!!」
「……また貴方か」
「我輩はお二人の立会人である、名前は真田内」
シルクハットから飛び出た猫の耳のようなものがピコピコ動いている。
健聡は立会人がどこから現れたのかと周囲を見回すが、立会人はそれに構わず話し続けた。
「ルールを簡単に説明するのである。勝負の方法、勝敗についてはそちらで自由に決めて頂きたいのである。
ただし、この砂浜からは出ないこと。海に入るのは勝手であるが、きっと冷たいのである。
この砂浜には砂以外何もないし、君たち以外には誰も近づかせないのである」
「ルールっていう割にはほとんど決まっていないも同然なのだな」
「そして、あの夕日が海に沈むまでに勝敗を決めていただきたいのである」
立会人が海の上に浮かぶ夕日を指差し、健聡と八千代はそのほうを見た。
夕日はすでにかなり水平線に近づいており、日が沈むまでには1時間とないだろうとふたりは予想した。
二人が立会人のほうを向きなおしたとき、立会人はいつのまにかすでにその場から消えていた。
「……と、いうことみたいですけど、どうしましょうね」
「そうだな……それじゃあ単純に、『力比べ』といこうか?」
「あー、そうすねー……。もしくは、じーさん……」
健聡は一歩下がって顔の前に両手を合わせた。
「……僕に勝ちを、譲ってもらえねーっすかね?」
八千代は拍子抜けするが、それはすぐにため息に変わった。
それを見て健聡は合わせた手を離す。
「ま、そーっすよね。まあ僕も勝ちを譲ってもらえるなんて思ってなかったし。
だけどねじーさん、僕の今までの対戦相手はね、僕のお願いを断った後みんな負けてるんだよ」
八千代は腕を組み、さらにもう一つため息をついて言った。
「それが、どうしたんだ。僕への脅しにはなるまい」
「まあ気にしないでください。ゲン担ぎみたいなもんですから」
そう言って健聡はニヤリと笑った。
健聡には強力な味方がいた。
それは、胸ポケットに大切に入れた一枚のカード。
2回戦で秘森セレナが健聡に託した『世界』のタロットカードだ。
そのカードが示すのは『完成・成就』、健聡にとってはトーナメントの優勝に他ならない。
占い師としての彼女の能力は身に染みてわかっていた。
健聡は、かに座が12位だと言った朝の占いは信じないが、彼女の占いだけは信じている。
そしてそれは自信となって、彼に力を与える。
「それじゃあ間合いも悪くないし……そろそろ始めましょうか」
八千代は健聡に対し余裕を見せていながらも、内心焦っていた。
それは「砂浜」というこの場所が原因だった。
八千代のスタンド『ギア・エクスペリエンス』は速いスピードを誇るスタンドだ。
しかし不安定な砂浜の上では体の軸が安定せず、そのスピードは生かしにくい。
さらにこの砂浜はスタンド能力にも相性が悪かった。
『ギア・エクスペリエンス』の歯車は、歯車がかみ合ってこそ効力を発揮する。
しかし、不定形な砂浜の上では歯車を仕込むことはできないし、複数の歯車をかみ合わせることもできない。
戦いの舞台には、立会人の言っていたとおり砂以外は何もなかった。
ただ、八千代と健聡の二人が対峙しているだけだった。
一方の健聡は考えるまでもなく八千代に攻撃を仕掛けた。
ただし、自身のスタンド『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』はパワーこそあるものの攻撃一つ一つが大振りで、そこそこスピードのある相手なら簡単にかわされてしまう。
それは自分も当然熟知しているため、ただ拳を振るうのではなくあるモノを使った。
「それ」をポケットから取り出し、八千代に向け放り投げる。
八千代が見たモノは、小さな茶色のガラス瓶だった。
そのガラス瓶は八千代の胸元に来たところで、銃声のような音と共に破裂した。
八千代はスタンドを発現し防御する間もなく、ガラス瓶の細かい破片と中の液体の飛沫を浴びた。
とっさにかばった両腕にはガラスの破片が突き刺さり、
液体は衣服を焼いたように穴を空け、皮膚にかかった部分をジュクジュクと焼き、赤く腫れ上がらせた。
「………グッ!」
「あー顔にかからなかったか、よかったっすねえ。しばらくアトが残りますから、硫酸ですからねえ」
八千代の両腕を襲う鋭い痛み。
少し腕を動かすだけでも、空気の圧力を感じただけで剣山を突き刺されたようだ。
「じーさん、なんですか? その顔。まっさかヒキョーとか言わないすよね?」
「……いや、まさか武器を用意してくるとは思わなかったからね。甘かったのは私だ……これは、スタンド能力か?」
「そうです、『体液に衝撃を込められる』能力……ツバを吐き入れた硫酸の瓶を、瓶が割れる程度のパワーで殴る。
衝撃はため込まれ、ついさっき、あんたの目の前で炸裂させたんだよ」
健聡は両手を広げ、八千代をからかうように話す。
「……わざわざ自らの能力をバラすのか?」
「僕は考えるより先に行動するのが信条だからね。いずれバレる能力だ、だったら先に知ってもらった方が行動しやすいだろ?」
「……そうか、ずいぶんとなめられたものだ」
八千代はばらばらになったガラス瓶の破片を集めて両手を重ねた中に閉じこめた。
健聡はそれをじっと見ていた。
八千代が手を離すと、割れていた瓶がもとの形に戻っていた。
ところどころ、細かいかけらが抜け落ちたように穴があいていたが、八千代の拾ったかけらのすべてが、瓶が割れる前の状態に戻っていたのだ。
「僕の能力は『歯車』。歯車を仕込んだモノの時間を進めたり、戻したりできる」
「ふうん……それで、ビンが『直せる』んだ。それって、おじーさんのケガは『治せ』ないの?」
「……ああ、自分自身のケガはなおせない」
「……べっつにじーさんの能力は教えてくれなくてもよかったけどね」
「なに、対等な立場でなければ勝っても意味がないのでな」
八千代はそう言うや否や、健聡との距離をつめるべく、重心を前に傾け一気に駆け出す。
「『ギア・エクスペリエンス』ッッ!」
スタンドが発現し、健聡に殴りかかる。
だが、砂に足を取られてバランスを崩し、パンチは空振りする。
(じーさんのスタンド……速ェ!)
(く……やはり、この砂浜は僕にとっては戦いにくい!)
八千代にとって、とるべき手段は肉弾戦以外に残されていなかった。
スタンド能力の発揮できぬ場所、再び来るかもしれない敵のスタンド能力による攻撃、腕のダメージ……
砂浜の上では八千代のスタンドのスピードは活かしきれない。
しかし、それでも八千代が取りうる最善の策だった。
それに対し健聡は、反撃することができない。
パンチが空振りし八千代には大きな隙ができていたが、そこで確実、迅速にカウンターを打てるほど健聡の『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』にはスピードがない。
きっと、拳を振りかぶるうちに相手のスタンドは体勢を立て直して追撃してくるだろう。
それは考えるより先に、『感覚』として健聡が認識していた。
健聡のとった行動は、『逃げる』ことだった。
「ヤ……ベェっ!」
(背を向け……逃げる、だと!?)
敵前逃亡か、と思った八千代だが、ルール上それは試合放棄というわけではなかった。
立会人の設定したルールには、『砂浜から出ないこと』とあった。
逆にいえば背を向けて逃げようが、砂浜にいるうちは負けとならない。
しかし、『敵が距離を置いてからの攻撃があるかもしれない』と考えている八千代にとっては、それをほうっておく事はできない。
八千代は逃げる健聡を追い出した。
八千代にとってこの砂浜はスタンド能力を発揮しにくい場所であったが、それは健聡にとっても同じことだった。
自分の体液、例えばツバ等は砂浜に落ちた瞬間に、水分が砂に吸い取られてしまうのだ。
二人にとって、砂浜というステージは思っていた以上にやっかいな場所だった。
逃げる健聡を負い続ける八千代だが、いっこうに距離をつめることはできないでいた。
健聡に比べて倍近い年齢の八千代は体力に劣る。
そのうえ、砂浜に足をとられて足取りはしだいに重くなっていく。
しかし、その終わりはあっけない形で迎えることになった。
健聡がズルリ、と足を砂で滑らせて転んでしまったのだ。
すぐさま健聡が起き上がろうとした時、八千代は追いついてあおむけの健聡の上に馬乗りになった。
「…………はあ、はあ」
「ずいぶん息が切れてるけど……大丈夫? じーさん」
健聡は自分の腰の上にまたがる八千代に向けて言った。
「なんのつもりか知らないが……体中汗ばんで気持ちが悪い。だが、すぐ終わる」
八千代はそう返し、スタンドを発現させた。
『ギィラララララララララララララララララララ!!!!』
超至近距離からのラッシュが健聡に襲い掛かる。
健聡がガードできたのは、スタンドの腕で覆った顔面のみ、それ以外はすべて健聡の体に叩きつけられた。
目にもとまらぬスピードで放たれる打撃は健聡の体にダメージを蓄積させていく。
やがて八千代は打ち疲れて攻撃を止めた。
殺しはしない程度だが、動かなくなるのに十分なだけのダメージを与えた。
そう、八千代は思ったが。
健聡はすぐに八千代の胸ぐらを掴んだ。
「なっ!!?」
「ボケてんのか……じーさん」
健聡はラッシュを打ち込まれたとは思えないほど、ハッキリとした口調で話した。
「な、何故動ける!?」
「忘れたのかよ……『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』の能力は『体液に衝撃を込める』こと。そして、アンタが言ってたんじゃねえかよ」
「……?」
「『走り回って体中汗をかいた』ってよ」
「ッ!!」
八千代は健聡の狙いに勘付き健聡から離れようとするが、健聡は八千代の体を引き寄せた。
「僕は逃げ回っていたんじゃない、『僕も』走り回っていたんだ。アンタと同じように、体中に汗をかくのを待っていた。さあ……覚悟はいいか?」
「すぐに引き剥がせ『ギア・エクスペリエンス』!!」
「解放だッ、『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』」
まるで打ち上げ花火が地表で炸裂したような、大きな音と光が砂浜の上で放たれた。
砂浜には、互いに血だらけの八千代と健聡が離れて倒れていた。
先に立ち上がったのは、八千代だった。
しかしそれでもゆっくりと、かろうじて立ち上がることができたという状態だった。
『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』が溜め込んだパワーは、『ギア・エクスペリエンス』のラッシュのパワーを一つにまとめたほどのものだった。
もし『ギア・エクスペリエンス』のパワーがスタンドの最高クラスのものであったなら、八千代は生きていなかっただろう。
八千代は倒れたままの健聡に歩み寄った。
『ギア・エクスペリエンス』がラッシュを放った健聡の上半身は、自身の能力の衝撃によってどこが傷でどこが血糊なのかわからないほど凄惨な状態だった。
それは八千代もほとんど同じだったのだが。
八千代が先に立ち上がったとはいえ、まだ勝負がついているわけではなかった。
健聡の意識の有無を確認すべく、ゆっくりと近づいていく。
八千代が健聡の首元に手を近づける。健聡は目を閉じたまま動かないが、脈を確かめようと首筋を指で触った。
その時、ガバッと健聡が起き上がり食らいつくように攻撃を仕掛ける。
スタンドを発現させたのも、その拳を振りかぶったのも、健聡が早かった。
だが健聡の攻撃が当たるよりも早く、八千代は瞬時にスタンドを発現させ『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』の拳が迫り来る前に『ギア・エクスペリエンス』の拳を健聡に打ちつけた。
一発でなく、二発、三発、四発、五発……『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』のたったひとつのパンチの前に、八千代は二度目のラッシュを放った。
『ギィラララララララララララララララララララ!!!!』
『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』の拳はもはや止まっていた。
スピードで『ギア・エクスペリエンス』に敵うはずも無く、健聡は八千代の攻撃を受けるのみだった。
しかし、健聡の顔には苦悶も、絶望もなかった。
ただ、嗤っていた。
八千代が自らの過失に気づいたとき、健聡はすでに八千代の首を捕まえていた。
「……しまっ……た、『体液』…………そうか、君はここまで計算に入れて……」
八千代はすでに攻撃をやめていた。今度は打ち疲れたからではない。
ラッシュを放ったことは間違いだったと、気づいたからだ。
「『計算』……じゃあない、ここからが僕の『覚悟』だったんだ」
健聡は『成就』を目の前にしていた。
「僕のスタンド能力……今度は、僕の体から流れた血液に、アンタのスタンドパワーを溜め込んだ」
「……しかし、今度また先ほどと同じことをすれば、君もただではすまんぞ」
「だが少なくともッ……これで、アンタの勝ちはなくなった」
健聡は八千代が離れないように、空いたもう一方の手で胸ぐらをつかみ引き寄せた。
「いくぜ、『Make Some…』」
「ま、待て!」
八千代が健聡を引きとめた。
「……わ、わかった。僕の負けだ……」
「…………」
「確かに僕に勝ち目はない。だが、このまま君が能力を発動させたら君まで死んでしまう。相討ちの可能性が高い」
「……そうかな、試してみようか?」
「は、早まるな! このままでは僕に勝ち目はないと言っただろう! もう勝負はついたんだ」
「…………」
「戦いにおける覚悟は……君のほうが上回っていた。正直、そういうところには尊敬の念を抱かずにはいられない」
「へっ、そうかい」
「敬意を表し、君の怪我を治させてくれ……僕自身の怪我はなおせないが、せめて君だけは……」
「…………」
健聡は考えた。
降参をした相手に対し、信用をしているわけではなかったが、ここから相手が逆転する手立てがないのは確かだった。
砂以外何もないこの場所で、相手が自分に直接攻撃をする以外に戦う手段はない。
だが、相手の攻撃はすべて自分の体表にまとわりつく血液に吸収させることができる。
他に怪しい行動をとれば、能力を発動すれば一瞬で勝負はつく。
なるほど、確かに相手にとってもう勝ち目はない。
しかし、勝ち目はないとしても相討ちの可能性は十分にある。
血液に溜め込まれたパワーは、体を吹き飛ばすほどではないにせよ、ダメージは相当である。
自分自身も気絶しかねない。
そうなったら、決着はどうなる?
だが今、相手にとって『詰み』の状態ではあるのは確かだった。
「…………」
健聡は小さく頷いた。
八千代の降参を受け入れたのだ。
八千代はそれを見て、『ギア・エクスペリエンス』を発動させる。
ゆっくりと、健聡の体に手をのばし、触れた。
健聡は何か一つでも八千代が怪しい動きをしようものなら、すぐさま自身の能力を発動させるつもりでいた。
傷が治っても、流れ出た血液がそのままならそれは可能だった。
八千代は『ギア・エクスペリエンス』の能力を発現させた。
健聡の体の表面に歯車が現れ、回りだす。
そして徐々に、健聡の傷がふさがっていった。
ポツリと、八千代は呟いた。
「勝ち目はなかった……あのままでは、な」
それを聞いた後、健聡は自分の体を見て、失態に気づく。
八千代の言うとおり、怪我は治った。
だが、流れ出ていたはずの血液も消えていたのだ。
「君はひとつ、勘違いをしていた」
「…………!」
「僕の『ギア・エクスペリエンス』は『なおす』のではない、『もどす』のだ。
涸れた川に雨が降るのではなく、さかのぼるように水がもどってくる。
怪我は細胞が新たな皮膚をつくるのではなく、壊れた細胞が復活する。
失った血液は新たに作られるのではなく、『流れた血液がそのまま戻ってくる』」
健聡の体は八千代によって、戦いの直前まで『もど』されていた。流れ出た血液も含めて。
それはすなわち、健聡の体表の血液に溜め込まれていたパワーも失われたことになる。
「あのまま、君が再び能力を発動させていたらもしかしたら君は勝っていたかもしれない。相討ちの可能性はあったにせよ……
しかし、今となってはそうすることも不可能だがね」
健聡は後悔した。
あのとき、覚悟を決めたはずだった。
なのに、考えてしまった。
八千代の提案に対し、考えてしまった。
自らの『信条』に反して。
(今朝の占い……12位だった占いの内容、思い出した。『12位かに座。自分を見失いがちになるかも、注意しましょう』……。
なるほど、自分を見失っていた僕には『成就』もクソもないんだな)
「くそおおおおおおオオオオオあああああああああああああ!!!」
健聡は叫び、スタンドを発現させて八千代に飛びかかった。
満身創痍の八千代に対してなら、競り勝てると思い――
「『ギア・エクスペリエンス』ッッ!!」
『ギィラララララララララララララララララララ!!!!』
だがそれよりも早く、八千代の『ギア・エクスペリエンス』は健聡の全身に拳を打ちつけた。
三度目のラッシュは、汗も血液もない健聡の体を叩き続ける。
健聡の服のポケットから一枚のカードが砂浜に落ちたが、健聡がそれに気づくことはなかった。
★★★ 勝者 ★★★
No.5297
【スタンド名】
ギア・エクスペリエンス
【本体】
時任 八千代(トキトウ ヤチヨ)
【能力】
殴ったものに歯車を発生させる
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最終更新:2022年04月17日 13:02