第13回トーナメント:予選①




No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する


No.3198
【スタンド名】
ストーン・エイジ
【本体】
モーニカ・ウォールドマン

【能力】
ボディの外見を様々な姿に変化させる




アルファベティカル26 vs ストーン・エイジ

【STAGE:吊り橋】◆UbkAjk7MJU





「この吊り橋の向こう側は『ツバメ島』言うての、上から見るとツバメが飛んでるような形をしておるんじゃよ」

老人が杖を指した先には黒い岩肌で覆われた小さな島があった。
岩肌は真上から降り注ぐ太陽の光によって熱をおび、島越しに見える景色を歪めさせていた。


「あそこで戦う、ますか?」


老人の後をついてきた少女が、つたない日本語で問いかけた。
潮風に揺られる白い髪が、透き通るような肌に伝う汗が、キラキラと輝いて見える。


彼女、モーニカ・ウォールドマンは日本が大好きだ。
きっかけは、ひとつの日本の漫画である。
リーゼント頭の少年が不思議な力を使って、闇に潜む悪の手から小さな町を救う物語。
これに強く心を打たれたモーニカは日本の漫画やアニメを愛好するようになり、やがてその世界に浸かっていった。


トーナメント関係者が空港にモーニカを迎えにいくと、彼女はちょうど眼帯をつけ直しているところだったらしい。
目を患っているという情報は受けていなかったため、このトーナメントに関わるものとしては、それをデータとして聴取する必要があった。
聞くと、モーニカは、よくぞ触れてくれました!と言わんばかりの笑顔で「ジャパニーズ・チューニビョー」と答えたという。
彼女はすっかり染まってしまったようだった。



「いんや、今日お前さんたちに戦ってもらう場所は……およ?もう一人のお譲ちゃんが見当たらんが」


振り返った老人は、モーニカの対戦相手がいないことに気づいた。
ここまで三人並んで歩いてきたはずなのだが、いつの間にかはぐれてしまったようだ。
すると少し遅れてから、乱暴に草を掻き分ける音と共に、倒れこむようにして女性が姿を現した。


「も、もう無理です!もう歩けません!足パンパンですぅ」


「なんじゃあ、だらしない。今から戦うんじゃぞ」


「だって私インドア派ですもん。太陽浴びると死んじゃうんですもん……」


「大丈夫、です?」


戦う前から疲れ果てた様子の彼女、八重神 宝(やえがみ ほう)はれっきとした日本人だ。
黒褐色の肌、奇抜な髪色、そして英字タイトルの小説を小脇に抱えた外見は日本人からはかけ離れたものだが、南米出身の父親を持つハーフである。
一方で趣味は習字、特技は百人一首、休日はもっぱら家で読書という、その見た目とのギャップは初対面の人間に毎度衝撃を与えていた。


当然のようにモーニカからはまず英語で話しかけられたが、宝は慣れっこといった様子で日本人であると告げていた。


「今日戦ってもらう場所は、あのツバメ島に向かって架かっておる『吊り橋』の上じゃ。
下の海に落ちたり、もう戦えんとわしが判断したら負けじゃな」

「えーっと、あの吊り橋の上だけですか?」

「そうやの。吊り橋の外の陸側に足を着いたら棄権と判断、それも負けじゃ」

吊り橋は長さ30m、幅1m程のもので、足場は横向きに木の板が並べられた少し頼りない印象を持つものだった。
走ったり、ジャンプしたり、ましてやスタンドバトルなんてしようものなら簡単に壊れてしまうのではないかと思える。
その下の海は比較的穏やかで、綺麗なブルーが夏の暑さを忘れさせてくれるほどに涼しげに見えた。
しかし海までの高さは結構なもので、高所が苦手な人間にとっては景色を差し引いても恐怖でおつりが返ってくる。


「死なん限りはわしがすぐに助けるからの、お譲ちゃんらも手加減せっと本気でやってな」

「お爺さん、かこいい!」

「頼りがいがありますねぇ」

「ほっほ、口説いたってわしにゃバーさんがいるからの」

老人は満更でもない感じで笑っていたが、橋の前に着くとその表情は一人の立会人としての顔つきへと変わった。


「では、お互い橋の両端に着いたら開始とする」

そうして、戦いの火蓋が落とされた。


「『アルファベティカル26』!」

宝の傍らに現れたのは、額に「C・A・T」と書かれた猫だった。
同じように背中側からもう一匹、「D・O・G」と書かれた犬が現れる。

「それ行っけぇー!」

宝が合図をすると二匹は前方へ駆け出した。
爪や牙をむき出しにして、あっという間にモーニカの眼前まで差し迫る。


アルファベティカル26はAからZまでのアルファベットの形をした総勢26体の群体型である。
その能力はアルファベット同士が連結して一つの単語になることで、「そのもの」に変形できるという一見万能なもの。
しかし同じ文字が存在しないという制限と、文字それぞれには殆ど戦う力がないという弱点があるため、
それを悟られないよう単語になっていない余った文字たちは、背中側に隠して戦っていた。


「『ストーン・エイジ』ッ!」


すんでのところで出現させたモーニカのスタンドは、橋の横幅にぴったり収まる幅約1m、高さ2m程の鉄板だった。
宝の猫と犬は突然現れた黒い壁に激突し、回り込むこともできず立ち往生してしまった。


(大きな鉄板……あれが彼女のスタンドだね。さすがにあの子達じゃキツそうかな)


冷静に状況を把握しつつ次の攻撃手段を考える宝。
一方のモーニカはストーン・エイジを自身の前方に発現させたまま前進し、宝を橋の出口まで押し出そうと考えていた。
ストーン・エイジは板状という枠内で外見を変化させたり、強度を自由に調節することができるスタンドである。
今は見た目どおりの鉄板状で、鉄同様の強度を持っているため、そうそうこれを破壊することはできない。
このまま一気に畳み込もうと、モーニカは力強く走り出した。


目の前の黒い壁が迫ってきたのを見て、宝の猫と犬は一目散に逃げ出した。
二人の距離はどんどん詰まって行き、あと10mも進めば宝を橋の外に追いやることが出来る。

しかし、それからすぐにストーン・エイジは何かにつっかえて進むことができなくなった。


「ぐるるるるるううぅぅ……」

鉄板の向こう側から、先ほどの猫や犬とはおよそ似つかない獣の声が聞こえた。
モーニカの表情が強張る。ストーン・エイジの欠点を突かれてしまった。

声の主は額に「B・E・A・R」と書かれていた。熊である。


「なるほどぉ、その鉄板自体の力は並ってところなんだね」

少し意地悪そうな顔をして、宝は言った。
宝の認識どおり、ストーン・エイジは防御面こそ鉄壁そのものであるが、攻撃面においては力もスピードも胸を張れるものではなかった。
形勢は逆転し、今度は熊の力によってモーニカが押され始める。もはや力では叶わない。


(このまま、よくないです。最後の手段、します……!)

モーニカの手に力が入り、何かを覚悟したかのような顔つきに変わった。
そしてモーニカは、後方に残された5m程のスペースを目一杯後ろまで引き下がった。
この行動に、宝は一瞬モーニカが負けを認めたのかと思ったが、スタンド同士がいまだに押し相撲を止めないところを見て油断はしなかった。


(まだ何かある……?でももう遅い、させる前に一気に押し切る!)

「ぐるるるるおおおおおおおぉぉ!!!」

宝のスタンドである熊が決着をつけんとばかりに力を込めた瞬間だった。
今度はモーニカがストーン・エイジに向かって走り出し、その勢いのまま自身のスタンドに飛び乗った。
と同時に、ストーン・エイジは抵抗を止め、スッ、と急上昇をした。
それによって力の行き場を失くした熊はバランスを崩し、前方に大きく倒れてしまう。


「飛べるの!?やばい、直接こっちに!」

宝から見てモーニカは、太陽を背にするようにして飛んでいたため気づくことはできなかったが、
この時ストーン・エイジの底辺部分は刃物のように鋭利になっていた。


「『ストーン・エイジ』ィィイイッ!!」

そして、モーニカは力いっぱいを込めてその刃を……

真下に向かって突き刺した。


横たわっていた熊は真っ二つに両断され、形を維持できなくなったアルファベティカル26の「B・E・A・R」は、それぞれ元の姿に戻る。
自分のもとへ向かってくるものだと思っていた宝はその行動に戸惑ったが、次の瞬間にはその行動の意味を理解させられた。
まるでギロチンのようなストーン・エイジは、熊を斬っただけでその勢いは収まらず、さらには吊り橋までも両断した。


「っ……!」

あまりに唐突な出来事に、宝は悲鳴もまともに上がらなかった。
今まで橋の外に押し出すことのみを考えていたが、海に落ちても敗北が決定する。
高速で海が近づいてくる中、宝はとにかく飛ぶことを考えた。
自分のスタンドにならそれができると信じて。


そして生み出したのは、「T・S・U・B・A・M・E」だった。

「きゃあああああぁあぁあぁぁぁ!!!!」

今度は大きく悲鳴が上がった。
動転した中で導き出された答えは、目の前のツバメ島から連想される、ただのツバメであった。
当然のように小さなツバメの体にしがみつこうとも、自分の体を持ち上げるだけの力はない。

モーニカはストーン・エイジに乗ったまま、宝が海に落ちて行く様子を静かに眺めていた。




「……ふむ、長生きはするもんじゃな。これはなかなか珍しいもんが見れた」

立会人の老人が感嘆の声を上げた光景。
それは第二ラウンド「空中戦」が始まろうとする二人の姿だった。


「はぁ、はぁ、ギリギリだったぁ」

宝は海に落ちる直前で「W・I・N・G」を生み出し、水面を蹴るような勢いで羽ばたいていた。
宝のその姿を見てモーニカは、またもや予想外の反応を見せる。


「か、かこいい!です!」

「え?」

「天使です!」

モーニカのキラキラとした視線に少し恥ずかしさを覚える宝。
しかし、偶然にもモーニカの気が逸れている今、これをチャンスとして攻撃を仕掛けようと考えた。


(今は真剣勝負の最中、卑怯だなんて言わせないからねっ!)

モーニカまでの距離は20mといったところ。
この距離で効果的な攻撃としてまず銃撃が思い浮かんだが、それではストーン・エイジの鉄壁に弾かれてしまう。
出来るだけ押し切る力があるもの、鉄壁を無視して効果を与えられるものを考えた。


(よし、決めた。ロケットで向こう側へ押し切る!)

「『アルファベティカル26』ッ!『R・O・C・K・E・T』に変身して!」


……………………

……………………。

しかし、反応はなかった。


単語の中で同じ英語は使っていない。
「W・I・N・G」の中にも重複する英語はない。
それなのに何故。


「わかった。宝のちから」

モーニカは笑顔でそう言った。
しかし、先ほどまでキラキラしていた笑顔とは違って、今は不敵な笑みといった印象を受ける。


「この箱の中、何か入ってる、わかる?」

モーニカの頭上に黒い箱がぷかぷかと浮かんでいた。
同時にモーニカが乗っているストーン・エイジは少し前よりもだいぶ小さくなっていた。
ストーン・エイジはその体を9枚まで分裂させることが出来る。
本来は板以外の形状に変形することは出来ないが、分裂した上で形を作れば箱型になることも可能だった。


「箱の中に何か……はっ!」

いろいろと考えを巡らせていた宝の頭の中に一つの答えが導き出され、さっきまでの疑問と結び付けられた。


「『T・S・U・B・A・M・E』がいない」

「せいかい、です!」

そう言って黒い箱を少しだけ揺らしてみせると、中から微かに鳥の声が聞こえた。


「宝のちから、作る力です。アルファベット、使って。さっき落ちるとき、見えました。26個」

宝は反省した。
日本語のつたなさ、見た目や行動から伺える幼さ……そのつもりはなかったが、無意識に油断していたのかもしれない。


(当然だ……これは真剣勝負。彼女だって勝ちを狙ってる。本気で戦ってるんだ)

「W・I・N・G」と「T・S・U・B・A・M・E」を除く15個のアルファベットで作れる有効手段を必死で考える。
しかし、思った以上にツバメを捕らえられてしまったハンデが大きかった。
考えれば考えるほど焦りは募っていき、焦れば焦るほど頭の中は真っ白になっていった。


「ごめんなさい。もう一回、宝、落とします!」

何も出来なくなってしまった宝を、モーニカはただ見守っているわけもなく、追撃を開始した。
まずモーニカが乗っているストーン・エイジが、さらに二つに分裂する。
片方は、そのままモーニカの足場となって浮遊を続けた。
そしてもう片方は四辺を刃状に変形させ、徐々に回転を始める。


「覚悟、ください。宝!」

(来るっ……!)

回転していたストーン・エイジの刃が、宝に向かって一直線に飛んできた。
スピードこそ速いものではないが、宝にとって慣れない翼を扱う空中では、それでも十分な速度だった。


(くっ、避けるだけで精一杯だ。早く何か考えないと。この状況を切り抜ける何かを……)

避けても避けても襲ってくる刃に、翼をばたつかせて何とか逃げる宝。
対するモーニカも、箱の形成や足場に気を使いながら刃の操作に集中していた。
照りつける太陽が余計に暑く感じてきて、お互いの体力ももはや限界に近い。


その時

<バツンッ!!>

朦朧としはじめていた意識の中に、突然衝撃が走った。


「えっ」

その音は、宝の翼がえぐられた音だった。
かろうじて分断はされなかったが、完全にバランスを崩して思うように飛ぶことが出来なくなる。


「な、なんで!避けていたはずなのに!」

予想外の出来事に思わず声を上げてしまう。

宝はギリギリながらも、確実にストーン・エイジの刃の動きを見切って避け続けていた。
それなのに攻撃を受けてしまった。
その理由は、辺りを見回すとすぐにわかった。


「『ストーン・エイジ』は、全部で9枚。あるです」

今まで逃げ続けていた回転するストーン・エイジのすぐ近くに、もう一つ、回転する羽毛の塊が見えた。
その塊は次第に遠心力によって羽毛が引き剥がされていき、やがてそこには何もなくなってしまった。


「なるほどぉ……それ、透明になれちゃうんだ。」

箱型の6枚、足場の1枚、そして回転していた刃は1枚ではなく2枚あった。ひとつは透明になって。

宝の体が大きく傾き、そこへとどめを刺すがごとく、翼に向かって刃が突き刺さる。
翼の左端、「G」の文字を分断された「W・I・N・G」は単語の形を保つことが出来なくなり、分散してそれぞれのアルファベットに戻った。


(負けちゃったぁ)

翼を失った宝は重力に体を預けた。


刃を避け続けて行くうちに、いつの間にかモーニカよりも遥か上空まで上昇していたようで、海までも結構な高さがあった。
宝の視界には、ツバメ島の全貌が映った。それは確かに空を自由に飛んでいるツバメの姿をしていた。


(皮肉だなぁ、私のツバメは飛ぶことも出来ないのに)

モーニカの頭上にぷかぷか浮かぶ小さな黒い箱の中には、まだあの時のツバメが閉じ込められている。


(あーあ、せめてツバメさえいれば……)

……………………

……………………

……………………

……………………。

違う。


「『ツバメだけ』いればいいんだ」

何かに気づいた宝は落下を続けながらも、体勢を立て直した。


(まだなにか、するですか)

宝の動きにモーニカも気づいた。
まもなく宝が自分の位置まで落ちてくる。何か仕掛けてくるとすればそのタイミングだろう。
そう考えてモーニカは、じっと宝を見据えて警戒していた。


しかしモーニカの視線は一瞬にして遮られる。

突然現れた巨大な影に飲み込まれて。


その影はツバメを閉じ込めていた、ストーン・エイジの箱の中から現れた。
あまりにも大きなそれは小さな鉄の箱をいとも簡単に吹き飛ばして、その巨躯をモーニカに振りかざす。


「笑っちゃうくらい簡単じゃんか!ツバメは仲間はずれじゃなかったんだ!」

宝が見つけた答えは、「T・S・U・B・A・M・E」の中に存在した。




「 B・U・S だぁぁぁぁッ! 」




水をたたきつける轟音が、辺りに響き渡る。

吊り橋まで届くほどの大きな水柱。

そして、その周辺に飛び散った肉片が、戦いの幕引きを告げていた。


「このお肉、なんです?」

「あはは、『T・S・U・B・A・M・E』から『B・U・S』を取ったら『M・E・A・T』が余っちゃって、つい」

「おなか、すいたです!」

「そうだねぇ、久しぶりに運動したもん」

戦いを終えた二人は近くの浜辺に寝転がって談笑していた。
あの後、ストーン・エイジでバスの重量を支えようとしていたモーニカだったが、必死な抵抗もむなしくそのまま海に着水。
……寸前のところで、立会人判断により勝敗を決し、老人は不思議な力で二人を抱えて浜辺へ放り投げた。


「試合終了じゃな。勝ったのは黒いほうのお譲ちゃんじゃ」

「ちょっと!私『八重神 宝』って立派な名前があるんだけど!」

「ほほ、すまんの。もう歳じゃてすぐ忘れよる」

「宝、名前、かこいい!」

「やっ、ストレートに言われるとちょっと恥ずかしいなぁ」

「ほれほれ、白いほうのお譲ちゃんも、あんまり日に当たってっと黒くなっちまうぞ」

老人がいつもより少し饒舌になっていたのは、二人の白熱した戦いを見られて気持ちが高ぶっていたからかもしれない。



「でも翼を撃ち抜かれたときにはもう駄目だと思ったぁ」

「そうか?わしにゃあの時、『W・I・N・G』の『G』が切り離された瞬間……お前さんの『勝利』が確実なものになったと思ったがの」

「へ?」

「それが偶然か必然かはさておき、な」

「……よぐわがんない」

若い少女たちに可能性を見て、老人はこの仕事のやりがいを改めて感じていた。



「ほれ、日がくれる前に帰らんと」

「え、まさかまた歩くんですか」

「宝、たった二時間、我慢」

「もう無理……」

「家に帰るまでがトーナメント戦じゃ」

★★★ 勝者 ★★★

No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する








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最終更新:2022年04月17日 14:14