第13回トーナメント:準決勝①




No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する


No.6664
【スタンド名】
スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイア
【本体】
アルベルト・シラード

【能力】
触れた所にシャッターを取り付ける




アルファベティカル26 vs スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイア

【STAGE:ゴミ屋敷】◆iL739YR/jk





「……よし!」
八重神 宝(やえがみ ほう)は気を引き締めると、己の机の上に置かれた白い布に向き合う。
手には隅を含ませた筆を握り締め。

前回の闘い、無事に終えることこそ出来たが、ちょっとしたきっかけで大怪我……いや、命を失っていてもおかしくない状況だった。
それ故、彼女は気を引き締める。
油断は禁物。

『必勝』

白い布にそう書き記すと、彼女は気合を込めてそれを己の額に巻きつけた。


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「予想はしていたが……これほどとは……」
アルベルト・シラード は自室のデスクで一人考えていた。
前回のトーナメントと呼ばれる闘いで、彼は結果的に作戦行動に反する結果となった。
拘束されるべき地から脱走をしてしまったのだから。
しかし、上層部の彼の行動に対する判断は、『不問』であった。

「それだけ効力があるということですか……」
シラードは届けられた『赤い封筒』を見つめていた。


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「Well...Where are from? Is that your origin? (さて……君はどこ出身の何人かね?)」

「あ……えぇぇっと、こう見えて……I am Japanese……」

「オウ、これはスマナイ。そのハチマキは確かにニホンゴだが……」

「よく間違われるので大丈夫です……八重神 宝(やえがみ ほう)です。よろしくお願いします」

「ホウか。ワタシはアルベルト・シラード 。ヨロシク」

「時刻となりました。試合を始めさせていただきます」

その声とともに、どこからともなく現れたのは、深々と防止をかぶり、きっちりとスーツを着込んだ黒人男性。

「私、今回の立会人を勤めさせていただく、『エイブ』と申します」
彼は会釈すると、自身のそばにいる男女にコインを見せる。

「今回の勝負内容は、コイントスです。私が投げたコインの表裏を当てていただきます」

「……それだけ?」
いささか拍子抜けといった様子の宝。

「はい。コインの表裏を当てていただくだけです。それでは八重神様、表裏の指定をお願いします」

「じゃあ、表で……いいですか?」

「カマワナイデス……」

「では……」

エイブの投げたコインは高々と舞い上がり、そして……

シャキン!!

コインから飛び出したのは虫のような羽。

ブゥゥゥゥン……

コインはそのまま屋敷の2階の窓から中へと飛び込んでいった。

「……これは随分と遠くまで行ってしまいました。申し訳ございませんが、お二方に『コインの回収』と『表裏の確認』をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「OK……ハジメからそんなコトだとオモッテました」
そう言うや否や、一目散に駆け出すシラード。

「オサキニ……」

「あ、待ってください!」
宝も慌てて、後を追う。


ゴミを掻き分け、館の中を歩く二人。

「(このゴミの中からちっぽけなコインを探すのは少々骨がオレマスネ……)」

シラードは後ろを振り向き、宝の位置を確認する。

「お邪魔なショウジョは……」

シラードの身体から抜け出るのは彼の分身、 スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイア。
スタンドヴィジョンは飛び上がると、何か所か天井に触れていく。

「トウセンボです」

ガシャン!

一瞬のうちに閉じられた無数のシャッター。
その強固な盾を破壊するのは並大抵のスタンドのパワーでは不可能。
もっとも、シャッターである以上、手動で持ち上げることは可能だが……

「重たい……」
宝は自らのひ弱さを嘆いた。
まさかシャッター一つ持ち上げられないとは。

「ここは『熊さん』の出番かな。『アルファベティカル26』!」

B・E・A・Rの文字を象ったスタンドが宝の傍らで絡み合い、熊の姿へと変化する。

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「フム……2階へと通じる階段はコワレテますネ……」

シラードの記憶が正しければコインは2階へと飛び込んでいった。
まずは2階を探したいところだが、その2階へと上がる手段がない。

「さて、やはりここはスタンドで……」

「待て!!」

声のした方向にシラードが目をやると、そこにシャッターを全て開け終え、こちらへと走ってくる少女の姿があった。

動じること無く、間髪入れずに、シラードは己の足元に触れる。
シャッターの取り付け方向は任意。
彼の足元から、地面と平行に作られたシャッター。

「閉じるのはイッシュン……」

それは足を切断するギロチンのごとく、勢いよく宝へと向かう。


「W!」

宝は右手の上にWの文字を象ったスタンドを呼び出す。
そして、それを左手にはめた指輪へと載せる。

『指輪』である『R・I・N・G』のRとWが入れ替わると、宝の左手から『翼』『 W・I・N・G』が飛び出す。
小さな翼で飛び上がり、迫りくるシャッターを躱すと、余ったRをA・B・Eと組み合わせる。

「熊さん、もう一度お願い!」

腹に『B・E・A・R』と書かれた熊のスタンドがシラードに襲いかかる。

「fantastic……文字の組み換えで変化する群体スタンドデスか……それはベンリそうですネ!」

スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアをしっかりと発現し、迫りくる熊に対峙させる。

「が、所詮はただの熊です」

スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアのパワー、スピードを生かしたラッシュを叩き込まれた『熊』は形を維持できずに『B・E・A・R』の文字列へと戻った。

「私のスタンドの敵ではアリマセン……」

「(しかし、アルファベットの数だけいる群体型じゃあ、本人へのダメージフィードバックは期待出来そうにありませんね……)」

スタンド使いとの闘いにも慣れているシラード。
即座に宝への対応を考える、

「(さっさと本体を叩くか、無視してコインを探すか……)」

「ちょっとオトナシクしてもらいましょうか!」

シラードの結論は、本体を叩くこと。

「く……いけ!」
宝の背後から飛び出したのは3つのアルファベット。『M・U・D』

「滑って転べ!」
突進してくるシラードの足元で、『泥』となったスタンド。
ぬかるみに足をとられたシラードは転倒する。
しかし、文字通りただでは転ばない。
倒れながらも周囲の壁、床、ゴミ袋に触れ、無数のシャッターをギロチンとして宝へと向かわせる。
たとえ、『翼』を持ってしても回避できないような多方面からの襲撃。

「……えっと、B・E・A・RにM・U・DにW・I・N・Gだから……」

ガシャガシャガシャン!!

無数のシャッターが宝へと激突する。

「少々テアラにしすぎましたカ……!?」

シラードの視線に飛び込んできたのは、先ほどまで彼女がいた場所にそびえ立つ大きな鉄の箱。
それが宝をシャッターから守る防護壁と化していた。

「これは……エレベーター(Elevator)!? いや、違う……これは」

『D・U・M・B・W・A・I・T・E・R (貨物用小型エレベーター)』

「フツウは人が乗るものではアリマセンが、小柄な少女だからこそデスか……全く、なんでもアリですネ……」

D・U・M・B・W・A・I・T・E・Rはそれぞれの文字に分離すると、宝の後を追うように2階へと消えていく。

「さて、追いかけないと……」

シラードは壊れた階段に沿って、シャッターを発現。
そのシャッターが閉じる勢いで2階へと登る。

「タネが分かった『M・A・G・I・C』は恐れるものではアリマセン……」

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「ホウ……そこまでです」

2階のゴミの中で、コインを探す宝へと歩み寄るシラード。

「アナタにカチメはありませんヨ?」
シラードは宝本体へとスリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアを向かわせる。

「シラードさん、そういうのは勝ってから言ってください。行け、B・E・A・R!」

叫ぶ宝。
しかし、何も現れる気配がない。

「B・E・A・R……まさか……」

「そう、RとWは1階でオネンネしてますヨ?」

2階の宝の元へと戻ろうした文字群を見逃すほどシラードは愚鈍でなかった。
咄嗟にシャッターで作った簡易の箱の中に、RとWの2文字だけは閉じ込めることに成功していた。

「熊に戦わせることも、W・I・N・Gで避けることも、D・U・M・B・W・A・I・T・E・Rで逃げることもできないデスヨ……?」

そして、スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアのラッシュが宝の無防備な身体に叩き込まれた。

「……?」
しかし、シラードは感じる。
叩き込んだスタンドの拳から感じる違和感を。

「ホウ……まさか、アナタ……」

「はい、そのまさかです……」

ラッシュの衝撃で、彼女の額に巻かれていた『必勝』ハチマキがはだける。
むき出しの額に刻まれていたのは『C・O・P・Y』の4文字。

「私はC・O・P・Y (コピー)です……」

衝撃に耐えきれず、宝のコピースタンドは文字へと戻り、消えていく。

「完全にヤラレマシタ……まさかずっと替え玉と戦わされていたとは……」

本物の彼女はどうしている?
そもそもこの手の群体型は遠隔操作型であることが大半。
初めからずっと本体がスタンドのそばにいることを怪しむべきだったのだ。
この様子を影からずっと見て、反撃のチャンスを伺っているのか?
それとも既にコインを見つけてしまっているのか?

キラン……

思考するシラードの目に飛び込んできたのは一つの煌めき。

「あれは……」

まぎれもなく『コイン』……立会人が投げたコインそのもの。
勝負の経緯がどうであれ、先にアレを立会人に届ければいい。

「ホウはまだコインを見つけられていなかった……ということデスか」

シラードはコインを手にとり、呟く。

「なんて言うと思いましたか?」

そう言うと、シラードはスリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアの手刀でコインを叩き割る。

砕けた『コイン』は『C・O・I・N』の文字へと戻る。

「私を舐めすぎデスヨ……ホウ。何度も同じ手には引っかかりません……」

消えいく『C・O・I・N』の文字を再びシャッターの檻へと閉じ込める。

「これでコインもコピーも作れませんネ……つまり……」

シラードはもう一つ、自身のそばに落ちていたコインを拾う。

「これは『R・E・A・L』、『本物』です」


**********************************************


「シラード様、お帰りなさいませ」

屋敷から抜け出したシラードへ立会人は深々と頭を下げて迎える。

「立会人、コインを回収した。裏デシタよ……」

「左様ですか。それでは、コインの確認を……」
シラードは立会人へとコインを手渡す。
無論、宝の乱入がないよう、警戒を怠らずに。

「確かに、本物のコインのようですね」
乱入なく、無事に手渡されたコインを立会い人はまじまじと見つめ、確認する。

「それでは……私のカチというコトでイイノカナ?」

「いえ、シラード様。それが話はそう簡単にはいかないのです……」

「何……?」

ゴゴゴゴゴゴゴ………

「何故ならば……」

立会人は深々と被った帽子を脱ぎ、シラードと向き合う。

「私は『本物』の立会人ではございませんので……」

ゴゴゴゴゴゴゴ………

彼の額に刻まれていたのは『A・B・E』の3文字。

『A・B・E』は『T・S・U・B・A・M・E』になると、コインを咥え、シラードの頭上を越え、後方へと飛んでいく。
ツバメが降り立ったその先にいたのは一人の少女……

「シラードさん、『初めまして』。八重神 宝(やえがみ ほう)です」

コインを受け取った『本物』の宝は、彼女のそばに立つ『本物』の立会人『エイブ』『A・B・E』にコインを見せる。

「エイブさん、コイン回収しました。表でしたよ」

「承知しました。この勝負、八重神 宝様の勝利と致します……」

「まさか……情報戦でワタシが負けるとは……」

「(いや、チガイマスね……)」

戦場が『リアル』から『ヴァーチャル』へとシフトした情報戦の時代、なりよりも強力な兵器は『情報』。
実体なきものを見極めることが勝利の鍵。
そう信じていた男は、最後の最後で『リアル』を見極めることが出来なかった。

「(それが今回のハイインです)」

勝利に喜ぶ目の前の少女の姿に、どこか1回戦で出会った少女、『鳴』の姿が重なって見える。

いつの時代も未来を掴むのは、ひたむきに『リアル』を追い求める若者なのかもしれない。
シラードはそう思った。

★★★ 勝者 ★★★

No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する








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最終更新:2022年04月17日 14:23