第13回トーナメント:決勝②




No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する


No.6597
【スタンド名】
ハレルヤ・ハリケーン
【本体】
卍山下 秋実(マンサンカ アキミ)

【能力】
触れた対象の「特性」を強化する




アルファベティカル26 vs ハレルヤ・ハリケーン

【STAGE:軍基地】◆C4zT4u8GVA





 昼下がりの軍基地。
 そこで「一人の男」がその基地の会議室で待機していた。


「時間ですンよ 呉さん」

 切れ長の目の、オールバックの大男が、異様に胡散臭いセリフを吐き出す小男の呼び掛けに呼応して立ち上がる。


「于賣夷(うめい)。どんな奴が儂の相手なんだ」

「二人とも十代ンの少女です」


「ここ確か『○●軍』の基地よね」

 いつものごとく、マネージャーである社冬子を車の助手席に乗せ、基地の敷地の開かれたバリケードを潜る。
 思えば今回のこの基地までの旅路は非常に長く、片道100km以上の距離を延々と走って、
 運営側から指示された場所をカーナビに入力して3時間。
 隣に冬子を置いておかなければ、居眠りをブッこいて高速道路に死す。だったことだろう。

「そんでカーナビの指示通りに来たらどことも分からないような波止場について、そこの巨大貨物船に乗せられ」
「はい……ホントにここ、一体どこなんでしょうね。今ド深夜ですし」
「だから『○●軍』の基地だって」
「いや、そういうのではなくですね冬子さん。ここの国籍……」

「来ましンたか」

 時間上、軍人がいないのは分かるが、軍用車も不自然なほど停まっていない不自然なコンクリートの上。
 そこにロッキングチェアをギコギコと揺らしながら情景以上に不自然な口調の男が秋実と冬子を迎え入れた。
 だが、そこにはもう一人、切れ長の目にオールバック、体型は痩せ形に見える男。
 基地のスポットライトに照らされるその眼光は獣のように鋭く、その“強さ”を振るうことを後悔などしなさそうな、一目で“危険”と分かる男。

 その男は押し黙っており、ロッキングチェアの男がトーナメント決勝を進行するべく立ち上がる。

「私、立ン会人の于賣夷 杰児(うめい けつじ)と申ンします。対戦相手の八重神宝サンはもうン来てますよ」

「その“ン”を付けるのやめません?」

 秋実は、「こんばんは」とも「遅れましたか?」とも言うことなく、開口一番に于賣夷に対してそう言った。
 冬子はそれを諌めようとし、あたふたとしているさなか、その“強そうな男”が口を開く。

「……遅れてはいないぞ。対戦相手の小娘がこの地より離れ過ぎていた故、近くのホテルに4泊5日の宿泊旅行と言う形で先入りしている」

「……分かっています。これからその娘と戦うんですね」
「ちょっとン違ンいますね」

「今回の勝負は“協力プレイ”ンです」

「えっ」

 協力プレイ? 何それ美味しいの?
 先の戦いのような事前通知もなしに、ふざけた口調でそう抜かすか。
 于賣夷とかいう立会人。


「あ、対戦相手さんですか」

 眠そうな口調で、“強そうな男”に手を引かれて八重神宝が軍基地のコンクリートの上に姿を現した。

「それじゃあ……始めますか!! 秋実さん」

 二日前から来ているだけあって、秋実よりも事の運びを分かっている。
 なによりも、こちらの名前をすでに知っているのが

「……ええっと、宝ちゃん? 日本語上手……」
「一応、生まれも育ちも日本人です。ハーフですけど…でもよく間違われるので大丈夫です」

 確か今そういう芸人さんいたよね……なんて失礼なことを思いつつ、宝がポケットから取り出した布切れに目をやる。
 宝はそれを額にあてがい、書かれた文字が正面に来るようにキツく締め付ける。

「? ふ…ぉんふくつ……」
「“不撓不屈”だ」

 秋実は今度は、“強そうな男”に指摘をされた。

「……さてン、ルールの説ン明をしますよ」
「今からこの呉孟(くれ はじめ)サンと――」

 呉孟。 説明と同時に渡された対戦手順を簡単に記した説明書を見て、秋実は思い出していた。
 ちょっと前に三国志を題材にした、武将が女性化されているブラウザゲーのCMで、水上で水着騎馬戦をするというのがあった。
 秋実自身三国志に詳しいということは全然ない。ただ同事務所の胸の大きいアイドルが馬役で数人出てたなーなんて。

 そんなことを考えつつ、秋実は于賣夷の説明を聞く。
 途中、冬子に「ちゃんと聞いてる?」と指摘をされていた。


「今からこの呉孟(くれ はじめ)サンと戦ってもンらいンます」

「対戦形式はン二人で協力しンてこの呉さんを討ちン取る。」

(すごい。全然伝わらない)

 宝は正直、自分とほとんど年が変わらない(だろう)のに、
 この于賣夷という男の凄く変な口調に、開口一番に「やめろ」と言ってのけたこの卍山下秋実の、
 身かけによらない剛毅さに素直に尊敬の念を寄せた。

「やめい。儂から説明する」

「要は二人まとめてかかって来て儂を倒せばよい」

「戦闘方法は問わぬが、その方式」

「最初にあらかじめ「100点」の中から「50点」ずつを割り振り、戦闘における『貢献度』に応じて」

「共闘相手の点数から「加点」する。つまり、最も憎むべき敵を信じねば勝てぬ闘いと言えるな」

「なお、儂を討てずとも勝負は両者敗けとなるが、どちらか片方が先に倒れた場合は残った方が勝利となる」

「質問いいかしら」

 呉の淡々とした質問に挙手して回答を求めたのは、社冬子。

「ちょっと分からないとこが二つくらいあるんだけど」


「協力せずにここで秋実と八重神さんがあなたを放っておいて戦って」
「そんで決着が付いた場合は?」


「それはこの『呉孟を倒す』という共通の目的を買った方も敗けた方も満たしていない。勝者無しで終わりだ」

「それじゃあもう一つ。「協力するフリして」、「片方が負けるよう誘導する」のは?」

 ある意味で、冬子はこの勝負の「穴」、或いは「確信」を突いた。
 呉孟と言う男が

「あからさま過ぎぬ限りは「負けるように誘導した」側が勝利だが、それは『オーディエンス』が決める」
「あまりに「見え見え」であらば、儂が殴り飛ばして再起不能とした方が『勝ち』にもなる」

 そこのところは対戦者同士の駆け引きだろうとだけ言い、呉はスーツのボタンを一つずつ外す。
 そしてスーツを脱ぎ捨てると、そこからスーツの上からは見えなかったしなやかに細く硬い筋肉が姿を現した。
 洗練された鍛冶鉄を髣髴とさせるその肉体は、下手に筋骨隆々な男でも腕相撲で負かしてしまいそうなほどの「強さ」を有していた。

「「「ちょっと何で脱いでるんですか!!」」」

 次の瞬間呉は、秋実、宝、冬子の三名から総突っ込みを受けた

「呉サン。流ン石に女ン子三人の前で上ン半身裸はないでしょ」

「…………」


 呉は、スーツを着直した。


「それじゃあ始めますンよ」

 こうして、グダグダな空気が醒めやらぬまま戦闘が開始されたが、呉はまるで構えない。
 秋実も宝もそれを警戒して、沈黙したまま動かない。否、動けない。

「一つ有利な情報を教えてやろう。儂のスタンドだ」

 そう言って呉は自身のスタンドを発現する。
 腕がボディビルダーほどに太い、筋骨隆々な紫色の人型ヴィジョンのスタンド。

「それがあなたのスタンドですか」

 秋実が問うと、呉はそうだと答えた。

「儂のスタンドは『ジターバグ』 このスタンドに能力はない」

 社冬子はスタンド使いではないので、『ジターバグ』も、それに呼応して秋実・宝の両人が発現したそれぞれのスタンド

『ハレルヤ・ハリケーン』と『アルファベティカル26』も見えていない。

「あの……于賣夷さんって言いましたっけ」

「何か、成り行きでここまで残っちゃいましたけど私はこれからどうしたら……」

「ここにいンてくンださい。社冬子サン」

「あなたも『オーディエンス』ンなのですからンね」


 于賣夷がそういった直後、強烈な打撃音が響くのを感じた。
 そして、その場にはアイドルにあるまじきほどに目を丸くする秋実がいて、さっきまでその場にいた宝の姿はなかった。

「……ない。と言ったがやはり少し違うな。『要らない』の間違いであったわ」


 秋実は当然、一瞬何が起こったのか把握できずに面食らう。
 それでも自身に、次に脅威が迫っていることは生物的本能で理解できている。
 自身のスタンド『ハレルヤ・ハリケーン』で攻撃を防ぐ。

「「スタンドに強弱はない」 これはこの世の理の如き必定だ」

「されどこれだけは言える。『スタンドになくとも『スタンド使い』にはある』」

 秋実は『ハレルヤ・ハリケーン』のスピードに自信があったつもりであった。
 だが呉の『ジターバグ』はそれ以上に速く、そして強い。
 両腕で防ぐつもりであったが、利き腕でない左腕を前に出すのが一瞬遅れた。
 右腕だけで受けたために、『ハレルヤ・ハリケーン』と秋実の腕からはゴリリという聞いたこともないような音が響いた。

「……ァ……がああああああああああああああ!!?」

 当然、痛みもまた経験したことがないような代物であった。
 そして倒れる体勢も最悪。受け身も取れず、折れた(「そうであってほしい」と、冷静でなくなりつつある中で秋実は願った)腕をさらに地面にこすって、
 宝が吹き飛ばされた方角にふっ飛ばされてゆく。



「「スタンドに強弱はない」 当然だ。スタンドの強さとは使用者の力量に依るところが多いのだからな」

「以下に強力な能力であろうと御せねば弱い。その逆も然り。ゆえに、儂に奇を衒う能力は要らん」


 あまりにも一瞬過ぎたためか、それとも単純に冬子がスタンド使いでないからか。
 恐らくはその両方だろう。スタンド使いであっても、この一瞬で何が起きたかは完全に把握できない。まず無理だ。

「秋……」

 当然、そう叫ぼうとする。
 事務所の売り出し中アイドルだからという打算などなく、単純なる安否の心配。
 マネージャーであるという以前に秋実の友人であるという自負も冬子にはある。
 それに、詳しく知らないからでこそあるが(それでも大分失礼ではあるが)秋実より先に殴り飛ばされた八重神宝の方も心配だ。

「今ン、八重神:55点、卍山下:50点でンすね」

「ちょっと待てよお前ええ」

 明らかに、二人とも再起不能。
 少なくとも冬子にはそう見えたし、あの飛び方、助かる筈がない。
 だからこそ淡々と立会人たろうとする于賣夷に、冬子は激昂し、掴みかかる。

「何でンすか? アンタは無関係ンでしょうが」

「まンだ試合は続行ン中ですよ。放しなさい」

 そんな最中にも関わらず、于賣夷は呉孟と何か会話をしていたようであった。
 無論、今の冷静さを欠いた冬子に内容など把握できない。

「そんなことは聞いてないんだよッ! こんな……こんなの」

「そうですよ。冬子さん」

 そんな中、冬子の不安を払拭せんと、気丈な態度で叫ぶ。
 掲げて見せた右腕は、あらぬ方向を向いていた、痛々しいものであった。

「受け身はできないまでも、スピードを活かしはした……か」

「折れたで済んでよかったですよ。今だって正直泣き叫びそうなほどに痛い」

 その言葉に偽りはなかった。
 本当に泣き出しそうどころか意識だって飛びそうだ。
 それどころか振り回したら「ロケットパンチ」化するんじゃないか?
 とさえ思えるほど肘より上の感覚がまるでなく、そのすぐ下から非道い痛みが発信させられていた(脳から、だが)。

「ああああああ」

 そして、それでも、秋実は呉に突っ込んでゆく。
 それしかない。それしかできない。








 だが、それでも彼女“たち”には勝算が、ないわけではなかった。


「……秋実さん。大丈夫……ですか」

 正直、気絶に身を委ねるほうが気が楽だろう。
 それくらい、喉が枯れるほど叫んだ。
 だが、唐突に秋実は叫びを止める。

「…………宝ちゃん。そっちは大丈夫だったかい」

 先週だったか、先々週だったか、「火星でゴキブリと戦う漫画」で読んで知った『ゲートコントロール理論』
 『ハレルヤ・ハリケーン』でその特性を強化したのだ。そうして激しく泣き叫ぶことで、飛躍的な速さで強制的に鎮痛した。
 それでも骨折が治るわけではないが。

「……?!」

 宝もこの秋実の回復の速さに相当驚いた。と言うか若干引いた。

「えっ ?! ????!」

「…そっか、宝ちゃんはヤンジャンとか購読してないよね」

「今割と大丈夫だからさ……ってあれ? 宝ちゃんアンタ思った以上に」

 ほぼ無傷(に見える。でも確実に打撲はしているだろう。しかもかなり強く)。
 そして彼女は携えていた。

「何それ。いいなあ」

「…『S・H・I・E・L・D』……私のスタンドです」

「『シールド』それがあなたのスタンド……」

「いえ、スタンド名は『アルファベティカル26』ですけど」

 そんな、コントのような会話の中でも、秋実は策謀を巡らせていた。
 秋実自身、『鐘田一少年の事件簿N』というドラマに出演する際、推理小説を一本だけ読んだ。
 それほど活字が好きというわけではないがリサーチと言う部分を兼ねてのことである。

「……宝ちゃん。勝ちたいかい?」

「とりあえず、呉さんを倒さないと両方負けという事実は変わらない」

「そのためには互いの能力を知り、そして互いの命運を託し合うことが重要なんだ」

「……なるほど」

 能力の詳細は分かった。26体のアルファベットで文字を構成して実体を作るスタンド。
 その応用性は、自身の『ハレルヤ・ハリケーン』同様に応用性は高い。

「そんじゃあ、「二つ」くれるかしら」

 そう言って秋実は「爪」でコンクリートの地面に文字を刻む。
 無論、これも『ハレルヤ・ハリケーン』による特性強化だ。
 刻むというより彫ると言ったレベルの切れ味だが、それでも元が元なので爪は若干抉れた。
 こんな細かいところにまでスタンドを使うのか、と宝は地味に引いたが、それでも「二つ」を渡す。


 呉孟自身、自分が敗けるイメージは一切抱いていなかった。
 東南アジアやアフリカなど、広きに渡ってその名を知らしめた流浪の軍属たる“サムライ”

 そんな彼がトーナメント参加を自ら要請したのが16年前のこと。
 だが運営からの返答は「不可」
 それから幾度となく彼は運営に参加要請をしたのだが、今の今まで一度も参加を承認されなかった。
 ほどなくして、自分のような者が『出禁組』と言われていることを知った。

(同じ『出禁組』のケマダだか毛玉だかが参加できた時はもしや……と思ったが)

(儂にこうした形でお呼びがかかった以上、これから先儂に参加者としての出番はなかろうなあ)

「……于賣夷。まだ待たねばならないのか?」

「…………いンえ。まンだですよ」

「彼女たちの目は死んでいない」

 于賣夷は冬子に、珍しく「ン」を一切付けずにそう呟いた。

「そうですよ。冬子さん」


「…………」

 呉孟はこの秋実の無策な特攻に少なからず失望していた。

「何をしたいのか知らんが、一人で荷を背負えば勝てると踏んだ算段か」

「貴様のような儂を知らぬ者なら当然。とでも思ったがそれにしても」

「芸がないッ!!」

 スタンド『ジターバグ』の拳で迎撃すべく呉は構える。
 迎撃は至極簡単。
 秋実のスタンドは左腕でしか殴れない。
 殴れるはずがないのだ……が。

「「右」ッ!?」

スタンドと本体である秋実の右腕には何やら木のようなものをぎちぎちに巻き付けている。


「「添え木」か」


 基地の外に出ればまあ芝生くらいならありそうだが、この周辺には無論草類などあるはずがない。
 間違いなく、何らかのスタンド能力でそれがスタンドそのものの本質ではないことを呉は直感的に悟っていた。

「何か知らんが、抜かったわ」

 弱い一撃。
 されど『ハレルヤ・ハリケーン』の拳は『ジターバグ』に一撃を叩き込んだ。

「躱すまでもない一撃だがな」


(やっぱり……一撃じゃ特性を引き出せないか)


「宝ちゃんッ!」


 秋実が叫ぶと同時に物陰から何かが、一直線に放たれた。


 投じたのは当然、宝。
 これは『ハレルヤ・ハリケーン』の特性強化ありきの一投。
 それでも投げたのは球体ではない。ナイフのように一直線に投じられる

「いや、「のような」ではない……」

 少なくとも「刃物」ではある。だがこのライトに照らされている状況。
 そうでなくとも、真っ暗闇だとしても長年の直感で『ジターバグ』は『呉孟』は捕らえられる。

 『ジターバグ』の右手は間違いなく「刃物」を捕らえたはずであったが――

「むっ」

 『アルファベティカル26』で構成された「刃物」はちゃんと捕らえられたのだが、あまりにも精確すぎた。
 そうであったがために、『ジターバグ』の右手の親指以外の指がすべて斬り落とされた。

 流石に呉孟の対応は指が飛んだ状況でも冷静であったが、それでも刹那の、刹那の差ができた。
 呉に肉薄している秋実は、その刹那を見逃さなかった。

「ハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレハレ」

「ハアアレルヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 全身全霊を賭けた一撃、ラッシュの最中に添え木は外れてほぼ片手で殴っていた。
 もう片方は肘で殴っていたのかもしれない。
 それくらい何も考えず、ただがむしゃらに撃っていた。
 ハッキリ言ってラッシュ精度は低く遅い。そして、威力もほぼない。

 ――――だから


「弱い」

 『ハレルヤ・ハリケーン』の破壊力は決して高くはない。それに先ほど言った傷のことを加味すればさらに低くなる。
 『ジターバグ』の核に刺さり切るほど強くはなかった。
 ゆえに、呉孟とて無傷ではないものの、「致命傷」でもない。
 簡単に、呆気ないほど簡単に秋実のラッシュは指がないはずの右手で弾かれて、
 ハエを叩き落とすように蹴散らされた。

「それで、もう一方の小娘との挟撃であったのであ――」

 突然、何の前触れもなく『ジターバグ』が姿を消した。
 そして、宝は落ちた『H・A(刃)』を拾い上げ、呉の額すれすれに突き付ける。


「私たちの勝ちですね」


 秋実の作戦はこうだ。
 『S・H・I・E・L・D』から傷が薄かった『I』を抜き取って造るのは『K・I(木)』
 それをもう一つ『H・A(刃)』で削って服の切れ端で縛り上げ添え木とする。
 つまり『S・O・E・G・I』ではない。

 『H・A(刃)』で『K・I(木)』を削る際に、もちろん「切れ味」という特性を強化した。
 そして宝自身には腕に「投げる力」という特性を強化して投げさせた。
 では秋実が最後に放ったラッシュは何か?


 その答えは『ジターバグ』の極めてシンプルな特性「スタンドパワーが強力すぎる」というものだ。

 無論、『ジターバグ』の地の持続力が高すぎたのと、呉孟自身の精神力の強さ故に一撃ではまるで効果無し。
 それゆえにラッシュをせざるをえなかったのだ。


「……まあ、よかろう」

「………………結果を告げい于賣夷。ずっと見ておったお前らなら、どっちが勝ったか明白に分かろう」

「儂の差配も、まあそれに合っておろうな」

「はいよ。勝ン者は」





「八重神宝でンす」


「……え」

 秋実も宝も、何が起きたのか把握できなかった

「ちょっと……待ってよ。秋実の方が善戦してたように」

 冬子も、それが見えていないまでも反論すべく喰い下がろうとするが、呉孟がそれを大喝で阻む。

「言い切れるのか。してたようにしか見えぬ貴様が」

「卍山下秋実が無策に突っ込み、協調を乱したように見える」

「「そんなの横暴……」」

「ああ何も知らぬ『オーディエンス』は時として横暴だッ!!」

「だからこそ明確に儂にダメージを与え、とどめを刺した宝が勝ち、」
「目立ちながらも貢献が伝わりにくく、点が入らず空回りした秋実が敗けた」

「それだけのことじゃ。納得せい」

 反論の余地はまだあった。それくらい乱暴な論破だ。
 だが、秋実にも冬子にもそれをする気力はなかった。
 それほどに「全て終わった」という暴力にも似た事実は、緊張の糸を強制的に緩めさせた。

 勝利した宝にも、敗北した秋実にも、スタンドが見えないながらも見届けた冬子にも、実感を与えないまま勝負は終わった。


 秋実は直後に運営が呼んだ救急車の中で意識を失った。
 そして、病院の一室で意識を取り戻した時、自分が納得のいかない形で敗けたことを思い出し――

 ――夢がかなわなかったことを思い出し、泣いた。

「でも、あなたの人生、これで終わったわけじゃないでしょ」

「……」

 そこには冬子がいた。

「三日間も意識戻らなかったのよ」

「そう……ですか」

「他人行儀はよして」

「……あなたの夢は、いつか叶うわ。今じゃないだけのこと」

「でも、いつか叶う。叶えるわ。叶えましょう」

 秋実は再度、冬子の胸の中で泣いた(そして再度、彼女のブラを外した)


採点結果:宝:65点 秋実:35点

★★★ 勝者 ★★★

No.6579
【スタンド名】
アルファベティカル26
【本体】
八重神 宝(ヤエガミ ホウ)

【能力】
アルファベットが繋がって『単語』になったものに変化する








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最終更新:2022年04月17日 14:34