第14回トーナメント:準決勝②




No.7156
【スタンド名】
ディメンション・トリッパー
【本体】
三船 重兵衛(ミフネ ジュウベエ)

【能力】
触れたものを急加速させる


No.7160
【スタンド名】
エリミネーター
【本体】
八坂 巡子(ヤサカ メグリコ)

【能力】
爬虫類の生物に変身する




ディメンション・トリッパー vs エリミネーター

【STAGE:崖】◆UbkAjk7MJU





三船君は働き者だねー。どうだい、正社員になるつもりはないかい?
責任ある仕事だし、君になら安心して任せられる。やりがいも…………



……また、逃げ出してしまった。
他人に期待されると、耐えられなくなる。

このままこんな生活を続けていては、いつか限界が来るのはわかっている。
僕は安心がほしい。安心して安全な、安定した生活がほしい。
だからこそこのトーナメントに参加した。
ここにくれば、ここで勝てばそれが得られると思ったから。

「この力を使って……」

僕は自分に期待をかける。


「天の腰かけ」と呼ばれるその場所は、とある山の中腹にある大きく突き出した崖の名前である。
標高およそ1000メートルに位置するその崖は地上まで垂直に切り立っており、非常に危険であるため通常は立ち入り禁止となっている。

「落ちたらひとたまりもないな……まぁだからこそ、自殺の名所ってわけか」

重兵衛は崖の底を覗きながらつぶやいた。
少しでも勝負を有利に進めようと、下見のつもりで予定よりも早くこの場所に到着したのだが、
予想以上に何もないこの場所で重兵衛は手持ち無沙汰になっていた。
仕方なくせめて戦いやすいようにと躓いて邪魔にそうな石を拾っていると、背中から声を掛けられた。


「やや、そのスムーズに落ちているものを拾う仕草、グレッグ式ごみ拾い術とお見受けしたー」

「……巡子ちゃん?」

声の主に聴き覚えがあったが、記憶の中の彼女とは大きく変わったその姿に重兵衛は驚いていた。

「やっぱり重兄ぃだー。ひさしぶりだねー」

「本当に、4,5年ぶりかな。なんていうか、見違えたね」

「あれーどこ見ながら言ってるんですかー?」

「……もちろん身長だよ」


重兵衛はかつてのアンカーの警備部長、グレゴリー・ヘイスティングスが管轄していた警備会社でアルバイトをしていた経歴がある。
そこで当時まだ幼さの残っていた巡子とはよく遊び相手にさせられていたものだが、時の流れとは残酷で今ではすっかり巡子の方が視線が高くなっていた。

それからしばらく、二人は思い出話に花を咲かせていた。
昔の話はもちろん、一回戦はグレゴリーと戦ったことも話した。

「グレッグさんに勝ったんだ。強いね巡子ちゃん」

「そりゃあ私も今はアンカーで鍛えてるから」


そんな他愛のない会話を続けているうちに、重兵衛の中にひとつの迷いが生じた。
今から彼女と戦う上で、自分は全力をぶつける事ができるのだろうか。
もし戦いに敗れてしまったら、何も手にすることはできない。
何かを手にするためには勝たなければならない。しかし勝つには彼女を傷つけることになるだろう。
……いっそのこと自分に敵意を向けてくる赤の他人だったらよかったのに。そう思っていた。


「重兄ぃ?」

「……あ、ごめんなんだっけ」

「私、プロだから。手加減しないでね」

「……。見透かされてたかな」


大きくなったなぁ。と、まるで親のような気持ちになる。
それと同様にして胸につっかえていたものは無くなり、重兵衛目に力が入った。

「もちろん、僕も本気で行くよ」

そう言うと、巡子は嬉しそうにして目を細め、ジャージについた土を払いながら立ち上がった。



「よーしじゃあ重兄ぃ、私が勝ったらアンカーに入ってもらうからね」

「……えっ。え?」

巡子がその場で一回転したかと思うと、重兵衛は硬い尻尾のようなものに弾き飛ばされた。


「おー綺麗な受身」

「ちょっと巡子ちゃん、その約束は……」

「まーまー、調子付けだと思って。代わりに私が負けたら何でもするから!」

間髪入れずに巡子は重兵衛をめがけて突進した。
体制を整えた重兵衛は今度は能力を使って攻撃を受け流そうと構える。
巡子が目前まで迫ると、突然重兵衛の視界が何かに覆われた。
と同時に、わき腹へ先ほどの尻尾と同じ感触……が倍以上の衝撃となって襲い掛かってきた。


「ぐあっ!!」

吹き飛ばされながらも、なんとか崖から落ちるギリギリの所で踏みとどまった。

「相手が防御行動をとってるときは、親切に真正面から攻撃しちゃ駄目だって小父さんが」

「……なるほどね、エリマキの目くらましで死角から尻尾か。骨、折れたかな」

いつの間にか人間のものではなくなった巡子の姿を見て、重兵衛はその能力をトカゲのような姿に変わる能力だと予想した。

(トカゲというよりは恐竜だな……次また攻撃をもらったらまずい)


「重兄ぃ、まさに崖っぷちだね。私的には降参してほしいな」

「いやいや、まだ始まったばかりだよ」

そう言って重兵衛は手元にあった小石を親指の上に乗せて、軽く弾いてみせた。

次の瞬間、バスン!と衝撃音が巡子の耳元に響く。
見るとエリマキに小さな穴が開いていた。
当然ダメージもあるが耳にピアス穴を開けたようなもので、気にするほどでもない。

再び重兵衛のほうに目をやると、重兵衛と重なるようにしてスタンドが出現していた。


「『ディメンション・トリッパー』、僕のスタンドだ」


巡子は重兵衛のスタンドを分析した。
この穴を開けたのはおそらく指で弾いた小石。それが物凄いスピードでエリマキを貫いた。
もしそれがスタンドの純粋なパワーによるものならば、相当なパワー型と考えられる。
しかし、ディメンション・トリッパーの細身な外見からしてそれは考えにくい。だとすれば……

「うーん、投げたもののスピード強化とかかな」

「はは、ほぼ正解。鋭いね」

この一瞬で能力を見抜かれたことに驚いた重兵衛だったが、それだけでは怯まない。
むしろ見抜かれたおかげで、次の一手がどれだけ強力なものであるかを理解して、降参するかもしれない。
重兵衛が両ポケットの中から引っ張り出したのは、大量の石だった。

「巡子ちゃんが来るまで僕が石を拾っていたのは、何も地面を整備しようとしていただけじゃないんだ。
この大量の石、さっきと同じように飛ばすことができるんだけど、できれば僕も巡子ちゃんが傷つく前に降参してほしい」

重兵衛は巡子の言葉をつき返すようにして脅迫する。
手の上には指で弾いた小石よりも大きな石がゴロゴロと転がっていた。
今度はピアス穴程度では済まない。


しかし巡子はその脅迫に臆することなく歩み始める。
勝算あってか、もしくは玉砕覚悟か。どちらにせよその足取りに迷いは無かった。

「それが巡子ちゃんの答えなら……!」

重兵衛は持っていた石を振りかぶって投げつけた。
まずは右、そして左、最大で直径10cmはあろう20個程度の石がすべて、弾丸のごとく巡子に降り注ぐ。



「つまり、爬虫類全般になれるってことか」

次に見た巡子の姿は、ゴツゴツとした甲羅をもったカメの姿だった。

「全部になれるわけじゃないんだけどねー」

強靭なアゴで石を噛み砕いているその表情は笑っているように見えた。

「あとはクロコダイルとかー、ヤモリとか。ちなみにグレッグ小父さんにはキングコブラが決め手になったんだよ」



正直なところ重兵衛にはこれ以上の手を持ち合わせてはいなかった。
故に、投石による攻撃が無効となれば、あとは直接攻撃か地形を利用して崖から突き落とすかしかない。

(せめてあのカメの甲羅さえなければ……)



巡子はワニガメの姿で、一歩一歩確実に重兵衛の元へ近づいていた。
巡子にとっても、あの投石攻撃をいなす事ができるのはこれしかないからだった。

やがてお互いの距離が、お互いの攻撃範囲内に差し迫った時。

重兵衛は飛んだ。自分の背後、崖に向かって。


「重兄ぃ!?」

あわてて崖下を覗く巡子であったが、雲がかかっていて数十メートル先も見えなかった。
巡子は無駄とは思いつつもヤモリの姿に変化して崖肌を降りようとする。

「……ンション……」

しかしすぐに、かすかに声が聞こえ、その声が次第に近づいてることに気づいた。

「ディメンション……トリッパアアアアァァァァァァア!!!」

さながらウルトラマンの様にして右腕を掲げ上げた重兵衛が、巡子に向かって飛んできた。
そのスピードは先ほどまでの石と同じ速さで、巡子は動転していたこともあって為す術も無く体を持ち上げられた。



「僕の能力は投げたもののスピード強化。巡子ちゃんはそう言ったね。
正しくは、触れたものを急加速させる能力。つまり投げる必要は無いんだ」

「触れて加速したものを握ったまま触れ続け、さらに加速を重ねがけする。
そうすることでこの上昇を可能としている。今までの僕には思いもつかなかった」

そう言っている間も二人は上昇を続け、やがて崖すらも見えなくなっていった。

「じゅ、重兄ぃ、これどこまで……」

「そりゃあ巡子ちゃんが降参してくれないと、僕にはもう他に手が無いからね」

「はやく降参するからはやく」

「よーし、僕の勝ちだ」

「で、どど、どうやって降りるの」

「えーと、落ちながらこまめに加速して徐々に……とかかな」

重兵衛が崖から落ちてから、自分の計り知れない出来事の数々に、巡子の頭は完全に混乱していた。
しかし重兵衛はかつて無いほど気持ちが昂っており、そのまましばらく上昇を続けていた。
それから重兵衛が正気に戻ったのは、巡子のビンタが15往復目を数えようとしたときだった。


二人分の体重を支え続け、幾度もの加速に耐え続けた右腕は使い物にならなくなっていたが、重兵衛の気持ちはいまだ昂っていた。

「他人に期待されるのは凄く嫌なのに、僕は自分の可能性を信じたくなった。これは矛盾してるかな」

「んー難しいことはよくわかんないけど……」

「少なくとも私は、重兄ぃがそうやって自分のやりたいことを見つけて輝いてるところを見ていたいって思った。
ほら、これって私の期待だけど、それなら別に嫌じゃないでしょ?」



今まで道をそれる事でできるだけ大きな波風を立てることなく生きていこうと考えていた重兵衛だったが
ここにきて初めて、自らの力で道を切り開いていこうと覚悟に決めた瞬間だった。

「あ、でもアンカーにきてくれたらもっと嬉しいかも」

「……それはまた後で考えるよ」

★★★ 勝者 ★★★

No.7156
【スタンド名】
ディメンション・トリッパー
【本体】
三船 重兵衛(ミフネ ジュウベエ)

【能力】
触れたものを急加速させる








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最終更新:2022年04月17日 14:55