第15回トーナメント:準決勝①
No.7520
【スタンド名】
ロード・トリッピン
【本体】
デズモンド・ウォーカー
【能力】
触れた箇所を『滑走路』にする
No.7384
【スタンド名】
アモルフィス
【本体】
ソドム・メタトロン
【能力】
『非生物』だけを溶かす
ロード・トリッピン vs アモルフィス
【STAGE:廃村】◆pFj/lgiXE.
イラク戦争。
2003年、イラクが大量破壊兵器を保有していることを理由に、アメリカ・イギリス軍がイラクを攻撃、そのままイラクのフセイン政権を崩壊させた出来事である。
イラクへの攻撃を指揮したジョージ・W・ブッシュがホワイトハウスを去り、バラク・オバマによってアメリカ軍がイラクから全面撤退した現在でも、国連決議を待たずに攻撃したことや、後の調査で大量破壊兵器は見つからなかったことから、この戦争について、国際的に疑問の声があげられている。
アメリカ・イギリスがイラクを攻撃した理由として、当時のフセイン政権が9・11テロを起こしたテロ組織「アルカイダ」の指導者であったオサマ・ビンラディンに兵器の提供を行っていたからであるとか、アメリカとイギリス両政府が中東の石油利権の独占を目論んでいたからとか、色々な説がある。
デズモンド・ウォーカーとソドム・メタトロンはあの戦争が行われた理由なんて知らないし、大量破壊兵器が本当にあったのか、あったとすればどのようなものだったのかなんて分かるはずがない。
だが、彼らはトーナメント二回戦において、イラク戦争が蒔き散らした火種に出会うこととなる。
4月某日。
ウォーカーとソドムは、イラクのある村の真ん中に立っていた。かつて村人が暮らしていたであろうその村は、イラク戦争の際に欧米軍によって蹂躙され、今は瓦礫と小石と砂利しかない廃村と化していた。
二人はトーナメントの運営側が用意したヘリに乗ってトーナメントの試合開催地に向かう際に上空から村を見ていたが、空からでは村の様子は分からない。
地に足を着けて見ることで、村が先の戦争で廃れてしまったことを二人は知った。
「酷いもんだな…。これがあの戦争の爪痕か。この村には多くの人達が日々の生活を送っていただろうに…。その村人達の生活をめちゃくちゃにして、あんたらの国の正義とやらは果たされたのかい?」
ソドムはウォーカーを横目で見ながら訊いた。ウォーカーは「さあな」と答えた。
「俺は海軍だから、あの時の戦争に召集されてない。あの戦争に駆り出されたのは空軍や陸軍の連中だからな。空軍や陸軍があの戦争の時、ここで何をしたかなんて分からないし、イラクの国民が報道の裏でどんな仕打ちをされたかなんて知りようが無い」
「そして、あの戦争の始まった理由である『イラクに隠された大量破壊兵器』がどこにあったのかも『分からない』か?」
「それについては、あんただって同じだろう」
「………」
「そもそも、その大量破壊兵器が本当にあったのかどうかは誰にもわからないし、その言いだしっぺである奴も病気でくたばった。あの時のアメリカ大統領であるジョージ・W・ブッシュも戦争終結を宣言して、数年後にホワイトハウスから出て行った。真相は闇の中へ葬り去られた」
「そして、大量破壊兵器は見つからないまま、現アメリカ大統領のバラク・オバマによって、欧米軍は全軍撤退。今も中東地域は混乱に陥っている。果たして、あの戦争は誰のための戦争だったんだろうな?」
ソドムは皮肉交じりにそう言った。ウォーカーは何も答えることが出来ない。
と、その時、ヘリの操縦席から黒いパイロットスーツを着た人間が降りて、二人の下へ歩いてきた。
操縦士は二人を見ながら手を叩いた。
「ハイハ~イ! お二人はもうとっくの昔に終わった戦争について論議をするためにここへ来たんじゃあないですよね~? トーナメント戦を勝ち抜くために来たんでしょ~?」
その鈴の鳴るような声から、操縦士は女性だと二人は思った。操縦士はパイロットスーツの上から身体を掻き毟る。
「う~ん、それにしても中東地域はやっぱり暑いですね~! 黒いパイロットスーツを上に着たのが間違いでしたよ~!」
操縦士は二人の前でパイロットスーツを脱ぎだした。パイロットスーツの下には、緑色のバニースーツを着たうら若き女性が隠れていた。
バニーガールは二人の前で一礼した。
「では、改めましてこんにちは。今回トーナメント二回戦の立会人を担当させていただきます『アマンダ・ラルーゼ』といいます。よろしくお願いいたします」
「ほぉ、二回戦の立会人はこの地域に似つかわしくないバニーガールか。運営側もサービス旺盛だな」
「正直、目のやり場に困る」
ウォーカーとソドムがそう言うと、アマンダは微笑みを浮かべると、試合についての説明をした。
「さて、試合の内容についてですが、ずばり、時間無制限の一本勝負! 相手を倒すか降参させた方がトーナメント決勝戦に進出できます!」
「ほぉ、今回の試合は簡単なんだな。てっきり『しっぽ鬼』のようなルールなのかと思ったが」
ウォーカーは一回戦の内容を思い出しながらアマンダに訊くと、彼女は笑顔で答えた。
「はい。スタンド使い同士の戦いは、やっぱり一対一のタイマン勝負が王道でしょう? やたらとルールが複雑だったり、勝利条件の難易度が高い試合では、出場者もげんなりしてしまうでしょうから」
「ならば良い。私は一回戦の際に冷凍庫の中で戦わされたからな。こういう普通の戦いの方がシンプルでやりやすい。それでは、早く始めるとしようか」
ソドムはウォーカーの方に目を向けて言った。ウォーカーは首を縦に振った。
「そうだな。俺だってこのトーナメントで勝ちぬいて、自分の名を上げたい。あんただってそうだろう?」
「フッ、その通りだ。だから…」
「「早めに貴様を倒させてもらうッ!!」」
二人がそう同時に言うと、二人の背後からスタンドが現れる。
ジャンボ旅客機を模した人型スタンド『ロード・トリッピン』、本体はデズモンド・ウォーカー。
巨大な蛇の姿をしたスタンド『アモルフィス』、本体はソドム・メタトロン。
両者が戦闘態勢になったのを見て、バニーガールが手を振り上げる。
「それでは、第二回戦、はじめッ!!」
二人のスタンドがまさに激突しようとしたその時である。ウォーカーは背後からただならぬ気配を感じた。
(ッ!? 背後から気配を感じるぞ…、しかも殺意をあらわにしているッ!)
ウォーカーは瞬時にその殺意を秘めた者が、自身の背後にある大きな瓦礫にいることを察知した。
彼は自分のスタンドに命令する。
「ロード・トリッピン! 俺の背後に滑走路を作れッ!!」
ロード・トリッピンはウォーカーの背後の地面に滑走路を作った。ウォーカーはその滑走路の上に自分を滑らせた。
ソドムとアマンダはウォーカーの奇妙な行動に驚いた。
「ッ!? 貴様、何をしているんだ!?」
「ウォーカーさん、もしかしてこの暑さで頭をやられちゃいましたかッ!?」
二人の声をよそに、ウォーカーは滑走路を滑って勢い良く加速すると、その勢いのまま瓦礫の陰に隠れていた者の腹部を蹴飛ばした。
瓦礫の陰に隠れていた者は、飛んできたウォーカーの蹴りをまともにくらい、その場で倒れこんだ。
ソドムとアマンダは、瓦礫の陰に隠れていた何者かが、ウォーカーの攻撃を受けて倒れたのを見て、納得した。
「成程、自分の後ろにある瓦礫に隠れていた者を攻撃したというわけか」
「トーナメント運営は、ここは人一人いない廃村と聞いていたのに、まさか人がまだいたなんて…」
二人はウォーカーの近くに近寄ると、ウォーカーと共に倒れこんでいる者の顔を見た。
ウォーカーの前に倒れているのは、あどけなさの残る幼い少女だった。少女は左側の顔をネジを打ちつけた鉄板で覆い隠しており、鉄板の下から見える肌は痛々しい火傷の痕が残っている。
ウォーカーはまだ少女が気絶していないのを確認すると、少女にこう訊いた。
「まだ焼けていない箇所の肌の色から考えるに、お前はこの国の住民だな? 何故、今俺を背後から襲おうとした?」
「………」
少女は口をつぐんだまま答えない。ウォーカーは続けて少女に質問をする。
「お前はこの村の住民の生き残りか? 見たところまだ幼いようだが、親はいるのか?」
「………」
少女は口をつぐんだまま答えない。ウォーカーはさらに続けて少女に質問をする。
「俺がお前に狙われた理由…。それは、2003年のイラク戦争が理由か?」
「ッ!!!!」
今まで口をつぐんでいた少女は、今のウォーカーの質問を聞いて、再び殺意を露わにした。
その瞬間、少女の背後から、一つ目の大型ロボットのヴィジョンが現れた。大型ロボットの左腕は、回転式のガトリングガンとなっている。
少女がスタンドを出したことに、ソドムとアマンダは驚愕した。
「なッ!? まさかこの少女ッ!!」
「スタンド使いだったんですかッ!?」
ウォーカーは「なるほど、それがお前のスタンドか」と冷静な口調で言った。
少女はロボットに命令する。
「『クイックサンド』、そのアメリカ人を、側にいる二人ごとハチの巣にしろッ!!」
クイックサンドという名のスタンドは、右手で地面の砂を掬った。すると、その砂はスタンドの掌の上で、ガトリング用の銃弾へと変わった。
クイックサンドはその銃弾を左手のガトリングガンに装填し、その銃口をウォーカー達三人に向けた。
「いかんッ、攻撃されるぞ!」
「まかせろッ!」
ソドムは自身のスタンドであるアモルフィスに命令する。
「アモルフィス、敵スタンドの銃口目掛けて液を吐け!!」
アモルフィスはクイックサンドのガトリングガンの銃口に向かって液を大量に吐いた。
と同時に、クイックサンドのガトリングガンが回転する。
少女は、クイックサンドのガトリングガンで三人は全身穴だらけになって死ぬと思っていた。
が、ガトリングガンの銃口から発射された銃弾は、アモルフィスの吐いた液体によって全て溶かされてしまった。
「そ、そんな…、わたしのクイックサンドの銃弾を、全部溶かしちゃうなんて…」
「悪いが、アモルフィスの吐く液体は『生物以外を溶かす』んだ。だから、スタンドの銃弾も必ず溶かす。残念だったな」
ソドムが少女にそう言うと、続けてウォーカーが言った。
「さて、まだ戦う気か、お嬢さん?」
「……くそぉッ!!」
少女はその場から逃げだそうとするが、
「逃がさないッ!!」
ソドムのアモルフィスが少女の身体に巻きつき、身動きをとれなくする。
少女はもがくも、蛇のヴィジョンは少女の身体にガッチリと巻きついて、その幼い体を締め上げる。
「ぐぅ…!!」
少女は呻き声を漏らした。
ウォーカーはソドムのスタンドが少女を締め付けている光景を見ながら、アマンダに言った。
「なぁ、これはあんたらトーナメント運営が用意した仕掛けか?」
「いえいえ、とんでもない!! 第三者がお二人の戦いに横槍を入れるなんて、そんな仕掛けは私達は用意してません!!」
「なら、あの少女は一体何なんだ? 見たところ、俺達を狙っていたようにしか見えないが?」
「さぁ…。とりあえず、あの女の子に訊いてみましょうか?」
アマンダはソドムに対して「そろそろ、その女の子を締め付けるのは止めたらどうですか?」と言った。
ソドムは「そうだな」と答え、自身のスタンドを解除した。少女は束縛から解放され、その場で尻もちをついた。
ウォーカーは少女に近づいて、こう訊いた。
「おい。お前は見たところまだ年端もいかない子供のようだが、お前はいったい何者だ? なぜ俺達の戦いに割り込んだ? なぜ俺達を攻撃しようとした?」
少女はウォーカーの質問に答えた。
「……わたしの名前は『サラサ・ラサ』 あの戦争で、あんたらアメリカ軍がめちゃくちゃにしたこの村の住人よ!」
サラサはそう言うと、自分の過去を語り始めた。
「…イラク戦争が起こったあの時、わたしはまだ1歳だった。わたしは仲の良いお父さんとお母さんといっしょに過ごし、幸せな生活を送っていた。もしこのまま何もなければ、わたしはお父さんやお母さんや村の人たちと、このまま平穏な生活を過ごせていたのかもしれない…。でも、あの日を境に、全ては変わってしまった!!」
サラサという名の少女が言う『あの日』とは、3月17日のことだなとウォーカーは思った。
アメリカ・イギリス両軍が先制攻撃の空爆を行った後、当時の大統領であるジョージ・W・ブッシュは、『サダム・フセイン大統領とその家族が48時間以内に国外退去をすること』を命じ、全面攻撃の最後通牒を行った。
サダム・フセインはブッシュ宛に『アメリカ政府がフセイン政権の交代を求めなければ、あらゆる要求に完全に協力する』との手紙を送ったが、ブッシュはその手紙の受け取りを完全に拒否し、3月20日に予告通りアメリカ・イギリス両軍は『イラクの自由作戦』と称し、イラクの侵攻を始めた。
戦争は、小規模の兵力でありながら、ハイテク兵器の投入をしたアメリカ・イギリス軍が圧倒的に勝ち進み、5月1日に『戦闘終結宣言』がされ、形式的にイラク戦争はアメリカ・イギリス軍の完全勝利で終わった。
だが、ジョージ・W・ブッシュは気づいていなかった。
たとえイラクとの戦争に勝利し、フセイン政権を潰したとしても、イラク戦争が蒔いた火種は、後の時代において燃え盛る業火と化すであろうことを。
(その火種が成長した業火は、今俺達の目の前にいる)
ウォーカーはそう感じながら、ソドム、アマンダと共に、サラサの話を黙って聞いた。
「わたしが1歳だった頃、村はアメリカ軍とイラク軍の戦争に巻き込まれた。村は『敗走したイラク軍の兵士達を匿っている』との理由で、アメリカ軍の侵攻を受けた。
家は焼き払われ、村の人達はフセイン政権の支持者とみなされて、酷いことをされて、わたしも左の顔半分に酷い火傷を負った。
お父さんとお母さんはアメリカ軍の連中に殺されて、わたしは一人ぼっちになった。
わたしは叔父さんの家へ引き取られたけど、年月が経つにつれ、わたしの住んでた村やお父さんとお母さんを奪ったアメリカ軍の奴らへの憎しみは膨れ上がっていった。
あの時、あのチンピラジジィがイラク攻撃を指揮しなければ、あの時、アメリカ軍の奴らが村にやってこなければ、わたしは幸せに暮らせたのに…!!」
サラサの言う『チンピラジジィ』というのは、あの時自分達の国の大統領だったジョージ・W・ブッシュのことだなと思いながら、ウォーカーはサラサに訊いた。
「お前のそのスタンドは、アメリカに対する憎しみがきっかけで発現したものか?」
「そうよ。わたしの相棒『クイックサンド』は、わたしのアメリカ軍に対する憎しみを栄養にしたせいか、あんなに大きくなった。だから―――」
サラサは自身のスタンドをもう一度発現させた。
「わたしはクイックサンドを使って、お前達に復讐するんだぁッ!!」
クイックサンドは右手で地面の砂利を集めて、ガトリング用の銃弾に変えようとした。
「アモルフィス!」
ソドムはアモルフィスを発現させ「液体をサラサのスタンドの周りに巻き散らせ!!」と命令した。
アモルフィスは口から液体を吐き、クイックサンドの周囲にまき散らした。
クイックサンドの周りにあった小石や砂利は、直射日光によってドロドロになったチョコレートのように溶解した。
サラサはフンと鼻で笑う。
「クイックサンドの周りにある砂を溶かして、ガトリングガンの銃弾を作らせないようにしようってんでしょッ! でも場所を移動すればッ!!」
サラサはクイックサンドと共に液体がまき散らされた場所から、後方へと三歩移動した。その時である。
「ッ!? こ、これは…!!」
サラサが移動した場所が、乾燥した大地から、コンクリートで舗装された滑走路へと変化していく。
自分の立っている場所が変わっていく様を見て、サラサはさっき軍人らしき男が自分の腹部を蹴飛ばしたことを思い出した。
サラサはどうやって軍人があの距離で自分に向かって飛び蹴りを喰らわせたのか、理解できなかった。しかし、今ならば理解できる。
「まさか、さっきの蹴りって…!!」
「そう。『地面に滑走路を作る』 それが俺のスタンド『ロード・トリッピン』の能力だ。お前があの男のスタンドに気を取られてる間、お前が移動しそうな場所に俺のスタンドが触れた」
ウォーカーはさらに説明を続ける。
「スタンドの滑走路を滑った物体は、そのまま加速して移動する。さっき俺がお前を蹴飛ばすことが出来た理由はそれだ。滑走路は長ければ長いほどより加速する。今お前が立っている滑走路の長さは約20メートルってところか」
「…だ、だけど、ようは滑らなければいい話でしょ? こんな滑走路、すぐに移動して…」
サラサが滑走路を移動しようとした瞬間、「移動はさせない」とソドムが言った。
ソドムのスタンドである蛇は、サラサに向かって液体を勢いよく吐いた。
サラサは自分に向かってくる液体を見て、「あの液体をまともに浴びたら、自分は溶けて死んでしまう」と思い、思わず後ずさりするが、バランスを崩した。
それが、彼女の敗北の引き金を引いた。
サラサの敗因は、ソドムのスタンド『アモルフィス』の能力が『生物以外の物質を溶かす液体を吐く能力』であることを知らなかったこと。
そして、自分より強いスタンド使いと戦っていなかったことの二つだった。
「あ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
サラサの身体は滑走路を勢いよく滑り、地平の彼方へと飛んでいった。
アメリカ軍への憎しみを抱いた少女を対戦相手と共に撃退したウォーカーは、一回戦で自分が倒したスタンド使いの少女のことを思い出した。
(一回戦で対戦相手の少女の希望を踏みにじり、二回戦ではアメリカ軍に憎しみを抱いた少女を対戦相手と共に打ち破った…、二回続けて幼い少女を倒すとは、後味が悪すぎるな)
一回戦で敗退したあの少女は、今ごろどうしているだろうか? 地平の彼方へと飛んでいった少女は、無事生きているだろうか?
このトーナメントが終わったら、自分はあの少女達に殺されるかもしれない。
だが、ここで試合を放棄するわけにはいかない。イラク戦争で大勢の人間に侮蔑の眼差しを向けられながらも発展を続けてきた祖国のように、自分は勝利への道を外れるわけにはいかないのだ。
ウォーカーは第三者の撃退に協力した対戦相手のソドムに目を向けた。
「横やりを入れる奴もいなくなったようだし、そろそろ試合の続きをするか?」
ソドムは首を縦に振った。
「ああ。スタンドの能力は割れてしまったが、逆にいえば相手のスタンドの対策を取ることも出来る。あの少女が割り込んできたのは、お互いにとって正解だったかもしれないな」
「フッ、そうかもな。じゃあ…はじめるか」
ウォーカーとソドムが再び戦闘態勢に入ったのを見て、すっかり置いてけぼりとなってしまったアマンダは、慌てて気を取り直した。
「で、では試合を続行いたします!! 試合開始!!」
アマンダの声と共に、ウォーカーはロード・トリッピンに命令する。
「ロード・トリッピン、滑走路を作れ!!」
ロード・トリッピンはウォーカーの立っている地面を殴った。殴られた地面はたちまち滑走路に変わった。
「そのまま滑走路を滑って、私に飛び蹴りを食らわすつもりかッ! だが、甘いぞ!!」
ソドムはアモルフィスに「あの滑走路に液体を吐け!」と命令した。アモルフィスはサラサに向かって液体を吐いた時と同じように、ロード・トリッピンの作った滑走路に向かって、液体を水鉄砲のように噴射した。
滑走路は、生物以外の物質を溶かす液体によって溶解する。
だが、ソドムのスタンドがそうすることをウォーカーは想定していた。
滑走路が完全に溶ける直前、ウォーカーはソドムに向かって全速力で駆け、その勢いでソドムの身体にタックルをかけた。
ソドムは思わず胃液を吐いて、あおむけに倒れた。
「か、滑走路は単なるブラフだったのか…、滑走路を使ってあの少女に飛び蹴りをしたように、同じ手を使うだろうと私に思い込ませるために…」
「その通りだ。二度も同じ手を使うほど、俺は馬鹿じゃあない」
ウォーカーの言葉を聞きながら、ソドムは立ち上がる。
「さ、流石はアメリカ合衆国の軍人…。だが、私はここで負けるわけには…いかないのだ!」
ソドムはウォーカーに向かって叫んだ。
ソドムは自分の婚約者を殺した者を探し出すために、その犯人が所属している『ディザスター』という組織に入った。
このトーナメント戦で優勝し、ディザスター内での信頼を勝ち取れば、潜伏がやりやすくなる。
そして、愛する彼女を惨たらしく殺した犯人を、隙を作らずに倒すことが出来る。
そのためにも、ここで負けるわけにはいかない。ソドムはアモルフィスに命じる。
「アモルフィス、そいつを噛めッ!!」
ウォーカーの後方からアモルフィスが接近し、ウォーカーを噛みつこうと、その口を開けた。
が、アモルフィスの身体に、ロード・トリッピンの拳がめり込んだ。
ソドムは口から赤い血を吐いた。
ウォーカーはアモルフィスを殴ったロード・トリッピンを背に、ソドムの目を見た。
「お前もあの少女達と同じように、色々と背負っているんだろう…。だが、俺は希望も、復讐心も、ありとあらゆる思いを叩き潰して突き進む! 『栄光なる勝利』への道をッ!!」
ロード・トリッピンは叫び声を上げながらアモルフィスに拳の連打を浴びせる。
『ローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーード・トリッピーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!』
ロード・トリッピンの拳の雨を食らったアモルフィスは消滅し、ソドムはその場で気絶した。
アマンダは「勝負あり!」と声を上げた。
「おめでとうございます! ウォーカー様は二回戦に勝利したことにより、決勝戦へと進出することが出来ました!!」
アマンダの言葉に対し、ウォーカーは「どうも」と返した。
「ところで、負けたこの男はどうするんだ?」
「あぁ、ソドム様ですか。ソドム様は残念ながら、トーナメント運営が用意した病院に入院することになりますね」
「そうか。戦いに横槍を入れたあのサラサという少女はどうする?」
「あぁ、あの子についてですか…。あの子は決勝戦でまた横槍を入れてくるかもしれませんね」
「そうだな。あの少女が狙っているのは、アメリカ軍人である俺だからな。その可能性が高いだろう」
「ですねぇ…。とりあえず、あの子については運営側に頼みこんで、ブラックリストに入れることにします」
「ありがたい」
ウォーカーはアマンダにそう返事をした。
ウォーカーは思った。
ついに決勝戦に進出となった。このトーナメント戦で優勝するために、三人の希望を打ち砕いてきた。
それは、他国の民衆の人生を踏みにじりながら繁栄を続けてきた祖国とよく似ている。
おそらく自分は決勝戦でも、対戦相手の望みを打ち砕くのだろう。
だが、良心が疼くからといって、今までの自分の歩みを止めることはできない。
賽は投げられた。
自分は輝く勝利への道を歩み続ける。
友人であるアルベルト・シラードが目にすることが出来なかった『トーナメントの優勝』と言う名の頂を目にするまで。
ウォーカーはそう思いながら、決意を新たにした。
★★★ 勝者 ★★★
No.7520
【スタンド名】
ロード・トリッピン
【本体】
デズモンド・ウォーカー
【能力】
触れた箇所を『滑走路』にする
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最終更新:2022年04月17日 15:21