第16回トーナメント:予選③
No.6516
【スタンド名】
インビジブル・レイン
【本体】
アレン・スズカワ
【能力】
水を纏い、弾く
No.5858
【スタンド名】
アイス・エイジ・4
【本体】
阿須名 彗(アズナ ケイ)
【能力】
対象の物体を一定時間無敵にした後、消滅させる
インビジブル・レイン vs アイス・エイジ・4
【STAGE:三ツ星レストランの厨房】◆aqlrDxpX0s
先の入室を譲ってしまったのは迂闊だった。
トーナメント出場者、アレン・スズカワは目の前で閉ざされた厨房の出入り口の前で頭を掻く。
アレンは濃紺のズボンに灰色のシャツを着て、高級の革靴を履いている。
髪は短くさっぱりとした印象があり、整えられたあごひげはやや童顔の顔立ちには似合わないが
かえってそれがなければ学生に見間違われてしまうかもしれない。
秘密裡に行われるスタンド使いが集まるバトルロイヤルトーナメント、と聞いたときには
日本人ながらボクシングのヘビー級チャンピオンになったあのインチキボクサーのようなスタンド使いアスリートか、
スタンド能力で敵組織の幹部を殺した絞竜会の若頭のような、俺と同じウラの人間が集められるものだと思っていたが、
厨房から閉め出される5分前に自分の前に現れたのは子どもだった。
「阿須名 彗(アズナ ケイ)です。よろしく、お兄さん」
レストランのホールから現れ、俺の姿を見つけるや否や駆け寄ってきた子どもはぺこりと頭をさげてそう言った。
真っ白なノースリーブのパーカーにショートパンツ、スニーカーという小学生にも思えるその格好は、
俺の予想していたトーナメント出場者の姿とはあまりにかけ離れていた。
名前を聞いても、男なのか女なのかはっきりしない。
「都内の工業高校に通っています」
俺の考えていることを察したのか、そう言った。
ギリギリ中学生くらいか、と思ったら高校生だったらしい。
ハスキーボイスではあるが、声変りしたものではない。
ということは女の子か、それも工業高校とは珍しい。
髪型は短めのウルフカットで、前髪にワインレッドのメッシュが入っている。
きりっとした眉毛に彫りの深い目は少年の顔立ちにも思える印象を与える。
もしかしたら俺が勝手に女だと思っているだけで本当はただの第二次性徴が遅い男なのではないだろうか。
「お兄さんの名前は?」
俺の思考に構わず彼女(彼?)は尋ねた。
「アレン・スズカワです」
しまった、日本人相手なのだから和名で答えればよかった。
めんどうな質問にまた答えなければならないかもしれない。
「アレンさん、どうぞよろしく」
「あ、どうも、よろしく」
手を差し出されたので、思わず握り返す。
余計な詮索はしてこなかったことに安心したが、ついペースを奪われてしまっている。
握った手は細くしなやかな指をしているが、手のひらはマメだらけでざらざらしている。
「試合場はこの中ですよね? ちょっと着替えたいので待っててもらっていいですか」
「あ……ああ、いいよ、わかった」
「ありがとう」
着替えを見られたくないということはやはり女の子だったか。
彼女はにこりと笑顔を見せるとステンレス製の厨房のスイングドアを開けて中に入った。
「あっ」
失態に気づいたのはその直後だった。
扉の下部のストッパーが下ろされて鍵をかけられた。
閉め出されてから5分経った今でも、厨房からは足音と戸棚を開けたり閉めたりする音が止まずにいる。
彼女は着替えと言っていたが、手荷物は何も持っていなかったので着替えなどしているはずがなかった。
俺をまんまと閉め出して堂々と試合場を調べているわけだ。
厨房のドアには小窓がついているが、すでにナプキンか何かでふさがれている。
着替えをするのだから当然だと思ったが、そうではないことには閉め出されてすぐに気づいた。
しばらくするとドアの鍵が外される。
彼女はどうぞ、とも言わなかった。
今更しらじらしくそう言われても返答に困るが。
俺はゆっくりと厨房のドアを押し開いた。
厨房はほとんど銀色に包まれていた。
長方形の部屋の中央には調理台があり、それを囲うようにして流し台やガス台が壁側に並んでいる。
料理人たちは調理台を囲み、ぐるぐると回りながら料理を作るのだろう。
奥の壁には業務用冷蔵庫がずらりと並んでおり、その前にアズナケイと名乗った少女が立っている。
もちろん服装は入る前と同じままだ。
「下調べは済んだ?」
俺は彼女に訊ねた。
ハンカチとティッシュは持った?というような軽い感じで聞いたつもりだったが、少女は答えず俺をじっと睨みつけている。
まるで庭に入ってきた来訪者を警戒する子犬のように。
丁寧に挨拶をしておいて今更俺を警戒するのか。
そんなに怖い顔しているとは自分でも思わないのだが。
やはり緊張しているのだろうか。
俺は彼女に向って一歩近づいた。すると、
「『アイス・エイジ・4』!!」
彼女はスタンドを自分のそばに現し、身構える。
なめらかな装甲をまとった人型、俺と同じ近距離タイプだろう。
臨戦態勢をとっただけで向かってはこない。
互いのスタンド能力がわからない今、むやみに攻撃するのは危険だと思ったのだろう、当然だ。
しかし今向かってこられたらおそらく俺はすぐ負けてしまうだろう。
俺は方向を変えて、調理台の戸棚を開いた。
その中にはなにもなかった。
調理台の上には調理具も何もなかったからすべて戸棚に入っていると思ったが、こちらももぬけのカラだった。
別の場所を開いても、何もない。
厨房の外の従業員通路には張り紙やメモ書きが多く貼られていたから、オープン前のレストランというわけではないはずだった。
コンロも油汚れが残っているし、床のタイルの隙間には水アカがこびりついている。
しかし、調理台の上や戸棚の中には何も収納されておらず、もし今お客が入ったら料理をのせる皿もないどころか野菜を切る包丁すらない。
「皿も、包丁も……」
なるほど、戸棚を開けたり閉めたりする音が多かったのは、武器を隠すためか。
たしかにこの狭い厨房では武器を持ったほうが格段に有利となる。
皿や調理具をどこに隠したかはわからないが、武器を排除したのは俺にとっては都合がいい。
「何か武器を探しても、無駄だよ。全部なくしたから」
彼女はかすれ声で言った。あれ、もともとそういう声だったか。
「なくした」という表現は気になるが、無視することにした。
「なんだ、隠しちゃったのか。君とは戦いたくないから料理対決で決着をつけようと思ったんだけどね」
「なら良かった、わたし料理は苦手だから」
「でもこれじゃあ仕方ないから、フツーに戦うしかないようだ」
「…………ッ」
俺の言葉を聞いて、彼女は再び身構える。
武器は俺に使わせないために「なくした」らしかった。
まあ俺自身も互いに包丁を持って対峙したくはない。
俺の武器は「たったひとつ」あれば十分である。
俺は壁際のシンクに近づき、水道の蛇口を思い切り開いた。
蛇口から水が勢いよく出て、アルミのシンクを打ちつける。
排水口にゴムの蓋をして、水を貯めていく。
たまった水はあふれていき床に流れ落ちて床の小さな排水口まで川を作る。
「水もったいないよ、お兄さん」
「地球上では1時間に何千億リットルもの水が海に流れ出てている、これくらいたいしたことはないだろう」
「……それもそうか」
冗談を真に受けた彼女に、俺の行動の真意は読めなかったらしい。
俺にとって、武器とはこの水さえあれば十分なのだ。
俺は水のたまったシンクに片手を突っ込む。
「『インビジブル・レイン』……!」
俺のスタンドが姿を現す。魚のウロコを纏った、半魚人のような出で立ち。
だが、俺のスタンドはウロコも纏うが、「水も纏う」のだ。
シンクにたまった水が重力を無視してインビジブル・レインの腕を張ってせり上がる。
やがてスタンドの全身を覆い、顔以外をプルプルとした水で包み込んだ。
こうなったら、状況は一変する。
もし今彼女に向かって来られたならば、俺は確実に勝てるだろう。
「水を……操る能力?」
俺がスタンドに水を纏わせる様子を目を丸くして見ていた彼女はそう呟いた。
「そう、その通り。蛇口も何かで縛っとくか、『なくして』しまえばよかったのにね」
実際にはおそらく彼女が思ってるほど操れはしないが、そう思わせておけばいい。
とにかく、彼女がうろたえている今こそ勝負の決め時だ。
俺は床を強く蹴りだし、彼女に向って駆け出した。
「うわっ!」
俺が向かってくる逆方向に彼女は逃げ出す。
厨房の中央の調理台のまわりをぐるぐる回るように俺は彼女を追う。
女子高校生と成人男性の体力の差を考えれば、2周もしないうちに追い付くのは当然のことだった。
俺は背後から彼女の腕をつかみ、水を纏わせたスタンドの手で彼女の口と鼻を覆った。
ブグッ!ガボガボガボガボ!!
スタンドに纏わせた水を、彼女の鼻の中に送り込む。
鼻に入れた水を口から吐き出さないように口の中も水で満たす。
おそらくは今彼女は目を充血させながら涙を流し、もがき苦しんでいることだろう。
溺れる苦しみと死の恐怖に襲われるなどここに来るまでは思わなかったに違いない。
「安心しなよ、溺れ死ぬ前にきみは気絶するだろうから。あとは誰かが蘇生してくれるだろうさ」
俺は勝利を確信した。
だが思わぬ出来事が起こった。
彼女は口と鼻をふさぐスタンドの手に『アイス・エイジ・4』といった自らのスタンドの手を重ね合わせた。
すると数秒後、彼女の口と鼻を覆った水と俺のスタンドの纏っていた水が一瞬にして「なくなって」しまったのだった。
水滴一つ残さず消え去り、俺と俺のスタンドは無防備状態となった。
俺が呆気にとられた直後、彼女の肘鉄が俺の側頭部に当たった。
がんと痛みが頭に響き、彼女の手を放してしまう。
彼女はその隙に俺から離れて呼吸を整えた。
「はあ……はあ……あぶなかった」
「『なくしてしまう』……か。まさか俺の水もなくしてしまうとは、本当にそういう能力なんだね」
「……そう、そうだよ」
「皿や包丁もほんとうに『なくした』んだ。隠したんじゃなく、消したんだ。今のようにね」
消す能力か、くそ、いいなあ羨ましい。
「素晴らしい能力じゃないか、いますぐ産業廃棄物を処理する仕事でも始めたらどうだ?
初期投資なしで膨大なお金が手に入るよ。俺の仕事にも役立てられそうだ」
「仕事……? そういえば、あんたは何をしている人なんだ」
「ウラの仕事だよ、死体処理業」
フリーターだよ、と言うみたいにさらりと言ったつもりだったが、
彼女の顔が引きつるのが見えた。
「そんな顔するなよ、ヤクザの一員ってわけじゃないし葬儀屋と変わらないよ。葬式を行わないだけでさ」
とはいえ本当は死体が見つかってマズいものを処理するわけだから、コワイ仕事であることは確かだが。
警察や検察とも利害関係にあるから、なんとか成り立ってるわけで……まあわざわざ言う必要もないか。
「きみの能力はアシがつくことなく死体を処理させられそうだ」
「言っとくけど私の能力で人を消すことはできないよ。死んだのならできないこともないと思うけど……」
「生きてる人間は消せないのね、それじゃあ俺が今ここで消される心配はないわけだ」
「あ……ッ」
「ばかな子だ」
しかしまだ睨まれたままか。
ああそうか、今俺に殺されそうになったんだもんなあ、そりゃそんな顔するわ。
でも、そろそろ十分かな。
「呼吸を整えることも大切かもしれないが、今君は俺を追い詰めかけたんだぞ?
もう今のうちに十分水がたまってきたよ」
「……!!」
彼女が俺から離れてから、俺は再びシンクに水を貯めはじめていた。
すでに再び体を纏えるだけの水を蓄えている。
俺は再びシンクに腕をつっこもうとしたが、彼女の顔を見て手を止めた。
何か考え込んでいるようだったのだ。
最初に見たときから思っていたのだが、彼女はどうもつかみどころがない人物だった。
先にここに着いた俺を出し抜いて先に試合場に入りこむほどの策と度胸を示しておきながら、
戦いだすとなると飼われはじめの小型室内犬のようにおびえている。
命の危機にさらされながらも平然と人の職業を訊いてくる。
そして危機を再び目の前にして何か思いつめたような顔をしている。
俺はふと、訊いてみたくなった。
「きみは、何のためにこのトーナメントに参加した?」
「ロボットを戦わせるためだよ」
即答。しかし答えになっていない。
そういえば工業高校に通っていると言ってたな。
いやいや、まだ遠いぞ。
トーナメント、ロボット、工業高校。
「この世で一番カッコいいモノって何だと思う? ロボットだよ、人が乗って操縦する」
そんなことはないと思うが、と応えようとするより先に彼女は続けた。目が輝いている。溺れかけたくせに。
「ガンダム、マジンガーZ、ボトムズ、エヴァンゲリオン、ビッグ・オー……
日本のモノづくりが目指す一つの形が、私たちがロボットアニメを見て憧れた戦闘ロボットを実際に作ることだと思うんさ」
「そうですか」
そっけない返事をする。
話に熱中すると話し方が変になるらしく、語尾がおかしい。
だがそんなこともどうでもよく、あまりロボットアニメに詳しくないので別にもう話を聞きたくなくなっていた。
「しかし作るだけで満足してはいけないんだよ。実用性を伴わせ、実際に扱えないと置物と変わらない」
「はあ」
「私はこのトーナメントに優勝して資金とコネクションを作りたい。建設機械メーカーを乗っ取ってロボットメーカーに変えて私の夢を実現させたい……」
「へえ」
「このトーナメントは千載一遇のチャンスなんさ。臆病な私だけど、目の前におりてきたチャンスを逃したくはない」
トーナメントで優勝して建設機械メーカーが手に入るかどうかはわからないが、
この少女には確固たる目的があるらしい。
気の毒だが、俺はそれを断つ役目なのだな。
俺は再びシンクの水をスタンドに纏わせた。
「その水……恐ろしい能力だけど、二度は通じないよ」
「同じ手を使うといつ言った?」
俺は水を纏わせたスタンドの手を彼女に向けた。
人差し指と親指だけ立ててほかの指は握りこむ。
「拳銃」を模した手の人差し指の先から直径1センチ程度の水の弾丸が放たれた。
「うぐっ!」
水の弾丸は彼女の肩に命中し、水が弾ける。
彼女はその痛みに顔をゆがませる。
「銃の威力には程遠いが、痛いだろう? 青アザくらいはできてるだろうな」
俺はさらにもう一方の手で拳銃をつくり、つづけて撃ち放つ。
「うわっ!」
彼女は調理台をはさんで俺と部屋の対極に移動し、調理台に身を隠す。
俺はまわりこんで彼女を追い詰めようとするが、先ほどと同じく彼女は調理台に身を隠したままぐるぐると調理台のまわりを逃げ続けた。
「逃げていたままで、チャンスを掴みとれるのか!?」
苛立った俺は彼女に向かってそう叫んだが、もちろん止まる気配などない。
俺は銃口を彼女に向けて走り続ける。
2周もすれば追い付くはずだった。
しかし、同じように逃げ回っていたのは、彼女の戦略だったのだ。
ぐるぐると周囲を走り回っていた調理台が、いきなり消え失せた。
突然、跡形もなく。
もちろん、彼女のスタンド能力によるものだった。
彼女は身を屈めたまま、こちらを向く。
クラウチングスタートのような体勢から、こちらに向かって突進する。
手の銃口は調理台のまわりの動線に沿って向けていたので、照準を定めるのが間に合わなかった。
彼女は俺の両脚めがけ、低い体勢でタックルしてきた。
「うおっ、ちょっ、ちょっ!!」
背後には壁側の冷蔵庫がそびえ立っていた。
頭を打ちつけでもしたら、しばらく動けなくなるだろう。
「『インビジブル・レイン』! 水を後頭部と背中に集中させろ! 衝撃を和らげるんだ!!」
『インビジブル・レイン』は俺の言うとおり、纏っていた水を後頭部と背中に集中させた。
倒れるのは変わりないが、衝撃は幾分か軽減されるはず、そう思った。
だが結果としてそれが、俺の敗因となった。
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目を覚ました時、俺は厨房の真ん中にあおむけに倒れていた。
起き上がろうとすると体中がしびれるように痛い。
頭だけなんとか持ち上げて胸元を見ると、シャツを脱がされ、何やらコードののびたパッドのようなものが胸に貼られていた。
「目を覚ましたな掃除屋」
男の低い声がする。
声のしたほうへ視線を動かすと黒スーツの男が壁に寄り掛かって立っていた。
アズナ ケイの姿はない。
「あんたは誰だ?」
「そんなことはどうでもいいだろう、おまえにとって重要なのはこの状況だ」
あおむけのままで視線を動かし、できる限り周囲を見回す。
足の向いているほうに厨房の扉。
左側に俺が水を貯めていたシンクがあり、そばに男が立っている。
右側にはガス台、
俺が寝ころんでいる場所には調理台があったが、彼女が消した。
そして俺の頭の向いてるほうには冷蔵庫があるはずだ。
「ないよ、冷蔵庫は」
「ない? いやあるはずだ。俺は冷蔵庫に頭をぶつけて気絶したんだろ」
気絶。
そう、気絶したんだ。状況とはまさにそれだ。
覚えていないがそれしか考えられない。気絶して俺は負けたんだ。
「だからないんだって、冷蔵庫は。おまえが阿須名にタックルされた直後、冷蔵庫にぶつかる前に彼女が消したんだ」
「消した? そんなばかな、あいつは冷蔵庫に触れられなかっただろ」
「彼女の能力は、消すタイミングをずらすことができる。調理台の周囲を回っていた時に触れて、調理台を消す後に消えるようにしたんだろ」
「なぜ冷蔵庫を消す必要があったんだ」
「おまえの胸に貼られているのは何かわかるか?」
胸に張り付けられているもの。
たしかに、これは一体何だ? 2枚貼られているようだ。
「AEDだよ」
「なんだそれ?」
「自動体外式除細動器。心室細動を起こした人に電気ショックを与え、心臓の動きを取り戻させる機器だ」
「何でそれが俺に使われてるんだ?」
「お前の心臓が止まったからだよ」
心臓が止まった? 俺の?
どういうことだよ。
タックルされて、冷蔵庫がなくなって、心臓が止まって……
ああ、そうか、そういうことかよ。
なんてこと考えたんだあの子は。
男は立て続けに言った。
「阿須名がタックルして、お前はバランスを崩して後方に倒れようとしていた」
「冷蔵庫にぶつかる前に、冷蔵庫は消えた。阿須名のスタンド能力によって」
「冷蔵庫が消えて、壁がむきだしになる」
「おまえは壁にぶつかるはずだった……が、その壁にはあるものがあった」
俺はあおむけのまま見上げて冷蔵庫のあった場所の壁を見た。
壁の中央にはコンセントの差込口があった。
「お前は頭と背中への衝撃を和らげるため、纏っていた水を後頭部と背中に集中させた。
しかし、おまえの背中の触れた場所には冷蔵庫が消えてむき出しになったコンセントの差込口があった。
厨房のような場所では水による漏電を防ぐためコンセント差込口は壁の高い場所に設置されているが、ちょうど背中の触れる場所にあったわけだ」
「お前の纏った水を介してお前の体に電気が流れた。ブレーカーはすぐに落ちたから一瞬だったろうが、電気ショックによりお前の心臓が止まったんだ」
「なるほど、ご教授ありがとう。……んで、あんたはわざわざ助けてくれたわけだ」
畜生、見事してやられたというわけか。
あの女、猫かぶってたか。
「なあ、あんたはどう思う?」
俺は男に訊いてみた。
「ほんとうにあいつが、ここまでの戦略を瞬時に組み立てて実行したと思うか? ただ運が良かったとも思えるがね」
男はすこし考え込んでから答えた。
「そりゃ運が良かった可能性もあるさ。冷蔵庫よりも壁のほうが固いから、と思ったらたまたまそこにコンセントがあった、とかな」
それはそうだ、そうでなければ俺があのおびえた子犬みたいな女の子に気絶させられたとはどうも考えられない。
窮鼠猫を噛む、勢いに任せたらたまたま上手くいったってだけなんだ、きっと。
だが、彼女の語っていた壮大に過ぎる夢を聴いたのを思い出し、もう一つの可能性が頭をよぎる。
建設機械メーカーを乗っ取って、ロボットを作らせるなんて、普通の人間にできることではない。
ただの、子どもの空想なのかもしれない。だがその夢は、彼女の持つある可能性を期待にも似た形で浮かび上がらせる。
男は続けた。
「しかし実際、彼女に厨房を調べる時間は十分にあった。君のスタンド能力も一度身をもって知っている。
そして君には知りえないことだろうけど、今回彼女は自分のスタンド能力を50%程度しか使っていない」
「何だと!?」
彼女の能力には、まだ隠された何かがあるというのか。
いや、今回はそれを使うまでには至らなかったということか。
なんにせよ、ふとよぎった俺の考えはどうやら確信に近いらしい。
彼女の持つ可能性、それは……
「阿須名 彗は、ものすごく頭のいい人間なのかもしれないよ」
★★★ 勝者 ★★★
No.5858
【スタンド名】
アイス・エイジ・4
【本体】
阿須名 彗(アズナ ケイ)
【能力】
対象の物体を一定時間無敵にした後、消滅させる
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最終更新:2022年04月17日 15:47