第16回トーナメント:予選④
No.5227
【スタンド名】
ヴァルハラ・ダンスホール
【本体】
ショスコム・ウィステリア
【能力】
「自殺」することで「来世の自分」に魂及びスタンドが移動する
No.7492
【スタンド名】
プラスチック・スマイル
【本体】
蘇亜橋 真座利(ソアバシ マザリ)
【能力】
息を吹きかけたものを「膨らませる」
ヴァルハラ・ダンスホール vs プラスチック・スマイル
【STAGE:迷宮】◆pFj/lgiXE.
八月某日・午後10時5分。
トーナメント一回戦の立会人「緑柱石(リュー・ジューシィ)」はF県K山市にある無人駅・H田駅の待合室で、トーナメント出場者を待っていた。
出場者の二人に送った手紙には、『午後9時までにF県K山市H田駅に集合』と書いた。
しかし、その出場者二人は午後9時を過ぎても全然来ない。
「遅い…、出場者達は一体何をしてるんだろう…」
柱石は自動販売機で売ってある缶コーヒーを飲みながら、出場者達を待った。
5分後、出場者が待合室にやってきた。どうやら、両者とも上り行きの列車を使って来たようだ。
柱石は出場者二人を出迎えるべく、椅子から下りた。待合室のドアが開くと、6人の男女が入ってきた。
「…へ?」
柱石は間の抜けた声を出してしまった。確か、出場者は二人だったはずだ。なのに、なんで二人の他に四人の男女がいるのだろう。
柱石がそう思っていると、豊満な胸の女子高生がこう訊いてきた。
「あの~、貴方はトーナメントの立会人さんですか?」
「え、ええ、そうですけど。確か貴方は出場者の一人である『蘇亜橋真座利(そあばし・まざり)』様でしたよね?」
「ええ、そうです。良かった~、トーナメントの立会人さんで~」
真座利という名の少女はそう言うと、自分の後ろにいるスーツ姿の禿頭の男を紹介した。
「えっと、わたしの後ろにいるのは、わたしのクラスの担任教師の『安倍農円(あべ・のうえん)』先生っていいます」
「どうも、こんばんは。安倍といいます。蘇亜橋がトーナメントに出場すると言うので、今回保護者の代わりに同伴するということで一緒に来ました」
安倍という男性教師がそう答えると、柱石は「そ、そうですか」と答えた。
(成程、自分の教え子を危険な目に遭わせないために一緒に来たというわけか。生徒の人生を預かる教師である身だから、それは仕方がないだろう。しかし…)
柱石は真座利の隣にいる金髪の外国人男性と、その男性の後ろにいる、いかにも外国映画に登場するチンピラのような派手な格好をした三人の男女に目をやった。
「貴方はもう一人の出場者である…」
「『ショスコム・ウィステリア』だよ」
ショスコムという名の外国人男性はそう言うと、自分の後方にいる三人を紹介した。
「後ろにいるのは僕の配下である『イザドラ』、『ステイプルトン』、『ウィンディバンク』だ。僕がトーナメントに出場すると言ったら、『ボスの身が心配なのでついてきます』と言ってついてきたんだ」
「そ、そうですか…」
すると、後方の部下三人が声を上げた。
「アタイ達はボスのことを思ってこの日本へやってきたんだ」
「そうとも、俺達はボスの身に何かがあったらと思うと心配で心配でしょうがねぇ!!」
「あっし達はボスの行くところなら、たとえ火の中水の中でもついていきまさぁ!!」
柱石は「そうなんですか」と言うと、心の中で思考した。
部下達もボスであるショスコムの身が心配でやってきたか。第13回トーナメント戦でも、Z1プロダクションのアイドルが出場する際、マネージャーの女性が同伴してきたという。
自分が担当することになったトーナメント第一回戦の出場者は、女子高生と北欧のギャング組織のボスである。
だから、13回トーナメントのように、出場者の身を心配して同伴する者が現れてもおかしくは無いと思っていたが、まさかこんなにやってくるとは思わなかった。
だが、大丈夫だ。この程度のことはアクシデントのうちに入らない。問題なのは、トーナメント一回戦の試合内容だ。
柱石がそう考えている最中、真座利はショスコムに訊いた。
「ボスって、ショスコムさんはどこかの組織のボスなんですか?」
「ああ。僕は北欧のギャング組織『ガルガ・ファルムル』のリーダーでね。それなりに規模も大きいんだよ。そうだ、キャンディー食べるかい?」
ショスコムは上着のポケットの中からキャンディーを取り出すと、それを真座利に渡そうとした。が、農円にさえぎられた。
「気をつけろ、真座利。相手はギャングのボスだ。キャンディーに毒を仕込んでいるかも知れん」
そう言う農円にショスコムの部下達は怒号を上げる。
「んだとコラァ!? てめえ、ボスがそんな卑劣なことをする奴だと思ってんのか!?」
「ボスの優しさは五臓六腑に染み渡るんだぞ!!」
「ボスを侮辱すんのかオラァ!?」
農円はフンと鼻で笑った。
「どんなにやさしい性格だろうと、所詮社会のゴミクズの寄せ集めのボス猿に過ぎんだろ」
「言ったなこのハゲ野郎!!」
「ブチ殺すぞコラァ!!」
農円とショスコムの部下達が一触即発になるのを、真座利、ショスコムが制止した。
「まぁまぁ先生、落ち着いて下さいよ。いくらギャングの組織のリーダーの人でも、そんな卑怯な真似をするはずがないですよ」
「真座利ちゃんの言う通りだよ、先生。僕は初対面の子にキャンディーを上げようとした。ただそれだけさ。それにお前達も声を荒げるな。今は付近の住宅の人達が寝ているかドラマを見ている時間だぞ? そんな時間に騒いでどうするんだよ」
「で、でも…」
「なぁに。世間から侮蔑の目で見られるのは慣れているさ。三人が怒る必要は無い」
ショスコムはそう言うと、何やら考え事をしている柱石に目を向けた。
「ところで立会人さん。僕達はどこで戦うんだい?」
ショスコムの声を聞いて柱石は「あ、ああ、そうでしたね」と言うと、真座利とショスコムに対戦場所を伝えた。
「お二人が戦う場所。それは、『迷宮電器店』です」
柱石は対戦場所に移動しながら、後ろから付いてくる真座利、ショスコム、そして同伴の農円、イザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンクに説明をした。
「第一回戦の対戦場所『カーズデンキK山市H田支店』通称『迷宮電器店』。おそらく、真座利さんはネットのサイトか何かで知ってるはずだと思います」
「大型スーパー『イオン・フェスタK山市H田支店』の西側に建てられた、カーズデンキの支店の一つ。ここは県内のカーズデンキ支店の中で電化製品が非常に充実していて、さらに初代支店長である『須藤蘭斗(すどう・らんと)』の趣味なのか、店内自体が巨大な迷路のようになっており、一度迷ったら外に出るのに時間がかかってしまうと評判でした。そのため、TVやネット上では『迷宮電器店』というあだ名で呼ばれました」
「地元住民は最初はこの奇妙な店に不満を漏らしていたものの、店内の構造に慣れると親しみを持つようになり、迷宮電器店はK山市の名スポットの一つとして愛されてきました」
「しかし、そんな迷宮電器店に悲劇が起こりました」
「2010年5月31日。店が開店して2時間経ち、正午になった時、突然銃を持った、赤髪の十名の男女達がやって来て、店員達や客を人質に取ったのです」
「犯人達は現在で言うところの『ネット右翼』で、リーダーの『呉井丈(くれい・じょう)』と副リーダーの『蛙智壇花(あち・だんか)』はかなりの末期症状だったと言われています。呉井達はネットのチャットで知り合い、自分達を『赤毛連盟』と名乗り、国家の未来のために、内閣総理大臣である鳩山由紀夫を抹殺しようなどという、とんでもないことを思いついたのです。呉井達はTVやネットで話題になっていたカーズデンキK山市H田支店の店員達と客を人質にとって籠城し、警察に『人質を返してほしくば、鳩山由紀夫を我々に引き渡せ。引き渡した後人質を解放し、売国奴の鳩山を惨殺する』と要求してきました」
「もちろん警察はそんな無茶苦茶な要求を呑むはずがなく、逆上した呉井達は、店長を含めた店員達5名を拳銃で殺害しました。」
「結局、銃声を聞いた刑事の指示により、警察は強行突入。呉井、蛙智を含めた赤毛連盟のメンバーは全員警察に逮捕。生存者は24名、死者5名という結末に終わり、その二日後にあれだけ赤毛連盟が殺したがっていた鳩山由紀夫は辞意を表明し、さらにその二日後には鳩山内閣は総辞職。そして、事件の一週間後に迷宮電器店は閉店しました」
柱石はここで息を長く吐くと、話を続けた。
「…しかし、話はここで終わらないんですよ。事件から二カ月経ったある日の夜、閉店した迷宮電器店では奇妙なことが起こり始めました。」
「窓ガラスが突然割れるような音が聞こえたのに窓ガラスが割れていなかったり、誰もいない店内から女性の悲鳴や、複数の人間がすすり泣く声や呻き声が聞こえたり、大きな地震が起こっていないのに地響きが聞こえてきたりなど、様々な怪現象が立て続きに発生し、付近の住民やイオン・フェスタ店に来た客も不気味に感じるようになり、『これは籠城事件で命を落とした店員五人の亡霊の仕業なのではないか』と噂するようになりました」
「その噂はやがてネットを経由して全国に伝わり、『怪現象が起こる廃墟・迷宮電器店』と呼ばれるようになっていきました」
「ある日、その噂を知った留学生達が『そんなに怪現象が起こるなら、行って確かめてみようじゃないか』と無謀なことを思いつきました。その留学生達の名は、仮にA・B・C・D・Eとしましょう。Aは威勢の良いアメリカ人男性、Bは気弱な性格のイギリス人男性で、CはBの彼女であるアイルランド人。DとEはどちらも霊感の強い中国人カップルでした。とにかく、この五人が迷宮電器店へ入り込んだのです」
「深夜0時。車から降りた五人は店の玄関の前へ行きました。Aは自前のバットで玄関の自動ドアを叩き割って意気揚々と店内へ入り込み、残りの四人もAの後を付いて行きました」
「迷路となっている店内を五人でしばらく歩いていると、突然地鳴りのような音を響かせて、店が揺れ始めました。Bは声を上げて驚き、Cは恐怖のあまり、その場に座り込みました。Eは突然の地震に動揺し、Dに抱きつきました。Dは自身の彼女であるEを守ろうと、Eの身体を強く抱きしめました。しかし、Aだけは威勢よく『オイ、店を揺らすことしか能がないのか、てめえらは!?』と、神をも恐れぬかのように怒鳴り声を上げました」
「やがて、揺れがおさまると、今度は大勢の人間が店中の通路の壁をドンドンと叩く音が聞こえてきました。A以外の四人は悲鳴を上げました。しかし、Aだけはバットを振り回しながら、なおも見えない何かに向かって声を上げます。『コソコソ隠れて人を驚かす腰抜けどもが!! 正々堂々と出てきて勝負しやがれ!!』四人はなんて罰当たりな奴なんだとAを心の中で軽蔑しました」
「そして、ふとEがAの方へ目を見やると、高い悲鳴を上げて震えだしました。Dが『どうしたんだ?』と訊くと、EはAの方に指を差しながらこう言ったんです」
『Aくんの…Aくんの後ろに、五人の幽霊がいるッ!!!!』
「四人はAの腕を引っ張って、すぐに車に乗って迷宮電器店から逃げ出しました。そして、すぐにお祓いしてもらおうと、K山駅の近くにある寺院に行き、そこの住職に事情を説明してお祓いしてもらうようお願いしました。住職は『なんということをしたんだ! あそこにいる霊達に喧嘩を売るとは何事か!!』と五人を叱ったのですが、Aだけは『なんで叱られたのか、意味が分からない』と言いたげな顔をしていました。住職はそんなAを見て呆れかえりながらも、きちんとお祓いの儀式を行いました。A以外の四人はこれで助かったと安心して、それぞれの家へと帰りました」
「……しかし、迷宮電器店の霊達の怒りはおさまらなかったのでしょう。それから一年が経って、五人に不幸なことが訪れました」
「Aは迷宮電器店での件から半年後に急性白血病にかかって亡くなり、BとCはドライブ中に崖から落ちて、両者とも転落死。そして、Dは糖尿病でもないのに右足が壊疽して、右足を切断。Dの彼女であるEは原因不明の高熱を出し、その高熱の影響による脳障害を起こし、そのまま息を引き取りました」
「その後、どこから漏れたのかはわかりませんが、この話がネットの匿名掲示板で書きこまれ、たちまちネット上に拡散してしまい『迷宮電器店には本当に怨霊がいる』と語られるようになり、地元住民だけでなく、多くのネットユーザーからも恐れられるようになりました……」
柱石は迷宮電器店にまつわる怪談を語り終えた。真座利、ショスコム、二人に同伴する者たちは、しばらく沈黙していた。
その沈黙を破ったのは、真座利だった。
「ねぇ、話を聞いて思ったんだけれど、その話のDってのはもしかして、立会人さんのこと?」
柱石は先頭で歩きながら、「良く分かりましたね」と答えた。
ショスコムは「やっぱりそうか」と言った。部下のイザドラが、ボスのショスコムに訊いた。
「やっぱりって、ボスはあの話が立会人の体験談だって気づいてたのですか?」
「ああ。話の中に登場したAという男の粋がったセリフを事細かに覚えているのは、A以外の四人のうち、男性であるBかDだろうと思ったし、最後にD以外の四人が全員死んだことも含めて考えると、あの話は立会人の体験談であり、立会人の正体は、迷宮電器店に乗りこんだ五人のうちの生き残りであるDだと判断が出来る」
「すげぇ! 流石俺達のボスだぜ!」と、ステイプルトンは喜んだ。そんなステイプルトンをよそに、ウィンディバンクは真座利を見ながら言った。
「しかし、分からないな。真座利の嬢ちゃんは、なんで立会人が話の中の登場人物であるDだと分かったんだ?」
ウィンディバンクの疑問に真座利はこう答えた。
「いや、立会人さんが歩くたびに、ほんの小さな音だけれど、立会人さんの右足のひざ関節からプラスチックのようなものが軋む音が聞こえたの。だから、話の最後でDが右足を切断したことから考えて、『もしかしたらこの話のDって、立会人さんなのかな』と思ったんだ」
「へぇ~。僕はそんな音を捉えることが出来なかったよ~。義足がわずかに軋む音を聞きとっちゃうなんて、真座利ちゃんはすごいね~」
「本当っすよね~。真座利のお嬢は地獄耳だぜ~!」
ショスコムとステイプルトンに褒められて、真座利は「いや~それほどでも~」と照れた。真座利がギャングの組織の人間達と仲よく話しているのを不満に思いながらも、その不満を抑えて、柱石に言った。
「しかし、ただでさえ成仏できない亡霊達を怒らせるようなことをするとはな。燃え盛っている火に油を注いで、さらに炎上させるようなものだぞ。全ての原因はAという男にあるにせよ、貴方達が過去にやったことは、到底許されることではない」
「ええ。分かっています。右足を切断した後、お祓いをしてくれた住職のいる寺へ行き、自分以外の四人が命を落としたことを話しました。住職は『やっぱりそうか』と言い、僕を自分の部屋へ案内し、そこにあるノートパソコンの画面を見せ、『お前達がやらかしたことがネットで出回っている。そして、お前たちみたいな調子づいた若者達が、興味本位であそこに行き、亡霊達に祟られて命を落としている。あそこの亡霊達の怒りはワシや他の僧侶達も鎮めることは出来ん。これからどうすればいいか、あの五人の生き残りであるお前が考えろ』と言いました。僕はその後どうすればいいか考えました……」
「そして、考えに考えながらトーナメントの立会人となり、試合を利用して、僕達に迷宮電器店の亡霊達を退治させようという結論に至ったわけだ」
ショスコムの言葉に柱石は「はい」と答えた。
「本来なら自分自身で解決すべきことなのですが、霊感が強いだけの僕には霊達の怒りを鎮めることなんてできないし、K山市の市長に電器店のある場所に霊達を鎮める石碑を建てるように頼みこんでも、『どこもかしこも財政難な状況で、石碑なんか作れる資金なんてない』と断られてしまいました。残った方法はこのトーナメントの試合の出場者であるお二人に頼んで、電器店の亡霊達を倒してもらうしかないんです。あまりにも勝手ですが、どうかあの電器店の亡霊達を退治してほしいのです」
柱石の言葉にショスコムは「確かに勝手だね」と言った。
「元々は自分達が蒔いた種なんだから、自分で何とかするべきなのに、もう打つ手が無いから僕達に電器店の亡霊達を退治してもらおうだなんて、あまりにも都合が良すぎだと思わないかい、立会人さん?」
「…………」
ショスコムに続いて真座利が言う。
「そもそも、立会人さんが友達と心霊スポットに行こうなどと考えなければ、その体験談がネット上に出回ることも無かったし、多くの人達が亡霊達に祟られて死ぬことも無かったはずだよ。実際、私の友達もゴールデンウィークにそこへ行って、中に入って怖い思いをして逃げ帰って、休み明けに交通事故に遭って、両手を失うことになったの。その友達は今は両手のあった場所に義手をつけて生活してるけど、義手をつける前は背中を掻くこともできなかったって言ってた。そういう祟られた人達をいっぱい出しておいて、私達に自分達のやらかしたことの後始末をつけさせようだなんて、勝手すぎるにもほどがあるよ」
「…………」
柱石は二人の正論に沈黙せざるを得なかった。数分沈黙が続いたところで「だけど」と真座利が口を開いた。
「私はそういう人以上に嫌いなんだよね。自分達の恨みや憎しみを無関係な人にぶつける亡霊達ってさ。いいよ、亡霊退治をやってあげる」
ショスコムも続いて言った。
「僕も『スタンドの能力で亡霊に勝つことが出来るのか』を試してみたいし、トーナメントで優勝したいという欲がある。いいだろう、引き受けましょう」
二人のこの言葉に柱石は「ありがとうございます」と返した。はたして、迷宮電器店に着いた。
迷宮電器店に辿り着くと、柱石は真座利とショスコムに試合の内容を説明した。
「第一回戦の試合内容は、さっきも言いましたが『亡霊退治』です。迷宮電器店にいる亡霊の数は、かつての僕の彼女の言葉が正しければ全部で五体。その亡霊達を相手よりも多く退治した方が今回の試合の勝者となります。その際、出場者の真座利様とショスコム様に同伴した四名の方々は、僕と共に店の外で待機という形になります」
柱石の言葉を聞いて、農円とショスコムの部下達は「何だって!?」と口をそろえて言った。
「我々は店の中に入ることは出来ないというのか!? 真座利にもしものことがあったらどうするんだ!!」
「禿頭の旦那の言う通りだよ! ボスがもしあの店の亡霊に祟られでもしたらどうしてくれるんだ!?」
「ボスだけじゃあねえ!! 真座利嬢ちゃんまで亡霊共にぶっ殺されたりでもしたら……」
「あんたらはどう責任を取るつもりだ? あぁ?」
四人の言葉を聞いた柱石は「ご心配なく」と答えた。
「そう言われることを考慮して、今回はある方にご協力してもらうことにしました」
柱石はそう言うと、スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、「緑柱石です。今、迷宮電器店に着きました。あなたもすぐこちらに向かってください」と誰かと会話をし、通信を切った。
「もしかして、誰か来るんですか?」と真座利が訊くと、柱石は「はい」と答えた。
数分して、迷宮電器店駐車場に、一台の黒い高級車が止まった。高級車の助手席のドアが開くと、銀色の髪を二つに結え、喪服のような真っ黒なセーラー服を着た少女が下りてきた。
銀髪の少女はスカートの裾をつまみ、真座利達にお辞儀をする。
「今回のトーナメントの出場者の、蘇亜橋真座利様とショスコム・ウィステリア様ですね。はじめまして、第12回トーナメント準優勝者・白鷺かふらと申します」
「じゅ、準優勝者!? ど、どうも…」
「は、はじめまして」
真座利とショスコムは驚きながらかふらに一礼し、他の四人も二人に続いて礼をした。かふらは真座利達に微笑むと、柱石に目を向けると、「柱石さん。頼まれた物を作ってまいりましたわ」と言い、
虫のような羽が付いた二基のカメラらしきものを手渡した。
柱石は「ありがとうございます、かふら様」と、感謝の言葉を述べた。
「いえいえ。礼には及びませんわ」とかふらは言った。柱石はかふらに軽く礼をすると、農円達に説明した。
「今回の試合は、出場者が亡霊に祟られる危険性があるため、出場者に危険が迫った場合、すぐに救出できるよう、真座利様とショスコム様を後方から監視する『飛行型赤外線監視カメラ』を飛ばします。真座利様とショスコム様が店内に入っている間、我々はかふら様が用意した高級車の中にあるTVモニターで、カメラが写す店内の様子を見ます。これで、真座利様とショスコム様に危険が及んだ場合、すぐに店内に突入できるというわけです」
「なるほど。出場者に危険が迫る可能性も対策済みというわけか。やるねぇ」
ショスコムはそう言って柱石を褒めた。すると、真座利が柱石にこう訊いてきた。
「う~ん。対策を整えているというのは十分に分かった。でも、なんでカメラが二基も必要なわけ?」
柱石は真座利の疑問に答えた。
「実は、これはネット上でも語られていないし、僕も電器店に行く時に語った話で説明していなかったことなんですが、実は迷宮電器店の入口は、東口と西口の二つの入口があり、どちらからでも店内の迷路に入ることが出来るという構造になっているんです。ですから、お二人は東口と西口のどちらかの入口を通って、店内の迷路に入って、亡霊達を退治してもらいます」
「そういうことか~。だから監視カメラは二基必要というわけね。納得したわ」
真座利が納得した顔でそう言うと、農円が真座利の肩に手をやった。
「蘇亜橋、お前大丈夫なのか? 亡霊達に祟られたら、お前の親御さん達に申し訳が立たない」
「だいじょびだいじょび! 私のスタンドはとってもすごいんだから!」
真座利は心配する農円に向かって笑顔で答えた。真座利と農円がそのような会話をしていると、ショスコムの部下であるイザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンクも、心配そうな目でショスコムを見た。
「本当に大丈夫なんですか、ボス?」
「もしボスが危険な目にあったら…」
「俺達は店の中に突入します」
「安心しろ。僕は文字通り『ただでは死なない』」
ショスコムはそう言って部下達をなだめた。部下達はショスコムの言った言葉がどのような意味を含んでいるのか理解できなかったが、おそらくは大丈夫だろうと認識した。
二人が同伴者と会話をしていると、柱石が二基の監視カメラにスイッチを入れた。
二基の監視カメラは蝶のように空を飛ぶと、真座利とショスコムの周りを舞い始めた。
「では、トーナメント第一回戦の開始です。真座利様とショスコム様は電器店の玄関へお進みください。かつて僕の留学生が玄関の窓ガラスを粉々に割ったので、そこから中に入れます。農円様、イザドラ様、ステイプルトン様、ウィンディバンク様は、僕とかふら様と一緒に、車の中でお二人の様子を見ましょう」
真座利とショスコムは柱石の言った通り、電器店の方へと進んだ。農円達は二人を見送りながら、柱石とかふらと共に、高級車の中へ乗り込んだ。
かくして、トーナメント第一回戦が開始された。
「さて、玄関の中に入ったわけだけれど、ショスコムさんは東口と西口、どっちから入る?」
真座利は玄関の中で店内へ続く二つの入口を見ながらショスコムに訊いた。
「そうだね。じゃあ僕は西口から入るよ」
「分かった。じゃあ私は東口から行くことにする」
そう言う真座利を見てショスコムはこう訊いた。
「ねえ、真座利ちゃん? 君の胸なんだけど」
「胸?」
「うん。なんだか駅であった時よりもしぼんでないかい?」
ショスコムは真座利の胸を指差しながら言った。ショスコムの言う通り、豊満だったはずの真座利の胸は、今は空港の滑走路のように平坦になっている。
真座利は「しまった、もう時間切れか」と小声でつぶやいた。その小さな声をショスコムは聞き逃さなかった。
「時間切れ? どういうことだい?」
「ああ、いや、これはね…」
真座利がしどろもどろになるのを見て、ショスコムはクスリと笑った。
「まぁいいや。じゃあ、そろそろ店内へ入るとしようか。お互い、生きてたらまた会おう」
「うん。ショスコムさんも亡霊に祟られないようにね」
二人はそう話すと、それぞれが選んだ入口を通って、店の中に入った。
「お二人が店内に入りましたわね」
「そうですね。無事であると良いのですが…」
高級車の中で柱石達は協力者であるかふらと共に、TVモニターの画面を視ていた。
イザドラ達は自分達のボスであるショスコムの後に付いていっている非行型赤外線監視カメラの写す映像を見ながら話し合っていた。
「いよいよボスが店内に入ったぞ」
「ボス、大丈夫かな…、祟られなきゃあいいんだけれど」
「それにしても、店の中にいる亡霊共はどんな奴らなんだ? 霊感のある立会人や俺はともかく、イザドラとステイプルトンは霊感が全くないからなぁ」
「そうだよなぁ、霊感のあるお前がうらやましいよ、ウィンディバンク。お前だったら店の中にいる霊がどんな奴か、モニターの映像越しに見れるかもしれないからなぁ」
三人の会話を聞いた農円は、ウィンディバンクに言った。
「なぁ、ウィンディバンク…と言ったか。お前も霊が見えるのか?」
「お前もって、禿頭の旦那も見えるんですかい?」
「ああ。俺の家は代々霊を祓う仕事をしている僧侶の一族でな。俺も昔から霊が見えるんだよ。そのせいか、真座利の『スタンド』と呼ばれる守護霊のようなものも見えるんだ」
「へえ、じゃあ俺と同じだ」とウィンディバンクは言った。
「俺もエクソシストの家に生まれたんだけど、悪魔憑きのほとんどが人格障害かてんかんの類だと学者共から決めつけられて以降、おまんまの食い上げになっちまってさ。親に捨てられてあても無く彷徨ってた所をボスに拾われたんだ。その時、ボスの後ろに映る『スタンド』というものも見えたっけな」
「そうか…。じゃあお前はそのボスのスタンドの能力を見たことがあるのか?」
「いいや。姿は見たが、能力を使ったところは一度も見ていない。それに、もし知ってても対戦相手の同伴者にそれを教えるわけにいかないだろ?」
「フッ、それもそうだな」
農円は軽く笑った。と、その時、ステイプルトンが声を上げた。
「アッ! あの嬢ちゃんの後ろに白い霧みたいなものが付いてきてるぞ!」
「何ッ!?」「それは本当か!!」
車の中の一同は、真座利を追跡しているカメラの写す映像が映るテレビの方を見た。
迷宮電器店の亡霊の一人『無来檻(ぶらい・おり)』は、店の中に侵入した二人のうちの一人をゆっくりと追跡していた。
追跡している女子高生は、迷路の道を堂々と歩いている。
今月に入って店の中に侵入してきた者達の数は、これで145人目だ。怖いもの知らずなのか、廃墟マニアなのか、祟りを信じない馬鹿なのか。
何故若い連中は心霊スポットに行くのが好きなんだろう。生前の自分は絶対にそんな危険な場所へは行かなかったし、幽霊の存在は信じなくても、不可思議な現象対する恐怖はあった。
もっとも、今はその自分が心霊スポットに出没する幽霊となってしまっているのだが。
ならば、今日も恐れを知らぬ無知蒙昧な輩を、恐怖のどん底に叩き落としてやろう。
無来は大きく息を吸うと、ガラスが割れるような音を息と共に吐き出そうとした。
この音を聞けば侵入者は、怯え泣き出し、失禁する! さあ、驚け!!
だが、侵入者である少女は、無来が音を吐きだそうとした瞬間、無来がいる後方へ目を向けた。
「へぇ。なんか後ろから『這って滑る』ような音が聞こえると思ったら、やっぱり後ろから幽霊が付いてきてたか~♪」
無来は口からガラスの割れるような音ではなく「…へ?」と間の抜けた声を出した。
女子高生は無来の身体を見下ろしながら話を続けた。
「へ~。てっきり人の姿をしてるのかと思ったら、『頭は人間の女の子で、そこから下はツチノコみたいな身体』をしてるんだ~。私は死に装束を着た人間の姿を想像してたんだけど、まさかのクリーチャーか~。農円先生に教えてもらったのと全然違うな…」
女子高生のこの言葉に無来は激怒した。
「う、うるさいッ! 私だって好きでこんな身体になったんじゃないやい!! 生きてた頃はちゃんと人間の姿をしてたのに、いつの間にかこんな姿になっちゃったんだから!!」
無来はそのツチノコのような身体を這い滑らせて、狭い幅の通路の壁によじ登った。
無来は壁によじ登りながら、自分の生前を思い出した。
自分はこの店のアルバイト生として入った。
アルバイト生でもきちんと働いて業績を残せば正社員になれると聞いて、面接を受けたのだ。
結果は合格。自分はこれからこの店で働くのだ。頑張って仕事を務めよう。
そうすれば、運良ければ正社員になれるし、店の近くに建ったバイキング店で美味しいモノをたくさん食べられる。
そう思って頑張ってきたのに、あのテロリスト達に命を奪われてしまった。
幽霊となった後は、肝試し程度の間隔で侵入してきた若者を排除してきたが、侵入者のカップルの一部は『ここから無事出られたら、明日は近くのバイキング店で美味しいモノをいっぱい食べよう』『そうだね♪ 私ケーキをいっぱい食べたい♪』などと会話をしていた。
自分もそのバイキング店で美味しいモノを食べたかった。なのに、なんでこいつらは美味しいモノをいっぱい食べていられるのだろう。
亡くなった自分を差し置いて、ケーキやアイスなどのスイーツを食べている奴らが許せない。
だから自分は、侵入者を呪い殺すのだ。
無来は壁のてっぺんまでよじ登ると、女子高生の頭にかじりつこうとジャンプした。
「くたばれッ! 侵入者ッ!!」
女子高生はそんな無来を見て、にやりと笑った。
「『プラスチック・スマイル』、そのツチノコ女に息を吹きかけなさい」
女子高生こと真座利の言葉に応えるかのように、彼女のスタンドが現れた。その姿は、シルクハットを被り、三つの顔を持った直径2mのアドバルーン。
プラスチック・スマイルは、その三つの顔の口から奇妙な色の吐息を無来に吹きかけた。
「な、なによッ! 息を吹きかけたくらいで私が倒せるとでも…!?」と、無来が言ったその時だった。
無来のツチノコのような身体が、みるみるうちにアドバルーンのように膨らみ、上へ上へと浮かんでいく。
「い、いや、なんで!? 私の身体が膨らんでく…!?」
「お~。幽霊でも能力の効果はあるんだ~。新発見だね~」
アドバルーンのように丸々と膨らんだ無来を、真座利は下から眺めて言った。
無来はギリッと歯ぎしりをする。
「こんな、こんな変な能力で、この私を倒せると思うなッ!!」
無来は宙に浮かんだ状態で、音波を発しようとした。彼女が出そうとしている音波は、さっき真座利を驚かそうとするときに出そうとしていたガラスが割れるような音以上に高い、それこそ、鼓膜が破れるほどの威力である。
それを見た真座利は無来に向かって、「ああ。私に向かって超音波を出そうとしてるみたいだけど、止めた方がいいよ~」と忠告した。
「フン、命乞いのつもり!? 悪いけど、幽霊は侵入者に容赦はしないのよ!!」
無来は腹の底から息を大きく吸い込んだ。その瞬間、無来の身体は針で刺された風船のように破裂した。
胴体は木っ端微塵になり、床には無来の頭部が転がっていた。無来は頭だけの状態になりながら、「ど、どうして…」と呟いた。
真座利は無来の頭部を見て「だから言わんこっちゃない」と言った。
「私のスタンド『プラスチック・スマイル』の息をかけられて膨らんだものは、質感とかは変わらないけれど、『密度が低下しちゃう』のよ。さっきのあなたの身体はいわば、空気をパンパンに入れたゴム風船みたいなもの。だから、限界以上に空気が入ったあなたの身体は…」
「さながら、童話の『牛とカエル』に登場する、お腹を膨らませすぎた母親カエルみたいに破裂したってわけね…。どおりであんたが忠告するわけだわ…」
無来はそう言って苦笑した。真座利はそんな無来を見ながらこう訊いた。
「ねぇ。あなたってさ、どうして成仏しないの?」
「…成仏なんてできるわけないじゃない。せっかく新入社員として頑張ってきたのに、あんなことになって…。私の人生はあいつらに殺されるためのものだったわけ!? 冗談じゃあないわよ!! 私の人生は、まだ楽しいことがいっぱいあったのに!! 美味しいモノだっていっぱい食べたかったのに!!」
無来はそう叫んで両目から涙を流した。
「だから、幽霊である私を差し置いて、ケーキとかドーナツとかパクついている外の連中が許せない。こんな気持ち、所詮生きているあんたには分からないかもしれないけどね」
真座利は無来の言葉に対し「そっか」とそっけなく返すと、こう続けた。
「あなたの気持ちは分からなくないけどさ…。だからと言って、ここに来た人を祟ったり呪ったりしても良いという理由にはならないよね?」
「…………」
「死んだ人が生きている人を、自分の都合で呪うなんて、勝手だよ」
真座利はそう言うと、無来への興味を失くしたかのように先へと進んだ。
「……そんなの、そんなの分かってるよおおおおッ!!!!」と、無来は叫んで泣いた。
「すごい…、これが真座利様のスタンドの能力…」
柱石はモニター越しに真座利の戦いを見ながら言った。柱石の隣でウィンディバンクが口を開く。
「息を吹きかけたモノを膨らませる、恐ろしい能力だ…。こんな能力を持った人間を生徒としているとは、禿頭の旦那はすごいな」
「いいや。俺なんて霊感が強いだけでスタンドを持ってない、ただの人間さ。すごいのは俺ではなく、真座利の方さ」
農円はそう自嘲した。一方でイザドラとステイプルトンは不満げな顔をしていた。
「うーん。ウィンディバンクと禿頭の旦那と立会人とかふらの嬢ちゃんはモニターで起こっていたことがくっきり見えてたからいいけれど、あたしらは何がなんだかさっぱりだったよ」
「白い霧みたいなものが大きくなったり分裂したりの映像しか見えなかったから、もやもやするなぁ。まあ、真座利の嬢ちゃんが言ってたことから、霊がどういう姿をしていたのかは何となくわかったけれど…」
ステイプルトンがそう言うと、イザドラが「そうだ! 霊の姿だよ!」と言った。
「嬢ちゃんが倒した霊は『身体はツチノコで頭は人間の女の子』のような姿だって嬢ちゃんが言ってたけれど、普通幽霊ってのは死に装束を着たりしてるもんじゃあないのかい? それなのに、なんで化け物の姿だったんだ?」
「それは俺も気になっていたな、なんでだろう」
ウィンディバンクがイザドラに続いて言うと、農円が二人の疑問に答えた。
「あんたらの国ではどうなのかは知らないが、ここ日本では菅原道真公や平将門公などが怨霊となって呪いをまき散らした後、人々から畏怖の対象となり、神格化され崇め立て奉られているんだ。だから、それとは逆に人々から『畏怖としての対象』ではなく、都市伝説や怪談などと言う『消費する娯楽としての対象』となった亡霊達が、その無念を晴らすことのないままオモチャ同然に扱われ、恨み・憎しみ・悲しみなどの感情を募らせていき、世界中で伝承される妖精や妖怪などの姿になったとしても、何らおかしな話ではない」
「なるほど。崇める神としてではなく、遊びのためのオモチャか…」
「確かに、そんな扱いをされちゃったら、霊が化け物の姿になってもおかしくはないわな」
「さらに、市長は金をケチって、石碑すら立てない始末。あの店の中の亡霊達が人を祟る怪物になるのも、むべなるかなと言うわけだ」
「…………」
農円の言葉を聞いてイザドラ達は納得し、その一方で、柱石は過去に自分と友人達が過去にやった行いに心を痛めた。
と、そんな時、かふらがTVのモニターを見ながら言った。
「皆さん。どうやらショスコム様も、店の中の幽霊と出くわしたみたいですわよ」
「何、本当か!!」と言って、イザドラとステイプルトンは、ショスコムの映るTVの映像を食いつくように見た。
農円とウィンディバンクはそんな二人を見ながら、やれやれというようなジェスチャーをした。
『無理条変太(むりじょう・へんた)』は、店に侵入した外国人男性を追いかけていた。
「ほれほれ~!! さっさと店から出て行かないと、俺の針がお前の身体に突き刺さるぞ~!!」
無理条は自分の身体から生えた鋭利な針を、外国人男性に向かって発射した。
彼の身体から生えた針は、対象物を刺し貫く鋭利さだけでなく、刺さった生物の身体を徐々に壊死させていく恐ろしい能力を持つ。
さらに、その針が勢いよく発射されれば、壁を貫通する威力を持つ驚異の弾丸と化す。
無理条はこの針で多くの侵入者を抹殺してきたのである。
だが、今回の侵入者は一味ではいかない。
侵入者は無理条の姿が見えているのか、いくら針を発射しても、素早く回避してしまう。
通路の幅が東口からの通路と比べて余裕があるからかもしれないが、この身のこなしは自分達になめてかかったあの時の外国人とは違う。
(こいつ…どこかの組織の人間か!?)
無理条はそう考えながら、身体中の針をその侵入者に向かって飛ばす。
身体に生えた針は一度抜けてもまたすぐに生えてくる。そのため、弾切れにはならないのである。
無理条は戦いながら思う。
自分はこの店の正社員として、二代目の支店長の時から8年間働いてきた。
三代目の支店長が就任した時、自分はこの人と共に、来店した客にもっと喜んでもらえるよう努力しようとしていたのだ。
しかし、あの事件のせいでその望みは断たれ、店も閉店となってしまった。
いずれこの店も廃墟となり、廃墟マニアや遊び感覚でやってきたチンピラ達が、店内を荒らして回るのだろう。自分が愛したこの店を。
ならば、幽霊となった自分はそのような輩から店を守らなければならない。
幽霊なんて怖くない、いたところで所詮透けてるから攻撃なんてできないだろうと高をくくっている餓鬼共に、その甘い考えを正してやろう。
触らぬ霊に祟りなし。霊を舐めてかかると痛い目に遭うということを思い知らせてやろう。
この店は、自分の守るべき場所なのだ。
そう思っているうち、無理条は侵入者を行き止まりの通路へ追い詰めた。侵入者の後ろは壁となっている。
「へへへッ!! さあ、もう鬼ごっこはおしまいだッ!! 観念してここから出ていくか、俺の針に刺されて徐々に壊死して死んでいくか、どちらかを選べ!!」
無理条がそう言うと、侵入者の外国人男性ことショスコムは、「クククッ」と笑った。
「…? なにがおかしい」
「いやね。この状況においてあんたが言うことが『ここから出ていくか、それともここで殺されるか』なんていう、いかにも負ける奴が言うようなセリフでさ。思わず笑っちゃったよ」
「貴様ァッ!!!!」
無理条は激怒し、針を発射しようとした。だがショスコムは「待った」と言う。
「『ここから出ていく』か、それとも『今ここで殺されるか』…。僕の場合、選択肢はこの二つだけじゃあないんだよ」
ショスコムは腰に下げた拳銃を手に持ち、銃口を自分のこめかみに向ける。
「『ここから出ていくか』『今ここで殺されるか』以外の第三の選択…、それは『自殺すること』さ!!」
バンッという銃声が鳴り、ショスコムはその場で倒れた。無理条は侵入者が自ら命を絶つという選択肢を選んだことが理解できなかった。
「な、なんなんだこいつ!? 『自殺すること』だって!? そんなの選択肢に入るもんか!! 俺だってあの時死ぬのは怖かったというのに…。こいつは死を恐れないというのか…!?」
無理条はそう思いながらも、とりあえず侵入者は勝手に死んだので、もう一人の侵入者を排除すべく、踵を返して東口の通路へ向かおうとした。と、その時である。
無理条の後頭部に何か固いモノが当たった。
「な、なんだ!? 何が当たった!!」
無理条は思わず後ろを振り返ると、そこにはさっきいなかったはずの者がいた。
金色の棒を持ち、中国の京劇のような服を着た、猿顔の青年。
猿顔の青年の足下には、さっき拳銃自殺した外国人男性が、後ろには、黒い身体に唐草模様が輝く人型の何かがいた。
「な、何なんだ…。何が起こってるというのだッ!?」
無理条は思わず身体じゅうに生えた針を全て発射した。青年は鼻で笑うと、金色の棒を振り回し、針を全て弾き飛ばした。
「そ、そんな…!! 侵入者たちを仕留めてきた、俺の針が…!!」
動揺しながら無理条は「お前は何者だ!!」と怒鳴り声を上げた。
そんな無理条を見て、猿顔の青年は「キキキ」と笑った。
「どうやら目の前で起こっている出来事に付いていけてないみたいだね~。いいだろう、教えてやるよ。僕はさっき拳銃自殺した男だよ」
「何…だと…? そんなわけがあるかッ。あの男がさっき拳銃を持って…!!」
「引き金を引いて死んだ。そう、確かに僕はあの時死んだ。でもそれは追い詰められたからじゃあない。『来世の自分』に魂を『移動させる』ためさ」
「来世の…自分…だって…?」
「そう。僕のスタンド『ヴァルハラ・ダンスホール』は、『自殺した本体の魂とスタンド自身を、来世の本体に移動させる能力』なのさ。故に、僕の魂とスタンドは来世の僕の身体に移動した」
「ら、来世の自分だって…? そんな馬鹿な話が…」
自分が言ったことに対して理解できない無理条に、猿顔の青年ことショスコムは蔑むように言った。
「そんな馬鹿な話だって? じゃああんた自身はどうなんだよ? 幽霊になっただけでなく、そんなおぞましい姿になっているあんたの方こそ『馬鹿な話』なんじゃあないのか? 『幽霊』がいるんだから『来世』があったって、なんらおかしな話じゃあないだろ?」
「うぐぐぐぐ…」
「ぐうの音も出ないかい。幽霊という不可思議な存在であっても理解できないなら仕方がないか」
ショスコムはそう言うと、無理条に対してこう問いかけた。
「さて、突然ですが問題。前世の身体を捨てて、来世の身体へスタンドと一緒に移動した僕ですが、『今の僕』は一体誰でしょうか? この姿を見れば、一目瞭然だと思うけど?」
無理条は現在のショスコムの姿を見て、はっとした表情をした。
「も、もしかして今のお前は…、斉天大せ…!!」
無理条が答えを言い終える前に、ショスコムが持っていた金色の棒は長く伸びると、無理条の腹を刺し貫いた。
「そう、『斉天大聖・孫悟空』それが今の僕さ」
ショスコムがそう言うと金色の棒こと『如意棒』は、元の長さに戻った。穴の空いた腹部を抑えながら無理条は孫悟空の姿であるショスコムを睨みつけた。
「孫…悟空だって…? 馬鹿な…。あれは架空の存在のはず…。まさか、さっき俺の後頭部にその棒が当たったのも…」
「そう、幽霊よりもずっと偉い『神』だからさ」
「……こんなことがあってたまるか。架空の人物で、かつ、神が目の前にいるなんて…、そんな馬鹿なことがあってたまるかあああああッ!!!!」
無理条はそう叫ぶと、ショスコムに向かって突進した。
ショスコムは「やれやれだね」とため息交じりに言った。
「理解出来ない奴は、僕は嫌いだ」
その瞬間、如意棒の連打が無理条の身体を無慈悲に打ちつけた。無理条の全身から生えていた鋭利な針は、全てへし折られた。
「す、すごい…」
「ボスのスタンドにあんな能力があっただなんて…」
「魂を来世の身体に移動させる能力か…。どおりで俺達には見せてくれなかったわけだ。スタンドの能力を使う際は、自分で死ななくちゃならないわけだからな」
イザドラ達は自分達のボスであるショスコムの能力に驚愕していた。柱石と農円も三人と同じく驚きを隠せないでいる。
「し、しかし、あの霊の言うことも最もですね。架空の話の登場人物で、かつ、神格的存在が現実となって現れたら、誰だって驚かないわけがない…」
「俺もそう思う。いくら来世の身体に魂を移動させるといっても、架空の存在で、かつ、神である者に生まれ変わることなど出来るのか?」
柱石と農円の言葉を聞いたかふらは「くすくす」と笑う。
「お二人とも。まだお分かりになりませんか? ショスコム様のスタンドは『この世界の孫悟空ではない孫悟空』の身体に魂を移動させたのですわ」
「この世界の孫悟空ではない孫悟空だって!? それはどういうことです!!」
柱石が訊くと、かふらは「簡単なことです」と答えた。
「この世界とは別のもう一つ、あるいは数百の平行世界がある…。所謂『パラレルワールド』という発想は、柱石様も一回考えたことがありますわよね。あのショスコム様の来世の姿である『孫悟空』はつまり、私達が住んでいるこの世界とは別の『パラレルワールドの孫悟空』だったのです。パラレルワールドではもしかしたら孫悟空が実在するかもしれないし、私達が知っている孫悟空とは別物かもしれない。とにかく、ショスコム様のスタンドは、来世であるその『パラレルワールドの孫悟空』の身体に魂を移動させ、自身の本体を復活させたのです」
「な、なるほど…。パラレルワールドにおける来世の姿だったとしたら、納得がいきますね…」
柱石がそう納得する隣で、農円はさらに思った。
「だが、パラレルワールドでの来世の身体、しかも、神の身体に移動させることが出来るならば、ひょっとすると…」
農円が言おうとした時、イザドラが「あー!!」と叫んだ。
「禿頭の旦那!! 真座利の嬢ちゃんが霊と戦ってますよ!!」
「自分の生徒が戦ってるんだから、ちゃんと見ないと!!」
イザドラとステイプルトンは、農円を真座利が映るテレビモニターの方へ引っ張った。
「ちょ、ちょっと待て!! 今のお前らはスポーツ中継をテレビで見ている視聴者みたくなっているぞ!!」
農円は二人にツッコミを入れた。
『増暮儀式(ますくれ・ぎしき)』は侵入者である真座利と戦っていた。
儀式の顔は20代前半の女性特有の可愛らしさを持っているが、両脚は豹の脚のようになっていて、尾てい骨からはライオンの尻尾が生え、両手の甲からは鋭い鉤爪が生えていた。
彼女は獲物を追いかける豹のようなスピードと敏捷性で、真座利に攻撃していた。
彼女の両手の鉤爪が、真座利の着ている制服を少しづつ破っていく。
「ほらほらほらほらッ!! 私のこの攻撃をかわせるかしらッ!?」
「くっ…!」
真座利はどうにか儀式の攻撃をかわそうとするが、狭い幅の通路では回避する動作も制限されてしまう。
儀式は追い詰められている真座利を見ながら、生前のことを思い出した。
生きていた頃の儀式には彼氏がいなかった。中途採用の新入社員であるが故の忙しさのために、彼氏を作る余裕が無かったからだ。
だが、仕事に慣れてきたら彼氏を見つけよう。そして、デートを繰り返しながら結婚のことを考えよう。そう考えていた。
しかし、その夢もテロリスト達のせいで潰されてしまい、儀式は電器店に潜む成仏できない幽霊の一人となった。
事件後、迷宮電器店の噂をどこかで嗅ぎつけた大学生のグループや、若い男女のカップルが店に侵入してきた。
そういった者達が夜の店内でのろけている姿を見るたびに、儀式は怒りに心頭した。
自分は将来の夢を断たれて幽霊となったのに、どうしてあいつらは幸せそうにしているのだろう?
自分だって生きていれば、あんな楽しそうな顔をしてたはずなのに…!!
そんな生きている者への嫉妬や憎しみが、儀式の姿を獣人の姿に変貌させた。
以来、儀式は店に侵入してくる若いカップルや、自分よりも若い学生達を標的にして抹殺していった。
儀式は鉤爪で真座利の制服を破りながら、自分の思いの丈をぶつけた。
「ええ、そうよ! 幸せになりたかったのに命を奪われて幽霊になった人間のいる側で、キャッキャウフフといちゃついたり、お化け屋敷感覚で店の中に侵入して、生を謳歌しているあんたらはさぞや幸せなんでしょうねッ!! でもね、そんなあんたらの幸せそうな顔、私が死の恐怖におびえ震える無様な顔にしてやるわッ、こうやってねッ!!!!」
儀式の鉤爪はボロボロになった真座利の制服の上着を破り、さらにYシャツをも破りとった。真座利の上半身を覆っているモノは、タンクトップブラだけだ。
タンクトップブラに包まれた真座利の胸は、ショスコムが指摘した通り、豊満な胸から慎ましい貧相な胸へと変わっていた。
「ふ~ん、私が生きていた頃と違って、今のブラは進化してるのね…。私もそんな下着、付けたかったなぁ!!!!」
儀式はそう叫ぶと、狭い通路の中を縦横無尽に高速で移動した。高速で動く儀式の身体は、やがて残像を残しはじめた。
今の真座利は、儀式とその残像という籠の中に入れられた小鳥だ。
儀式は高速で移動しながら真座利に言う。
「今度はあんたが穿いているそのスカートを破いて、下着だけの姿にしてやるッ!! そしてその下着をズタズタに切り刻んだ後、あんたの両腕を切断してあげる、ゴールデンウィークの時に店にやってきた、あんたと同じ背格好をした女子高生みたいにねええええッ!!!!」
その言葉を聞いて真座利は一瞬、ぴくりと反応した。同時に儀式の鉤爪が真座利のスカートを破りとった。
真座利の穿いているショーツの柄は、白と黒の水玉模様だった。
「あらあら、柄物とはかなりオシャレじゃない? でも、そのショーツ、あんたのブラと一緒に、びりびりに破いてやるわあッ!!」
儀式がその鉤爪で真座利のタンクトップブラを切り刻もうとしたその時だった。
儀式の身体の動きが突然遅くなった。
(なっ、私の身体の動きが遅くなっている…!?)
儀式は自分の身体の異変に驚きながら、真座利の方を見た。真座利は唇を小さく動かしながら、なにかをぶつぶつと唱えている。
(こ、こいつ、一体何を呟いているんだ!?)
儀式は真座利に声を上げようとするが、口の動きも遅くなって、自由に話すことが出来ない。
(そ、そんな!? 口の動作まで遅く…!?)
自身の異変に動揺する儀式を見て、真座利は唇だけを新月のように歪ませて言った。
「今私が唱えた言葉は、『対象者の動きを遅くする呪文』なんだ。農円先生から教えてもらった呪文のうちの一つだよ」
「じゅ、呪文ですって…?」と儀式は言おうとしたが、唇が思うように動かない。真座利はさらに話を続ける。
「農円先生は悪霊を祓う仕事をしている僧侶の一族でね、タチの悪い霊を強制的に成仏させるために、さっきみたいな呪文を作りだしてるんだ。私も興味本位で先生に悪霊対策のための呪文を教えてほしいってお願いしたことがあって、先生は仕方なくだけどちゃんと教えてくれた…。その呪文が今ここで役に立つとはね」
そう言って儀式を見つめる真座利の目は、寒空のような冷たい眼差しをしていた。儀式は幽霊でありながら、背筋に怖気が走った。
真座利は「さらにね、先生が教えた呪文にはこういうのもあるんだよ」と言って、また唇を少し動かし、呪文を唱えた。
(こ、今度はなんの呪文なの?)と儀式が思うと、真座利の右腕が儀式の首を掴んだ。
儀式は驚愕した。幽霊である自分を生きている人間が掴めるなんて、信じられない。そう思っている儀式の目を見て、真座利は「アハハ」と乾いた笑い声を発した。
「『一体これはどういうことなんだ』って言いたそうな目をしているね。教えてあげるよ。今私が唱えた呪文は『霊を五分間だけ実体化させる呪文』なんだ。この呪文を聞いた霊は、どんな悪霊や怨霊でも、五分間実体を持つことが出来る。祓いの呪文が効かない霊を、力づくでぶん殴って改心させるために考案された呪文なんだってさ。とにかく、これで私はあんたを『好き放題にぶん殴れる』ってわけだ」
儀式の首を掴む真座利の手の力が強まる。儀式は目の前にいる女子高生に恐怖を感じた。真座利は「ところでさぁ」と言う。
「さっきあんたは、『あんたの両腕を切断してあげる、この前店にやってきた、あんたと同じ背格好をした女子高生みたいにね』って言ってたよね? その女子高生…、『私の友達』なんだよね」
「ッ!?」
「私の友達は両腕を失くして、すごく泣いていたよ。今その友達は義手を付けて生活してるけど、『まだ普通の生活を送るのは難しい』って言ってた。これ、どうしてくれるのかなぁ?」
真座利は儀式の首を掴む手の力を徐々に強めながら、話を続ける。
「さらにあんたはこうも言ってたよね? 『幸せになりたかったのに命を奪われて幽霊になった人間のいる側で、キャッキャウフフといちゃついたり、お化け屋敷感覚で店の中に侵入して、生を謳歌しているあんたらはさぞや幸せなんでしょうね。 でもね、そんなあんたらの幸せそうな顔、私が死の恐怖におびえ震える無様な顔にしてやるわ』って…」
真座利はそう言って数秒黙ると、儀式を睨みつけながら大声で言った。
「死んだ奴が生きている人達を、そんな下らない嫉妬心で傷つけてるんじゃねーわよッ!!!!」
「ひッ!?」
真座利は残った左腕で儀式の顔を殴りつけた。
顔を殴られた衝撃で脳を揺さぶられた儀式の顔に、さらに拳の雨が入る。
「これは私の友達の分だ!! そしてこれも友達の分だ!! そして次のも友達の分!! その次の次のも、その次の次の次のも、その次の次の次の次のも、次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の次の、次の、次も、私の友達の分だぁッ!!」
拳の連打を浴びせられて、儀式の意識は飛ぶ寸前だった。
真座利は儀式の首を掴んでいた右手を放した。よかった、攻撃は終わったんだ。身体が崩折れる中、儀式はそう思った。が、そんな儀式に真座利が放った言葉は、
「…そして、この二つは、あんたの身勝手な理由で殺された人達と…!!」
加害者である儀式の身体を二回強く踏みつけるという、
「大切な友達を傷つけられた、この私の怒りだああああーーーーッ!!!!」」
無慈悲な審判だった。
真座利の怒りの制裁をモニターで見ていたかふら以外の五人は、唖然とした表情をしていた。
「いや、まさか、真座利の嬢ちゃん、あんなのを習得していたなんて…」
「おかげで幽霊の姿をイザドラと俺ははっきりくっきり見ることが出来たけれど…」
「禿頭の旦那、あの嬢ちゃんに幽霊対策の呪文を教えていたんだな」
「ああ。どうしても教えてくれと何度も言われたので、仕方なく、教えられる限りの呪文を教えたんだ」
農円はウィンディバンクにそう言うと、「だが」と柱石に訊いた。
「真座利は幽霊を実体化させて倒したが、これは倒れた幽霊の数にカウントされるのか?」
「う~ん、一応真座利様は『幽霊を五分間だけ実体化させる呪文』を使ったわけですから、あの女豹の獣人型の幽霊は五分経ったらもとに戻るでしょう。それに僕は『幽霊は必ずスタンドの能力を使って倒さなければならない』と言ってませんしね。いいでしょう、倒した幽霊の数にカウントします」
柱石の返答に農円は納得した表情をして「そうか」と答える。
その時、かふらが農円達に、「皆様、今度はショスコム様が幽霊と戦っておられますわよ!」と言った。
「何ッ!! それは本当かッ!?」「早く見せてくれ!!」と言い、イザドラとステイプルトンは身を乗り出した。
ウィンディバンク、農円、柱石も二人に続いて、ショスコムが映るテレビのモニターを見た。
『報道院帝都(ほうどういん・ていと)』は猿顔の青年・孫悟空ことショスコムと、激しい戦闘を行っていた。
報道院の姿は、生前の頃の面影が全くない、大柄な象の獣人だった。
ショスコムは報道院の肉体に如意棒を何度もぶつけながら言う。
「すごいねッ! 今度はどんな幽霊が登場するのかと思ったけど、もう人間の姿からかけ離れた象の怪物ときたもんだ! これは倒しがいがあるってもんだぜ!!」
如意棒の乱れ打ちが報道院の身体を強く打ち付けるが、報道院は痛みを感じていない。
「ふっふっふっ、お前が霊体であるワシにどうして攻撃できるのか知らないが、そんな攻撃を浴びせても無理だゾッ!!」
報道院はそう言いながら「ムハハハ」と高らかに笑った。
「何故なら、ワシのこの皮膚はどんな鉄製の物質よりも硬いッ!! だから、いくら殴っても蹴っても斬っても刺しても叩いても、ワシにダメージを与えることなど出来んゾッ!!」
報道院は「さらに!!」と言って、大きな掌を握ると、ショスコムに向かって特大のパンチを放った。
ショスコムは如意棒で防御しようとするが、勢い良く飛んできた特大の拳圧を防ぎきることが出来ず、パキンと音を立てて折れた。
ショスコムは拳の衝撃をもろに食らい、向こう側の通路へ吹き飛ばされた。
通路の幅が広い西口の通路だからこそ、報道院はこのような攻撃が出来た。
仰向けに倒れていたショスコムは、どうにか起き上がるも、体内の骨がさっきの攻撃でぐちゃぐちゃであることを察した。
報道院はそんなショスコムを見て「どうしたッ!! もう降参してお家へ帰るかッ!?」と言った。
ショスコムはその言葉に対して「…まだまだッ」と答えると、自分の髪の毛を数十本抜き取って、それを「ふっ」と息で吹き飛ばした。
数十本の髪の毛は孫悟空であるショスコムに変化し、報道院に襲いかかった。だが…。
「ムハハハハッ!! 分身を出そうとも、同じことだゾッ!!」
象の獣人は分身達を大きな両腕で薙ぎ払った。分身達は元の髪の毛に戻る。
「誰もワシを倒すことなど出来んッ!! おとなしく観念するが良いゾッ!!」
報道院はそう言うと、生前の頃の自分を思い出した。
自分がこの店に入ってきたのは、2010年3月の頃だった。
カーズデンキF県I市本店から人事異動でやってきた自分は、迷宮電器店と呼ばれるK山市H田支店に配属となった。
元々マネージャーの仕事が得意だった自分は、H田支店長に「この支店のマネージャー担当は君だ。信頼しているぞ」と言ってくれた。
自分はうれしかった。この人とならば、この支店をどこの店よりも繁盛させてみせる。そして、この支店をF県一、いや、日本全国で有名な店舗とさせるのだと、そう決断した。
だが、どこぞの馬の骨とも知らぬ奴らが、自分の夢を、この支店の未来を奪った。
無念のあまり、店長共々亡霊となった自分は、閉鎖された店舗に住み着く亡霊となった。
そのうち、閉鎖された店の中へ、物見遊山や、肝試し目的や、幽霊となった自分達を嘲り笑ってやろうと侵入してきた輩が現れた。
自分は店長やほかの社員と共に、そう言った連中を脅かし、追い返し、祟り殺した。
ある時、4人の仲間と共に侵入してきたアメリカ人らしき男が、店から追い返そうとしている自分達の前で『コソコソ隠れて人を驚かす腰抜けどもが!! 正々堂々と出てきて勝負しやがれ!!』と舐めた口調で怒鳴ってきたことがあった。
見えぬ死者の前で『腰抜け』だと? 『正々堂々と勝負しろ』だと? 派手に金を使って放蕩三昧をしている輩が、よくぞまぁ、そんな達者な台詞を吐けたものだ。
閉鎖されたこの店にやって来る者達のほとんどは、無くなった死者達への敬意を表さず、その死者のいる場所で舐めた真似をする、このアメリカ人のような奴らなのだろう。
いいだろう。腰抜けだというのなら思い知らせてやろう。無念の死を遂げた我々の怒り・悲しみ・憎しみを存分に味あわせてやろう。
そして、迫りくる死の恐怖に怯え苦しみながら死ぬが良い。
報道院はフラフラとよろめきながら立っている猿顔の青年に向かって言った。
「さあ、降参するなら今のうちだゾッ!! 『死者に対して舐めてかかってしまってすいませんでした』と土下座して、とっととお家へ帰ると良いゾッ!!」
この言葉を聞いたショスコムは「キキキ」と笑った。
「フン。自分の無力さを思い知って、乾いた笑いしか出んのか」
「『乾いた笑い』だって? 違うね。これは『勝利を確信した時の笑み』さ」
ショスコムはそう言うと、床に転がっている折れた如意棒を、自分の腹部へ突き刺した。ショスコムはその場で座り込んで、目を閉じた。
「フンッ! 勝利を確信したと言っておきながら、自ら命を絶つとは。最近の若者の考えていることはさっぱりわからんゾ」
報道院は侵入者の一人を倒したことを、自分の上司である『店長』に報告しようと、事務室へ戻ろうとした。
その時、報道院は背中にただならぬ気配を感じた。
報道院は急いで後ろを振り向くと、さっき命を絶った猿顔の青年の側に、日本刀を腰に下げた侍がいた。
侍の目は鷹の目のように鋭かった。その侍の後ろには、唐草模様の人姿をした何かが立っている。
報道院は目に映る光景を見ながら、一つの結論に至った。
「…成程。お前の後ろにいるその人間らしきモノが、お前の魂を『来世の姿』に移動させたということだな。そして、『来世の姿』になるには、自ら命を絶つしかない…」
侍ことショスコムは「ご明察」と答えた。
「『理解できない』『そんな馬鹿なことがあってたまるか』と言っていた、最初に倒した倒したハリセンボンのような幽霊と違って、『理解は出来る』みたいだね。僕のスタンドの能力をさ」
「『スタンド』というのか、その唐草模様の人らしきモノは」
報道院は「そして」と話を続けた。
「『最初に倒したハリセンボンのような幽霊』とは、無理条のことだな?」
「へぇ、あのハリセンボン、そういう名前だったのか~。変わった名前だね」
「…無理条はワシが配属される前から働いていた、ワシの上司のうちの一人と言っても過言ではない男。生きている頃は共に酒を酌み交わし、『この店を有名にしていこう』と語りあった…」
報道院は語りながら大きな足音を立てて、ショスコムの方へ走った。
「その盟友を傷つけたのは許しがたいッ!! やはり外の人間は死者に対する礼儀を知らぬ、便所に吐き出されたタンカス程度の存在だったッ!!」
象の獣人は走りながら拳を振り上げる。
「我が友を傷つけた報い、思い知るがいいッ!!!!」
振り上げた拳は、さっきのようにショスコムの身体を吹き飛ばす…、そう報道院は思った。
だが、その振り上げた右腕は、刹那の速さで肘から離れ、そのまま天井にめり込んだ。
「なっ…!?」
「言ったろ? 『勝利を確信した』って」
「…だがしかしッ!!」
報道院は左の拳を振り上げる。それと同時に左腕も右腕同様、肘から離れ、通路の壁にぶち当たった。壁は飛んできた左腕の衝撃で崩れた。
「…だとしてもッ!!」
報道院は、今度は右足を蹴り出そうとするが、右腕・左腕のように膝の部分から切断された。吹っ飛んだ右足は宙をくるくる舞ったかと思うと、そのまま床へ落下し、めり込んだ。
象の獣人の身体は、片足で支え切ることが出来ず、その場に座り込んだ。
報道院は目の前にいる武士に恐怖感を覚えた。
「な、何故だ…? なぜ生身の人間であるお前が、幽霊であるワシの腕や足を切り落とすことが出来るんだ…?」
武士はため息をつきながら、こう答えた。
「だって、絶対硬くすることのできない『関節部分』を狙って斬ってるんだもん。『介者剣法』って言ってね。日本に伝わっている剣術だよ」
「そして」とショスコムは続ける。
「霊であるあんたの身体を斬ったこの刀は、霊を斬った刀だと伝えられる『青江貞次』こと『にっかり青江』だぜ? そりゃあ腕や足を斬るのは簡単なことだよ」
ショスコムが言った刀の名前に、報道院は驚愕する。
「青江貞次だって…!? じゃあ、今のお前の姿はもしや…!!」
報道院が現在のショスコムの姿の名前を言おうとした瞬間、
「言う必要は無いよ」
青江貞次の刃は、報道院の首を切断した。
「あ、青江貞次だって…!!」
そう言って驚く農円にイザドラは「知っているのかい、禿頭の旦那!!」と訊いた。
「ああ。青江貞次には『とある武士が夜、にっかりと笑う女の幽霊を切り捨てて、翌日その武士が幽霊を斬った場所へ行くと、幽霊のいた場所に真っ二つにされた石の塔があった』という言い伝えがある。まさか、その刀の所有者に転生するとは…、お前達のボスのスタンドの能力は侮れんな…」
「でも、その刀の所有者と言うのは、一体誰なんですか?」
柱石のこの問いに答えたのは、かふらだった。
「青江貞次ことにっかり青江の所有者は、『中島修理太夫・九理太夫兄弟』、『浅野長政の家臣』、『六角義賢に仕えた家臣・狛丹後守』という三説がありますが、未だにはっきりと分かっていません。おそらくショスコム様の魂が移動したにっかり青江の所有者は、『私達の世界の過去の時代における三説のうちの誰か』か、『パラレルワールドの過去の時代における三説のうちの誰か』でしょうね」
「なるほど、わかりました。けど、パラレルワールドの孫悟空だけでなく、僕達の世界の過去、もしくはパラレルワールドの過去の人間に転生するなんて、ありえるんでしょうか?」
柱石のこの問いに、農円が答えた。
「『来世』というのは、必ずしも『現代』もしくは『未来』の人間であるとは限らない。もしかしたら過去の時代の英雄、例えば、ジャンヌ・ダルクや加藤清正、あるいは過去の時代に悪行を犯した罪人、例えば、切り裂きジャックやエドワード・ローに転生するかもしれない。もしくは、太古の生物であるティラノザウルスかグリプトドンに生まれ変わるかもしれん。だが、二度も転生して、その転生した姿が神格的な存在だったり、過去の時代における名刀の所有者だったりと、あいつはかなり運が良いとしか言いようがない」
「そうなんですか…。転生というモノは奥が深い」
柱石がそう言うと、イザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンクが口を開く。
「ともかく、これでボスと嬢ちゃんが幽霊を倒した数はどちらも2体だ!」
「これであと一体をどちらかが倒せば、一回戦の勝者が決まる!」
「はたして勝者はどちらになるか…」
三人はそう言いながらショスコムを映すモニターを眺めていた。
農円、柱石、かふらも三人と共にモニターを見た。
数分経って、かふらが言った。
「あら。どうやらショスコム様が先に、その残り一体の霊と出会いましたわね」
店員達四人は謎の侵入者2人に倒されたようだな、と、店長こと『刈出部算任(がりでぶ・さんにん)』は思った。
四人の店員達と共に幽霊になって早五年。今まで遊び半分や武勇伝作りのためにやってきた若者や、地域住民に頼まれて渋々お祓いにやってきた僧侶などがやってきたが、幽霊を力でねじ伏せる侵入者は今回が初めてだった。
侵入者達がどのような目的でここへきたのかは分からない。が、どんな理由でもこの店で好き勝手やらせるわけにはいかない。
「そう、人間には『守るもの』が必要だ」
刈出部はそう呟き、生前の頃の自分を思い出した。
二代目支店長の『安馬利浄斎(あんばり・じょうさい)』から店長の座を譲られた刈出部は、迷宮電器店と呼ばれている支店をもっと繁盛させようと、当時は張り切っていた。
別店舗からやってきた報道院、二代目店長の頃から店で働いてきた無理条、中途採用で入った若い新入社員の増暮と、アルバイト生の無来。どの店員も活気溢れた店の戦力だ。
彼らだけではない。その他大勢の店員と共に、店を発展させる努力をすれば、この店は今以上に有名になるだろうと、彼はそう思っていた。
しかし、5年前にやってきた『赤毛連盟』と名乗るテロリストグループが、彼と報道院達店員四名を殺害した。
理由は単純、『警察が自分達の要求を呑まなかったから』ただそれだけだった。
(そもそも赤毛連盟と名乗る連中は、『自分達は鬼畜米英から、そして、その米英に国を売り渡そうとする鳩山由紀夫を含めた売国奴から、この国を守ろうという衝動に突き動かされた』と語っていた。だが、彼らは気づいていただろうか? 『自分達は愛していても、国は自分達のことを愛していない』ということを。彼らは、守るべきものを間違えたのだ)
「かくいう自分も、この店をテロリスト達から守れなかったがな…」と、刈出部はそう言って苦笑した。
やがて、幽霊となった刈出部は、同じく幽霊となった報道院達四人と共に、これからどうするのかを話し合った。
成仏する、と一瞬考えたことがあった。だが、と彼は思った。
自分達がいなくなった後のこの店はどうなるのだろう。あの事件の後、閉店となったこの店は、管理する者が誰もいなくなる。
そうなれば、そこら辺にいる廃墟マニアや、遊び感覚でやって来る不良達に店内を荒らされ、壊され、この店は、店でなくなるのだ。
そのような輩から、この店を守らなくてはならない。未練がましいといずれやって来るであろう祓い屋達に罵られようとも、迷宮電器店は自分達が守るのだ。
こうして、刈出部は四人の店員達と共に、店に潜む怨霊となって迷宮電器店を守る道を進むことを決めた。
(今まで100名以上の人間達が、肝試しにやってきたり、自分達を成仏させようと侵入してきた。だが、我々はそれをことごとく追い返し、祟り、呪った。
しかし、ここまで我々が追い詰められるとは…)
刈出部はそう思いながら「だが」と声に出す。
「どんなに追い詰められようとも、この店を守る。例え目の前にいる者が、時代錯誤な格好をした者であっても…。」
自分の目の前にいる侍を見ながら、刈出部は言った。
名刀・青江貞次の所有者となったショスコムは、刈出部を見ながら「あんたがこの迷宮電器店に潜む幽霊のリーダーかい?」と訊いた。
目の前にいる幽霊の姿は、顔は34~5歳の優男風の男性であるが、6本という腕の本数と、背中の部分が異様に膨らんでいるという異形さが、優男風の印象をかき消してしまっていた。
その膨らんだ背中は、上に着ているYシャツに覆われ、その実態を視覚で認知することは出来ない。
刈出部はショスコムに対して、「いかにも。俺はこの店の三代目支店長である刈出部算任だ」と答えた。
「『ガリデブ』だって? 痩せてるのか太ってるのか分からない名字だね。見たところ、中肉中背って感じで、太っているようには見えないけど」
「ふっ、生前はよく言われていたよ。だが、今は阿修羅像のような外見になってしまっているがね」
「いかにも怨霊という外見だね」
ショスコムは刈出部に言った。
「じゃあ、さっそくで悪いんだけどさ、あんた達がこの店で祟ったり呪ったりしたせいで、苦しみながら死んだ人がいっぱいいるんだよ。だから、あんたは今ここで僕に退治されなくちゃあならない」
青江貞次の刃が鞘からスラッと抜かれた。その刀身は見る者の心を奪うような、幻妖的な輝きを放っている。
刈出部は目の前の侍が刀を抜いたのを見て、刈出部も戦闘態勢に入る。
「侵入者達が我々に祟られたり呪われたりしたのは、自業自得だ。故に、この店に侵入したお前も、ここで痛い目に遭って祟られなければならない」
先に動いたのはショスコムだ。ショスコムは刈出部の身体を袈裟切りに斬ろうと刀を振り上げた。
刈出部はそれを紙一重で回避した。刈出部は六本の腕で拳の連打を繰り出した。ショスコムも後ろ3、4歩下がり回避する。
刈出部は後ろへ下がったショスコムを見て、にやりと笑った。
「後方へ下がれば、拳の雨は喰らわないと思ったか? 甘い、甘い! ただ甘いだけのアメリカのカップケーキのように甘いわッ!!」
そう言った刈出部の腕は、まるでゴムのように伸びた。
ゴムのように伸びた刈出部の六本の腕は、間合いに入っているショスコムの身体を強く打ちつける。
ショスコムは刈出部の攻撃をくらいながら、週刊少年ジャンプで連載されている海賊マンガの主人公のことを思い出した。
(なるほど、あいつの腕はあのマンガの主人公みたいに伸びるんだな。ならば…)
ショスコムは手に持った刀で、長く伸びた刈出部の6本の腕を全て切断した。
「さあ、お前の攻撃手段はこれで全部失ったぞッ!!」
ショスコムは間合いを詰めると、今度は袈裟切り・逆袈裟・右薙ぎ・左薙ぎ・右切り上げ・左切り上げの順に斬りこんだ。
腕を失くした刈出部はそれを全て回避しようとするが、左切り上げの軌道を避けることが出来ず、右脇腹に浅い傷が付いた。
さらにショスコムは上から下にかけての斬撃である唐竹を喰らわせようと、刀を振り上げた。
だが、刈出部はまたもにやりと笑った。
「『攻撃手段を全部失った』だと? 違うんだなぁ~」
ショスコムが振り下ろした刀は、無いはずの両腕が直接受けとめていた。所謂『白刃取り』の技法である。
刀を受けとめられたショスコムは驚愕する。確かに切り落としたはずの六本の腕が、確かにそこから生えていた。
刈出部は「くくく」と笑いながら語った。
「俺の腕は切断されても、尻尾を斬られたトカゲのように『再生』するのだよ。これぞまさしく『奥の手』というものだ」
「さらに」と刈出部が続けて言うと、膨らんでいた背中のYシャツがビリビリと破れた。
Yシャツの下は、文字通り『蛸』だった。八本の触手を持つ蛸が、背中から生えていたのだ。
これぞ異形の美。怨霊が行きついた末の姿だった。
背中に生えた蛸は、その触手をショスコムの身体に絡みついた。
「合計14本の腕から逃れられる者はいない。この姿で俺は数多の侵入者共を怯えさせてきたのだ」
刈出部はショスコムの刀を奪い取ると、その辺に投げ捨てた。
「さあ、貴様にもう戦う術は無くなった。蛇に呑まれるネズミのように、恐怖に怯え、竦み、死んで逝くがいい」
そう刈出部が睨みながら言うと、ショスコムは「ふふふ」と笑った。
「…気でも狂ったか?」
「いいや。恐怖に怯え、竦み、死んで逝くのは、僕にはまだ早すぎるんだよッ!!」
ショスコムはそう言うと、自分の舌を噛み切った。口から大量の血を噴き出した侍は、触手に絡まれながら事切れた。
侍の死に様を見た刈出部は、フンッと鼻で笑う。
「やはり気が狂ったようだな。いくら強がっても、異形たる者を見れば恐怖におののく。それが生者の定め…」
刈出部が言ったその瞬間、侍の隣に、唐草模様の人型の何かが現れた。刈出部は突然現れた人型の何かに驚いた。
「な、なんだこいつはッ!!」
人型の何かこと、ショスコムのスタンド『ヴァルハラ・ダンスホール』はその身体に刻まれた唐草模様を輝かせ、ショスコムの『次の来世の身体』を作りあげた。
無理条との戦いの際は『斉天大聖・孫悟空』、報道院との戦いの際は『名刀・青江貞次の所有者』と、二つの来世の身体を作りあげたヴァルハラ・ダンスホールであったが、今度の来世の身体は、ショスコムの今の状況を考えると、非常に最悪なものだった。
銀色の長髪に、兎の耳のカチューシャ、黒のバニースーツに燕尾服、さらには網タイツに兎の尻尾の飾り。
ショスコムの次の来世の身体は『バニーガールの少女』であった。
バニーガールに生まれ変わったショスコムは、今の自分の姿を見て頭を掻いた。
「あちゃ~。今までの来世の姿が、運良く戦闘には持って来いなものだっただけに、これはまずいな~」
ショスコムのこの言葉を聞いた刈出部は、触手で締め上げていたショスコムの前世の身体を投げ捨てると、バニーガールに対してこう訊いた。
「ほう…。『自殺して来世の身体に自分の心を入れ替える』…、あの人型の何かは、お前の守護霊的存在か?」
「まぁ、そういうものだと認識してくれて構わないよ」
「そうなると、いくら俺が殺そうとしても、お前は自殺すればまた来世の姿で蘇ってしまう…」
刈出部は「ならば!!」と叫ぶと、背中の蛸の触手を素早くショスコムの身体に絡ませた。
蛸の触手は、ショスコムが自殺できないように、四肢を縛り上げ、口内に触手の先端を突っ込んだ。
(ヴァルハラ・ダンスホール!!)
口を塞がれたショスコムは心の中で念じた。
ヴァルハラ・ダンスホールは刈出部の身体に殴ったり蹴ったりの攻撃をするが、刈出部は平然としている。
「無駄だ。俺の身体はゴムのような体質だ。故に、殴る蹴るの攻撃は効かない」
やっぱりあの海賊漫画の主人公のような体質じゃないか、とショスコムは心の中でツッコミを入れた。
ショスコムを追い詰めた今の刈出部は、まさしくハンターという名の捕食者。
海に溺れた兎の全身の骨を砕き、ゆっくりとその地肉の味を楽しもうとする肉食の蛸だ。
「攻撃も出来ず、転生することも出来ず、お前はじっくりと殺される…」
「終わりだ」と、刈出部は冷たく言い放った。
「うわわっ、このままじゃあボスが危ない!!」
「早く助けにいかないと、ボスが霊に呪い殺される!!」
「店の中に乗り込んで、助けに行くぞ!! それで良いな立会人!?」
3人がショスコムを助けようとしているのを見て、柱石は「いいでしょう、すぐに店内へ向かいましょう!!」と救出の許可を与えた。
その時「待て!!」と農円が大声で言った。
「救出するのはまだ早い」
「まだ早いって…、そりゃないさね禿頭の旦那!!」
「そうだよ!! ボスが今にも殺されそうだって時に!!」
「あんたには血も涙も無いのか!?」
「これで救出に行かなかったら、ショスコム様が死んでしまいます!!」
柱石達がそう口々に言うと、農円は腕を組みながら言った。
「お前達のボスは言っただろ。『ただでは死なない』と。ならば、そのボスの言葉を信じてみたらどうなんだ?」
「で、でも…」
「農円様の仰るとおりですわ」
と、かふらが口を開いた。
「なにも、店内にいるのはショスコム様だけではないでしょう? お忘れですか、このトーナメント第1回戦のもう一人の出場者を」
「もう一人の出場者…。あッ!!」
「そう、俺の可愛い教え子。蘇亜橋真座利だ」
農円は柱石達5人に言った。
「攻撃も出来ず、転生することも出来ず、お前はじっくりと殺される…。終わりだ」と、刈出部がショスコムに冷たく言い放ったその時、
天井の方から「あ~、幽霊たちの親玉、見~っけ!!」という少女の声が聞こえた。
ショスコムと刈出部は声の聞こえた上の方に目を向けた。
上の方には、顔が三つ付いたアドバルーンに乗っかりながら、ショスコムと刈出部を見ていた下着姿の少女がいた。
「もう一人の侵入者か」と刈出部は呟いた。
「あれ? 幽霊の親玉に今捕まっているのは誰? 私とショスコムさん以外に店の中に入っていた人がいたの?」
下着姿の少女こと真座利は、刈出部に殺されかかっているバニーガールの少女ことショスコムを見て言った。
真座利の言葉を聞いた刈出部は「くくく」と笑う。
「おい、聞いたか? あの下着姿の少女はお前の守護霊らしきモノの特殊能力を知らないらしいぞ? 実におかしいものだなぁ」
(おかしくて悪かったな。あの子にはまだ教えてなかったんだ)
ショスコムは心の中で刈出部に言った。
不気味なアドバルーンは、徐々に地上へと下降していく。アドバルーンの上に乗った真座利は刈出部に向かってこう言った。
「とにかく、私とショスコムさん以外に店の中に入った人がいて、そしてその人を幽霊の親玉であるあんたが襲おうとしてるなら、私は絶対に見過ごさない!!」
アドバルーンが地上近くまで下りると、真座利はアドバルーンこと自身のスタンド「プラスチック・スマイル」をしまって、刈出部に指差しをして言った。
「未練がましい幽霊共は、私が全員ぶちのめすッ!!!!」
この言葉を聞いた刈出部は、大声で笑った。
「はははははッ!! 『未練がましい幽霊』か!! 成程。お前にとって我々は、さながら『キッチンにこびり付く頑固な油汚れ』と言うわけか、はははははははッ!!」
刈出部は数秒笑うと、鋭い目つきで真座利を睨みつけた。
「我々の悲しみを知らずに生きている小娘が、偉そうにほざくな」
刈出部はショスコムの身体に絡みつかせていた触手を全て解くと、ショスコムをゆっくりと床へおろした。
「お前を殺すのは、あの小娘を抹殺してからだ。その場でおとなしく待っていろ」
刈出部はそう言うと、真座利のいる方へ瞬時に間合いを詰めた。刈出部の六本の腕と八本の触手が真座利を襲った。
真座利は六本の腕から繰り出される拳の雨と、八本のムチによる攻撃を避けようとした。
だが、合計十四本の腕が繰り出す、殴打と鞭打ちの連続攻撃を全て回避するのは至難の業である。
次第に下着姿の真座利の身体に、無数の青い痣が付く。
一方的な攻撃を繰り出しながら、刈出部は語った。
「お前達には分かるまい!!五年前、『赤毛連盟』というテロリスト共に、命も夢も守りたかったものも奪われた我々の気持ちが!! 赤毛連盟は『国家を守るため』と称して、この店とそこで働く店員と来客していた人々を盾にして籠城し、警察に対してこう言った」
「『我々は国家の行く末を憂う者である。今この国は、鳩山由紀夫率いる民主党の手によって崩壊の道を辿っている。鳩山は国民の老後よりも目の前の現金を優先して、自然にあふれたこの国をアメリカに売り渡し、『51番目の州』にしようとしている。我々はこのような暴挙を行おうとしている民主党を絶対に許しはしない。国の番犬たる優秀な警察諸君。店の中にいる者達の命を優先するのならば、我々の下へ鳩山由紀夫を連れてこい。鳩山を連れてくれば、人質は全員解放しよう!』と」
「奴らは自分達が『国を一番に愛する本物の日本国民だ』という壮大な勘違いをして、このような愚行を犯したのだ!! 『自分達が愛している国は、もしかしたら自分達のことを愛していないかもしれない』ということも考えずにな!!」
「そんな『アイドルグループの一部のメンバーを盲信することしか能のない屍生人(ゾンビ)』のような連中に、我々は命を奪われたのだ!!」
刈出部の腕の一本が、真座利の腹部に命中する。
「私は命を奪われた以上に、この店を守ることが出来なかったことが辛かった!! だから、幽霊となった後は既に閉店となったこの店を、遊び心でやってくる連中から守ろうと誓ったのだ!!」
「店に侵入してくる奴らの中には、幽霊の出る店の中に入ったことをツイッターと呼ばれる代物で自慢しようとする輩や、亡者に対して舐めきったことを喚き散らす外国人もいた!! そのような連中がこの店を荒らし、壊し、暴れ回っていったのだ!!」
刈出部の背中の触手が真座利の首に巻きつき、じわじわと締め上げた。
「どうせ貴様らもそのような人面獣心の下衆共と同類の者なのだろう!? ならば、私は今まで同様、お前達を祟り殺し、呪い殺し、死の恐怖を味あわせてやる!!」
自身の思いの丈の言葉をぶつける刈出部を見つめながら、真座利は「…で? それで終わり?」と言った。
「…今、なんと言った?」
「だから『それで終わり?』って訊いたの」
真座利はじわじわと首を締めあげられながらも、刈出部を睨みつけた。
「確かに、その赤毛連盟とかいうふざけた名前の組織や、今までここに侵入してきた人達のやらかしたことはサイテーだわ。私だって許せねーわよ」
「でもね。あんたが『守れなかった店を守る』とかいう未練たらたらな理由で、他の人のかけがえの無い命を奪ったことは、絶対に許せない」
「そして、私達以外に店の中に入った人が、目の前で殺されるのを、絶対に見過ごすことは出来ない!!」
「フ・ル・ボ・ッ・コ確定だわ、あんたッ!!」と真座利は叫んだ。
真座利と刈出部の戦いを見ていたショスコムは「ああ、あの子、まだ僕のこと気づいてないんだ」と呟いた。
真座利の言葉を聞いた刈出部は、額に血管を浮かばせていた。
「貴様…よほど惨たらしい方法で殺されたいようだな!!」
刈出部の触手が真座利の四肢を縛り上げると、そのまま上へと持ち上げた。
「このままお前の身体を、牛裂きの刑のように引き裂いてくれる!!」
刈出部はそのまま真座利の四肢を引き裂こうとした。が、彼はその瞬間、真座利の唇が動いているのを見た。
そして、何かを早口で唱えているのを聞いた。
「………オン・ダボキャ・ベイロジャノウ・マカハトバ・ヤッサバ・ケジナン・ボダラク・サンマイダ・ウン・マダラ・バトナン・ザンザンザン・ソリヤラバラバ・ウン・トルティーヤ・バランドバン・セキトバ・ヴィジャヤ・カニパン・サンダーヴァラ・ソンバ・ニソンバ・サンソンバ・キンナラ・アミダラ・ケンダツバ・オン・コロコロ・グンダリ・マトウギ・ソワカ……」
真座利が唱えているそれが、何かの呪文であると刈出部は察知した。
「怨御霊鎮めや・滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
真座利はそう叫んで呪文を唱え終わった。そんな真座利を見て刈出部は高らかに笑う。
「ははははははははッ!! まさか、霊を祓う呪文を唱えてくるとは恐れ入ったぞ!! だがな、生憎俺にはどのような祓いの呪文も効かないのだよ!! この店には祓いの呪文を唱えて我々を成仏させようという祓い屋達がやってきたが、そいつらの唱えた呪文など、蚊ほども効かなかったわ!! 苦し紛れの呪文が効かないことが分かった以上、お前に勝ち目など何一つ……!!」
「勝ち目など何一つありはしない」と刈出部は言おうとしたが、それを口に出す前に、自身の身体の違和感に気づいた。
「なッ何!? 身体が動かない! これは一体!?」
動揺する刈出部をよそに、真座利は四肢を封じ、首を絞めつけていた触手を解き、地上へ下りた。
「どうやら、私が唱えた呪文が効いたみたいね♪」
「呪文が効いただと…!? 馬鹿な、俺に祓いの呪文など…」
そう言う刈出部に真座利は「本当馬鹿だな~あんたは」と言った。
「私が唱えた呪文は『私自身で考案したオリジナルの呪文』なの。それも『対象者の身体を停止させる』という呪文なわけよ」
「オ…オリジナルだと…!? そんな出鱈目な呪文に俺が…」
「あのね。出鱈目に唱えた呪文でも効果が出れば、それは間違いなく『本物』なの。『イワシの頭も信心から』っていうことわざは、迷信じゃあないのよ」
「ば、馬鹿な……」
身体をピクリとも動かすことが出来ない刈出部に対し、真座利はゆっくりと近づいた。
「ともかく、これであんたは身動き一つ取れない。どう、成す術なく一方的にやられる寸前の状況になっている気持ちは?」
「グッ…」
「ぐうの音も出ないとはまさにこのことね。それじゃあ、一方的にやらせてもらうわよ」
真座利はプラスチック・スマイルを発現させ、命令する。
「『プラスチック・スマイル』、こいつに熱い接吻をしてやりなさい」
アドバルーンの姿をしたスタンド、プラスチック・スマイルは、刈出部の唇に熱い口づけをした。
瞬間、刈出部の身体がパンパンに膨れ上がり、その膨れ上がった身体は宙へと昇り、天井に届いた。
天井にプカプカと浮かびながら、刈出部はじたばたと身体を動かそうとした。
しかし、真座利が唱えた呪文の効果が継続しているためか、指一本も動かすことは出来ない。
「くそッ。こんなことで…、守るべきものがあるこの俺が…」
天井でそう言う刈出部に、真座利は訊いた。
「ねぇ。あんたはなんでこの店を守っているの?」
「……この店が好きだからだ」
「この店自身があんたを好きじゃなくても?」
「…………」
「あんたらがやってること、赤毛連盟となんら変わらないわよ」
真座利はうーんと背伸びして、天井に浮かんでいるあいつをどうしてやろうかと考えた。と、その時、バニーガールの少女が近付いてきた。
「やったね、真座利ちゃん! 見事なファイトだったよ」
「あれ? 貴方、さっきあいつに殺されかけていた子だったよね? なんで私の名前を知ってるの?」
「やだなぁ、僕だよ僕。ショスコム・ウィステリア」
「えぇ!? 私が知ってるショスコムさんは男だったわよ!?」
「それについては、今から説明するよ」
ショスコムは真座利に、自分のスタンドの能力に付いて説明した。
「なるほど~。山田風太郎の傑作『魔界転生』のようなスタンドね~。そりゃあ男性の姿だったのが、めっちゃ可愛いバニーちゃんになっちゃうわけだわ~」
「う~ん、僕としては『Fateシリーズ』の方を連想するかと思ったんだけどな~。趣味がかなり渋いね~」
ショスコムがそう言うと、真座利は「ところで、あの幽霊の親玉どうしようか?」と訊いてきた。
「あのまま倒さないとトーナメント一回戦に決着がつかないんだけど」
「そうだね~。じゃあ、あそこにある名刀・青江貞次で、膨らんだあの幽霊に風穴を空けるってのはどうかな?」
ショスコムは細い指で、床に突き刺さっている刀を指差した。
「えっ、青江貞次って、あの幽霊をぶった切ったことで知られるあの青江貞次?」
「普通の女子高生が知らなさそうなことを良く知ってるね、真座利ちゃんは」
「まあね~♪ でも、あの刀はショスコムさんが使ってたんでしょ? 私があの刀を使って幽霊の親玉を倒しちゃったら、私が勝ちってことになっちゃうよ? それでもいいの?」
そういう真座利にショスコムは「いいんだよ」と答えた。
「真座利ちゃんがあの時来なかったら、僕は完全に殺されていたし、あの幽霊を追い詰めたのは真座利ちゃんだ。だから、あいつにとどめを刺す権利があるのは、真座利ちゃんなんだよ」
「…そっか。じゃあ、お言葉に甘えて」
真座利は床に突き刺さった青江貞次を引っこ抜くと、刈出部に照準を定め、
「今まで苦しめられた人達の恨み、思い知れッ!!!!」
と叫び、青江貞次を槍投げのように投げつけた。
にっかり青江の切っ先は膨らんだ刈出部の腹部に突き刺さり、刈出部の身体は破裂した。
「やった~!!嬢ちゃんが幽霊の親玉を倒した~!!」
「ボスを助けてくれてありがとう、真座利の嬢ちゃん~!!」
「ボスは一回戦敗退となってしまったが、ボスが納得してるならそれでいいか…」
イザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンクは、三者三様に真座利の勝利を称えた。
農円は柱石に「これで真座利は二回戦に進出できるんだな?」と訊いた。
「ええ。真座利様は三体、ショスコム様は二体倒したわけですから、3-2で真座利様の勝利となります。真座利様には、二回戦の場所が決まり次第報告いたします」
「そうか…。しかし、真座利が下着姿では目のやり場に困るし、あの子が風邪をひくかもしれん。早く店の中に行って、上に着る物を着させてやらねばな」
「そうでしたね、では皆さん、お二人の下へ行きましょう!」
柱石達は二人を迎えるべく、店内へと向かった。
「我々がしていたことは…あの赤毛連盟と大差なかったというのか…」
頭部だけの姿となりながら、刈出部はそう呟いた。
その声を聞いた真座利とショスコムは「あ、まだ生きてたんだ」「幽霊はもう死んでるからかな?」と言った。
「当たり前だ。俺は幽霊だぞ? 破裂した身体は時間をかければ元通りになる。しかし…」
刈出部がそう言うと、「店長!!」「刈出部店長!!」という声が聞こえた。
声が聞こえた方へ二人が向けると、自分達が今まで倒した幽霊達がやってきた。幽霊達の傷は、見事完治している。
「刈出部店長、なんとも痛々しいお姿に…」
「貴様らァッ、よくも店長を傷つけたな!!」
「今度こそお前達を呪ってやる!!」
「生きて帰れると思うなよ!!」
無来、無理条、儀式、報道院の四人は戦闘態勢に入った。
「はぁ…こいつらも復活してたか…」
「また痛い目に遭わせないと、分からないみたいだね」
真座利とショスコムも戦闘態勢に入った時、「やめろ」と刈出部が言った。
「て、店長。しかしですね…」
「こいつらは店内に侵入したどころか、我々を傷つけた奴らですぞ?」
「もういい。我々が今までやっていたことは、赤毛連盟の奴らがやらかしたことと、何ら変わりがなかった。店を守るために侵入者を呪い殺し、地域住民を恐怖のどん底に陥れた。『国家を守るために民主党党首の鳩山由紀夫を抹殺する』とほざいていたあいつらと、どう違う?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は何も答えることが出来なかった。刈出部は深いため息をつくと「我々は、間違っていたのだ……」と言った。
と、その時、「真座利様、ショスコム様!」という声が向こうから聞こえた。
真座利とショスコムは、その声が立会人である柱石であることに気づいた。
「あの声は…確かあの時の…」
刈出部も気づいた。あの声は確か、『正々堂々勝負しろ』とわめいていたアメリカ人の仲間の一人だ。
彼がそう思っているうちに、柱石、農円、イザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンク、かふらの六人は、真座利とショスコムのいる場所に着いた。
イザドラとステイプルトンはバニーガールとなったショスコムに抱きつき、
「うわ~ん、ボス~、無事でよかったァ!!」
「ボスが死んだら俺達はどうしようかと…」
と言って泣いた。ショスコムはそんな二人の頭を優しくなでた。
ウィンディバンクは真座利とショスコムの周りにいる霊達を見て、「うわッ、あれだけやられたのに、もう復活している!?」と驚いた。
その言葉を聞いた無来は「あれだけやられたって…どういうこと?」と首を傾げた。
農円は自分の着ていた上着を下着姿の真座利に着せた。
「ほら、いつまでも下着姿だと風邪ひくぞ」
「あ、そうだったね。ありがと、先生!」
真座利は農円にお礼を言うと、かふらが真座利に対してこう言った。
「真座利様、おめでとうございます。あなたはトーナメント第一回戦に見事勝利したので、第二回戦に進出することができました」
かふらの言葉を聞いた真座利は「いぃやったー!!」と喜んだ。
その光景を見た儀式、無理条、報道院の三人は、怒りに心頭した。
「トーナメントって…!!」
「じゃあもしかしてもしかすると、俺達はそのトーナメントの試合のために…!!!」
「あんだけボコボコにされたわけというわけか…!!」
そう言って睨みつける三人に、ショスコムは
「まぁまぁ、いいじゃないか。このトーナメントのおかげであんたらは自分達のやってたことが間違いだったって気づけたわけだし、真座利ちゃんもトーナメント第二回戦に進出することが出来たんだから、一石二鳥じゃあないか」
と言ってなだめた。
「全然一石二鳥じゃない!!」
「俺達にとっちゃ零石零鳥だ!!」
「ていうか、今のお前の姿はどう見ても、昔ボクシングの中継で見たラウンドガールにしか見えないゾッ!!」
と、三人はショスコムに文句を言った。
柱石は頭部だけの姿となっている刈出部を見つめていた。
刈出部は柱石を見上げながら言った。
「お前はあの時のアメリカ人の仲間だな?」
「…………」
「いいのだ。我々はお前の友人達を祟り殺した。それは紛れもない事実だ。さぁ、蔑むがいい、罵るがいい、嘲るがいい。それが、生者が愚かな死者に対して出来る唯一の反撃だ」
そういう刈出部に対し、柱石は大声で「申し訳ありませんでしたッ!!」と言って、土下座した。
「あの時僕がダグラスを止めていれば、あの時僕がダグラス、バーニコット、ヘレン、黄顔(ファンヤン)を連れて店から出ていれば、貴方達は激怒することは無かったんだ…!!」
「…もう、いい」
「良くない…!! 僕の罪はまだあるんです…」
柱石はそのまま自分の罪を告白をした。
「ダグラス達が貴方達に祟り殺され、僕も足を切断した後、噂好きな同級生の別保(べっぽ)が僕に訊いてきたんです。『ダグラス達が亡くなった原因を、お前知ってるんじゃないのか?』と。」
「僕はあの時のことを早く忘れたくて『知らない』と答えたんです。でも別保はこう言ってきました。『嘘つくなよ! だってオイラは見たんだぜ。夜のドライブをしている最中に、あの噂の迷宮電器店の中に、お前とダグラス達が入っていくのをさ』」
「そして別保は僕に『なぁ、本当のことを話しておくれよ。さもないと、ダグラス達が亡くなったのは、柱石のせいだと言いふらすぞ。それでもいいのか?』と言って来たんです。別保の流す噂はネット・リアル問わず瞬く間に拡散し、手がつけられなくなるというのを僕は知っていたし、そんな噂が大学中に知れ渡って、周りから蔑んだ目で見られるのが怖くて…、それで僕はあの夜の出来事を別保に語りました…」
「そしたら、別保は僕が話したことを『そのままネットの掲示板やツイッターに書き込んで、瞬く間に拡散させた』んです! そのことをネットで知った僕は、取り返しのつかないことをしてしまったと後悔した!! だから、僕はこのトーナメントの立会人になった時に決心した!! このトーナメントの第一回戦で貴方達ともう一回会ったら、きちんと謝ろう!! そして、あの時の罪の償いをするために、貴方達に呪い殺されようって!!」
この柱石の針の筵を転がりまわるような告白を聞いて、刈出部達はこの男は哀れだと思った。が、責める気は不思議と起こらなかった。
真座利とショスコムに制裁を受けたからだろうか、とも感じた。
農円とかふらは柱石の告白にため息をついた。
「…要するに、その別保という奴が、お前の体験談をネット上に拡散させたというわけか。本当にどうしようもないな、あなたも、別保も」
「柱石様も最低ですが、最も呪い殺されるべきなのは別保という方ですわね」
そしてかふらは「どちらも花婿候補にする価値もありませんわ」と言った。
柱石の懺悔を聞いた刈出部は「もういい。全て過ぎたことだ」と言い、話を続けた。
「我々はこの夜、二人の侵入者に倒された。そして、別保という奴、もしくは別の誰かがネット上にこう書きこむだろう。『迷宮電器店の亡霊は大したことない雑魚だった』と。我々が守りたかったこの店はいずれ、大勢の若者達に荒らされ、壊され、我々もネットの噂を知って『雑魚の幽霊だったら、ちっとも怖くないもんね~♪』と、余裕綽々の状態となった祓い屋達に成仏させられ、店舗も業社に取り壊される。この店も、我々も、もう終わるのだ……」
刈出部の言葉を聞いて、四人の亡霊達は沈黙した。
と、その時、真座利は声を上げた。
「私が、終わらせないわよ!!」
農円達七人の生者と、刈出部達五人の亡者達は真座利の方へ目顔を向けた。
真座利は刈出部に向かってこう言った。
「幽霊の親玉さん。あんたはこの店が大好きなんでしょ? 私達に倒されたくらいで凹むんじゃあねーわよ!! 本当にこの店が大好きなら、どんなにボコられようが、すぐに立ちあがる根性を出しなさい!!」
「な、何を言ってるのだ、お前は? さっき言っていたこととまるで逆だぞ?」
「うるさい!! あんたがこの店を守ることを諦めないなら、私はこの店舗を買い取って、F県一のアミューズメントパークに改装するわ!!」
「ええっ!!」と、店内にいる者達は驚いた。
真座利は話を続ける。
「私はこのトーナメントで優勝したら、この店舗を買い取るくらいの大金を運営側に要求して、この店舗を老若男女誰もが楽しめる夢の遊び場にする!! それがこのトーナメントで私が望むことよ、文句ないわね、立会人さん!?」
「は、はい…。運営側は優勝した方に、どんな望みも叶えさせることができます。例えそれが、とてつもない額の大金であったとしても…」
「そう、なら大丈夫ね!!」
真座利はそう言うと、頭部だけの刈出部を手に取って言った。
「幽霊の親玉さん。やり方は間違っていたけれど、『自分の好きなものを守ろうとするその気持ち』だけは十分に伝わったわ」
「…………」
「農円先生から聞いたわ。例え怨霊となった者でも、生きている人達から崇め奉られれば神になるんだって。だから、この店をアミューズメントパークにしたら、私はあんた、ううん、あんただけじゃあない、ここにいる亡霊達を、『この店舗を必死で守った神様』として広めてあげる。それならいいでしょ?」
真座利の屈託のない笑顔を見て刈出部は、
「全く、夢見がちな奴だ……」
「だが、嫌いではない」と言った。
その時、儀式が「ちょっと待ちなさい!」と言った。
「あんたがその夢をかなえようって言うんなら、私達四人もトーナメントに同行させなさい!!」
儀式のその言葉に、イザドラ、ステイプルトン、ウィンディバンクは「えーッ!?」と驚いた。
ショスコムは「いや、僕に同伴してきた三人が驚く!?」とツッコミを入れた。
そんな四人をよそに、儀式は真座利に言う。
「あんたがそんな途方も無い夢をかなえようとするなら、その夢の軌跡、私達四人が見届けさせてもらうわ!!」
無来、無理条、報道院も続いて言った。
「そうです! あなたは私を一回キズモノにしたのですから、責任は取ってもらいます!!」
「どうせ叶いそうもない夢だけどな…」
「でも、もし叶ったら非常にうれしいゾ」
「よし、他の三人も文句はないわね」
儀式は三人に目をやりながら言った。そんな儀式達を見て、農円が柱石に訊いた。
「だ、だが、俺はともかくとして、こんな大勢の連中を引き連れて大丈夫なのか? 霊感のある人間から『奇妙な一団だ』と思われるかも知れんぞ?」
「霊感のない人が見れば、霊は見えないのでOKかと。それに、トーナメントの試合に直接介入しなければ、大丈夫だと思います。運営側にはそう連絡しておきます」
柱石が農円にそう答えると、今度はかふらが真座利に、
「貴方のかなえようとしている夢は、とても素晴らしい夢です。ですが…」
「もし、次の試合で負けたら、どうするのですか?」と訊いた。
真座利は返答に詰まった。
「そ、それは……」
そんな真座利に助け舟を出したのは、ショスコムだった。
「しょうがないなあ。真座利ちゃんが敗退したら、店舗を買い取って改装する資金は、僕が出すよ」
「ええっ!? 本当にいいの?」
真座利はショスコムに訊いた。
「ああ。なにせ僕と真座利ちゃんはもう友達になったも同然だし、僕の組織なら、店を買い取るくらいの資金は用意できる。そして、真座利ちゃんが試合をしている期間は、イザドラ達や組織から派遣したエージェント達に、遊び目的でやってくる連中を入らせないように警護させるよ」
「流石我らのボス!!」
「ボスの優しさは、カリブ海よりも深いぜ~!!」
「これこそ、ガルガ・ファルムルのリーダーだ!!」
「ショスコムさんもサポートしてくれるのか! うれしいなぁ~!! 」
真座利とイザドラ達はショスコムの周りで、くるくると喜びの踊りをした。
その光景を見たかふらは「全く、貴方達は…」と言ってため息をつき、「では、私もこの店舗を守るために一役買いましょう」と言った。
「一役買う? それはどんな…」
刈出部の問いに、かふらはこう答えた。
「はい。まず、この迷宮電器店における柱石様の体験談をネット上に拡散させた別保という輩を、社会的に抹殺致します。そして、ネット上に拡散された噂に『迷宮電器店の幽霊達は、地域住民のことを愛している神様のような存在だ。だから、きちんとお供え物を供えてお参りすれば、良いことが起こる』と、別の噂を上書きするのです。そうすれば、この店の悪い噂は少しでも払しょくされるでしょう。あ、そうそう。司法の方々に、生前の皆様の命を奪った、呉井丈、蛙智壇花を含めた赤毛連盟のメンバーに死刑判決を下すよう、頼み込んでみましょう」
かふらの言葉を聞いた刈出部と柱石は、はらはらと涙を流した。
「……ありがとう、ありがとう」
「かふら様、ありがとうございますッ」
「いえいえ。お礼を申し上げることはありません。私は柱石様とあなた達の無念を少しでも晴らそうと思っただけですから」
かふらは刈出部と柱石に笑顔で言った。
農円は柱石の肩に手を置いた。
「良かったな。立会人」
「…………はい」
柱石は自分の背中に積まれていた全ての重荷が無くなるのを感じると、静かに泣いた。
その夜、迷宮電器店の店内からは、大勢の若者たちの笑い声が響いていた。
しかし、その声は決して不気味なものでなく、朗らかなものであったと、たまたま通りすがったバイク乗りはネットの掲示板に書きこんだ。
「そうだ、四人とも。明日織井橋七星商店街に行かない? ちょっと遠出になるけれど、そこの商店街の『あしながおじさん』って喫茶店のスイーツは美味しいって評判なんだ~!」
「本当ッ!! 行く行く!!」
「でも、私達幽霊だから、食べられないんじゃ…」
「だいじょびだいじょびっ! 私が霊を実体化させる呪文を重ねがけすれば、何十分でも食べていられるよ♪」
「なんとっ、それは便利だな!!」
「では明日みんなで行くゾ~」
「ちょっと待て!! そんな怪物じみた外見のあんた等が実体化したら、その喫茶店の営業妨害になるだろうが!!」
「いやいや、意外にキモカワ系のキャラとして、お客さんに受けるかもよ~?」
「流石ボス!! もしかしたらの意外性を忘れないッ!!」
「キモカワとは予想外ッ!!」
「もしかしたら、ネット上で評判になるかもしれないな」
「……流石にそれは無いと思いますわ」
「僕もそう思います」
「頼むからお前ら、喫茶店のお客に迷惑をかけないでくれよ」
「いや、心配するところはそこですかッ!?」
★★★ 勝者 ★★★
No.7492
【スタンド名】
プラスチック・スマイル
【本体】
蘇亜橋 真座利(ソアバシ マザリ)
【能力】
息を吹きかけたものを「膨らませる」
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最終更新:2022年04月17日 15:43