第16回トーナメント:準決勝②
No.5858
【スタンド名】
アイス・エイジ・4
【本体】
阿須名 彗(アズナ ケイ)
【能力】
対象の物体を一定時間無敵にした後、消滅させる
No.7492
【スタンド名】
プラスチック・スマイル
【本体】
蘇亜橋 真座利(ソアバシ マザリ)
【能力】
息を吹きかけたものを「膨らませる」
アイス・エイジ・4 vs プラスチック・スマイル
【STAGE:超高層ビル】◆C4zT4u8GVA
春奈・モーテンセンの身長は170cm。体重は不明。
スリーサイズは、B107 W64 H95。
常軌を逸したナイスバディの降星学園高等部三年生の女子高生である。
「……結構いいバイトだなあ。一回やるだけで20万って」
「危険じゃないよ……ね?」
学園のある「星野古島」と本土を結ぶフェリーに揺られながら、そんなことを口に出さず思っていた。
彼女は自分の身体についてある種の割りきりを持っている。
女子にとっては嫉妬の発火剤。男子にとっては性欲の発火剤。
現に二つ後に座っている中等部の男子生徒は、こちらを横切る際に自分の胸を数秒凝視していた。
「……男って単純だなぁ。結局チチのことしか考えてなさそうだし」
そうは思ったが口には出さなかった。
と言うか彼女が喋ることは、本土に着くまで終ぞなかった。
彼女は、なぜその男子がこんな日にフェリーに乗るかも興味を持たなかった。
本日は月曜日の午前九時。
件の男子には、家族の不幸があったのかもしれないが、春奈に決してそんなことはない。
彼女はこれからある場所に、ある任を受けて赴く。
蘇亜橋真座利が運営側から指定された次の対戦会場は、都内の某所に鎮座する高層ビルであった。
現在時刻は丑三つ時。午前三時だが、人気が一切ないエントランスホールの前に一人の女性がいた。
黒一色の暗い服装の、バストが実に豊満な女性だ。
「明らかにあの子。真座利より胸大きいよね」
お付きの幽霊たちの中で、誰もが自重していたが、無来檻だけが言わずともいい事を言った。
「……だ……だいじょびだいじょび。私の『プラスチック・スマイル』ならワンチャンあるから」
檻に対しての返答に余裕はなく、声は震えていた。
それほどに立会人と思しき女性の乳房は巨大であり、真座利を驚愕させる物であった。
――あの一回戦の戦いから、実に3週間もの時が流れ、
此度の引率には、40度近い熱を出して学校も休んだ安倍農円に代わって五人の幽霊が同行していた。
真座利と「言いだしっぺ」の儀式との間には、まだ多少確執は存在する。
だが、五人が五人とも、真座利との交流を経て少しずつ「異形」が剥がれていっていた。
安倍先生曰く、「成仏」に近づく一歩でもあるというのだが、もちろん彼らには目的がある。
特に刈出部と報道院は「成仏なんぞしてたまるか! こちとら何年この好機を待ったと!」
などと供述しており、未だ消える兆しのない、健在アピールに躍起だ。
「お一人ですか? ええっと」
巨乳の女性は、1m範囲内にまで肉薄した真座利にようやく声を掛けた。
「蘇亜橋真座利です。ええっと…まあ一人ですかね」
「そうですか。私。このトーナメント二回戦の立会人のモーティマーです」
「モーティマー? モーティマー何さん?」
先ほどからずっと黙っていた無理条変太が異様に喰いついた。
正直真座利に、これ以上立会人について踏み込んで知ろうという気はないが、この出歯亀はそれを赦しそうにない。
檻、儀式の制止も一切聞かず、真座利に無言のプレッシャーを掛けてくる。
霊感がないであろうモーティマーにはこの一連のにぎやかさが一切伝わらないのが残念だ。
「ええっと。モーティマーさん。名前は?」
「教えてどうなるんです」
「失礼。でもどうしても知りたくって。何か歳近そうだし」
モーティマー……春奈は驚愕した。
自分を十代と認識した同年代の女性は、同学年のクラスメイト以外では初めてであったから。
これは小学校時代から彼女が味わってきた苦痛。
「…………春奈。母はイギリス人で父は日本人。降星学園の六年生。……ようするに高三です」
「同学年なんですか」
若干ほっこりした空気を、一人の人物が打破した。
阿須名彗。真座利と同じく一回戦を制した人物だ。
容姿と顔立ちは女性的でこそあるものの「人物」敢えて表現したのは、
男性として見たとしても中性的であることが否めないためである。
それほどこの彗が纏っている空気は、絶対零度のように隙のない冷気を発し、
触れようとするものの指先さえ凍らせて壊死させるほどの刺々しさを感じさせた。
「あ。阿須名さんですね」
「ええ。あなたが対戦相手ですね?」
握手のために手を伸ばした真座利に、阿須名も手を伸ばして答えた。
だが、阿須名の手は真座利の手を握らず、真っ直ぐと左の乳房をむんずと掴み、
困惑する真座利を余所に二~三回揉み、まるで意図するかのごとく先っぽを指先で摘んで、
そしてパチンコを弾くように勢いよく離し、その乳房を揺れさせた。
「!!!!!!!!!」
「ごめん。手が滑った。」
その言い方は棒読み。悪意はなくとも悪気は感じさせる、邪気の混入したお茶目。
真座利もその振る舞いに困惑しながら怒り、咄嗟に自身のスタンドである「プラスチック・スマイル」を発現した。
「…………お」
「おほん」
真面目にこの空気に耐えきれなくなったオッサンである刈出部が咳払いをしようとしたが、
その役目は彼ら幽霊が見えていない春奈が担った。
「二回戦。はじめていいですか?」
「……はい」
来てから時間がそれほどたっていない阿須名はともかく、真座利が春奈に受けた第一印象は「根暗」
失礼とは思いつつも、いまいちハキハキとしない彼女の態度と声の小ささから、彼女はそう思った。
だからこそ彼女は、春奈の一喝に少々驚いた。
それはここにきてから間もない阿須名をも驚愕させたようであり、そこにいる二人と、五人の幽霊を押し黙らせ、
ただ「はい」という簡潔な返答を引き出した。
「対戦内容は簡潔に申しますとこうです」
「最上階に付き、私にタッチする。言わば鬼ごっこですね」
「鬼ごっこじゃないでしょ。鬼がそもそも隠れない」
「そうです。ですけど鬼ごっことしては成立します」
「最上階に付き次第この電話にメールを一斉送信します」
「それを号令としてスタートしてください。なお、エレベーターの使用は禁止としています」
「もし乗りこめばこのスマートホンのアラームが起動し、自動失格となります」
「スマホを壊したり、半径5m以上離しても失格となりますので悪しからず」
そう言って春奈は、真座利・阿須名両人にスマートホンを渡した。
「さすがに最上階のどこかまでは教えてくれないのね春奈っち」
「…春奈っち?」
真座利の無垢な言葉に、春奈の眉間に少ししわが寄った。
「あ・ゴメン。怒った? ちょーっと馴れ馴れしかったかな?」
春奈は、敢えて何も答えなかった。
別に不機嫌を誘発したわけでもなかったが、真座利と自分自身の距離が縮まったとも、思ってはいなかった。
「それでは、数分後にお会いしましょう」
「…………」
ビルは消灯していたが、エレベーターは運営側の根回して起動するようだ。
エレベーターに乗り込むと、彼女は最上階である三〇階にまで設定する。
阿須名について読みとれることはなかったが、真座利については多少なりとも読みとれた。
あんなに自分を、普通の人間として見てくれた人は星野古島にはいなかった。
嫌うか、一方的に性欲のはけ口にされるか、無感情かの三択。
数千人いてその三択しかないあの場所は地獄だ。
だからこそ新鮮ではあった。これは彼女が異様にナイスバディであるからだけではない。
相手が「スタンド使い」だからこそ。というのも多少あったのだ。
エレベーターが最上階に到達すると同時に、彼女は自身の『スタンド』の名を呟いた。
「『カサブランカ』」
スマホが鳴った。試合開始の嚆矢だ。
「…………」
阿須名は、ビルの屋上をじっと押し黙って見上げた。
「阿須名さん? 先に行っちゃいますよー?」
真座利の言葉を余所に、阿須名はその行為をやめはしない。
内心、真座利も「スタンド使わなくてもいいかな?」程度には思っていたが、
彼女は自動ドアを潜って付きあたりの非常階段まで走ろうとすると同時に、彼女はスタンドを発現しようとした。
「?!」
発現のタイミングとしては、非常階段に通じるドアを開いてから、階段が目に入ってすぐだ。
だが真座利は、少し違和感を覚えた。
『プラスチック・スマイル』の射程距離はせいぜい5mほど。
なのに、自分が階段の一段目に足を掛けたというのに、『P・スマイル』は見える場所にいない。
暗いから観失うということは絶対にない。スタンドとは自分自身だ。
そもそも非常用の灯りが階段を淡くとはいえ照らしているので、そもそも暗くもない。
自分の手が急に見えなくなるなんてことがないように、スタンドが見えなくなるなんて有り得ない。
彼女はすぐに階段を上った。そして狭い踊り場のところで見えた。上の階に自身のスタンド像。
明らかに射程距離圏「外」。 なのに消えることなく、依然発現し続けている。
「な…なんで!? なんで私のスタンドが……」
パニック状態になった真座利は、後ろにいる五人の方を見たが、その五人もいない。
階段が狭いから見えないというわけではない。気配を感じないのだ。一切と言っていいほどに。
「…………」
未だ動かない阿須名も、この能力の影響下に置かれていた。
『アイス・エイジ・4』もまた、ゆっくりとした歩みで以て階段の方へと向かってゆく。
「なるほど」
阿須名の双眸は、空から空中に振ってくる紫色の「粉」を見逃さなかった。
真座利は、若干のパニックを覚えながらも階段を上り続けた。
阿須名の追跡の足跡は聴こえないし、抜き足差し脚だとしても確実に感知できる。
「…何が起こっているの? この事態は一体……」
困惑を隠しきれない。だが進むしかない。
不安げな声は何度も上げたが、「五人」は影も形も見えない。
少し、泣きそうになった。
だが、彼女の不安は少しだけ払拭される。
「檻ちゃん?!」
不覚であった。本来この状況で幽霊など出れば絶叫は必至。
五階の、やや広い踊り場で、無来檻を見つけた。
だが今はその幽霊が精神的支柱となり得る。なんとも不可思議だ。
「…………」
異形がはがれかけている幽霊・無来檻は、何も話さず、また真座利の声にも反応しない。
ただ、どこかに向けて引き寄せられるようにゆっくりと歩くのみ。
「檻ちゃん! みんなは一体どこ……」
その瞬間、檻の「異形」が病のように再発し、牙を剥いた。
咄嗟に、真座利は身を引こうとしたが、後ずさりする際に体勢を崩し、
バランスを崩した身体は右ひじから痛みと共に着地した。
「痛ぅ…!」
檻の牙は真っ直ぐ真座利を捉えていたが、不幸中の幸いにも現在、「胸はしぼんでいた」
故にその牙は乳房に刺さらず、檻の攻撃は不発に終わった。
なくてよかった。おっぱい。
「…………何で? 一体どうして……」
どうして。いきなり彼女は自我を失ったように暴れ出したのか。
明らかに件の迷宮にて闘ったときとは違う。
そしてさらに見えた光景は、真座利をさらに絶望させた。
階段の隙間から見えた人影は、そもそも誰かなどと疑いようもない。
四つ連なっているならば、あの四人に他ならない。
「……」
檻もまた、生気(死んでいるからあるのはおかしいのだが)のない目で以てそれを見つめる。
そして檻は、全く真座利に見向きもしなくなり、階段を上り始めた。
その際に真座利を一瞥もしなかった彼女の態度は、悪霊や獣と言うよりも操り人形のそれに近い、
非常に、非情なほどに無機質なものであった。
「やはりいない……か」
パニック状態に陥る真座利とは違い、阿須名の態度は極めて冷静。
スタンドは消失していたが自分が何をすべきかはある程度理解できているつもりだ。
彼女は、数分遅れで非常階段への入り口を潜る。
――――
真座利は、意気消沈もほどほどに階段を上りはじめた。右ひじの痛みに耐えながら。
『P・スマイル』が未だに発現している実感こそあるが、檻も含めた五人の姿はすでに見えない。
幽霊ゆえに物理法則など無視して進めているのだろうが、今の彼女にそれを羨ましいなんて思う余裕はない。
彼女の精神は、この短時間の間に確実に摩耗している。
「!」
十階地点で彼女が視たのは、見たことのない、だが明らかにスタンドと言えるヴィジョン。
阿須名のスタンドであることは、予測が付く人型スタンド。
襲いかかってくる気配こそないが、やはりこのスタンドも一直線に何かを目指している。
「ああ、やっぱりな」
そんな時、わざとらしいほど大きな声が遠くから聞こえた。
その声は近づいてきているのが分かる。わざと響かせているかのようなドタドタとした足音は、
この時間帯ではよく響く。
やはり、阿須名だ。阿須名が走ってやってくる。
それを認識した阿須名のスタンド『アイス・エイジ・4』は、
本能的に「それ」が自分の道筋を阻むことを察知した。
一人と一つは見えた瞬間、お互いを磁石のS極とM極であると認識するかのように走りだす。
特攻だ。ぶつかる気でいることは真座利にも分かる。
そのちょうど真ん中に、自分自身がいて殺気が自分に向いているから、当たり前と言えば当たり前だ。
「い……いやあああああああ!」
目を閉じ、衝突を覚悟した真座利であったが、彼女は完全に無傷。
「……え?」
「なるほど。近づけばスタンド能力は使える……というか「使ってくる」ようだな」
「おたく、この事態は多分……と言うか絶対に立会人さんの能力だよ」
「近くにいたら勝手にどっかいったりしないようだけど。どうも繋ぎとめとく必要があるみたいだ」
「スタンドパワーを使って踏ん張る感じ」
「…いや、私のスタンドはもう大分上の方に」
「あっそう」
阿須名の態度は、依然淡々としていたが、これは勝負の世界である。
冷酷だが、これが正しい。
一人を敗北せしめた真座利も理解はしていたつもりだが、やはり虚無感はぬぐえない。
「あっ スマホ落ちてるよ。失格になる」
「!」
気が付くと、地面にスマホが転がっていた。
真座利はすぐに拾い上げようとするが、右ひじの痛みの電撃が走り、すぐに体勢を変えて左手で取り上げる。
「ありが……」
律儀にも礼を言おうとした真座利を余所に、阿須名はすでにその場にいず、ただ階段を駆け上がる音だけが聴こえた。
歩を進める阿須名であったが、二〇階地点であるものが目に入った。
「?」
獣と人が合わさったような、異形の化物。これが立会人のスタンドだろうか。
何にせよ、今の今まで自分の視界に映ることがなかった、急に登場した闖入者に、当然阿須名は警戒する。
阿須名は思考し、そして脅威を感じる。
「『アイス・エイジ・4』は……効かないか?」
彼女のスタンド『アイス・エイジ・4』の能力概要は「無敵にする代わりに、消滅する」という非情に強力な物。
ただしその、自壊誘発とも代償請求とも取れる能力には弱点がある。
生物と言う複雑怪奇なものを能力対象には含まない事だ。
少なくとも、人型であり、ヴィジョンからパワーも感じる時点でスタンドであることを彼女は疑わない。
その怪物は、猪突猛進にこちらに向けて機械的に突進してくる。
「『アイス・エイジ・4ッ!』」
咄嗟の自衛的けん制。
阿須名の反応と、『I・A・4』のヴィジョン能力を差し引いてもギリギリの防御。
防御と言っても、その手段は攻撃。
突き出した右拳でその異形の拳を殴りとめる。
「……攻撃は最大の防御ってね。聞いてるんでしょう立会に……」
阿須名は、ここで二つの違和感を覚える。
一つ目の違和感の原因はすぐに分かった。
自身のスタンドの「能力が発動した」のは、咄嗟のことであったがゆえの生物的反射。
そこはいい。そこはいいのだが――
「……手ごたえがある…………?」
生物。引いてはその生物の精神エネルギーであるスタンドに、この能力を偶然行使したことは何度かあった。
だが効いたことは一度たりとてない。それは感覚的に理解できる。
発動時点で効かない。鉄の扉に紙の鍵を差し込んで開けようとするような感覚。
それを発動時点で味わうからだ。
だが今回は違う。その紙の鍵でドアが開く感覚を彼女は味わい、そしてその感覚に驚愕した。
その異形は、今まで闘っていた阿須名が見えていないかのように、拳を喰らってすぐに階段を上りはじめた。
「…! お」
おい。そう言おうとしたが、その数秒後に、その「下半身がツチノコ」の異形は階段に足を、
前足(手)を付けることなく、跡形もなく消滅した。
三〇階。周囲にはコイン式の双眼鏡が存在するが、このビルより高いビルなど近くに沢山あるこの状況では
無用の長物としか言いようがない(とは言え、このビルが超高層などと称された古き時代に思いを馳せるにはちょうどいいが)。
そんな三〇階フロアの中央に、春奈・モーティマーは普通に立っていた。
自身のスタンド、『カサブランカ』を発現している状態で。
「…………」
阿須名は無言で、この異様に驚愕を覚える。
自身のキャラとは違うと思いつつも、驚愕せずにはいられない。
あのツチノコ型を消滅させてから、あの手の類の異形とは三度に渡って遭遇した。
そして、それらには全て『効いた』から。
「どうして生きてる? って面してますね。なんでそんな顔できるんです? 私あなたに害されました?」
「…正直、自分でも驚きを隠せないよ。アンタの能力どうなってんだ。あの「粉」とは関係ないのか?」
「あなたのような勘のいい人は嫌いです」
「それでいていまいち鈍い猪武者気質があるところも、ますます嫌いさに拍車を掛けます」
「そいつはどうも。で、質問の答えになってないぞミセス・ホルスタイン」
この呼び方が二重の侮蔑であることを、春奈は即座に理解したが、
彼女は意外にも怒りを抑制し、返答に徹した。
「立会人として、答えます。私のスタンド『カサブランカ』はスタンドを引き寄せる花粉を散布する能力」
「……スタンドを専門に対象とする能力……? 聞いたことがない」
「最も、どうやらスタンドを専門とするというのは私の勝手な思い違いだったようですが」
「いや、それすらも勘違いかも知れんよ。これもスタンドの類か、或いは宇宙人か何かかも」
『カサブランカ』は、顔や肉体を何度も殴打した形跡が残っている、豹やらライオンやらの特徴が配置された異形を
地面から頭を掴んで持ち上げ、まるで賞金首のように阿須名に向けて開示する。
「これ、てっきりあなたか蘇亜橋さんの能力と思ってました。花粉に引き寄せられて来たので、普通に倒しましたけど」
「それはない。私はこれと似た異形を合計4体も倒している」
ではこれは何か。
二人はそれらの異形が、『カサブランカ』の能力の影響下に置かれ、花粉に引きつけられるという形で
霊感のない彼女たちにも見えるようになった「幽霊」であるという発想に辿りつかない。
(もともとスタンド使いだからこそ、霊に関する考え方が他人とあまりにも違うのかもしれないが)。
「なら恐らく、まったくの無関係なんだろう」
「なあ立会人さん。今こうして下から迫ってくる足音が聞こえる以上、蘇亜橋のそれとも思えん」
「試したいことがある。それを渡してはくれまいか」
「思った通りだ。こいつは人型だが自我とか思考とか思想とか、何にも持っていない」
「ではこれは一体なんだったのでしょう。最も、試合の結果には何ら影響を及ぼしませんが」
その光景を、彼女は見ていた。
息も絶え絶えになりながら階段を上り、彼らを探していた。
いつの間にか優先順位は逆転し、屋上を目指していた真座利は、「結果的に屋上に着く」という結果に見舞われた。
そんな彼女は、見てしまった。
白いドレスを着たような形のスタンドに捉えられた増暮儀式が、まるで塵か煙のように消える様を。
その場にいる阿須名と春奈は、まるで実験でもするかのように淡々とその状況に感想を述べる。
舞い上がり、一秒もせぬ間に消えた塵には、微塵も興味を抱かない。
「…………! な……」
何を、だったか。
何で、だったか。
或いは何をするだァーッ! ゆるさんッ!だったか。
真座利はその二人に何かを言おうとしたが、声が出ない。
儀式は、真座利にとって友人の一人の「仇」とも言える存在であった。
だが、声が出ないほどのショックを、今彼女は受けている。
一回戦と二回線をつなぐインターバル期間中に、真座利と件の悪霊集団たちは、絆を結んだ。
彼女は再認識した。
彼らが、自分にとっての愛すべき友人であり、このトーナメントを勝ち抜こうと思えた理由。
女子高生が抱くには重すぎるこの戦う理由を、ある種彼らに押し付けていた感がある。
「……! おや蘇亜橋さん。来ましたか」
真座利に訪れたのは、言葉に言い表せないほどの喪失感。
すでに能力が切れ、平坦な物となった胸に去来する痛みは、槍で貫かれるよりも鋭敏な激痛を放つ。
ある程度理解できてしまう。
儀式以外の四人。檻、無理条、報道院、刈出部ももうすでにいない。
呆気ない。なんとも呆気ない幕切れだ。
蘇亜橋真座利は、すでに自分が全てを失っていることを理解するのに、それから一秒ほどの時間しか必要がなかった。
ここで、怒りか悲しみか、何にせよ負の感情が、真座利の中で渦巻く。
彼女は背を返し、即座にその場から逃げ去ろうとするが、ここで足を滑らせる。
「!!」
彼女は、後頭部から階段へと転がり落ちていった。
高さはそれほどではなかったものの、階段の硬さと落ち方の悪さは、誰が見ても明らかであった。
入口のすぐ近くに阿須名がいれば、助けようとしたかもしれない。
だが何もかも遅かった。
蘇亜橋真座利は、硬い踊り場を枕に、スカートから純白の、中央に赤いリボンをあしらった下着を
乱雑にさらしながら、そのまま動かなくなった。
枕はそのすぐあとに、血でゆっくりと濡れていった。
スカートのポケットからは、彼女の携帯や財布などがこぼれ落ちたが、件の「スマホ」だけは落ちてこない。
十階での遭遇時点で『アイス・エイジ・4』によって抜け目なく消していたことは、今となってはどうでもいい。
阿須名、そして春奈は、その場に立ち尽くし、しばらく何一つ言葉を発することができなかった。
★★★ 勝者 ★★★
No.5858
【スタンド名】
アイス・エイジ・4
【本体】
阿須名 彗(アズナ ケイ)
【能力】
対象の物体を一定時間無敵にした後、消滅させる
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最終更新:2022年04月17日 15:53