第17回トーナメント:予選②




No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)

【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる


No.5002
【スタンド名】
ブレイク・フリー
【本体】
相羽 道人(アイバ ミチト)

【能力】
触れたものの「束縛」を解放させる




ドッグ・マン・スター vs ブレイク・フリー

【STAGE:学校】◆iL739YR/jk




一時の勝ちは、終身の勝ちにはあらず。
              ……松浦静山



また、このときが来てしまった……

相羽道人(アイバミチト)は手にした招待状と、闘いの舞台となる学校を交互に見やり、そう思った。

前回のトーナメントでも、ミチトは何か特に強い目的があったわけではない。
ただ誘われ、ただ参加し、そして優勝という結果だけが残った……

内に秘めたる強い思いはあるものの、若さ故それは未だ明確なものではない。
確固たる未来もなければ、ただ今を全力で歩むだけのただの少年。
それが相羽道人だった。

「なんでまた闘うのかな……?」

答えなど分かるはずもなく、とりあえず校庭の真ん中を突っ切り、下駄箱のある玄関へと向かう。

「……田畠さん。お相手ありがとう。俺の待ち合わせ相手がきたようです」
「なるほど、そのようですな。では、この辺で。ヘクターさんに宜しく……」

玄関脇の植え込みの側。
並んで話し込んでいた男2人はミチトの存在に気づいた。
田畠と呼ばれた作業服の男は、ミチトに向けて軽く一礼をすると、足早に校門の方へと走り去っていった。

「……えっと、俺の対戦相手は残った貴方でいいんでしょうか?」

「ああ、さっきの男性はこの学校の用務員だ。縁あって、彼は俺や俺の上司と知り合いでね。無論、今回の勝負には一切関係ないから気にしなくていい……」

そういうと、青年はミチトへと歩みより、手を差し伸べた。

「相羽道人くんだね? 俺は脚蛮醤(ギャバンジャン)だ。よろしく」

「あ……えぇっと……どうも」


道人は差し出された手には応えず、思わず口を開く。

「あの……」

「なんで俺が君の名前を知っているか? という質問か?」

「あ、はい……」

「話せば長くなるが、端的に言えば、俺の所属している組織は、このトーナメントを運営している団体と以前ちょっとしたつながりがあってね……そこのツテだ」

もっとも今はそのつながりもひどい有様だが……と自嘲するように呟くも、道人は気づいていないようだ。

「まぁ、そういうわけだから今日はひとつよろしく、ミチトくん」

「はぁ……どうも……」
いまいち歯切れの悪い挨拶を返す道人。
未だ差し出された手には応じようとしない。

「どうした?」

「いや……なんとなく……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「『触れない』方がいい気がするんですよね……貴方には……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「なるほど。伊達に優勝経験があるわけでないか……」

人は見た目で判断できない――トーナメントを通じてジャンが得た教訓は今も確かに有効だった。
見るからにひ弱な少年……ただものではない。

「覚悟はとっくにできているというわけか。ならば、話が早い!」

「!?」
道人は危険を悟り、即座に後ろへと飛びのく。
そこへ拳が振り下ろされたのは、ほぼ同時のことだった。

「ドッグ・マン・スター!!」

細身だが筋肉質な人型……
手や足に黒い包帯を巻いていて、体の所々に黒い星のマークがある。
それがジャンの精神の分身、ドッグ・マン・スター!


「さぁ、見せてみろ……君の力を!」

「(この人は俺のことを事前に調べてきてた……スタンド能力もある程度バレてると思った方がよさそうだな……)」

ミチトは距離をとりながら、冷静に相手の様子を伺う。

「(向こうも近距離パワー型。接近戦は望むところだけど……とりあえず!)」

一目散に開けた校庭へと走るミチト。

「(多分、俺やバドさんみたいに何か『触れた』ものを介して発動するタイプのスタンド……周りに余計なものは少ない方がいい!)」

「……させると思うか?」
ジャンはそういうと、懐からあるものを取り出す。

パァン!

火薬の弾ける音とともにミチトの足元の地面に鋭い跡が残る。

「……ちょっとギャバンさん。マジですか? ここ日本ですよ……?」
ジャンの手にした拳銃にミチトは思わず愚痴をこぼす。

「俺の上司の勧めでね。俺には拳銃が向いているそうだ……」

「いやいや、向いてるとか向いてないとか、そういう問題じゃ……」

「(まいったな……)」
ミチトは余裕まじりの笑顔をつくろいながら内心焦る。
「(ズームパンチの分、距離をおいても射程は勝てると思ったけど、まさかピストルとは……)」

敵の能力を警戒し、なまじ何もない場所へ移動したのが裏目となった。
それは、ミチトの能力を有効に使う機会もまた同時に失われることとなる……

「(何か……何かないのか? 逆転の手……!)」

「心配するな。抵抗しなければ命までは奪わん……」
黒光りする銃口をミチトへ向け、ジャンは威圧的に語る。

「君にいくつか聞きたいことがある。ミチトくん」

「……なんですか?」

「一つ、君はこの闘いに勝ちたいか?」


「……どういう意味ですか?」

「文字通りの意味だ」

「そりゃ……勝ちたいですよ。闘うからには……」
当然だろうといわんばかりにミチトは応える。

「そうか、では二つ目。君にとって『勝利』の意味とは?」

「……勝利の意味?」

「そうだ。君は何をもって『勝利』とみなす……?」

「何がいいたいんですか……ギャバンさん?」

「別に……ただの純粋なる好奇心だ……」

意味の分からない質問に戸惑うミチト。
だが……

「おしゃべりが過ぎましたね……ギャバンさん……」

そう、この間にミチトは見つけていた……逆転の手!!

「ブレイク・フリー!!」
逞しい体つきをした黒色の人型スタンド……ブレイク・フリー。
その手が掴んでいたのは、一つの小さな鉄塊。
そう……先ほどジャンが撃ち、地面にめり込んでいた銃弾!

「限界突破……ふっとべ!!」

ブレイク・フリーの指で、パワーを込めて銃弾を弾く。
火薬のない鉄塊とはいえ、スタンドのパワーで弾き飛ばせばそれなりの威力は出る。
おまけに……

「とっくにバレてるだろうから敢えて言います。俺のスタンド、ブレイク・フリーは『束縛』を破壊する……銃弾の運動を『束縛』する「空気抵抗』を破壊する!!」

銃弾は一瞬でジャンの元へとたどり着き、その手に握られた拳銃を弾き落とす。

「よし! ピストルがなければ……いける!」

ブレイク・フリーは即座に飛び上がり、間合いを詰める。

「この距離なら、俺の独壇場だ。ズームパンチ!」


まっすぐに伸びた腕がジャンに迫る。
鋭い拳がジャンの目前に迫り……

ミチトは地面にうずくまった。

「な……」

ミチトは何が起きたか理解できなかった。
反撃に転じたのもつかの間……右肩を遅う激痛。
服にぽっかりと開いた小さな穴は肉体まで達しており、赤黒い染みを作る。

「なんで……」

「せっかくだから教えておこう。俺のスタンド、ドッグ・マン・スターの能力は『同期』」
ジャンは懐からあるものを取り出す。

「先ほどの銃弾は、この『ブーメラン』と「同期』してあった……」

「な……!?」

ジャンが放った銃弾はブーメランと同期されていた。
すなわち、ミチト渾身の反撃は、そのままミチトへと返ることとなったのだ。

「俺が貴方の銃弾を利用して反撃することを……初めから予想していたと……?」

「そういうことだ」

「(まいったな……)」
ズームパンチのため、外していた肩の関節。
そこを銃弾で砕かれたため、ミチトの右腕は力なく垂れ下がり、もはや機能していなかった。

「(流石に……無理か……?)」

……ププー!

諦めかけたミチトの耳に飛び込んできたのは軽快なクラクション。

そして、校庭を突っ切り、二人のそばに一台の軽トラックがやってきた。

「……田畠さん?」

「すまん、すまん。財布落としちまったみたいで……どこかで見なかったか? って坊主、怪我してんのか?」
車から降り、近づいてくる 田畠。

「……おじさん! ごめんなさい!!」


これが最後のチャンス……残された幸運。
ミチトは迷わずトラックへと突っ込む。

「ブレイク・フリー!!」

残された力を振り絞り、左腕でトラックを押し込む。

「リミッター解除……トラックを暴走させる!」

無人トラックはアクセル全開でジャンへと突っ込む。

「噂以上だな……大した力だ……だが……」

ジャンは己のスタンドをトラックの前方へ発現。
迎撃体制を取る。

「無駄です。俺の能力で暴走したトラックは、貴方のスタンドでは止められない!」

「そうかな……?」
ジャンは静かに、それでいて力強く……構える。

「うおおおおおおおらああああああああああああああああ!!!」

ドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコ!!
ドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコ!!

目にも止まらぬスピード、圧倒的なパワー。
ドッグ・マン・スターのラッシュでトラックはまるで紙切れのように粉砕された。

「なるほど……これが『成長』というものか……」

あっけにとられるミチトをよそに、ジャンはそのスタンドの力をゆっくりと味わうように確認していた。

「お、俺のトラック……」

「あぁ、すまない田畠さん。貴方の財布は私が預かっていました。どうぞどうぞ。トラックの修理代も今度振り込んでおきましょう」

「またかい……あんたといい、ヘクターさんといい、全く……」

「ハハハ……いつもすみませんね」

二人の一連の流れを見て、ミチトは気づく。
ジャンの策略に。

「まさか……『同期』してあったんですか……? 既に貴方のスタンドと……」


「そうだ。田畠さんのトラックは予め俺のドッグ・マン・スターと『同期』しておいた。君の能力で『限界を越える』のを予想してな。おかげで俺のスタンドは一時的にだが『成長』することができた」

「なるほど……」
ジャンの解説を聞き、ミチトは力が抜けて地面に座り込んだ……

「俺の完敗です……何から何まで……」
悔しいな……ミチトは思わず呟く。

「そうか……ところでミチトくん。先ほどの質問の続きだが、君にとって『勝利』とは?」

「さぁ……なんでしょう?」
ミチトは何か明確な目的などなかった。
ただ誘われ、ただ参加し、そして優勝という結果だけが残った……

「それが知りたいから……闘って、勝ちたいんだと思います……」

「そうか……では、この勝負は君の『勝利』としよう」

「……ええ……って、はい!?」

「聞こえなかったか? この勝負は君の勝ちだ……」

「あの、どういうつもりですか? どこからどうみても俺の完敗……」
情けでもかけたつもりかといわんばかりに、怒りまじりの表情で問いかけるミチト。

「ミチトくん、俺にとって『勝利』とは『目的を達成すること』だ。そのためならどんなことでもするし、どんなことでも受け入れる……」

「目的を……達成……」

「俺の目的は『とある男に勝つこと』。そのために俺は成長しなければならない……君との闘いで、俺は確かに己の成長の感覚を掴んだ。この闘いにおける俺の目的は達成されたんだよ、ミチトくん」
ジャンはミチトへ一礼すると、校門へ向けて歩き出す。

「このトーナメントの勝利は君に対する俺からの感謝の気持ちだ。俺は目的の達成のためなら、どんなことでも受け入れる。トーナメントの敗北という結果でさえもだ……」

倒すべき相手……我が上司と同じようにね……

ジャンは心の中でそう呟き、その場を後にした。

「坊主……大丈夫か……?」

「くそ……」
地面を見つめ、拳を打ち付け、ミチトは涙をこぼした。
田畠の言葉も耳に入らず、ただただミチトは日が沈みつつある校庭で泣いていた。


Victory is sweetest when you’ve known defeat.

敗北の味を知ってこそ、最も甘美な勝利が味わえる。
                  ……マルコム・フォーブス

★★★ 勝者 ★★★

No.5002
【スタンド名】
ブレイク・フリー
【本体】
相羽 道人(アイバ ミチト)

【能力】
触れたものの「束縛」を解放させる








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最終更新:2022年04月17日 16:18