第17回トーナメント:予選③




No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)

【能力】
微細なガラスを操作する


No.5307
【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ

【能力】
指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす




クリスタル・ピース vs ツリートップ・ロック

【STAGE:公園】◆NUrKfv0wng





雲一つもない青い空キャンパス。強く光る太陽。
中央に生える大きなイチョウの木がある以外何の変哲もないどこにでもある公園のベンチに
少女、新房 硝子(シンボウ ショウコ)』は座っていた。なにやら左手を開けたり開いたりして動くか確認しているようだった。

硝子「・・・ちゃんと動かせるね」

少し安堵した後、自分の横に置いていた紙を手に取る。

硝子「えっと、え~っと・・・・ここであってるのかな」

会場はこの公園の名前が記されていた。ここでまちがいない。
しかし、硝子はこの試合会場に違和感を覚えていた。
別にスタンド攻撃が始まっているとかそういうものではない。単に『昼』だからだ。
今まで戦いでは、いつも夜だった。ネズミーランドも....墓地も皆、夜だった。
だから彼女の中でトーナメントは人気のない時間帯でやっているという先入観があった。
それだけに空に輝く太陽に新鮮さを感じた。こんな天気にスタンドバトルなんて硝子にとっては初めてだった。しかしーーーー。
彼女は左腕を見た。

硝子「・・・・・」

とりあえず今はこれの事は忘れよう。試合に向けて集中しなくては。
そう心の中で決め、手を握り締める。
そして間も無く、公園に一人の男が入ってきた。


「お、もう来ていたのか」

帽子のつばを触りながら向かってきたこの青年の名は『エツィオ・クラーツ』

硝子「あ..えっと、対戦者さんですか?」

エツィオ「ああ。この通りだ」

胸ポケットから招待状を見せた後、すぐにしまった。

エツィオ「俺はエツィオ・クラーツだ。自然保護管をやっている。そっちは?」

硝子「私の名前は新房 硝子です。学校に通ってます」

エツィオ「学校、ああ・・・」

硝子「どうかしました?」

エツィオ「いや、スイーツの事思い出しただけだ。気にする事はない」

硝子「???」

エツィオ「しかし驚いたなァ。この試合は猛者の集まりだと聞いてたもんだからどんなおっさん来ると思ったら・・・」

ビシッと指を立てる。

エツィオ「またしても子供じゃないかッ!!決勝戦はおいといてだが!」

力強くシャウトしたあと、「だが」と言葉を続けた。

エツィオ「やっぱ強いんだろ?」

硝子「じゃあ、白旗上げます?」

さらっと挑発する硝子にエツィオは口端が上がった。
間違いない。

エツィオ「その余裕ッ、確かだな!」

硝子「もちひょんです!(噛んでしまった!)」

それを合図に互いのスタンドが飛び出した。

エツィオ「先にやらせてもらうぜ!レディーファースト?俺は知らん!」

エツィオのスタンドの指から射出された弾丸が硝子の足元に突き刺さる。
そしてーーー

硝子「!!」

エツィオ「そこから『成長する』ッ!」

一本の枝が突き出り、硝子のスタンドを包みこむかのように枝分かれした。枝一つ一つは生き物の触手のようにうねらせ硝子のスタンドを掴んだ。
だがーーー

エツィオ「スタンドは捕まえ...!?」

予想外の図がそこにあった。
なんと締め上げようとした枝たちはスタンドの中に埋まるかのように沈んでいった。
さらに、その締め上げようとした枝を逆に身体の中で締め上げ、いや刻み込むかのように細かく切断されていき、周りの壁を取り外したミキサーのように枝の破片や汁を飛ばしながら吐き出した。
ツリートップ・ロックの攻撃が防がれたのだ。


エツィオ「!!....透明な刃、ガラスか?相性悪い、つーか日光のせいでヴィジョン見えづれぇ・・・」

硝子「植物を生み出す、能力ですか」

先程の攻撃からそんな答えを出したがエツィオは大きい声を上げた。

エツィオ「おーっと、それは違うぜ!こいつは植物を生やす能力じゃあない。まあ大体合っているけど、な!」

硝子「じゃあ樹木とかを生やす能力みたいですね」

エツィオ「その通りだ!・・・・ハッ!?」

しまった顔にエツィオに対し、硝子は苦笑いで、『わざわざヒントをくれてありがとうございます』と心の中でお礼した。

エツィオ「...バレたものはしょうがないな、嬢さんの言う通り俺のスタンドは樹木、主に枝を生やす能力だ。
そしてヤバイ事にこの能力じゃ嬢さんのスタンド相手に正面突破は不可能に近い。なら!」

スタンドの指を地面に突き刺した。

硝子(く、来る!)

地面から攻撃が来ると分かり反射的にジャンプした。予想通りの行動にエツィオは口端が上がる。
ジャンプせずに横に全速力で走ればよかったのに、と。
アスファルトを砕き、バギバギと音を立てながら図太い枝が生えてきたのだ。


硝子「さ、さっきよりでかい!?」

図太い枝はすぐに丸太ほどの大きさとなり、硝子を飲み込むほどに急成長を遂げた。そしてその樹木は幹の中に硝子をあっさりと包みこんでしまった。

エツィオ「こうやって動きを制限させた方がやりやすいな」

ツリートップ・ロックは自分の生み出した樹木に向けて銃を構えるかのようなポーズをとった。
クリスタル・ピースが木を削って本体が出てきたところで狙う気だ。

エツィオ(まだだ。じっと待て。弾数には限りあるからな。)

ジャリジャリーーー。

木の中から削り取るような音がする。
そろそろ出て来る。出る瞬間まで集中を切らしてはいけない。




ジャリジャリジャリーーー。




ジャリジャリーーー。




ジャリジャリジャリジャリーーー。




バゴォ!


エツィオ「『ツリートップ・ロック』ッ!」

己の名前を呼ぶ声に答え種の弾丸をさっき空いた穴に撃ち込んだ。
だが、その穴には誰もいなかった。

エツィオ「フェイクか・・・となれば裏から出たか」

樹木の裏の方へと回った。やはり穴が空いていた。

エツィオ「やっぱ素直に表から出てくるとは限らないかー
・・・・あれ?」

エツィオは周囲を見渡した。硝子の姿が見えない。

エツィオ「おいおい、嬢さんトンズラこいちゃっ・・・ッ」

そう言っていると右腕に痺れる感覚が起きた。

エツィオ「ぐっ・・・!?」

硝子「誰が、トンズラしましたか?」

エツィオ「一体な、何が・・・!!」


痺れる感覚、これは斬られた瞬間の感覚だった。
遅れて鋭い痛みがやってくる。

硝子「私の能力は既に察していると思いますが、ガラスです。最後まで言わなくても何が起きてかは分かりますよね?」

エツィオ「光の・・・屈折か!うぐっ・・・」

また一太刀攻撃が入る。左腕からも血が流れる。

エツィオ「ッ・・・!ツリー・・・『ツリートップ・ロック!』」

痛みを堪えて地面に種を飛ばした。
種は蔓のようなものへと成長しエツィオの出血口を強く縛る。圧迫止血という荒治療だが適切な処置だ。エツィオは余った蔓をひき千々った。

エツィオ「くっ・・・やるじゃねーか、全く見えねー!」

硝子「自分のスタンドの性質はちゃんと分かってないと可哀想ですし・・・
それでエツィオさん。透明人間相手に手も足も出ないようですし降参しますか?」

エツィオ「おいおい、勝手に勝敗決めるんじゃあねえよ
ちょうどいい対策を思いついたところなんだ」

硝子「そこらじゅうに枝でも生やすんですか?」

エツィオ「そんなちっぽけな対策じゃあないぜ・・・」

どこからかブチブチと音が聞こえてきた。

硝子「何の音・・・?」

エツィオ「後ろを見な!」

硝子が振り返るとそこにはさっき閉じ込めようとしていた巨大樹木が傾いていた。

硝子「!!」

樹木は石柱がそのまま倒れるようにエツィオと硝子の方へと鈍い音を立てて崩れ落ちた。


倒れた衝撃で土埃が舞い上がる公園。
腐り果てて一本の巨大樹木が倒れていた。その腐った大木の上に一人、人影が見えた。それは硝子だった。
エツィオの大木倒しで押し潰すという発想には驚かされたが、特に有効な攻撃とは思えなかった。巨大なハンマーで叩こうが、木製である以上クリスタル・ピースが斬り開いてくれる。それは彼がよく分かっていることのはずだ。
だがそんなことよりエツィオの事が心配だ。
自分は大丈夫だとは言え、エツィオにあれを避ける手段があったとは思えない。

硝子「エツィオさーん!無事ですか!」

人が死ぬのはもう嫌だ。無意識に手に力が入る。

硝子「返事をーーー」

エツィオ「なら返事くれてやるよ」

直後、腐った木から一本の枝が硝子の方へ突き生えた。

硝子「ッ!!」

咄嗟にクリスタル・ピースで防御した。
最初に枝を食らった時と同様にミキサーのように砕いた。
だが、直後足が動かなくなった。足だけじゃない。首も間接も回らない。スタンドもビクともしない。

エツィオ「ゴムの木って知っているか?あれって育てるのにすごい手間かかるんだぜ」

硝子は安堵した反面驚いた。

硝子「あの最中・・・一体どうやって・・・」

エツィオ「ん?どうして無事なのかって?そりゃ嬢さんがわざわざトンネル作っていたじゃあないか」

エツィオの指差す先は硝子がフェイクで開けた穴だった。

エツィオ「あれに潜らせてもらった。いやぁ小細工してくれたお陰で大木を気軽に倒す事が出来たよ」

硝子「倒す必要あったんですか?あんな攻撃、私には無意味な事は分かっていたはず・・・」

フッと軽く笑うと質問に質問で返してきた。

エツィオ「嬢さん、今は透明人間はやってないんだな」

硝子「・・・!」

遠回しに何が言いたいのか分かった。
大木を倒した理由は攻撃の為じゃない。土埃を舞わせる為だ。透明化はまるで簡単にやっているように見えるが、かなり細かい調整をやっている。光が安定した時はなんとか出来るのだが、このように土埃が舞い上がっている状態では思うように透明化できない。
だからさっきはちゃんと自分に向かって枝が攻撃を仕掛けてきた。
そしてこの枝はゴムの木。粘り気のある樹液が微粒子のガラス一つ一つを包みこんでいた為、身動きがとれなくなった。


硝子「・・・すごいですね」

エツィオ「褒め言葉は降参してから頼むよ」

硝子「・・・ところでエツィオさん」

エツィオ「ん?」

硝子「私のスタンド見て不思議に思いませんか」

エツィオ「??? 特に変わりないと・・・は?」

エツィオは不思議な点を見つけた。
それは本体の左腕はあるのにクリスタル・ピースの左腕がなかった事だ。

エツィオ「嬢さん・・・左腕どうしたんだ・・・?」」

エツィオは左腕がどこから来るか周りを見渡していたら
硝子は左腕をこちらへ突き出していた。

硝子「最後に一言、私の秘密教えておきます」

呆然と見ているエツィオに硝子は衝撃的なことを言い放った。

硝子「左腕は・・・・」

ガチャリと何かが外れる音がすると硝子の左手が外れ、ロケットパンチのごとくエツィオに向かって飛んで行った。

硝子「義手なんです」

ロケットのごとく飛んで行った義手はエツィオの胸ポケットにくっつき、その中に入っていた招待状をを器用に破った。


試合の終えた二人は公園のベンチに座っていた。

エツィオ「ふぅー・・・・」

硝子「・・・・・」

黙々と硝子は付け直した左腕の動き具合を見ていた。

エツィオ「学生が義手つけてるなんてなんてちょっと予想外だったなぁ。治さないのか?」

硝子「既にはめ込んでますから大丈夫です」

エツィオ「いやそういう意味じゃなくてだな、えっと、生やす的な意味で・・・同僚にそういうのが得意なやついるから紹介するぞ」

硝子「・・・このままでいいですよ」

エツィオ「・・・お節介は承知の上で聞くが何かあったのか?」

硝子「・・・・」

エツィオ「例えば、何か左腕にトラウマがあるとか・・・」

硝子「エツィオさん」

彼女はいきなり立ち上がった。

硝子「タイムセールの時間近いので失礼します」

エツィオ「・・・・・」

硝子「それでは」

彼女はつくり笑顔で御辞儀し、その場から離れていった。

エツィオ「・・・・・俺じゃ不適任だったな」

義手だと教えられてから彼女は口数は異様に減った気がする。それだけ左腕に何かがあったのだろう。
何か言えたはず。でも自分には無理だった。
彼女の背中にはそれだけ重い物を背負っていた。


【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ
招待状の紛失により敗退

★★★ 勝者 ★★★

No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)

【能力】
微細なガラスを操作する








当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。




最終更新:2022年04月17日 16:24