第03回トーナメント:予選①
No.4674
【スタンド名】
デリケート・サウンド・オブ・サンダー
【本体】
フランチェスカ・J・シャフナー
【能力】
振動を一点に集束させる
No.4219
【スタンド名】
T-REX
【本体】
ラッセル・ケマダ
【能力】
スーツが発生する火山活動を操る
デリケート・サウンド・オブ・サンダー vs T-REX
【STAGE:塔】◆aQVFw6W.SA
犯罪組織『ディザスター』幹部である“ラッセル・ケマダ”は、正直言ってこの戦いに敗ける気が全くしていない。自分はアフリカの某国の、ギャング組織を指揮していて、それがもとで『ディザスター』の幹部すらもボスより任されている。
まともな勝負になったこと自体が少ない。今回も「焼死体が一つ出来上がって終了」で、結果が確定するだろう。
「あ゛ぁ゛……どこにいやがるラム肉ちゃん」
一方で、名乗り出ようとしていた一般人の女性たる“フランチェスカ・J・シャフナー”は、対戦相手ラッセルの危険性を察知して柱の陰に身を隠す。このトーナメントに、ここまで危険な奴がいるなんて聞いていない! 普通に名乗り出ていたらその時点で殺されて終いだ。
「マジかよホントもう……」
だが、フランチェスカは考える。どちらにせよ戦わざるを得ないのだ。彼女の頭に降参という選択肢などはない。
「『デリケート・サウンド・オブ・サンダー』……」
フランチェスカはスタンドを発現させ、その特徴的な右腕を前方に勢いよく突き出した。
直線状に突き出した右腕から、空間がどよめく様な衝撃が発生し、10mほど先のラッセルに向かう。
『D・S・O・サンダー』の能力は振動の収束。拳を突き出すだけで拳圧の槍が放てるし、直接攻撃の威力も相当高い。
その拳圧の槍は、ラッセルに当たった。当たったのだが、ラッセルにダメージはなく、当たった衝撃によって吹き飛ばされることも倒れることもない。
当然、直接の拳撃には劣るが、決して威力が低いわけではないのだ、だがノーリアクション。
「……『T-REX』」
ラッセルもスタンドを発現している。黒いゴツゴツした岩のような鎧のスタンド像だ。
フランチェスカは直感で理解した。何をする前にも、まず逃げないと殺される。
「うぉおううっやああああああああああああ」
ラッセルの背中から突然煙のようなものが噴き出すのが見えた。見えたらすぐに、こっちへと突っ込んできた。
まるでゲームの即死トラップのような衝撃。狙いは大ざっぱだったのか、フランチェスカからだいぶ離れた壁に激突した。
「!!!!???」
壁には漫画のような巨大な穴が空く。穴の断面はオレンジ色に輝き、煙が立ち上る。
声は当然出ない。今は逃げるしか選択肢が思いつかない。
スタンドを伸ばして直接攻撃ができる距離だったが、この断面図から察するに直接攻撃はNGだろう。
触れられない。触れればダメージを与えられるかもしれないが、この『D・S・O・サンダー』の拳もフランチェスカ自身の拳もドロドロに溶けてしまうだろう。
「あ゛ぁ゛……そこに居やがったかラム肉ちゃん」
もう次撃の用意を、ラッセルは完了させていた。思考が硬直する。恐怖で何も考えられない。
「うっぁああああ」
ラッセルは、訳も分からぬシャウトを行った後、その場を動かずに背中をまとめた体勢をとる。すると背中から山のように鎧が盛り上がり……
「くおおおらあッ」
間髪いれずに、流星群のような火山弾が降り注ぐ。
「うわっうわっうわあああ」
錯乱しかけながらもフランチェスカはこの塔の上へと繋がる螺旋階段へと走る。めちゃくちゃな火山弾を躱しながら。弾けない。スタンドで弾けるレベルの熱量ではないのだあれは!
「逃がすかよッ!」
ラッセルは階段を上り行くフランチェスカに対しても撃つ。
「ぎゃっ」
火山弾は、階段へと着弾して「退路」を断つ。今度は明らかにグランチェスカを狙わずに階段を狙った。
「おも……思ったほど馬鹿じゃない」
「何か言ったかラム肉ちゃぁ゛ん」
ラッセルの声もフランチェスカには聞こえていない。走るのに必死で全く耳に入らないのだ。だが、フランチェスカはふと我に帰る。
「…………追撃しない?」
螺旋階段を上るスピードを少し緩めながら、フランチェスカは下をのぞく。まだラッセルは見えてる距離だが、奴は胡坐をかいて座り、こっちをじっと見ているだけである。
「上りなラム肉ちゃん。せいぜいな」
何を言っているか、彼女には聞こえない。
ラッセルの不気味な静寂を警戒してか、フランチェスカは上る足取りを休めることはない。もう既にラッセルの姿は見えず、彼女はすでに最上階の踊り場に来ていた。
フランチェスカとラッセルの戦いが始まって未だ10分強ほどしかたっていないが、すでに彼女は10歳年をとった感覚に陥っていた。
普段は自分を下に見て、あまつさえセクハラすら厭わないバンド仲間の「ジョージ、チャールトン、ローレンス」の三人のことも今は愛おしい。
「もう……帰りたい」
膝の力が抜けて床にペタンと座ったフランチェスカは、ふと下から響く爆音に耳を傾ける。来た……ラッセルが来た。それがすぐに分かった。火山噴射で、ロケットのように迫ってきた。
残虐性。ギャングのボスたるラッセル・ケマダの思考の根底には常にそれがある。それは獲物をどれだけ泳がせても、すぐに殺せるという自信から来るのだ。
「ラム肉ちゃあ゛ん」
フランチェスカに向けて藤田和日郎作品バリのドス黒い笑顔を浮かべて、ラッセルは『T-REX』の拳で直接フランチェスカに殴りかかる。
迫る熱気。もはや躱す余裕などない。フランチェスカはとっさに『D・S・O・サンダー』の拳で迎撃する。
「うッッッ……ぁあああああ」
強烈な熱。とんでもない熱さがフランチェスカの右拳を焦がす。だが、恐れてはいけない。恐れたら敗けだの一心で、焦げていない方の左拳で、思いっきり、ラッセルの頭を、殴りぬける!
「『デリケート・サウンド・オブ・サンダーッ!!』」
振動を収束させている拳撃は、とてつもない威力を誇り、のとてつもない硬度の鎧『T-REX』にヒビを入れ、ラッセルを思いっきり吹き飛ばした。
「くそっ!」
吹っ飛ばされた拍子にラッセルは手から火山弾を乱射する。当然狙いは定まっていない。唐突なダメージによって猛り狂ったラッセルが、怒りにまかせて撃っただけだ。火山弾は天井に当たり、その天井に大きな風穴を二~三個空ける。
「…………」
その風穴から降り注ぐ光を、フランチェスカは口を半開きにして見つめる。そこには、「何か」が見えた。
ラッセルは、噴射による緩衝で問題なく階段に着地する。獲物から唐突な攻撃を受けて憤りかけていたが、冷静にと心に言い聞かせる。
圧倒的な力を持つが故の慢心や油断はあるが、それでもラッセルは冷静でなければならないと言い聞かせて、こう叫ぶ。
「おいラム肉ちゃん。やってくれたなコラボケが」
これでも冷静なつもりである。
「……」
「なんとか言ったらどうだコルァ」
「撃ってきなよ。そのへなちょこ弾を、もっとさ」
ラッセルは完全にキレた。安い挑発に乗ったのだ。
「ぐおおおおらああああああああああ」
拳の連打(ラッシュ)を放つように、手当たり次第に火山弾を撃ち出しまくる。
「『D・S・O・サンダーッ!!』」
今度のフランチェスカの反応は速かった。火山弾が放たれてすぐに拳を突き出す。その理由は、両拳共にもう使い物にならないからだ。殴ることはできないわけではないが、こっちへのダメージは計り知れない。それ故に拳の衝撃を収束しての「拳圧の槍」を放つのだ。
「グラグラグラグラグラグラ……!!」
凄まじい連打で投げ放つ槍によって、火山弾の狙いは逸れて天井の風穴を増やす。コンクリートの粉がどんどんフランチェスカに降り注ぎ、髪の上に積もる。
「そんなんかアンタのは!」
「違ェよラム肉ちゃんッ!!」
頭に血がのぼったラッセルは、自分を抑制することをしようとしない。彼自身そのあまりに強過ぎる力ゆえに、それで大抵は解決できた。今度もきっとそうなのだ。この怒りもフランチェスカを殺せば収まる。
「ひょっとして「弾切れ」狙ってんのかぁ゛!? だったらそんなもん無駄だぞダボがッ!」
「そんなんじゃないさ」
「アンタなんぞを恐れてた自分が、バカみたいさ」
ラッセルが作ったその「会話の隙」に乗じて、フランチェスカは、踊り場の手すりを飛び越えて、飛び降りた。
「いい的だラム肉ちゃんッ」
ラッセルは三度、火山弾をこれでもかと言うほど撃ち出す。狙いは大ざっぱではあったものの、そのうちの一発はちゃんとフランチェスカに着弾した。もうすでに風穴が開き過ぎて巨大な穴が出来上がっている天井へと吹き飛ばす。
フランチェスカは、無事であった。これは全て計算のうちであり、槍を投げて火山弾の狙いを逸らす。だが、紛れもなく火山弾に掴まる必要があったために、これを計算のうちに加えるのには覚悟が要った。
それを受け止めているこの手も、もはや限界が近い。火山弾自体の熱は冷めてきたがそれでもまだ熱い。だが、槍だけではどうしても足らなかったのだ。槍だけでは空高く舞い上がるなど不可能だ。
空高く舞い上がって、「ドラム・ヴォーカル」の命を散らすには。
そう。足らなかったのだ。
「「「「「あああああああああああああああああああ」」」」」
喉が潰れんばかりの凄まじい叫び。それを『D・S・O・サンダー』で収束して、弾丸……いや、「ミサイル」に変えるのだ。
叫びの「ミサイル」は、穴が空いて『メガホン』となった塔へと降り注ぐ。
フランチェスカの喉を出た時点で、叫びはすでに「ミサイル」並みの破壊力を誇っていたが、このメガホンで、どんどん破壊力は増幅され続ける。
通過した螺旋階段も、一瞬で粉々になり、そして戦いが終わったと思い込んでいるラッセルに向けて降り注ぐ。
一瞬、彼は振り向いたがそれっきりであった。衝撃が通過した時点で、ラッセルの肉体はズタズタになり、その数秒後に鎧たる『T-REX』も消滅した。
音による衝撃波は、鎧では防ぎようがないし、至近距離でのタイヤの破裂など比ではない威力だ。
「……」
「あ……足場ない」
それから間もなくして、フランチェスカも落下し始める。足場たる階段は全て粉々だ。
フランチェスカは、結局地面の直前で「槍」の連打によって緩衝をし、難を逃れるのだが、少なくとも塔から一気に落ちる恐怖は、ラッセルとの対峙に勝るとも劣らぬ恐怖だっただろう。
★★★ 勝者 ★★★
No.4674
【スタンド名】
デリケート・サウンド・オブ・サンダー
【本体】
フランチェスカ・J・シャフナー
【能力】
振動を一点に集束させる
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最終更新:2022年04月15日 02:25