森の開けた場所。
光の差し込むその場所で、黒いセーラー服に身を包んだ『エンヴィ・キャットウォーク』のスタンド使い「六 美樹(むつ みき)」は佇んでいた。
「フフっ……随分と遅い登場ね、アナタが対戦相手かしら」
優男風の金髪男が、木陰から無言で現れる。
「……」
無言ではあるが、明確に美樹に対して敵意を向けている。若いながら、カリスマ性にも似た風格が漂わせるその男は、『ドッグ・マン・スター』のスタンド使い「脚蛮 醤(ぎゃばん じゃん)」
「『ドッグ・マン・スター』……」
「無粋ね……」
醤は冷淡なテンションからスタンド名を吐き出してスタンドを発現させ、それに対応するように美樹も自身のスタンドを発現。
「!!」
先手を取ったのは美樹。
とてつもない小柄なスタンド像からは想像できないほどのパワーとスピードで、『E・キャットウォーク』は醤へと殴りかかる。
いくらポーカーフェイスを気取っていようと、完全に女性的な可愛らしいスタンドに気を取られて油断した。だが……
「受け切れないとでも思ったか」
『ドッグ・マン・スター』もまた、それに勝るとも劣らぬスピードとパワーを有している。面喰って躱せなかっただけであり、決して受け止めきれない破壊力ではない。
「フフっ……そうね。でも躱すのが「唯一の正解」よ」
「何ィッ!?」
?!
醤は「思わず口走ってしまった」その言葉に驚いた。他でもない自分の口から出てきたその言葉は、普段自分が全く使わないであろう言葉だ。
彼は決してクールな性格なのではない。単に口下手なので会話が持たないだけ。
「北斗の拳」でケンシロウによって「あべし」だとか言わされるチョイ役が放つであろう言葉。
「フフっ……最初は「思考」で抵抗できる。でもそのうちに完全に「染まる」わよ」
美樹は醤に背を向けて、木々をかき分けてどんどん森の奥へと姿を消した。
「待ちやがれブッ殺すぞッ!」
ここまで異常な状態は、明らかに、すでにスタンド攻撃を受けている証拠でもあった(詳細こそ分からないが)。
そこからすぐ、何の考えもなしに美樹の追跡を始めてしまったのがさらに事態を悪化させる。
木々がどんどん深くなったのだ。小柄な美樹にとっては、身を隠す場所など大量に存在する。そんな場所である。
「チクショウ……」
これは恐らく、美樹の術中にハマってはいなくとも零していただろうと痛感する。スタンド能力的にも、策略的にも、罠にハマってしまったのだ。
「フフっ……」
不敵な笑みを浮かべながら、木の陰へ木の陰へと跳び移り続け、醤とも距離をとる。わざとらしく木の葉を踏みまくって特定されやすいように音を立て、醤を誘っている。
「フフっ……あの人の名前何かしら。結局聞けてないわ」
「醤……「脚蛮醤」だ」
当然、醤によってすぐに特定される。あまり距離を取れていないから当然と言えば当然。
『エンヴィ・キャットウォーク』の射程距離は短い上に、あまり離れ過ぎると「相手を小物にする」能力はいっぺんに解除されてしまう。
つかず離れずが条件なのだ。だからこそ美樹は決着を急ぐのだ。表情こそ余裕を崩してはいないが、内心では彼女もあせっていたのだ。
「テメエの能力は分かんねえがよぉ~ 俺の能力は「同期」だ」
能力を自らバラす。これは「噛ませ犬」的な立ち位置のキャラクターがする行動だ。そう言うやつはきっと自分が優位であると認識したいしさせたい、その人物の人間性がさもしい証拠だ。
「だからこんなことだってできる」
醤は、懐から取り出した「石」を『ドッグ・マン・スター』の拳で破壊した。
「…………?」
粉々に砕け散る「石」の表面に、「あるもの」が刻まれていたのを、美樹は一瞬だけ目にした。
次の瞬間、美樹の着ていた制服の袖が、「砕け散った」のだ。
「な……ああああ???!!!」
これにはさすがに美樹も冷静さを失いかけたが、それでも持ち直す。
「…………! だから何だって言うの。勝負はこ……」
美樹が言い終わる前に、醤はその「外道なる拳」でラッシュを放っていた。彼女に対して露骨に嫌がらせを行うような、壮絶なラッシュ。
「くそ……! 『エンヴィ・キャットウォークッ!』」
『NEKOPUUUUNNCH!!!!』
美樹の対応は決して後手に回った物ではない。小柄ながらもパワフルなステータスで以てしてその拳を捌き切ったのだ。
「躱すのが「唯一の性格」なんだろっ?」
「え……」
醤の懐からは、さっきと同様に「あるもの」―――「★マーク」が刻まれていた。
それら全てが、『エンヴィ・キャットウォーク』を経由してフィードバックし、制服全体に刻まれた。
全力で撃ち続ければ確実に、そんなことせずとも仕留められただろうが、それを醤はしなかった。
もちろん、紳士的に配慮したわけでは当然ない。彼女の服をひんむいてあられもない姿にしようとしているのだからそれは絶対ない。
人を殺す度胸はなく、かと言って人を貶めるのに快感を覚える、そんな『小物』のするようなことを、ただやっただけだ。
「『え……エンヴィ・キャットウォークッ!』 か……解除」
遅かった。
醤は、『小物』が『小物』であることを尊重するように、美樹の服をざっくざくと細切れにしてゆく。
さらに悪かったのが、ちゃんと『E・キャットウォーク』が解除されたこと。それによって醤は、もとの無口な青年に戻った事であった。
マジ泣きする美樹に上着を掛けて、そのあられもない姿を見ないようにして、迎えよ早く来いと醤が心の中で思っていたのは言うまでもない。