第04回トーナメント:予選④




No.2590
【スタンド名】
オホス・デ・ブルッホ
【本体】
ロロ・ロサーノ

【能力】
切り離した尻尾を本体が望んだ形に変える


No.4057
【スタンド名】
タール・ムース
【本体】
グスタフ・レドフォード

【能力】
身体をタールのような液体に変える




オホス・デ・ブルッホ vs タール・ムース

【STAGE:山奥の温泉宿】◆aqlrDxpX0s




――スペイン、バルセロナ。


サグラダ・ファミリアの見えるカフェのオープンテラスで、『オホス・デ・ブルッホ』のスタンド使い「ロロ・ロサーノ」は
スーツ姿の女性の前で縮こまってイスに座っていた。
大きな目をぐりぐり動かしながら周囲と目の前の女性を交互に見て、落ち着きがない。

女性「……というわけで、あなたには我が団体の主催するトーナメントに出場していただくことになりました。」

ロロ「…………ウヘッ、ウヘッ」
女性「………」
気持ち悪い笑い方をする目の前の男にその女性は怪訝そうな顔を見せたが、すぐに笑顔に変えて話をつづけた。

女性「移動や宿泊にかかわるすべての費用は我々が負担いたします。……出ていただけますか?」

ロロ「……ヘヘッ、ウヘッ、ウヘヘヘッ!」

ロロは気持ち悪い笑い声をあげながら何度もうなずいた。

女性(………気持ち悪いわこの男。)

――フィンランド。


高原の広い道路沿いに建つ大きな屋敷は
『タール・ムース』のスタンド使いにして、SPW財団のエージェントである「グスタフ・レドフォード」の邸宅だ。


ガチャッ!

秘書「レドフォードさんッ!」


ドアを開けてグスタフの執務室に彼の秘書が駆け込んできた。

グスタフ「何だ、騒々しい。」

グスタフはデスクに足を投げ出し、タバコをふかしていた。

秘書「レドフォードさん宛てに手紙が届いていたんですけど……」
グスタフ「……またSPW財団か?ここのところ仕事続きでうんざりしてたんだが。」
秘書「違いますよ、『トーナメント』ですッ!!」
グスタフ「何……?」

スタンド使いを集め、秘密裡に行われる目的不明のトーナメント……そのうわさはSPW財団にも勿論伝わっていた。
その素性を知ることが出来るのはトーナメントの参加者のみ……グスタフはかねてから興味があった。

グスタフ「その手紙かしてみろッ!」

ニチャッ

グスタフ「……あ。」

秘書から手紙を奪ったグスタフだったが、手紙は彼の手にべっとりと『くっついて』しまっていた。

秘書「ああッ!レドフォードさん、またスタンドをタバコと間違えて!」
グスタフ「す、すまん。見た目が同じだからフツーのタバコと間違えちまうんだよ。」

手紙には黒いタールのようなものがべっとりとついてしまっている。

秘書「いいですよ、僕が読みますから……うわあ、べとべとだ。」

秘書は手紙の内容を読み上げた。
手紙にはトーナメントの概要を添えて、グスタフ・レドフォードに「名指しで」出場してもらいたい旨が記されていた。

グスタフ「…………このことはSPW財団には?」
秘書「たぶん、伝わってませんよ。ここの住所が宛先に書かれてますから。」
グスタフ「…………」
秘書「どうします?SPW財団に連絡を……」
グスタフ「いや、伝えないでおこう。必要があると判断したときまでは一参加者として行動する。」
秘書「参加するんですか。」
グスタフ「それで、初戦の場所は?」
秘書「ええと、日本の……」

――日本、関東某所の山奥の温泉宿。


ザパーーーーン……

グスタフ「ふぅーーー……」
グスタフ・レドフォードは露天風呂の湯に浸かって、長いため息を吐いた。

その温泉宿は、宿とはいっても客室が3つほどしかない小さなもので、その露天風呂も建物の外に簡素に造られたものだった。
まわりを竹製の柵で覆われて、景色を楽しめるような露天風呂ではなかった。

活火山の温泉独特の強い硫黄の臭いが気にはなったが、はじめての温泉をグスタフは満喫していた。

グスタフ「しかし、こんな場所を戦いの舞台にするとは……もし戦いでブッ壊して、営業ができなくなったらどうするつもりなんだ?」

グスタフがこの温泉宿に着いたとき、建物には客どころか従業員のひとりもいなかった。
運営がこの日だけ貸切にしたのだろうが、それほどまでにトーナメントの主催団体の財力や権力は大きいということをグスタフは理解した。

グスタフ「これは報告の必要がありそうだな……とは言っても、調査を続けるには勝ち進まなければならないみたいだが。
     ……しかし、対戦相手はなにやってんだ?」

開始時間はすでに過ぎていたのだが、グスタフは対戦相手の姿をまだ見ていなかった。
しばらくは建物の中などを探し回っていたグスタフだったが、
あまりに見つからないのでグスタフはとりあえず前から入ってみたかった温泉に入ることにしたのだ。

グスタフ「まぁ、まさかこの時を狙って隠れてたってワケじゃねーだろうしな!」

???「ウヘッ、その、とーり、ダヨ。」


ガブッ!!

聴きなれぬ声がした瞬間、グスタフの脚に痛みが走った!

グスタフ「い、痛えッ!!」

痛みを感じた脚を湯の中から振り上げると、グスタフの脚にはトカゲのような生き物が噛み付いていた。
グスタフ「な……これは、『スタンド』!?離れやがれッ!」

ブンブンブン!

グスタフが脚をふり回すと、そのトカゲのようなスタンドは脚から離れた。


湯船の中で立ち上がったグスタフは噛まれた脚の傷が深くないことを確認してから、周囲を見渡した。
グスタフ「近くに本体らしき者はいない……遠隔操作タイプか。おまえが対戦相手か?」

トカゲ型のスタンド『オホス・デ・ブルッホ』の本体のロロは、スタンドを介して応えた。
ロロ『ヘフッ、そうだよ、ボクが君の相手のロロ・ロサーノと『オホス・デ・ブルッホ』だ。
   隙を見せるまでズッと隠れてたけどネ、フヒヒッ、まさかおフロに入るなんて。君、マヌケ?』
グスタフ「……ま、気を抜いていたのは認めるがな。別にこの状況でも不足はないぜ。傷を負ってても、フルチンでもな!『タール・ムース』!」

グスタフは手のひらに「スタンド煙草」の箱を発現させてタバコを口にくわえた。

グスタフ「……どーした、来ないのか?ま、遠隔操作タイプじゃパワーは無い。接近戦は警戒するわな。」
グスタフは湯船の側にたたんで置いておいた手ぬぐいの中からライターを取り出し、タバコに火をつけた。

ロロ『クヒヒ……そうさ、接近戦は避けたいよ。オマエのスタンドが近距離型ならネ。……だが、今確認した。オマエのスタンドはその『タバコ』!
   近距離型で無ければ、ヒヒッ、接近戦でも戦える!』

ロロのスタンド、トカゲ型のオホス・デ・ブルッホはグスタフに飛びかかった!
ロロ『噛み付くゾッ、オホス・デ・ブルッホ!!』

グスタフ「そうさ、俺のスタンドは近距離型じゃねえ。……だが、それでも接近戦はやめたほうがいいぜ?」

O・D・B「シャーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


オホス・デ・ブルッホがグスタフの腕に噛み付こうとした瞬間、オホス・デ・ブルッホはグスタフの腕にべっとりとはりついた!

ロロ『………!?』

グスタフ「ヘヘ……捕まえたぜ。」
ロロ『ヒァ…・・・ま、まずい……!』
グスタフ「いっしょに温泉入ろうぜ、トカゲちゃん!」

ザパァッ!!

グスタフはオホス・デ・ブルッホを捕らえた右腕を湯に沈めた!


ロロ『ガボッ…!ガボボボ……』

グスタフ「俺の能力は、『身体をタール状にすること』。粘りの強い俺のタールに貼りついちまったら、なかなか離れられないぜ?」
ロロ『ブゴッ!ゴボボ……』
グスタフ「さあ、おぼれちまう前に降参しろ!……といっても、この状況じゃしゃべれないかな?」

ロロ『ゴボッ……『ボボブ・ベ・ブブッボ』!!』

バシャッ!!


ロロはオホス・デ・ブルッホのシッポでグスタフがくわえているタバコを払い落とした。
グスタフ「!」

ザパッ!

タバコを口から離したことで能力が解除され、オホス・デ・ブルッホはグスタフの右腕から離れた。

ロロ『ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……。』


ロロが息を整えている間にグスタフはすでに新しいタバコに火をつけていた。

グスタフ「ラッキーだったな。……だがおまいさん、奇襲かけといてなんてザマだ。」
ロロ『クッソ……もう一回だ!』

O・D・B「シャーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

オホス・デ・ブルッホが再びグスタフに飛びかかる!

グスタフ「何度やってもムダだ!」


グスタフはまたも右腕を差し出して、オホス・デ・ブルッホをタールで捕まえた。
グスタフ「さらに、ホールドするッ!」

ガチッ!

グスタフは左腕でオホス・デ・ブルッホを抱きかかえるようにしてタールで完全に動けなくした。

ロロ『フヒヒハッ、まだだ……タバコを払い落とせば……!』


オホス・デ・ブルッホはまだ固められていない尻尾を振りかぶった。

その瞬間、グスタフは『自分からタバコを落とした。』


グスタフ「さっきつかまえたときにわかった。一度抱きかかえちまえば、タールを使わずともこのスタンドを腕力だけでおさえることが出来る。
     あとはシッポだが……」

ガブッ!

ロロ『!!』

グスタフは、自分の口元に向かってきたシッポに噛み付き、シッポの動きまで封じた!!

グスタフ「かんへんに……『捕っは』!!」


そしてグスタフは両腕でホールドしたオホス・デ・ブルッホの頭を湯の中に沈ませた。
グスタフ「こんどは『おちる』まではなさねぇーぜ!」

ロロ『…………ガボボ!』

グスタフ(ン、このシッポ……欠け……?)



その直後、露天風呂につながる脱衣所の扉が開いた!

ロロ「…………!!」

現れたのは、オホス・デ・ブルッホのスタンド使いのロロだった。
口を手でおさえて顔を紅潮させている。


グスタフ(……そうだよな、スタンドでなんとかできなければ、自分で何とかするしかない。出てくると思ったよ。)

ロロ「…………ッ!」

ロロはグスタフのほうに駆け出し、飛びかかったが……


グスタフ「だが、この瞬間を待っていた!」

グスタフはオホス・デ・ブルッホから手と口を離し、飛びかかってくるロロの服の襟と袖を掴んだ!
グスタフ「どっせェーーーい!!」


グオオオオオッ!!

グスタフはロロが飛びかかってくる勢いのまま、背負い投げの容量でロロの体を竹製の柵に向けてぶん投げた!

バギッ!!


当然、竹の柵は壊れて、外側へ倒れていく……

グスタフ「すでに確認済みだ。柵の向こうは……」

ロロ「ヒャァァァァアアアアアアアアア!!!」


ロロの体は露天風呂の柵の外に投げ出された。

グスタフ「柵の向こうは、深いガケになっているッ!!」


叫び声をあげながらロロの体はグスタフの視界から消えていった。



壊れた柵からグスタフはガケの下を見下ろした。

……ガケの下は木々が生い茂っており、ロロの姿は確認できない。

グスタフ「……まあ、木がクッションになって死なないとはいえ、無事ではないだろう。」



グスタフは立ち上がり、脱衣所へ向かおうと壊れた柵のそばからふりかえった。




ロロ「……ウヒヒッ!」

グスタフ「!!」


グスタフが振り返ったすぐ目の前に、さっき投げ落としたはずのロロが立っており、笑っていた。


ロロ「エイッ!」


ドン!

ロロがグスタフの体を押し、のけぞらせた。


グスタフ「おおッ!?おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
グスタフは腕をバタバタと振ってなんとか露天風呂のほうへ戻ろうとする。

ロロ「『ボクを落として』油断したね?」

グスタフ「なななな……なぜッ!?」
バランスを崩し、さらに目の前にはいるはずのない男が立っている。二つの理由からでグスタフは冷静さを失う。

ロロ「ボクがまだ能力を見せてないってのに勝ったと思い込むんだもんなあ、ヒヒ、やっぱり君、マヌケ。」

グスタフ(そ、そういえば……俺はヤツのスタンドの動きを封じたはずなのに、さっき落としたはずの本体は、
     『動けないどころか、飛びかかりまでした!!』ということは、俺がさっき落としたのは……!)

ロロ「いまさら気づいてもね、ヒヒ、手遅れ。」

グスタフ「おおっ、おおおおおおおおおお!!」

ロロ「バイバーイ、ウヒヒ!!」


ゲシッ!

ロロがグスタフを蹴り飛ばし、急斜面のガケへ落とした。


グスタフ「ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」
ズガガガガガガガ……


グスタフがガケを転がり落ちていくにつれ、グスタフの叫び声はどんどん遠くなっていった。
忘れてはいけないのは、グスタフは温泉に入っていたので全身丸裸だったことだ。
身を守る服もないままにガケを転がり落ちる痛みなど、想像もしたくない。


ロロ「あのままお湯の中に沈めていれば、もしかしたら君が勝っていたかもしれないね。フッヒヒ!」




露天風呂そばのガケの下。全身血まみれで気絶しているグスタフの傍らには、『オホス・デ・ブルッホ』のシッポが落ちていた……。

★★★ 勝者 ★★★

No.2590
【スタンド名】
オホス・デ・ブルッホ
【本体】
ロロ・ロサーノ

【能力】
切り離した尻尾を本体が望んだ形に変える








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最終更新:2022年04月24日 18:34