第04回トーナメント:決勝①
No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)
【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる
No.4861
【スタンド名】
フリーズ・フレイム
【本体】
サー・ヘクター・ギボンズ
【能力】
殴ったものの時間を「凍結」させる
ドッグ・マン・スター vs フリーズ・フレイム
【STAGE:酒場】◆QA0awCg7UM
ギボンズ「フム……また『酒場』か」
舞台である寂れた酒場の入口の前で、『フリーズ・フレイム』の使い手、ヘクター・ギボンズは呟いた。
聞くところによるとどうやら今回は舞台が被る事が多いらしい。
ギボンズ「…と、言う事は相手の脚蛮 醤も酒場で戦っていたかもしれないな」
対戦対手の脚蛮 醤については決勝までの期間が空いたため、色々と調べてある程度の情報は揃えている。
しかし…彼のスタンドとトーナメントの顛末については一切の情報が掴む事は出来なかった。
ギボンズ「流石はトーナメント運営委員と言ったところか。どちらにせよ用心に越したことはない」
そう言いながらギボンズは酒場の中に入った。カランカラン、という戸の音に釣られ視線がギボンズへ集まる。
告げられた開始時刻から数時間前に訪れた為、人払いもしていない様だ。まぁ、いつも通りの事ではあるが。
ヘクター・ギボンズは前回も、そのまた前の戦闘もそうだった。事前に会場を調べ尽くし、策を練り、そして__『細工』をする。
彼からしてみれば至極当然の事だ。むしろ直前に来てその場に必死に順応しようとする奴らが理解できない。
彼を卑怯だと罵る奴もいる。しかしそうではないのだ。
そう彼を罵った奴は既に一人としてこの世にいない。卑怯だと罵り、そしてそのまま死亡した。
彼らはもうギボンズを糾弾する事は出来ない。 死人に口なし、死者に権利なしだ。
しょせん敗者の戯言に過ぎない。勝った者にどうあがいたところでその勝敗を覆す事は出来ない。
あがくとすれば勝利の為に、であろう。これまでギボンズはそうやって生きてきた。そしてこれからも。
ギボンズ(まずは…人払いからか)
ギボンズ「ちょっといいかい?」
オヤジ「…あ?なんだオメェは?こんなトコにスーツを着込んでお出ましとは」
ギボンズ「いやね、これからちょっとした用事があるんだ。だからすまないが
オヤジ「ヘッ!お高く留まりやがってよッ!オレはそういうヤツが一番気にくわねぇんだ!!」
ギボンズ「…そうか」
言わせてもらえば、ギボンズもこのオヤジが嫌いだった。礼儀に欠けた人間はこうも醜いものか。
それを表情に出す事もなく、ギボンズは手を懐に入れた。それを見て銃でも取り出すと思ったのか、オヤジはいきなり立ちあがった。
オヤジ「な、なんだ!やるってぇのか!?」
ギボンズ「違うよ、そうじゃない。 あなたには『これ』を受け取って欲しいんだ」
ギボンズが取り出したのは銃でも凶器でもなく__札束だった。厚みがわかる程の、札束。
オヤジ「!?」
ギボンズ「これを受け取ってこの酒場を出て欲しい。 他の酒場で飲み仲間にでも奢ってやってくれ。
どのくらい必要かな?一枚…二枚…三枚…」
オヤジ「いや、全部だ!全部くれ!!」
ギボンズ「……わかった。 ホラ、どうぞ」
オヤジ「ヘヘッ 気にくわねぇ奴だけどしょうがねぇ、貰ってやるよ」
そのままギボンズは札束を差し出した。もうオヤジは札束にしか眼がいってない。
醜い格好でフラフラとギボンズの方へ近づいてくる…一歩、二歩、三歩。 そこへ__
ギボンズ「……『フリーズ・フレイム』」
ドゴォ!
間抜けに近づいて来たオヤジへ、スタンドの一撃を加えた。
フリーズ・フレイム__能力は、『凍結』。殴られたオヤジも倒れる事なく、すぐさま凍結した。
ギボンズ「おいおい…大丈夫か? ホラ、札束は目の前にあるのに…ひょっとしていらないのかい?」
わざとらしく、凍結したオヤジに話しかける。もちろん返事が返ってくるはずもない。
そしてオヤジの首根っこをフリーズ・フレイムに掴ませた。
ギボンズ「そうか、いらないのか……なら、もう『出ていって』くれるかな?」
フリーズ・フレイムは ブンッ! とオヤジを店の外へと放り投げた。
そして凍結したオヤジは柔らかい地面へと突き刺さり__店を『出ていった』。
他の客を見回してみると、突然の出来事に皆呆然としている。
ギボンズ「__他にこの札束が欲しい人はいるかい? そこまで持ち合わせがないから、複数は勘弁してもらいたいのだが…」
客「…!? ヒィッ!」
言い終わる前に、他の客は逃げるように店を出ていった。これで人払いが済んだ。
カウンターに座り、一人残ったマスターに話しかける。
ギボンズ「事前に連絡が入っているとは思うが…ここを『舞台』として使わせてもらうよ」
マスター「は、はいぃ…」
ギボンズ「大丈夫さ、あなたに何かするつもりはない。 ただ店が壊れてしまうかもしれないから、これを修理代にでも使うと良い」
そう言って、ギボンズは先程の札束をカウンターに置いた。しかしマスターはそれを恐れる様に見つめ、絶対に手を付けようとはしなかった。
ギボンズ「…そうだ。対戦相手が来たら、『コレ』を飲ませてやってほしいんだが。店に置いてくれないか?」
そう言いながらウィスキーのボトルを札束の隣に置いた。蓋が既に空いたウィスキー。彼が持ちだすととても『危険』な物に見える。
ギボンズ「生憎私は酒に弱くてね。私は遠慮しておくが」
マスター「わ、分かりました…というか……その…」
ギボンズ「何だ?」
???「そいつは悪いね、残念ながら『俺も』アルコールに弱いんだ」
ギボンズ「……?まだ客が残っていたのか?」
マスター「イ、イエ…」
カウンターから振り向き、テーブル席を見渡すと奥に一人、ベストを着た青年が座っていた。
席を立ちそこに向かおうとすると対戦相手__脚蛮 醤がこちらを振り向き、目が合った。
ギボンズ「君か。驚いたな、こんな時間にもう着いているなんて」
ジャン「それはこちらのセリフでもあるな。…俺はここを出て行かなくて良かったのかい?」
ギボンズ「いいや、ここにいて大丈夫さ」
ジャン「そうか、それは安心した。 __失礼、名前を伺いたい」
ギボンズ「…ヘクター・ギボンズだ、よろしく、脚蛮 醤君」
ジャン「へぇ、こっちの名前は先に知ってたのか。読みを説明する手間が省けて助かった。
よろしく、ヘンリーさん。 アンタもコーヒー、飲むかい?」
ギボンズ「いいや、コーヒーも遠慮しておくよ」
ジャン「毒なんか盛ったりしてないから、安心してくれていいぜ?」
ギボンズ「……今は、いいよ。単に喉が渇いてないだけだ」
ジャン「そう?」
皮肉を込めて言ったつもりだったが、ギボンズは特に反応しなかった。_そして、一言。
ギボンズ「君に勝ってから、マスターに美味しいヤツを淹れてもらうとしよう」
ジャン「………ふーん」
……ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !
その一言で、雰囲気が一変した。 ジャンは席を立ち、ギボンズの前、酒場の中央にて対峙する。
ジャン「まだ時間があるが…どうする? 待つのも退屈だし」
ギボンズ「そうだね…いい『暇潰し』があるといいんだが」
ギボンズはそう言って酒場の全体を見渡した。 何か有効活用できる物がないか探す為に。
ヒビが入った壁、埃が枠に積もった窓、木で組まれた床。 __変哲もない、寂れた酒場だ。相手が先に来て細工した形跡も特に見当たらない。
そして最後に、ジャンを見た。胸ポケットにある黒地のハンカチに目が行く。
ギボンズ「…その、ハンカチ」
ジャン「…? これか?」
ギボンズ「そうだ。 そのハンカチを使って、『暇潰し』をしないか?」
ジャン「気になるな、どういった方法で?」
ギボンズ「…『ルーザールース』という物だ」
ジャン「……」
ギボンズ「お互いがハンカチの両端を指で摘み、 殴り合う。
そしてルールは至って単純。 離したら敗け だ。
文字通りルーザー(敗者)が名誉をルーズ(失う)する、という『暇潰し』さ」
ジャン「…いいね。面白そう、じゃないか」
ギボンズ「普通と違うとすれば、私達がスタンド使いだという事かな?
もちろん掴むのは私達だ。スタンドは自由にしていい。」
ジャン「オーケー、解った。 …その前に一つ」
ギボンズ「…何だい?」
ジャン「ここは店内、だぜ? その帽子、脱いだらどうだ…?」
ギボンズ「コレかい?」
ジャン「あぁ」
ギボンズ「……もし君が来ていなかったら待つ必要があったし、脱いだろう。
だが実際は予定より早くココを出る事になったんだ、一旦脱ぐ方が面倒なんじゃあないかな?」
ジャン「わかったよ。脱ぐ気はないって事か。 …じゃあ、やろうか?」
そう言いながらジャンは端を掴みハンカチをギボンズへ向けた。
ジャン(紳士的に見えてなかなか傲慢だな…自分に相当の自信があるんだろう)
それに答えギボンズは近付き、ハンカチの反対側の端を掴んだ。
ギボンズ(少々生意気な小僧だな。 身の程をわきまえてない…)
ジャン「…ところで」
ギボンズ「……何だ?」
ジャン「開始の合図みたいな物はあるのか?」
ギボンズ「さぁ? 強いて言えば私が掴んだ時点で『開始』なんだと思うのだが」
ジャン「…ッ!? 『ドッグ・マン・スター』!!」
ズオォッ!!
慌ててジャンは自身のスタンドを出し相手に突撃させる。2m程しかない超至近距離。混戦は必須であろう。
が、しかしそれに対してギボンズは冷静に、スタンドを出す訳でもなく__ハンカチを引っ張った。
ジャン「うぉっ!?」
手からすり抜けようとしたハンカチを慌てて追い、姿勢を崩してしまった。 そのスキを逃がさんとばかりにギボンズが攻める。
ギボンズ「『フリーズ・フレイム』…!!」
ジャン「ッ! ガード!!」
ボグゥ!
攻めに入っていたドッグ・マン・スターでフリーズ・フレイムの攻撃を無理に受け、ジャンは後ずさる。
ジャン側の攻撃は掠めた程度の不発に終わってしまった。開けられる距離をたっぷり開けた後、ギボンズは言う。
ギボンズ「フゥー…酷いじゃないか、醤君。 まさか不意打ちされるとは思ってもみなかったよ」
ジャン「…どっちがだ ……ッ!?」
ギボンズ「あぁ、早速私のスタンドの能力が効いて来たようだね」
ジャン(肩が……思うように動かねぇ…!)
先程フリーズ・フレイムの攻撃をガードしたのはドッグ・マン・スターの右肩。それに合わせてジャンの右肩が凍結し出してきた。
ジャン(部分的だがさっきオヤジにしてみせたのと同じ症状か…てことはデカいダメージを受けるとヤバいな…)
ギボンズ「そういえば君は、私の能力を先程盗み見たんだっけか…
酷いねぇ。卑怯なヤツだ。思わず殺してあげたくなるよ」
ジャン「…くっ!」
ズビュン!!
フリーズ・フレイムの拳が、ジャンに向かって何度も振りかざされる。
ゴッ! ドガガッ!!
それを全てドッグ・マン・スターの肩で受けきるが、鈍いダメージが体に浸透してきてしまう。
浸透したダメージは凍結へと繋がり、上腕部まで凍結が達してしまった。
ビキビキッ!
ジャン(マズい…このまま右腕がイッちまうと、ハンカチを掴み続ける事が……
何より主導権を握られてしまったのがマズい!こちらから切り出せるタイミングを探さないと)
ギボンズ「安心したまえ。右腕が全て凍結してしまえばハンカチを離す事も無くなるのだから。
私は君の死体からハンカチをむしり取る事に…するよッ!」
フリーズ・フレイムの連打を浴びせていたギボンズだが、今度はいきなりハンカチを横に引っ張った。
それに釣られて引き延ばされ、がら空きになった右腕へと直接フリーズ・フレイムのチョップを喰らわせようとするが…
ジャン(ここだッ!!)
ジャン「うおおぉぉぉ!!」
ギボンズ「なにッ!!」
ダダッ!!
横に引っ張られた勢いのまま、その方向へとジャンは倒れる様に進んだ。
予想外の動作にギボンズは必死でハンカチを掴む。…が、ジャンよりも体勢が不利なのは明白だ。
ジャン「ッオラァ!!」
ドシュゥ!!
ギボンズ「ぐゥッ!!」
ドッグ・マン・スターの蹴りをまともに喰らったギボンズは後ろに吹っ飛びそうになる。
しかしハンカチで繋がっている為、ジャンを巻き込み、ハンカチが極限に張る形で二人を支えた。
ビィィィィィィイン…!!
ジャン「盗み見る形でアンタのスタンド能力を見ちまって悪かったよ」
ギボンズ「……」
ジャン「だから今教えてやる。 俺の能力は 『同期』 だ。
だからこんな風にマークを付けた物を壊せばよォー…」
ドッグ・マン・スターは近くにあったテーブルに★マークを付け、そのまま勢いよくテーブルを叩き割った。
バキィ!
そしてテーブルが崩れ落ちると同時、ギボンズの目の前を『何か』が通り過ぎ、落下した。
……ハタリ。
ギボンズ「ッな…なにィィッ!?」
ジャン「やっぱりよォ~……室内じゃ帽子、脱ぐべきなんじゃねぇのかな? それが最低限の『礼儀』ってモンだ」
落ちたのは、テーブルと同じように真っ二つになった帽子だった。
丁度分かれ目のところに、★マークの亀裂が入っている。おそらく、先程のドッグ・マン・スターの攻撃が頭に掠ったせいで付いたのであろう。
ギボンズ「………こ…」
ジャン「でもそんなに『後退』してちゃ隠したくなるのも分からないでもない。…なぁ、ヘクターさん?」
ギボンズ「この小僧がァ!!!舐めやがってェェェ!!!!」
その一言に、ギボンズは爆発した。この道に入ってからここまで馬鹿にされた事はなかった。
今すぐ目の前のジャンをこの世から消さないと、どうやっても気が済まなかった。
ギボンズ「ぁぁぁああああブッ殺す!!ブッ殺してやるぞこのガキがああああああああああああああああああ!!!!!!」
ジャン(…来るッ)
ギボンズ「『フリーズ・フレイム』ッ!!」
フリーズ・フレイム『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
ジャン「『ドッグ・マン・スター』ッ!」
ドゴドゴドゴドゴッ!
激昂したギボンズをそのまま映したかの様に、フリーズ・フレイムの拳が弾幕の様に飛んでくる。
しかし冷静さを欠いたその攻撃は一直線で、酷く単調な物だった。
ジャン(これならどうにかッ…!)
ヒュッ!ヒュンッ!!
そのいくつかをかわし、いくつかをいなしながら弾幕を掻い潜り、穴を見つけようとする。
そして…
ジャン「そこだァ!!」
__ドゴッ!!
ドッグ・マン・スターのまだ正常に動く左拳が、フリーズ・フレイムの脇を捕えた。
だが一発入ったところで、ギボンズの激怒は止まる事がなかった。
ガシィッ!
逆にその腕をホールドされてしまい、ドッグ・マン・スターは身動きが取れなくなってしまった。
ジャン「クッ…」
ギボンズ「これしきの攻撃ィッ!まったく気にならんッ!!
それではこっちの腕も……頂くぞッ!!」
ボグゥ!!
フリーズ・フレイムの拳が、ホールドしたドッグ・マン・スターの左肩に突き刺さった。
今度は防御の体制もなっていなかったので、深く凍結が進行してしまった。
ビキビキビキビキ……
ジャン(ヤベェ…両腕が満足に動かな…)
ギボンズ「フー………これで安心して君を殺す事が出来る…」
ドッグ・マン・スターをフリーズ・フレイムにホールドさせたまま、ギボンズはジャンの前に立った。
途中で落ちた帽子を一度拾ったが、その破れ様を見て投げ捨ててしまう。
ギボンズ「…さて、どうしようか?ひと思いに殺してしまうのも面白味に欠ける。
君からも何か面白い死に方の提案はないのか?」
ジャン(何か…何かこの状況を打開できる物はないのか。 ……!)
ギボンズ「どうした?何か喋りたまえ。 口まで凍結が進行した訳でもあるまい」
ジャン(『コレ』なら…!)
ギボンズ「…つまらん。実につまらん。 君は自分の死に方に興味がないというのか?
もういい、この銃で頭を撃ち抜いてしまおうか…」ゴソ…
ジャン「!」
そう言いながらギボンズは懐に手を入れ、銃を取り出そうとする。
ジャンはその隙を逃さず、後ろに大きく距離を取った。
ギボンズ「ッ!」
ガシャン!
さっきまで二人の間でたわんでいたハンカチがいきなり引っ張られ、その拍子に銃を落としてしまう。
ギボンズ「小癪な…コレがある限り、逃げる事は出来んと言うのに!!」
ジャン「そうだ……『コレ』がある限り、な!」
ギボンズはハンカチを引き、ジャンを引き寄せようとする。
それにジャンは抵抗し、ハンカチは今にも破れそうな程引き延ばされた。
一方でホールドされていたドッグ・マン・スターだったが、下半身は全くのフリー。
一度床に足を付けると、もう一度その位置を思い切り踏み込んだ。 その勢いで『床』に穴が空き……
ピシッ! ビリビリビリィ!!
同時に『ハンカチ』に突然小さい穴が空き、それが切っ掛けとなり二人の力に耐える事が出来ずついに破れてしまった。
ギボンズ「!?」
ジャン「ッらああああ!」
いきなり支えを失ったせいでバランスを崩してしまったギボンズだが、対するジャンはそれが分かっていたかのように体勢を素早く立て直した。
そしてジャンは身動きが取れない自身のスタンドをよそにギボンズの方に駆け寄り、思い切り頭突きをかました。
ゴッ!
ジャンの頭突きはギボンズの鼻をへし折り、勢いに耐えかねて二人は床に倒れかかった。
ギボンズ「ガァッ!!」
ギボンズ(こいつ…!まさか同期でハンカチに穴を空けたのか!? だが、何時の間に…
そして腕が動かないからといって頭突きをしてくるとは!)
フリーズ・フレイムはドッグ・マン・スターを離し、ジャンの首根っこを掴んでギボンズから引き剥がした。
腕が上がらず、抵抗も出来ずにどう考えても状況は絶望的だというのに、笑みを浮かべてギボンズを見ている。
ジャン「へっ、鼻血が出て大層な男前になったじゃねぇかよ、ヘクターさんよ…?」ニヤニヤ
ギボンズ「黙れ」
ジャン「もちろんさっきのは俺の『同期』だぜ? 俺のドッグ・マン・スターは足でマーキングを付ける事も出来る」
ギボンズ「黙れ…」
ジャン「それがハンカチと同期して、床に空いた穴と同じ位置に穴ができたって訳だ」
ギボンズ「黙れ!もうお前の声など聞きたくない!!」
ジャン「…いつ、俺がハンカチにマーキングしたかわかってるかい?それは…
__ドゴォ!!!
ジャンが言い終る前にフリーズ・フレイムの拳がそれらの全てを吹き飛ばした。そして殴った勢いで壁に打ち付けられた。
全身が凍結したジャンは、その姿勢に固められたまま動く事はなかった。皮肉にも、凍結のお陰で絶命は免れたのだが。
しかしギボンズは落ちていた銃を拾い、ゆっくりとジャンの方へと近づいていく…
ギボンズ(もう『暇潰し』などどうでもよい! 今すぐ凍結を解除して、コイツの頭を撃ち抜いてやるッ!!)
そう思い銃口をジャンへと向けるが、ジャンがもたれかかっている壁、その上にある埃で汚れた窓ガラスを見て、思わず硬直してしまった。
そこに映っているのは自身の醜い顔だった。鼻が折れ、無様に血を流しているからではなく__殺意に満ち歪んでいるのがギボンズを硬直させた。
これではまるで、『あの男』と変わらないではないか。
殺意に満ち、自信に溺れた愚直な『あの男』に。
『あの男』の下につきながら誰よりも『あの男』を憎み、失脚につけこみ全てを我が物にしてやったというのに。
『あの男』から__そんな『くだらない』ものまで受け継いでしまったというのか。
ギボンズ「いかん、私らしくもない…こんなもの、所詮『暇潰し』ではないか……そう、暇…つぶ……!?」
正気に戻ったギボンズは、自分の手に千切れたハンカチがない事に気付いた。
先程倒れた場所を振り向くが、何もない。辺りを見渡すがそれらしきものは見つからない。
そして最後に、ジャンへ目がいった……
ジャンの左手が、中指を立てたまま凍結し、そして『何か』を掴んでいた。
取り上げてみると…それはやはり千切れたハンカチであった。右手には彼が元々掴んでいたハンカチがちゃんと残っている。
ギボンズ「いつの…間に…… まさかあの頭突きは近付いてコレを奪う為のフェイクだというのか!?」
ジャンの顔は、笑みを保ったまま凍結している。__勝利を確信した、笑み。
ギボンズ「そうか……私はまんまとしてやられたという訳か。」
もう一度ハンカチを見ると、黒い生地にうっすらと★のマークが見えた。
おそらく、彼はこれを『同期のトリガー』として最初から持っていたのであろう。それが逆に活躍した訳だ。
__完敗だ。怒りに目が眩んで勝負を忘れかけていた事も、相手の『仕掛け』に気が付かなかった事も。
ここで彼を殺してしまったら、ますます愚かな道化になり下がってしまうであろう。
ギボンズは銃を懐にしまい、鼻の位置を無理矢理戻して整え、顔をきれいに拭いた後、隅でうずくまっているマスターへ声をかけた。
ギボンズ「スマナイ、結局テーブルと床が壊れてしまったね。弁償はそれでしてくれ。
…あと、彼が目覚めたらここで一番高い酒を奢ってやってくれないか? 釣りは全部、貰ってくれていい」
返事を待たずに、ギボンズは店を後にした。これからの事を、考えながら。
ギボンズ(これでおそらく私も幹部失格だろう。 …だが、それでいい。
もう一度、イヤ、何度でも自分の力だけで這い上がってやろうじゃないか…!)
【スタンド名】
フリーズ・フレイム
【本体】
サー・ヘクター・ギボンズ
★★★ 勝者 ★★★
No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)
【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる
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最終更新:2022年04月24日 18:44