第05回トーナメント:決勝②




No.4718
【スタンド名】
スロー・アタック
【本体】
バド・ワイザー

【能力】
触れたものをペシャンコにしたり膨らませたりする


No.5002
【スタンド名】
ブレイク・フリー
【本体】
相羽 道人(アイバ ミチト)

【能力】
触れたものの「束縛」を解放させる




スロー・アタック vs ブレイク・フリー

【STAGE:橋の上】◆aqlrDxpX0s




――――某日、午前3時。


しんと静まりかえった山奥の田舎にバイクのエンジン音が鈍く鳴り響く。
道中はひとつの対向車もなく、まばらにあった民家にはどれも明かりがついていなかった。
この真夜中、皆寝静まっている頃であると考えるのが当然なのだが、
この大会の異質な雰囲気を考えるならば、別に理由があるのではとも思ってしまう。

山奥のほうへ向かって川沿いの峠道を走り抜けていくと、目的地が見えてきた。
広い川にかかった、全長50メートルほどのコンクリートの橋。
見たところかなり古くなっているようで、そのさらに奥にはまったく錆のない新しい橋がかかっている。

その2つの橋の……古くなっているほうの橋が、今回の戦いの舞台として指定された場所だった。


バド「また橋かよ……前の戦いが思い出されちまうな……」

林のすき間からその橋が見えたところで、『スロー・アタック』のスタンド使い『バド・ワイザー』はバイクを止めた。

バドがそのまま橋へ向かわなかったのは、橋に仕掛けられた罠……
あるいは、敵が遠距離攻撃を得意とするスタンド使いではないかということを警戒したからだ。

バドは1回戦、大勢の観衆の前で戦った。
このとき彼は、この大会は戦いを観る観客のための興行のようなものだと考えていた。
しかし、2回戦では今日と同じく真夜中に、観衆もいない中、開始の合図もなく戦いは始まった。

あの戦いの対戦相手の鬼気迫る表情を彼は今でも鮮明に思い出せる。
少なくともあの戦いは、エンターテイメントではない、命がけの真剣勝負だった。

辛くも勝利した彼は知ったのだ。
この大会はルールも卑怯も無い。
この戦いは「真の強者を決める」戦いであると……


バド「……………橋の上には人影はなし、橋の向こう側も……見える限りでは誰もいないし、怪しいものもないな。」

普段はよくおちゃらけているバドだったが、このときは真剣な表情で双眼鏡をのぞき、周囲を警戒していた。



だがそんな彼の警戒心も、すぐにフイになってしまった。

ブロロロロロロ……

バド「ん、車?」

バドのバイクの後ろを、一台の車が通り過ぎていき、戦いの舞台である橋のそばで停まった。


バド「………………あれは、タクシーか?」

こんな真夜中に、こんな山奥の田舎で、しかもまわりに何もない橋の前で停まるということは、
その乗客がこの戦いの対戦相手ということ以外には、妥当な理由がバドには見つからなかった。

バド「………むぅ、とりあえず向かうか。」




戦いの舞台である橋の前、タクシーの車内で、『ブレイク・フリー』のスタンド使い『相羽道人(アイバ ミチト)』は困惑した表情でタクシーの運転手と話していた。

運転手「ニィちゃん、こんな真夜中によぉ、こんな遠くまで来させといて、『金がねー』だなんて冗談じゃないぜ!!」
ミチト「だ、だってふもとの駅からでも、せいぜい2000円くらいだと思ってたんだもの……タクシーなんて普段乗らないし……」
運転手「だぁーっ! これだから社会のしくみをしらねえガキは嫌なんだ!!」
ミチト「ごめんなさい……」

バド「なあ、なにやってんだ?」

バドはタクシーの窓をノックし、中にいるミチトに話しかけた。

ミチト「ああっ! お願いします! お金立て替えてもらえませんか!?」



バド(…………まさかこの小僧が、俺の対戦相手なのか? 俺と同じく、これまで勝ち進んできた……)

「真の強者を決める真剣勝負」……この大会に対する彼の仮説が早くも崩れかけていた。


エンジンをうならせて去っていくタクシーを尻目に、二人は並んで橋の中央へ歩いていった。
お互いに示し合わせたわけでもなく、自然とそのように行動していた。


――後は、お二人で勝敗を決定して下さい。どんな方法であっても構いません――


ミチトは1回戦で会ったこの大会の関係者……立会人の言葉を思い出した。

勝敗を決めるのはあくまで対戦者同士。
方法は問わず、開始の合図もない。


今すでに二人は戦いの舞台の上におり、どちらが先手を打っても文句を言われる筋合いはない。
ミチトとバドは少しだけ距離を開けて、同じ方向に向かってゆっくりと歩き続けている。
どちらが先に仕掛けても、対処できるだけの距離だ。

それは相撲の立会いに似ていた。
勝負の始まりは行司の掛け声で始まるのではなく、「お互いの呼吸が合ったとき」である。
互いが戦いの開始に合意した瞬間、ぶつかり合うのだ。


バドは表情を変えぬまま、ゆっくりと歩を進めていった。
橋に足をかける前の一悶着に肩透かしをくらいながらも、彼の勝負の熱は冷めていなかった。
対戦相手は見た目はごくふつうの男子高校生だが、自分と同じくここまで勝ち進んできた一人の戦士だ。
自分と並んで歩く彼からは先ほどの情けなさを払拭するような闘志を感じる。
油断すれば、圧倒される。それをバドは理解していた。


しばらく橋をわたっていくと、橋の中央の両端に立つ柱が近づいてきた。

ミチト(制限時間いっぱい、待ったなし……)


二人の足が、橋の中央に同時に到達した瞬間……

ミチト「『ブレイク・フリィィィィィィーーー』!!!」

バド「『スロー・アタァァァァァック』!!!」


互いに向き合い、スタンドを繰り出してラッシュを放つ!!


バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!!
ズババババババババババババババババババババババババババババッ!!

ブレイク・フリーよりもスロー・アタックの攻撃のほうが若干速いのだが、
一つ一つのパンチの重さはブレイク・フリーが勝っており、
拮抗しているというよりは、ブレイク・フリーの攻撃をスロー・アタックが捌いているという状況だった。

バド(く……スロー・アタックで相手の腕を掴み、能力を発動することはできそうだが、その間に一撃くらっちまうかもしれねえ……)

ミチト「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

バド(相手は高揚している……スキはありそうだが、パンチの威力がコワいな。賭けに出るか……!?)


バド「いや!」バシッ

バドはミチトのブレイク・フリーのパンチの衝撃を利用して後方へ跳ぶ。
ミチトと距離を置き、すかさずバドがポケットから取り出したのは、鋼鉄製の『パチンコ玉』だった。

しかしこの深夜の暗い中、ミチトはバドの取り出したパチンコ玉に気づくことは出来ない。
昂った気持ちもあり、ミチトは自分から離れたバドにすぐさま駆け寄った。

バドは向かってくるミチトに臆することなく、手にしたパチンコ玉をスロー・アタックの能力によって膨らませた。
そこではじめてミチトはバドが手にしているものに気づく。
彼にとっては、それは「鉄球」に見えただろう。その球はわずかな月明かりを反射し、美しく光っていた。

しかし、それはただの鉄球ではなかった。
バドは膨らませたパチンコ玉をミチトに向かって放り投げ、「破裂」させた。

バァン!

ミチト「うわあっ!!」

バドは膨らませたパチンコ玉に工夫を凝らした。
空気を込める場所をズラして場所による厚みを変え、破裂したパチンコ玉の破片がミチトのほうにしか飛ばないように調整したのだ。
バドは両手交互にパチンコ玉を次々と取り出して膨らませ、ミチトに向かって「パチンコ玉の炸裂弾」を投げ続けた。


バン!  バァン!!

ミチト(くそッ、破片が服に食い込んで痛い……厚い学ランのおかげで傷は浅いけど、こんなたくさんの数を叩き込まれたら……)


バッ!

ミチトはたまらずバドから離れた。


ミチト「ハァ………ハァ………」

距離をおき、息をきらすミチトにバドが話しかけた。


バド「なかなか……威勢があるじゃないか。だがそれだけじゃ、真の強者にはなれねえぜ?」
ミチト「真の強者……?」
バド「そうだ、この戦いは……真の強者を決めるためだと、俺は思ってる。」

ミチト「ほんとに、そうなのかな……?」
バド「まあ俺の思い込みだけどよ、けっこういいセンいってるんじゃねえかな?
   だってよ、この戦いは必ず誰かが見てるってワケでもない、勝てば何かもらえるってワケでもない。」
ミチト「………………」
バド「だとしたらあるのは、勝利という事実だけだ。
   だがそれだけだからこそ、この『何でもアリ』という戦いだからこそ、『勝利』が、『真の強者』の証明たり得るものとなるんじゃねえか!?」

ミチト「なるほどね……だけど、僕はちょっと違うかな。」
バド「……何が?」
ミチト「得られるものは勝利だけじゃない……気がする。」


ミチト「僕は戦うたびに、僕のスタンド能力の底知れなさに触れていくんだ……。」
バド「………………?」

バド(何だ……こいつ、タクシーの時とも、さっきとも様子が違うぞ?)

バドが異様に思ったのは、ミチトの言葉よりも、その表情だった。
タクシーで見たおっちょこちょいで純真な雰囲気とも、
戦いの直前に感じた熱き闘志とも異なる………

いわば彼には似つかわしくない、暗く濁ったような笑顔だ。


ドドドドドドドドドドドドドドド……


ミチト「先に教えておくよ、僕の能力……それは、『束縛を解放する能力』だ。」
バド「………………!?」
ミチト「別に嘘をついて撹乱させようっていうつもりじゃないよ。知ったところで対処しようのない、『底知れぬ能力』なんだから。」

ミチト「『束縛を解放する』こと……その能力に、それこそ束縛がないことを僕は知ったんだ。
    水を束縛するスプリンクラーを解放し、腕の可動域を狭める関節を解放し、固く閉ざされた扉を解放した。
    僕の能力なら……眠っている機械をも解放することもできるだろうね。
    そして能力はモノにとどまらない。ヒトの心だって……解放することができるんだ。」
バド「おい、どうした?夜のテンションで頭おかしくなっちまったのか?」
ミチト「あははははははははははははははははははぁぁ!!!!」
バド「!?」

ミチトは両手を広げ高らかに笑った。
その狂気ともいえる笑い声は、用心棒として生きてきたバドにさえ恐怖を感じさせた。

ミチト「僕にとってこの戦いは勝利を得るためだけじゃない。僕自身の才能を……未来を見出してくれる戦いなんだ!
    まさに『未知との遭遇』……それがこの戦いの意味なんだ!」
バド(……こりゃあ、中高生にありがちな妄想癖……それだけじゃねえ。スタンドっつー力を手にしたことで、それが現実になっちまってるからな。
   自分の手に余るほどの強大な力を得た者の行く末は……どんなところのどんなヤツでも同じか。)

ミチト「きっと僕の能力なら………『僕自身の束縛』すら、解き放ってくれるよ。」
バド「…………」
ミチト「こないだ、マンガを読んで知ったことなんだけどさ、『火事場の馬鹿力』って知ってるかな、外人さんは。」

バドは両手にパチンコ玉を持ち、二つとも膨らませた。

ミチト「人間は普段……どれだけ全力のつもりでも8割程度しか力が出せないんだって。
    つまり、人間には常に余力が2割ほど残ってるってことだ。」

ミチト「『火事場の馬鹿力』っていうのは、この余力をも引き出して100%の力を出すこと……
    リミッターを解放する条件は、叫ぶことあるいはイメージすること、生命の危機を感じることだ。」

バド(おいおいマジかよ、こいつまさか……)

ミチト「僕は考えたんだ、このリミッターを僕の『ブレイク・フリー』の能力によって解放できないかってね!」


そういうとミチトは自身のスタンド……ブレイク・フリーに自らの頭を掴ませた。
直後、ミチトの体はビクンと跳ね上がり、明らかに彼の中の何かが解き放たれたのをバドは感じ取った。

バド「くッ………この馬鹿野郎ッ!!」


バドは両手に持っていた膨らませたパチンコ玉をミチトへ投げた。
先ほどよりも距離は空いていたため、細工は施さなかった。
パチンコ玉はミチトの目前まで向かっていく。

今度の破裂はミチトを攻撃するためというより……ミチトを止めることが狙いだった。


バァン!!

1つのパチンコ玉を破裂させ、破片が飛び散る。だが……


ミチト「ダメだよ……遅すぎるよ……!」
目にも留まらぬ速さでミチトはその破片をかいくぐり、バドに向かっていった。


バァン!!

2つ目のパチンコ玉を破裂させるも、ミチトはそれをかわし、バドとの距離をさらにつめていった。


ミチト「そういえば……ヒトは死ぬ直前、すべての動きがゆっくりに見えるってのもあったっけ……。アレもいわば火事場の馬鹿力だったのかな?」

そう言い終わる前に、ミチトはバドの目前まで迫っていた。


ミチト「『ブレイク・フリィィィィィィ』!!!」
バド「くっ、防御しろ『スロー・アタック』!!!」

ババババババババババババババババババババババババッッ!!


ブレイク・フリーの巨躯から放たれる高速ラッシュがバドを襲った。
はじめのラッシュとは違ってスピードはスロー・アタックを上回り、パワーはさらに増していた。

バド「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

かろうじて攻撃のほとんどを捌いていたものの、ブレイク・フリーの攻撃はすこしずつバドの体にダメージを蓄積させていった。


バゴッ!!

そして、ブレイク・フリーの拳がスロー・アタックの腹を突く。

バド「ぐ………ふッ!!」


バドはその場に倒れこみ、ブレイク・フリーは攻撃をやめた。


ミチト「ははは……すごい、すごいよ! もっと……もっと、この能力を知りたい!! 奥底まで!!」
バド「……………」
ミチト「でも……今日はもう十分かな。あなたのその、『何かを膨らませる』能力では僕にはかなわないようだし。」

バドは橋に手をつき、身を起こした。

ミチト「……勝負はついたろうし、実験でもしてみようかな。たとえば……僕の能力で、あなたの体のすべての関節を解放してタコ人間みたいにするとか?
    あはははははははははははははははははは!!」

バド「まだ………勝負はついてねえぜっ……!」


ビキ……

              パキ………

ミチト「…………何の音?」

バド「橋が軋む音だよ。………さすがにスロー・アタックといえど、橋全部をコーティングすることはできない。
   ただし、平らな橋の上なら、ある程度広く膜を張れたなら、一部分だけでも『ペシャンコ』にすることはできる。時間はかかるがな………」


バギッ!    バギッ!!

ミチト「何をするつもり………まさか!」

バド「ああ、そのまさかだ! スロー・アタック、橋をぶっ壊せ!!」


バゴォン!!

バドが叫んだ直後、バドの周囲のコンクリートがへこんで砕け、そのヒビが橋の両端まで走った。

バゴォォン!!


足元のヒビと大きなゆれにミチトはバランスを崩す。
しかしその直後、立つことどころか、足元の感触すら失われていくのにミチトは気づいた。

ミチト「橋が……崩れ落ちる!?」


ガラガラガラガラガラガラ!!

大きな音と砂埃をあげて橋が崩れていった。
厳密に言うと崩れたのは二人のたつ周囲だけだったが、その部分の橋は大小のガレキとなって崩れ、二人とともに6メートルほど下の川に落ちていくのは間違いなかった。

ミチト「『ブレイク・フリィィィィッッ』!!」

ミチトは再び脳のリミッターを解放し、周囲の動きに集中した。
バドがやみくもに橋を壊したはずがない。
なんらかの意図でもって、自分ごと橋を落としたに違いない。

ミチトが自分より下方にいたバドを見ると、バドはすでに次の行動を取っていた。
先ほど使っていたパチンコ玉の炸裂弾……それを手に持っていた。

しかし、その大きさが先ほどとは倍以上も違っていた。
先ほどのものがソフトボール大程度なら、今度のはバスケットボール……その2個分の直径はあるほどの大きさだった。


ミチト(あれをまた……破裂させるつもりなのか。あの大きさの炸裂弾……さすがにかわすのはむずかしいかもね。なら……!)

ミチトは自分の体のそばを落ちていく手ごろなガレキを手に取った。
自分の行動もゆっくりだが、落ち着いて行動することはできた。

ミチト(その炸裂弾は、風船みたいに破裂するんだろ……? だったら、ヤツに持たせたままこのガレキを当てれば……)

そして、ミチトは手に取ったガレキをバドの巨大な炸裂弾に向かって投げた。
ミチトにとって見れば非常にゆっくりとだが、ガレキは確実にその球に向かっていた。

ミチト(………………?)


ミチトがガレキを投げた直後……ミチトはある不審なものを見た。
ゆっくりとバドに向かっていくガレキのむこうで、バドの口元が歪んでいたのを……


バァン!!

ガレキが巨大なパチンコ玉に突き刺さり、破裂した。
破裂したパチンコ玉……それを持っていたバドは無事ではないはずだ。


だが……ミチトはある思い違いをしていたのだ。
バドの持っていた巨大なパチンコ玉……それは炸裂弾というより……煙幕だったのだ。


ブアッ!

巨大なパチンコ玉が破裂し中から出てきたものは、細かなアスファルトの破片や、砂埃だった。
それらは破裂とともに舞い散り、バドの姿を隠した。
パチンコ玉の破片は、大きく膨らんだことによりかなり薄くなっていたため、それはバドの体を深く傷つけることはなかった。
そしてその破裂は周囲の空気をも押し広げ、川に水しぶきを上げさせた。

すなわち、ミチトは視界を舞う砂埃と水しぶきの音によりバドの姿を見失ってしまったのだ。


バシャァァアン!!

そして、ミチト自身の体も川に落ち、同時にブレイク・フリーの能力も解除された。
意図的なリミッターの解除は、脳に疲労をもたらすため、長時間は使うことが出来なかったのだ。


ミチト「ぷはぁっ!! ……あの男はどこに………!!」

ゴオオオオオオオオオオ…………

川の水深はそれほど深くなく、胸辺りの水面の高さで足をつくことができた。
まだ周囲は埃が舞い、川は無数のガレキが落ちたことで土が巻き上げられ、濁っていた。

ミチト「く………! どこだ、どこにいるんだ!! こんなことで……僕が負けるはずがない!
    僕の能力は……未知の可能性を持っているんだ!」

どこにいるかわからないバドに向け、ミチトは叫んだ。
そして、その声に応えるがごとく、バドの声がした。

バド「未知の可能性………? おまえ、自分の力にうぬぼれちゃいけねえぜ。」

ミチト「どこだ、出てこい!!」

バド「こっちだ、おまえの後ろ。」

ミチト「!!」バッ


ミチトが後方を振り返ると、そこには確かにバドの姿があった。
ただし……その手にはリボルバーが握られていた。


バァン!!








ミチト「………………あ……」


銃弾はミチトの頬をかすめ、赤い線をひいた。
そしてその直後、彼の顔からあの暗い笑顔は消えていた。

ミチトにとって非現実的なもの……日本では見ることのかなわない銃が、その銃弾が彼を正気に引き戻したのだ。
死の恐怖と、傷の痛みと、水の冷たさが彼の目を覚ました。


バド「……まずは、おまえの敗因を教えておいてやるよ。それは、自らの能力の追求に溺れるあまり、俺の能力に関心を持たなかったことだ。
   俺の能力は『膨らませる』だけじゃあない、その前には『吸い込む』というプロセスがある。
   今の煙幕も、パチンコ玉を持っていないほうの手から周囲の砂埃を集めていたんだ。」

ミチト「…………………」

ミチトは川の水に浸かったまま、茫然自失でいた。
ついさっきまでの自分の言動が、本当に自分のものだと信じられなかったのだ。

バド「だが……そんなことよりも、おまえに言っておくべきことがある。
   さっきまでのおまえは……おそらくは『コンバット・ハイ』という精神異常の状態にあった。
   自らの力に溺れ、それを発揮することに心を奪われてしまうんだ。確かに一時的に強い力を得ることができるが、その末路は……いわなくてもわかるだろう。」

ミチト「…………………」

バド「俺はこれまで、そんなヤツを何人も見てきた。……おまえはまだ若い。若すぎる。力を追求しようなんて、考えるな。」

バドはそういうとすぐに川からあがった。
ミチトは川の中で立ったまま、泣きじゃくっていた。

ミチト「うっ…………ううっ……」

バド「あーあー、情けねえなあ。」

ミチト「ああ゛っ…………あ゛りがど…う……ございまじだ………ッ!」

バド「あ、ありがとうだぁ!? そこはごめんなさいだろうが!」

ミチト「だ、だって………ま、負けても、得られることって、あるんですね……。」

バド「………あ、あー。くっそ、さっきの破裂で耳がキンキン鳴っててなんも聞こえねーやー。」

ミチト「いろ゛いろっ……! 教えでくれで……ありがど……ございます……!!」


バド「………ちっ、すっかりタクシーんときと同じ調子になってやがる……」


『真の強者を決める』……この戦いに対して彼が立てた仮説は、彼の中では証明されなかった。
ただし、ひとりの若者を導いたことは確かであり、勝利以外の価値をバド自身も感じていた……。

★★★ 勝者 ★★★

No.4718
【スタンド名】
スロー・アタック
【本体】
バド・ワイザー

【能力】
触れたものをペシャンコにしたり膨らませたりする








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最終更新:2022年04月24日 19:28