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第06回トーナメント:予選④




No.5646
【スタンド名】
ファイヤー・アンド・ザ・サッド
【本体】
アルスーラ・アーリッサ

【能力】
本体が作り出した影を超高温にする


No.4569
【スタンド名】
フロム・ヘル・ガーデン
【本体】
厚狭田 亨児(アサダ キョウジ)

【能力】
触れたものを「強化」する




ファイヤー・アンド・ザ・サッド vs フロム・ヘル・ガーデン

【STAGE:イルミネーションの残る商店街】◆/R99hGowSU





「大丈夫ですよ……。私も一応『プロ』ですからね」

12月27日某所、冬の一大イベントであるクリスマスも終わり、名残を惜しむかのようにまばらなイルミネーションが妖しく煌めく商店街。
一方で商店街に並ぶ店々にはただ一つとして明かりは灯っておらず、人の気配は全くと言っていいほど感じられない。

その異様な雰囲気を醸し出す空間の入り口、商店街のアーチの陰に、一人の少女が携帯を耳に当て佇んでいた。

「ええ、死なない程度には……」

目の覚めるような赤いコートを翻して商店街のアーチをくぐる、端正な顔立ちの彼女の名は『アルスーラ』といった。

イタリアの暗黒街でその名を知らぬ者はいない有力マフィア『パッショーネ』の暗殺チームのメンバーであり、任務以外ではあまり外に出ることがない彼女がこの場所を訪れた理由。

それは三日前に彼女のもとに届けられた『招待状』であった。
問題なのは『招待状』ではなく、パッショーネの人間ですら知らなかった彼女の住処にこの『招待状』が届いたこと。
これは暗殺者としての彼女の沽券に関わることである。

「はい、失礼します」

パタンと携帯を折り畳み、改めて目の前の商店街を見渡す。ぐんぐんと厚みを増す灰色の雲からは牡丹雪がちらついてきている。

今日、私はこの場所、招待状で指示された戦いに臨むためボスから特別に『休暇』を頂いた。
その恩に報いるためにも、手ぶらでは帰られない。
必ずや満足していただける『土産』を持ってパッショーネに、私の居場所に帰ろう。

強い決意を胸に秘め、私は戦いの舞台へとその一歩目を踏み出した。


「しっかし寒みィーな、コンチクショウ……」

雪の降りしきる商店街を闊歩しながら、厚狭田亨児(アサダ キョウジ)は呟いた。

厚狭田の頭上、アーケードの天井に飾り付けられたイルミネーションがチカチカと点灯する。
電飾を取り付けるためか、それとも他の理由があるのか……天井には所々に穴が空いており、そこから雪が舞い込んでくるのだ。

「これじゃあアーケードの意味がねェじゃねぇか。穴空けた奴ァ、アホ丸出しだな」

……こんな真冬に半袖短パンのこの男も充分アホ丸出しなのだが。

この男、厚狭田亨児の人生には常に『戦い』が付きまとう。
彼は七歳の時、初めて『戦い』を経験した。
母親と一緒に隣の家へお裾分けを持って行こうとして、そこで飼われていた番犬に襲われたのだ。
この時厚狭田は右手と背中に噛み付かれ大怪我を負い病院に運ばれたのだが、番犬の方はブチ切れた厚狭田に喉を潰され『即死』したのである。

『戦いあってこそ我あり』

今日、この場所に訪れたのはその信念を貫くため、送られてきた『招待状』に書かれたスタンド使い同士で戦うトーナメントに参加するためだ。

「さァーて、俺にぶちのめされる対戦相手はどこにいやがんだ?
……あ?」

握った拳をパキポキと鳴らしながら歩く厚狭田の前方、路地裏の入り口に一人の女が立っていた。
肩や頭にうっすらと雪が積もっているのを見ると、結構な時間そこに立っていたようだ。

「ありャ立ちんぼか。こんな雪ん中ご苦労なこった」

取り立てて気にすることもせず、厚狭田は女の横を通り過ぎようとした。


「ちょっと待って、お兄さん」

舞い落ちる雪に消え入りそうなか細い声で、少女は通り過ぎようとする厚狭田に声をかけた。

俺はここで初めて少女の顔を目の当たりにした。
どうやら日本人では無いらしい。
年はまだ未成年だろう、顔立ちには幾分幼さが残っている……ただ、その眼だけは違う。
孤独や絶望を嫌というほど味わってきた人間の眼をしている……

「あァ、すまんが嬢ちゃん、俺ァよォ~~
今日は大事なデートがあるんだよなァ~~」

「そんなこと言わないで……」

少女は厚狭田の左腕をギュッと掴むと、一瞬ニヤっとしてこう呟いた。

「『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』……」

バジュウウウウッ!!

「うおおぉおぉおおお!?」

俺は今、少女に掴まれた部分に尋常ではない『熱』を感じているッ!

「クソがッ!『フロム・ヘル・ガーデン』ッ!!」

厚狭田が咄嗟にその名を叫ぶと、彼の体から彼の分身たる『異能』が剥離する。
紫色のぶよぶよした肉体には顔と腕が付いておらず、無数の突起物と体を真っ二つに裂くような口が牙を剥き出しにしている。

「ゴオラァッ!」

厚狭田のFHGの口がガバリと開き、自らの右腕を掴んだアルスーラの腕にかぶりつこうと突進する。

「チッ……」

アルスーラは厚狭田の右腕から手を離し、バックステップで3m程後退した。


「随分といきなりの歓迎じゃねえか、ああ?」

「私はそういう人間なの……」

少女に掴まれた部分は黒く変色していて、プスプスと煙をくゆらせている。
コイツは『熱』のスタンドだ。掴んだ部分を加熱する能力か?
いや、そんなことよりも重要なのはあの少女がスタンド使いだということッ!
ということは……

「テメェが俺の対戦相手ッーつーことかよ!」

「クスクス……。今頃なの?」

アルスーラは無邪気に笑う。そして確信する。

(この男は商店街に誰もいなかったことに気付いていなかった。
気付いていたなら私の姿を見た時点である程度警戒するはず……
つまり……)

アルスーラは姿勢を低めると、右脚を蹴り出して厚狭田へと肉薄するッ!

「来るかッ!」

少女のスタンドは恐らく纏衣装着型。
さっきまで着ていた赤いコートは、赤いバトルスーツのような装甲へと変貌している。
FHGの噛み付き攻撃を避けた時のバックステップを見ても、身体能力が強化されているのは明らかだ。
その少女の攻撃を避けるには……

「『強化』したサンダルを使っての高速移動ッ!!」

ドンッ!

(スタンドを出してから40秒は経っていた!右脚だけを使った回避でも女の攻撃を避けるのは容易ッ!)

「やるわね……」

私のタックルはあの男に易々と躱されたが、しかしこれで確信を確認することができた。

(やっぱり……あの男は洞察力に欠ける部分がある。
それに私の攻撃を避ける時に言った『強化』という言葉……
まさか自分からスタンド能力をバラしてくれるなんて)

アルスーラはすぐさま厚狭田の方へ向き直り、再度タックルを試みる。


「何度やっても同じだぜッ!」

ドンッ!

今度は左脚を使っての回避行動。
アルスーラの攻撃を後方に避ける……

「クスクス……やっぱり、あなた気付いてなかったのね」

「あ?何がだよ?」

「上を見てみなさい……」

厚狭田はすぐさま頭上を見上げる。丁度、アーケードの天井に空いた穴の下を通過する所だ。

その瞬間ッ!

ジュアアアアアアアッ!!

「グアアァアァアア~~ッ!?」

全身を焦がす『熱』が厚狭田に襲い掛かる。
天井の穴を通り過ぎるまで、ほんのコンマ2秒程の出来事ではあったが厚狭田の全身を焼くには充分な時間であった。

「これは……なんだ……」

息も絶え絶えで厚狭田はアルスーラに問い掛ける。

「もう満身創痍のようだし、私の能力ぐらいは教えてあげるわ。
あなたは私の影に焼かれたのよ」

「影だと……?」

「影を超高温にする能力。それは私が能力を解除するまで持続する。
あなたがここに来る前に、アーケードの穴の上から影を落としていたの。
スタンドヴィジョンを解除したからといって、能力まで解除される訳じゃないからね」

成る程、それなら納得がいく。
穴の下にある地面が黒く変色しているのは、影で焼かれていたからか。
だが、まだ負けた訳じゃねえ。
俺も伊達に場数を踏んでいる訳じゃない。

「余裕綽々で解説してくれたのはありがてェが、勝負はまだ終わっちゃねェぜ!」

厚狭田は懐からリヴォルヴァーを取り出すと、アルスーラ目掛けて発砲する。

「こんな銃弾、FATSで弾けないものじゃあないわ!
例えあなたのスタンドで『強化』されているとしてもッ!」


FATSの真の強さはその強度にある。
一度、任務の最中に高層ビルの28階から落下したことがあるが、その時も体には掠り傷一つ付かなかったのである。
おそらくミサイルの直撃を受けても無傷で済むだろう。

迫り来る銃弾を左手で受け流そうとするアルスーラだったが……

「甘いぜ、嬢ちゃん」

「え?」

銃弾が左手に触れた瞬間、アルスーラは奇妙な光景を目の当たりにした。
左手が、受け止めた銃弾の回転と同じ方向にゆっくりと回転し、その回転は勢いを増しながら左腕全体へと伝播していく……

「え?え?え?」

そして銃弾を軸にして発生した回転による遠心力により、アルスーラの左腕の肉が吹き飛ぶ―――

グシャアアァアアッ!!

「いだあぁぁあああッ!!」

一瞬にして爆ぜた右腕を抑えながら、アルスーラは絶叫しその場に崩れ落ちる。
その様子を見て、厚狭田はニヤリと笑みを浮かべた。

「嬢ちゃん、テメェ何人か人を殺してきてるな?
だが、自分が殺されそうになったことはねえだろ」

「うう……いだいよぉ……」

アルスーラに厚狭田の言葉を耳に入れる余裕はなかった。
腕が吹き飛んだ痛みと自らのスタンドを破られたショックは、まだ少女の彼女には計り知れない負担となる。

「『スタンドヴィジョンを解除したからといって、能力まで解除される訳じゃない』か。
その通りだぜ、嬢ちゃん。
今、俺の撃ったリヴォルヴァーの銃弾は、招待状が届いたその日から能力をかけ続けてきた代物だ」

「うああ……」

「俺のスタンドは力や速さにちと欠けるんだが、持続力には自慢があるんだよなァ」

厚狭田はリヴォルヴァーを今一度、泣きじゃくるアルスーラへと向ける。

「これで終わりだぜ……」


「あああ……ああ、あーあ」

すると突然、アルスーラが泣き止んだ。すっきりとした表情で厚狭田の方へ視線を向ける。
厚狭田も一瞬怪訝な表情を作るも、すぐさまリヴォルヴァーを構え直す。

「良かったなあ……」

「どうした?痛みで頭がイカレたのか?」

「いや、この商店街に自分達しか居なくて本当に良かったなぁって思ったの」

バッ!

アルスーラは俊敏な動きでその場から近くにあったパン屋の方へと移動する。

「アレで動けるのかッ!ただの女だとは思っちゃいなかったがッ!」

厚狭田もすぐさまリヴォルヴァーを発砲するが、アルスーラの尋常ではない動きに付いていけず、悉く躱されていく。
そのまま、アルスーラはパン屋の外壁を伝いアーケードに空いた穴をくぐり抜けへ天井の上に降り立った。

「そんな所に立ってどうするつもりだ、俺の下に影でも落とそうってのか?」

「綺麗ね……このイルミネーション……」

「おいおい無視かよ」

リヴォルヴァーを天井にいる少女へと構える。
何を考えてるのかは知らねぇが、これで本当に終わりだ。

「久々に楽しかったぜ、嬢ちゃん」

「ええ、私もよ」

その時、厚狭田はアルスーラが『何か』を切ったように見えた。

「さようなら」

バチンッ!

激しい電撃音と共に、商店街を彩っていたイルミネーションが一斉に消灯する!

「あ……」

ジュウウウゥゥウウッ!!!

―――――――---………


アルスーラはスタンドを解除する。
全てを焼き尽くした『熱』は完全に消え去り、後には様々な物が混ざって焼け焦げる臭いと、巨大な炭のようになり果てた商店街のみが残った。

あの時、アルスーラが切った物、それは「イルミネーションのケーブル」だった。
これによって商店街のイルミネーションは全て消え、発生した影によって商店街ごと超高温にしたのだ。


「逃げ場はなかった。あんな男にこんなに手こずるなんて……『プロ』失格ね」

左腕の出血を『熱』で焼き止血しつつ、フラフラと穴の方へ歩く。

「まあ、跡形もないでしょうね……」

ゆっくりと穴の下を覗き込む。
その視線の先にあったものは……

「な……ッ!」

「なんですってッ!?」

ギャルルルルルッ!

アルスーラは今、二つの光景を前に驚愕している。
一つは、自分の右脚にめり込んでいく『銃弾』。左手で受け止めた時と同じように、遠心力が肉を弾き飛ばしていく。
そしてもう一つは、焼け焦げたリーゼントを指で弾きながらこちらを見上げる『厚狭田亨児』の姿だった。

「ああああああああッ!!」

右脚の肉が全て弾け飛び、バランスを崩したアルスーラは穴から商店街へと落下した。

「おっと危ねェ」

地面に衝突するその瞬間、厚狭田のスタンドがアルスーラの体をその口でキャッチ、すぐさま地面へリリースする。

「な……んで、生き……てる……?」

瀕死のアルスーラは必死で言葉を紡ぎ出し、憎々しい表情で厚狭田を見上げる。

「嬢ちゃんの能力が分かってから、俺が『強化』し続けていた物がある」

そう言うと、厚狭田は自分のシャツを指差した。

「俺が強化できるのは何も威力だけじゃねえ。シャツの『耐熱性』を『強化』してたんだよ
イルミネーションが消える瞬間、服を脱いで影から身を守ったんだ
いやァ、脱ぎやすい半袖着てて良かったぜェ~~」

そうか、と納得しアルスーラは自分の浅はかさを悔やんだ。
この男は私の影が生み出した『熱』が影となった部分にしか影響を及ばさないことを理解していた。
戦闘が始まってからのこの男の洞察力、そして覚悟。

全てに於いて私は負けていたのだ。

自慢のリーゼントはすっかり焦げちまったがな、と男は不満気に漏らす。


「ふ…ふふ、私の負けよ……
あなたの好きにして」

こんな所で死ぬことになるなんて、任務でしくじって殺されるならまだ納得いくのだけれど。

「あァ~ん?これ以上何をすることがあるんだよ?」

けれど、男から帰ってきたのは予想外の言葉だった。

「いいの?ここで私を殺しておかないと、後で復讐にくるかも」

嘯く私に背を向けて、男は静かにこう続けた。

「俺ァよォ~、三度の飯よりも戦いが大好きなんだよ。
勿論、相手が女だろーが子供だろーが関係ねェ。
だがよ、殺しを楽しんだことは一度もねェーぜ」

「クスクス……、甘いのね」

「へへ……俺ァ、『アマ』だからよ」

ブロロロロロロ……

遠くからヘリコプターの近付いてくる音が聞こえてきた。
運営の奴らか、と首を傾げる男にきっと私のボスの使いよ、と答える。

「良かったら、最後に名前を教えてくれる?」

「俺か?俺ァ『厚狭田亨児』ッつーんだ
じゃあな、また会おうぜ、えーと……」

「アルスーラよ。『アルスーラ・アーリッサ』」

「おう、またやろうぜ。アルスーラ」

右手を上げ去っていく厚狭田の背中を見つめながら、アルスーラは静かに溜め息を吐いた。

「ボスに『土産』を持って帰るつもりが、ボスから『土産』を頂いてしまうなんて」

ヘリコプターから投下された『生命』を受け取り、ボスの優しさに感謝しながらも私は自嘲気味に呟く。

ここに来てから降り続いていた雪は、何時の間にか降り止んで、雲間から青白い月が顔を覗かせていた。

★★★ 勝者 ★★★

No.4569
【スタンド名】
フロム・ヘル・ガーデン
【本体】
厚狭田 亨児(アサダ キョウジ)

【能力】
触れたものを「強化」する








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最終更新:2022年04月16日 15:13