第06回トーナメント:決勝②
No.4971
【スタンド名】
ニュー・ファウンド・グローリー
【本体】
エミリアナ・セブロ・メサ
【能力】
スタンドが描いたものを具現化する
No.5441
【スタンド名】
ミストレス・メーベル
【本体】
アゲハ・フラテリカ
【能力】
鞭の痕を「折れ線」に変える
ニュー・ファウンド・グローリー vs ミストレス・メーベル
【STAGE:夜の街道】◆4bPWteQyKA
――某所 PM 6:00
一面に広がる赤褐色の荒野。
ところどころに生えた灌木は、この一帯を鳥瞰したならば、さながらカビのように見えるだろう。
そんな大地を縫うようにその街道は走っていた。
街道の交通量は少なく、周囲を見渡しても全く車が目に入らない時も多かった。
そして、間もなく太陽は地平線の向こう側に姿を隠し、あたりは徐々に闇に包まれつつあった。
女「……こんな僻地で決勝戦をやるの?」
街道沿いにポツンと建つ安宿。
妖しいネオン光を放つ看板の下に停車中のオープンカーの前で一人の女が呟いた。
紫色の胸元が大きく開いたドレスを纏ったその女は、一見すればこの場所『商売』に来た女に見えるかもしれない。
事実、彼女――アゲハ・フラテリカの職業は、『売春婦』なのであるが、春を鬻ぎにこの場所に来たわけでは無い。
戦うため。勝ち上がって自らの新しい人生を見つけるため。そのために彼女はここに来たのだ。
青年「しゃーねぇーだろぉー上からの指定なんだからよぉ、下っ端の俺に文句言われても困るわ」
車の運転席に座った黒スーツの青年――『ブレット』と名乗る今回の立会人が、無愛想に言葉を返した。
ブレット「……こんな風景を見ると昔見た映画を思い出すなぁ……確かペネロペ・クルスのデビュー作で……」
と、言いかけた所で青年の言葉は後部座席からの声で遮られる。
少女「それって『ハモンハモン』?」
声の主は、赤毛の少女――今試合のアゲハ・フラテリカの対戦者であるエミリアナ・セブロ・メサであった。
声に反応して青年は後部座席のほうに体を捻る。
ブレット「ああ、『ハモンハモン』だ。嬢ちゃん映画詳しいのか?」
エミリ「わたしは映画より漫画の方が好きだけど、私の母国の映画だからね!」
満面の笑顔で語りかけてくる少女にたいし、青年の方も表情を緩くさせる。
ブレット「嬢ちゃんはスペイン出身なのか!実は俺、一度はスペインに行ってみてぇと思ってたんだけどさ……」
……バンッ!
ブレット&エミリ「!!!」
突如として響いた衝撃音。
驚いた青年は、首を前方に戻す。
そこにはいたのは、車のボンネットに自らのスタンドの拳を打ちつける笑顔のアゲハ。
アゲハ「……世間話はいいから、さっさと試合を進行してくれない?
こっちはただでさえ待ち合わせ場所の空港で4時間も待たされたってのにさぁ」
ブレットは不満そうな表情を数秒浮かべたあと車から降り、
申し訳なさそうな表情のエミリにも車を降りるようにジェスチャーで促す。
ブレット「コホンコホン……それじゃー発表すっぞー今回の試合は……『300メートル走』だ」
アゲハ&エミリ「は?」
呆然とする二人を前に、ブレットは一度肩をすくめた後、再び口を開く。
ブレット「『300メートル走』わからないか?
お前らが義務教育受けてんのかはしらねぇけど、字面みりゃわかるだろ」
二人とも男が自分たちをからかっているのではないかと一瞬疑う。
しかし、先の試合を思い出せば、アゲハはコイントス、エミリに至ってはトークという、名目上はバトルとはかけ離れたものであった。
それらを考慮すれば、今回の300メートル走とやらもなんら不思議ではない。
アゲハ「……ゴールまでの間の行動に縛りとかは無いのよね?」
ブレット「俺が上から渡された書類には『先に約300メートル先のゴール地点にたどり着いた者を勝者とする』
としか書かれていない。つまりは『そういうこと』だ」
エミリ「スタンドを使った攻撃による妨害でもなんでもあり、ということでいいんですよね?」
エミリの確認に対して、ブレットは首を縦に揺らした。
アゲハ「……で、スタートとゴールはどこなのよ?」
ブレット「……そうだな、スタートはこのボロ宿の入り口に立ってる看板、
ゴールはこの街道沿いに向こうにだいたい300メートルいったところでどうだ?
そこの路肩まで俺の車を移動しておくから、先にそこまで辿り着いたほうが勝者だ。
スタートの合図は、俺が5分後にこの銃で空砲を撃つからそれでいいな、
なんか質問はあるか?」
二人が頷いたのを確認すると、男は車に乗り込み、ゴール地点へと向かった。
準備が完了するまでの間、二人は看板の支柱を挟んで背中合わせにして、時を待っていた。
過去のこと、未来のこと、現在のことを考えながら。
そして、長いようで短いような5分はあっという間に過ぎ去り、
ゴールの方角から準備ができているから確認する立会人の声が響いた。
待機していた二人の間に緊張が走る。
そして、お互い警戒してか2,3メートルの間隔を置いて、
スタート地点である看板の横に並び、いつでも駆けだせるような姿勢を取った。
アゲハ(まさか三回戦も走らなきゃならないことになるなんてね……
しかも、あたしはこの走りにくい靴と服なのに、相手はスニーカー。
ここは先手で攻撃を仕掛けた方がベターなんじゃない?)
アゲハの心中を知ってか知らずか、エミリの顔には余裕の笑みが貼りつけられていた。
そして、勝負の時は来る。
夜の街道に乾いた音が響き渡った。
スタート合図の直後、アゲハは、先手必勝とばかりに自身のスタンドを発現させる。
アゲハ「『ミストレス・メーベル』……」
そして、駆けだそうとしていたエミリの身体に、金色の鞭を叩き込まんと、思い切り振りかぶった。
エミリ「やっぱりね!あなたはすぐ仕掛けてくると思ったよ!『ニュー・ファウンド・グローリー』!」
エミリの方も自らのスタンドを発現させた。
そして、宙に浮く線画のような自らのスタンドに『何か』の輪郭を描かせる。
エミリ「NFG!盾を作って!」
彼女が言った通りに、NFGの描きだした輪郭は鋼色の盾になり、
『ミストレス・メーベル』の鞭はエミリにぶつかることなく弾かれた。
アゲハ「描いたものを具現化するスタンドね……
なかなかやるじゃない……でも、私のスタンドはただ鞭を扱うだけじゃないのよ?」
アゲハが自信に満ちた表情で言うと、NFGの作り出した盾は、
鞭のぶつかった線で折り紙のように、勝手に曲がってしまった。
エミリ「!!!」
アゲハ「そんな不格好な盾で2発目を受けられるかしら?」
再び鞭を振る構えをミストレス・メーベルに取らせるアゲハ。
対するエミリもNFGに新しい盾を描かせようとするが……
バシンッ!
具現化が完了する前に鞭は振りかざされ、出来損ないの盾と一緒に、
エミリは後方へと吹っ飛ばされてしまった。
アゲハ「……それじゃ先にゴールさせてもらうわよ
あなたがここまで勝ち上がれたのは運が良かっただけみたいね」
そう呟くとアゲハはゴールの方向に小走りで駆けて行った。
このまま何も起こらなければ、アゲハはゴール地点まで先に到達し、この試合の勝者となっていただろう。
彼女の予想しなかった第三者の介入が無かったならば。
100メートルほど走ったところで、アゲハは後方から迫る『何か』に気づく。
反射的に振り返ると、彼女の眼に入ったのはエンジン音を轟かせてこちらに走ってくるトレーラー。
この街道は交通量が少ないようで、この場所に到着してから見る車は、自分たちが載ってきたものを除くと、それが初めてだった。
しかし、道を車が走っていること自体はなんら不自然なことでは無い。
アゲハ「……車か」
と安心したところで、彼女の眼に予想外のものが入って来る。
それはトレーナーの後部に載せられた四角いコンテナーの側面にぶら下がる『異物』であった。
NFG「マッタク無茶ナコトスッゼ、怪我シナカッタカラヨカッタケドヨ!」
エミリ「仕方ないじゃない!あのままじゃ追いつけなかったんだし!
日本のことわざ?で言う『渡りに船』ってやつだよ!
自分の脚でゴールまで行かなきゃいけないとはなかったし問題は無い……はず!無いといいな!」
NFG「イヤ、コノ場合ハ『街道ニトレーラー』ダナ!」
ミストレス・メーベルの鞭によって後方に吹っ飛ばされたエミリは、NFGの能力でロープを作り出し、
この街道を通りかかったトレーラーに載せられたコンテナの突起に向かってロープを投げ、引っかけたのだ。
エミリがちょっとした擦り傷以外の怪我が追っていないところを見ると、ミストレス・メーベルの鞭の『能力』は、
二発目の鞭を防ぐために咄嗟に作り出した『出来損ないの盾』には及んだものの、彼女自身には及ばなかったようだった。
これを見てアゲハは理解する。
自分が相手を見くびっていたことを。
相手が単なる運でここまで勝ち上がってきたのでは無いことを。、
アゲハ「……ッ!」
このままでは先にゴール地点まで行かれてしまう。
それが分かってからのアゲハの行動は素早かった。
それまでゴールの方向へ向かっていた足を反転させ、こちらに迫りくるトレーラーのほうへ向かう。
アゲハ「『ミストレス・メーベル』ッ!」
アゲハは再びスタンドを発現させると、丁度、トレーラーとすれ違うタイミングを狙って、『鞭』をコンテナ上部を狙って投げ込む。
そして、エミリがやったのと同じように、コンテナ上部の突起に引っかけると、一気に『鞭』に力を入れた。
その反動によって自身の身体を持ち上げ、曲芸師のようにコンテナの上面に着地させる。
着地したアゲハが顔を上げると、エミリも丁度、コンテナの側面から上面に上がってきていた。
向かって運転席側、風上に立つのがエミリ、反対側、風下に立つのがアゲハである。
トレーラーはそれほどスピードを出してないとはいえ、コンテナの上の風当りは強かった。
そのため、二人は対戦相手に注意を払うと同時に、うっかり路面に落とされないことにも同程度の注意を払わなければなかなかった。
アゲハは対峙するエミリに語りかける。
アゲハ「通りかかりの車にロープを引っかけてしがみ付き、、
あたしを抜かそうとしたのは大したものだけど、コンテナの上に上がったのは失策よ、
この場所じゃミストレス・メーベルの『鞭』は避けるのは無理に近いし、飛ばされたら大怪我は避けられないだろうからね」
アゲハは語気を強めてそう言うと、確実にミストレス・メーベルの『鞭』を叩き込むために、エミリとの距離を少しずつ詰めていった。
しかし、エミリは相変わらずの口調で返してきた。
エミリ「あなたがここに上がってくるのは分かってたよ」
アゲハ「……じゃあ、なぜわざわざ不利な場所に?」
更に一歩足を進めようとするアゲハ。そして『あること』に気づく。
アゲハ「……ん?」
風上であるエミリの側から、コンテナの屋根を伝って『何か』透明なモノが流れてきている。
反射的に後退しようとするが……靴が屋根に貼りついて動けない!
アゲハ「これは……接着剤!?」
エミリ「そう、あなたがここに上がって来るのを確認してから、NFGの能力で『具現化』した接着剤!
この場所なら風の力でそっちに押し流して、あなたの気付かないうちに踏ませることができると思ってね!」
アゲハ「向う見ずなだけじゃなくて、意外と強かなところもあるのね、あなた、
……でもね、こんな接着剤の罠なんて靴を脱げば……」
そう言って、アゲハは靴を脱ぎ、接着剤の流れを避けて、再び距離を詰めようとする。
詰めようとする。する。するが。進めない。
アゲハ「!!!」
ふと横を見ると、そこには足と鞭の一部が屋根に貼りつけられてしまっている『ミストレス・メーベル』の姿。
スタンドが傷つけば本体にもそれがフィードバックされてしまうのと同様、
スタンドが拘束されれば、本体の動きも制限されてしまう。
エミリ「NFGの具現化した物は、スタンドにも干渉できるんだよ!」
『ミストレス・メーベル』は鞭の扱いに特化したスタンドである。
そのかわりにパワーは無く、こうした形で動きを封じられてしまっては、最早自力でどうにかすることは難しい。
それを悟ったのか、アゲハ・フラテリカは諦めの表情を顔に浮かべ、天を仰いだ。
彼女の眼に入った空には満点の星々が輝いていた。
――数時間後
今試合に立会人として運営から派遣された青年、ブレットはゴール地点で、
路肩の車に寄りかかって煙草を吸いながら時間を潰していた。
スタート地点の方向を何度も覗くが、どちらの選手も一向に来ない。
ブレット「もう一時間以上経ってるのにどっちも現れねえな
こりゃ相討ちか……過去のトーナメントでもそういう試合が有ったらしいしな」
そう呟き、吸い終わった煙草を吸殻入れに入れようとした時だった。
スタート地点とは反対側から足跡が聞こえた。
ブレット「(ん?こんな通りの少ない街道に俺たち以外に誰か歩いている奴がいるのか?)」
反射的にそちらのほうに顔を向けると、そこには今試合の二人の選手のうちの一人、エミリアナ・セブロ・メサの姿があった。
ブレット「スタート地点と逆から現れるなんて何があったんだ?遠回りでもしてきたのか?」
エミリ「……それに関しては話すと長くなっちゃうんですけど」
ブレット「まあいい。で、もう一人の姉ちゃんはどうした?」
エミリ「この先のドライブインで車が停まったんで降りるのを手伝ってあげました。そこからは一人で帰っちゃったみたいです。」
エミリのこの発言を聞いて、何が何だか分からぬと言ったような怪訝な表情を浮かべる青年。
そして、しばらく考えこんだ後、再び口を開いた。
ブレット「何の話だか分からねぇが、嬢ちゃんが勝ったってことだけはわかった。
取りあえず車に乗れ。詳しい話は道すがら聞くこととしようか。」
エミリ「はい!」
そしてエミリはこの街道を後にした。
★★★ 勝者 ★★★
No.4971
【スタンド名】
ニュー・ファウンド・グローリー
【本体】
エミリアナ・セブロ・メサ
【能力】
スタンドが描いたものを具現化する
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最終更新:2022年04月24日 21:02