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第07回トーナメント:予選①




No.5095
【スタンド名】
スモーキー・ロビンソン
【本体】

【能力】
本体の吐く煙草の煙を綿のように加工する


No.6037
【スタンド名】
インサルト・II・インジャリー
【本体】
キッド

【能力】
スタンドのつけた傷がどんどん深くなっていく




スモーキー・ロビンソン vs インサルト・II・インジャリー

【STAGE:サーカスのテント】◆aqlrDxpX0s





一人の男が煙草の煙をくゆらせながら視線の遠くにあるサーカスのテントに向かって歩いていた。

その男の名は「アクセル・ライト」といった。
世界の「影」を牛耳る犯罪組織である「ディザスター」の構成員の一人である。

とはいえ、彼はスタンド使いでありながらも組織内では使い走りのような仕事ばかりをさせられている。
それは彼がまだ新人だからとも言えるが、おそらく彼の立場はこれから何年も変わらないだろう。

彼はもともと母国の小規模なマフィアにいて、ディザスターに加入するつもりはさらさらなかったのだが、
かつてある仕事でヘマをし、その尻拭いをディザスターにやってもらったことがある。
その後、彼は組織を踏み台にしてディザスターに加入することになったのだが、
彼自身そういった大きな借りがディザスターにできてしまったので今の立場に甘んじているというわけだ。

しかし、彼はそのことに不満は持っていなかった。
小規模のマフィアにいたときは、いつ理不尽な理由で組織ごと潰されてしまうかわからない恐怖が常にあったが、
潰す側にいればその心配はない。

マフィアに身を置いていながら「安定」を求めるとはおかしな話だが、彼はそういう性分なのだ。

だが今宵、彼の安定は脅かされることになる。
彼のもとに届いた「トーナメント」の招待状……彼がそれを辞退することを「ディザスター」が許すはずがなかった。


広い荒野に立つサーカスのテントは直径100メートルほどにも及ぶ巨大な円形に張っており、10階のビルほどの高さがある。
テントを眺めながら周囲をまわっていると、カーテンが開いた入り口らしきものが見えてきた。

中へはいると、赤いカーペットが敷かれた円形の舞台の周りを、野球場のスタンドのように観客席が囲んでいる。
入り口から見ると、正面には金網のフェンスの門があってそこから舞台に入れるようになっており、
入り口の左右から観客席へ上っていくつくりになっている。
舞台への門の反対側には、芸人たちや猛獣、サーカスで使う大道具が詰めているであろう黒いカーテンに囲われた舞台裏のような場所が見えた。

舞台と観客席にはだれもいなかった。
まさか自分たちの戦いを演目に組み入れられるのでは……とライトは思っていたが、
どうやらそのような酔狂に巻き込まれることはないらしい。

上を見上げると、高く組み上げられた足場の上には空中ブランコが固定されていて、綱渡り用の一本綱も見える。
その下には安全網はない。あの一本綱から落ちたならどんなスターの芸人だって人生までどん底に落ちるだろうな、とライトはふと思った。
そのさらに上の天井には、吊り下げ式の足場に沿っていくつものスポットライトがテントの端から端まで取り付けられていた。
このスポットライトの一つ一つを操作して舞台上の曲芸の演出を行う。
とはいえ、その曲芸をする芸人がこの舞台にはいないが……

「!」

ライトが赤いカーペットの舞台を見下ろしたとき、舞台裏前の黒いカーテンの前に1人の少年が立っているのに気づいた。
12歳から14歳くらいといったところだろうか? 少年、というよりは子どもと言うのが正しいかもしれない。
格好こそは世界中をまわる旅人のような服装をしているが……

「ねえ、今何時何分?」

突然、少年が舞台前に立っていたライトに話しかけてくる。
ライトは腕時計を見て、時刻を確認する。

「今は……18時半だが」

「そうじゃなくて、何分かまでキチッと教えてくれない? ぼくのスケジュールは分きざみなんだから」

「はあ?」

「……もういいよ」

少年はよれよれのコートの中から懐中時計を取り出し、時刻を確認した。

「18時28分……今29分になったね。思ったより早くついたんだね、おじさん」

「おじさん……まあ、おにいさんとは呼べないか。もしかして、きみが対戦相手なのか?」

「そーだよ?」

「……こりゃあ、楽勝かもなあ」

「ねー! ちょっとナメないでくれるかなあ? ぼくはおじさんよりは『きゃりあ』あるんだから」

「あー、はいはい! ごめんなごめんな、ちゃんと相手してやるからさー」

(まあ……この小僧の言うとおり、油断はしないほうがいいかもな。これでも同じトーナメント出場者だし、
 ディザスターにも幹部でありながら1回戦負けしたヤツとかいたからな……)

「ねえ、『ラッセル・ケマダ』っておじさんのしりあいの人?」

「!!」

「あははっ♪ そのリアクションは『ずぼし』だったんだね!」

「……思わず顔にでちまった、俺もまだまだだな。ボーヤ、なんでその名前を?」

「ぼくっていろんな人たちから命ねらわれてるからさあー、じょうほうがとても大事になるんだよね。
 トーナメントをしらべる中でこみみにはさんだんだよ。」

「…………なるほどな、確かにただのボーヤじゃなさそうだ」

「ていうかぼくのこと知らなかったんだねー。でもちょっとはわかってくれたかな?」

「ああ……ま、ボーヤはボーヤなのに変わりはないがな」

「ふふ、じゃあ……まだまだだね、おじさん」

そういって少年がにやりと笑うと同時に、ライトは背後に気配を感じ、振り返った。

『キキキッ!』

「なっ!」

背後に立っていたのは少年よりもさらにさらに小さいスタンドヴィジョン。
振り上げた手にはナイフが握られていた。

『キキィーーーーッッ!!』

「あぶねえッ!」

ライトは身を翻して、スタンドヴィジョンが振り下ろしたナイフをとっさにかわそうとするが、
避けきれずナイフは右腕をかすめた。


「痛ってえなあ、オイ!」

「なにおこってるんだよ。もう18時30分だよ? もうたたかいは始まってるよ」

ライトの近くに浮遊していたスタンドが少年のもとに舞い戻った。

「これがぼくのスタンド、『インサルト・Ⅱ・インジャリー』だよ!」

「ブッソーなもん持たせやがって……そのナイフはコドモのオモチャじゃないぞ?」

(俺と小僧の距離は少なくとも5メートル……俺の背後に現れたってことは遠隔操作タイプみたいだな)


ライトが所属しているのはスタンド使いが多く集まる『ディザスター』である。
スタンド使い同士の交流はあまりないが、スタンドに関しての情報は集まっている。
少年の言うとおり、命がかかってる戦いにおいては情報というものが戦況に大きくかかっているのだ。
スタンド能力は各人において未知なれど、ある程度はタイプごとに大別することができる。
そのタイプ別でみれば、少年のスタンドは「遠隔操作タイプ」であるとライトは予想し、それは正解であった。

(相手が遠隔操作タイプなら……離れての戦いは不利になる。俺のスタンドは近距離タイプだから……なおさらだ!)

ライトは腕の切り傷も意に介さず、少年に向かい駆けだす。
だがその前に少年はその気配を察したのか、くるりと背をライトに向けて逃げ出した。

「あっ、コラ! 小僧!!」

少年の姿は舞台裏の黒いカーテンの中へ消えていった。
ライトもそれを追ってカーテンの中へ入ろうとするが、中が真っ暗なのを見て直前で踏みとどまる。

(待て待て! 距離は詰めなきゃならないが、この中に入って小僧を見失ったらどうしようもない。
 小僧だって俺を攻撃するにはあのスタンドを近づけさせなければならないが……)

だが、再び駆け出してカーテンの中へ足を踏み入れた。

(だが、そんな悠長なことしていられねえ! 
 小僧のスタンド能力もわからないんだ、まずつかまえることだけ考えろ!!)

カーテンの中、舞台裏はほど暗く大道具が乱雑に置かれているのはうっすら見えるが、少年の姿は見られない。
意気込んで中へ入ったものの、ライトはまた立ち止まり、周囲を見回す。

(ッチ、やべえな。あの小僧、俺より早くここに来てたはずだから、この舞台裏の中も把握してるかもしれない……)

「おじさん、こっちだよ!!」

「!?」

突然上方からの声を聞き、見上げると舞台裏に組み上げられた足場の上に少年が立っていた。
カーテンのそばに立てられた足場は3階ほどの高さがあり、はしごがたてかけられていた。

「へーい、ここまできてみろよおじさーん!!」

と、少年はアッカンベーをして足場の上からカーテンの外へ出て行った。

「な、なんだ? わざわざ居場所を知らせて……罠のつもりなのか、無邪気なだけなのか……」

ライトはポケットから煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。

「だが、手をこまねいているわけにはいかねえ! つかまえてやるぜ……俺の能力でな」


足場を上り、カーテンの外へ出る。
舞台裏へ入ったのは舞台上からだったが、今立っていたのは舞台の頭上……「空中ブランコ」の足場の上だった。
少年はライトのすぐ前にいたが、すでにブランコのヒモを握っていた。

「おいおい、マジかよ小僧ッ!」

「へへーん、だまされたー!」

少年はブランコの板に片足を乗せて足場を蹴った。
舞台から3階ほどの高さをぶらーんとブランコは飛んでいく。
ブランコは舞台の上を横断し、反対側への足場へと向かっていった。
少年は足場に降り立ち、手を広げてポーズをとる。

「おじさんじゃあここまでこれないでしょー?」

「……ナメんじゃねえ!」

ライトは戻ってきたブランコをつかみ、少年と同じように飛び乗った。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

「おお~なかなかやるねえ、でも落ちてもらうよ! 『インサルト・Ⅱ・インジャリー』!!」

『キキィッ!』

少年はスタンドを発現させ、ライトの乗っているブランコに向かわせた。

「ブランコの上とはいえ、そっちから来てくれるのなら好都合だ、捕まえてやるぜ!」

「ねらいは、おじさんじゃあないよ!」

『インサルト・Ⅱ・インジャリー』が向かったのはライトの方ではなく、その上だった。
狙いは、ブランコのヒモの根本だった。

ズパッ!

「うおおおッ! ブランコのヒモを切りやがった!!」

「落ちちゃえーーーーーーッッ!!」

「まだだ、『スモーキー・ロビンソン』!!」

ライトはくわえた煙草の煙を吹き出し、少年の乗った足場の骨組みにただよわせた。

『スモーキー・ロビンソン』の能力は「煙草の煙を『綿』のようにする」というもの。
ライトはバランスを崩したブランコから煙の綿をつかんで足場の骨組みに飛び移った。
煙の綿をクッションに使い、足場への衝撃を抑えて足場が倒れるのを防いだ。

「なあるほどね……そういうのうりょくなんだ」

少年は足場の上からライトを見下ろして呟いた。
そして少年は振り返って隣に平行して設置されていた一本綱の足場へと移った。

ライトは空中ブランコの足場をよじ登っていた。

「痛ッ……」

右腕で骨組みを掴んだ瞬間、ピリッと痛みが走った。
ライトは少年のスタンドに腕を切られていたことを思い出した。
ふと腕を見ると、幅5センチほどの傷から少しだけ血がにじみ出ていた。

(あれ? ちょっとかすった程度だと思ったが……)


ライトが足場の上に上ったとき、視界の中に少年の姿はなかった。
視線の奥にある一本綱の足場の上にも、一本綱の上にもいなかった。

一本綱の足場に移り下を見下ろすと少年が足場をはしごでおりているのが見えた。

(しまった……! いくら恐れ知らずのガキといえども、一本綱をわたることなんてできるはずがねえんだ!
 足場を上らず、舞台に降りとけばよかったぜ……)

ライトもはしごに手をかけて足場を降りはじめた。

「…………?」

はしごを降りていき、手で梯子を掴む度にライトの傷の違和感が増していった。

(傷から流れる血……さっきより増してねえか?)

さっきまでは傷ににじんでいただけの血は、今は滴になって垂れ続けていた。
本来なら血がにじんだらしだいに固まっていくはずである。

「ねえおじさん、気がつかない?」

足場から舞台に降りてい少年がライトに向かって話し出す。

「なんでぼくがにげつづけてるのかをさあ?」

(この傷は……あの小僧のスタンドにつけられた傷だ。……ってことはまさか!)

「そのきず、どんどん深くなってるでしょ? たぶんつけたときは4ミリくらいだったから……10分たった今では1センチくらいにはなってるはずだよ」

「なんだって……?」

「だから、ぼくはにげつづけていればいいの。もう勝負はついてるんだ」

そう言い残して少年は舞台の外へ出て、今度は舞台を囲う観客席へのぼった。
それとほぼ同時にライトは足場から舞台に降りた。

(クッソ、そういうことか……見た目とは裏腹になかなかエグい能力だぜ……)

「だが、能力がわかった以上、恐れることはねえ! ぜってえ捕まえるぜ!!」

少年を追ってライトも観客席へとのぼった。


観客席は長椅子が規則正しく置かれているが、たくさんの観客を入れるために椅子と椅子との感覚が狭く、
大人のライトにとっては走りにくかった。それに対し体の小さい少年はするすると椅子の間を走り抜けていく。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

(疲れ知らずなのか、あのガキ……子どもってのはたいがいそーいうモンだが、体力ありすぎだぜ……)

一定のスピードで駆け抜けていく少年の後ろで、ライトは煙草をくわえながら走っており、息もきれはじめていた。
徐々に距離が広がっていく……

「すぅーーーーーーーっ……」

ライトは一度立ち止まって大きく息をすい、

「…………はぁーーーーーーーっ」

大きく息をはいた。息を整えて、ライトは再び走り出した。


前を走り続けている少年は、一度ちらりと後ろを見てライトとの距離を確認した後、懐中時計を見た。

(18時45分……傷をつけて15分か。もう傷は16ミリ強になってる……そして、時間はもうすぐだ……)

グイッ

「うわあっ!」

ズデン!


少年はつまずいて転んでしまった。

「いててぇ……」

「かかったな……ボーヤ」

転んだ少年にライトがすぐに追いついた。
腕からは血がだらだらと流れ出している。

「ぐるぐると観客席を回る孤独なトラックレースだったが……だからこそ、俺の罠にかかってくれたな」

少年が足下を見ると、つまずいた自分の足の周りに「白いもや」が漂っていた。
足を引いてみると、わたあめをちぎるときのように粘っこくまとわりついて離さなかった。

「ボーヤが走ってたルートは1周前に俺が走ったルートだ。暗い観客席、狭い椅子の間のトラップには気づけなかったみたいだな」

「くっ……!」

「悪いがボーヤには気絶してもらうぜ。この腕の傷の能力を解除してもらわにゃならんしな……
 まずは綿で体をわたあめの割り箸みたいにグルグル巻きにしてーと……その前に煙草替えないとな」

ライトが新しい煙草をくわえ、火をつけようとライターを取り出したとき、その手を何者かが弾いた。

「…………!」

ライトの手を弾いたのは少年のスタンド。その小さな両腕にはライターが抱えられていた。


「おじさん、たばこはほどほどにしておいたほうがいいよ?」

「………………小僧」

「おじさんののうりょく、たばこが必要なんでしょ? ライターがなかったら、どうするの?」

『インサルト・Ⅱ・インジャリー』はライターを舞台のほうに捨てた。
少年は足に絡まった綿を引きちぎり、立ち上がった。

「ライターが『せいめいせん』だったんだ。たばこがいくらあっても火をつけられなかったらのうりょくは使えない。そしてあと5分……いや4分でおじさんのきずは2.7センチになるよ。
 『ゆきだるま式』にふえていくんだ。さらに5分後は4.3センチ、10分後は7センチってね……」

「…………」

「あとすこし、にげきればおじさんのうでは落ちちゃうよ。そのまえにこうさんしなよ」

「小僧ッッ!!」

ライトが右手を振り上げた瞬間、少年は観客席から舞台へ駆け出した。
ライターを拾いなおして逃げるために。
観客席のフェンスに足をかけ飛び降りようとしたとき……

ブワアァァ……

少年を、白い煙が包んだ。
背中から吹かれた煙が綿となって、少年の体を包んでいた。

(あれ? ……間違いなくライターは足下にある。火はつけられないはずなのに……)

煙草の煙は今度は蚕のように少年の体に巻き付き、頭と脚だけが出た状態で舞台の上に転がった。
少年は仰向けになり、体をよじらせてライトのほうを見る。

ライトの加えていた煙草には、火がついていた。
手には何も持っていない。

「なんで……?」

「オーケー、マジックショーだボーヤ」

そういってライトは観客席から舞台に降りた。

「ちゃららららら~ん」

マジックのBGMを口ずさみながらライトは右手を前に出した。

「ちゃららららら~らら~ん」

パチッ

「!」

ライトが指を鳴らすと、右手の人差し指の先から小さな炎が出ていた。

「マジックのタネはなあ……ごく単純なことだ。俺の人差し指はライターになってんだ。
 オトシマエで指を切ったのがかえって幸運かもな。こーやって、指の腹をこすると火がつく」

シュボッ

ライトは徐々に少年に歩み寄っていく。
少年は泣きそうな顔になりながら、足をつかって舞台の上をにじり退く。

「自分のスタンド能力の弱点なんてトーゼン、把握しているよ。ライターは生命線なんかじゃあない、
 むしろ切ってナンボ、囮だったんだ」

「うっ、うう~~~っ!」

「泣いたって無駄だぜ、さすがに腕はおとしたくねーからな……気絶してもらうぜ」

少年はせかせかと足をうごかして舞台の上を後ずさる。
舞台のほぼ中央をすぎたところで、ライトが前に立った。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「容赦はしねーぜ、なんたって俺は『ディザスター』の人間だからな……ボーヤを踏み台に勝ち上がって……
 いずれは……優勝したら、幹部にもなれるかもな」

「お、おじさん…………いま、何分?」

「……18時50分前だ」

「そーか、もう20分たつんだ……」

「そーいやボーヤ、てめえの名前なんていうんだ?」

「…………『キッド』」

「『キッド』?」

「ああ…………」





「あんたを殺す、男の名だ」



パキッ


「?」


ライトは上方から聞こえた不審な音を聞き、上を見上げた。

――そこには、まばゆいばかりのスポットライトの光が……急速に近づいてきていた。


グワシャアアァァァァアアアアンン!!

ライトの頭上から巨大なものが落ちてきた。
天井のスポットライトが、足場ごと。舞台の端から端までの長さほどあるおおきな足場が、
舞台の中央に立つライトの上に落下したのだ。

舞台の上に転がる少年……『キッド』には傷一つない。


「…………ぐ……お、お……」

総重量数トンはあるであろう巨大な照明の足場の下からうめき声がする。
キッドは身をおこして話し出した。

「なんだ、まだ生きてたんだ。運がいいね」

「なんで……だ……こんな、偶然が……」

ライトは顔中、体中血塗れになっていた。
腕の傷の深さは3センチを越えたが、もはや腕の傷だけの問題ではないほどの満身創痍だ。

「偶然? そんなわけないだろ。ぼく……俺はあらかじめ天井の照明が落ちるように
 『インサルト・Ⅱ・インジャリー』で傷をつけていたんだ。舞台裏から足場にのぼる間にね」

ライトは真っ赤な視界の中、キッドの顔を見た。
話し方も、その表情もつい先ほどとは変わっていた。
無邪気な様子はいっさい見られない。氷のような冷たさを感じる。

(いいや偶然だっ……今さっき、舞台の中央に誘い込まれたとしてもだ……18時50分の時点でもしかしたら舞台裏で戦ってたかもしれないのに……)

「細工をしたのは天井の照明だけじゃあない。舞台裏やブランコの足場、テントの支柱にも傷をつけていた。
 必要がないなら能力を解除すればいいだけだ。ま、天井の照明で潰すのが一番簡単な方法だけどね」

「勝てる……見込みは…………あった、あった……はずなのに……?」

「勝つ見込み!? そんなのあんたにはなかったよ。はじめから勝負は決まっていたんだ。
 あんたさあ、いろいろ考えこみながら動いてたでしょ?
 直感を信じずに納得できる理由を用意してから動いてたらさあ、俺が細工する時間なんかいくらでもできるって。
 ま、人差し指がライターになってたのはさすがに予想してなかったけどさあ……」

キッドはスタンドを発現させ、持っている小さなナイフで体にまとわりつく綿を切った。

「結局、こうやって切ってしまえば何の問題もないんだよね。さっきこうしなかったのはあんたを舞台の中央におびき寄せるため」

キッドは立ち上がって体についた綿を払い落とした。

「つまりは……最初にも言ったけど、『キャリア』が違いすぎるんだよね。
 俺がちょっと子どもっぽく振る舞っただけであんた簡単に油断したし……
 俺は物心ついたときから、毎年少なくとも歳の数だけ人を殺し、任務をこなしてきた。あんたは?」

「………………」

「あれあれ? もう答える元気もなくなったかなあ? ……まあいいけどさ。
 ちょっとだけ面白かったよ。ほんのちょっと、ね」



キッドはテントの出口の方を向き歩き出した。

「ディザスター? 巨大組織? はは、わざわざ群れなきゃ戦えない連中に、俺が負けるはずないじゃないか」


テントから外へ出てしばらく歩いた後、キッドは右手を星空へ向けて掲げ、指を鳴らした。

その直後、背後のサーカスのテントは轟音をあげて崩れ落ちた。

★★★ 勝者 ★★★

No.6037
【スタンド名】
インサルト・II・インジャリー
【本体】
キッド

【能力】
スタンドのつけた傷がどんどん深くなっていく








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最終更新:2022年04月16日 20:01