第07回トーナメント:予選②
No.5307
【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ
【能力】
指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす
No.5581
【スタンド名】
アイシクル・ワーク
【本体】
当麻 未夜(トウマ ミヤ)
【能力】
殴った場所に氷柱を生やす
ツリートップ・ロック vs アイシクル・ワーク
【STAGE:沼沢地】◆/R99hGowSU
「来たな、少年」
鬱蒼と生い茂る森の中心部、見るも美しい沼沢地が広がっている。
太陽は既にその姿を潜め始め、青ざめた三日月が水面に薄明かりを落としている。
そんな幻想的な空間の内側で二人の男が対峙していた。
「もう一度言おう……来たな!少年ッ!」
その声と同時に、彼の近くにあった茂みから数羽の小鳥が飛び立つと、それに呼応するかのように百獣の叫びが数多に響き渡った。
「何故二回言いました?」
「君の反応が薄いからだろう!」
この男、エツィオ・クラーツは所謂『自然保護官』である。
主に特異な生態系を持つ自然現象の保護・管理を職務としている国家公務員。
通常、自然保護官は業務の九割がデスクワークであり公園内での活動は限定されている。
しかし、彼はそんな他の自然保護官とは少々毛色が違っていた。
――――『スタンドを持つ動植物の管理』
それが彼に与えられた職務。
勿論、スタンド使いの動植物を管理するには自分自身がスタンド使いであることが大前提。
SPW財団から派遣された彼は先方の期待にそぐわぬ仕事振りで、この『キャッツ・グローブ国立公園』に生息する様々なスタンド使いの動植物達を管理下に置いてきた。
そんな彼でも、今回ばかりは簡単に管理できそうもないがな、と憮然とした表情をした青年を見て思うのだった。
「そんなことよりも、そろそろ始めませんか。一回戦」
早速だが、当麻未夜(トウマ ミヤ)は帰りたい。
二週間前に届いたスタンド使い同士で行われるトーナメントへの出場案内、その招待状にはまだ若い彼の好奇心を激しく掻き立て、実際にこんな秘境のような場所にまで足を運ばせるだけの魅力があった。
ただ、そんな魅力よりも何よりも『暑かった』。
何時どんな時でも厚着をするというポリシーが軽く揺らいでしまうほどに、この国この森はクソ暑かった。
帰ろう、厳寒の日本列島へ。
そう心に堅く誓い、エツィオに向けて敵意の眼差しを向ける。
エツィオもそれに気付いたようで、やれやれという風に頭を振った。
「急くなよ、ミャー君……………。
………………………。
よし始めようかッ!」
「ちょ、何の間だったんですか、今の。
後、ミャー君は止めてください次言ったら殺しますから」
そんな掛け合いと共に二人は自らの分身を具現化する。
「『ツリートップ・ロック』!」
エツィオのスタンドが黄金色に輝く。
藁でできたトンガリ帽子に梟を思わせる仮面。
神秘的な雰囲気を纏い、エツィオの傍らで静かに指示を待つ。
「『アイシクル・ワーク』」
それに相反して、未夜のスタンドは銀色の煌めきを放っていた。
氷のように透き通った身体の中から氷柱のように突出する骨は、エツィオの喉元を狙うかのようにその切っ先を向けている。
「先手必勝だ、ミャー君!」
「はい殺します」
エツィオが腰に手を当て、自らのスタンドに発令する。
すかさずツリートップ・ロックはその指先を未夜の方へ向ける……と、
ピュウピュウ!
右手の人差し指と中指から弾丸のような物体が高速で射出された。
「弾け、『アイシクル・ワーク』」
迫り来る二発の弾丸を難なく拳で弾く。
僅かに軌道を変えられた弾丸は、緩やかな弧を描いてそれぞれ未夜の右、左斜め後ろの泥地へと着弾する。
「ゴマツブを飛ばす能力とは斬新ですね」
「ああ、だがまだ安心するのは早いぞ
そのゴマツブはまだ『生きて』いるのだからな」
メキャメキメキャ……
不意に不穏で不可思議な音が未夜の耳に飛び込んで来た。
振り返りはしなかったが『アイシクル・ワーク』の弾いた弾丸から何かが飛び出しており、それがエツィオの次の攻撃に繋がっているだろうことは直感的に理解した。
「君の両手を貰おう!
それで君の勝利は無くなるッ!」
ズオァッ!
『ツリートップ・ロック』は指先から種を放ち、着弾地点から「枝」を生やす能力を持っている。
未夜によって弾かれた二粒の種から触手のような枝を生やし、そのまま両手に巻き付けて粉砕してやろう
というのがエツィオの算段だった。
しかし……
ピキィィ…ン
「絶望的に馬鹿野郎ですねあなたは」
未夜目掛け勢い良く伸びた枝の先が、その両の腕に巻き付く瞬間『凍結』した。
「凍った、だと……?
君が枝の先に触れたのを俺は確認していないぞ!」
「そうですか。あなたが※&◎%だからじゃあないですか」
「え、なんて?」
「……自主規制です」
そうこうしている内に、停止していた枝が先端から腐り始め、はらはらと崩れ落ちていく。
「ゴマツブから枝を生やす能力……ですか」
完全に腐りきった枝の残骸を踏みしめながら呟き、それからエツィオの方へ顔を向ける。
「今度は僕の番ですよ」
そういうやいなや、未夜は足元の泥炭を思いっ切り踏みつけた。
弾けるように宙を舞った泥炭を、すぐさま『アイシクル・ワーク』が目にも留まらぬ拳のラッシュでエツィオに向け殴り撃つ。
「良く分からんがこの程度の攻撃ッ!」
迫り来る泥炭の雨を迎え撃つべく身構えるエツィオだったが……
「甘過ぎます」
ピキピキピキ……
飛来する泥炭の表面が凍り、そこから鋭い氷柱が隆起する。
無数の氷の棘はそのスピードを保ったままエツィオへと襲い掛かった。
「クゥッ!打ち落とせ『ツリートップ・ロック』!」
砕かれた氷柱の破片が顔を掠める。
今の所、『ツリートップ・ロック』のラッシュスピードの方が氷柱の射出速度よりも勝っている。
だがもし上からもこの攻撃を加えられたら……
「『上からも氷柱を降らされたらひとたまりもない』って考えていますね」
「な……」
「低脳の考えていることなんて全てお見通しですよ。
それではお望み通り……」
『アイシクル・ワーク』がエツィオの上空目掛け泥炭を投げ飛ばす。
前方と上空からの同時攻撃に、さしものエツィオも焦りを隠せない。
「これで終わりです」
「まだまだッ!
無駄弾を使いたくはなかったが!」
両手の薬指から自身の両脇へ種を発射する。
螺旋を描くように、発芽した二本の枝が絡み合いエツィオの頭上で掌のような傘を形作った。
降り注いだ氷柱はその枝によって全て砕かれ飛び散っていく。
「後は前からの氷柱をぶっ壊せば問題な……い?」
上空に気を取られていたエツィオは初めてその異変に気付いた。
前方から乱射されていた氷柱が、何時の間にかただの泥炭に変わっていた。
氷柱を壊す筈だった『ツリートップ・ロック』の拳には、べっとりと泥炭が付着している。
「これはッ……」
ピキィィ――z__ン!
全てを言い終わる前に、エツィオとそのスタンドの拳が凍り付き、何本もの氷柱が乱立した。
「終わりだと言ったら終わりなんです
&◎%#如きが僕に手間を取らせないでください」
未夜が冷たく言い放つ。
少年の言うとおり、両手は凍り付き、指を開けないために頼みの種を撃つことさえままならない。
だが、俺はこの程度では諦めはしない。
この森で共に喜びも苦しみも分かち合い生きてきた動物、植物達のためにも……
「ここで倒れる訳にはッ……」
「もういい加減に……」
『アイシクル・ワーク』がすぅっと拳を振り上げる。
「しろッ!」
振り落とされた拳が泥炭を吹き飛ばし地面にめり込む。
この殴打で地中に発生した氷柱は、真上ではなくエツィオの方を向いている。
つまり、この氷柱は自身の真横に堆積した泥炭に穴を空けているということッ!
『アイシクル・ワーク』の氷柱は、それによって貫いた物体の傷からも発生するので……。
地中に生やした氷柱は理論上、無限に連なる氷槍となる!
「覚悟してください、逃げ場はもう無いですよ
このままあなたの足の裏から氷柱を突き刺して心臓を貫いてやるッ!」
大蛇の如く湿原を這う氷柱を前にして、エツィオは不適な笑みを浮かべた。
「ああ、覚悟はできたぞ
君を倒す覚悟がなッ!」
シュルルルッ!
『ツリートップ・ロック』の掌から、網目状の枝が伸び凍った腕を覆っていく。
それは完全にエツィオの腕を覆い尽くすと軋むような音を出し始めた。
「まさか凍った腕の皮を砕こうとしているんですか!?」
「そのッ……通りだァァッ!」
パリィィィィッ!!
エツィオの周りに血染めの氷片が舞い落ちる。
両腕の皮が無残に剥がれ落ち、赤黒い血がポタポタと流れ落ちていた。
「さあ、決着と行こうか」
真っ赤な指先を向けられて、未夜は一瞬死の恐怖に心を侵された。
が、自身の優位を思い出し直ぐに平静を取り戻す。
「まだ地中の氷柱は『生きて』いる!どちらにせよあなたに逃げ場はない!」
「ああ、まだ『生きて』いるぞ……
俺の両腕の枝もな!」
メキメキメキ……
赤く染まった二対の枝を地面に食い込ませると、そのまま倒立の要領で空中へと体を浮き上がらせる。
「くっ……だったら枝を貫くのみッ!」
ベキィパキベキィィィ!
直近まで迫っていた氷柱はエツィオの足から地面に根差す枝へと標的を変えた。
枝を貫き、そのままエツィオの体目掛け増殖する氷柱であったが……
「残念だが、もう寿命のようだな」
先程と同じように、両腕の枝が腐り始める。
それと同時に重さに耐え切れなくなった枝が折れ、エツィオの体は宙へと投げ出された。
空高く聳え立った氷柱は腐り切った枝と共に粉々となり消滅した。
「さて、これが最後の攻撃だ
覚悟はいいか、少年」
スタンドを使って体制を整えたエツィオはそのまま上手く着地し、改めて未夜に向き直る。
「フ…フフフハフフッ……
最後ですか?最後……」
未夜は可笑しいのを隠しきれないといった様子だった。
右手で顔を覆い、その隙間から白い歯を覗かせてエツィオに語り掛けた。
「あなたの種は、残念ながら僕には届かない。
何故ならあなたのその種には『弾数制限』があるから」
エツィオは無言だった。
だが、未夜にはその確信があった。
気にせずに言葉を紡ぐ。
「無限に撃てるのなら最初の攻撃で二発だけ、なんてみみっちい事はしない」
「………………」
「しかも、今まで撃った種は一度たりとも同じ指から発射されていない……
これが意味するのは、」
「『俺は後四発しか種を撃つことができない』」
得意げに語る未夜を遮って、エツィオが口を開いた。
満足そうに頷く未夜。
「後四発で君を倒せば問題無いだろう」
それでも、エツィオは真顔で言ってのけた。
『ツリートップ・ロック』は両手のひらを未夜に向け構える。
「はぁ、そうですか。
それじゃあ……」
『アイシクル・ワーク』もエツィオに狙いを定めるようにファイティングポーズを取る。
「やってみろよッ!」
「『ツリートップ・ロック』ッ!!」
「『アイシクル・ワーク』!!」
二人の魂の叫びが、すっかり日の暮れた沼沢地に響き渡った。
自分に残された種は右手の小指と左手の人差し指・中指・小指のみ。
だが勝算はある。
今はただ、その時を待つだけだ。
ぴちゃり、と水草から滴が垂れ落ちる…………
「先手必勝ですよ、エッチオさんッ!」
先に動いたのは、未夜の方だった。
『アイシクル・ワーク』が先程と同じように地面を殴るために振りかぶる。
ただ、今回は一発だけじゃない。
ラッシュによって発生した氷柱の群れをエツィオに殺到させるッ!
「この時を待っていたぞッ!
『全弾発射』だッ!」
エツィオもここが勝機と両手から種を発射する。
が、これは未夜の想定内だった。
残弾僅かとなれば相手の攻撃の隙を突き確実に命中させるのが最善策。
「全て弾くッ!」
スタンドの動きを止め、防御体勢に入る。
ピュウピュウピュウピュイ!
「な……!?」
「…………………」
予想外の事態に、未夜は暫時唖然とする。
『ツリートップ・ロック』から放たれた種子は、未夜がスタンドで防御する必要も無い程的外れな方向へと飛んでいった。
「ば、馬鹿だコイツ……。ククッ……僕の後ろには種を着弾させられる木すらないのにっ」
どうしても堪えきれず声を出して嘲笑う未夜であったが、しかし次のエツィオの行動でその笑みは完全に消え去ることになる……
「ピィィィィィィ!」
この森の中では、その音色が嫌に響き渡る。
それは口笛だった。
最初は意味が分からず困惑するばかりだったが、視界の端に捉えた小さな光がその疑問を全て解決した。
シュルルルッ!
ガチィ!
「は?」
未夜の敗因は後ろに放たれた種にばかり気を使っていたことだった。
まさか種が『移動』し、自身の両脇から枝が迫っていようとは夢にも思わなかったのである。
「今が夜で良かった。
一人では、君に勝つことは出来なかっただろう
ちなみに、今君を引っ張っている彼らは黒豹のジャンプ、サンデー、マガジン、チャンピオンだ」
「あなた動物を使って……グゥオア!?」
未夜の四肢に巻き付いた枝がそれぞれ別方向へと引っ張っられる。
本体の手足が封じられれば分身たるスタンドも動くことができない。
「詰みだな。
そのまま『八つ裂き』の刑執行だよ、ミャー君」
「えっ……ちょ、それは本当に勘弁してください!
降参しますから本当すみません!」
半泣きで必死に謝る姿を見て、エツィオはフッと笑うともう一度口笛を吹いた。
黒豹達はゆっくりと動きを止める。
――――---……
その後、手足の枝も腐り落ち、自由の身となった未夜だったが
未だにエツィオに何度も頭を下げ、謝り続けていた。
「いや、もういいんだ
気にすることはない」
「本当ですか……?」
肩をポンと叩き、優しい口調で話しかける内に、未夜もようやく落ち着いたきたようだった。
やれやれ、この少年も俺の管理下に入ってしまったな。
「何か今『俺の管理下』がどうこう言いました?」
「え?」
「いや、エツィオさんが『クソホモドS野郎』なんてことある筈ないですし、僕の聞き間違いですよね」
満面の笑みで話す未夜とは対照的に……
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「よし、『躾』の時間だな」
「え……?」
第二ラウンドを告げる遠吠えが、彼方から何時までも響いていた。
★★★ 勝者 ★★★
No.5307
【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ
【能力】
指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす
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最終更新:2022年04月16日 19:57