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第07回トーナメント:決勝①




No.5307
【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ

【能力】
指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす


No.5480
【スタンド名】
オーメンズ・オブ・ラブ
【本体】
満木 葉華(ミツギ ヨウカ)

【能力】
本体の身体に「紙の性質」を付与する




ツリートップ・ロック vs オーメンズ・オブ・ラブ

【STAGE:誰もいない校舎】◆4AA1FCGO3Q





誰もいない校舎の図書室。

指定された時間までにはまだ1時間以上あるが、既に彼女は指定された場所に来ていた。
眺めのいい、陽当りのいい席に腰掛けて、机に肘をついて外を眺めている。

この学校についての詳細は解らないが、歴史のある学校なのだろう。
石造りの校舎の壁には、この図書室のある4階の上まで地面から蔦が伸びている。
陽光を浴びてその葉が緑に輝く様が美しい。


春の喜び溢れる窓からの風景を眺めながら、対象的に曇った顔の<満木葉華>はため息混じりに独り言つ。

「ふぅ……どーも、アレもアレもイマイチなのよね……」

葉華の頭にはこのトーナメントで対戦した男達が浮かんでいた。


1回戦。名前も忘れた。あれ?名前聞いたっけ?
そもそも年下は問題外だし。不良ぶっているところもイラッとくる。
いや、多少ワルっぽいのは嫌いではないが、知性が感じられないのではお話にならない。

2回戦。ゴルドとか言ったっけ?
ルックスはまあ、いい。そこそこ頭も切れそうだし、能力もありそうだった。

「でもなーんか、頼りないのよねえ……」

自分が勝ったからそう思う訳ではない。
どうも、彼女からすると『チャラい』感じを受けてしまったのだ。

「はあ、もう決勝かあ……これでラストチャンスじゃない……『出会い』の」


敗退したスタンド使い達が聞いたら激怒しそうな台詞だが、彼女には彼女の目的がある。

「何が『引かれあう』よぉぉぉぉ……さっぱりいいオトコいないじゃない!」

バタン
「はあああ……彼氏欲しい」

机にうつ伏せながら葉華がそう呟くと同時に、


ガラッ

図書室のドアが空く

「きゃ!」


びっくりした葉華の声に気づいたのか、ドアを開いた男が口を開いた。

「あれ?誰かいるのか?驚かせちまったなら申し訳ない!」

「い、いえ……」

「まだこの時間じゃ誰もいないと思い込んでてな!ノックもせず失礼!ゴメンナサイ」


(あら……この人が決勝の対戦相手かな……?)

という葉華の視線にまるで気づかないように、男は窓の外に景色に目を奪われる。


「おお!いい天気!そして素晴らしい景色だな!」

「あ、あのー……」


葉華の声が聴こえないのか、窓の方へ一直線。

「ほぉ~!ここじゃもうハナミズキが咲いてるのか!この辺はあったかいもんなあ!」

「え、えーと……」


ショーウィンドウにへばりついてトランペットを眺める黒人少年ばりに、窓から見える花咲く木々に夢中になっているその男。

「おお!でもまだミモザも花が残ってるのか!実に美しい!」


「……あのー……」

「っと、すまんすまん。お嬢さんも美しいよ!……って、もしかしてあんた『対戦相手』さんかい?」


(え?わ、私が美しい??きゃー!…………じゃ、なくて、えーと)
「あ……えと……じゃあ、やっぱり貴方が?」


「俺は<エツィオ・クラーツ>。あんたみたいなお嬢さんが決勝の相手とは驚いたが……よろしくな!」

「<満木葉華>です。よろしく、エツィオさん……じゃ、始めますか?」

「ん~……指定の開始時間にはまだ一時間はあるだろ?時間までもうちょっと外見てていいかい?」

「はぁ……構いませんが……お花好きなんですね」


「ヨーカ!俺が好きなのは花だけじゃない!植物!動物!自然!全ての命あるものだ!」

と、言って、エツィオはまた窓にへばり付く。


「はぁ……」
(……っていうか……私よりも樹ですか?)

そんな葉華の戸惑いもヨソに、エツィオは初めて訪れたこの地の自然観察に夢中だ。


「おおっ!あの樹、カツラか?Cercidiphyllum japonicum?図鑑で知ってはいたが……初めて見た!」



キラキラと目を輝かせながら窓の外の木々を眺めては歓声を上げるエツィオの顔を、しげしげと眺める。

(いい歳して子供みたい……ふふっ)
(でもなんだろ……何かに夢中になってる男の人って、素敵よね)

いつの間にか、もう少しエツィオの事を知りたくなっている葉華だった。



「……あの、エツィオさん」

「あれはスギじゃないか!?Crytomeria japonica!これも初めて本物見た!」


(え!?珍しいの?スギが?……じゃない)
「えー……エツィオさん?」

「!……っと!すまんすまん、ヨーカ!つい夢中になってしまった!俺の悪いところだ!」

エツィオは決まり悪そうに頭を掻く。


「……あの、良かったら、ですけど」

「ん?」

「開始の時刻まで、私にもここの植物のこと教えてくれませんか?」

「おお!喜んで!じゃあまず……あの一番高い木を見てくれ!あれはヒマラヤスギ。世界三大造園樹の一つに数えられる……」



~~~~ エツィオ先生の樹木学講義(大部分省略) ~~~~


「ん?セコイヤとメタセコイヤは属が違うんだ!セコイヤは常緑樹!メタセコイヤは落葉する!」
「この学校のメタセコイヤもかなり大きいなあ……25mってとこか?」
「でもメタセコイヤはかなり成長が速いんだ!あの大きさだったらせいぜい樹齢数十年ってとこかな」
「一方のセコイヤは数千年かけて100mになる!」

「ふ、ふむふむ……」

延々と熱心にマシンガン樹木トークを続けるエツィオ。
その話はかなり専門的なものであり葉華は(たぶん)その半分も理解なかったが……

(すごい知識!この人、自然保護の仕事してるって言ってたけど……大学の先生にもなれるんじゃないかしら……)
(専門分野があって、専門知識があって……ワイルドでイケメン……素敵!!!)
(しかもスタンド使いとしても、この決勝まで来てるってことは強いのよね!!!きゃーーーー!)

葉華の網膜に映るエツィオが猛烈な勢いで脳内補正の度合いを強めていく。


「あ、樹齢数千年と言えば、ヤクスギ見たいなああ!ヨーカ、屋久島に行ったことはあるかい?」

「はい!?……い、いえ、私もありませ……」



キーンコーンカーンコーン



誰もいない学校にチャイムが鳴り響く。

はっとして腕時計を見る葉華。


試合開始の時間だった。


「あの……エツィオさん」

「ああ、残念だが楽しいトークはここまでか。樹だけじゃなく、動物や虫の話もしたかったが……」

「始めます……か?」

「うん、その前に、だ。一つお願いがあるんだがいいかな?」

「何でしょう?」

「もし俺が勝っ……いや、俺が『優勝』したら、帰国した後の俺にソメイヨシノの苗木を送って欲しいんだ」

「はい?」


「いやー、折角この国に来たんだ。じっくり固有種なんかを見て回りたいんだが仕事もそうそう休めないからなあ……」

エツィオは心底残念そうだ。

「前からジャパニーズ・サクラに憧れててね!家の横に植えたいんだよ。どうかな?」



「分かりました。約束します……じゃ、じゃあ、私が『優勝』した場合のお願いをしてもいいですか?」

「ん?なんだい?」


「え、えっと……」

ドキドキ



「賭けを持ちかけたのは俺だからな!大抵の話には乗らせてもらうよ!」


「……あの、ですね」

ドキドキドキ


「わわわわわわわ私のっ!」

ドキドキドキバクバクバク


「かかかかか彼氏になってくださいっ!」
(きゃー!初めて自分から告白しちゃったーーー!葉華やるぅーーー!きゃーーー―!どきどきどき)


「へ?」


「あ、あの、エツィオさんがゲイとかなら諦めますけど!どどどどうですか!この賭け!?」

葉華は耳まで真っ赤になっている。



「彼氏って……えーと……俺にヨーカの恋人になれ、ってこと?」

「は、はい!」
(きゃあアアああ!恋人ですってーーーー!恥ずかしいいいいい!」


「ふ、ふーむ……」


今にも火を吹きそうな顔の葉華を、エツィオはつま先から頭のてっぺんまで、しげしげと見る。
恥ずかしいのか目を伏せていた葉華は、エツィオが自分の『ある一部分』に特に注目していたことに気づかなかった。


「うーん……ヨーカ、キミに言うべきことが3つある」

そして、右手の指を『3』の形にしてゆっくりと口を開いた。


「1つ目」

「は、はぃい!」

「俺はゲイじゃない」

「は、はい!!あの!ゴメンナサイ変なこと言って、私緊張して……!」


いやいや、というように表情を崩してエツィオは指を折る。


「で、2つ目。キミの『優勝』はない。俺は負けないからな!」


「ぐぐ……で、でもわかりませんよ!私だってここまで勝ち抜いたんですから!」
(で、でも、この自信!エツィオさん素敵!きゃあああああ!!!)


「はは!まぁそうかもな!これは失礼した……で、3つ目」

そう言って人差し指を残してまた指を折る。


「えーと……なんというか」

「……な、なんですか?最後は」


「そのー……なんだ、これまた失礼で言いづらいんだが」

立てた人差し指を眉間にに当て、困った顔になる。


「……な、なんですか?」

(どきどきどきどきどき)


「キミの恋人になれ、ということだがな」

「は、はははは、はいぃ~!」


「んー……自分でいうのもアレなんだが……」

「……」

(どきどきどきどきどきどきどき)


一呼吸。
そして、ふぅ、と息を吐き出し、エツィオが一気に言葉を吐く。



「大っ変申し訳ないんだが、俺は筋金入りの巨乳好きなんだ!いや巨乳以外は対象外と言っていい!」

「きょ、きょにゅ?」

「故に!誠に恐縮だが!どう頑張っても!キミに恋愛感情を抱けるとは思えない!ゴメンナサイ!」


エツィオはそう言って葉華に深々と頭を下げる。






ブツンッ





何かが切れた音がした。


「ま、まあ、そいう訳だから、賭けは無しで……」

と言いながらエツィオが頭を上げ


「死ねええええああああやあああああああ」
ヒュン!


目の前にあったのは、ナイフのように尖った葉華の手刀!!!帽子をかすめる!


「うおおお!!!!」

慌てて身をかがめるエツィオ。



「死ねっ!」
シュ!

「死ねえっ!」
スパッ!


「まて!ヨーカ!謝る!俺が悪かった!」

「うしゃああああああああああああ!!!!!」
シパパパパパ!!!!


目を三角にし髪の毛を逆立てた葉華による、怒涛の手刀ラッシュである。
身を躱すのも限界だ。

「痛っ!」

ついにエツィオの頬をかすった。


(や、やべー……ヨーカあまりの形相にスタンド出すの忘れてたぜ!)



「くぬぉらあああ貧乳で悪いかあああ死ねえええええぇぁあ!!!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!!


「うおおお!このお……っ!いいかげんに!『ツリートップ・ロック』!!!」


『ツリートップ・ロック』はスピードに優れるスタンド!
葉華のラッシュを捌くには十分だが……


(くっ……なんだこのスピードは!?スタンド能力で肉体を変化させてるんだろうが……)


「どいつもこいつも男はああああああそんなに脂肪の塊が好きなのかあああああああああ!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!


キレた葉華の人間を超えた異常なスピード相手に大苦戦である。

(ぬうううう!このままじゃ防御が精一杯じゃねーか!……貧乳とはいえ女を傷つけたくはなかったが!)


「おりゃあああああこのぉおおおおお!」

ビュン!
バシィ!

今まで捌くだけだった、葉華の攻撃を弾く!
バランスを失って一瞬よろける葉華。


「すまねーが!戦闘不能にさせてもらうぜ!おりゃあああ!」

一撃で気絶することを祈りつつ『ツリートップ・ロック』の腕を葉華の鳩尾に叩きこむ。


クシャッ


「え?」

確かにパンチを叩き込んだはずだった。


しかし、まるで丸めた新聞紙を叩いたような感触。

いや、葉華の殴られた部分は実際くしゃくしゃにした紙のようになっている。


パンチを受けてフワリと後退する葉華。

「ふん!スタンドのスピードに自信がおありのようですけどね!打撃じゃ私に勝てないわよ!」


(なんだ?今のは!?……紙か?)

しかし追撃をしない訳にもいかない。
『ツリートップ・ロック』は二撃目を叩きこもうとパンチを繰り出す。


ブンッ!


空振り!

(なっ…ヨーカが消えた!?いや違う!)


サクッ!

「いてえっ!」


葉華は一瞬にして体を薄くし、床の上にいた。
その状態から例の手刀を繰り出して、『ツリートップ・ロック』の足に切りつけたようだ。


「打撃じゃ勝てないって言ったでしょ!この胸フェチ!」

「ち、違うぞ!俺は胸フェチじゃない!それは胸全般好きな奴に言ってやれ!俺は巨乳専門だ!」

「きぃいいいぃいいいいいぃいいぃ!」

慌てて『ツリートップ・ロック』で踏みつけようとする。
しかし紙のようになった葉華はそのままスッと移動し、床と本棚の僅かな隙間に入り込む。


(くうっ!ヨーカの能力は体を紙みたいにすることか!)

なんとなく相手の能力は解ってきた。

(どうする?俺も細かい枝をあの隙間に作ってヨーカを絡めとるか?)


と、思った刹那


ドンッ!

本棚がエツィオ目掛けて倒れてくる!

「あぶねえっ!」


間一髪で躱すエツィオ。
恐らく、本棚の向こう側に移動した葉華が体を戻して本棚を倒したのだ。


チラリと葉華の姿が見えた気がした……?と思う暇もないまま


ドンッ!ドンッ!


次々と重そうな書庫が倒れてくる。

「くそっ!『ツリートップ・ロック』!!!」

ピュウ!ピュウ!ピュウ!
ガシッ!ガシッ!ガシッ!

片手から『種』を発射し、瞬時に生やした枝で本棚を固定する。


お陰で本棚の下敷きになるのは避けられたエツィオだが、葉華はお構いなしだ。
次々に本棚を倒してくる。

「ぬおおお!」ピュピュピュピュ!ガシガシガシガシガシガシガシガシ!

『ツリートップ・ロック』も全弾使い果たしたところで、この図書室にあった全ての本棚が床に倒された。


(滅茶苦茶しやがるぜ、あの貧乳女)
(さて……ヨーカ……次はどう来る?)


床一面に散らばった本を眺めながら葉華の出方を待つ……と

(おおっ!これ、日本の動植物資料じゃないか!欲しい……!)

とその一帯に積み重なる本に目を奪われた瞬間、



バタバタッ!
「え!?」


その本の周囲数冊が一斉にエツィオ目掛けて飛び上がる!
無論『ツリートップ・ロック』であれば、防御するのは容易いが。

(なんだこれ!?攻撃のつもりか?)


「余所見してるんじゃないわよ!この変態生き物オタク!」

どこからか葉華の声が響く。

「おいおい、そんなんで俺を攻撃してるつもり…!うおっ」

バタバタッ!


再度飛んできた本を『ツリートップ・ロック』で迎撃しようとした瞬間


スパァ!
「痛てえ!」


足元にある本から飛び出た手刀にまた足首を切られる!

(つぅ!……どこにいるんだヨーカは!?)


っと、混乱したエツィオめがけ、今度は右から左から大量の本が飛んでくる!

「なっ!うおおお!『ツリートップ……」


サクッ!

飛んでくる本にスタンドを向けた途端、ふくらはぎに手刀が突き刺さる!


「痛っ!下かっ?」

と、慌てて『ツリートップ・ロック』に足元の本を蹴飛ばさせるが、


スパン!
「くあっ!」

今度は飛んでくる本のページの中から出た手刀に肩を切りつけられた。

一撃一撃が致命傷になるほどではないのが救いだが、エツィオはやられたい放題である。


「あははっ!そろそろ『降参です』って言ったらどうです!?このエロ男!」

「くっ、俺は巨乳じゃなきゃダメってだけで痛っ!特別エロい訳じゃ痛てええ!ないっ!くそっ!」


実際、エツィオは防御で精一杯だ。


(くそっ!このままじゃ全身切り傷だらけになっちまう!……こうなりゃしょうがねえ!)


ダンッ!
襲い掛かってくる本の群れを跳ね除けて、ジャンプ一番!

飛び先は先ほど『ツリートップ・ロック』が生やした枝の近く。


「会場を壊したくはなかったけどな!ヨーカ!あんたの攻撃がエグいんでこりゃ自衛の為だ!許せよ!」


そう宣言して『ツリートップ・ロック』は自分の生やした枝を折り、別の枝にその先端をあわせ高速回転!
ブオオォ!

たちまち摩擦熱によって黒い煙があがる。


「この枝はここに来る途中で見たヒノキって木だ!ヒノキは『火の木』だ!そしてもう枯れている!よく燃えるぜ!」

煙はやがて炎に変わる。


「そして周りは……本……紙ばかりだ!どうなるかわかるよな!」

ボオオオォォォォ……
たちまち本に燃え移る!


「ヨーカ!キミも燃えちまう前に『降参』して変身を解いて出てきな!」
(あー……このままだと火が強まると貴重な日本の動植物資料が燃えちまう……ちくしょう)


返事がない。


「ヨーカ!このまま火の勢いが増せばスプリンクラーが作動するぜ!火を避けたとしても、そのままじゃ濡れたらマズイだろ?」
(それに、ずぶ濡れになった図鑑じゃなあ……早く出てきてくれよ……とほほ)

と、既に勝った気で別の心配をしていたエツィオにどこからか葉華から返答があった。


「いいですよ。出ていきましょう」

「よし!『降参』するんだな!?」

「いいえ。『降参』するのは貴方のほう」

「なっ」



エツィオに『何を言ってるんだ?』と口に出す暇はなかった。

突如足元の本の中から実体化した葉華。

その細い体のどこにそんな力があったのか?という勢いでエツィオに向けて全体重を掛けてタックル!


ガシャーーーーン!


そのまま二人は窓を突き破り、校舎の外へ……ここは4階だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「あはっ!ゴメンナサイ!『降参』を言う暇なかったですね!」

「ヨーカお前!うおおおおぉおおぉお!」

「じゃ、さよならエツィオさん!『オーメンズ・オブ・ラブ』!」



落下しながら再びスタンドを発動させた。
紙のようになった体はひらり、と落下をやめ大気の圧力に身を任せる。

「女をまず胸から見る人、大嫌いです」

ふわり風に舞いながらそう呟く葉華。



一方、落下中のエツィオ、

「うおおおおぉおおお!間に合うか!?『ツリートップ・ロック』!!!』

ピュンピュンピュンピュン!

落下しながら『種弾』を地面に向けて発射!



メキメキメキメキメキ!
バキボキバキメキバキバキバキバキバキ!


「ま、間に合った……ぜ……ぐぐぐぐぐ」

一斉に伸びた枝は、エツィオのクッションとなり、地面に直接叩きつけられることは回避出来た。

(ヨーカは紙になって飛んでったのか?)
(しかし……切り傷祭りから逃げられたと思ったら、こんどは打撲に擦り傷だらけか……痛ぇえええ!)

(やっぱり……貧乳にはろくな女いねえなあ……やっぱり女は巨乳じゃなきゃ……つぅ)

あらぬ方向に偏見を強化させながらも、まだエツィオはまだ戦う意思を失ってはいない。


(とりあえず……体勢を建て直す時間が欲しい……)

痛む体を引きずりながら、目に入った小屋に隠れようとする。



「ここは……」

ブタ【ブー】
ヤギ【メェ~】
ニワトリ【コーッコッコッコ】


(飼育小屋かよ!な、懐かしい~~~~っ!)

思わず傷の痛みも忘れてエツィオは感慨にふける。

思えば、自然保護官を目指す最初のきっかけは小学校の時にやった(というかやらされた)飼育係だった。
そこから生き物や自然に対する興味が芽生え、今に至るのである。

(今の子供も飼育係とかあるのかね?あー夏休みとか当番で餌やり登校とかしたなあ)

(って、対戦中だったな。いかんいかん……あの女を倒す方法を考えねば)
(え!うお!孔雀がいる!?最近は学校で孔雀とか飼っちゃうのか!?すげえ……)

どうにも気が散ってならないようだ。



そのころ葉華は

「ちっ……まだ動けるんですか……」

2階のテラスに着地した葉華に、飼育小屋に逃げ込むエツィオの姿は丸見えだった。



(ふーん……一時退避って訳ですね。でも、そこに逃げ込むのはあまりいい選択じゃない)
(私の能力を把握してながら、そんな小屋に隠れるって……)


外、たとえばグラウンドの真ん中にでも陣取られるのが葉華は一番嫌だった。
彼女の能力では隠れるもののない空間での戦闘は不利だ。
飼育小屋のような閉鎖空間ならば、先ほどの図書室ほどではないにせよ、まだまだ彼女にとって有利に戦える。

(やっぱり巨乳好きは知恵がないわね……知識ばっかりのオタクって感じ)


「ま、生き物小屋が墓場になるならエツィオさんも本望ですよね」

そう呟き、ふわり、と壁を蹴って小屋の上へと向かう。
紙の体は音も建てずに小屋の屋根に着地した。




一方、エツィオ。

(うーん……今日は休校だろ?この対戦のために誰も登校してないはずだが)
(ってことは、こいつら今日の餌もらえてるのかね)

相変わらず動物達に気を取られている、

(……じゃなくて、だ。要はあの隙間に隠れて切りつけてくる能力を封じなきゃならん)

と、ちゃんと対戦中であることを思い出してくれたようだ。

(ってことはミスったな……こういう狭いところに隠れるより、見通しのいい所で勝負すべきだった……)
(あとは……悔しいが、ヨーカの言うとおり『紙化』されると打撃で倒すのは難しい)
(燃やすか、濡らすか……あとはシュレッダーに掛けるくらいか?)

ブタ【フゴフゴ】

と、擦り寄ってくるブタの頭を撫でながら『対策』を考えるエツィオだったが


「なーに考えてるんですか?変態さん!」

葉華だ。
声だけしか聞こえないが、確かにもうこの小屋内に侵入している!


「おい!だから俺は巨乳専門だけで断じて変態では」

「どーでもいいです。そろそろ終わりにしましょう。」

(ちっ!見つかってたか!くそっ!)
(少しでも見通しのいいところへ、だ!)

外に出ようと走りだすエツィオ。
しかし!

スパッ!


「つっ!……またかよ!」

足を切られたエツィオが呻く。
板張りの壁の隙間から手刀が飛び出してきたのだ。


「もうここから出られませんよ?『降参』するまで、この小屋の隙間全てが貴方を攻撃すると思ってください」

「くぅ……お前みたいな貧乳女に降参してたまるか!」

「ぬわんですってええええええええ!」


シュパ!

「うおっ!」

シュッ!

「おっと!」

ヒュン!

「わわっ!」


ブタ【ブヒー】


壁の隙間から攻撃してくる手刀を躱しながら逃げる。

(くそう……さっきの図書室よりマシとは言え……参ったな)
(この飼育小屋は動物たちで一杯。燃やしたくないぞ……!っと!)


手刀を避けた弾みによろけてしまう。
受け身を取りながら転がった先には、


ヤギ【メェェェ】


見渡せば四方7~8メートルほどの空間である。

(いてて……ここはヤギ部屋か……?)
(とりあえず壁際はマズい!)

そのまま急ぎ転がって部屋の中央へ。

(どうだ!?ここはまだマシなんじゃないか?隙間からの攻撃は届かないだろう!)


『ツリートップ・ロック』を展開させ、部屋の中央で身構える。


「ヨーカ!どうしたかかってこい!隙間のない空間では戦えないか?」

「……少しは考えたようですね。でもそのまま一生そこから動かない気ですか?」

「ぬう……あんたこそ、そのまま俺を見張りつづける気か?」

「さあ?私は攻撃するのも、お昼寝するのも、戦いをやめて帰るのも自由ですからね」

「我慢比べする気か?」

「もうおしゃべりはやめますよ。次に私があなたに話しかけるのは勝負が決まった後。それじゃエツィオさん、ごゆっくり!」

「おい!まてまてまて!」


そして静寂。


(はぁぁぁぁ……ホントに黙りやがった)
(なんとか会話しながら時間を稼いで『対策』を練りたかったが)
(とりあえず、我慢出来るうちは『ここ』を動かずに何かいい手を考えよう……はぁぁぁ)



一方、葉華。
今は天井の中に潜んでエツィオを監視していた。

(ほんっとに諦め悪いんだから!……これだから巨乳好き男は……)
(とっとと懲らしめてやりたいけど……)

葉華の方もエツィオが『そこ』にいる限り迂闊に手が出せないのは事実である。

(なんとかあそこから動いてもらわないと……よし!)


なにやら『策』を思いついたようである。



エツィオ。
ヤギ部屋の真ん中で頭を抱えている。

(どーする俺?って、どうしようもないよなあ……)
(あ!女ってのは男よりトイレが近いもんだ!トイレに限らず、ヨーカがここを離れる時が解れば……)
(飯とかあの日とか、いろいろあんだろ!よし、耳をすませ俺!)
(って、それまでずーーーーっと、神経フル回転させ続けるのか?……俺が先にまいっちまう)


ヤケクソ気味に色々考えを巡らせがどうもいいアイディアが浮かばない。
その時

ゴソゴソゴソ……

「……ん?」

たまにする動物達が立てる音とは何か異質な音がする。

(この音はヨーカか?……いや『紙』になれば、音をほとんど立てずに移動することくらい出来るだろう)
(だとすれば、この音は『罠』だ)
(もちろん、動物が変な動きをした可能性もあるが……って、うおっ!)

シュル……
向こうの方、もちろんエツィオのいる場所にはとどかないが、壁と床の間から、薄っぺらになった腕が伸びてきた。

「お、おい……ヨーカ?」

思わず声をあげたエツィオに手を振り、その手はシュルリとまた隙間の中に戻る。

(陽動か?くそっ!のってたまるかよ!)


と思った瞬間、


コンッ!


「痛っ!」

背後から小石のようなものを投げつけられた。

振り向くとエツィオと『ツリートップ~」の腕がとどかないギリギリの距離に葉華が立っている。


ヒュン!


「おっと!」


もう一度エツィオに小石を投げつけ、ニッコリ笑ってまた薄くなり壁の中に戻る。
思わず後を追いかけようとするが

(……っと、いかんいかん。動いたら負けだ)

なんとか踏みとどまる。


(くっそ……どうすりゃ……ん?)

またゴソゴソと上の方から音がする。

(何をたくらんでやがるんだ?)


と、今度はサイドの壁からするりと薄くなった葉華が部屋の中に入ってくる。
そして実体化。
もちろん『ツリートップ~』が踏み込んでもすぐ壁に逃げ込める距離である。
じーーーーーっと、エツィオを眺めたあと、薄ら笑いを残してまた壁に戻る。


(~~~~~~~っ!……おいおい、このままだと俺の気が狂うぞ……)


(でもなああああああ、あんな貧乳女に『降参』するくらいなら、発狂したほうがまだマシ……ん?)


スルリ……


また正面の壁と床の隙間から『紙』が入ってくる。
が、今度は実態化しない。
『紙』のまま床の上にいるのである。

(今度は何を……?)


そのまま数分が経過したが、『紙』はそのまま床の上。
エツィオも部屋の中心から動かない。

(おいおい、なんだよ!このシュールな状態は……)

学校の飼育小屋。
その中のヤギ部屋。
部屋の中央で身構える男。
その男から離れた壁近い床の上には『紙』。
その部屋の片隅には白いヤギ。

ヤギ?



ヤギ【……!……メェエェエ~~~~】

ヤギが『紙』に気づいた。
のそのそと『紙』へと近づいて行く。


ハッとするエツィオ。


(おいおい……ヤギちゃん!その『紙』はマズいぜ!)




その頃、その『紙』頭上に潜む葉華もヤギの動きに気づいてた。

(ちょ、ちょっとヤギさん!だめですよ!)

そう、『紙』は葉華の『罠』だったのだ。
『紙』はさっき図書館から持ちだしたタダのコピー用紙。

エツィオの意識を『紙』に惹きつけ、もしエツィオが少しでも『そこ』を動けば別の場所から近づいて攻撃する。
もし動かなくても、ならば別の場所からまた小石を投げるなどしてプレッシャーを掛ける。

エツィオの挙動を見て『紙』はまた部屋の外に取り出せばいい。
別の場所からまた出したり引っ込めたりしてプレッシャーをかけ続ければいい。

そのつもりだった……が、


ヤギ【メェェ~】

ヤギはどんどん『紙』の方へと歩いていく。


(あらららら……あの『紙』食べられちゃう?)
(まあ……そしたら別の方法を考えればいいんですけどね!)
(プレッシャーを掛ける方法は他にもいっぱいあるし)


と、その時である、ついにエツィオが声をあげた。

「おい!ヤギ子!その『紙』はダメだ!食べるな!」


ヤギ【メェ?】

一瞬エツィオの方に振り向いたがヤギは歩みを止めない。


「いやいやいやいや!だめだ!行くな!食うなって!」

必死で呼びかけるエツィオをヨソに、ついにヤギは『紙』に到達する。


ヤギ【メェェェ~】

ヤギはなんだか嬉しそう。



「ちくしょう!ダメだ!うおおおおおお!」

ついにエツィオが動いた!
『紙』が食べられるのを防ごうと!
今まさに『紙』を咥えようとするヤギに向かって走る!


(……!エ、エツィオさん?勝負を諦めた?ていうか……)
(もしかして、私が食べられちゃうと思ってる!?)

急に葉華の胸が高鳴る。


ガシッ!

ヤギが『紙』に口をかけたと同時に、エツィオがヤギを抱きかかえる。

「食っちゃいかああああああん!ダメだ!コラ!口を離せ!」

ヤギ【グググ……ヴェ~~~~~】


ヤギの口に手をつっこみ、紙を取り出そうとするエツィオは必死だ。
やっとありついた『餌』を取られてたまるかとヤギも必死。


「いでででで!噛むなコラ!ダメだと言ってるだろ!」


(エツィオさん……私のためにあんなに必死に……!)
(さっきまで命のやり取りをしていた相手の私を守るために……その勝負を捨ててまで……)

葉華は心からポロポロとカサブタが剥がれ落ちていくような気分を味わっていた。


「食うなああああああ!クソおおおおお!どりゃっ!」


ヤギ【ヴェ~~~~~~~】

ついに紙を口から取り出すのに成功!
エツィオは安堵の息をつく。


「はああ……危なかった…………」


その時、


「あ!あのっ!」

力の抜けたエツィオに背後から声が掛けられる。



「ご、ごめんなさい、エツィオさん……その『紙』は私じゃないんです……」

いつのまにか部屋の中に入り、実体化した葉華が立っていた。

「……ヨーカ?」

「その『紙』は私が『罠』として置いたタダのコピー用紙……ごめんなさい、私のせいでそんなに必死に……」


葉華の目から涙が溢れる。

「私『降参』します!私のためにそんなに必死になってくれる人に『死ね』だなんて、私……私……!」

「…………この『紙』はキミが置いたのか?」


自分から『降参』を宣言した葉華は感極まった様子で言葉を続ける。


「だから!私!前は挫折したけど、またバストアップ体操します!」

ボロボロと涙をこぼしながら。


「あの雑誌に載ってた『3ヶ月で2カップUP↑↑!』のクリームも試します!」

必死で訴える。


「なんなら豊胸手術も!……って、あ!ごめんなさい、ナチュラリストのエツィオさんは、そんなのダメですよね!」

(いけない葉華!焦っちゃダメ!まずは『お友達』でいいの!)
(エツィオさんが私を助けるために必死になってくれたように、私も必死でバストアップするのよ!)
(だから、本当にバストアップ出来たら!その時は……)

「だから!だから!私の負けです!でもこの戦いが終わっても『お友達』でいてください!」


涙の訴え。


それを受けてエツィオは、

「……この『紙』はキミが置いたんだな?」

「え……は、はい!だから私は最初から無事だっ」



ブンッ!

ドグシャア!




「え……!?」


葉華は、一瞬何が起こったのか解らなかった。


(えっ!?えっ!?)

自分の顔にめり込むエツィオの生の拳。
感じる鋭い痛み。
ようやく自分がエツィオにぶん殴られた事に気づく。


「ギニャアアアアアア~~~~~~~!」

バタッ!

鼻血を吹いて倒れる葉華。


「くぉおおおおおおの、糞バカ貧乳スイーツ女がああああああああああああ!」

ワナワナと震えながらエツィオが吠えた!



「な……なんで……」

「お前は!いまだに!いい歳して!ヤギが紙を食ったらいかんということを!知らなんのか!」

床に突っ伏す葉華の顔先に指を突きつけてエツィオが怒鳴る。


「ヤギが紙を食う、なんてのはな!100年前の話だ!今の紙は薬品で一杯だ!」

「ふ、ふぇ……?」

「植物オンリーで作られてた昔の紙とは違う!ヤギには消化出来ないんだよ!」

(そ、そうなんだ……知らなかった……って……えええええ!?)


「ヘタしたら胃腸に詰まって死ぬんだぞ!それをお前は!!!!!」

ワナワナワナワナ


ヤギ【メ……メェェ~~~】

大声をあげるエツィオが怖いのか、ヤギが怯えた声をあげる。


「お!すまんすまん!ヤギ子は悪くないぞ!悪いのはこの女だ!」

そう言ってヤギを撫で、抱きかかえ、頬ずりするエツィオ。


ヤギ【メェェ~】

「さ、行くぞヤギ子!ここにいるとバカと貧乳が伝染る!フン!」



スタスタスタ……

ヤギを抱いたエツィオはそのままどこかに行ってしまった。


一人残された葉華。
倒れたままの床は冷たかった。
そして流れる鼻血。
目の前にはヤギの糞。


「な……なんなのよ……もう……」

訳の分からなさに涙も枯れ、呟くことしか出来ない葉華。

……と、頭上に人の気配。


「……酷い結末ね」

いつの間にか、顔の前に黒いフード付きケープを頭から被った女が立っている。


「あ、貴女は?」

「アナタ達の戦いの立会人よ。前の対戦でもいたでしょ?立会人」

「あ……」


「……で、アナタ……さっき『降参』を宣言したみたいだけど、負けでいいのかしら?」

淡々とした口調で『立会人』を名乗る女が葉華に尋ねる。


「………………」

「いいのよ?『降参』云々はアナタ達が決めたこと。どちらかが『再起不能』になるか……死ぬまで続けても」

「い、いえ……もう私の負け……でいいです……ある意味『再起不能』ですし」


「そう……」

『立会人』は無愛想に頷く。


「では決勝戦、決着ね」

★★★ 勝者 ★★★

No.5307
【スタンド名】
ツリートップ・ロック
【本体】
エツィオ・クラーツ

【能力】
指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす








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最終更新:2022年04月16日 20:11