第08回トーナメント:予選①
No.5067
【スタンド名】
センチメンタル・シティ・ロマンス
【本体】
鳥海 瀛璽(トリウミ エイジ)
【能力】
上空から「無生物を透過する弾丸」で狙撃する
No.6219
【スタンド名】
グッバイ・スーパースター
【本体】
犬養 由基(イヌカイ ユキ)
【能力】
殴った(触った)対象の庇護欲を操作する
センチメンタル・シティ・ロマンス vs グッバイ・スーパースター
【STAGE:廃ビル】◆6f/wZUQ8oU
夜の廃ビルで、立派な髭を蓄えた初老の男『鳥海瀛璽』は待っていた。
「……ええっっっっっっ………と」
恐らく、この戦いの『審判』、或いは運営側の男が、その場の空気には明らかにそぐわない、
シックなデザインのロッキングチェアを揺らしながら、台本を棒読みしたような口調で話しかけてきた。
鳥海はその男が何を聞きに来るかは分かっていた。
事前に名簿を確認する動作から――――
「鳥海さん。アンタこのン名前。何てン読むんですかねン」
「その口調は普通に気に喰わんが聞かれ慣れているので答えよう。」
「瀛璽は、エイジと読む。瀛は「始皇帝」時代の秦国の国姓、璽は王権象徴たる「玉璽」からだ」
「親は国を収めるほどの大人物になって欲しかったんだろうがこっちとしては敵わん」
「何せパソコンで名前を打つのに「ユニコード」を使わにゃあならんのだからな」
「もう38にもなるのオッサンに複雑なタイプはキツイ」
そう言いながら、エイジはズボンのポケットから煙草を探そうとするが、ない。
ビルの裏に止めてある車に置いてきてしまったようだ。
「……ッチ」
「ああ、ありますよン煙草なら」
「…………済まんね」
運営側の男は、気前のいい事に未開封の煙草を、一箱エイジにくれた。
そして、すぐに吸うことはなくズボンのポケットにそれを仕舞った。
「へーン…………おっと、来まンしたよエイジさん」
見届け人はただ、相変わらず口調を変えずに、鳥海エイジの対戦相手の来訪を告げる。
「はいン。そいじゃあ私ンはこれで」
「えーっっっっっと、犬養さんだっけン? それから鳥海さん」
「勝ったらンこの番号に連絡ンしてくださいねー」
それだけ言うと、男はビルの窓に脚を掛け、飛び降りた。
「うわー もういねえや。ここ8階建ての5階だけど」
今しがた来た女子『犬養由基』は、窓の外を覗き込んで、
運営側の男がすでにどこにもいない事を驚愕した。
外には足場になるような場所などどこにもない。なのにだ。
「まあそんなことはどうだっていいだろう。さした問題でもない」
エイジは、さっきまで運営側の男が座っていたロッキングチェアに、軽く手で払って埃をぬぐった。
「潔癖症?」
「まさか。ならば素手で椅子を払うなんぞせやせんよ」
エイジはそう言いながら、胸ポケットからハンカチを取り出して腰掛け部分さえも軽く拭く。
そしてそれからコートをイスに掛け、ズボンのポケットから煙草を取り出し、火を付けて吸い始めた。
「ちょっといいかい? 一服してからでも始めるのにゃあ遅くはねいだろう?」
「うえー」
いいかい? そう聞いておきながら返答は求めなかった。
煙草をふかしながら思いっきり身体の力を抜き、椅子に踏ん反り返るエイジに、由基は少なからず辟易した。
だが、実際はそんな態度などどうだっていい。
由基は直感で理解していた。
この戦いは始まったらすぐ終わる。そんな類の戦いである。と理解していた。
由基の読みは、ある意味で的を得ていた。
その答えは、エイジの能力にある。
「さて、それじゃあ……」
どんどんと口元めがけて昇る火。
由基は、「消さないのか?」とさえ思った。
それくらい、火を放置しているし、吸っているような動作も全く見えない。
「……おっと」
エイジは、「気付いたから咄嗟に」火を消したわけではない。
火がここまで昇って来ていることに「本当に気付いていなかった」のだ。
それはなぜか。
『……今ので遮蔽物の間隔は、理解した』
エイジと由基がいる5階の遥か上空。
ライフルを構えて由基を狙撃する、『スタンド』、『センチメンタル・シティ・ロマンス』が滞空していた。
このスタンドの能力『センチメンタル・シティ・ロマンス』は、本体自身がスタンドに宿ることで、
遠隔操作型ながら高い精密性を発揮する異質な形のスタンド。
そしてその弾丸は、無生物を透過して確実に生物を射抜く能力を持っている。
無論、スタンドに宿っている間、本体は完全に無防備になってしまうのだが、エイジは創意工夫でそれをカバーしている。
コートの襟部分には、小型のテープレコーダーが設置されており、
そこから事前に録音されていた声が流れる。
煙草を吸い始めたのも由基の目を引き付けるための誘蛾灯で、
実はこの鳥海エイジは、『座って、煙草に火を付けてから、すぐに攻撃を開始していた』
「もうちょい待ってくれ。あとちょっとしたら立つからさ」
エイジは、そう言いながらも「次で仕留められる」と直感し、再度己がスタンド『センチメンタル・シティ・ロマンス』を発現する。
それにしても、思い返せば運営側の男が椅子をわざわざ持ってきているのは好都合であった。
不自然さが多少なりとも減り、戦いが開始していないと相手に錯覚させることに一役買った。
それにしてもこんなイスを持ってきているなんて、アイツも変わったやつだなあと、改めてエイジは思った。
『センチメンタル・シティ・ロマンス』を発現したエイジは、まっすぐライフルを構えて狙う。
先の一射で距離と遮蔽の計算は完了した。
見たところ、由基は警戒をしていないようだ。
『……『センチメンタル・シティ・ロマン……』』
撃とうとしたが、撃てはしなかった。
それはなぜか。
「『グッバイ・スーパースター』」
由基も、すでに攻撃を開始していた。それによってエイジ自体が傷を負ったのだ。
『なっ!?』
『センチメンタル・シティ・ロマンス』は、遥か上空から離れ、本体を護りに来ることはできない。
だが、戻るのは一瞬だ。戻って状況を確認した後、
その場を数mだけ離れて再度射撃を行う。
「…………これなら」
戻ると同時に椅子からすぐに立つつもりで戻った。
今となっては自分の戦略の悠長さを怨んでも遅い。もう何が起きようとも勝てばよかろうなのだ。
だが、戻って来て、エイジのプランは早速出鼻を挫かれた。
いや、最早「出鼻を砕かれた」と言った方が的確なのかもしれない。
眼前には無数の『小型スタンド』。そしてドヤ顔の犬養由基が、腕を組んで佇んでいた。
「…………だが、しかしッ」
「立てさえすればッ 立てさえすれば……!」
先ほどこの『魚の群れ』から受けた傷は、手数さえ多いこそ微々たるもの。
だから、覚悟さえあればこの包囲網も抜けられない事はない。
遮蔽計算が無い状態では精度も下がるが、一か八かに賭けるしか……
だが、またしてもそれは敵わない。何故か、鳥海エイジは立てない。
「……と……「トリモチ」っ!!? 何故だ 全く違和感はなかった。運営の男も座っていた」
「なのに………」
「さあね?」
と、だけ言って由基は、『グッバイ・スーパースター』全軍に突撃命令を下す。
目から唇から耳から急所に至るまで、ヒッチコック監督作品『鳥』で鳥に人々が襲われ殺されるかのように、
或いは中国で最も残酷であると言われる処刑『凌遅刑』を行なうかのように、エイジの全身を抉り削いだ。
運営の男が持ってきていた椅子は、事前に渡し、同時に買収をもしてそれを持って来させた。
その椅子には、「スイッチ」が備えられており、そこに一定以上の威力の衝撃が加わると、
仕掛けられていたトラップが開口されるという寸法だ。
さらに由基は、対戦相手であるエイジを、探偵を雇って数日間の挙動を観察していた。
その結果、「煙草や財布などをよく車の中に忘れる」ということも知っていたし、
買収した運営の男にもその情報を流して煙草を渡させた。
だが、事前準備だけではない。
他にも由基の勝利には理由があった。
一つは『能力』、そしてもう一つは『その邪悪さを隠す『異常体質』』
肉と言う肉を削ぎ落とされたエイジの死体を余所に、由基は遊びに飽きたかのようにその場を去っていた。
皮肉なことにエイジは、「遮蔽を計算していた」のではなく、
「由基に当たらぬように射させられていた」気付くことはなかった。
★★★ 勝者 ★★★
No.6219
【スタンド名】
グッバイ・スーパースター
【本体】
犬養 由基(イヌカイ ユキ)
【能力】
殴った(触った)対象の庇護欲を操作する
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最終更新:2022年04月16日 21:50