第08回トーナメント:予選③
No.6230
【スタンド名】
バロック・ホウダウン
【本体】
五百旗頭 実(イオキベ ミノル)
【能力】
光に圧力を持たせる
No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)
【能力】
微細なガラスを操作する
バロック・ホウダウン vs クリスタル・ピース
【STAGE:夜の東京ネズミイランド】◆UmpQiG/LSs
「一ォォォォつッッッッ!!!!!!!!!!!!日本男児たる者ォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
恐ろしい程の声量の波が静な昼下がりの港を震動させる。
それはまるで数十トンもの重量をもった岩が
何kmもの上空から落下したかの様な轟音であった。
港の空気がビリビリとその余震を伝える。
「労働に勤しみィィィ!!!!血汗を流しィィィ!!!!お国の為の礎となれいィィィッッッ!!!!!!!!」
近所では有名な道楽おぼっちゃんである男は、突然の出来事にポカンと口を開け
ただただいきなり怒鳴り出した男を見上げていた。
「歯を食いしばれいッッッ!!!!!!!!」
怒鳴り男が再び爆発した様に、唾を飛ばしながら命令する。
そしてボンボン男が意味を理解する前に次の爆発音が響いた。
「粛正ーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドゴーーーーーーーーンッッッッッ
フルスウィングで腰を入れた拳がボンボン男の頬を捕らえる。
男はゆうに5?・6mは宙を舞いアスファルトに叩きつけられピクピクと痙攣していた。
「売国奴めッ!!無職なんて日本国民のする事ではないわッッ!!」
男の名前は『五百旗頭 実(イオキベ ミノル)』。
簡単に言うと所謂「極右」の人間であり自分の認めない人間を
売国奴と非難し粛正して回る日々を過ごしている。
デモだテロだと云うと真っ先に駆け付け先頭切って突っ込むタイプの男であった。
ある日そんな彼の元に一人の男が訪れた。
???「君がイオキベくんかな?」
初老の男が実ににこやかな顔で話し掛けた。
実「・・・人にモノ訪ねるのに先ず名乗らないとは貴様それでも日本男児か?」
実は何時でも『粛正』出来る様に拳を握り締めながら威圧的に返事をした。
実は馬鹿ではない。一目見てこの初老の男が只者ではない事を悟っていた。
だからこそいきなり殴りかかるような真似はしなかったのである。
初老男「おっと・・・これは失礼した。・・・だが訳あって名乗る訳にはいかないんだ」
飽く迄爽やかな笑顔で初老男は、実に答える。
その爽やか且つなめられてるとも取れる笑顔が実の逆鱗を逆撫でする。
実にとっては逆鱗を逆撫でなのである。
実「貴様ァァァーッッ!!そこに直れッッ!!!!粛正であるッッッ!!!!!!!!!!!!」
キレてはいる。プッツンしている。しかし実はこう言う現場に慣れている。
何時もの様に振りかぶって大きなモーションで殴りかかっても当たらないと読んでいた。
それだけ相手の実力を見極めていた。
小さなモーションからの速くそれでいてピンポイントに
クリティカルするような拳を初老男に突き付けた。
実「(血反吐吐き散らせ!!!!売国奴めッ!!!!)」
1秒にも満たない時間の中で、実の頭の中では歯が数本ぶっ飛び
口から血を吐き散らす初老男のヴィジョンが見えていた。
がー。
現実での1秒後には違う結末が実の目に映っていた。
なんと初老男は実の拳を僅か数cm顔を動かし難なくかわしたのである。
そしてその微笑みも寸分も変わらない。
実「・・・用件はなんだ・・・・」
負けを認めたくない実は機を伺う為に会話に応じた。
初老男「ふふ・・・噂以上の人物だね君は。まあ・・・用件と言うのはこれだ」
初老男は懐から一枚の封筒とチケットを取り出し実に渡す。
初老男「簡単に言えばデートをしてきて頂きたい。意味はわかるかね?イオキベくん」
チケットはネズミイランドのモノ。そして封筒にはトーナメント招待状と書かれていた。
実「・・・例のアレであるか。良いだろう。参加してやろう。
ただし!!!!条件がある!!!!!!!!」
実は野獣の様な目で男を睨み付ける。
実「優勝の暁には貴様との再戦を所望するッッッ!!!!」
初老男はやれやれと肩を竦め「いいだろう」と短く答え部屋を後にした。
実「売国奴め・・・首を洗って待っておれ・・・・・・」
実は怒りと歓喜の入り雑じった感情で鼻血を垂らしながら笑った。
クックックックッ・・・・・・・・・
帰宅する学生でごった返す校門の前で少女は声を欠けられた。
「ガラスのハートちん!まったねー!」
少女はその声にほんの少しの愛想笑いを浮かべ小さく手を振る。
「ガラスのハート・・・か・・・」
溜め息混じりの呟きを溢しやや俯き加減で家路へとついた。
『ガラスのハート』。名は体を表すとはよく言ったモノ。
彼女の名前は『新房 硝子(シンボウ ショウコ)』と言う。
引っ込み思案で大人しくそしてとてもナイーヴであった。
ほんの些細な事でも心が折れてしまい、熱を出し寝込んでしまう。
中学の時には片想いの先輩に振られ、なんと2週間も病院のベッドで過ごした。
そんな弱さに付け加え新房硝子である。
硝子(ガラス)の新房(シンボウ→シンゾウ)と言う訳だ。
これはもうほぼ運命と言っても良いだろうと本人すら認めていた。
トボトボと小さく弱い足取りで30分程歩いた所で家に辿り着き部屋に入るなりベッドに倒れ込む。
硝子にとってはこの帰宅すらも疲れる要因になっていた。
ピンクのカバのようなキャラクターの大きなヌイグルミを抱き寄せ呟く。
「・・・強くなりたい・・・・・」
虚ろな目でヌイグルミを見つめ自分の言葉を頭の中で反芻していた。
???「ツヨクナリタイノカ?」
ふいに誰もいないはずの部屋の中で男の声が低くて響いた。
硝子「!」
咄嗟にベッドの端に跳ねる様に逃げ身を固くしながら辺りを見回す。
誰もいない・・・。しかし声は次の台詞に続く。
???「ツヨクナリタイ?キミハスデニチカラヲエテイルダロ?」
硝子は瞬時に意味を理解した。
硝子「・・・スタンド・・・・」
???「ソウ。スタンドダ。ソシテキミハエラバレタ。
ツヨクナルタメノステップヲキザメルチャンスニ」
硝子「・・・チャンス・・・?」
硝子は語尾を上げ問い掛ける様に呟いたがその返事は返ってこなかった。
(どう言う事・・・なの?誰・・・?チャンスって・・・?)
より身を竦め辺りを見回すがやはり誰もいない。そして声ももう聞こえないし気配すらない。
ヌイグルミをぎゅっと抱きしめガタガタと小刻みに震える。
暫くして少し落ち着いた頃に抱きしめたヌイグルミに違和感を感じ視線を落とす。
硝子「・・・!?」
見るとヌイグルミは真っ二つに引き裂かれており、中から一枚の封筒が出てきた。
『トーナメント招待状』
硝子は恐る恐る封筒を取りだし中を確認した。
それにはどんな文章でどんな事が書かれていたのかはわからない。
が、しかし硝子は決断した。トーナメントに出場する事を。
強くなる為の決断をしたのであった。
硝子「クリスタル・ピース・・・ッ!」
硝子の周りを煌めく結晶が無数に現れ夕焼けの紅い光を乱反射する。
小さな拳をぎゅっと握り締め小さな声ではあるが力を入れて呟いた。
「私に・・・力を・・・っ・・・」
数日後の真夜中0時。誰もいないネズミイランドに実は降り立った。
実「こんな毛唐の遊園地なぞに呼び出されるとは至極心外であるっ!!!!」
吐きは捨てる様に呟き園内に歩を進める。
人払いされた園内には客は当然ながら清掃業務の人間も遊園地の関係者すらも見当たらなかった。
しかし何故か明かりは煌々と点いており昼間と変わらない程の明るさを有していた。
暫く歩くとメインストリートのど真中に人影が一つ。
すぐに対戦相手だと直感した。
硝子「あ、あの・・・はじめまして・・・・・・し、新房 硝子と申します。」
ちょこちょこと小走りに走ってきた少女はそう名乗り、深々と頭をさげた。
実「・・・我が名は五百旗頭 実。女子供は相手にせん!即刻この場から去ねッッッ!!!!」
まさかこんな大人しそうな少女が相手とは思わず流石の実もあっけにとられていた。
硝子「も、申し訳ありません・・・で、でも私にも目標がありまして
その・・・帰る訳にはいきません・・・」
硝子は精一杯の勇気を出して相手の目を見据えて言った。
そこに居た硝子は既に数日前迄の硝子より格段に強くなっていた。
何がそうさせたのか?何が硝子を変えたのか?それは誰にもわからなかったが
その変化は硝子自身にもわかる程見違えたモノであった。
一方実はあまりの馬鹿馬鹿しさにその身を震えさせる。
何故自分がこんなか弱そうな子供の戯れに付き合わなきゃいけないのか?
あの初老男の口車に乗ってしまった自分の愚かさに腹を立てていた。
こうなればあの男の顔面に拳を突き立ててやらなければ気が済まない。
怒りで頭が沸騰しそうであった。
実「ーっ・・・ぐっ・・・っっ・・・
貴様っ・・・この戦を理解しているか?」
相手が成人男性であればこの無用の台詞を吐く間も無く殴りかかっていたであろう。
それだけに実にとって苦痛としか言い様のない台詞であった。
硝子「・・・はい。・・・いえ・・・わからないかも知れませんが
私は退く訳にはいかないのです」
実はその言葉を聞いて最後の忠告に出る。
左腕を少女の顔の前にゆっくり突き出して叫ぶ。
実「バロック・ホウダウンッッ!!我が左腕をへし折れッッッ!!!!!!!!」
その咆哮とともに実のスタンドが姿を現す。
このネズミランドの風景には恐ろしく馴染む姿をしたスタンドが
無言のまま突き出した左腕に手刀を叩き込む。
実「ーッッッ!!!!」
実は声一つ挙げず、歯を食い縛り口から血を流しながら少女を睨み付ける。
そして有らぬ方向に曲がった左腕を再び少女の前に突き付けた。
実「わかっておるのかァァァッッッ!!!!小娘がァァァッッッ!!!!!!!!!!!!
この戦がこう言う事だとわかっておるのかと聞いているッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
硝子の顔に実の血飛沫がビュッビュッと弾け飛ぶ。
それでも硝子は身動ぎ一つせず実を見据えていた。
それを見た実はこの子供に脅しは効かない、こいつは『スタンド使い』と認識する。
実「よかろう・・・。貴様の根性しかと見た。いくぞ・・・っ」
スタンド使い同士のバトルの火蓋が切って落とされる。
硝子「クリスタル・ピース!!」
口火を切ったのは硝子。
ガラスの集合体であるスタンドで人型を形成し近距離での攻防を選んだ。
相手の能力が解らない以上様子見に突っ込んだのである。
キラキラと光る拳のラッシュを実/B・Hに叩き込む。
C・P「ラーララララッッ!!!」
初動でイニシアチブをとったつもりの硝子/C・Pであったが
実のバロック・ホウダウンはこれをいとも簡単にいなした。
実「そんなものかッッ!!貴様の覚悟はァァァァ!!!」
実の嘲笑うかの様な叫びと共にB・Hが歯を剥き出しにして笑いながら
猛然と襲い掛かる。
パワーは互角のようだったがスピードはB・Hの上で
拳を浴びて硝子がぶっ飛んだ。
硝子「かはッッ・・・!」
経験した事も無いような痛みが全身を襲う。
胃液は逆流し口から吐き出され殴られた箇所は燃える様に熱く痛く
そしてビリビリと震える。
それでも硝子の意思は砕けなかった。
硝子「も・・・もう一度おッッ!!!」
口元を腕で拭い立ち上がり駆け出す。
硝子「クリスタル・ピースッッ!!!」
初撃より力を込めそしてより正確に拳を振るう。
実「無駄あああァァァァッッ!!!!!!」
カウンター気味にバロック・ホウダウンがクリスタル・ピースを向かえ撃った。
実「ーっ!?」
B・HのC・Pより早いはずの拳は空を切りバランスを崩す。
振り返り見るとそこには無数の結晶が浮いていた。
実「それが貴様のスタンドの能力か」
実がギロリと睨む。
硝子「はい。私のスタンドはガラスの集合体。分裂も集合形成も一瞬です。
そして割れたガラスが危険なのは知っていますよね?」
実「・・・なるほど。これは少々厄介であるな」
B・H「グギギギギ・・・ッッ」
ブシューーーーーーーーーーッッッ
バロック・ホウダウンが苦しむと同時に実の残された右腕から大量に血が噴き出した。
実の右腕はまるで何十回もナイフで斬り付けられたかの様にズタズタになっていた。
硝子「クリスタル・ピースの結晶は触れただけでも肉を削ぎます。
そして極小サイズであるコレには物理攻撃は効きません。
・・・私の勝ちでいいですか?その腕ではもう・・・」
・・・これ以上はやりたくない・・・。
それが硝子の本心であった。
いくらスタンドの戦いであったとしてもたかが学生の硝子にとっては
既に限界を超えた状態である。
しかしそれと同時に実のバロック・ホウダウンの容姿から想像すると
何かしろの特殊能力があるのは容易に想像出来、まだ終わらない事も悟っていた。
実「一ォォォォォォォーーーーーつッッッ!!!!
日本男児たるモノォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!!!!」
ビシッィ!!!!!!!!!!!!!
実はズタズタになった右腕を体の前でビシッと立て人差し指を突き立てる。
実「己が戦に負ける事は死ぬより恥じる事と知れッッ!!!
バーーーーロックッッ・・・ホーゥダウーンッッッッ!!!!!!!!」
B・H「イ"ーーーーーッッッ!!!!」
悲鳴にも似た声を上げながらB・Hの全身から光が放射される。
それは夏の太陽を見るより遥かに高い光度であった。
硝子「何っ!?」
余りの眩しさに身を竦め腕で光を遮る。
しかしそれでもなお、その明るさに動く事が出来ない。
実「終わりダァァ!!そのまま潰れて終えッッッ!!!!!!!!!!!!」
硝子(潰れ・・・?)
硝子が実の台詞に疑問を感じた時には既に遅かった。
硝子「ぐっ・・・お、重いッッ!?」
実「我バロック・ホウダウンの光は圧力そのものォォ!!
もう動く事も出来まい!!!」
実が勝ち誇った様に叫んだ。
硝子「(・・・光!?)」
硝子「クリスタル・ピース!!!」
咄嗟の思い付きであった。
クリスタル・ピースを大きな水晶柱に変え光の流れの方向を変える。
硝子「(いけるっ・・・うまく反射させればもしかして・・・!?)」
そう思った瞬間、バロック・ホウダウンは圧力光の放射を停止した。
硝子「!?」
実「やはりな。そうくるとは思っていた。貴様はなかなか頭がキレる様だ。
しかし我輩はそんな事なぞお見通しだ。
さあ観念しろ。
その身で感じるだろうが圧力光を浴びればその効果は続く。
この馬鹿げたネズミイランドとやらの煌々と灯った明かりの中では
もう打つ手段もなかろう」
実に言われた通り硝子は既に押し潰されそうな圧力で動けなかった。
スタンドが遠距離タイプなら結晶を飛ばして光源を破壊する事も出来たかも知れない。
しかしそれも出来なかった。
そしてそのスタンドすらもうその姿を消していた。
実「・・・負けを認めろ」
硝子「い、いや・・・っ」
実「では死んでもいいのだな?」
硝子「わ・・・私はもう・・・負けたくない・・・の・・・」
実「よかろう。では殺してやろう。」
硝子「・・・っ」
ザッザッザッ・・・
一歩一歩と実が硝子へと歩いて近寄る。
実「言い残す事はあるか?」
実は硝子を見下ろしながら声を掛けた。
硝子「・・・・・・」
実「・・・そうか。では」
実はズタズタの右腕とバロック・ホウダウンの腕を重ね
力一杯振りかぶりその最後の一撃を既に死にそうな硝子の心臓目掛けて・・・・・・
ふ り お ろ し た
「・・・・・ッッ」
ズ ギ ュ
実「・・・これでわかったか・・・?
貴様が踏み込んだ道はこんな地獄だと・・・カハッ・・・」
ドプッ・・・ドプッドプドプ・・・っ・・・
硝子の上に実の温かい血液と臓物が降りかかる。
実のぽっかり空いた腹の穴からそれらが大量に流れ落ちていた。
硝子の限界を超えた生存本能が最後の力を振り絞り
一瞬だけクリスタル・ピースを具現化した。
水晶柱のままのクリスタル・ピースを。
動けない動かない水晶柱に実は自らの力で突き刺さった。
実「・・・・・・先に行って・・・待っておるぞ・・・スタンドつか・・い・・・・」
★★★ 勝者 ★★★
No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)
【能力】
微細なガラスを操作する
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最終更新:2022年04月16日 21:57