第08回トーナメント:準決勝①
No.6219
【スタンド名】
グッバイ・スーパースター
【本体】
犬養 由基(イヌカイ ユキ)
【能力】
殴った(触った)対象の庇護欲を操作する
No.4919
【スタンド名】
フェイセズ・イン・ザ・クラウド
【本体】
寿(コトブキ)=ガブリエラ=コジョカル
【能力】
接触したものから水分を吸収して膨張する
グッバイ・スーパースター vs フェイセズ・イン・ザ・クラウド
【STAGE:広大な墓地】◆aqlrDxpX0s
真夜中の墓地は周囲を樹木が取り囲んでうっそうとしており、
整然と並ぶ墓石の間を身を刺すような冷たい風が通りぬける。
その中をひとりの少女が歌いながら進んでいる。
スキップするたびに赤いポンチョがふわりと舞い上がった。
「おばけな~んてなーいさ♪ おばけなんてう~そさっ♪」
『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』のスタンド使い、寿=ガブリエラ=コジョカルは
不気味な墓地だというのに、ニコニコ笑いながら飛び跳ねていた。
「ねぼけたひとが♪ みまちがえたのさ♪ だけどちょっとだけどちょっと♪ ぼーくだってこわいな♪」
墓地を奥へ奥へと進んでいくと、開けた場所に出た。
正面には何十年か前のであろう、自然災害被災者の慰霊碑がそびえている。
風化して角が丸くなり、苔が張りついている様子が、墓地の不気味さをいっそう引き立てていた。
その慰霊碑の下にもうひとり、少女が座っていた。
ガブリエラが少女に笑いかける。
「こーんにーちわー?」
「…………」
髪を二つに結わいた少女はニコニコ笑うガブリエラをじっと見たまま黙り込んでいた。
「……れれ? こーんにーちわー?」
ガブリエラがもう一度声をかけると、少女は立ち上がった。
「……にわかには信じがたいけど、ホントにあんたが対戦者なんだな」
「うふふー、どうやらそのようだなー」
「気の毒だけど、さっさと勝負を決めさせてもらうよ、『グッバイ・スーパースター』!」
少女、犬養由基は幾十ものスタンドの魚を発現させ、ガトリング砲のようにガブリエラに向けて放った。
犬養とガブリエラのちょうど真ん中あたりに、ガブリエラの『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が立ちはだかった。
しかし、ガブリエラのスタンドは雲のスタンド。向かい来るイワシの魚群のような犬養のスタンドは『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』を突き抜けていく。
「んふふー?」
だが、それでも犬養の攻撃はガブリエラに届かなかった。
『グッバイ・スーパースター』は雲を突き抜ける瞬間、『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』の能力によって水分を奪われ、
カラカラのニボシのようになってパワーを失いガブリエラの目の前で落ちていった。
魚群のスタンドが突き抜けていく度に水分をどんどん吸収する『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』は徐々に膨れ上がっていった。
そして反対に犬養の手足の皮膚がひびわれ、かさつきはじめていた。
犬養はこれ以上やっても不利と判断し、攻撃を取り止めた。
「……くそっ」
「ふふ、私のスタンド『フェイ……』、あれ? えーと……ふぇ…………えーと、『フェイなんとかクラウド』ですよー」
(あの雲……思ってた以上にやっかいだな。まあ、でも『想定内』かな)
「わすれちゃったー。雲さんのなまえ、なんでしたっけ?」
(とにかく私のするべきことは、あの雲に触れさせず近づくこと……!)
慰霊碑の正面、ガブリエラの立つ背後には、墓地の中央にそびえる大きなケヤキの木があった。
そのケヤキの木の枝にはガブリエラと犬養を映すカメラが取り付けられていた。
寺の本堂の中央には、二人を映すモニターとその前に座り込む男がいた。
無言でモニターを見つめる男の背後からもう一人、黒のスーツを着た男が近づいてきた。
座り込んでいた男はモニターを見つめたまま呟いた。
「なンの御用ですかねン」
「あなたを粛清しに来ました」
「ほうン?」
「あなたが出場者から金を受け取り、勝負に加担したとの嫌疑がありまして」
「そりゃあン……肩入れしてるンのはあなたも一緒でしょ?」
「……あなたのは度がいきすぎている」
「五十歩百歩、目クソ鼻クソですよン」
「……ま、いいでしょう。兎に角あなたは『今回も』犬養から1回戦以上の金を受け取り、寿さんの情報を渡した」
「…………」
カメラを背にし、墓地の広場でガブリエラは両手をぶらつかせながらニコニコ笑っていた。
「さあーて、なにして遊びましょーかー?」
2メートルほどの大きさになった『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』はガブリエラの周囲を浮遊していた。
(あの雲に直接つかまれれば、ものの10秒でミイラにされてしまう。だが離れていても勝機はない……だったら!)
犬養は重心を左方に向けて走り出した。
ガブリエラには近づかず右方へ回り込み、そのまま墓の並ぶ中へと駆け込んでいった。
「鬼ごっこですかぁ、ようし、がんばってつかまえますよー」
犬養を追いガブリエラも墓地の中へ入っていった。
(……? あいつにとっては追わずに離れていたほうが有利なはずなのに、わからないヤツだな。
まあいいや、追ってきてくれたほうが手間が省ける。『あの場所』に誘い込めば……)
寺の本堂での尋問は続いていた。
「そして、それだけではないでしょう」
「…………」
「前回同様、あなたは対戦ステージに『トラップ』を施した。犬養だけが知ってるトラップを」
「……ほおン」
「そのトラップに寿さんがかかった時、勝負の結果にかかわらずに即刻あなたを粛清します」
「そうはいきませンねえン」
「……抵抗する、ということでしょうか」
男が見つめるモニターには、墓地の中を走る犬養と、それを後ろから追うガブリエラの姿が映し出されていた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
「まてー、まてー!」
ガブリエラに追われながら犬養は通り過ぎていく墓石の形を確認していた。
(この墓地は15×15のマス目にならって墓が置かれている。北から3列目、楕円の墓石の前に『それ』は仕掛けられている)
そして、犬養が楕円の墓石の位置を確認すると、身を屈めてその前を通り過ぎていった。
ガブリエラは何の疑念も抱かずそのまま追い続ける。
(薄暗い墓地の中、首を刈る死神の鎌……0.2ミリの『鋼鉄線』が)
ガブリエラが楕円の墓石を通り過ぎると同時に犬養はチラリと後ろを見た。
「抵抗? するまでもないンですね。なんせ『未遂』なんですンから」
「『未遂』ですって?」
「仕掛けられンなかったンですよ。勝負ン開始の1時間前、私ンが来たときにはすでに寿サンがいましたから」
「え?」
「慰霊碑の前ンで犬養サンが待ち構えてるようンに見えたでしょうが、実は先に来てンたのは寿サンなンです」
「……!!」
(鋼鉄線が、張られていない!)
「ふふー、そろそろおはかのすみっこですよー?」
犬養の走る先には墓は3つほどしかなく、柵が囲う先は森林となっていた。
走り方のおぼつかないガブリエラを、犬養が本気をだせば引き離すことは可能だった。
だが、犬養は墓石の間を通り抜けなければならないのに対し、ガブリエラの雲のスタンドは墓石を無視して移動できる。
墓地の隅まで来てしまった以上、犬養が『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』から逃れるのはほぼ不可能といえた。
ガブリエラには天性の『直感と本能』という才能があった。
それは決して『幸運』というものではなく、彼女のとった行動が起因し、それが正解に結びつくのだ。
彼女が開始時間の1時間前に来たのはなんの理由もないことだったが、それにより『鋼鉄線』のトラップが張られるのを防ぐこととなった。
「えへへー、フェイちゃんつかまえなさーい!」
追い詰められた犬養に『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が迫る。
しかし、犬養の目の前でその不定形の雲は、文字通り雲散霧消してしまった。
「……あれれー?」
犬養は右手に枯れた花束を持って『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』に向けていた。
左手にはライターが握られている。
花は炎に包まれ、花束は『たいまつ』となっていた。
ガブリエラの才能が『直感と本能』ならば、犬養の才能は『推察と懐疑』にあった。
彼女はすべての行動要因を分析し、その後の行動を『推察』する。
その行動への対策のための調査や買収というものは彼女にとっては手段に過ぎない。
ともかく彼女はその『推察』だけで1回戦を難なく勝ち上がることができた。
しかし彼女は推察に基づく対策を100%信じているわけではない。
特に、今の鋼鉄線のトラップは5割程度の成功率と見ていた。
彼女は自分の立てた策すらも『懐疑』し、次なる対策、そのまた次の対策まで果てしなく立てている。
いくら対策がはずれようが、戦闘が彼女の予測の外に出ることは有り得なかった。
「……墓地には、墓の数だけ花束があるよな。だけどそのほとんどは枯れている。枯れた花はよく燃えるよね?
雲には火がよく効くようだ。火の起こす風が雲を寄せつけず、熱が水を蒸発させる」
散り散りになった『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』だが、正確に言えば雲の形が吹き飛ばされただけで、
犬養と離れた場所でまたすぐもとの形に戻った。
そして再び犬養に迫るが、犬養はまたもう一束の枯れた花束に火を移し、『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』に向ける。
「あーうー」
攻めきれないガブリエラを尻目に、犬養は墓地の隅に追い込まれていた状況から脱出した。
犬養にとってみればガブリエラのような相手は最もやりにくい相手であった。
考えの読めない、時には自分が不利になるような行動を平気でとる相手には対策をとりづらく、どうしても後手になる場合が多い。
だがそれでも、犬養はこの試合に負けるとは思ってはいない。
(鋼鉄線が張られていない理由は何だ? 有り得る事実はシンプルに二つ。あの立会人が鋼鉄線を『張らなかった』か『張れなかった』からだ。
『張らなかった』理由は? あの立会人が金を受け取ったまま私を裏切ったか? それなら1回戦で裏切ってたはずだ。それとも1回戦だけは従うつもりだったか?
『張れなかった』理由は? 『張れない』状況にあったとするならば、阻害する要因があったんだろ。もしかしたら、あの頭のユルいあの子か?)
「もし、あの子が私が来るずっと前にこの墓地に来ていたなら……」
犬養は墓地の中で立ち止まり、振り返る。
ガブリエラは追って来ていなかった。
「私があの子だったら……『雲のスタンドをこの墓地を覆うほどに膨れ上がらせておく』。墓地の水道を使ったりしてな。
そうすれば私が墓地に入った瞬間、勝負が決まるんだから」
犬養はそう推察した。
しかし事実は犬養が見たように『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』は2メートル弱の大きさだった。
その結果から犬養は鋼鉄線が張られていない理由を『立会人の裏切り』と推察した。
犬養が知ることはないが、もちろんその推察は外れていた。
ガブリエラは『ふつう一般に考えられる』最適な行動をとることはできない。
ゆえに、ガブリエラが『墓地に到着した後にとった行動』を犬養が推察できるはずがなかった。
持っている花束の火が弱まっているのを見て、犬養は近くの墓の花束を手に取り、火を移そうとした。
だがそのとき、犬養の腕に雫が落ちた。
「……!」
ポツポツと、雫がいくつも落ちてくる。しだいに水滴の数が増えてから犬養はそれが雨だと気づいた。
「ま、まさか……雨なんて……!」
花束の火が雨に濡れて消えてしまう。
犬養はライターを取り出し先ほど手に取った花束に火をつけようとするが、すでに湿っていた。
「あっめあっめふれふれ♪かーあさんがー♪」
雨の中、ガブリエラが歌いながら犬養に近づいていった。
「じゃっのめっでおっむかえ♪ うれしいなー♪ ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ♪ らんらんるー♪」
「……まさか、この雨はあんたが……?」
「へへー、ここへきたとき、ヒマだったので『あまぐも』をつくっておいたですよー『そなえあればうれしいな』ですー」
雨を受けて、『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』はどんどん膨らんでいく。
「……そんなバカな。それなら、はじめからそのスタンドを膨らませておけばよかったじゃん」
「あー、なるほどそうですねー。えへ、わかんなかったなあ。でもいま火は消せたんですからおっけーでしょうー?」
「…………」
犬養の策は尽き果てた。
彼女は、対策の次なる対策を練り続けていれば負ける可能性はほとんどないはずだった。
ただし、その対策とはあくまで『常人の考え方』に基づいていた。
だが、ガブリエラの考え方は常人のそれではない。
ガブリエラの行動は予測できるものではなく、また天性の直感と本能によってその行動はすべてガブリエラに有利になるよう働いていた。
そのような常軌を逸したことを予測できるはずがなかった。
犬養は手に持っていたコゲた花束を地面に落とした。
「この勝負……私の負けだな。知ってか知らずか、あんたは私の推察を上回った」
「あれれぇ、こうさんしますか?」
「いいや、決着はちゃんとつけるよ」
犬養は瞬時に全体重を前方に傾け、ガブリエラへ向かって駆け出した。
「……! フェイちゃんっ!」
急接近する犬養に『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が立ちはだかる。
だが犬養は止まることなく突っ込んでいく。
犬養の体を取り込んだ『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』は一気に犬養の体の水分を吸い上げる。
犬養はガブリエラにもう少しで手が届くところで力を奪われて倒れたが、犬養にはその距離で十分だった。
「『グッ……バイ…………スーパー……スター』」
手の先から、懸命に搾り出した一匹の魚のスタンドがガブリエラの腿をかすめた。
「だがこの『試合』……勝った……のは、私だ……」
「…………」
『グッバイ・スーパースター』に触れられたガブリエラは動きを止めた。
『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』も犬養の体の水分を吸い取る攻撃を停止している。
犬養はかろうじて意識をつなぎとめていた。
(最後の、最後の手段……こいつの『庇護欲』を操作した。私を護りたくさせ、攻撃しないように……)
『グッバイ・スーパースター』の真の能力は『庇護欲を操作すること』。だが、犬養はこの能力を勝負において使うことを嫌っていた。
飽きっぽい性格の自分にとって、すぐに決着のついてしまうこの能力は戦いの興を削ぐものだった。
自分で立てたあらゆる対策のすべてを疑う犬養だったが、この能力だけは100%成功するものであった。
なぜなら『庇い護らせる』ことは、戦いの本質を打ち消すものだからだ。
(早く……早く私の体に水分を戻すんだ……息が、つらい…………)
だが犬養は改めて思い知る。
ガブリエラが、『常人』ではないことを。
「…………フェイちゃん」
『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が犬養の体に纏わりつく。
そして――犬養の体の水分を『さらに』絞り上げた。
「…………かっ!」
(な……なぜ…………?)
「うふふふ……」
犬養を見下ろしてガブリエラは不敵な笑みを浮かべる。
犬養の体からはゆっくりと水分が抜かれていった。
じっくり、じっくりと乾いた雑巾をさらにしぼるように。
手足はどれも動かすことはできず、
まばたきをすれば瞼が眼球にはりついた。
眼球がグシャグシャにしぼんでいくのが犬養にもわかる。
口の中は乾ききって砂を嘗めているような感触がする。
皮膚がところどころパリパリと音をたてていた。
しかし、犬養は意識を保ったままでいた。
苦しみを味わいながら。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
犬養は、本当に降参しようと思った。
もはや勝負なんてどうでもよく、とにかく解放されたかった。
だが、喉からはかすかな乾いた音しか出てこない。
「まもってあげますよ、ずうっと、私のそばで、ずうっと、ずうっと、かわいい私のおにんぎょうさん……」
犬養の弱点は、彼女の才能である『推察』が『常人の考え方』に基づいていたことだった。
切り札である『庇護させる』ことも、切り札たりえたのは『常人』に対してだった。
ガブリエラには犬養のスタンド能力が効かなかったわけではなかった。
ただ、彼女にとっての『庇護』が、犬養を誰にも触れさせないように、犬養を危険な目にあわせないように、
『動かなくてもいいように』し、自分の手元にずっと置いておくことだったのだ。
それから犬養は人知れぬ場所に運ばれ、ずっとガブリエラに護られた。
狭く暗い場所でくたりと壁にもたれかかり、生命だけを繋ぎとめられ、ガブリエラが時々話しかけにきた。
犬養はその度にどうにかしようとしたが、声は出ないし魚のスタンド1匹出すことも出来ないので能力を解除することもできない。
そして死にたいと思っても死ねないので
そのうち犬養は考えるのをやめた。
★★★ 勝者 ★★★
No.4919
【スタンド名】
フェイセズ・イン・ザ・クラウド
【本体】
寿(コトブキ)=ガブリエラ=コジョカル
【能力】
接触したものから水分を吸収して膨張する
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最終更新:2022年04月16日 22:02