第08回トーナメント:決勝①
No.4919
【スタンド名】
フェイセズ・イン・ザ・クラウド
【本体】
寿(コトブキ)=ガブリエラ=コジョカル
【能力】
接触したものから水分を吸収して膨張する
No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)
【能力】
微細なガラスを操作する
フェイセズ・イン・ザ・クラウド vs クリスタル・ピース
【STAGE:ハワイ】◆UmpQiG/LSs
薄暗い部屋の中には大きな木製のテーブルと小さな明かりを灯す蝋燭が数本。
そしてそのテーブルを囲む様に数人の人物が座っている。
???「今大会は少し関わり過ぎないかね・・・」
しゃがれた声の老人と思わしき人物が静かにそう呟いた。
???「ええ・・・少し度が過ぎる様ですね。
本来なら顔すら合わさず事は進む筈なのに」
一人の男が相槌を打った。
???「ふふ・・・あなたの口からそんな言葉が出るとはお笑いだわ。
貴方があのコの招待状に細工をしたのがバレてないとでも思ってるのかしら?」
艷っぽい声の台詞の中に悪意にも似た悪戯な力が隠っている。
???「いえいえ、僕はあのコの願いを叶えただけですよ。
何か手伝った訳でもないし力を貸した覚えもない。
ただ『強くなりたい』と言う彼女の気持ちを増幅して
ソレに夢中になる様にしただけです。」
男は飄々とそう答えた。
???「まあいい・・・しかし彼奴は消しておけ・・・目障りだ」
老人がそう言うのと同時にその薄暗い部屋からは全ての気配が消え失せた。
「ハーーーーワーーーーイーーーーッ♪」
常夏の太陽が降り注ぐ白浜に少女が駆けていく。
まるでセルロイドの様な病的に白いツルッとした肌に白いビキニと麦わら帽子。
寿=カブリエラ=コジョカルはまるで旅行にでも来たかの様にはしゃいでいた。
波間で跳ね回り奇声をあげ、海へダイブする。
その姿は初めて海に来た子供の様にも見え、そして感情を抑えられない精神異常者にも見えた。
カブリエラ「ね?・ぇ?・っ!!こっち来て一緒に遊ぼうよ?・ぉ?・?・♪」
ガブリエラはツレの男にそう声をかけた。
ツレの男。今大会でガブリエラについているトーナメントの立会人である。
カブリエラ「ね?・?・え?・?・?・っ!」
ガブリエラは再度声をあげ男の方へ視線を向けたが、そこに男の姿はなかった。
代わりに男の物と思わしき右腕と封筒が一枚、砂浜に突き立てられている。
ガブリエラはキョトンとした顔で封筒を開け中を見る。
『おにーちゃんはしにました!』
手紙にはそう書かれてあった。
カブリエラ「そっかー♪しんじゃったんだーぁ♪わかったー!」
ガブリエラは笑顔で手紙にそう言うと、
残された右腕を砂に埋め拾った椰子の葉を1本立て
南無南無と手を合わせそこを後にした。
──同刻。
空にややオレンジ色が混ざる頃、新房硝子は指定場所に既に立っていた。
人払いされた自然の浜辺。砂浜と岩場それと波打ち際。浜には昼顔が自生している。美しい場所であった。
そんなハワイの場景の中にあって硝子の姿は異常な雰囲気を作り出している。
左腕の肘から先は無く、そこには包帯が乱雑に巻き付かれている。
左の袖の無い黒いロングTシャツに黒いスカート、黒いストッキング。
それだけでもこのハワイの風景からはかけ離れていたが、
何よりその異形の表情が歪な雰囲気を醸し出していた。
目は窪み視線はどこにも定まらず、口は半開きでカラカラに渇き、
髪の毛もボサボサになっている。
眼鏡だけが何故か綺麗にされており、それが余計に不気味さを増していた。
いつしか急激に発達した雨雲が南国特有のスコールになり降り注いでいる。
そのスコールの中で少し遅れてガブリエラが姿を現した。
カブリエラ「こ?・んにちはぁ?・っ♪すぐやるぅ?・?」ニコニコ
満面の笑顔で声をかけるガブリエラ。硝子は視線を変えず首ごと動かして相手を見た。
コクリ
軽く頷き体も相手に向ける。ゆらりとゆっくりした動きで。
カブリエラ「ん?・っとね?・?早く終わらせて遊びたいの?・。いいかなぁ?・?」
人差し指をくわえながらキラキラした瞳でガブリエラが聞く。
それに対して硝子はまたコクリと小さく頷いた。
試合は唐突に幕を下ろす。
「アアアアアァァアァァォァッッッッ!!!!!!」
断末魔の叫びの様な咆哮を上げながら硝子はカブリエラとの距離を詰める。
喉が切れて血が唾液と混じり口から溢れ出している。
一瞬意表を突かれたガブリエラであったが、硝子の突進をなんなくかわした。
ガブリエラ「わぁ?・!ビックリしたぁ?・♪」
片手を口に当てて大袈裟にリアクションを取る。
ガブリエラ「なんかこわーい(笑)もう死んでほし?・♪」
カラカラと笑いながら両手を空に上げそれを勢いよく降り下ろす。
すると辺り一面の雲が渦を巻くように集まり、所々に奇妙な顔が浮かび上がった。
スコールで最大まで肥大したガブリエラのスタンド「フェイセズ・イン・ザ・クラウド」である。
その分厚い雲の塊が辺りを圧縮するように降りてくる。
ガブリエラはまるで勝ち誇り見下す様に砂の上に転がる硝子を見た。
この絶望的状況を普通のスタンド使いならどうするであろうか?
恐らくあの雲は触れると何らかのペナルティがあり、そして物理攻撃も通じないだろう。
もしかしたら触れるだけで死んでしまう可能性もある。
身をかわすにもあの巨大さではどうしようもない。
雲・・・?水分?もしかして砂を使えば水分を?
いや、この滝のようなスコールの中、砂による水分吸収は望めない。
───────と、こんな事を考えるのであろう。
そう普通ならば。
しかし硝子にはその絶望的状況すら見えていなかった。
砂を蹴りクリスタル・ピースを人型に具現化しガブリエラに突っ込む。
CP「ラァァアァァォァッッッッッッッッ!!!!」
硝子「アーッッッーアーッッッッッ!!」
クリスタル・ピースの尖った指先がガブリエラの太股の肉を抉り取る。
ガブリエラ「ぎゃーーーーッッッ!!!」
ガブリエラはバランスを失い倒れ砂の上でのたうち回る。
ガブリエラ「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッッッーっ!!」
そのスタンドの能力と1、2回戦の勝利の仕方故に初めて味わう激痛。
完全に心が折れてしまった。
ガブリエラ「痛いよ!痛いよおおおおお!!!」
既にガブリエラには泣き叫ぶ事しか出来ない。
そんな彼女に硝子が歩みよる。
さく さく さく さく さく さく
射程2m。もうその距離の間に二人はいる。
さく さく さく さく さく さく
へたりこむガブリエラに硝子の影が被る。
いつしかスコールも止み赤い太陽が一面を染め上げていた。
そこで初めて硝子の顔を見たガブリエラは驚愕する。
それは人の、少女の顔ではなかった。
全身総毛立ち、冷や汗が泉のように沸き立ち暖かい液体が太股を伝う。
ガブリエラ「ァァアァァォァァアァァアァァォァァアィァアッッッッッッッッ!!!!!!!!」
錯乱しバタバタと暴れ、砂を投げ手で必死に追い払おうとした。
しかしそのバケモノは何一つ動じず、夕陽を浴びてキラキラと輝く
ガラスのスタンドの腕を伸ばしガブリエラの命を奪おうとしている。
そして、その腕が降り下ろされる瞬間───────。
プチン─────────────。
何かがキレる音を聞いた。
それは太い輪ゴムを力任せに引っ張って千切った様な音であった。
次の瞬間。
頭上より伸びた直径1mはあるであろう
フェイセズ・イン・ザ・クラウドの腕が異形のバケモノを鷲掴みし抱え上げた。
──極限状態での自己防衛本能だったのかも知れない。
もしくはガブリエラの中の悪魔が微笑んだのかも知れない。
硝子「オオオオオオオォォォォオオオオッッッーーー!!!」
地の底から唸る様な声を上げ硝子はみるみる干からびていく。
巨大化したスタンドの力は想像を越えるパワーを見せた。
硝子のスタンド、クリスタル・ピースは霧散しハワイの砂となった。
それを確認した巨大な腕が硝子を放した頃には
既に鶏ガラの様な姿になっていた。
ガブリエラ「・・・・・・・・・・・・」
何も考えられなかった。
故に何も感じなかった。
ただそこに転がる鶏ガラは骨と皮だけであったが、
人の顔をしている様に見えた。
一人のちゃんとした人間に見えた。
そこで初めて自分のして来た事に気が付いた。
自分が悪戯に殺して来た人間もこんな痛みや恐怖を感じてきたんだと悟った。
その瞬間後悔と自責で涙が溢れた。
ガブリエラは泣いた。
声に成らない叫びをあげ泣いた。
そして一頻り泣いた後、硝子の死体を何処かに埋めてやろうと考えた。
軽い硝子の遺体を抱え陽の落ちた砂浜を歩く。
夜の戸張が二人の少女の悲痛な運命を隠す様にそっとそっと、
ゆっくりゆっくりと降りて・・・・・・
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
─────悪意のスタンド能力。
日常を謳歌していた少女にかけられた呪い。
逃れる事の出来ない小さな小さな望み。
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
それは他者をも巻き込み、その少女に付きまとう。
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ
ガブリエラは最後の別れに人に戻った硝子に口付けをしようとした。
──────────パシュ
ガブリエラ「・・・・・・」
ガブリエラの眉間と後頭部からクリスタルの角が生えていた。
プシュー・・・・・・・・・
角が消え鮮血が噴水の様に噴き出す。
その鮮血が新品の様にピカピカの眼鏡を真っ赤に染めていた。
ツ ヨ ク ナ ラ ナ キ ャ !
★★★ 勝者 ★★★
No.6130
【スタンド名】
クリスタル・ピース
【本体】
新房 硝子(シンボウ ショウコ)
【能力】
微細なガラスを操作する
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最終更新:2022年09月23日 10:43