第09回トーナメント:予選①
No.6477
【スタンド名】
ノーザン・レイジ
【本体】
児玉 響(コダマ ヒビキ)
【能力】
スクリューにより風を操作する
No.6410
【スタンド名】
ダーティ・ロットン・バスターズ
【本体】
ハシム・バラミール
【能力】
物体に同化し、自壊する
ノーザン・レイジ vs ダーティ・ロットン・バスターズ
【STAGE:東大寺】◆aqlrDxpX0s
その夜、東大寺には3体の仁王が立っていた。
南大門の中で雄々しくそびえ立つ2体の金剛力士、阿形と吽形。
そして、向かい合う2体の仁王の間に立つ『生きた仁王』。
身につけた真っ白な学生服は月の光に照らされて青白く輝き、その体は巨大な門の柱よりも太く大きく見える。
木の幹に見紛うほどの太い脚を前に進め、南大門から大仏殿へ向かって歩き出した。
「♪…………Do not stand at my grave and weep...」
ゆっくりと、ゆっくりと地面の感触を感じながら進み、彼は歌いだした。
「♪I am not there, I do not sleep. I am in a thousand winds that blow...」
曲の名は『Do not stand at my grave and weep』、日本では『千の風になって』で知られている。
そのオペラのように深く響き渡る声は、歌声というよりも咆哮であった。
人よりも大きな体を持ち、歌を愛する彼ではあったが、
それゆえに目立ち、力におぼえのある不良との争いが常に耐えなかった。
しかし彼はその中で常に勝ち続け、その度に文字通り凱歌をあげていた。
いつしか彼は畏怖の対象となり、
その巨躯ゆえに、まさしく『仁王』と、
あるいはその白い学生服から『ホワイトデビル』とも、
闘争の果てにその白い学生服を血で紅く染め、凱歌を歌ったことから『ひとり紅白歌合戦』とも呼ばれたとか……
彼が東大寺本堂のある敷地内に入ると、境内は東大寺大仏殿に向かって広い石畳の通路が縦断しており、
両端には庭、通路の中央には歴史的価値のあるであろう物々しい燈篭があった。
「……!」
彼が燈篭を横切り、大仏殿に入ろうとすると、中からひとりの男が出てきた。
「Oh! あなた、ちょっと聞いてくださーいよ」
ファーつきのジャケットを羽織った男は、独特の訛りが入った話し方で話しかけた。
「…………」
「ワタシ、この東大寺に来る前にネットで調べました。すると、東大寺の柱の穴にはよく女の子がつっかえてると聞いたもんですから、楽しみにして今日きまーした。
ですが来てみたら、女の子どころか誰もつっかえてない! 仕方がないもんですからワタシが穴を通ってみたら……Jesus! ワタシがつっかえちゃいましたヨ!
『マズイ! このままじゃワタシが108突きされてしまう!』と思ってしまいまーした。散々でしたヨ……で、そのウワサってホントウなんですか?」
「…………」
「Oh...シカトですか、そーですか。もしかして言葉が通じないのデハ? ワタシ日本語うまいとはいえませんがヘタではないハズでーす。アナタ、お名前は?」
男の問いに、学生服の男は初めて口を開いた。
「我輩の名は児玉響(コダマ ヒビキ)……貴様の名は何だ」
「Wow! なんだニホンジンじゃなーいですか、海軍みたいな服着てるからもしかして違うと思いましたが……ニホンジン、トモダチです。
ワタシはハシム・バラミール、中東のほうからキマシタ」
ハシムは響に握手を求めたが、響は応じなかった。
「貴様が……我輩の対戦相手か」
「対戦相手……そーですね。アナタもそーですか、よく見れば、戦いが好きそうなお顔してらっしゃる」
「くだらん問答を我輩は好まない、さっさとはじめよう」
「この中で? 大仏サマの前で」
「イヤなのか?」
「Mmm...いいえ、ムシロここ、外のほうがいいでしょう。大事なモノを壊すワケにはいかんでしょウ」
「そうか……ではすぐに終わらせよう……!」
響はそう言うや否や、スタンドでなく自らの拳を振り下ろす。
自らのスタンドを見せず、相手の出方を探るために。
「…………!」
だが響は拳を止め、後退して距離をとった。
ハシムは怪しげな笑みを浮かべたまま立ったままだ。
「どーしました?」
「……正直に言おう、嫌な予感がしたのだ。貴様に、触れることに」
「Goooood...いいカンをしていますね、アナタ」
響は拳を振り下ろす前に見た。
ハシムのまわりに飛ぶ無数の虫を。
そしてそれは今も……ハシムの周りと頭上を飛び回っている。
「もしやそれが……貴様のスタンドか」
「そうでなかったら、ワタシ、不潔すぎます」
ハシムの周りを飛ぶ無数の虫……それらすべてがハシムのスタンドだった。
「『ダーティ・ロットン・バスターズ』、この虫たちの中に腕を突っ込んでたら、アナタもう腕がなくなってました」
「…………チッチキチー……」
「何か言いました?」
「……何も。だが、問題はない」
そして響は初めてスタンドを発現させた。
響と同じくらい、大きな体つきをした人型のスタンド。
そしてその両手にはスクリューがついていた。
「『ノーザン・レイジ』、風を操る」
響は燈篭を背にし、『ノーザン・レイジ』のスクリューを回転させた。
それと同時にノーザン・レイジはハシムに向け、暴風を吹かせた。
「Jesus! サイクロン……風を操るスタンドですかァッ!!」
ノーザン・レイジの暴風を受け、ハシムは立つのがやっとの状態だった。
ハシムの周りを飛んでいたスタンド虫は風にあおられて四方八方へ飛んでいく。
「虫のスタンドか……我輩には相性が良すぎたようだ。触れられぬようにするためには、吹き飛ばせばよい」
「ムゥゥゥ……たしかに強い風です、ワタシもう立ってられませーん……」
響に比べ、半分以下ともいえるほど細いハシムの脚はガクガク震えていた。
「ですから、アナタに風を吹かせるのをやめてもらいまーす」
「……!!」
その直後、響が感じたのは、背後で何かが崩れる音、そして背中の支えがなくなったことだった。
響の背中を支えていた燈篭の根元が、風化したように細くなり、折れてしまった。
いくらなんでも、響の体重を支えられなかったはずがない。
だが、響は折れた燈篭と共に石畳に倒れ、スタンドの暴風も止んでしまう。
「ム…………!」
「アナタの風、たしかにすごいです。ですが風は気流をつくります。アナタが飛ばしたワタシのスタンド、気流に乗ってあなたの背後に舞い飛びました。
そして……『ダーティ・ロットン・バスターズ』は破壊したのでーす」
そして響はさらに気づいた。
今、背中に石畳の感触をはっきりと感じることができる。
品質の良い、生地の厚い学生服を着ていたにもかかわらず……
「『ダーティ・ロットン・バスターズ』は触れたモノを破壊します。ただし、少しずつ、ジョジョにです。
カッパドキアの岩が長い年月をかけ、風化して丸くなるように、トウロウの足はジョジョに削られました」
「…………」
「それだけにとどまらず……『ダーティ・ロットン・バスターズ』はアナタの背中に触れ……その大切なお召しモノも台無しにしてしまったようですネ」
「…………チッチキチー……」
「……What?」
響はゆっくりと立ち上がった。背中は白い学生服が大部分を虫に食われたように穴が開き、シャツをも破いて紅潮した肌をあらわにしていた。
「貴様はァ……我輩の怒りのラインに触れた。そして超えたのだ……この白ランは、我が魂……それを破く者は、決してェェ許せぬッ!!」
「……!!」
響はノーザン・レイジの両腕を前に出し、スクリューを回し始めた。
徐々に徐々に回転は早くなり、周囲の空気を動かし始めた。
「HEY! ムダですよ、いくら風をおこそうが、ワタシの虫はアナタのもとへいずれ飛ぶのですカラ!」
「ならばこそ……逆に迎え入れてやるのみよ……! 我輩は血を流す覚悟はできている!!」
「…………ムゥ?」
ハシムの周りを飛んでいた虫は、ノーザン・レイジの起こした風にあおられ、またもハシムの周りから離れていく。
ただし、今度は先ほどとは逆に、響のほうへ直接向かっていた。
「スクリューは逆回転した……今我輩が起こしているのは、吸い込む気流!」
無数のダーティ・ロットン・バスターズは突進するように響へ向かっていく。
いくつかの虫は響の体に当たり、わずかな破裂音と共に学生服や肌を小さく破壊しているが、大部分はノーザン・レイジのスクリューに千切りとばされていた。
(Oh...これはまずいでーすね……)
響は、学ランがほぼ破け、体中血まみれになって見るも無残な姿になっているものの、致命的なダメージは負っていなかった。
すべての虫を千切りとばすまで、響はスクリューを止めるつもりはなかった。
「ムグゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
咆哮によるシャウト効果、それに脳内麻薬が大量に分泌され、響の闘争心は満タンの状態だった。
響は虫が体を傷つける痛みを感じていない。
そして徐々に、徐々に、スクリューに千切られる虫と、響の体に当たる虫は減っていった。
「………………」
「ク……クク……勝負、アリましたね」
しかし、千切られる虫、体に当たる虫が減ったのは、ダーティ・ロットン・バスターズの数が激減しているからではなかった。
響はスクリューを回し続けていたが、徐々に風が弱くなっていったのだ。
スタンドを発現し続ける精神力は響の体に十分残っていた。
だが、ノーザン・レイジの手にスクリューはなくなっていた。
響はその事実に気づくと、体の痛みを実感しはじめる。
「………こ、これは……」
それに対しハシムは怪しげな笑みを浮かべていた。
周囲にはまだ、多くの虫が飛んでいる。
「クックック……どうして気づけませんかねェ……ワタシの虫は多くが千切り飛ばされた。ですが、それだけじゃあない。
スクリューに同化して、破壊もしていたんですよ……ジョジョにね」
響がノーザン・レイジの手を見ると、そこにはスクリューの軸しか残っていなかった。
「サア……最大の武器を失ったアナタ……これからどうします?」
「…………」
「ワタシはね、仕事柄いろいろな人を見てきましたよ。中にはワタシの命を奪えるだけの力を持った人もいました」
「その中でね、見極めることが重要なんデス。その力量をね」
「強いヒト、弱いヒト、それのどちらかを見極め、強いモノからは逃げなければなりまセン」
ハシムは響に近づき、見下ろした。合ったときとは違う冷たい目をしていた。
口調は変わらないが、響きはそれが逆に不気味に思えた。
「アナタは……ずっと、弱い。ワタシよりも……はるかにネ」
「…………!」
「ククク……今、恐怖を覚えたでショウ。ソレが答えですよ……」
響は……進んで不良と喧嘩をすることはなかった。
だが、向かってくるものはすべて倒してきた。
それによって自身に慢心があったことは確か。
井の中の蛙となっていたことも否定はできない。
響は、この目の前の男が何者かは知らない。
だが、中東出身のスタンド使い……得体の知れぬ者への恐怖を始めて感じてしまった。
「さて……どうしたモノですかね……キミは」
響は周りを見渡した。
自分と、ハシム以外には誰もいない。
改めてハシムを見るも、まだその目は冷たかった。
「『ダーティ・ロットン・バスターズ』……キミを跡形もなく粉々にすることだってできる……」
「…………!!」
響は恐怖のあまり体を震わせた。
きっと、今の自分は今までに見せた事のないであろう顔をしているだろう。
死が間近に迫る恐怖が少しずつ、湧きあがっていった。
だが、ハシムはふっと顔をほころばせた。
「ですが、これくらいにしときマショウ」
「…………!」
「ニホンの、コドモを殺したところで、ワタシにメリット、ないですから。ホトケの心、慈悲の心でね……」
そう呟いた後、ハシムは腰の抜けた響を置いて東大寺の境内を出て行った。
響は、振り返ることができなかった。
ハシムは南大門まで来たところで一度振り返り、響の姿が見えなくなったのを確認すると、再び振り返った後、膝に手をついた。
「…………ガホッ、ゴホッ!!」
ハシムは強く咳き込み、口からは少量の血を吐いた。
「……ギリギリでしたネ。もう少し虫を削られてたら……ワタシは倒れていた」
『ダーティ・ロットン・バスターズ』の欠点として、スタンドの特性であるダメージのフィードバックがあった。
スタンド虫が同化し、破壊した分だけ、ハシムの体も破壊されていた。
その個所は体中に分散させられるにしても、ハシムは響と同じだけのダメージを負っていた。
ハシムにとって一番恐れていたことは、響がスクリューを失ったあともなりふり構わず突っ込んでくることだった。
『ダーティ・ロットン・バスターズ』でいくばくか迎え撃とうとしたところで、響を傷つけられても、ノーザン・レイジのパワーはハシムに致命傷を与えることができた。
ハシムが響にそれをさせなかったのは『心理的作戦』だった。
ハシムは響に素性を限りなく与えなかったかわりに、いくつかの不安材料を与えた。
そして、『ダーティ・ロットン・バスターズ』の欠点を隠し、二人の圧倒的な差という認識を響に植え付けた。
ハシム・バラミールの極意は『擬態』にあった。
死と隣り合わせの環境に身を置き、自分を守るために練り上げた処世術。
いわば『虚勢』なのだが、相手に『虚勢』と思わせないだけの技術を持っていた。
「三日三晩徹夜したときよりも、体が痛んでまーすね……Jesus」
「しばらくはこの国で休んでましょ~かね、ニホンゴ話せる外人にやさしい国ですからねココは……」
すなわち、彼は悪人なのである。
★★★ 勝者 ★★★
No.6410
【スタンド名】
ダーティ・ロットン・バスターズ
【本体】
ハシム・バラミール
【能力】
物体に同化し、自壊する
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最終更新:2022年04月16日 22:37