第09回トーナメント:予選②
No.6473
【スタンド名】
ワールズ・エンド・ラプソディ
【本体】
緒長 久茂(オナガ ヒサシゲ)
【能力】
物体に絡まる蜘蛛の巣を設置する
No.5349
【スタンド名】
ガールズ・デッド・モンスター
【本体】
尾藤 杏路(ビトウ アンジ)
【能力】
殴った物が持つ重量を未来に飛ばす
ワールズ・エンド・ラプソディ vs ガールズ・デッド・モンスター
【STAGE:閉店した百貨店】◆cbBPt179lY
国道沿いにあるこの大きな建物は、何十年も続いていた老舗の百貨店だった。
当時にしては珍しく、だだっ広い1階に生活用品から子供の玩具までを全てのフロアごとに区分けた
“広く浅く”をそのまま形にしたような百貨店だった。
しかしその後、不景気の波と
その波に乗って台頭しはじめた“狭く深い”商売に押されて経営は傾いた。
数年前、親会社と他の会社の合併話がまだ憶測だった頃からフロアにポツポツと不自然なスペースが増え始め
合併後にどちらの会社名を先に出すかで揉めている頃に惜しまれつつ長い歴史に幕を下ろした。
閉店から何年も経った現在も
“百貨店だった建物”は取り壊される事もなく、名札を剥がされたままの姿で国道の背景になっている。
『緒長 久茂(オナガ ヒサシゲ)』は
その“百貨店だった建物”の裏側にある荷物搬入用のゲート前に来ていた。
ゲート前は大型トラックが行き来するくらいの広さがあり、ゲートの中には百貨店の倉庫までの専用道路が伸びている。
ふとオナガは気配を感じて警戒した。
「ハローハロ~♪
貴方がオナガちゃんね?アタシがこの試合の立会人よン♪」
ゲートの向こうから黒いスーツを着た細身の男が不自然な内股で歩いてきた。
オナガは自然と少し間合いをとるようにゲートから離れた。
警戒していたからなのか、この立会人のキャラのせいなのかは分からなかった。
「…訊きたい事がある。
何故、俺の事を知っている?」
オナガは招待状が立会人に見えるように持って言った。
奇妙な質問だが、世間から身を隠しているオナガにとって“招待状が届く”という事は有り得ない事だったのだ。
「ウフフ、生まれる前からアナタの事を知っていたわ~☆」
「真面目に答えてくれ。」
「あら、ノリの悪いオトコね~。
……でも、――――――ンッ!」
立会人の男が大きな鉄格子のようなゲートを横に引いて開けると
重たい鉄を引きずる音と一緒に、ゲートの白い塗料がパラパラと剥げて落ちた。
「……でも、別に嘘は言っていないわよ?
『緒長 久茂(オナガ ヒサシゲ)』という“汚れてない戸籍”がこの世に生まれたのは、
2年前に貴方が闇市場で戸籍を買ったからでしょ?
アタシ達、トーナメント運営は“その戸籍が生まれる前”の
犯罪組織『土蜘蛛(ツチグモ)』の幹部だった頃の貴方の事も調べてあるわ。
…最初の質問の答えにも、一応なってるわよね?」
オナガの表情に、ほんの僅かだけ動揺があった。
「ち・な・み・に、オナガちゃんが欲しがっているモノも調べてあるわよ~☆
『土蜘蛛(ツチグモ)』の構成員リスト。
それが無いと、組織を潰す事なんて出来ないものね~?
このトーナメントで優勝すれば~手に入るんじゃないかしらね~?」
どこまで知っているんだ?という質問をオナガは飲み込んだ。
「………案内してくれ。」
「ハァイ。1名様、ご案内~♪」
質問は無意味だという事はオナガが一番よく分かっていた。
オナガにとってはこれは、天から垂れたこの蜘蛛の糸なのだ。…蜘蛛を、地獄に引きずり込む為の。
百貨店の前のバス停には市街地を巡回する市営バスが停まる。
オナガがゲートを通ってから10分後、国道のバス停から少し通り過ぎた場所に市営バスが停車した。
百貨店が営業していた頃は車内に「百貨店前~百貨店前で~す。」とアナウンスがあり、多くの買い物客が降りたものだったが、
閉店後はまるでそれが無かった事のようにアナウンスは変わり、バスを降りる人間も全く居なくなった。
運転手も、このバス停で降りる客は居ないという慣れから
思わずバス停を通り過ぎようとしてしまったようだ。
停車ボタンを押した『尾藤 杏路(ビトウ アンジ)』がバスから降りる時に
運転手は車内マイクで棒読みのような謝罪をしたが
ヘッドフォンから音漏れする程の音量で音楽を聴いている彼の耳には届かなかった。
バスを降りると、がらんとした道に立会人の男が待っていた。
立会人の男はヘッドフォンの音漏れに気付くと、ジェスチャーでヘッドフォンを外すように促す。
「初めまして、『尾藤 杏路(ビトウ アンジ)』ちゃん。アンジーちゃん、て呼ぶわね~?
アタシが貴方達の試合の立会人よン♪」
「わぉ…オカマさんだ…。」
初対面に向かって、アンジーはつい率直な感想を口に出してしまった。
「“レディー”って言いなさい。
…まぁいいわ、案内するから着いてきてねン☆」
立会人は一瞬だけ素になった後、すぐにペースを戻し
百貨店の正面入り口に向かって歩き出した。
「懐かしいなぁ…ここ。」
アンジーは子供の頃、休日に家族でこの百貨店に来た事を思い出していた。
思えばあの頃は、休日に来るこの百貨店のカフェでアイスを食べる事が人生の目的だったような気がする。
閉店してからこっちの方向には来ていなかったが、建物がそのまま残っている事は嬉しかった。
「アンジーちゃん、緊張感ないのね~。
言っておくけど貴方、これから知らない人間と戦うのよ?
最悪な場合、大怪我する事だってあるわ。」
「ヘビィーな事は後で考える事にしてるんだ。」
「あら、そ。
でも建物の中に入ったら試合開始よ?そんな悠長な事行ってられるかしら?」
「………。」
アンジーは黙ってヘッドフォンをmp3プレイヤーから外して鞄に入れると、すぅ…と大きく息を吸い込んだ。
すると少し、アンジーの雰囲気が変わった。
だがそれは、重い空気を背負ったのではなく、吸い込んだ空気だけ“薄くなって”少し軽くなったように見え
形はしっかりと大きくも見える…何とも奇妙な雰囲気だった。
―――珍しいタイプの子ね。雲みたいに掴み所が無いわ…。
―――蜘蛛と雲の対決、面白いわねぇ~。
そう思いながら、立会人はシャッターの降りた正面入り口の脇にある通用口を開けた。
「1名様、ご案内~♪」
開いた通用口の中は薄暗かったが、
漏れた空気の中に重い感情が混じっているのをアンジーは感じていた。
アンジーは建物の中に足を踏み入れた。
埃臭い空気のだだっ広い空間に、各フロアを仕切っていた壁や飾り付けが山積みになり壁側に寄せられ
工事の跡や廃棄された棚があちこちに放置されている。
一応、昔の店内の姿を透けて見る事も出来るが、変わり果てた姿に少し寂しく感じてしまう。
しかし電気は生きているらしく、半分程度のフロアには電気が付けてあった。
「建物の中に入ったら試合開始…って言ってたな。」
アンジーは立会人の言葉を思い出した。
つまりこの空間にもう相手が潜んでいるという事だろう。
だだっ広い空間だが、所々に隠れられそうな場所は沢山ある。
―――なるべく、周囲に隠れる物が少ない場所から探っていくしかないかな。
アンジーは電気がついていない方面は避けて、明るい方から回って行く事にした。
確かこっちの方は昔、迷子センターとかがあった場所だ。
すると突然、グイッっと右手が引っ張られた!
「―――!!?」
見ると、右手に半透明の蜘蛛の巣のようなワイヤーに絡み付いている。
左手で取ろうするがワイヤーは手で触わっても感触がない。
「スタンド攻撃ッ!!…罠だ!!」
反射的にアンジーはその場にさっと伏せると、右手をワイヤーから何とか引き抜こうとしたが
引き抜こうとすると食い込んだワイヤーが腕に擦れる。
「くっ……
『ガールズ・デッド・モンスター』!!」
アンジーの背後に逆さに翼を生やしたスマートな人型が出現すると、右手のワイヤーを外しにかかった。
ワイヤーは蜘蛛の巣のようにネバついてはいなかったが、伸び縮みして体に纏わりつく性質があるらしい。
何とかワイヤーを外せたが、右手は少し切れてしまった。
―――始まっていきなりコレか…。へビィーだな。
―――“2番”にかかったか。やはりそちらに行こうとするか…。
オナガはアンジーから少し離れた場所にじっと身を隠していた。
スタンド使いとの戦いで一番重要なのは相手の能力を理解し、攻略する事。
そういう点で、オナガは
自分の能力『ワールズ・エンド・ラプソディ』は、たとえ相手が理解しても攻略は難しいタイプだと自己評価している。
『空間に最大5個、蜘蛛の巣状のワイヤーを自由に張る事が出来る。』
これは、こういう空間での戦いでは非常に有利だった。
最初の小さな罠で相手に能力を強く認識させる。
そうする事で、相手はあまり大きな行動を取る事が出来なくなる。
そこに大きな罠を仕掛けて一気に勝負を決める。
これがオナガが得意とする戦法だった。
電気をフロアの半分だけ付けたのも布石…。
だが、決して油断はしない。
まだ相手のスタンド能力をこちらが理解していない以上、危険は冒さない。
《ピンポンパンポーン♪》
《……ブツッ、……ブッ…。ウゥゥゥ………。》
「―――何だ?」
店内放送のようだったが、音が途切れ途切れに小さくなっていく不気味な放送だった。
少し周囲を警戒したが、敵はまだ遠くに居る事は分かっている。
オナガは距離を詰めながら“次の手”の準備を始めた。
アンジーはその頃、迷子センター跡地の棚に捨てられていた毛布を見つけていた。
「こいつがあれば、1回くらいは罠から逃げられるかな…。」
広い建物全体の中で、実際に攻防が起こるのは自分の周囲だけだとアンジーは踏んでいた。
自分が罠にかからない限り、相手は姿を現さないだろう。
そこを―――狙う!
アンジーは周囲に落ちている物を手当たり次第に進行方向に投げながら奥の方へ進んだ。
―――そう。
―――相手の能力が空間に罠が設置できるタイプとなると、大概はそういう手段で避けようとする。
オナガは『ワールズ・エンド・ラプソディ』の蜘蛛の巣を2つを使って、
4番の蜘蛛の巣でゴム紐、5番の蜘蛛の巣でストッパー代わりにした大きな棚の巨大なスリングショットを設置していた。
アンジーはそれに気付かずにそのまま射程内に入ってきた。
「…5番、解除ッ!」
829 名前:名無しのスタンド使い[sage] 投稿日:2013/07/06(土) 01:29:51 ID:5QgWEFZ20 [7/12]
ドドドドドドドドドドドドーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
アンジーの真横から大きな棚が飛んできた!
「『ガールズ・デッド・モンスター』ーー!!飛ばせぇぇーー!!!!」
ドォゴォォ――――――!!!
アンジーにギリギリぶつかる寸前で『ガールズ・デッド・モンスター』のパンチが棚にヒットした。
すると棚はアンジーにコチンッと軽く当たり
その場にゆっくり横向きになった後、時間差のようにズシンと音を立てて倒れた。
―――危なかった……。
―――あの蜘蛛の巣みたいなワイヤーは伸び縮みするんだった…。こういう使い方もあるのか…。
アンジーは茫然と立ちすくんでしまった。
しかしその時、既にオナガはアンジーの背後の物陰に隠れていた。
「3番解除ッ!!」
オナガは声を張り上げてそう叫ぶと、
アンジーに『ワールズ・エンド・ラプソディ』のビジョンを見せて飛びかかろうと向かって行った。
「――!!
来たッ!!!」
アンジーも『ガールズ・デッド・モンスター』を出して応戦し――――
ヒュンッ!と音を立てて、オナガとアンジーの間を小さな石が横切ったかと思うと
アンジーの体に蜘蛛の巣のワイヤーが巻き付いた。
アンジーは身動きが取れなくなり、そのままバタリと倒れてしまった。
目の前に、飛んできた小さな石が転がっている。よく見ると蜘蛛の巣が巻きついてあった。
「ようやく顔が見れたな。坊や。」
オナガは警戒しながらアンジーに近付いていった。
「なっ、に!!?
く……くそっ……。」
「1発目の棚を避けたのは見事だったが、それで満足してはいけない。」
アンジーが体を曲げて倒れた棚を見ると、棚の方にも蜘蛛の巣が巻きつけてある。
「そ、そうか…。
1発目の棚は支えで、2発目の小石で捕える…。狩猟で使うボーラみたいな要領で…。」
「そういう事だ。
ま、悪く思うなよ、坊や。
俺には勝ち上がらなきゃならない理由があるんだ。」
アンジーは体を無理矢理起こした。
「…じゃあ、そっちも悪く思わないでよ?」
「なにっ!?」
オナガの頭上に突然、大きな石が落ちてきた!
――が、
オナガの『ワールズ・エンド・ラプソディ』が既に設置していた蜘蛛の巣が
それをギリギリで受け止めた。
「……えぇ………!?」
アンジーの罠は見破られていた。
「坊やの能力は見させて貰ってる。
物体の重さを一時的に無くして、その後で増幅させるとか、そんなところだろう。
つまり、この状況では“物が落ちてくる”という事に注意していれば、恐れる事はない。」
オナガは受け止めた石を見上げながら言った。
「負けを認めろ。
そうでなければ、ある程度は痛い目にでもあってもらう事になる。
どの道、動けないお前に勝ち目は無い。」
アンジーは暫く黙っていたがようやく顔を上げた。
「さ…最後に教えて欲しい…。」
「なんだ?」
「ヘビメタだったら何のバンドが好き?」
「フン、音楽なんて興味無い。何が楽しいのか分からない。」
「…そっか。
じゃあ、教えてあげるよ。」
突然、
建物全体にとんでもない爆音でヘビメタのギターソロが流れた!!!
音が天井のスピーカーから落ちてくるような圧迫感と
空間を切り裂くような高音、
そいて胸を押しつぶすような重低音にオナガは耳を塞いで悲鳴を上げたが、それさえ掻き消す音量だった。
時間にしてわずか10秒足らずのギターソロだったが、
アンジーの『ガールズ・デッド・モンスター』が渾身の一撃を本体であるオナガに当てるには十分過ぎる時間だった。
『ガールズ・デッド・モンスター』の一撃に吹っ飛ばされたオナガは
自分のスタンドの作った蜘蛛の巣に巻きついて壁際にドサリと落ちる。
「やっぱり良いね。このへビィーなソロ!」
アンジーを縛っていた蜘蛛の巣がスゥと消えていった。オナガの精神力が落ちたようだ。
「お……おま………なん……で……
こんな……音…聴いて………平気なん……だ……。」
オナガはまだ頭の中で音楽が反響しているような錯覚に陥っていた。
目が回っているように平衡感覚が無くなり、身体が上手く動かせない。
体が痙攣しているようだった。
「“何で”って、
ヘビメタは、こう聴くもんだよ。」
しかしオナガの耳はそれを聞き取る事すらできず、
アンジーの返事はそのままフラフラと空中に浮いたようになってしまった。
「こう聴くもんじゃないわよっ!!
まったくもゥ、
この建物がミサイル攻撃でも受けたのかと思ったわよ、アンジーちゃん!!!
…揉み消すこっちの身にもなってちょうだい。」
入り口の方から立会人が不自然な内股で歩きながら、浮いたままのアンジーの返事をさらに返してきた。
「あららまぁ~
オナガちゃんはこのザマじゃ戦うのは無理ね。
それじゃ、この試合の勝者はアンジーちゃんよ。パチパチパチパチ~☆」
「…負けると思った…。」
アンジーは床にペタンと座ると、そのままばったりと仰向けになった。
天井は、小さい頃に見上げたあの頃とあんまり変わってないように見えた。
「しっかしアンジーちゃん、
タイマー式で爆音の音楽を鳴らすなんて考えたわね。どうやったの?」
立会人はオナガの介抱をしながら訊いた。
「電気が生きてたから、店内放送も生きてると思った。
一応、生きてるか試したし、自分のmp3プレイヤーの音楽を流せる事も小さな音で確認した。
だから、とあるヘビメタのCDの最後のトラックを店内に爆音で流したんだ。」
「流した?
店内で流れたのは10秒程度のさっきのだけじゃないの??」
「…音楽好きなら、誰でも経験があるんだけどさ。
音楽聴いててさ、CDが終わったと思ったら
何分後かにシークレットトラックがあって、ビックリした事ない?」
「…ないわね。」
立会人は要領を得ない様子だった。
「店内で流した曲は、
5分25秒の無音の後に、シークレットトラックとしてNGテイクのギターソロが10秒だけ流れるんだよ。
狙ったタイミングで鳴らす事なんて出来ないから、5分25秒後に相手を怯ませられるくらいの気持ちで居た。
そしたら、最高のタイミングで流れてくれた…。」
アンジーはオナガをちらりと見た。
戦闘経験は明らかに相手が上だった。
偶然に偶然が重なって最高のタイミングになっただけで、自分が用意してた罠は見事に見破られたのだ。
「やっぱり、
ヘビメタは最高だ…。」
★★★ 勝者 ★★★
No.5349
【スタンド名】
ガールズ・デッド・モンスター
【本体】
尾藤 杏路(ビトウ アンジ)
【能力】
殴った物が持つ重量を未来に飛ばす
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最終更新:2022年04月16日 22:41