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第09回トーナメント:決勝①




No.6410
【スタンド名】
ダーティ・ロットン・バスターズ
【本体】
ハシム・バラミール

【能力】
物体に同化し、自壊する


No.6425
【スタンド名】
アストロブライト
【本体】
西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ)

【能力】
描かれた星座からイメージを具現化する




ダーティ・ロットン・バスターズ vs アストロブライト

【STAGE:廃ホテル】◆aqlrDxpX0s





(ハァッ……ハァッ……ハァッ……)

廃業したホテル、その一番広い部屋である「クリスタルホール」には十数個もの円形テーブルが並べられていた。
そのすべてのテーブルにはクロスがかぶせられ、裾が床すれすれまで下ろされている。

そのテーブルの中の1つに西獅子星司郎(ニシシシ セイシロウ)は息を殺して忍び込んでいた。

(手紙に記されていた集合時刻までは……あと1分後に迫っている。敵がホテル内に入ったnら、一番広いこの部屋に入ってこないはずがない……)


ホールの入り口、観音開きの重い扉が開き、また閉じる音がホールに響いた。

(……来た!)


星司郎はテーブルの中で身を屈め、クロスと床のすき間から外を覗き込んだ。
ホールに入ってきた男の姿は膝下しか見えないが、徐々に星司郎の潜むテーブルに近づいていた。

男がテーブルを横切りこちらに背を向けた瞬間、星司郎はテーブルから飛び出し男に攻撃を仕掛けた。

「『アストロブライト』ーーーッ!!」

白いボディと、面に星空が煌くスタンドが姿を現し、男の背中に拳を振り下ろした。


「――――ッッ!!?」

だが、男の体に触れる直前、アストロブライトの拳に無数の破裂が生じ、痛みのため思わず手を引っ込めてしまう。


「『ダーティ・ロットン・バスターズ』……不意打ちは卑怯デスヨ、BOY」

星司郎が改めてその男……ハシム・バラミールの背中をよく見ると、その身体の周囲には無数の虫が飛び交っているのが見えた。


「ハチノスにしなサイ!」

ハシムの合図とともにダーティ・ロットン・バスターズは群れを成したまま星司郎に向かっていった。

「くっ!」

星司郎は先ほどまで潜んでいたテーブルを盾にし、ハシムから距離をおいた。
テーブルはみるみるうちに穴ボコチーズのようにボロボロになっていった。

「距離をおいてもムダですヨ! ワタシ、決してアナタを逃がしたりはシマせん」

「逃げるために距離をおいたんじゃあない! 巻き込まれないためだ!」

「ナンですって?」


「『アストロブライト』―――大ホール内のテーブルはすでに象っている……『Centaurus(ケンタウルス座)』の星座をッ!!」

ホールに並べられていた円形テーブルは、端から見れば乱雑に並べられていた。
廃業したホテルだったことを考えれば、ハシムがそれを不自然に思わないことも当然だった。
だが、星司郎にとってすればそれはホール全体を使った、規則的な並び方に他ならなかった。

古代ギリシャの想像上の生物……ケンタウルスの星座の星の並びに。

「あめぇぇいじんぐ!!! プラネタリウムも真っ青デスネー!」

シャンデリアに頭があたりそうなほど大きなケンタウルスを目の前にして、ハシムは笑っていた。
絶望的な状況が彼にそうさせるしかなかったのか、それともここから打開する策があるのか、星司郎にはわからなかった。
だが、星司郎は命じるだけである。巨大なるしもべに、小さな標的を打ち倒すことを。

ケンタウルスは咆哮をあげて、手にした槍をハシムに向かって振り下ろした――――



「ハイ、そこまでーーー!!」


星司郎でも、ハシムでもない第三者の声。
その人物は叫んだと同時にケンタウルス座を象るテーブルのひとつを蹴り飛ばし、
ケンタウルスは槍を振り下ろす直前に、霧のように消えてしまった。

突然の事態に星司郎は困惑する。

「な、なにやってるんだアンタは! 勝負の……ッ!」

勝負を妨げたその人物に問い詰めようとしたが、その顔を見て思わず口をつぐんでしまった。
真っ青なアイシャドウに、真っ赤な口紅。厚化粧なだけならまだいいが、口元にはうっすら無精髭が生えていた。

「あらヤダ♪ 時間なかったもんだからオヒゲの処理するの忘れちゃったわ~! イヤ゛~ン☆
 申し遅れました~アタクシ、この勝負の立会人をさせていただく者ですわ~!」

「助かりました~……ミスター」

「レディって呼んで頂戴ッ」

「Oh~~~ッ、マイガッ」

「な、なんで勝負の邪魔をしたんだあんたは!」

改めて星司郎は問い詰めた。
星司郎にとってはこの人物が男か女かはどうでもよかった。
どうみても男なのだが。

「邪魔ァ~~~~? 失格にしなかっただけありがたいと思いなさいよ、星司郎ぢゃん!」

「な……どうしてだ」

「て・が・み! ちゃんとおたより読んできたの!? 書いてあるのは試合開始時刻じゃなくて『集合時刻』でしょ!
 何勝手にドンパチ始めやがってんだッ! 早漏なのか? 精子漏っちゃったのか? ああん、お下品♪ イ゛ぃヤ゛~ン☆」

「…………」

星司郎はぽかんと口を開けたまま呆れていることしかできなかった。

「Hey,lady……それで、ワタシたちに改めてどんな勝負をさせよーというんでショーカ。カレのトラップはナカ折れしちゃったわけですガ」

「ふん、アタシの用意してきた勝負内容に比べたら星司郎ぢゃんの作戦なんて教室の扉の黒板消しみたいなモンよ」

「勝負内容……?」

「徹夜に徹夜を重ねて、おヒゲ処理を忘れるくらい必死になって考えた勝負なんだから、黒板消し程度でフイになっちゃ困るのよ!
 ……勝負は別室で行うわ、ついてきなさい二人とも。もちろん、その間にお互い攻撃はナシよ」


星司郎は腑に落ちないまま、立会人の後をついていった。
ハシムは気味の悪い笑顔を浮かべたまま、星司郎の後からホールを出た。


立会人に連れられて入った部屋は、小さな倉庫だった。
倉庫といっても置かれているのは重々しいテーブルと、それをはさんで対面するように置かれた2脚の椅子、それぞれの椅子の横に置かれたローテーブルだけ。
四角いテーブルの上には何かが置かれているが、ホールの円卓同様、床まで下りたクロスがかぶせられていて何かはわからない。

「はい、じゃあ星司郎ぢゃんとハシムさんは座って~☆」

(なんで向こうだけさん付けなんだ)

「ずいぶんと重いテーブルデスね~、何か機械が入ってるンですカ? 椅子はただの椅子デスが……」

「ハシムさん鋭いわねぇ~~今回はコレを使って勝負してもらうわ~♪」

そう言って立会人はテーブルにかぶせていたクロスを取り、テーブルの全貌が明らかになった。

「…………What?」

「何だ、これ……?」


麻雀卓ほどのサイズのテーブルだが、テーブルに載っているのは麻雀牌ではない。
貝柱のような形をした白い石がいくつも入ったボウルが2つ、
「グー」「チョキ」「パー」の絵が書かれた、3種類の平皿がそれぞれ7枚ずつ積まれ、それが二人の前に1セットずつ置かれていた。
そしてボウルと平皿の下、テーブルの面には液晶画面モニターがはめ込まれている。

星司郎とハシムはそれを見て、この戦いが格闘によって行われるものではないということを察した。

「お二人には、これを使った『ゲーム』で勝負してもらうわァン」

「な……」

「おォっと、星司郎ぢゃん余計な口は挟まないで頂戴ン♪ 勝負を決めるのはアタシ。アンタらに拒否権はない。それはよく知ってるでしょ星司郎ぢゃん?」

「……くっ」

「ルール説明するわね。基本的なゲーム内容は『ジャンケン』よ。ハシムさんご存知?」

「モチロン。ジャパンのギロッポンでボインのチャンネーにベッドの上で教えてもらいマシタヨ」

「オッケェーイ☆ 今回はこのジャンケンを、3回勝負を5セット、計15回やってもらうわァン。3回勝負ってのは、3回のジャンケンのうち、2回以上勝利勝った方が勝ちってヤツね。
 3回勝負を5セットのうち、3セット以上勝ったほうが、この勝負の勝者よォ!」

「……おいおい、これ決勝なんだろ? 最後がこんなただのジャンケン勝負だなんて……今までの戦いはなんだったんだよ」

「だーれーがただのジャンケン勝負だって言ったッ!? 『基本的には』って言ったろうが早漏男子がッ!! テーブルの上のものが見えねーのかッ!!」

「Hey……ひとつクエスチョンでーす、そのジャンケン、合計15回の勝負と言いましたガ、『あいこ』も入るんでスカ?」

立会人はハシムにニッコリと笑顔を見せて答えた。

「……いぃ~~質問ですゥ」

(なんかこっちに対する態度とずいぶん違うな)

「答えは半分『はい』で半分『いいえ』ですワ☆ 例えば、『チョキ』対『チョキ』のような『あいこ』の組み合わせも1回に数えます。
 ただし、『チョキ』対『チョキ』でも、引き分けになるとは限らないのです」

「何だって?」

「ここからが大事なポイントですよォ……上と下の口おさえて静かによく聞いてろよ星司郎ぢゃん!
 このジャンケンは……『パー』が『チョキ』に勝つこともできるジャンケンなのよォ」

「『紙』が『ハサミ』に勝つンですか? アリエマセーン!」

「いい例えよ、ハシムさん。いい? このジャンケンは、ふつうのジャンケンなら負けとなる手が、『数』によって勝つことができるジャンケンなのよ☆」

「……さっきの例えを借りるなら、何十枚も重ねた『紙』を切ろうとした『ハサミ』をバカにする……って感じか?」

「ああ゛ん! それアタシが言おうと思ってたのに゛ィ! 星司郎ぢゃんのバカ!」

(何を言っても嫌われるな……)

「まあいいわ。二人とも、目の前にある白い石が入ったボウルを持って頂戴」

星司郎とハシムは立会人の指示通り、テーブルの上に置かれたボウルを持ち上げた。

「おおおっ、わりと重いなこのボウル……」

「そら5kg近くあるんだもの。そのボウルには1コ100gの石が『50コ』入ってるわ。それは横のローテーブルに置いときなさい。そこに置いとけば相手からは見えないから」

(だったら初めから置いとけばいいのに)


「そして『グー』『チョキ』『パー』のプレートも同じようにローテーブルに置きなさい。何度も言うけど、戦略に関わることだから相手からは見えないようにね」

「ソレデ……これはどうやって使うモノなんデス?」

「今回やるジャンケンは手を使って行うものじゃないの。この3種のプレートと、50個の石を使ってジャンケンをするのよ☆
 まずは試しにやってみましょうねェん♪ 今ローテーブルに置いたのとは別のものを用意したわ。『グー』『チョキ』『パー』のプレート1枚ずつと、石……『マーカー』と呼ぶことにするわ。
 マーカーを10個、1000gぶんをおふたりにお渡しするわね☆」

(ナルホド、何をするのかダイタイわかってきまシタよ……)

「テーブルのヨコの面を御覧なさい。自分の座ってる目の前の面よ。『3つの四角い穴』があるでしょう? オーブンレンジくらいの大きさの☆」

星司郎とハシムは椅子を少し引いて、手元のテーブルの側面を見た。確かに、四角い穴が3つあいていた。幅20センチ、高さ10センチほど。
3種のプレートを入れるにはちょうどいい大きさだった。
そして3つの穴の上部には左からA、B、Cのボタンがついている。

「だいたいルールは察してきたところじゃないかしらァ? 3回勝負、数、戦略……プレートとマーカー……」

(『チョキ』対『チョキ』でも引き分けになるとは限らない……そして、このマーカーと数、か……)

「それじゃあ実践に移りましょうか。もちろん、このお試しの1戦は勝負には関係ないから指示通りやってねン☆」

「ハーイ」

「ウフフ……素直ですねハシムさァン、ではハシムさん、穴にAから順に『チョキ』『パー』『グー』のプレートを入れてちょうだァい♪」

「オゥケーイ、入れましたヨ」

「そしてそれぞれのプレートにマーカーを2個、1個、7個入れてねン!」

「…………」

「星司郎ぢゃん、お待たせ! 星司郎ぢゃんはAから順に『チョキ』『グー』『パー』と入れて、マーカーは6個、2個、2個と入れてって頂戴」

星司郎は立会人の指示通り四角い穴の中にジャンケンの手のイラストが描かれたプレートを置き、マーカーを乗せていった。
1個100gの重さのあるマーカーはプレートに乗るたびにガチャンと重い音をたてる。

(1枚にのせられるのはせいぜい10個くらいか……でも、重ねればもっといけそうかな。乗せる数に制限はないのだろうな)

「置いたら、側面のはしにあるENTERボタンを押してくれるかしら? それで配分は確定されることになるわ」

星司郎がENTERボタンを押すと、3つの穴は中にマーカーの乗ったプレートを残したまま、シャッターが下りた。

「穴の中にはプレートとマーカー以外置くことはできないから注意してねン。シャッターが閉まらなくなるから☆」

「ナルホド、1セットの3回勝負とはいえ……出す手は3回分、先に決メルのデスね」

「その通り、あとは選ぶだけよ。それじゃあバトルフェイズに入るわよ……3回勝負の1戦目ね。二人ともAのボタンを押して頂戴ン!」

二人はAのボタンを強く押した。それと同時に、テーブルの液晶画面には、互いの目の前に『チョキ』のマークと数字が映し出された。
ハシムの前には『100』、星司郎の前には『600』と映し出されている。

「数字は、マーカーのグラム数を100桁未満は切り捨てで表示しているワ。マーカー1個が『100』、2個なら『200』ね。穴の中で重さが測れるようになってるの。
 そして、それぞれの今回の手は、ハシムさんが『チョキ、100』、星司郎ぢゃんが『チョキ、600』ね。ジャンケンの手ならあいこだけれど、この戦いの場合は……星司郎ぢゃん?」

「この場合は……数字の上回った私が『勝ち』ってことだな?」

「その通り! ジャンケンの手があいこでも、重さを表すポイントが上回れば勝敗が分かれるのよン! でも安心するには早いわよ! 続いて2戦目! 二人ともBを押してちょーだい☆」


指示通り、二人はBのボタンを押す。
液晶画面には、ハシムが『パー、100』、星司郎が『グー、200』と表示されている。

「さあ、ジャンケンの手が分かれたわ。ポイントだけなら星司郎ぢゃんが上回っているわね。でも、ジャンケンはハシムさんが勝っている。
 ただし! ここ重要だからねン!! 『ジャンケンで勝ったほうはポイントが3倍』になるのヨン!! つまり、ハシムさんはマーカー1個だったけれど、ポイントは3倍になって300ポイントになるのヨ!!」

「つまり……ワタシが勝ちとイウことですネ」

「Exactly(そのとおりでございます)! さあ、ここで互いに1勝1敗よぉん! 3戦目にいくわ、Cのボタンを押して頂戴ン! あたりまえだけど、AとBのボタンは押しても反応しないからネン!!」

二人は残ったひとつのボタン、Cのボタンを押した。
液晶画面には、ハシムが『グー、700』、星司郎が『パー、200』と表示されている。

「さあ、ここまでくれば、アタシが何も言わなくてもわかるわね星司郎ぢゃん! 勝ったのはどっち!?」

「……ジャンケンの手は私が勝っている。だが、3倍にしても、相手のポイントには100届かない。つまり……向こうの勝ちなわけだ」

「大~正~解~!! 3回勝負の1セットは2勝1敗でハシムさんの勝利ということよ~♪ オメデトーパチパチパチパチ~☆」

「…………」

「これを、3回勝負の1セットをこれから5セットやってもらうわ。そのうち3セット勝利したほうが、最終的な勝者となるわ。ここまでいいかしらン?」

「幸先のイイ~ことですガ……2つ、質問がありマース」

「はいどうぞ?」

「このA、B、Cのボタン……つまり、『バトルフェイズ』前に決めた3つの手ハ、どの順番デ押してモいいーんですネ?」

「そのとおりです。さっきはルール確認の便宜上、指示いたしましたが、本番ではそれぞれが勝負の流れを読んで決めてもらうわ」

「ハッハー、わかりました。あともう一つ……このボウルのマーカーは50コ……つまり5000ポイントを与えらレテいまスガ、これは5セット通してのポイントなワケですね?」

「それもそのとーりよ☆ 1セットに1000使おうが2000使おうが構いませんワ♪ ただし、『プレートには必ず1個のマーカー……100ポイントぶんは必ず置く』ことは義務づけますネン☆
 マーカーを置かなければシャッターは閉まらないし、各セットの前に手持ちが3個より少なくなっていた場合にはその後のセットは無条件で敗北とさせていただきますワ☆ 気をつけてね星司郎ぢゃん!」

「…………」

「それと捕捉するけど、3種のプレートも5セット通して使うものだけれど、数に限りがあるから注意してねン! 『それぞれ7枚ずつ』、補充は何があってもしないからねェ~!
 合計15回の勝負のうち、『8回以上は同じ手を出せない』からちゃんとそれも考えて戦略立てるのよン☆」

「逆に言えば、プレートすべてを使うわけではないということでーすねー!」

「プレートは7×3の合計21枚、6枚は使わずに勝負が終わるんだな」

「あっと、言い忘れてたけど、1セットの中の3戦は、必ずしも『グー』『チョキ』『パー』1つずつじゃなくてもいいからネン☆ 『グー』2つ入れても、全部『チョキ』でも問題ないわァん♪
 そいで、ゲーム中は相手に直接危害を加えることも禁止しとくわね☆」

(……全部『チョキ』? そんなことしたら偏りが生じるんじゃあ……いや、それも戦略なのか)

「そろそろいいかしらン? 簡単にルールをおさらいするわよ!」

~ルール~


・基本的にはジャンケン勝負。ただし、ジャンケンの手にはプレート上にプレイヤーが置いたマーカーによってポイントが付け加えられ、最終的にポイントの上回ったほうが勝ちとなる。

・ジャンケンで勝ったほうはポイントが3倍になる。ただし、3倍になってもポイントが相手を上回らなかったら負けとなる。

・プレイヤーに与えられる全ポイントは5000(100gのマーカー50個ぶん)、「グー」「チョキ」「パー」のプレートが7枚ずつ。これを全15回のジャンケンで通して使う。

・プレートに置くマーカーは、毎回必ず1個は乗せなければならない。各セット前にマーカーが3個未満になっていた場合、その後のセットは無条件で敗北となる。

・3回勝負を5セット行い、3セット以上勝利した者がこの勝負の勝者となる。

・ゲーム中、相手に直接危害を加えることは禁止。


(『相手に直接危害を加えることは禁止』……か。殺さなければ勝負がつかなかった前の試合とはえらい違いだな)

「紙とペンはあげるから、しっかり考えて戦略をたてるのヨン☆」

星司郎はふと立会人の顔を見た。
相変わらず気色の悪い顔だが、この立会人からは前の試合の立会人のように、殺し合いを見て楽しむような様子は見られなかった。

「ン?」

星司郎は立会人がこちらを向く前に目をそらせた。
正面に座るハシムは、じっと動かないままテーブルのあたりを見つめている。

(拍子抜けマシタが、ゲームなのはマアいいでしょう……。デスガ、なぜこんな『まわりくどい』やり方デ……)

「……あんた、どうかしたのか?」

「! ……イエ、サッキまで血気盛ンだったのに、アナタずいぶん冷静にナッタなーと思いましてネ」

「仕方ないだろう、これで勝負をすることになったんだ。興奮してても仕方がない」

(やはり……気づいてナイか。この男も、今までの対戦相手と同様に……『あまちゃん』なようでーすね)


「それではそろそろ本番始めるわよォ……『ゲームスタート』!!」

【第1セット】


星司郎……マーカー残り50個(5000ポイント)、「グー」7枚、「チョキ」7枚、「パー」7枚。
ハシム……マーカー残り50個(5000ポイント)、「グー」7枚、「チョキ」7枚、「パー」7枚。



「いぃん? 説明した通り、はじめに1セットの3戦分のジャンケンの手と、マーカーの配分を行ってもらうからネん!
 遊びじゃないんだからマジメにやれよ星司郎ぢゃん!」

「…………」

「あァ゛ん、無☆視☆さ☆れ☆だァ♪」


星司郎は無視したわけではない。ただ、立会人の声に気がつかないほど集中して考え込んでいた。

(この勝負、大事なのはジャンケンの手よりもポイントのほうなのには違いない。マーカーは50個、5000ポイント……セットごとに分ければ1000ポイントずつか)

星司郎はチラリとハシムのほうを見た。ハシムは下を向いたまま手を動かしている。

(一番最初の勝負……ポイントも、プレートの数も同じ状況では何のヒントもない。最初は様子見したほうがいいか……)


星司郎は目を閉じて少し考えた後、3枚のプレートを穴の中に入れ、マーカーを手に取りプレート上に割り振った。

「…………」

迷わず、ENTERボタンを押して、第1セットの手を確定させた。
星司郎が顔を上げると、ハシムはすでに配分を確定させたようだった。

「決まったわネェん! それじゃあ第1セット、第1試合! それぞれA、B、Cいずれかのボタンを押して頂戴ッ!!」

二人はほぼ同時にボタンを押し、液晶画面にそれぞれのジャンケンの手、ポイント数が表示された。

ハシムは『グー、100』、そして星司郎は……『グー、300』。

「良しッ」

星司郎は小さくガッツポーズをした。
ジャンケンは『あいこ』だったが、ポイントで星司郎が上回り、第1戦目は星司郎が勝利した。

「第2戦目で星司郎ぢゃんが勝利すれば、このセットは星司郎ぢゃんが取るわね……それじゃあ早速、第2戦よォ!」

再び、星司郎とハシムは手元のボタンを押した。
3戦ごとに行うこの勝負は、2戦目は考えてボタンを選ぶことのできる唯一の機会であった。
1戦目の相手の手を見て、自分の持つ2つの選択肢から選ぶことができるのである。

しかし、この時は第1戦同様、二人とも迷わずボタンを押した。

画面に表示されたのは……ハシムが『グー、100』、星司郎が『チョキ、600』。

「良しッ!!」

星司郎はジャンケンの手では負けていたものの、ハシムのポイントを3倍にしても、星司郎の提示した600ポイントには及ばず、最終的に星司郎が勝利した。

(最初は、何も情報がない中での勝負……ここで勝利すれば戦況は有利になる! だから俺はあえて『多めにポイントを使った』!)

「フフ……星司郎ぢゃん、お~み~ご~と~……♪ 第1セットは星司郎ぢゃんの勝利が確定したわ。だけどルール上、第3戦も行うわね」

「なっ、そうなのか? 何の意味もないと思うんだが……」

「『全15戦行う』って言ったでしょ~……一度配分したプレートやマーカーは二度と使えない。相手が何を、どのくらい使ったのか知りたいでしょ?」

「そ、そうか……」


星司郎は残ったボタンを押し、テーブルの液晶画面に注目した。
まだ画面には第2試合のものが表示されたままだった。

「…………!」


それを見た瞬間、星司郎の背筋が凍った。
対戦相手のハシムの出した手……1戦目も、2戦目も『グー、100』だった。
100は、1回の勝負で出せる最少の数。それをハシムは続けて出していた。

このセットにおいて、自分の勝利は確定していた。にもかかわらず、星司郎の胸になんともいえぬ不安な気持ちがふくらんでいく。
おそるおそる、ハシムの顔を見た。

ハシムは……負けに焦るどころか、笑っていた。ニヤニヤと、こちらを嘲り笑うかのように。


「この第3戦……モシあなたが勝ったら、完全にムダ勝ちデスよネ……さて、そちらの残る手ハ、なんなんでショー?」

星司郎の心臓の鼓動が急に高鳴る。
勝ったにもかかわらず、何か恐ろしいミスをしたのではないかと、第3戦の結果を見るのが怖かった。

ハシムがボタンを押し、液晶画面に結果が表示される。

星司郎の手は『パー、300』。そしてハシムの手は……『グー、100』。またも同じ手だった。

「!!」

「勝敗の結果にあまり意味はないけれど……ジャンケンは星司郎ぢゃんが勝ち。ポイントは900対100で星司郎ぢゃんの『圧勝』ねン☆」

『圧勝』という言葉を聞いて喜べないことなどあるだろうか。
星司郎はハシムの言う『ムダ勝ち』を第3戦で手にすることになった。


第1セットは星司郎の目論見通り、勝利を手にした。
ただし星司郎は、マーカーは50個のうちの12個、1200ポイントを消費した。

それに対しハシムはマーカー3個、300ポイントしか消費していない。

(この男は……ハシムというこの男は、第1セットは『負けるつもりで配分を行っていた』んだ……! 思えば第2戦、私がリーチしてにもかかわらず、彼は迷わずボタンを押した。
 当然だ、第1セットにおける彼の手は……3つとも同じだったんだから。彼は……消費ポイントを最少に抑えて、私とポイントの差をつけることが狙いだったんだ!)

「…………」

(……とにかく、ポイントで差をつけられたとはいえ、最終的に大事なのはセットの勝利数だ。間違いなく、リードしているのは私だ。
 それに……彼だっていずれポイントを多く使わなければならなくなる。私はジャンケンの手で勝ちつつ、ポイント消費をおさえなければならない……)

(フフフ……まだアマいでーすよ、アナタ。ワタシの第1セットで仕掛けた策はまだ半分しか終わってマセンからね……)

「まだ序盤だけど……面白くなってきたじゃなーい☆ それじゃあ第2セットいきましょうか!!」

【第2セット】


星司郎……1勝0敗、マーカー残り38個(3800ポイント)、「グー」6枚、「チョキ」6枚、「パー」6枚。
ハシム……0勝1敗、マーカー残り47個(4700ポイント)、「グー」4枚、「チョキ」7枚、「パー」7枚。



第2セットの開始宣言と同時に、閉じていた3つの穴のシャッターが開いた。
中には、第1セットで使ったプレートやマーカーは入っていなかった。

「あたりまえだけどねン、使用したプレートやマーカーは自動的に回収されるワぁン♪」

「効率のいいことでーすねー」


星司郎は、立会人とハシムのくだらないやり取りには一切耳を働かせなかった。
手元の紙に自分と相手のマーカーとプレートの数をメモし、それをじっと見て考え込んでいた。

(現状では3800対4700……数にあまり違いはないように見えるが、仮にこれから3セットで1000ずつ消費したとすれば、最終セットでは800対1700……この差は大きい。
 900ポイントも差をつけられているのに、これから2勝しなければならないとなると、一発狙いの作戦に出ることもできない。
 やはりジャンケンで勝ってポイントを3倍にすること前提で勝負しなければならないか。もしここで勝てば、残り3セットで1勝……運任せでもどうにかなるか……?
 とにかく、ここでまた大量にマーカーを消費するのは得策ではない……)

星司郎はメモに書いたハシムのプレートの残りの数を確認し、プレートを選んで3つの穴に入れた。
そして、マーカーを手に取り、プレートの上へ置いていく。

(プレートとマーカー……何故、こんな方法を使うのだろうか。手元に入力端末でも置いておけばいいのに……)

星司郎はENTERボタンを押し、配分を確定させた。


ハシムのほうを向き、その動きを確認した。
もし、もう配分が終わっていれば、また敢えて負けるような思い切った作戦をとっているだろうと星司郎は思った。
こちらに合わせた綿密な作戦を立てるなら、マーカーを置くのに時間がかかっているはずであるからだ。

ハシムは、まだ下を向いていた。
だが、手が動いている様子はない。


そのとき、星司郎の耳元にプンと高い音が鳴った。
はっとしてそのほうを見るが、何もない。
気のせいかと思い、ふと自分の横にあるローテーブルを見ると、マーカーが入った自分のボウルに小さな無数の虫が群がっていた。

「うわっ、うわああああっ!!」

あわてて星司郎はボウルの虫をはらいのける。
虫は腕には当たらなかったが、ボウルから離れ、ハシムのほうへ向かっていった。

「……オーウ、失敗しちゃいましたか。『ダーティ・ロットン・バスターズ』でマーカーを壊そうと思いまシタが、気づかれてしまーいマシタ」

「た、立会人ッ!! なにボーっと見てるんだ!」

「……あら? ボーっとなんかしてないわよ。星司郎ぢゃんどうするのかなーって見てただけよン☆
 いいことォ、アタシが禁止してるのは相手へ『直接』危害を加えることだけだからねェん♪ それ以外のことは自分で責任持たないとォ」

星司郎はボウルを手に取り、中のマーカーを確認した。少し小さな穴が開いているものもあるが、壊されているものはなかった。

(そういえば、ここに来る前のクリスタルホールでのハシムの攻撃……あれも虫による攻撃だったな……。触れた瞬間、肌がはじけるような感じがした)

「直接危害を加えラレませんからねェ……そうでなければ、払おうとしたときに腕を食いつぶしていたんデースが……そんなにボウルが大事なら、ずっと抱えていなさーい」

「ちくしょう……」

星司郎はボウルを膝の上に抱えるようにのせた。
相手の言うとおりにするのは癪だったが、ただでさえハシムより少ないマーカーを壊されるわけにもいかなかった。

「それじゃあ……第2セット、第1戦といきましょうか☆ ボタンを押しなさい!!」


ボタンを押し、液晶画面に結果が表示された。
星司郎の手は『パー、200』。そしてハシムの手は……『チョキ、100』。

「な……!!」

「星司郎ぢゃんがポイントで上回っているものの……ジャンケンはハシムさんの勝ち。ポイントを3倍して……200対300でハシムさんの勝ちねン☆」


このゲームを通してはじめてのハシムの勝利……ただし、星司郎の勝利と違っていたのは、最少消費ポイントでの勝利ということだった。

「フフフ……アナタの考えはすでに見透かしてイマース……」

「何……!」

「第1セットでポイントを大量に消費したアナタは……第2セットではポイントを抑える必要がありまーした。消費を抑えたワタシとの差を縮めるためにもね……。
 デースが、ワタシと同じく全部100ポイントにするのでは後手にマワッテしまう……だからアナタは『200』にしたのでーす。
 もしワタシが『また』ポイント消費を抑える作戦に出た場合、あいこの手でも勝てるようにネ……」

「く……」

「ワタシがまたポイント消費を抑えた手を出すと……アナタはそう『期待』していたのデース。
 なーぜーなーら、アナタが第2セットで勝つためには、ワタシがポイントを抑えた手を出さなければ決して勝てないからデース」

「どうせ……口から出まかせなんだろう。ジャンケンでそっちが勝てたのはたまたまなんだから」

「……そう思いマースか?」

「……ああ」

「じゃあ、次いってみまショウか」

「あ゛あ~ん、進行はあくまでアタシがするの゛ォ゛!」


二人がボタンを押し、第2戦の結果が表示された。
星司郎はずっと、画面を凝視したままだった。

「アナタの手は……『パー、200』、そしてワタシは『チョキ、100』デス。第1戦と結果は同ジですネ……!
 ワタシには、あなたが少ないポイント数で勝負してくることがわかっている。それなら、ワタシがポイントを大量に使う理由はアリマセーン」

「なんだってェ……!!」

「いいですかオボッちゃん……ワタシはアナタのジャンケンの手も読んでいた……というより、操作したのですヨ、ワタシがね」

「そ、そんなはずがないだろッ!!」

「まずこの第2セット……アナタのスタンスは、いわば『負けでもともと、でもちゃっかり勝てればOK』というものデース。
 ジブンが負けてもワタシはポイントを多く消費し、ワタシがポイントを最少限に抑えるナラ勝てるかもしれない、というコトデスネ。
 『負けてもともと』だから、アナタは第3セット以降のことを考えて、ポイントだけでなく『ジャンケンの手』も調整しなければならなかった」

「…………」

「ワタシは第1セットにおいて、3回も『グー』を出した……」

「…………」

「今後、ワタシが『グー』を出す回数は当然減る。ワタシの残り4枚の『グー』に対し、ソレに勝つ手である『パー』を6枚も持っててもしょうがない……ソウデショウ?」

「……!!」

「そして、ワタシがもう3連続で『グー』を出したのだから、ここでまた『グー』が来ることは決してありえない……だからあなたは『パーのあいこ』でも勝てるように『パー、200』を2度出した……。
 ワタシが第1セットのときから、そうさせるように仕組んでいたとも気づかずニネ……」

もはや星司郎は言葉も出なかった。
ハシムに最少ポイントで勝たせてしまったこと、
そしてハシムの思い通りの行動をとっていた自分が不甲斐なく、ショックを受けていたのだ。

「そして第3戦デスが……結果を見る前にアナタの手を当てましょうカ。
 ……アナタはワタシの手をこう読んでいたはず。先ホドも言いましたが、『グー3連続なのだから、グーを出すことはありえない』と。
 そしてアナタは第1戦、第2戦で『パー、200』を出した……。今度は理論がビックリ返りまーすね。『パー3連続はありえない』でしょう。
 そしてポイントはあまり消費したくない。200……いや、ワタシが『チョキ』か『パー』しか出さないと思っていたなら、100で十分だと考えたんじゃないでーすか?
 つまり『チョキ、100』……イカガです?」

「…………」

「それじゃあ星司郎ぢゃん、結果をみてみるわよ……」

うなだれる星司郎をよそに、画面に第3戦の結果が表示される。
結果は……星司郎『チョキ、100』、ハシム『グー、100』。

「ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァーーーー!!」


(くそ……何故だ、勝敗のうえなら同じ1勝1敗。それなのになぜ私はこんな敗北感を味わっているんだ……)

「絶望スルにはまだ早いデスよ、セーシロー……」

「え…………」

「アナタはホントに『あまちゃん』でーすね……同じ失敗を繰り返すなんて」

「?」

星司郎は絶望に呆けたまま、ハシムのほうを見た。
ハシムのまわりには、小さな無数の虫が飛び交っていた。
『ダーティ・ロットン・バスターズ』という名の、スタンドが。

「!!」

はっとして星司郎はボウルを見た。
しかし、ボウルには何の変化もない。
膝の上に抱えて、うなだれていたのだから、変化があれば見過ごすはずがない。

「そっちじゃないわ、星司郎ぢゃん……」

立会人にそう言われ、星司郎はテーブルの上、シャッターが下りてふさがれた穴、ローテーブルと見ていった。

「こ、これは!!」

ローテーブルにおいていた3種のプレート、分けて重ねていた3つの皿の山が、ごっそり1つなくなっていた。
6枚の『グー』と5枚の『チョキ』を残して、『パー』のプレートが無くなっていた。
ローテーブルの下には、プレートと同じ色の粉が山をつくっている。

「ワタシが急にペラペラと話し出して……オカシイとは思いませんデシタ?」

「なに……まさか君が……」

「ワタシが第2セットの間、ずっと話し続けていたのは、アナタを精神的に追い詰めるだけじゃありまセーン。
 こちらに注意を引き、プレートからずっと目を離させるためだったのでーす。一度ボウルを狙って『気づかせた』のも、プレートから注意をそらさせるためでーすね。
 第2セットの間、ワタシの『ダーティ・ロットン・バスターズ』は静かにアナタのプレートに忍び寄り、音をたてずゆっくりと破壊していきまーした。
 アナタの視界から一番離れた場所においていた『パー』のプレートは、アナタの知らないうちにワタシが『なくして』しまいましたァー」

「そんな馬鹿な……立会人ッ、これが許されるのか!」

「……ギリッギリだけどねー。でもォ、注意を怠った星司郎ぢゃんにも落ち度はあるでしょ?」

「ふざけるなッ……こんなことが見過ごされてたまるか!!」

「いい加減になさい!! ゴルァ!!!」

「!!」

「星司郎ぢゃん……これはただのゲームじゃあないのよォ? 『スタンド使い』同士の戦いでしょお?
 それなのにアンタは相手に出し抜かれたからって何グヂグヂ言ってんだッ!! キンタマあんだろ!? 見せろ!!」

「…………」

「キンタマ! 見せろ!!」

「断る!」

「あァん☆ もう!」

「くそ…………ッ!!」

星司郎は両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れなおした。
残ったプレートはローテーブルの前方、できるだけ自分の視界に入りやすいところまで移動させた。

(第2セットでポイント消費を抑えるつもりが、むしろさらに200も開いてしまった。そしてプレートは『グー』と『チョキ』しか使えない……最悪の状況だな)

「さて、どうするかな……」


(星司郎ぢゃん……アンタはすでに勘付いてるはずよ。このゲーム……何故こんなに『まわりくどい』方法で行っているのか。
 それはもちろんアタシがそうしたからなんだけど、それにはちゃんと理由があることを、アンタは気づけるはずよ……!)

【第3セット】


星司郎……1勝1敗、マーカー残り33個(3300ポイント)、「グー」6枚、「チョキ」5枚、「パー」0枚。
ハシム……1勝1敗、マーカー残り44個(4400ポイント)、「グー」3枚、「チョキ」5枚、「パー」7枚。



(うまくいきまーした……)

ハシムはここまでの2セット6戦で、わずか600ポイントのみ消費し、1セットは与えたが、もう1セットは勝利した。
十分すぎるほどの成果と言っていい。

(ふつう、ギャンブルにおいて理想とされているのハ、『小さく負けて大きく勝つ』ということ。シカシこのゲームでは逆でーすね。
 『大きく負けて小さく勝つ』のが理想。ポイント差の大小が勝敗に影響されないのなら、ムダなポイント消費ハ避けるべきでーす。
 ワタシは、最悪第2セットは負けてモ良かったとさえ思っていタ。マア、2セットのうちどちらかは取れるだロウとは思っていましたガネ。
 本当の目的は、カレのプレートをまるまる1種類なくすことだった。そして……ソレにより反則負けになるという危惧ハまったくなかった)

ハシムは立会人をちらりと見た。
立会人は顎に手をそえたまま、星司郎とハシムが配分を終えるのをじっと待っている。

(このようなアナログな方法で勝負を行ったのは……『スタンド能力を使わせる余地を与える』ためなんでショウ。
 ただの読みあい、騙しあいではスタンド使いを集めた理由が無い。だから、ワタシが『スタンド』でプレートを壊そうガ、それが反則の理由になるハズがないんです。
 無論、行為中に手を掴まれてしまえば、強行することはできないでしょうが……)

ハシムは3枚のプレートを穴に入れ、ボウルのマーカーを無造作に掴んでプレートに置いていった。

(とりあえず、これ以上ワタシがリスクを負う必要はありませーん。結局勝負はこのゲームがすべてです)

ハシムは手元のメモを見た。
星司郎のプレートは「グー」6枚と「チョキ」が5枚。4枚あった「パー」はハシムの『ダーティ・ロットン・バスターズ』によって破壊され、1枚も残っていない。

(モシ、ワタシが『グー』を5枚持っていたら、もうワタシの勝利はほぼ確定していた。ワタシの『グー』は『勝ち』か『あいこ』にシカなりませんからネ……。
 『あいこ』でもポイントで差をつけて勝利することが可能だった。……ですが、今ワタシは『グー』を3枚しか持っていませーん。
 ここで『グー』を使い切ると今度はワタシがマズイ。ここは……本当に様子を見る、しかないでしょうね。ただし……ポイントは多目にして)

ハシムはENTERボタンを押した。
顔を上げると星司郎と目が合った。どうやらほぼ同時に配分が終わったらしい。
星司郎の眼差しは、勝負をあきらめた者のものではなかった。
ポイントは1100も下回り、「グー」と「チョキ」しか出せない。
それでも、まだ星司郎はあきらめてはいなかった。

「それでは……第1戦目いくわよォ♪」

二人がボタンを押し、結果が画面に表示される。
星司郎の手は『グー、200』、ハシムは『パー、700』。ポイントでもジャンケンでもハシムが勝っており、ポイントを3倍にして計算するまでもなくハシムの勝利となった。

「Oh,シ~ット! 勝ちすぎマシタ!」

「…………」

「シカシ、良かったのデ~スカ? 大事な『グー』を使ってしまって……」

「心配は無用だ。立会人、次にいこう」

星司郎に対し立会人は黙って頷き、合図のため手をあげた。

「それじゃあ、第2戦目…………ッ!」

ガタンッ!


立会人が手を振り下ろそうとしたとき、テーブルが音をたてて揺れた。
突然のことに立会人は驚いて手を引っ込めてしまった。

「な……なに!?」

「…………くそっ」

ガンッ!

「きゃぁンッ☆」

「!!」

テーブルが再び揺れ、立会人と星司郎が驚く。


「……すぃませェん、興奮してテーブルを蹴っちゃいマシタ。ホラ、このテーブル機械が入ってて脚をのばせませんから」

「はァ、びっくりしたわ」

「…………ソーリィ」


「それじゃあ改めて……ボタンを押して頂戴ッ」


液晶画面に表示された結果は……
星司郎『グー、400』、ハシム『パー、300』。

「ハハハッ、いやぁー危なかったデス」

ポイントでは星司郎が上回っているが、ジャンケンではハシムが勝っており、ポイントが3倍になって星司郎を上回り、ハシムが連続で勝利した。

「これにより、第3セットの勝者はハシムさんになったわァ☆ 星司郎ぢゃん、もう後がないわよ?」

「……ああ」

「それじゃあ、第3戦の結果も表示するわね」

「…………」

「ハッハー! ハァーッハッハー!!」

ハシムは高笑いを続けながら、また足でテーブルをガンガン蹴っていた。

「チョットハシムさん、デリケートな機械なんだから、もっと優しく扱ってねェん!!」

「…………」


第3戦の結果は、
星司郎『チョキ、600』、ハシム『チョキ、700』だった。
第3戦の勝敗にもはや意味は無いものの、ハシムは第2セットの第1戦から6戦連続で勝利したことになる。

「Hey,セーシロー、勝利の女神はドウヤラワタシに微笑んでイルようでーす。
 まあアナタに微笑む女神なんて、こちらノ立会人くらいでしょうがネー」

「まだ勝負は終わっていない……私はまだあきらめないぞ……」

【第4セット】


星司郎……1勝2敗、マーカー残り21個(2100ポイント)、「グー」4枚、「チョキ」4枚、「パー」0枚。
ハシム……2勝1敗、マーカー残り27個(2700ポイント)、「グー」3枚、「チョキ」4枚、「パー」5枚。



(あきらめない?)

そう聞いたハシムは思わず吹き出してしまいそうになる。

(あきらめるもなにも、勝負はもう決まっています。カレの状況は絶望的でーす。
 カレが勝利するためには残り2セットを勝たなければなりまセン。ワタシよりも少ないポイント、そして『グー』と『チョキ』しか出せない……。
 そしてワタシが出す手は……迷う必要がありませーん。3連続で『グー』、それだけです。負けでポイントが3倍にされることもありませんし、
 合計1500程度のポイントをつければ、万が一カレが同等のポイントで張り合い、負けてしまったとしても、カレに第5セットを戦うポイントは残されていません。
 ワタシがしてはいけないこと……それは『パー』を出すこと。ワタシは『あいこ』なら許されますが、決して『負け』テハいけないのデース)

「決して負けない」こと、それがハシムの人生哲学だった。
危険な世界に身を置きながらも彼が生きながらえたのは、その鉄則に従って行動していたからである。

(あとは、カレに『スタンド能力』を使わせなければ、それでいいのです)

ハシムはENTERボタンを押し、配分を確定させた。

「さあセーシロー、敗北を受け入れる覚悟ハできているんデースか?」

ガチッ、とボタンを押す音が鳴る。
星司郎もハシムに続いてENTERボタンを押したようだ。

「……心配するな、配分はもう終わった」

「…………」

「そして、敗北を受け入れる気など、私には毛頭ない」

ガタンッ!

「それじゃあイヤでも教エテあげましょう」

「脚をテーブルに投げ出すなんて……お行儀悪いわよォ♪ まあいいわ……第4セット、第1戦に突入よン♪ ボタンを押しなさァい☆」


二人がほぼ同時にボタンを押し、結果が表示される。
星司郎は『グー、100』、ハシムは『グー、200』。

「ハァーッハッハッハッハッハ!!」

「…………」

「イヤ、失敬。ツイツイ笑ってしまいましたヨ。セーシローくん、ソレは君にとっては『負け』の一手だったのでしょう。
 シカシ、ワタシは運よく100ポイント差で勝ってしまいました。これは……笑わずにはいられまセーン!!」

「立会人、次にいこう」

「セーシローくん、どうせ負けるならアナタは『グー』でなく『チョキ』にすべきでしたネ。アナタにとってはチョキは不利な手だということはわかっていたハズでショウ?
 ワタシは『グー』を出せば負けは決してない。それくらいアナタにもわかるハズでーす」

「立会人ッ!」

「……イヤに落ち着いてるわねェ、星司郎ぢゃん、アナタ次で負ければもう終わりなのヨォ?」

「どのみち配分はもう終わっている、いまさらやり直すことはできないだろう」

星司郎は立会人が合図する前に、ボタンを押した。

「……いいわねェ、潔いのは好きよ」

「投げやりなんじゃあナイですかネ?」

そして、ハシムもボタンを押し、液晶画面に結果が表示された。
星司郎の手は『グー、700』、ハシムは『グー、600』。
わずか100、星司郎が上回った。


「オオット! 思い切りマシタね! アナタの全ポイントの2100から700も使うとはさすがに予想していませーんでした」

「…………」

「ですが……よろしいのですか? ここで大量にポイントを使ってしまうと第5セットで使うぶんがありませんヨ?
 それより、ここで700の手を出して、第3戦にはどんな手を残しているんデスか?」

「…………」

「Mmm...だんまりですか、おもしろくありませーん」

「それじゃあ、第3戦の結果を出しましょうかァん?」

「レディー、ちょっとお待ちを。ワタシがカレの手を当ててみせますから」

「…………そォ♪」

「『グー、700』、これはおそらくカレの最大の手だったのデショウ。そしてここまでグー2連続の手……おそらくは『チョキ』を温存したかったのでしょう。
 カレは先ほどもワタシが言ったように『チョキ』が不利な手だということを理解している。ですが、ワタシが一番残している手は『パー』です。
 一番多く残している上、カレにとってはまだましな手『グー』に勝ちうる手です。ワタシが、出さないはずがない……そう考えていたはずです。
 カレはその『パー』に期待し、一発逆転の手……『チョキ』をひとつ混ぜた。ポイントをさほど使わなくとも逆転できる手をね。つまり『チョキ、200』! これがカレの手です」

星司郎はハシムに顔もむけず、じっと目を閉じてうつむき続けていた。

「デスガ……残念ですがワタシの手に『パー』はありません。ワタシは決して負けないために、リスクを負わずあなたに勝って見せます」

「…………」

「ワタシの手は『グー、700』。たとえ200を3倍にしたとしても、届きませんよ」

「…………!」

「それじゃあ……運命の結果発表よォ!!」


パッと液晶画面が移り変わり、第3戦の結果が表示される。
ハシムの手は、自分自身が言ったとおり『グー、700』。

そして星司郎の手は……


「…………今、君の姿がとても情けなく見える」

「…………Oh」

「君の言った予想は最初から外れていた。私がわざわざ不利な手を出すことなどありえないだろう」

「My…………」

星司郎の出した手は、『グー、800』。
ジャンケンの結果は『あいこ』、しかしポイントではわずかに100、星司郎が上回った。


「グァァアアアアット!!」

【第5セット】


星司郎……2勝2敗、マーカー残り05個(500ポイント)、「グー」1枚、「チョキ」4枚、「パー」0枚。
ハシム……2勝2敗、マーカー残り12個(1200ポイント)、「グー」0枚、「チョキ」4枚、「パー」5枚。



立会人は先ほどの、自信満々に語っていた予想が大幅に外れてしまったときのハシムの顔を思い出して吹き出しそうになった。
しかし、ここまでは終始ハシムが場を支配していたと言っていい。

このゲーム内容の「小さく勝って、大きく負ける」という極意にハシムは最初から気づいていたし、
この勝負において、スタンドを使う余地があることに最初に気づいたのもハシムだった。

しかし、結果だけ見れば互いに2勝2敗、最終セットまでもつれこんでいる。
それは星司郎の第4セットでの健闘、運も味方につけての追い上げがあったからである。


ただし……星司郎の状況が絶体絶命であることは、数字を端から見ても明らかであった。
立会人はメモに書いた互いの数字を見て分析する。

(……ハシムさんは第4セットで勝つつもりでいた。だから残り3枚しかなかった『グー』を使い切った。
 今の状況を見れば、『ジャンケンだけなら』星司郎ぢゃんに負けはない。ハシムの手の中には、『あいこ以上の手』の『グー』が存在しないのだから。
 でも……ポイントが圧倒的に足りない。ハシムさんとの差ということよりも、絶対数の足りなさが問題なのよ)

そのことを当然ハシムも理解していた。

(『プレートに置くマーカーは、毎回必ず1個は乗せなければならない』というルールがありマース。
 つまり、カレは1つのプレートに最大でも3個しかマーカーを置けない。シカモそうした場合、残りの2枚には1個ずつしか置けなくなる……。
 そうすると、1200残しているワタシに対して『必敗』の手となるのデース……だから、ワタシの第4セットでの予想は悔しいですがハズれてしまいました。
 だって……自殺行為ジャナイですか。もしそうでないならば……『切り札』ガあるんでしょうね、『スタンド能力』の……)


立会人は二人が配分を確定したのを確認し、合図のため手をあげた。
しかし、それと同時にハシムが両手でテーブルを強く叩きつけた。

「…………ハシムさん?」

「セーシロー、ワタシに恥をかかせたコト、後悔サセテあげますヨ……イヤ、すでに後悔しているカモしれませんガネ……」

しかし、星司郎は微動だにしない。
じっと椅子に座り、ハシムから目を離さないでいる。


立会人は手をあげたまま、様子を見ていた。

(……ハシムさんは、このゲームの途中からやけに感情的になっている。聞いた話では彼は1回戦、2回戦ともに終始マイペースを貫いていた。
 多少気が高揚したとしても、それが行動に現れることはなかった。……しかし、今回は感情の昂りが大きく、それが行動にも現れてしまっている。
 それは……『すべてハシムさんの策』、それは間違いないわねン。彼は表面上は感情的な行動に見せかけ、『ある行動』をとり続けている)
『……すぃませェん、興奮してテーブルを蹴っちゃいマシタ。ホラ、このテーブル機械が入ってて脚をのばせませんから』
ガタンッ! 『それじゃあイヤでも教エテあげましょう』 『脚をテーブルに投げ出すなんて……お行儀悪いわよォ♪ まあいいわ……第4セット、第1戦に突入よン♪ ボタンを押しなさァい☆』

(そして……今も、『テーブルに両手を強く叩きつけた』。ハシムさんは、各セットの序盤か、始まる前……『プレートとマーカーの配置が終わった後』、『テーブルに衝撃を加えている』。
 それは……星司郎ぢゃんの『スタンド能力』を防ぐため。テーブルの中のプレートをテーブルごと揺らし、マーカーの配置をずらすため。
 ハシムさんは気がついていた。クリスタルホールで見た星司郎ぢゃんのスタンド能力……『円形テーブルを配置させて作ったケンタウルス座』を見て、
 『点』の配置によって星座のイメージを具現化する能力に勘付き、それを『プレート上のマーカーの配置』でも能力を発動させることができるのではないかと。

 それは考えすぎだと自身も思えたかもしれない。……しかし、このゲームの方法はいささか『まわりくどすぎ』た。
 もし、自分の予想通り、星司郎ぢゃんがそんな能力で、それを発現させることができるようにこのような方法になったのだと仮定すれば、辻褄があう。
 事実、そのとおりアタシは『どちらのスタンド能力』も扱えるようにするため、こんな方法を取ったのよねン)


「アナタの『スタンド能力』……発現できましたカ?」

「…………!」

「マーカーがずれても、ナニか召還できるンですかねェ……ナニか、『重いモノ』を」

(星司郎ぢゃんが『プレートとマーカー』によって能力を発現したときの効果……それはプレート上の重量を増やすこと。
 もし、星司郎ぢゃんがプレート上のマーカーで『星座』を象り、なにかを発現することができれば、マーカー以外のもので重量を増し、ポイントをかさ上げできる。
 ただし、配分する際には能力は発動できない。『プレートとマーカー以外のものがあるときはシャッターが閉まらない』から。
 でも、シャッターが閉まった後なら発現できる。……マーカーが星座の配置から動かなければねン)

「…………」

「マタだんまり……デスか、それとも図星で返す言葉もありませんか?」

(逆に言えば、アタシはここまでは想定していた。『ハシムさんがプレートを壊す』ことや『星司郎ぢゃんがマーカーで星座を象る』ことができるようにアタシはルール設定した。
 でも、それは相手ができることを気づいてしまえば防げるように『相手に直接危害を加えることは禁止』、『プレートとマーカー以外のものがあるときはシャッターが閉まらない』というようなルールも作った。
 だから星司郎ぢゃんはプレートを破壊されてからは警戒してるし、ハシムさんは星司郎ぢゃんに能力を発動させないように感情的になったふりをして妨害している。
 ハシムさんは、ケンタウルス座は私がテーブルを蹴り飛ばしたことで消えたところを見ているからねン♪
 ……出来レース、と他の立会人には嫌われてしまうかもしれないわね……でも)

「……勝負はフタを開けるまではわからないだろう」

(でも……カンだけど、今アタシの想定以上のことが起こっている気がする……フフ、ゾクゾクくるじゃなァい♪)


「それじゃあ、いくわよォん♪ 運命の最終セット第1戦ッ!」

星司郎とハシムがボタンを押し、結果が表示される。
星司郎は『グー、200』、ハシムは『チョキ、400』。

「ハハハハッ!!」

ジャンケンで勝った星司郎のポイントを3倍にし、600対400で星司郎が勝利した。
しかし、高笑いをあげたのはハシムのほうだった。

「いやぁ、いい采配デスね、セーシロー……しかし、アナタはグーを使い切ってしまった。その意味がワカリますか?」

「…………」

「アナタはもうチョキしか残っていない、それは確実です。そしてポイントは300……最大で使えるポイントは200ですが、これではワタシには勝てません。
 このセットが始まる時点でアナタに残されていたのは『グー』が1枚、『チョキ』が4枚、ポイントは500だけです。

 ワタシが持っているのは『チョキ』と『パー』だけでしたが、ワタシは『パー』を出す必要がなかったんです。
 『チョキ』を3回出せば、一度『グー』に負けても、残り2戦は『あいこ』にできて、ポイントで勝負することができるんです」

「……ああ、そうだね」

「ワタシの残る手は……というより、ワタシの第5セットのすべての手は『チョキ、400』でーす。もう、オワカリですね?
 残るアナタの2手では……決して勝てないとイウことが」

「…………」

「またまた、返す言葉モありませんカ?」

「……いや、私は確信したんだ」

「ハイ?」


「確信したよ……私の勝利を」


第2戦の結果が液晶画面に表示された。
ハシムの手は『チョキ、400』。


星司郎の手は……『チョキ、600』。



「「えっ?」」

そう声を発したのはハシムだけではなかった。


「星司郎ぢゃん……これはどういうことなのよ!」

「オカシイ……計算が合いまセン」


この第5セットを迎えたとき、星司郎が持っていたポイントはわずかに500のはずだった。
しかし第1戦で200ポイントを消費したにもかかわらず、星司郎は第2戦で『600』ものポイントを出した。
当然、結果は星司郎の勝ちになるのだが、ハシムはそれを受け入れることはできなかった。

「まさか……機械が故障したワケじゃないでしょうネん」

「それは第3戦の結果までみればわかるはずだ」


立会人は星司郎の言うとおりに第3戦の結果を表示させた。
ハシムは『チョキ、400』、星司郎は……『チョキ、300』。

「……違う結果、ね。機械の故障ではないみたい」

「シカシ! 『300』にシテモありえない数じゃあナイでーすか」

「ハシム……君は気づいてたはずだ。私が記録以上の数のポイントを出すことができる方法を」

「……!」

「まさか、ヤッたのね……星司郎ぢゃん」

星司郎はこくりと頷き、手元の余ったプレートをテーブルの上にのせた。


「立会人、勝負で使ったのと同じマーカーを4つくれないか」

立会人はポケットからマーカーを取り出し、星司郎に渡す。
星司郎はそれを2個だけプレートの上に置いた。

「私はこの勝負で、最初にプレートとマーカーを見たときに私の能力が使えるのではないかと思っていた。
 だが、実際使おうとしたのは第3セットからだったんだ。私のスタンド能力を使って、彼が言ったように重量を増すためにどうすれば効率が良いか考えた。
 はじめに、2つの点でつくられる星座を試したんだ、『Canis Minor(こいぬ座)』をね。第1戦において『グー、200』を出したのはそれだ。
 ……しかし、これは発現すらしなかった。きっと私の視界の中に別の『2つの点』が無意識にあったからなんだろう。『2つの点』というのはかなりユルい条件なんだ。
 壁にも、天井にも穴やシミがあればそれで発現してしまうからね。だから第1戦はそのまま『200ポイント』になってしまった」

星司郎は持っていた残りのマーカー2つをプレートに置いた。
すでにプレート上にあったマーカー2つも位置を調整し、4点が曲線を結ぶように配置された。

「そして、第2戦……私は4つの点で作られる『Lynx(やまねこ座)』を試した。……これは実は成功することができたんだが、トラブルが起こった。
 『テーブルが揺れて、プレートの配置がズレてしまった』んだ」

「それは……ハシムさんがテーブルを蹴っちゃったヤツねン?」

「そう、彼は確かにテーブルを蹴っていた。しかし、一番最初にテーブルが揺れたのは、彼が蹴ったからではなかった」

「…………そうでーす、一番最初にテーブルがゆれたときは、ワタシは手を触れてさえいませんでーした。『テーブルが勝手に揺れた』んデース」

「なんですってェん??」

「あのとき……実は、『発現された"やまねこ"がシャッターの閉まった穴の中で暴れてしまった』ようなんだ。暗く狭いところに驚いたからなのかわからないけどね。
 そして問題というのは……それによって"やまねこ"は自ら蹴ってしまったんだ、自分の星座を象ったマーカーをね。それによって"やまねこ"は消えてしまったんだ」

「……そうダッタのデスか」

「彼がテーブルを蹴ったのは、その後だった。それが、第2戦の『グー、400』だったんだ。私は"やまねこ"が消えた直後……第3戦のためのプレートに配置した星座を発現した。
 それが……結果として私の勝利のカギとなったんだ。もしこの星座を発現させる前に彼にテーブルを蹴られ、配置がずれていたら私は負けていただろう」

星司郎はプレート上のマーカーをひとつ取り、プレート上の3つのマーカーを動かして配置を変えた。

「私を勝利に導いてくれたのはこの星座だった――――」


現れたのは、"みずへび"。細いがとても長い身体は、とてもゆっくりとした動きでマーカーにまとわりつきながら、プレートの上にとぐろを巻いた。


「――――『Hydrus(みずへび座)』。たった3つの点で構成されている星座だ。"みずへび"は水の中に生息するヘビだ。
 陸の上ではとてもゆっくりとした動きになり、ひとつ100gのマーカーを動かさずにプレートを覆ったんだ。
 プレートを覆いつくし、マーカーを守れば、テーブルが揺れても"みずへび"は消えることはない。
 発現したまま測られたプレート上の重量は、『600ポイント』が示すように『600グラム』。発現させたマーカーと同じ重さになったんだ」


「トいうことハ、第3セットの第3戦目から……アナタは見かけの数よりも3つ多いマーカーを持っていたんデスね……」

「なんということ……悔しいけどアタシ、星司郎ぢゃんのボウルの中のマーカーまで見ていなかったわ」

「そう……ただ、"みずへび"はプレート上に3個のマーカーがあるときしか発現できなかった。だから第4セットの『700』と『800』は正真正銘、私のマーカーだけだった。
 そして、私は第5セットで"みずへび"を切り札にするために、あることをした」

「……ナンデスカ」

「第5セットを迎える前に、『グー』を1枚だけにすることだ。
 私の手持ちの『グー』を1枚だけにすれば、君は『パー』で『グー』を狙って勝つリスクよりも、『チョキ』を3枚使って『チョキ』2枚にポイントで勝とうとすることを選ぶ。
 私は、君に『パー』を使ってほしくなかったんだ。万が一でも第1戦の『グー、200』は負けるわけにはいかなかったから……」

「ナルホドね……アナタの第5セット前に持っていたポイントは……第3セットで浮いた分を含めれば、ホントウは『500』ではナク『800』ダッタのですね……」


ハシムの声はどんどん小さくなっていった。
ハシムは星司郎がスタンド能力を使うことを防ぐ行動をとり続けていた。
しかし、"みずへび"のプレートにはそれが効かなかったのだ。

「アナタの第5セットの手は……『グー、200』、『チョキ、300』、『チョキ、300』だった。デモ、第2戦目はアナタのスタンド能力が発動し、『600』になった……」


「立会人……」

星司郎が立会人に問いかける。

「これによって、私は反則負けになるのか?」

「…………」


立会人はゆっくりと手をあげた。

「愚問よ、星司郎ぢゃん……」


あげた手を、星司郎のほうへかざした。


「第5セットは……星司郎ぢゃんの勝利。そして……3勝2敗、最終勝利者は『西獅子星司郎』に決定したわ!!」

「…………ッッ!!」


「勝利」その一言に星司郎の体が奮える。
相手に出し抜かれてのスタート、そこからの逆転……それは運がらみもあった。
ただし、勝利をつかみとった大きな要因は自らの戦略。
彼は確かな勝利を手にすることが出来た。


「フ……フフフ……」

ハシムは椅子に座ったまま肩を揺らして笑う。


「『あまちゃん』だったのは……むしろワタシのほうでーした。2勝とったとき、ワタシは情けなくも安心してしまった。
 『負けなければ』いいと……2戦のうち1戦勝てればいいという気持ちで戦ってまーした」

「……そうだな、君が第5セットを捨てて、第4セットでもっと多くのポイントを使っていたら私は負けていた」

「ワタシは危険に身を置きながら、極力危険を回避して生きてきました。……それがこのゲームにも表れてしまいました。
 やっぱりワタシはギャンブルに向いていないようでーす」

「…………」

「セーシロー、ひとつ聞かせてくださーい」

「……なんですか?」

「アナタ、『最初にプレートとマーカーを見たときに私の能力が使えるのではないかと思っていた』と言っていまーシタ。
 だったら、ナゼ最初からスタンド能力を使わなかったんデス?」


「……楽しもうと思ったんだ」

「…………What?」

「私はここまで……つらい戦いをしてきた。それは内容ということじゃあない。
 およそ戦いに向かない女の子たちが、戦いを強いられてきていたんだ。それに比べて……この勝負はなんというか、楽しそうだった。
 スタンドで戦うことは考えずに、純粋に駆け引きを楽しもうと考えたんだ」

「つまり……ワタシがスタンドを使ったから、アナタも使おうと思ったんデスね?」

「まあつまりは……そういうことだな」


「やっぱりアナタ……『あまちゃん』デースね」

「はは、そうかもしれない。私は誰にも厳しくはできないんだ」


「マアでも……ワタシも楽しかったですヨ。命に関わりない戦いができて、楽しかった」

はじめて見せた、ハシムの悪意のない笑顔がそこにあった。
その似合わなさに立会人まで笑ってしまいそうになる。


(星司郎ぢゃんはここまで……だれかを救いながら戦ってきた。
 1回戦のOLだって、無意識ながら彼女を変えさせた。2回戦でも、立会人を騙してまで対戦相手を救った。
 そして……ここでもまた、星司郎ぢゃんは救ったのかしら?
 悪にまみれた極悪人……今だけかもしれないけど、とてもそうは見えないわね)

星司郎と立会人より先にハシムは部屋を出て行った。
素直に敗北を受け入れ、その足取りはやや軽かったのではないだろうか。


(それにしても……ホントに似合わない笑顔だったわァん☆)


★★★ 勝者 ★★★

No.6425
【スタンド名】
アストロブライト
【本体】
西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ)

【能力】
描かれた星座からイメージを具現化する








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最終更新:2022年04月17日 11:56