アットウィキロゴ

第09回トーナメント:決勝②




No.6410
【スタンド名】
ダーティ・ロットン・バスターズ
【本体】
ハシム・バラミール

【能力】
物体に同化し、自壊する


No.6425
【スタンド名】
アストロブライト
【本体】
西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ)

【能力】
描かれた星座からイメージを具現化する




ダーティ・ロットン・バスターズ vs アストロブライト

【STAGE:閉店した百貨店】◆4AA1FCGO3Q





閉店した百貨店4Fの家具売り場。
指定開始時刻よりかなり前に来た星司郎は、いつものように『せいざのほん』を眺めながらソファに腰掛けていた。

やがてこっちに近づく足音に気づいて顔を上げる。

(……まだ指定時刻までには……数分あるが……対戦相手が来たか?)


通路に姿を表したのは、この季節にファー付きのジャケットを羽織った外国人らしい男。


「……自分は『西獅子 星司郎』、あんたが対戦相手の……」

「『ハシム・バラミール』デース!サスガ日本人!ほんとに集合時間より早く来てルンデスネー!」


星司郎の自己紹介を遮るように、笑顔でハシムは右手を差し出す。
仕方なく立ち上がり『せいざのほん』を広げたままソファーの上に置いて握手する星司郎。

と、その『せいざのほん』へとハシムが目を向ける。


「ン~……『せいざのほん』?……ア!ワタシこの星座知ってマスよ!」

と言って、背表紙を指さす。
その先には、星空に重ねるように描かれた、棍棒を構える勇士の絵。

「『Orion』……『オライオン』……デスネ」

「ああ……日本では『オリオン』と発音するのが普通だが」

「Oh...『オリオン』、そうそう!『ポセイドン』の息子にしてテンカムソーの狩人!!」

「……良く知ってるんだな」

意外そうにハシムを眺める星司郎。
それを気にせずベラベラと続けるハシム。


「狩猟と月の女神、ついでに純潔の女神で男嫌いのハズの『アルテミス』が、ドーいう訳か惚れたのがこの『オリオン』」
「イヤ、最高の狩人である彼と、狩猟の女神『アルテミス』が惹かれ合うのも当然デスカネ~?」


と、意味ありげな顔をして星司郎の顔を見る。

「ドッコイ、『アルテミス』にはビョーキレベルでシスコンの『アポロン』という兄がイタ!」
「その嫉妬したシスコン兄貴の策略で殺されてしまったんデスよね~、Oh...そして星になった『オリオン』カワイソウ……」
「いくらシスコンとはいえ、『アポロン』酷い兄デスネー。そう思いマセン?」

「…………詳しいんだな……まぁ……その話も『という説もある』……ってやつだが」

「Oh...失礼シマシタ!セーシロ―サンならモチロンご存知!シャカにセッポ―ってヤツでしたネ!HAHAHA!」
「他の話もあるんデスネ!シスコン兄貴に妹が苦しめられる話ヨリ、もっと幸せな話の方がワタシも嬉しいデ―ス!」

「…………」

何か言おうと口を開くが、咄嗟に言葉が出ない星司郎。そこへ



「おそくなってごめんなさい!」

場に似つかわしくない、幼い少女の声。


「ン?」

「え?」

同時に怪訝な顔で声の方へ振り返る星司郎とハシム。
そこにいたのは、年の頃なら10歳前後、眉の高さに切り揃えられた黒い髪、白いフリルの襟周りが着いた黒いワンピース。
やはり全くこの場に似つかわしくない、くりっとした目の愛らしい少女が息を切らせて立っていた。

(この子は……?……って言うか、ピアノの発表会みたいな格好だな……)

と、思ったのは星司郎。


(Oh...格好は欧風だけど、ニホンニンギョー・ドールみたいな女の子ネ)

と、外国人向け土産物屋で見た日本人形を思い出したのはハシム。


「あれぇ?……まだ1分以上あった!」

息を切らせながらも、細い腕に巻かれた腕時計を見て、その少女が再び声を上げる。

「もう2人ともいるから、ちこくしたかと思っちゃった!」

と言って、恥ずかしそうに星司郎とハシムを見渡し……怪訝な顔で自分を見る2人に気づいたのか


「あ!ごあいさつがおくれました!こんばんは!わたし、このしあいの立会人です!」


「なっ!?……君が?」

「Oh...Jesus...アナタみたいなコドモが?」
同時に驚く2人。


「そうです!わたしが立会人!じゃなきゃここまで来れないよ!」

何故か得意げな表情の少女。


(おいおい……どうなってるんだこの『トーナメント』は……)

(ゴモットモ……HAHAHA)


ものすごく微妙な表情になる星司郎とハシム。

そんな2人をよそにポケットからメモのような物を取り出し、それを広げて読みあげる少女。


「えーと……そっちのお兄さんが『ニシシシセーシロ―』さん、だよね!……えーと、スタンド名は『アストロブライト』」

「……えっ」

「えーと……かかれたせいざから、そのせいざのイメージをぐげんか?する能力??」

「おい!」

「あっ!読んじゃだめな所も読んじゃった!」


てへっ、とばかりに舌を出す少女。そして困った顔になる。
苦笑いを浮かべつつも、ヒュウ!と口笛を吹いたのはハシム。


「え、えーーーーーーと……じゃあ、そっちの外人のおじさん『ハシムバラミール』さん……も、ちょっと読むから!」
「ぐんたい?の蚊のようなスタンド。物体と……どうか?して爆発する……ここまで!」
「これで不公平じゃないよね!」

また何故だか得意げな表情をする少女。
やれやれ、と言った具合に顔を見合わせる星司郎とハシム。


「で、えーと……」

またメモを読み始める。

「あ!あった!えーと『23:00をもってバトルかいし。どちらかの戦闘ふのう・降伏をもってけっちゃくとする』!」
「ということで23:00になったらはじめてくださいね」

再び少女は腕時計を見る。

「あ!あと14秒!2人ともよういしてください!」


「お、おい!あと14秒って君!」

「Oh!イキナリ!?」


突然の宣告に慌てる星司郎とハシムにお構いなく、少女はカウントダウンを始める。

「あと10秒……あと8秒……5、4、3、2、1、はじめーーーーーー!」


叫ぶやいなや、ぴょん、と飛んでソファの後ろに隠れ、少女の姿は見えなくなった。


「…………まいったな」

「ヤレヤレ……マ、そういうコトらしいので『試合』を始めマショウ」

そう言うと、薄笑いを浮かべつつハシムが数歩、後ろに下がった。



(!……しまった!)

『せいざのほん』は先程のまま、背表紙の『オリオン』の絵を向けてソファーの上にある。

(あの子のせいで、少し自分の『能力』がこの男にバレてしまっているぞ)
(『せいざのほん』を手元に持っておきたい……距離は自分の方が近いが……その挙動をこの男は見逃してくれるだろうか)
(あの男の『能力』……群体の『蚊』スタンドが爆発する?とか言っていたが……)

チラチラと『せいざのほん』を見ながら逡巡する星司郎にハシムが声を掛ける。

「ン~~~、セーシロ―サン。その本が気になりマスか?」
「アナタの『能力』……『描かれた星座からイメージを具現化する』って言ってマシタが……その本が必要なんデスか?」

「………」

「マ、とりあえず念の為、マズその本を爆破しマース。私の『能力』ご覧くだサーイ!」


そう言ってハシムがニヤリとした瞬間、彼の回りに渦巻くような蚊柱が現れた。

(これは……っ!)


「行けッ!『ダーティ・ロットン・バスターズ!』」


『蚊』が一斉に『せいざのほん』の置かれたソファーに襲いかかる。



「マズいッ!『アストロブライト』ッッ!」

星司郎もスタンドヴィジョンを発現させつつ、ソファーへと走る。
己は本へと一直線、『アストロブライト』は側のベッドから毛布を掴みとりハシムの方に投げつけた。


「ヌッ!」


バッと広がった毛布がめくらましになった一瞬、星司郎は本を掴み、そのまま転がって隣のタンスの裏に隠れる。


(ハァ……ハァ……、とりあえずこいつを……)

『せいざのほん』を軽くタップし何事か呟くと、そこにあった『星座の絵』から人型のイメージが浮かび上がった。


と、ハシムの声がする。

「セーシロ―サンやりマスネ!本取られてしまいマシタ!HAHAHA!」
「アナタも、アナタのスタンドも素早いデース」

「……」

「デ、『イメージの具現化』はしたんデスか?」

「……」


ヒタヒタとハシムが近づいてくる足音が聞こえる。

「ン~~~、カクレンボ?」


足音が止まる。


「そのタンスの裏に隠れているようデスが……次はそのタンスを爆破しようと思いマース」

「っ!」


(!!やられるッ!)


ハシムの言葉に星司郎の反応は素早かった。
全身の力を込めてハシムの声がした方向へタンスを押し倒し、同時に『アストロブライト』を構えさせる。


「オット……アブナイ」

その行動を読んでいたかのように最小限の動きで、倒れてくるタンスを躱すハシム。
そこへ『アストロブライト』が殴りかかろうとするが、

「オットット」

射程の外へと飛び退いた。

「アナタのスタンド素早いデスが、射程短いデスネ」
「さっきアナタ本を取ろうとした時、射程があればスタンド使って取ってマス」
「そうしなかったのは、極端に短い射程……『近距離型』スタンドって事デスよネ」

(く……バレバレだな……)

冷や汗を浮かべる星司郎に対し、薄笑いを浮かべるハシム。
圧倒的キャリア差から来る自信 ― もっとも、だからと言って油断する男ではないが。


「そして、アナタも馬鹿じゃナイ……ここまでは躱されるの予想してたデショ?」
「つまり『次』の攻撃が本命……」

と言って、ハシムが視線を横にずらす。


そこには『アストロブライト』の能力によって具現化された『棍棒を構えた勇士』―
今まさにハシムに殴りかかろうとしていた。


「ン~~『オライオン』……いや『オリオン』デスか?しかしスデにッ!『ダーティ・ロットン・バスターズ』ッ!」

瞬時に蚊柱が『勇士』の足元から包み込むように立ち上り、そして ―

鈍い破裂音が続けざまに響き ―


『勇士』は粉々になって消滅した。


「……」

「ト……言う訳デ、スデに備えていたんデスよ。アナタとワタシじゃ経験が違い過ぎマース」


フン、と鼻を鳴らしながら、姿を現した星司郎に話掛けるハシム。


「『オリオン』は爆発して消滅シマシタ。この距離デスが、まだ『具現化』シマスカ?」
「モットモこのまま戦えば、次に爆発するのはセーシロウサン、アナタね」
「Oh...チビっているの解りマース!変なプライドいりまセーン!命あってのモノダネ!いいデスか?」
「……『降伏』してクダサイ。ワタシ血生臭いの苦手デース……HAHA」


ゴクリ、と星司郎には自分が唾を飲み込む音が聞こえた。

この男と自分では戦闘のキャリアが違い過ぎる。
そして直感だが……この男は必要ならば『殺し』も躊躇しないだろう。

(……しかし、陽沙君との約束もある……簡単にあきらめる訳にも、な……)
(それに……まだッ!)


「まいったよ……あんた、本当に何もかもお見通しだ」

「ン~……『降伏』デスカ?」

「……でも、あんた幾つか勘違いをしてる。まず……自分はまだ『降伏』しない」

「ホゥ……じゃぁ仕方ありまセン……『ダーティ』……」

「そして、さっきあんたが爆破したのは『オリオン』じゃない」

「ン?」

「名前で言うなら『ポルックス』」

「??」

「星座で言うなら『Gemini(ふたご座)』の弟の方だ……そしてッ!」


と、言うと同時に『アストロブライト』が倒れたタンスをハシムの方に蹴飛ばした。

反射的にそれを避けたハシム目掛けてどこからか矢が飛んでくる。
これまた反射的に急所を避けたが、矢は肩口に突き刺さった。

「グ……ッ!何ダ!?」

矢の飛んできた方を見れば、先ほどの『勇士』とよく似た顔をした人物が矢をつがえている。


星司郎はハシムから離れるように後方に飛び退きつつ、

「あんたを狙ってるのは兄貴の方……『カストル』だ!馬術の名手って事だが、星座絵だと大抵矢を持っててな!」

クローゼットの裏へと逃げ込んだ。


矢を突き立てたままハシムも、『カストル』の攻撃を避ける為に近くにあった食器棚の影に身を隠す。



一瞬の静寂。

声をあげたのはハシムだった。


「ナルホド……痛テテ……油断、イヤ見事に勘違いシマシタ……セーシロ―サンお見事デス……」
「しかし……ワタシ言いました…ッ……このまま戦えば、次爆発するのはアナタと」

(…………)

身を隠したまま、黙ってそれを聞く星司郎。


「ツゥ……ワタシが甘かった……『降伏』など求めずに……スグ『始末』するべきデシタ」
「イツモの抗争であれば、そうしてマシタ……この戦いも『試合』だと思って舐めてマシタ……」
「この『試合』も『命の奪い合い』……そうデスネ?」

(……おい……なにもそこまで……あの立会人の子だって『戦闘不能』か『降伏』が決着だと言って……)


「……アナタ、立会人の子に聞いてますヨネ?ワタシの『能力』……『同化して爆発する』」
「最初、蚊柱を見せたのは、タダのフェイク……その前から、少しづつ『同化』させておけばいいんデス」
「アナタが手に取る前に、スデに十分『同化』は完了してたんデスよ……HAHA」


(手に取る前に?……!……まさか!)

『それ』に気づいた星司郎の背筋に冷たいものが走る。


「『せいざのほん』まだ持ってマスネ?Goodbyeセーシロ―……『ダーティ・ロットン・バスターズ』!」


ハシムが己のスタンドの名前を叫んだ瞬間、『せいざのほん』を入れていた星司郎の胸元が爆ぜた。


「ぐああああああああッ!」


瞬間、『アストロブライト』で『せいざのほん』を抱きかかえ、本体が直接爆発のダメージを受けるのは回避した。
……が、本体への直撃を回避しても、スタンドヴィジョンで爆発のダメージを全て引き受ける形になってしまった。

『アストロブライト』のヴィジョンは半壊状態。そして、当然の様に本体の肉体にも ―

強烈なダメージ・フィードバック……両腕の筋肉はボロボロに傷ついている。
胸部も同様、アバラの数本くらい折れているかもしれない。
そして腕も胸も皮膚は裂け、血が滴り落ちている。


「がっ……ぐううっ……!」


たまらず崩れ落ちる。
『カストル』の矢を受けた肩を抑えながら姿を現したハシムが、その傷だらけの星司郎を見下ろしていた。


「『描かれた星座から、そのイメージを具現化する能力』……元の絵がなくなれば、イメージも消えるようデスネ」

『せいざのほん』が爆散した瞬間、『Gemini(ふたご座)』の『カストル』が消えた事にハシムは気づいていた。


「それにしても……サスガ素早いスタンド。直撃は防ぎマシタか……しかし……」
「本も失い、スタンドもアナタもボロボロ……でも、モウ『降伏』しなくて結構デス」

ゆっくりと、雲のようにハシムの回りに『蚊』が集まり始める。


「くぅ……っっっ」

なんとか傷だらけの痛む体を起こし、ボロボロの『アストロブライト』を構えさせようとするが……ダメージが大きすぎるのだ。

(っ……だめだ……体もスタンドも動かない)


「フ~~~~~~……最後まで諦めナイ……立派デスが」

なんとか抵抗を試みようとする星司郎を見て、大きくため息をつくハシム。

「そのボロボロのスタンドで、そのボロボロの体で……この雲のような『蚊』の群れをどうやって躱しマスカ?」
「セーシロ―……今度こそサヨナラデス……『ダーティ・ロットン・バスターズ』……」





一斉に自分へと向かい始めた蚊を見ながら、星司郎は考える


(体もスタンドも動ごかすことが出来ない……『せいざのほん』も失われてしまった)

(……また、自分の流した血の点を使ってでも、『何か』を『具現化』するか?)

(この距離で……『りゅう』や『うみへび』を呼び出したところで、間に合うのだろうか?)

(間に合わないだろうな……あの『蚊』の群れはコンマ数秒後には自分に到達する……)

(『レティクル』で絡めとるか?『エリダヌス』川に流すか?)

(だめだな……どれも強引に『蚊』を突っ込まれて終わりだ)

(一瞬で……瞬間的にあの男を無力化出来なければ…………そんな便利なもの……)







(……ある!)


1秒にも満たない時間の中での逡巡と閃き。


「くうッッ!」

血だらけになった手を振ると、床の上が血の滴でパッと染まる。

(これだけの血飛沫!どこかつながるはずだ!探せッ!!!)

必死で目を凝らして床の上に『星』を探す。


突然の星司郎の奇妙な行動。
しかしハシムは動じない。

(ナルホド……血で描かれたモノからデモ、星座を『具現化』出来るんデスかネ……しかし遅いッ!)


星司郎の行動から『アストロブライト』の能力を推測しつつ、冷静に判断する。


(この距離ッ!全方位からの『蚊』の群れッ!何を『具現化』しようと捌き切れないッ!)

「突っ込めッ『ダーティ・ロットン・バスターズ』ッ!」



『蚊』の羽音が更にそのトーンを強めたその瞬間、星司郎が呟いた。


「間に合ったようだ……見つかったよ……『アストロブライト―――Perseus(ペルセウス座)』……」


たちまち床が輝き、逞しい肉体をした戦士が現れる。
勇者『ペルセウス』は輝く兜を被り ―

もとよりハシムは『具現化』されたものの相手をする気はない。
星司郎と『アストロブライト』を『蚊』の群れに襲わせるのみだ。

「フン、その戦士一人でこの『蚊』、ドウ捌くとッ?」
右手には輝く剣を携え ―

その持った剣をハシムに向けて振りかぶるペルセウス。

「無駄デース!」

剣での斬撃など、余裕で躱せる。
これは過信でもなんでもなく、ハシムにとっては実際そうであった。
シャムシールをもった抗争相手の殺し屋に狙われるなど、彼にとっては『日常』でしかない。

剣の軌跡を見切ろうと『ペルセウス』を視界に入れる。

その時、ハシムは『見て』しまった。
左手にはメドゥーサの首を持つ。

「ア……」


その『首』と目が合った。
瞬間、その事がもたらす『結果』を理解する。


「シクジッタ……」



ハシムは石になった。


「はぁ……はぁ………痛っ……うぐ……」

傷付きボロボロになった自分。


掻き消えた『蚊』の群れ。
残されたのは石像となった男。

痛む体でそれを眺めながら、静寂の中、星司郎は思う。


(勝った……のか?……勝ったよな?)




「…………」



静寂。


「……おい!立会人!終わったぞ!」



静寂。


「あれ……あー……立会人さん?」



静寂。


「あー……立会人さん……出てきてもらえないか?」


「なによう」

「うわっ!」


突然の声に驚いて振り向くと、後ろに黒いワンピースの少女が立っていた。


「あ……『試合』終わったのだが……どうすればいい?」

「ん?」


きょとん、とする少女。


「いや……『試合』……終わったんだが、自分はこの後、どうすればいいんだ?」

「あれ、お兄さん『降伏』するんですか?」

「何?」

「ん?まだおわってないよね?」

「……言ってる意味が解らないんだが……」

「ん?」


また、きょとん。


「……君、始まる前に『戦闘不能』か『降伏』をもって決着とする、と言ったよな?」

「うん」

「ご覧の通りだ。この男は『戦闘不能』。決着だろう」


と言って石像となったハシムを指さす。


「んー……だって、いま石になってるけど、いつ元にもどるかわかんないもん」

「自分が能力射程以上に距離を取れば回復すると思うが……それまでは恐らく石のままだ」

「それはお兄さんがそー言ってるだけでしょ!いまこのしゅんかん元にもどったらどーするの!」

「…………なに?」

「お兄さんがもしウソついてたら、わたしダマされて『けっちゃくー!』って言わされたことになっちゃいますよ!」

「…………」


……どうしろというのだ。


「……しかし実際、この男は石になって動けない。攻撃も出来なければ、自分が攻撃しても抵抗出来ない」
「このままバラバラにすれば、元に戻ることもなく死んでしまう状態だ。これでも認めてくれないのか?」

「だーかーらー、それはお兄さんがそう言ってるだけでー……あ」


と、少女はくりんと目を上に向ける。


「ん?」


そして、得意げな顔で星司郎に視線を戻し、


「じゃあ、この石をバラバラにして!」

「なっ!?」

「そうすれば『戦闘ふのう』かくじつですよね!」


……なぜ『良い解決方法思いついちゃった』とでも言いたそうな顔をしてるのか。


「もし、この外人のおじさんがほんとは抵抗できるとかなら、バラバラにされそうになったら反撃するだろうし」

「……君は何を……」

「そうします!立会人のわたしがそう決めました!うん!」



……なぜ『いかにも名案』といった具合に、うんうんと頷きながら、とんでもない事をいうのか



「お兄さんのスタンド、この石像をバラバラにするぐらいできるでしょ?さ、おねがいします!」



……なぜ、微妙にワクワクした顔をしているのか。


そして、更に星司郎にとって不快だったのは、この立会人の少女が(恐らく)10歳前後であること。
そして、白いフリルの襟周りが着いた黒いワンピース……星司郎にとっての『ピアノの発表会』の格好をしていること。
そして、黒く美しい髪を綺麗に切りそろえたおかっぱ頭をしていることだった。



「ふぅ…………」


眉を八の字にしたまま、大きくため息をつく星司郎。


「お兄さん?」

「……馬鹿馬鹿しい」

「ん?」

「あんた達は参加者が死ぬと給料が上がるシステムでも採用してるのか?……付き合いきれんよ……自分は帰る」

「え!かえっちゃうの!?『試合』どうするのー?」

「……さっきも言ったが、自分が能力射程以上離れれば、その男は元に戻ると思う」
「そうしたら、その男とあんたで勝敗を勝手に決めてくれればいい」

「えー!そんなのこまります-----!」


口を尖らせて少女が言うが、


「……自分もこれ以上困りたくないんでね。それじゃ、後は上手くやってくれ」

「えー、ちょ、ちょっとお兄さーーーーん」





後ろで少女が何かまだ抗議しているのが聞こえるが、無視して試合会場を後にする星司郎。

(……陽沙君には申し訳ないが……しかし、人一人の命と引換えでは彼女も納得しない……と信じたい)
(って、痛っぅ……まずは病院だな……そして、陽沙君に言い訳の連絡だ……)


徐々に視界が戻る。

(ン……)


身体感覚がじわりと回復してくる。

(コレは……)


ゆっくりと意識が戻ってくる。
(そうか……)



最後に見たのは『ペルセウス』が持つメドゥーサの首。

(HAHA……ワタシ、石になってたんデスネ……)


……はっきりとしてくる記憶、動くようになった体。
何故かは解らないが、石化が解除され元に戻ったようだ。


(……ここは、さっきの『試合』会場のママ……)
(『試合』は終わったのか?……セーシロ―は?)


当たりを見回す。

星司郎が最初に座っていたソファーに横になっているのは……立会人の少女だ。


「ア……アノー……立会人サン?」

「ん?……あ!……おじさん!元にもどったんだ!だいじょうぶですか?」


うとうとしていたのだろうか。ハシムに声を掛けられ、少女はガバっと体を起こした。


「エート……『試合』は……どうなったんデスカ?セーシロ―サンは?』

「あ!そうそうそう!聞いてくださいよー、あのお兄さんがね……」


少女は星司郎との先ほどのやりとりをそのままハシムに伝え始める。


「……でー、おじさんとわたしでどっちの勝ちかきめて!って言って、かえっちゃったんですよー」

「………………」

「お、おじさん?」




……なんだと。

眼輪筋が細かく震えるのが解る。
下唇がヒクヒクと痙攣するのが解る。

……ふざけるな。



これだけの戦いをしておきながら、相手の命を奪う覚悟を決めることもせず ―
自分の戦いに自分で決着をつけることもせず、戦いの場から逃げ出し ―
動けない・意識のない状態に追い込んだ相手に、その勝敗を決めさせようとする。


……なんという傲慢。

……なんという偽善。

……ふざけるなよ。


ハシムにとって、戦いとは常に生存闘争だった。
相手を殺すのは自分が生きるためだった。
勝利というのは相手の敗北=死と引き換えに、自分の寿命が伸びる事だった。

今、ハシムの目の前にいる少女と変わらぬ年齢の頃に起こった、超大国による『正義の掃討作戦』の日 ―
彼の生まれ育った村が破壊し尽くされ、家族も友人も皆殺しにされた日から、ずっとそうやって生きてきた。



セーシロ―……予言してやる。

貴様はいつか『正義』をスポンサーに、良心の呵責なく人を殺す日が来る。


いつの間にか硬く握りしめていた拳。
爪が掌に突き刺さっているのを感じた。





「え、えーーーーと、おじさん?」


(ハっ!)

少女の声で我に帰る。


「だいじょうぶ?まだぐあい悪そうだけど」

「ア……エエ、大丈夫デス」


(イケマセンネ……つい熱くなってしまいマシタ……HAHA)


「でねー、お兄さん、わたしとおじさんできめて、って言ってたけどー……わたし、わかんない!」
「だから、もうおじさんにきめちゃってほしいんです!」
「ということで、おねがいします!この『試合』どっちの勝ち?」



……そう、腹を立てても仕方がない。


自分は常に『善人』でいられると思ってる幸せなやつに腹を立てても意味が無い。

実際、セーシロ―はそうやって生きてきたんだろう。
これからもそうやって生きていくんだろう。


アー、うらやましいデスネ!(ボウヨミ)




「ねー!おじさん!どっち?」

「ア、ハイハイ……そうデスネ……」


自分の顔を覗き込む少女に、作り笑いを返す。


「ン~……、セーシロ―サンは、『試合』の決着前に、試合会場から離脱しまシタ」
「残念デスガ、それは『試合放棄』と考えるのが普通じゃないデスカ?」

「んー、お兄さんは『試合ほうき』か。なるほど!」

「つまり『試合』としては……セーシロ―サンには申し訳ないデスガ……ワタシの『勝ち』じゃないデスカネ?」

「うん!なるほど!じゃあきまりですね!」


少女はニッと笑う。


「決勝戦、おじさんの勝ち!けっちゃーーーーーく!」






……クソ。

★★★ 勝者 ★★★

No.6410
【スタンド名】
ダーティ・ロットン・バスターズ
【本体】
ハシム・バラミール

【能力】
物体に同化し、自壊する








当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。




最終更新:2022年04月17日 11:58