プリンにかけろ!(癖毛爆弾の個人的な手記
それは、些細な出来事からきっと始まったことなのだろう。
「てめ、お前! 俺のプリンに何てことしやがる!」
「うっせー! こうしたほうがうまいだろうが!」
私が夕方の街角で見かけたのはそんな光景だった。
二人の学園生が近所の空き地でなにやら掴み合いをしている。
片方はブレザーを崩して着ているちょっと不良チックな男子学生。
もう一人はブレザーをきちっと着ている、どちらかといえば真面目そうな学生である。
「? おい、きみた・・・」
「あんちゃん、いいから放っておきなさいって。どうせ、すぐに勝負はつくから」
私が思わず声をかけそうになったところで、通りすがりのおばちゃんに窘められた。
「だいたいなぁ! プリンにそれは邪道なんだよ!」
「お前の為にわざわざ買ってきてやったんだろうが! 文句を言うんじゃねえ!」
会話と二人のテンションは天井知らずでどんどん声が大きくなる。
とうとう、不良チックな学生が真面目そうな学生の襟首をつかんだ。
今にも殴りかからんとする勢いだ。
私とおばちゃん以外の野次馬もやってきた。どうやら、みんな「どうなるんだろう、わくわく」的な雰囲気らしい。
「どーしても、謝る気はねーんだな?」
「ねーよ、バーロー」
つかみかかった不良が凄みを利かせて、捕まれた方の学生が不気味に笑った。
「ほ、本当にとめなくていいんですか?」
「いいのよー、どうせ『いつもの事』なんだから」
「・・・いつも?」
「んぶっ! ってーなー!」
私が視線をそらした瞬間にどうやら事態は動き出したらしい。
不良っぽい学生が思わず手を離し、額の一部を抑えている。
「いいぞー、やれやれー」
「右だ、左だ、パンチだ、フックだ!」
「やられっぱなしでおわんじゃねーぞー」
野次馬たちが好き勝手に野次を飛ばしている。
「てーめー、このヤロー!」
不良のほうの学生が思いっきり殴りかかろうとする。その時、真面目なほうの学生が不敵に笑った。
「喧嘩の王道とは・・・肉体を・・・否!」
ブン、と音がするほどのパンチ、これをぎりぎりで避ける。
「骨を断たせとぅえっ!」
ガキャ!、ともう一発のパンチが当たった瞬間、真面目そうな学生は後ろではなく、前に、相手に向かって一歩前進した。そして。
「肉を切る!」
バキャッ!
数瞬遅れの・・・見事なクロスカウンター。両者の頬が拳によって変形している。
「く・・・やるじゃない・・・」
「お前も・・・な・・・」
二人はその姿勢のまま、にやりと笑うと・・・バタン、と倒れた。
それを終わりと見て取ったか、野次馬たちがぞろぞろ帰っていく。
ちなみに、二人の心配をしていそうな人物はいない。
「今日の勝負は引き分け。これで12勝7敗57分けだねぇ」
私の隣にいたおばちゃんが懐から取り出したメモに書き込んでいる。
「ずいぶん多いですね・・・」
「あの子達は休暇で帰ってくるときに毎回やるからね。暇つぶしに戦績つけてるんだけど、やっぱり引き分けが多いねぇ」
ちら、と覗いてみると「決まり手 クロスカウンター」という文字が見えた。
「・・・ちなみに、どっちが勝ってるんですか?」
「ん、あぁ、あのきちっとした服の方の子ね。人間見た目ではわかりものよねぇ」
「ほほほほ」と「ふふふふ」の間の音で笑いながら、そのおばちゃんは居なくなった。
*
「で、喧嘩の原因はなんだったんだい?」
二人が起き上がるのを待って、私は尋ねた。
「・・・これだよ」
不機嫌そうに不良っぽい生徒は私にソレを突きつけた。
それは、生クリームの乗ったプリンである。
「? これが?」
「コイツ! 俺のプリンに生クリームかけやがったんだよ!」
「・・・はぁ?」
思わず変な声が出た。
「ふん、そんなに気に食わないなら、クリームをどかして食えばいいだろう?」
「あぁ! そうさせてもらうさ!」
ニヤニヤ笑っている真面目そうな学生に言われて、ぷんぷんと怒る不良そうな学生は器用にクリームのついてない部分をスプーンで器用にすくうとソレを口に運び。
「・・・・・・・・・・・なんじゃ、こりゃあああああああ!!」
やおら立ち上がり、絶叫する。
「ど、どうした!?」
「こ、このプリン・・・甘くねぇっ!」
驚愕の瞳でソレを見ている男子学生。
「・・・お前、間違えて甘くないのを買ってたから、親切でつけやったんだよ。わかったか、バカ」
「お、おお・・・なんだ・・・すまねえな・・・」
ニヤニヤ笑う真面目そうな学生。
なんか微妙にばつの悪そうな不良そうな学生。
「・・・あー、気づいてたんなら、何で言ってやらなかったんだ?」
思わず、思ったことが口から出た。
「あん? そりゃ、あんた・・・その方が、面白そうだからに決まってんじゃん」
「・・・・・・ソウデスカ」
あっさりきっぱり断言した真面目そうな学生のまたいい笑顔である。
なんか、色々どうでも良くなって、私はとりあえず、二人に別れを告げた。
「いやー、やっぱ持つべきものはダチだな、親友って書いてダチ、って奴だ!」
「ははー、そうだな。やっぱり、持つべきものは(俺にとって)面白いダチだよな!」
なんか、二人の笑い声が聞こえる。
なるほど・・・二人を近隣の人たちが止めなかったのがなんとなく判った。
あの二人は特上の頭が悪そうな人間なのだ。
最も、真面目そうな学生はずいぶんな腹黒ッぽいが・・・
振り返れば、人工的な夕日に照らされ、肩を抱き合う二人の姿。
・・・二人の未来に、さちあらんことを願う。
(5/16 癖毛爆男
(文:癖毛爆男)
要点・頭が悪そう
最終更新:2007年05月28日 23:04