漁業同行取材(癖毛縛弾の手記
「おーい、はやくしろー」
「にーさん、おせーぞー」
「スイマセン、申し訳ない。今行きますのでー」
とたとたと私は今、駆けている。
時刻は朝方、日の出まで、後三時間といったところか。
既に早朝や朝方という言い方が正しい気がせず、これは夜中である。
そんな時間に私がやってきたのは漁港である。彼ら漁師のお供について、取材をしよう、というわけである。
「それじゃ、出発すっぞー」
乗船員の一人の言葉で船はゆっくり動き出す。
私は飛ぶようにして、船に乗り込み、そして、漁が始まる。
漁は湾内・湾外と二種類の漁場がある。
船は湾内が4~5人乗り、湾外が7~8人乗りの船である。
私が今回乗り込んだのは湾内のほうの船である。
「揺れるから、酔うなよ」
「酔ったら海に吐け、海に」
「あぁ、吐いた物も餌になっからよ」
そんな会話をしながら、船が進んでいく。
*
「よーし、とりあえず、まずは定置をあげッぞー」
『うぃーっす』
漁場の一つに着いた。まずは定置網かららしい。
定置網を探り出し、船についてる巻き上げ機に絡める。
「それじゃ、てめーら、気合入れてけー!」
『うぃーーーっす!』
乗船員たちがその絡めた網に手をかける。
そして、機械が動き出す。ゴォンゴゥンと、定置網の巻上げが始まる。
「ほい、かーちゃんのためならー」
『えんやこーら』
「とーちゃんのためならー」
『えんやこーら』
「こーどものためなら」
『えんやこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ついで、というわけではないが、乗船している人間たちも一緒に巻き上げる。
冷たい海水で凍傷にならないよう、手にはゴム手袋をつけ、懸命に巻き上げる。
力の出しどころを間違わないよう、船長らしき男が音頭を取っている。
「ほれー、きあいをいれろー」
『うぃーーーーーっす!』
*
「うし・・・とりあえず、こんなものか」
船はあのあと、定置網を数箇所、それに続いて投網を数箇所で行った。その都度、並行作業で魚をある程度逃がしたりして、漁獲量と乱獲を防いでいるらしい。
「にーさんも役に立ってくれたなー」
「おうおう、気分は大丈夫か?」
「にーさん、もうすぐ岸にもどっからなー」
「・・・はい・・・ぅぷ・・・」
私は・・・というと、完璧無欠によっていた。気持ち悪い、はき層を通り越して、何度も吐いた。既に胃の中は空で、出てくるものは胃液だけだ。
胃液だけを吐くと食道や喉が焼けるように痛いので、今は何とかこらえているが、ぐったりと船の片隅で私は座っている。
「にーさんのゲロのおかげで、魚が何匹か取れたはずだぜ」
「いやー、何もできねえかと思ったけど、やるじゃねえか」
「・・・そいつぁ・・・ぷ・・・どうも・・・」
冗談が飛びあい、実際は私のこととは関係なく、漁がいつも通り、無事に終わったことからか、漁師たちの機嫌がいい。
だが、そんなことはどうでもいいから、早く騎士に返してくれ、と私は強く思った。
*
「ほらよ、これが今日の分だ」
「お帰り、それじゃ、私たちの出番だよー」
漁港に戻ると、女性人たちと数名の男性がまっていた。
今日獲った魚を彼女たちに渡し、更に細かく分類するらしい。
加工用・保存用・そのまま出荷。用途は様々であり、彼女たちはその選別・した処理のプロといったところ・・・
「あら・・・あらあら、いつかのお兄さんじゃないか」
「・・・ぅぷ・・・あぁ、その節は・・・」
いつか漁港組合だかで起こしてくれた女性がそこにいた。
「あんたぁ、乗ってたんだねぇ・・・ほら、無理しないで、事務所で寝てな。ふらふらじゃないか」
「すま・・・な・・・ぅぷ・・・」
今度は揺れない地面に酔い始める。どうやら、私の乗り物酔いは中々に重症らしい。
「全く、仕方ないねぇ・・・」
女性は苦笑しながら、肩を貸してくれた。
道中、何度も謝罪をしながら、私は事務所にたどり着き、少しの間、寝ることにした。
*
「だからよぉ、俺の船で一番でかい獲物こーんなでっかいよぉ」
「ばかいうなぁ、おめーの船でそんなでかい獲物吊り上げようとしたら、船がひっくりかエッチまぁ」
「んだんだ、なに言ってんだべ」
げらげら笑う声で目が覚めた。頭を振って、壁にかかった時計を見てみれば、昼過ぎくらいか・・・
「お、にーさん、起きたか」
「お疲れさん、今日は良く頑張ったなぁ」
「ほれ、にーさんもこっち来い。飯、まだ食ってねえべ?」
「え? あ、あぁ・・・はい、頂きます」
私に気づいた彼らは起き抜けにも関わらず、ガンガン声をかけてくる。
とりあえず、言われてみれば腹も減っている。私は二回目のご相伴にあずかることにした。
「ほら、とりあえず、飲んどけ」
とくとくとくとく・・・と、からのコップに清酒が注がれていく。
「どうも・・・それじゃ、頂きます」
口をつける。相変わらずの辛口。
「かー、男だったらぐい、っといけぇ、ぐいっと」
「そうそう、ちゃちゃっと一杯目ぐらい、のんじまえ」
「はぁ・・・」
言われるまま、コップに入った一杯目をぐい、と一気にあおる。
胸が熱い、視界が狭まり、顔が熱い。
「おー、いいね、ほれ、次々」
「駆けつけ三杯は常識だよなぁ」
そんなこんなで、起きて早々にぐいぐい飲まされ、空腹もあいまった私は・・・
「にーさん・・・また寝てるのかい?」
「んぁ・・・は・・・」
次に正常な判断を下せた時には、またもや取り残されていた。
にーさんのおかげで連れた魚だ、食え食え、と投網で取れたらしい魚の煮つけや刺身、そして、なによりも何倍も飲まされた清酒のせいで、泥酔していたらしい。
記憶があいまいで、頭もいたい。
「やっぱり、にーさんは漁師にはなれないねぇ」
もはや何時かと確かめる気力もない私に、女性は微笑んだ。
(5・26 癖毛爆男
最終更新:2007年06月01日 07:34