「『 花火 』」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

『 花火 』 - (2009/08/12 (水) 19:00:38) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

   &bold(){『 花火 』 }  遠くで雷の鳴る音が聞こえた。    ――雨?   私は立ち上がり、扇風機の風でゆらゆらとゆれる部屋のカーテンをそっと開いた。  遠雷が、もう一度鳴る。  ガラスの窓に映った空が、ぱぁっと明るい光を放ち、どおん、と言う大きな音があたりの空気を振るわせる。  見つめる藍色の空に咲いた、虹色の花。  それは、ちらちらと赤や黄色の火の粉を飛ばし、緩やかに宙を舞って、やがて、空に溶けるように消えていった。  ――あぁ、……花火だ。  と、その光景の優美さに、私は感嘆の息を漏らした。  私が部屋の窓を開けると、するりと、夏の湿った空気がひんやりとした風と共に私の頬を撫でる。  瞳に映った遠い空に、つぎつぎと上がる花火の明かりは、周囲の草や木と、私の瞳とを多彩な光り色に染め上げていくのだった。    ――綺麗……。  私は、そうひと言呟いて、  ――ねぇ、  と、隣の誰かに向けて、呼びかける。  瞳を向け、そこに映ったのは、揺れる私の影だった。  ――あっ……そっか……。   何をやっているんだろうか私は。  ここは私の部屋の中で……。  私……一人だけしかいないというのに。  無意識に、いつも隣にいる誰かの事を。  いつも、一緒にいてくれる彼女の事を……。  思い浮かべて、  ……私は、後悔した。  花火は、まるで私の心情を読んだかのように、そこで、ぷつりと鳴るのを止める。  次の花火をあげる為の準備をしているのだろうか。  ……それとも、もうこれで全部、終わってしまったのかもしれない。  ただ……。  ただ私は、花火の消えてしまったあとの空が、なんだかとても寂しそうに見えて。  空を見ないようにと俯いて、じっと私は視線を落とす。 突然訪れた静寂が、私をあの空と同じ、藍の色に塗り替えていくようだった。  ――ねぇ、聞こえるかな?  私は心でそう呟く。  私色の空、遠い向こうの空の下。  あの花火が上がっていた場所から、さらにずっと向こうの街の中には、彼女の住んでいる家がある。  ――もし……もしも……。    もし、彼女にもこの花火の音が届いていたのなら。  もし、私と同じように、窓を開けてあの藍色の空を見上げていてくれたなら。  彼女は……私の事を思い出して、  ――同じように、想っていて……くれてるかな……。    永い永い沈黙のあと……  再び鳴り始めた花火の音に、  俯いていた心をもたげ、私は、もう一度瞳を開いて空を見上げる。  ――綺麗だね。○○○。    私が小さく囁いた彼女の名前は、すぐに次の空の火に、掻き消されて消えていく。  花火は、空にたくさんの虹色の帯を作り出し、どぉんと大きく鳴る音は、私の奏でる胸の音と重なるように響いて聞こえた。    あの、深い藍色の空が、私の心なら……  まるであの花火は、私の想いのようだ。  ――届くと、いいな。  この音が。  ――届けばいいな。  この想いが。    私はただ瞳を閉じて、空に鳴る花火の音に、祈りにも似た想いを預けた。                                  fin **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(1)
   &bold(){『 花火 』 }  遠くで雷の鳴る音が聞こえた。    ――雨?   私は立ち上がり、扇風機の風でゆらゆらとゆれる部屋のカーテンをそっと開いた。  遠雷が、もう一度鳴る。  ガラスの窓に映った空が、ぱぁっと明るい光を放ち、どおん、と言う大きな音があたりの空気を振るわせる。  見つめる藍色の空に咲いた、虹色の花。  それは、ちらちらと赤や黄色の火の粉を飛ばし、緩やかに宙を舞って、やがて、空に溶けるように消えていった。  ――あぁ、……花火だ。  と、その光景の優美さに、私は感嘆の息を漏らした。  私が部屋の窓を開けると、するりと、夏の湿った空気がひんやりとした風と共に私の頬を撫でる。  瞳に映った遠い空に、つぎつぎと上がる花火の明かりは、周囲の草や木と、私の瞳とを多彩な光り色に染め上げていくのだった。    ――綺麗……。  私は、そうひと言呟いて、  ――ねぇ、  と、隣の誰かに向けて、呼びかける。  瞳を向け、そこに映ったのは、揺れる私の影だった。  ――あっ……そっか……。   何をやっているんだろうか私は。  ここは私の部屋の中で……。  私……一人だけしかいないというのに。  無意識に、いつも隣にいる誰かの事を。  いつも、一緒にいてくれる彼女の事を……。  思い浮かべて、  ……私は、後悔した。  花火は、まるで私の心情を読んだかのように、そこで、ぷつりと鳴るのを止める。  次の花火をあげる為の準備をしているのだろうか。  ……それとも、もうこれで全部、終わってしまったのかもしれない。  ただ……。  ただ私は、花火の消えてしまったあとの空が、なんだかとても寂しそうに見えて。  空を見ないようにと俯いて、じっと私は視線を落とす。 突然訪れた静寂が、私をあの空と同じ、藍の色に塗り替えていくようだった。  ――ねぇ、聞こえるかな?  私は心でそう呟く。  私色の空、遠い向こうの空の下。  あの花火が上がっていた場所から、さらにずっと向こうの街の中には、彼女の住んでいる家がある。  ――もし……もしも……。    もし、彼女にもこの花火の音が届いていたのなら。  もし、私と同じように、窓を開けてあの藍色の空を見上げていてくれたなら。  彼女は……私の事を思い出して、  ――同じように、想っていて……くれてるかな……。    永い永い沈黙のあと……  再び鳴り始めた花火の音に、  俯いていた心をもたげ、私は、もう一度瞳を開いて空を見上げる。  ――綺麗だね。○○○。    私が小さく囁いた彼女の名前は、すぐに次の空の火に、掻き消されて消えていく。  花火は、空にたくさんの虹色の帯を作り出し、どぉんと大きく鳴る音は、私の奏でる胸の音と重なるように響いて聞こえた。    あの、深い藍色の空が、私の心なら……  まるであの花火は、私の想いのようだ。  ――届くと、いいな。  この音が。  ――届けばいいな。  この想いが。    私はただ瞳を閉じて、空に鳴る花火の音に、祈りにも似た想いを預けた。                                  fin **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(3)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー