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運命を駆ける猫【第七章】 - (2010/06/11 (金) 03:00:43) の最新版との変更点

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偽善を振りかざして見えたモノは、淡い期待と厳しい現実。 そのどちらにも振り回された私の手は、結局何も得ることなく空を切った。 ――――。 吹き抜けたと思った風は、何故か私の身体の自由を奪った。……いや、違う。 誰かに腕を引き止められた。自分とは違う対応に反応し咄嗟に振り返ると、そこには蒼髪赤眼の彼女がいた。 「泉さんっ!?」 思わず名前を呼ぶが、彼女がそれを気に留めることなく私の横を走り抜ける。 その行動の意味を、私はすぐに理解した。 泉さんはあの猫を助けるつもりなんだ…と。 下手をすれば彼女は最悪の事態の巻き添いを食らう。それを止められるのは、私だけ。 ……なのに私は何も出来なかった。急ブレーキの音だけが、やけに生々しく頭に響く。 その先に私が見たモノ……何事も無かったように走り去るトラックと、その小さな身体に抱えた猫の頭を、優しく撫でる泉さんだった。無事で良かった……。 ほっと一息をつくが、少し心に引っかかることがある。 彼女は何故私を引き止めたのか。私を助けてくれた? まさか。散々言われたじゃないか、私の存在は迷惑なんだって。今日のやり取りを思い出して、憂鬱な気分になる。 そのまま彼女の方を見ていると、ふと目が合った。 「泉さん……」 また、名前を呼ぶ。 「……」 様々な感情が入り交じった呼び掛けに、返事はない。ただ、彼女は何かを言おうとしていた。直感的ではあったが、私はそう悟った。その証拠に彼女の口は、言葉を飲み込むようにモゴモゴと動いている。 「あ……」 たった一つ、だけど確かに彼女の音が響く。 目はどこか焦点を定めておらず、明らかに動揺が見えた。そんな泉さんの足元で、先程の猫は呑気に伸びをしていた。 「……なに?」 ただ無機質に、あくまで無関心を装って言葉を放つ。過度な期待は彼女を苦しめ、自分も苦しめるだけだから。 「あのさ……」 言葉と同時に彼女は鞄の中を探り出す。ワケも分からずじっとその様子を眺めてみる。やがて探しモノに行き着いたのか、彼女の眉毛がピクンと動いた。 「これ、落ちてたから……」 鞄から出てきた手に握られていたのは、私がさっきまで探していたお弁当だった。何故、今ここで泉さんの鞄から出てくるの? 「どうして? それを貴女が持って……」 「……」 彼女は何も返さずに私に歩み寄り、お弁当箱を押し付けてくる。慌てて受け取ろうと包みを掴んだ時だった。 「それじゃ」 「あっ、待っ……」 彼女は一言残すとすぐに走って行ってしまった。すぐさま手を伸ばしても、届くハズもない速さで。私の胸に残ったのはお弁当と虚無感だけだった。 「なんでよ……」 やっぱり私とは話したくないんだ。ほら、少しだって変な期待を抱くべきじゃない。そう考え自分を納得させる。……つもりなのに、妙な違和感を全身で感じる。分かってる。原因は間違いなくこれだ。 「……?」 渡されたことを忘れてしまいそうな程、軽いお弁当。今日の当番はつかさだったから、中身の入れ忘れを考えてみるけど、朝にはそれらしい重さがあった。 あまりに不審に感じて、包みを開けてみる。そこにはいつも見慣れたお弁当箱があった。ゴムバンドを外し、蓋を開ける。 「……」 その中にはご飯もおかずも何も無い。ただ、誰かが中身を食べた形跡だけが残っていた。私は静かに蓋を閉じ、直感的にある考えを導き出した。お弁当箱を鞄に押し込み、全速力で家へと走り出す。 ……吐く息が熱い。走る必要なんて無いのに、それでも私は止まらない。……この抑えきれない気持ちは、一体何? がむしゃらに走ったおかげで、いつもの半分の時間で家に到着した私は自室に入ることもなく、あるモノを探す。そしていとも容易くリビングで見付けることが出来た。 「つかさっ!」 「ふぇ!?」 私の呼び掛けに、つかさのくつろいだ身体が大きく跳ねた。その表情は何処か引きつり、不安気だった。 「お、お姉ちゃん? ……どうかしたの?」 「つかさ……お願いがあるの」 ――――。 次の日、いつもより早く起きた私は、洗面所の鏡をじっと見つめていた。 視線の先にいるのは、少し怠そうな私。そいつに気合いを入れるように、両手で頬をパチンと叩く。 それだけで、表情がほんの少し引き締まった気がする。うん、準備は万端。 「よしっ!」 意気込む私に対し、つかさが起きてくる気配はない。仕方ない、起こしに行くか。大きく伸びをしながら、つかさの眠る部屋へと足を進めた。 ドアを開けると、ベッドに人一人くらいの膨らみが見える。睡眠妨害されないよう潜り込んで寝るとは……我が妹ながら情けない。 「つかさ、早く起きなさいよ」 布団を軽く引きながら、そっと呼び掛ける。勿論この程度で起きる相手ではないのだが。 「むにゃむにゃ……あと5分だけー」 「あんたの5分は5時間になりかねないわよ」 このままでは埒があかない。そう思った私は、布団を強く引き剥がしにかかる。 「ほら起きたっ!」 「うみゃ!?」 勢い良く布団を引いたせいで、つかさまでベッドの下に転げ落ちる。そこまでしてやっと目が覚めたのか、つかさは目を擦りながらゆっくりと立ち上がる。 「うぅ、眠いよぉ……」 「早く準備しなさい」 全く、この寝起きの悪さは誰に似たんだろう。 ……一刻も早く学校に行きたいのに。のろのろと動き出すつかさを横目で見ながら、私はもう一度心の確認していた。 家から出ても、つかさの目は半分以上閉じていた。私はそんな妹の手を引きながら先を急ぐ。 「お姉ちゃん、元気だねー」 「な、なによ。悪い?」 「ううん、とっても良いことだと思うよ」 「……」 寝ているように見えるくらい、閉じられた瞳。どこかにこやかに私を見るつかさと目が合わせられない。 私はただ前を見ながら、ひたすらに学校への道を歩くしかなかった。 ――――。 キーンコーンカーン……本日何度目かのチャイムが教室に響く。 「お?もう時間か。んじゃ、お腹も減ったしここまでやな」 黒板に世界の偉人達の名前を書き綴っていた先生のチョークが、黒板消しに持ちかえられた。やっと来た。待ちに待った昼休み。私は荷物を握り、黙って席を立ち上がる。 「おーい、柊。今日は昼飯どうすんだ?」 ふと後ろから、特徴のある声が聞こえる。誰なのか? そんなことはすぐ分かるけど、私は振り返った。 「日下部、そのことだけど……」 案の定、笑顔の上に八重歯をギラギラと覗かせた日下部がいた。 「……また、あいつか?」「……」 言葉に悩む私を見てすぐに察知したのか、日下部は笑顔を崩し、怪訝そうに尋ねてきた。 それもそうだ。昨日の出来事からして、日下部は彼女のことを余り良く思ってないだろう。だけど、嘘はつけない。 「うん……ごめんね」 昨日の今日なのに、それでもまた繰り返す。昨日、日下部が言ってくれたことを無駄にしてしまうかもしれない。だから、謝った。 「私は柊が良いなら構わない、けど……」 「うん」 後に続く言葉が怖い。 きっと日下部は、こんな馬鹿な私を見捨てるだろうから。言っても聞かない奴を庇って、損したと思うかもしれない。それは仕方の無いこと。なのに…… 「また何か酷いこと言われたら、私に言えよ?」 私を責めるわけでもなく、ただ素直に心配した言葉。任せろと言わんばかりの、眩しい笑顔が目に焼き付く。強ばらせていた身体から、力が抜けた。 「……うんっ、ありがと」 その真っ直ぐな優しさに、上手く言えない、今までに感じたことの無い感情が湧いた。 ――――。 屋上への道程は、近くて遠い。誰かがこれを聞いたら首をかしげるだろう。でも、私にはそれが一番しっくり感じる。 ドアの前に立ち、開く前に深呼吸。大丈夫、大丈夫だかがみ。ノブを必要以上に強く握り、それを押し開けた。差し込む光と共に、綺麗な蒼色が見える。それは空の蒼だったのか……。 「泉さん」 私は呼ぶ。彼女の名前を。無視されるかもしれない。そんな不安を抱えながらも、その声はいつもより力強いものに思えた。 「……何?」 少し遅れて返事は返ってきた。私は何も返さず、彼女のもとへ歩み寄る。お互いに真っ直ぐ相手の瞳を捉え、逸らすことはなかった。 「はぁ、馬鹿は死ななきゃ治らないんだね」 言葉と同時に、彼女はジト目で私を見た。 「そうかも、ね」 皮肉を真に受けて返す私に呆れたのか、彼女の視線が哀れむようなものに変わった。 「……救いようが無いね、あんた」 「馬鹿で救いようが無いのは、認める。だけど私自身、変わったことがある」 「は?」 今日はその為にここへ来たんだから。上手くいくなんて分からない。だけど臆するな。何もしないで諦めるくらいなら、せめて出来る限りのことをしてから諦めないと。 「今まではさ、自分の為だけに屋上に来てたの。私」 「……?」 泉さんは意味が分からないと言った表情をする。 そうよね。泉さんの一番になりたいだなんて、突拍子もない、自己中心的な理由を知り得るはずは無いんだから。 「けどね。これからは貴女の為に、此処に来たい……って思ったの」 「あんたは……何が言いたいのさ?」 その少し強めの口調に、怒りは見えない。むしろ何か、不安を押し隠すように見えた。大丈夫。私は絶対に……。 「これ、食べてくれる?」 差し出したモノは、彼女が昨日返してくれたお弁当。初めはただ見ているだけだった泉さんも、私の押しの強さに渋々ながらもそれを受け取った。そして包みを開けて蓋を取る。……その表情は、ほんの少し和らいだように見えた。 「……なにこれ?」 「わ、私が作ったの。泉さん、いつもパンだったから。その、ご飯食べたほうが良いかなーって……」 泉さんは吃る私とお弁当を交互に見比べている。 早朝から張り切って、昨日つかさに教えてもらった通りに作ったはずのお弁当。失敗したはずは、ない。 でもきっと、私は不安で変な顔をしてる。 「何だか昨日と雰囲気が違う」 「き、昨日のは妹が作ったやつで……」 「……ふーん」 泉さんの言葉が、昨日のお弁当の中身消失事件の犯人を決定づけていたが、私は余りの緊張で、すぐにはその事に気付かなかった。 まあ、犯人なんてものは大体分かっていたからこそ、今日はこんなことしたんだけど。 「……」 泉さんはじっとお弁当を見つめている。その表情は私には伺えないけど、私はとにかくまずいことをしてしまった、と感じた。 「見た目悪いし……嫌なら食べなくていいからッ……」 何も反応しない彼女から、お弁当箱を取ろうと手を伸ばす。が、その手は泉さんが座り込んだことにより、呆気なく空を切った。 「……いただきます」 「へ?」 その言葉に、ただ驚いた。泉さんが、何の文句も言わずにお弁当を食べてくれたから。私の作ったそれを食べている彼女の姿を見るのが、本当に、本当に……嬉しかった。 私も横に座り、自分の分を食べ始める。それが何故かいつもより美味しく感じて、いつの間にか私の目は潤んでいた。 沈黙の中、ひたすら箸を進める。決して気まずいワケではないけど、なかなか味わえないような緊張感があった。 しばらくして、私より少し先に食べ終えた泉さんは丁寧に蓋を閉じ、お弁当を直していた。そして私の顔とお弁当箱を見比べて…… 「炒め物の塩気が濃い」 批評を始めた。それはもう、淡々と。あれだけ頑張ってみても、やはり苦手を克服するのは簡単ではないらしい。 「卵は焦げた味がする」 「う、うそっ!?」 「焼き魚は半生っぽい」 「そんな……」 次々と問題点を挙げていく泉さん。私はただ驚き、失敗にへこむばかりだった。 「こんな感じ、分かった?」 「うぅ……」 最早言葉が無い。まさかここまで批判されるとは……そんなことを感じながら、私は色んな意味で涙目になっていた。 「でも……」 「な、何よっ……」 さらに来るであろうダメ出しに、若干逆ギレ気味になりながら言い返す。この際二度と料理が作れなくなるくらいの言葉が来たって構いはしない。 「嫌いじゃない、このお弁当」 「もう、分かったってば! ……え?」 「ごちそうさま」 泉さんはそう言い残すと、空のお弁当を置いて、そそくさと行ってしまった。 何、どういうこと? 嫌いじゃないって……? 頭の中が混乱して、一人で挙動不審になる。 私が完全に落ち着き、そして彼女の言葉の意味を理解するのは、少しだけ先のことだった。 「ほ、ホントに大丈夫なの!? やっぱりお弁当が不味かったから……」 「あ、あはは。お姉ちゃん、とにかく落ち着いて」 教室にて。私は自分で解決出来ない問題を妹と友達に相談している。 泉さんの言った、嫌いじゃないという言葉が何を意味しているか分からず、ただ頭の中をぐるぐるとリピートし続けていた。 「大丈夫ですよ、かがみさん」 「みゆきぃ~」 泣き付いて喚く。自分という人間はここまで脆かっただろうか? たかが転校生の一言でこんなにもなろうとは……。 「彼女がかがみさんに言った言葉は、泉さんなりのお礼に違いないですから」 「でも、でもっ」 不安は納まらない。後悔しないつもりだった。しかしまさかの事態に、私の覚悟は着いていけていない。 慌てるばかりで落ち着くことを知らない私に、つかさとみゆきも苦笑いしか出来ないようだった。 「あ……」 「どうしたの、ゆきちゃん?」 「つかささん。私、良い考えが浮かびました」 「?」 つかさとみゆきが何か話をしているが、気が動転していた私の耳に二人の声がまともに止まることは無い。 「かがみさん」 「な、何よ?」 「私、分かりました」 「へっ?」 突然の言葉。眼鏡を指で二、三回押し上げ不敵な笑みを浮かべるみゆきに対し、意味が分からない私は間抜けな声で何とか返すだけだった。つかさも私と同じような態度だったけど。 「泉さんの感想がいまいちだった理由です」 「えっ! ホントにっ!?」 そこに飛び出すは救いの言葉。餌を与えられた鯉のように話に食い付く。その姿はみゆきがすれば滑稽なのかもしれない。だけど私は気にもしない。 「はい。きっと泉さんは……」 「きっと……」 溜めるみゆきに詰め寄り、続く言葉を今かと待つ。 みゆきの言うことだ。その推測は信じてみる価値はあるだろう。 「皆でお弁当を食べたいのかもしれません」 「……はい?」 「およよ~!?」 姉妹揃って呆気に取られたような、奇声じみたものをあげる。当たり前だ。みゆきの言葉は予想外過ぎて、驚愕せざるを得なかったから。 「何を根拠にそんなっ」 「皆で食べる食事は美味しい、って言いませんか? 彼女は遠回しに、皆でご飯を食べたらもっと美味しく感じるのに……と思っていて、かがみさんに曖昧な感想を言ったのかもしれませんよ?」 「む……」 「本当は素直な気持ちをかがみさんに伝えたい。でも自分の性格を考えてみれば、そんなことは不可能。ならばせめてと、暗号化された言葉をかがみさんに託したのかもしれません」 「でも、ゆきちゃん。それは流石に……」 「つかささん」 「は、はい……」 姉妹揃って言いくるめられているような、お説教を受けているような、そんな感じ。だってみゆきの意見はどう考えても無茶な解釈。でも彼女を教室に呼ぶという案は、私も否定の言葉は無かった。 「明日、泉さんを此処に誘ってみてはいかがでしょう?」 「……」 「かがみさん」 「うーん、分かったわよ」 明日というのは予想外だけど、いつかはと考えていたこと。自分で決めたことだ。彼女の心を必ず動かしてみせる。今日は上手くいった。前に進め、かがみ。 そう自分に喝を入れながら、私は遠く窓の外を眺めた。綺麗な蒼色だった。 「少しずつ、変わっていってるんです……」 後ろで、みゆきが呟いた謎の言葉。何のことか意味は分からない。ただ精神的に強く背中を押された気がした。 翌日。私は昨日と変わらず早起きしてお弁当を作った。私とつかさと、泉さんの分。頭は相変わらず授業をまともに受け付けず、心はどこか上の空。蒼く広がる空を彼女に見立てて、ふっと笑ってみたり。まるで私が私じゃないみたいで、不思議な気分だった。 そんな私が自分自身を取り戻すのは、昼休みを告げるチャイムの音が鳴り響いた時だった。 昨日よりも何倍も早く教室を飛び出し、私は屋上へと向かう。いつも開けるのを躊躇う扉を勢い良く開き、声を上げる。 「泉さんっ!!」 「……い、いきなり、何?」 「細かいことは多分後で話す! とにかく来てっ!」 「はいっ!?」 細かい話をしては、泉さんを不機嫌にするだけ。だから私は彼女の手をグイッと引き、階段を駆け降りる。その体温があまりに冷たかったことに驚いたが、それ以上に手を繋いでいる感触の方が私には刺激的だった。感覚を誤魔化す為に、私は馬鹿みたいに心を無にするよう念じる。 「……ねぇ」 その最中に疲れたような、呆れたような呼び掛けが脳に響く。足を止めず、ただどうしたと言葉を返す。 「一体、どこ行くのさ?」 少しだけ言うべきか迷ったけど、黙っていてもすぐにバレる。だから私は平然と答えた。 「教室よ」 「はぁ!? な、なんでそんな……あんた一人で行ってよ! 私は行きたくないっ!」 案の定、泉さんは怒っている。でも私は怯まずに振り返り、彼女を見つめる。 本来なら目が合っただけでお互いに逃げ出していたかもしれない。だけど今日は、静かにじっと見つめ合う続ける。 「ダメなの……」 「は?」 「ダメったらダメ。私は……泉さんと一緒に行きたいの!」 「……」 「お願い……」 泣き落としとまでは言わないけど、相手の情に訴えかけるように話す。こんな手段を使うのは卑怯なのかもしれない。だけど彼女が本当に嫌ならば、きっと同情なんてしない。早々に私の手を振りほどいて、屋上に戻っていたはずだから。 これは一種の“賭け” しばらくして彼女はゆっくりと歩き出した。私の横をすれ違い、教室の方へ向かって。すぐにその後を追い、教室に入るよう指示をする。扉を開けると、視線の先でつかさとみゆきが満面の笑みで待機してくれていた。 「ようこそ、泉さん」 「泉さん、いらっしゃい」 「な……!?」 扉を開けたまま身体が動かない泉さんの肩を押し、半ば無理矢理に中へ入れる。 「よし、じゃあお弁当食べよっか!」 「ちょ!? 私は何も言ってないって!」 泉さんは顔を引きつらせながら私を見ている。 そんな彼女の背中を更に押して、机へと距離を近付かせる。 「昨日はダメだったかもしれない。だけど皆で食べれば私のお弁当だって美味しさ100倍のはずよ!」 「は? あんたは一体何言って……」 「そうよね、みゆき?」 「はい、勿論です」 「泉さん、ここ空いてるよー」 「……」 私を含む、皆の余りにもマイペース過ぎる勢いに観念したのか、泉さんは一度だけ深くため息をつき、つかさの指定した席へと座ってくれた。私もすぐにいつもの指定席へ座る。 二つ並べた机。その四辺全てに人がいるのは、何だか新鮮だった。 こうして私達三人の間に、新しく仲間が出来た。 ――泉こなた。 私達はまだ彼女を良く知らない。だけど何故か四人で楽しくお喋りをする未来が、私には見えた。 さて、今日はどんな感想をもらえるのだろう。そう考えながら、彼女にお弁当箱を差し出す。泉さんは少し不満そうにしながらも、それを受け取ってくれた。 私と言えば、昨日の不安から一変して表情からは笑みが漏れていた。 「よーし、それじゃあ……いただきます!」 to be continued? **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 続きが気になる! &br() &br() &br()作者様、気が向いたらどうか宜しくお願いします。 -- 名無しさん (2010-06-11 03:00:43) - 同じく続き期待してます -- 白夜 (2009-10-20 20:26:33) - 続きが気になってサイトの方にいったりしてますがコッチの方が進んでるんですね〜。 &br()文章も素敵だし、今まで読んだ事のない感覚で好きです。今後の展開が楽しみです! -- 名無しさん (2009-02-28 04:34:01) - 自分も続き期待しています!! -- 名無しさん (2008-12-09 19:27:26) - GJ!こなたツンデレだなー、なんか可愛い。 &br()綺麗な文章で引き込まれました!続きも期待してます。 -- 名無しさん (2008-11-18 04:42:12) - このシリーズかなり好きだwww &br()続きが気になるw -- 名無し (2008-11-17 23:10:45)
偽善を振りかざして見えたモノは、淡い期待と厳しい現実。 そのどちらにも振り回された私の手は、結局何も得ることなく空を切った。 ――――。 吹き抜けたと思った風は、何故か私の身体の自由を奪った。……いや、違う。 誰かに腕を引き止められた。自分とは違う対応に反応し咄嗟に振り返ると、そこには蒼髪赤眼の彼女がいた。 「泉さんっ!?」 思わず名前を呼ぶが、彼女がそれを気に留めることなく私の横を走り抜ける。 その行動の意味を、私はすぐに理解した。 泉さんはあの猫を助けるつもりなんだ…と。 下手をすれば彼女は最悪の事態の巻き添いを食らう。それを止められるのは、私だけ。 ……なのに私は何も出来なかった。急ブレーキの音だけが、やけに生々しく頭に響く。 その先に私が見たモノ……何事も無かったように走り去るトラックと、その小さな身体に抱えた猫の頭を、優しく撫でる泉さんだった。無事で良かった……。 ほっと一息をつくが、少し心に引っかかることがある。 彼女は何故私を引き止めたのか。私を助けてくれた? まさか。散々言われたじゃないか、私の存在は迷惑なんだって。今日のやり取りを思い出して、憂鬱な気分になる。 そのまま彼女の方を見ていると、ふと目が合った。 「泉さん……」 また、名前を呼ぶ。 「……」 様々な感情が入り交じった呼び掛けに、返事はない。ただ、彼女は何かを言おうとしていた。直感的ではあったが、私はそう悟った。その証拠に彼女の口は、言葉を飲み込むようにモゴモゴと動いている。 「あ……」 たった一つ、だけど確かに彼女の音が響く。 目はどこか焦点を定めておらず、明らかに動揺が見えた。そんな泉さんの足元で、先程の猫は呑気に伸びをしていた。 「……なに?」 ただ無機質に、あくまで無関心を装って言葉を放つ。過度な期待は彼女を苦しめ、自分も苦しめるだけだから。 「あのさ……」 言葉と同時に彼女は鞄の中を探り出す。ワケも分からずじっとその様子を眺めてみる。やがて探しモノに行き着いたのか、彼女の眉毛がピクンと動いた。 「これ、落ちてたから……」 鞄から出てきた手に握られていたのは、私がさっきまで探していたお弁当だった。何故、今ここで泉さんの鞄から出てくるの? 「どうして? それを貴女が持って……」 「……」 彼女は何も返さずに私に歩み寄り、お弁当箱を押し付けてくる。慌てて受け取ろうと包みを掴んだ時だった。 「それじゃ」 「あっ、待っ……」 彼女は一言残すとすぐに走って行ってしまった。すぐさま手を伸ばしても、届くハズもない速さで。私の胸に残ったのはお弁当と虚無感だけだった。 「なんでよ……」 やっぱり私とは話したくないんだ。ほら、少しだって変な期待を抱くべきじゃない。そう考え自分を納得させる。……つもりなのに、妙な違和感を全身で感じる。分かってる。原因は間違いなくこれだ。 「……?」 渡されたことを忘れてしまいそうな程、軽いお弁当。今日の当番はつかさだったから、中身の入れ忘れを考えてみるけど、朝にはそれらしい重さがあった。 あまりに不審に感じて、包みを開けてみる。そこにはいつも見慣れたお弁当箱があった。ゴムバンドを外し、蓋を開ける。 「……」 その中にはご飯もおかずも何も無い。ただ、誰かが中身を食べた形跡だけが残っていた。私は静かに蓋を閉じ、直感的にある考えを導き出した。お弁当箱を鞄に押し込み、全速力で家へと走り出す。 ……吐く息が熱い。走る必要なんて無いのに、それでも私は止まらない。……この抑えきれない気持ちは、一体何? がむしゃらに走ったおかげで、いつもの半分の時間で家に到着した私は自室に入ることもなく、あるモノを探す。そしていとも容易くリビングで見付けることが出来た。 「つかさっ!」 「ふぇ!?」 私の呼び掛けに、つかさのくつろいだ身体が大きく跳ねた。その表情は何処か引きつり、不安気だった。 「お、お姉ちゃん? ……どうかしたの?」 「つかさ……お願いがあるの」 ――――。 次の日、いつもより早く起きた私は、洗面所の鏡をじっと見つめていた。 視線の先にいるのは、少し怠そうな私。そいつに気合いを入れるように、両手で頬をパチンと叩く。 それだけで、表情がほんの少し引き締まった気がする。うん、準備は万端。 「よしっ!」 意気込む私に対し、つかさが起きてくる気配はない。仕方ない、起こしに行くか。大きく伸びをしながら、つかさの眠る部屋へと足を進めた。 ドアを開けると、ベッドに人一人くらいの膨らみが見える。睡眠妨害されないよう潜り込んで寝るとは……我が妹ながら情けない。 「つかさ、早く起きなさいよ」 布団を軽く引きながら、そっと呼び掛ける。勿論この程度で起きる相手ではないのだが。 「むにゃむにゃ……あと5分だけー」 「あんたの5分は5時間になりかねないわよ」 このままでは埒があかない。そう思った私は、布団を強く引き剥がしにかかる。 「ほら起きたっ!」 「うみゃ!?」 勢い良く布団を引いたせいで、つかさまでベッドの下に転げ落ちる。そこまでしてやっと目が覚めたのか、つかさは目を擦りながらゆっくりと立ち上がる。 「うぅ、眠いよぉ……」 「早く準備しなさい」 全く、この寝起きの悪さは誰に似たんだろう。 ……一刻も早く学校に行きたいのに。のろのろと動き出すつかさを横目で見ながら、私はもう一度心の確認していた。 家から出ても、つかさの目は半分以上閉じていた。私はそんな妹の手を引きながら先を急ぐ。 「お姉ちゃん、元気だねー」 「な、なによ。悪い?」 「ううん、とっても良いことだと思うよ」 「……」 寝ているように見えるくらい、閉じられた瞳。どこかにこやかに私を見るつかさと目が合わせられない。 私はただ前を見ながら、ひたすらに学校への道を歩くしかなかった。 ――――。 キーンコーンカーン……本日何度目かのチャイムが教室に響く。 「お?もう時間か。んじゃ、お腹も減ったしここまでやな」 黒板に世界の偉人達の名前を書き綴っていた先生のチョークが、黒板消しに持ちかえられた。やっと来た。待ちに待った昼休み。私は荷物を握り、黙って席を立ち上がる。 「おーい、柊。今日は昼飯どうすんだ?」 ふと後ろから、特徴のある声が聞こえる。誰なのか? そんなことはすぐ分かるけど、私は振り返った。 「日下部、そのことだけど……」 案の定、笑顔の上に八重歯をギラギラと覗かせた日下部がいた。 「……また、あいつか?」「……」 言葉に悩む私を見てすぐに察知したのか、日下部は笑顔を崩し、怪訝そうに尋ねてきた。 それもそうだ。昨日の出来事からして、日下部は彼女のことを余り良く思ってないだろう。だけど、嘘はつけない。 「うん……ごめんね」 昨日の今日なのに、それでもまた繰り返す。昨日、日下部が言ってくれたことを無駄にしてしまうかもしれない。だから、謝った。 「私は柊が良いなら構わない、けど……」 「うん」 後に続く言葉が怖い。 きっと日下部は、こんな馬鹿な私を見捨てるだろうから。言っても聞かない奴を庇って、損したと思うかもしれない。それは仕方の無いこと。なのに…… 「また何か酷いこと言われたら、私に言えよ?」 私を責めるわけでもなく、ただ素直に心配した言葉。任せろと言わんばかりの、眩しい笑顔が目に焼き付く。強ばらせていた身体から、力が抜けた。 「……うんっ、ありがと」 その真っ直ぐな優しさに、上手く言えない、今までに感じたことの無い感情が湧いた。 ――――。 屋上への道程は、近くて遠い。誰かがこれを聞いたら首をかしげるだろう。でも、私にはそれが一番しっくり感じる。 ドアの前に立ち、開く前に深呼吸。大丈夫、大丈夫だかがみ。ノブを必要以上に強く握り、それを押し開けた。差し込む光と共に、綺麗な蒼色が見える。それは空の蒼だったのか……。 「泉さん」 私は呼ぶ。彼女の名前を。無視されるかもしれない。そんな不安を抱えながらも、その声はいつもより力強いものに思えた。 「……何?」 少し遅れて返事は返ってきた。私は何も返さず、彼女のもとへ歩み寄る。お互いに真っ直ぐ相手の瞳を捉え、逸らすことはなかった。 「はぁ、馬鹿は死ななきゃ治らないんだね」 言葉と同時に、彼女はジト目で私を見た。 「そうかも、ね」 皮肉を真に受けて返す私に呆れたのか、彼女の視線が哀れむようなものに変わった。 「……救いようが無いね、あんた」 「馬鹿で救いようが無いのは、認める。だけど私自身、変わったことがある」 「は?」 今日はその為にここへ来たんだから。上手くいくなんて分からない。だけど臆するな。何もしないで諦めるくらいなら、せめて出来る限りのことをしてから諦めないと。 「今まではさ、自分の為だけに屋上に来てたの。私」 「……?」 泉さんは意味が分からないと言った表情をする。 そうよね。泉さんの一番になりたいだなんて、突拍子もない、自己中心的な理由を知り得るはずは無いんだから。 「けどね。これからは貴女の為に、此処に来たい……って思ったの」 「あんたは……何が言いたいのさ?」 その少し強めの口調に、怒りは見えない。むしろ何か、不安を押し隠すように見えた。大丈夫。私は絶対に……。 「これ、食べてくれる?」 差し出したモノは、彼女が昨日返してくれたお弁当。初めはただ見ているだけだった泉さんも、私の押しの強さに渋々ながらもそれを受け取った。そして包みを開けて蓋を取る。……その表情は、ほんの少し和らいだように見えた。 「……なにこれ?」 「わ、私が作ったの。泉さん、いつもパンだったから。その、ご飯食べたほうが良いかなーって……」 泉さんは吃る私とお弁当を交互に見比べている。 早朝から張り切って、昨日つかさに教えてもらった通りに作ったはずのお弁当。失敗したはずは、ない。 でもきっと、私は不安で変な顔をしてる。 「何だか昨日と雰囲気が違う」 「き、昨日のは妹が作ったやつで……」 「……ふーん」 泉さんの言葉が、昨日のお弁当の中身消失事件の犯人を決定づけていたが、私は余りの緊張で、すぐにはその事に気付かなかった。 まあ、犯人なんてものは大体分かっていたからこそ、今日はこんなことしたんだけど。 「……」 泉さんはじっとお弁当を見つめている。その表情は私には伺えないけど、私はとにかくまずいことをしてしまった、と感じた。 「見た目悪いし……嫌なら食べなくていいからッ……」 何も反応しない彼女から、お弁当箱を取ろうと手を伸ばす。が、その手は泉さんが座り込んだことにより、呆気なく空を切った。 「……いただきます」 「へ?」 その言葉に、ただ驚いた。泉さんが、何の文句も言わずにお弁当を食べてくれたから。私の作ったそれを食べている彼女の姿を見るのが、本当に、本当に……嬉しかった。 私も横に座り、自分の分を食べ始める。それが何故かいつもより美味しく感じて、いつの間にか私の目は潤んでいた。 沈黙の中、ひたすら箸を進める。決して気まずいワケではないけど、なかなか味わえないような緊張感があった。 しばらくして、私より少し先に食べ終えた泉さんは丁寧に蓋を閉じ、お弁当を直していた。そして私の顔とお弁当箱を見比べて…… 「炒め物の塩気が濃い」 批評を始めた。それはもう、淡々と。あれだけ頑張ってみても、やはり苦手を克服するのは簡単ではないらしい。 「卵は焦げた味がする」 「う、うそっ!?」 「焼き魚は半生っぽい」 「そんな……」 次々と問題点を挙げていく泉さん。私はただ驚き、失敗にへこむばかりだった。 「こんな感じ、分かった?」 「うぅ……」 最早言葉が無い。まさかここまで批判されるとは……そんなことを感じながら、私は色んな意味で涙目になっていた。 「でも……」 「な、何よっ……」 さらに来るであろうダメ出しに、若干逆ギレ気味になりながら言い返す。この際二度と料理が作れなくなるくらいの言葉が来たって構いはしない。 「嫌いじゃない、このお弁当」 「もう、分かったってば! ……え?」 「ごちそうさま」 泉さんはそう言い残すと、空のお弁当を置いて、そそくさと行ってしまった。 何、どういうこと? 嫌いじゃないって……? 頭の中が混乱して、一人で挙動不審になる。 私が完全に落ち着き、そして彼女の言葉の意味を理解するのは、少しだけ先のことだった。 「ほ、ホントに大丈夫なの!? やっぱりお弁当が不味かったから……」 「あ、あはは。お姉ちゃん、とにかく落ち着いて」 教室にて。私は自分で解決出来ない問題を妹と友達に相談している。 泉さんの言った、嫌いじゃないという言葉が何を意味しているか分からず、ただ頭の中をぐるぐるとリピートし続けていた。 「大丈夫ですよ、かがみさん」 「みゆきぃ~」 泣き付いて喚く。自分という人間はここまで脆かっただろうか? たかが転校生の一言でこんなにもなろうとは……。 「彼女がかがみさんに言った言葉は、泉さんなりのお礼に違いないですから」 「でも、でもっ」 不安は納まらない。後悔しないつもりだった。しかしまさかの事態に、私の覚悟は着いていけていない。 慌てるばかりで落ち着くことを知らない私に、つかさとみゆきも苦笑いしか出来ないようだった。 「あ……」 「どうしたの、ゆきちゃん?」 「つかささん。私、良い考えが浮かびました」 「?」 つかさとみゆきが何か話をしているが、気が動転していた私の耳に二人の声がまともに止まることは無い。 「かがみさん」 「な、何よ?」 「私、分かりました」 「へっ?」 突然の言葉。眼鏡を指で二、三回押し上げ不敵な笑みを浮かべるみゆきに対し、意味が分からない私は間抜けな声で何とか返すだけだった。つかさも私と同じような態度だったけど。 「泉さんの感想がいまいちだった理由です」 「えっ! ホントにっ!?」 そこに飛び出すは救いの言葉。餌を与えられた鯉のように話に食い付く。その姿はみゆきがすれば滑稽なのかもしれない。だけど私は気にもしない。 「はい。きっと泉さんは……」 「きっと……」 溜めるみゆきに詰め寄り、続く言葉を今かと待つ。 みゆきの言うことだ。その推測は信じてみる価値はあるだろう。 「皆でお弁当を食べたいのかもしれません」 「……はい?」 「およよ~!?」 姉妹揃って呆気に取られたような、奇声じみたものをあげる。当たり前だ。みゆきの言葉は予想外過ぎて、驚愕せざるを得なかったから。 「何を根拠にそんなっ」 「皆で食べる食事は美味しい、って言いませんか? 彼女は遠回しに、皆でご飯を食べたらもっと美味しく感じるのに……と思っていて、かがみさんに曖昧な感想を言ったのかもしれませんよ?」 「む……」 「本当は素直な気持ちをかがみさんに伝えたい。でも自分の性格を考えてみれば、そんなことは不可能。ならばせめてと、暗号化された言葉をかがみさんに託したのかもしれません」 「でも、ゆきちゃん。それは流石に……」 「つかささん」 「は、はい……」 姉妹揃って言いくるめられているような、お説教を受けているような、そんな感じ。だってみゆきの意見はどう考えても無茶な解釈。でも彼女を教室に呼ぶという案は、私も否定の言葉は無かった。 「明日、泉さんを此処に誘ってみてはいかがでしょう?」 「……」 「かがみさん」 「うーん、分かったわよ」 明日というのは予想外だけど、いつかはと考えていたこと。自分で決めたことだ。彼女の心を必ず動かしてみせる。今日は上手くいった。前に進め、かがみ。 そう自分に喝を入れながら、私は遠く窓の外を眺めた。綺麗な蒼色だった。 「少しずつ、変わっていってるんです……」 後ろで、みゆきが呟いた謎の言葉。何のことか意味は分からない。ただ精神的に強く背中を押された気がした。 翌日。私は昨日と変わらず早起きしてお弁当を作った。私とつかさと、泉さんの分。頭は相変わらず授業をまともに受け付けず、心はどこか上の空。蒼く広がる空を彼女に見立てて、ふっと笑ってみたり。まるで私が私じゃないみたいで、不思議な気分だった。 そんな私が自分自身を取り戻すのは、昼休みを告げるチャイムの音が鳴り響いた時だった。 昨日よりも何倍も早く教室を飛び出し、私は屋上へと向かう。いつも開けるのを躊躇う扉を勢い良く開き、声を上げる。 「泉さんっ!!」 「……い、いきなり、何?」 「細かいことは多分後で話す! とにかく来てっ!」 「はいっ!?」 細かい話をしては、泉さんを不機嫌にするだけ。だから私は彼女の手をグイッと引き、階段を駆け降りる。その体温があまりに冷たかったことに驚いたが、それ以上に手を繋いでいる感触の方が私には刺激的だった。感覚を誤魔化す為に、私は馬鹿みたいに心を無にするよう念じる。 「……ねぇ」 その最中に疲れたような、呆れたような呼び掛けが脳に響く。足を止めず、ただどうしたと言葉を返す。 「一体、どこ行くのさ?」 少しだけ言うべきか迷ったけど、黙っていてもすぐにバレる。だから私は平然と答えた。 「教室よ」 「はぁ!? な、なんでそんな……あんた一人で行ってよ! 私は行きたくないっ!」 案の定、泉さんは怒っている。でも私は怯まずに振り返り、彼女を見つめる。 本来なら目が合っただけでお互いに逃げ出していたかもしれない。だけど今日は、静かにじっと見つめ合う続ける。 「ダメなの……」 「は?」 「ダメったらダメ。私は……泉さんと一緒に行きたいの!」 「……」 「お願い……」 泣き落としとまでは言わないけど、相手の情に訴えかけるように話す。こんな手段を使うのは卑怯なのかもしれない。だけど彼女が本当に嫌ならば、きっと同情なんてしない。早々に私の手を振りほどいて、屋上に戻っていたはずだから。 これは一種の“賭け” しばらくして彼女はゆっくりと歩き出した。私の横をすれ違い、教室の方へ向かって。すぐにその後を追い、教室に入るよう指示をする。扉を開けると、視線の先でつかさとみゆきが満面の笑みで待機してくれていた。 「ようこそ、泉さん」 「泉さん、いらっしゃい」 「な……!?」 扉を開けたまま身体が動かない泉さんの肩を押し、半ば無理矢理に中へ入れる。 「よし、じゃあお弁当食べよっか!」 「ちょ!? 私は何も言ってないって!」 泉さんは顔を引きつらせながら私を見ている。 そんな彼女の背中を更に押して、机へと距離を近付かせる。 「昨日はダメだったかもしれない。だけど皆で食べれば私のお弁当だって美味しさ100倍のはずよ!」 「は? あんたは一体何言って……」 「そうよね、みゆき?」 「はい、勿論です」 「泉さん、ここ空いてるよー」 「……」 私を含む、皆の余りにもマイペース過ぎる勢いに観念したのか、泉さんは一度だけ深くため息をつき、つかさの指定した席へと座ってくれた。私もすぐにいつもの指定席へ座る。 二つ並べた机。その四辺全てに人がいるのは、何だか新鮮だった。 こうして私達三人の間に、新しく仲間が出来た。 ――泉こなた。 私達はまだ彼女を良く知らない。だけど何故か四人で楽しくお喋りをする未来が、私には見えた。 さて、今日はどんな感想をもらえるのだろう。そう考えながら、彼女にお弁当箱を差し出す。泉さんは少し不満そうにしながらも、それを受け取ってくれた。 私と言えば、昨日の不安から一変して表情からは笑みが漏れていた。 「よーし、それじゃあ……いただきます!」 to be continued? **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - つ、続きをー!これじゃ生殺しやないかーい! &br()でも、とりまGJ!!( ̄ v  ̄)b -- 名無しさん (2023-01-08 14:56:46) - 次をぜひお願いします!!www &br() -- 名無しさん (2011-05-15 01:37:38) - 続きがみたいニャ( `ω´) φ_☆ -- 名無しさん (2010-08-30 00:56:02) - おもしろかった。 &br() &br() &br()こなたのもう一つの側面がみられてわくわく、そして精神的なゆらぎ?みたいな物に、この先どうなるんだろうと思いながら読ませて頂きました。 &br() &br() &br()書き手さんの負担にさせちゃいけないのかもしれませんが、続きが気になります。 &br() &br() &br() -- 名無しさん (2010-08-27 10:09:50) - つっづっき!つっづっき! -- 名無しさん (2010-08-23 11:01:42) - 続きが気になる! &br() &br() &br()作者様、気が向いたらどうか宜しくお願いします。 -- 名無しさん (2010-06-11 03:00:43) - 同じく続き期待してます -- 白夜 (2009-10-20 20:26:33) - 続きが気になってサイトの方にいったりしてますがコッチの方が進んでるんですね〜。 &br()文章も素敵だし、今まで読んだ事のない感覚で好きです。今後の展開が楽しみです! -- 名無しさん (2009-02-28 04:34:01) - 自分も続き期待しています!! -- 名無しさん (2008-12-09 19:27:26) - GJ!こなたツンデレだなー、なんか可愛い。 &br()綺麗な文章で引き込まれました!続きも期待してます。 -- 名無しさん (2008-11-18 04:42:12) - このシリーズかなり好きだwww &br()続きが気になるw -- 名無し (2008-11-17 23:10:45)

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